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ミッドナイト・コーリング - (2007/05/17 (木) 17:23:48) の1つ前との変更点

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 もしもし、キョン? 何よ、こんな夜中に電話なんかかけてきて? 寝てたらどう責任とるつもりだったわけ?<br> 『起きてたからいいだろ』とかそんな問題じゃないでしょっ!?<br> ——えっ……オメデトって、ちょ、ちょっと待ちなさい! なんで知ってんのよ、あたしの誕生日!<br> 『聞いた』? 誰によ? へぇー、谷口? あいつ……後でシメるわ。<br> ——ちょっと、何笑ってんの! 『そんな事言いながら、声が笑ってるぜ』?<br> バババ、バカキョン! 笑ってないわ、全然嬉しくなんかないわよ!<br> なんで誕生日をいの一番にあんたから祝われなきゃいけないのよ? 嬉しいわけ、……ないでしょ。<br> 『そういう事にしといてやる』じゃないわよ、あんた生意気よ! 団長に対する心構えがなってないわ!<br> ……もう、いいわ。今日一日かけてじっくり団長たるあたしへの接し方を教えてあげる。<br> 九時に駅前集合よ! 遅れたら、罰金刑と私刑の両方に処すわよ、いい?<br> じゃね。<br><br><br>……キョンと誕生日にデート、誕生日にデート、誕生日にデート……う゛ードキドキするぅ。<br> 眠れないよぉ。<br><hr><br> もしもし、——なんだ、またあんたなの? いい加減にしないと、怒るわよ。<br> はぁ……。何よ、その反省の色ゼロな声は。<br> ——で、何の用よ。このあたしの睡眠時間を削るぐらいなんだから、ものスゴい用事でしょうねっ?<br> 違ったら承知しないわよっ!<br> ……。<br> ……。<br> ねえ、さっさと言いなさいよ。……何、深呼吸なんかしちゃって。<br> え? は? ちょ、ちょ、ちょっと待ちなさい。どういう意——。<br> 『忘れろ』って? あ、コラ! 切るなぁ!<br><br> 聞き間違いじゃ、ないわよね……? 『好きだ』って言ったわよね?<br> どーしよ……。嬉しいけど……、んー……何て言うのかし——ひゃうっ!<br> もしもしもし、なななな何、はい、あたしは涼宮ハルヒです、どちら様です、か……ってキョンなの?<br> あぁ、びっく——ううん、なんでもないわ。忘れなさい。<br> ……うん、その事なんだけどね、いいわよ。どうせ谷口辺りから聞いてるでしょ?<br> あたしは告白されても断んないの。……振るのは早いけどね。<br> 明日? 早速ね。別に、いいけど。『八時』? 分かったわ。<br> 精々あたしを楽しませなさいよっ! いいわねっ!? じゃあね。<br><br><br> ふふ、明日はポニーテールにしよっ、と! ふぁ、ねむ……。<br> ——ぐぅ。<br><hr><br> もしもし、——そ、あたしよ。——何、その寒い反応は。あたしから電話しちゃいけないわけ?<br> ——じゃあ、問題ないじゃないの。——何よ、眠そうな声しちゃって。<br> まさかバテバテなのかしら? 情けないわねぇ。あたしはまだまだ余裕よ!<br> 明日も同じコース回っても問題ないわね。<br> ——『学校があるだろ』? バカキョン。例えに決まってんじゃない。<br> もしどうしてもってんなら……その、いいけど……。<br> ——『遠慮しとく』ぅ? この、バカ、マヌケ、ドンガメ! あたしは楽しかったのよ! 悪い?<br> 楽しかったんだからもう一回って思っちゃダメなのっ?!<br> あんたと一日歩き回ってただけでこんな風に思うなんてどーしちゃったのかしら、あたしはっ!<br> ——そーよ、“せーしんびょー”よ。文句ある? ないでしょ?<br> ……。<br> ……何よ、何なのよ。何で黙っちゃうのよ。<br> ——『満月』がどうかしたの? 『綺麗だな』って、……まさかあんた外にいんの?<br> ——『見てみろよ』? ……まあ、見てあげてもいいけど。へぇ、『外で見たほうが綺麗』なんだ。<br> ……風邪ひいたら責任とりなさいよ。治るまで泊まり込みで看病しなさいよ。<br> ——え、電話? 切らないわよ。あんた、切ったら即私刑だからね。<br> ——ふう、寒いわね。……あ、本当だ。あんたに風流を解する精神があったとは驚きだけどね。<br><br> ——ひあぅっ! 