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キョンいじめ １話 - (2007/01/14 (日) 01:22:47) のソース
<div class="main">
<div>このままでは毎日が苦痛で埋め尽くされてしまう。<br />
楽しそうな笑い声が響く部室を通り過ぎ、叫びたい衝動を堪える。<br />
叫んだところで俺の声は誰にも届かない。<br />
始まりは些細なことで、恐らくハルヒに放った暴言からだった。どんな暴言かも忘れてしまったが。<br />
そのくらい俺にとっては些細な、悪ふざけの範疇に治まる悪意のない暴言だったのだが<br />
言葉は時に無力で、本当に無力で、人を無力にさせる。無気力にもなる。<br />
古泉に言わせると、ハルヒが望んだ未来が作り出した状況らしく、<br />
国木田や谷口、ＳＯＳ団のやつでさえ俺を無視、または安全な場所から観測をしている。<br />
朝比奈さんは俺を見ると眉を潜め、何も言わずに立ち去ってしまう。<br />
長門は俺を自分の視界に入れようともしない。会話を試みるが無視されるばかり。<br />
ハルヒも俺を無視し、部室へ近付こうものならあらゆる手段を用いて<br />
俺を排除する。この前は先生を呼ばれ変質者扱いをされた。<br />
無視は嫌だ。だから話しかける。でも無視される。<br />
ここ数日の間に周囲は緩やかに変わり、とうとう俺は「いじめ」の対象者に変わり果てた。</div>
<div>「機関は……いえ、僕にはあなたを助けられない」<br />
そうすることでハルヒの機嫌を損ねるのが恐ろしいからか？<br />
「ええ、まあ」<br />
俺の人権は？<br />
「さぁ……」<br />
机の卑猥な落書きは、行方不明の教科書は、一人で食べる昼は、俺の教室は、元に戻らないのか？</div>
<div>「僕に言われても困ります」<br />
今やまともに会話をしてくれるのは古泉と家族くらいだ。嫌になる。<br />
下駄箱に上履きを放り靴を探すが、無い。見当たらない。<br />
朝、確かにこの下駄箱に入れたはずなのに見つからない。変わりに手紙の束が中に詰まっていた。</div>
<div>「上履きで帰るしかありませんね……焼却炉を見てきますか？」<br />
「いい」</div>
<div>いじめを受けていることは古泉も知っているとはいえ、現場を見られるのは<br />
恥ずかしくて、いますぐに帰りたかった。仕方無しに下駄箱の上履きを履き直し<br />
なんでもない、といった素振りを見せながら古泉の前を通り過ぎる。</div>
<div>「ご一緒してもよろしいでしょうか？」<br />
知らん。</div>
<div>口ではそう言ったが、古泉が隣りを歩くのを待っていた。<br />
古泉は普段と同じようにうさん臭い笑みを浮かべ携帯を確認している。</div>
<div>「……ハルヒはどうなんだ」<br />
「動きませんね、あなたの姿を見ることで発散されているのだと」<br />
「勝手な奴だ」<br />
「最近は出動も減りました、機関はあなたのお陰と……言い過ぎましたね」<br />
「本当にな。感謝しろよ」</div>
<div>相変わらずだ。ハルヒのストレス発散は、街の破壊から俺のいじめを見ることに完全に移行したらしい。<br />
いつ終わるのか分からない苦痛、無視、孤立。なんで俺なんだ。なんで俺が。</div>
<div>答えは分かっている。古泉にも言われた。<br />
「俺だから」なんだ。<br />
ハルヒが俺を選んだから、選んだ俺がハルヒを何かしら傷つけたから、<br />
だからハルヒは無意識に俺への抗議を続けている。</div>
<div>「朝比奈は調整のために、観測者は観測のために動いている」<br />
お前は？<br />
「僕らは神の機嫌を損ねないように精一杯です。万が一僕がキョン君へのいじめを涼宮さんに訴えでもして」<br />
世界が再構築したら、それが怖いんだったな。<br />
「その通りです」</div>
<div>聞かなくても分かることをあえて問い質す。そうやってまた明日まで続く。<br />
いつまで続くのだろう。<br />
クラス替えまで、<br />
卒業まで、<br />
大学、就職、俺が死ぬまで、ハルヒが死ぬまで続くのか。考えたくない。<br />
相手はルール無視の涼宮ハルヒだ。自分が満足するまで俺の側でいじめの原因を生みだし<br />
それを周りも引き連れ実行させる。謝ってどうにかなるならいますぐ土下座出来るぞ。<br />
まずハルヒが俺と話し合ってくれるかが問題だが。</div>
<div>「では僕はここで」<br />
「……おう」</div>
<div>古泉とはあまり会話をせず、少し一人で考え込んでいた。<br />
