<p> 彼が買ってきた飴の袋が机の上に置いてあります。なんでも、涼宮さんが遅刻常習犯である彼へ与えた罰だそうです。今日は来るのが遅いとは思っていましたが、パシリだったんですか。<br /> 彼がくたびれた様子で買ってきた飴を机の上に広げた瞬間に涼宮さんが鷲掴みにして持って行きました。<br /> 「おいこら」<br /> 「あたしだけその机から遠いんだから当然でしょ!」<br /> 「にしても取りすぎだ」<br /> 「うるさいわね…」<br /> <br /> 飴はまだ沢山あるので、そう簡単には減らないと僕も思っていました。<br /> しかし、みんなが手を伸ばし、口の中が空になればまた…。<br /> そのお陰で誰も喋ることなく個々の作業に集中していたのので部室内は静かです。物音を立てるのが憚られる程です。<br /> <br /> …と、気付けばもう残り一つになっていました。5人もいれば、一袋はあっという間です。<br /> <br /> 「最後の一つだが」<br /> 「ええ構いませんよ」<br /> 「いい」<br /> 「どうぞ」<br /> 皆からの了承を得てからその最後の一つを彼が取り、包みを開けた瞬間でした。<br /> 丁度歩いてきた涼宮さんがそれをひったくると、自分の口に放り込みました。<br /> 「おい! それは俺のだろ!」<br /> 「いいじゃない、飴の一つくらい」<br /> 「お前だけ大量に持ってっただろうが」<br /> 「鞄の中に入れちゃったから出すのが面倒なのよ」<br /> 「そんなのが言い訳になるか!」<br /> 珍しく彼が怒っていますね…。食べ物の恨みは恐ろしいと聞きますが。<br /> すると涼宮さんが彼のネクタイを掴むと、引っ張って出て行ってしまいました。<br /> ドア越しに聞こえた彼の声に、我々は硬直し、目を見合わせました。<br /> 「ちょ、ハルヒ、んむぁ◆@*……………!!」<br /> <br /> <br /> <br /> <br /> <br /> <br /> 戻ってきた彼は耳まで真っ赤でした。涼宮さんは下を向いて何かぶつぶつと呟いています。<br /> 何があったのですか?<br /> 「訊くな…」<br /> おや、口の中に何か…<br /> 「それ以上言うな…」<br /> 彼は顔を両手で覆うと動かなくなり、それ以降は返事もしませんでした。<br /> 対局中だったんですけどね…。<br /> <br /> 朝比奈さんも、二人を交互に見ながら赤面しています。僕はどんな表情なんでしょうか。彼が言う「むかつくスマイル」なのかもしれません。<br /> 「お熱いこと」<br /> 長門さんのその一言に、何か誤魔化すようにパソコンの画面とにらめっこをしていた涼宮さんも真っ赤になりました。</p>