誰っ!?<br> ……え? キョンなの? はぁ、驚かさないで、突然後ろから抱くのは反則よ。<br> ……で、何しにきたのかしらこんな寒い夜に携帯片手にあたしん家まで。<br> ……。<br> ——お、お、お、『お休みのキス』って……うわぁ、恥ずかしい奴……。<br> ……でも、ありがと。<br> ——ちゅ<br><hr><br> ……。<br> ……。<br> ……出ないわねぇ。折角あたしがかけてやってるんだから一回目で出なさいよ、バカキョン……。<br> あーあ、お風呂でも入ろうっと。<br>〜二時間後〜<br> ……うー、すっかり長風呂しちゃったわ。水でも飲も。……あれ、親父帰ってたの? おかえり。<br> ——あ、丁度いいわ。それもらうね。……『飲むな』? いいじゃない、水くらい。<br> ——ってあれ、これ、おさけ? 先言ってよ、イッキ飲みしちゃったじゃない。まあ、いいや。おやすみぃ。<br> ……『酔って』なんかないってばぁ。大丈夫よぅ。あ、でも少しフラフラするかも。<br> うん? 大丈夫、大丈夫、階段から落ちたりなんかしないから。……キョンでもないんだしね。<br><br> ふぅ、疲れたわぁ。親父も先に言ってくれればいいのに。あたし一生の不覚よ。<br> あ、そうだ。携帯はっと……着信、十件? キョンに、キョンに、キョン……。<br> ちょっとかけすぎよあのバカ! ……でもしょうがないわねぇ。<br> 可哀想だし、あたしからかけてあげよぅっと。<br> ——あ、もひもし、キョン? そーよ、あたしよー。……んー? あ、さっきまでぇ? お風呂よ、お風呂。<br> ——うん、うん、そうなのよ。……え、やーねー『酔って』にゃんかないわよ!<br> ——ってさっき親父にも同じこと言われたわぁ。<br> ——そ、一言一句ちがわなかったわよ。『お前、酔ってるだろ』って。<br> ……たかだか、お酒一杯で酔うわけなーいじゃない。<br> ——『やっぱり酔ってる』? しつこいわね、あたしが大丈夫って言ったら何もかも、おっひぇなのひょ!<br> そうしょう、『そーゆーこと』にしとき、……はふぅ、なさい。<br> ——ふわぁ、うーん? ……なんか、眠くなっちゃった。<br> ……そう、そう。……うん、お休み、また明日ね。<br> ——あ、後ね、だぁい好きよ、きょー……ぐぅ。<br><hr><br> ——もしもし、キョン? ……何よ、『今日は酔ってないだろうな』ぁ?<br> ……あたしは飲んだくれか、バカキョン! 開口一番に言うセリフじゃないわよ!<br> ——というより、あんたは神聖にして絶対たる団長様に対してどんなイメージを抱いているのかしら?<br> ……言ってみなさいよ。ええ、きっと怒らないから。<br> ——しつこいわね、さっさと言いなさいっ! いつまで念押し続ける気なのよ!<br> ——ふーん、『短気、自己中心的、ヒネクレ者』。何、まだ続くの?<br> ……それより、そんな風に思ってたのに告白するって、あんた被虐趣味ある?<br> ——『巻き込まれ型人生』なんて、あるわけないじゃない。それは主体性の欠如に他ならないわよ。<br> ——え、『本番はここから』?<br> ——『可愛い、スタイルがいい、頭が良い、行動力溢れている、ポニーテールにすると魅力度36パーセントアップ』<br> ——何よ、魅力度って。……『胸のトキメキ具合』ぃ? ちょっと気持ち悪いわ。<br> ——でも、でもね。さ、参考までに訊きたいんだけど、……36パーセントアップって、どれくらいなの?<br> ——『上限を軽くオーバーするくらい』ってどういう意味よ?<br> ……。<br> ……うわぁ、よくそんな歯の浮くようなセリフが言えるわね。<br> ——え、あたしがあんたをどう思ってるか? 決まってるじゃない! 一度しか言わないわよ!<br> ——愛してる。<br> ……。<br> ……。<br> ——あーあー、眠い眠い。寝ることにするわ。んじゃね!<br> ——プツン<br><br> ……勢いで言っちゃったけど恥ずかしいぃよぅ。うー、心臓がぁ……心臓がぁ……。<br><hr><br> ——もしもーし。……ふふ、……ん、近頃電話に出るまでの間が短くなったじゃないって思ってね。<br> ——まあ、『毎日同じくらいにかけて』て気付かなかったからあんたの頭を疑うけどね。<br> ……そーよ、あんたは十分前科あり、なんだから。鈍感過ぎんのよ。<br> ——『お互い様』ぁ? どの口が言うのかしら、キョン?<br> ……まったく、減らない口ね。