明日も学校だ。臭いと言われないように風呂に入って、親の作ってくれた晩飯を食べて、明日のために眠る。<br />
考えるだけで頭が痛い。</div>
<div>家まで歩く、体育の時間にサッカーをした、どさくさに紛れて足を蹴られたたくさん蹴られた。<br />
次の日に痣になってた、シャミセンが気付いてくれた、妹も「大丈夫？」と気にしてくれた。<br />
玄関で靴を脱ぐ、正しくは上履きだ、正しくは３代目の上履きだ、正しくは燃やされるための物だ。<br />
頭が痛い。食欲も沸かない。なんだか疲れた。<br />
部屋の中で倒れるように眠る。このまま眠りたかったがそうもいかない。<br />
俺はワキガらしいから風呂に入って、脇をマキロンで擦らなきゃいけない。<br />
歯もきっちり磨かないと殴られる、口が臭いからガムをたくさん食べさせてくれる、<br />
制服を脱いでハンガーにかけて、涙が止まらなくなった。疲れた。でも風呂に入らないと。<br />
明日は臭いと言われませんように。<br />
明日はハルヒに謝れるといい。<br />
話し合いの場が欲しい。部室に行きたい。今思えばＳＯＳ団は楽しかった。<br />
今に比べればあの毎日はなんて楽しかったんだろう。<br />
また週末に不思議を探しに行きたい。<br />
朝比奈さんのお茶を飲みたい。<br />
長門と本の話をしたい。<br />
もう古泉は嫌だ。つまらない。全部つまらない。</div>
<div>「明日は…ハルヒになんとしても謝ろう」</div>
<div>そのためにも臭いと言われないように風呂場に行く。<br />
早く楽になりたい、それだけを願った。</div>
<div>朝、だ。今日も晴れだ。昨日も晴れで、天気予報は珍しく当たっている。<br />
朝に考えるのは学校に早く行くか遅く行くかだ。<br />
早く行けば机や上履きを紛失しない、昨日紛失したものを焼却炉やダストシュートに探しにも行ける。<br />
しかし早く行けばその分長くいじめを受ける。<br />
遅く行けばみんなが無視するのである意味気楽だ。授業が始まって１０分後くらいがいい。<br />
しかし遅く行けばその分濃密ないじめを受ける。<br />
休むという選択肢はない、今日はハルヒに謝らないといけないからだ。<br />
考えて、いつもより早めに家を出る。<br />
他の生徒よりも早く学校に着いて靴を探したいし、これ以上机に落書きをされたら真っ黒になってしまう。<br />
脇を擦って、足を洗って、歯を磨いて制服を着る、上履きを履く。<br />
いつもの道を歩く。足が重い。でも今日は必ずやりたいことがある。<br />
もしハルヒが許してくれたら、もしかしたら明後日から、いや早ければ今日からみんな元通りになるかもしれない。<br />
そうだといい。きっとそうなる。何ごとも自分から行動しないと始まらない。<br />
簡単なんだよ、こんなこと。<br />
学校に着く、恐らく誰もいない。上履きの泥を軽く払い廊下に上がる。<br />
静まり返った廊下に俺の足音だけが響く。いつもなら朝練をする部活があるはずだが<br />
今日はそれもないらしい。気にせずに教室へ足を進める。</div>
<div>戸を開けると、古泉が立っていた。違う教室のはずなのになぜこいつが？<br />
昨日の上履きのこともあってなんとなく気まずい。<br />
古泉はいつものように笑うと、ゆっくりと近付いてきた。</div>
<div>「こんばんは」<br />
おはようだ。<br />
「いいえ、こんばんはですよ。まだ今日です」<br />
外は明るいし時計は７時だ。<br />
「久しぶりの閉鎖空間のようで」<br />
閉鎖空間？<br />
「ええ、最近はキョン君へ発散していたはずが、それでは抑えきれなかったのでしょう」<br />
灰色じゃないぞ。<br />
「新しい閉鎖空間の可能性を考えています。神人も一向に現れませんし」</div>
<div>まったく、こいつらがいう神とやらはなんの気紛れを起こしたんだ。<br />
つまり、まだ今は真夜中で、朝だと勘違いした俺が閉鎖空間に迷い混んだのだろうか。<br />
新しい閉鎖空間と言っているし詳しいことは分からない。それでも、確かにこの静けさはおかしい。<br />
そういえば家から学校までのことを覚えていない。<br />
意気込んで来た分、力が抜ける。近くの席に腰掛けると古泉が俺の足下に蹲る。<br />
気味が悪い。早く、神人でもなんでも現れろ。</div>
<div>「この新しい閉鎖空間には、僕とキョン君だけのようです」<br />
もしかしなくても……選ばれたから、か？<br />
「そうですね、今回は僕とキョン君だけが」<br />
脱出方法は無いのか？神人の気配が分かるんだろう？<br />
「どうやら神人は現れないようです」<br />