少しは妹ちゃんの素直さを見習いなさいよ。<br> ……まーた、あー言えばこー言うのね。<br> ——このあたしが一日付きっきりで素直になれるように指導してあげるわよ。<br> ……何でそこで有希の名前を出すのかしら? 有希の方が『素直だから』?<br> ……あんたは一度周りから自分がどう想われてるか確認……はしなくていいわ、やっぱり。<br> ——くしゅん! うう、寒っ! ……ん? 散歩よ、散歩。星空ウォーク。<br> ……こないだあんたに言われて外出てからはまっちゃってね。案外綺麗なのよ。<br> ——でもまだ寒いのよね。上着着ててもクシャミでちゃう。<br> ……心配してくれてるの? ふーん、『言えば付き合って』くれるんだ。<br> ——じゃあ、早速明日付き合ってね。……『急いては事を仕損じる』ぅ?<br> ……バカね、あたしは思い立ったが吉日がモットーよ。<br> ——と言うわけだから今から来なさい。……ふふふ、そんな慌てないで、冗談よ。<br> ——そ、明日よ。あんたん家の方に行くから。……いいじゃない、たまにはシャミや妹ちゃんにも会いたいの!<br> ——それと、女の子が一人夜道は危ないから泊まることにするからね! 『考え直』さないわよ。<br> ——じゃあね。明日、楽しみにしてるから。<br><br> あぁぁっ! キョンの家に泊まるなんて言っちゃったけど、<br> ……正直早まったかも。ヤバイわ、どーしよー……。<br> ……悩んでもしょうがないわ! もう、なるようになれ! 襲いたきゃ襲っちゃえっ!<br> ……って、言ってて恥ずかしいのよ、バカハルヒ……。うぅ……。<br><hr><br> ……。うぅ、夜中に出歩くんじゃなかったわ。頭が痛い……。風邪のバカ!<br> ……いたたた。だいぶ頭に響くわ。おとなしく寝てよ。<br><br> ……そういえば、今日はみんな部活どうしたんだろ。あたしが居なくてもちゃんとやったかしら。<br> そうなら良いんだけど、でもそれはそれとして誰一人としてお見舞いに来ないってどういう訳なの?<br> 団長の一大事だってのに。少なくとも電話くらいかけてくれてもいいじゃない……。<br> あーあ、みんな冷たいわ……。極寒よ、南極なんて目じゃないわね。<br> ……ふぅ、おやす——っ!<br> ——もしもしっ!! ……ああ、やっぱりあんただったの。……うん、大丈夫よ。<br> ——え? 『息が荒い』? 気のせいよ、気のせい。<br> ——さっきまでは世の無情にしみじみと浸ってたんだけどね。<br>  ……『体調』? うん、まあまあね。明日からはまた学校に行けると思うわ、いいえ、行ってみせるわっ!<br> ——たかだか風邪ごときがあたしを阻めるわけないのよ!<br> ——なんでそこで苦笑いしか出てこないのよ、あんたももっと喜びなさい。<br> ……まさか。『無理』なんかしてないわ。風邪なんて一日寝てりゃ治るのよ。覚えときなさい。<br> ……偉そうな物言いね。泣きながら感謝するくらいのものなのよ、あたしの至言は。<br> ——ちなみにまだまだあるわよ、聞く?<br> ……遠慮しないでいいじゃない。こんな『風邪がぶり返す』わけないわ、大丈夫よ。<br> ——そうそう、その態度よ。じゃあ、行くわよ。<br> ……。<br> ——大好き!<br> ……。<br> ——あ、ヤバイわ、顔が熱い。熱が上がって来ちゃったみたい。じゃあね、おやすみ。<br><br> ……いいよね、もう一日くらい休んでも。<br> それで、明日は、……お見舞いに、来て……よね……キョ——……。すぅ。<br><hr><br> ……うー、うるさいわよ。……誰なの、病人の耳元で騒ぐバカは?<br> ……っ! ちょっと、何であんたがいんのよ! 『お見舞い』? 誰がそんな事を頼んだのかしら?<br> ——まあ、どうしてもって言うならまだいても良いけど。<br> 何よ、『もう帰る』っての。……『時間』がどうだっていうのよ。<br> ……じ『十一時』ぃっ?! 嬉しく……は、あるけど限度があんでしょ?<br> ——信じらんない。……ちょっとここで待ってなさい。……ああ、それと。<br> ——あたしが帰ってきたときにあんたが1ナノメートルでも動いてたら死刑だからね。<br> ——『罪状』? そんなのどうでも良いわよ。まあ、強いて言うなら「あたしの部屋を荒らした」罪ね。<br> 裁判官かつ検察官あたし、被告あんた、弁護人はなし、……って裁判をしたくなけりゃ動くんじゃないわよ。