じゃあなんでこんな空間が。<br />
「恐らく、神のいじめです」<br />
なんでそうなるのかまったく理解出来ないが、俺のせいか。</div>
<div>「神は……見たいものがあるようです。それを見れば満足して閉鎖空間は消えるでしょう」<br />
なんだそら。<br />
「キョン君が体験するのを見たい、の方が近いですね。僕は孤立するあなたの近くにいたから選ばれた」<br />
おいおい、話がまったく見えないが、一人で話を進めるな。<br />
「キョン君には好きな人がいますか？」<br />
話を進めるな。<br />
「僕にはいません」<br />
そうですか。<br />
「だから、諦めます。キョン君も諦めて下さい」</div>
<div>途端にズボンを脱がされる。俺一人が変質者のように下着を露出させる。</div>
<div>「なにしてんだよ！」<br />
「涼宮さんが興味があるんです。勘違いしないで下さい」</div>
<div>古泉の目がおかしい。笑っていない。<br />
まさかとは思うが、嫌なことが頭に浮かぶ。ハルヒが見たいもの？<br />
俺が体験する。何を。多分、ありえないことをさせられる。強要される。</div>
<div>「離せホモ！」</div>
<div>古泉の横っ面を殴り入口に逃げる。戸を開けると廊下ではなく、壁が目の前にあった。</div>
<div>「な、廊下は！？なんだよこれ！」<br />
「涼宮さんが満足するまで解けませんよ」</div>
<div>必死に壁を叩くがなんの効果も無い。肩に手を置かれ振り返る。<br />
視界の隅に誰かが写った。古泉以外の誰か。<br />
黄色いリボン、セーラー服、机に腰掛けて睨むように俺と古泉を見ている。</div>
<div>「……ハルヒっ、ハルヒ！」</div>
<div>じっと見つめついるだけの瞳を携えて、ハルヒがそこにいた。</div>
<div>「傍観者としてここで見守るつもりでしょうね、閉鎖空間にも入り込んで来るとは……」<br />
「やめろ古泉！ハルヒもこんなこと…やめさせろよ！頼む！」</div>
<div>ハルヒは何も言わず瞬きを一度すると欠伸をした。俺の声が届かないのか、完全に無視されている。</div>
<div>「無視すんなよハルヒ……なぁ！俺がなにをしたんだよ！謝らせてくれ……」</div>
<div>床に体を押しつけられ、俺の上に古泉が跨がる。服を脱がされながら何度も謝った。<br />
思い付く限りの暴言や態度、すべて謝る。<br />
いじめを受けるのもこんな目に遭うのも何一つ納得いかない。<br />
それでも許されたくて、明日からは普通になりたくて必死で謝った。</div>
<div>「聞こえてませんよ。見守るためだけに入り込んできたのですから」<br />
「や……やめろ、嫌だ！アナルだけは！アナルだけは……」</div>
<div>拒絶の言葉は古泉にさえ届かなかった。<br />
成す術も無く古泉にされるまま、俺は叫んだ。<br />
誰かに届いて欲しかった。<br />
俺は生きてる！<br />
無視みたいに観測されるのは不愉快だ、俺はサッカーボールじゃない。生きてるんだ。</div>
<div>風呂に入っても臭いと言われる、落書きを消すともっと書かれる、上履きは３代目だ。<br />
俺は、普通に生きたい。<br />
いじめられるのも、いじめるのも全部全部全部なんて下らないんだ。<br />
俺を無視して周りは勝手に騒ぐだけ騒いで、こうやってご機嫌取りのためだけに<br />
俺は痛い思いをしている。<br />
なんとか言えよ涼宮ハルヒ。<br />
お前が望んだんだろ。楽にしてくれ早く楽になりたい。我慢するのも疲れた。<br />
何のために生きてるんだ俺は、疲れるためだけに？ハルヒに選ばれた？ふざけるな。<br />
俺に選ぶ権利は無いのか。</div>
<div>全部叫んだ。途中言葉に詰まって、うまく言えたか分からない。<br />
ハルヒの顔を睨み付けて、俺は言ってみせた。俺は負けたくない。これ以上惨めは嫌だ。<br />
古泉が脱力して、やっと楽になる。<br />
全部見届けて、ハルヒは満足したのか床に転がる俺の眼前に近付き、<br />
観察するようにまじまじと見渡す。どうでもいいがパンツ見えてるぞ。</div>
<div>「……なんで俺なんだよ」</div>
<div>空虚な気持ちでハルヒに向かって問い掛ける。</div>
<div>『なんか面白そうだったから』<br />
それだけ？面白そうだった？<br />
『それだけよ。別にいいじゃない！ドンマイ！』<br />
ドンマイか。本当にそうだな。</div>
<div>「殺してやる」</div>
<ul>
<li><font color="#666666">２話</font></li>
</ul>
</div>