<br><br> ——お母さん! 一体何時まであいつをここに置いとくつもりなのよ。もう夜じゃないのっ!<br> ——『帰さないで』? そんな事頼んでないわよ!<br> ……え。嘘……。ホント? ホントにホント? あちゃー……。<br>  ——何か頭が痛くなってきたわ。ちょっと水飲むね。……あ、親父、今日も早いのね。おかえり。<br> ——『飲むか』って。病人にお酒をすすめる神経が理解できないわ……。<br> ……『酔った勢いでやっちまえ』? ……ねえ、親父、それ完全にセクハラ。<br> お母さん。このタコ入道どうにかしてー。<br> ——『用事』? あ、そう、そうなのよっ! もう遅いから、あいつに布団用意してあげてよ。<br> ……そ、そんなわけないでしょっ! もぅ、酔っ払いは嫌いよ、バカ親父っ。ともかくよろしく。<br><br> ——ふう。どうやら動いてないわね。……よろしい。<br> ……ところでさ、あたし良く覚えてないんだけど、あんたを引き留めたって本当?<br> ——……なんか、腕をガッチリ掴んで「今夜は帰さない」って言ったとか、言わないとか。<br> ……あ、やっぱりやっちゃったんだ。<br> ——こうなりゃヤケよ。今夜は……寝かせないんだから。<br><br> 『とか言ってお前が寝てりゃ世話ねえよ。……やれやれ』<br><br><hr> ——もしもし、……うん、あたし。……ふふ、そうね、もう癖みたいな物ね。<br> ——『理由』? あんたの声聞いてるといい具合に眠くなるのよ。夢見も……いいしね。<br> ——そうよ『子守唄』みたいなもんよ。……いいじゃない、あたしの役にたってるんだし。<br> ……ところでさ、一つ訊いていい? あんた今日の市内探索ずっとアクビしてたけど、昨日は眠れなかったの?<br> ——『一睡もしてない』?<br> ……まさか、あたしが寝てるのをいいことに、……何よ、そのバカを相手にするような口調は。<br> ——『朝起きたとき』は、なんか枕が何時もより固かったなー、って思ったけど。<br> ——ひひひ『膝枕』ぁっ?! バカ、変態! ……そういうのはあたしからやるもんでしょ、……普通。<br> ……ともかく、あたしを起こしちゃ悪いと思ってその姿勢でまる一晩過ごしたわけね。<br> ——あ、じゃあさ、手をしきりにさすってたのは?<br> ……ふむ、あたしの『髪をずっと撫でてた』、と。それで筋肉痛になったのね。<br> ——実はあんた頭髪萌? 『柔らかくて、触り心地がいい』から『つい夢中で』、ねえ……。<br> ——あたしの権限であんたを第二級の変態に認定するわ。<br> ——そうよ、文句ある? ちなみに『第一級の変態』の基準は……やっぱり言わないでおくわ。<br> ——と言う訳だから、あんたが間違いを起こさないようにあたしがキッチリ指導してあげる。<br> ……。<br> ……そこでその発想がでてくるあんたに脱帽だわ。鈍感を軽く超越してるわよ。あんたの心は大理石かっ?!<br> ——『健康な男子高校生にそんな事を匂わせるな』? ……よーく分かったわ。あんた準一級の変態に格上げね。<br> ——ねえ、キョン。今、物凄く眠い? ……『そう』よね、声がいつも以上にマヌケっぽいしね。<br> ——そ、こ、で! ……あ、何その「あちゃー」って感じの声は。……『何を言うか分かった』のね。<br> ——ふふふん。嬉しいでしょ? あたしがわざわざ膝枕しにあんたの家に行ってあげるんだから。<br> ——『風邪ひかないうちに帰れ』? それは無理な相談ね。今いるのはあんたの家の玄関前なの。<br> ——さあ、さっさと扉を開けなさい! ……ちょっと肌寒いから五秒以内ね。<br> ……あ、でもあんたの顔を今すぐ見たいからやっぱり三秒以内ね。<br><br> お邪魔しまーす。えへへぇ……。<br><br><hr><br> ——もしもーし、そうそう、あたしよ。……え? 『ゲームしないか』?<br> ……ふふふ、このあたしを相手にいい度胸ね。<br> ——いいわ、乗ってあげる。後悔しても知らないわよ。<br> あたしは何においても全力投球、白旗なんて掲げても勘弁してあげないから!<br> ——で、ルールは? ……『先に電話をかけたほうの負け』なのね。分かったわ。……じゃあ、一旦切るわよ。<br> ……何してんのよ、早く切りなさいよ。……もう、しょうがないわね。『いっせーの、せーで』!<br> ……。<br> ——もうっ! 切りなさいってば! あんた、やる気あんのっ?!<br> ……『指がボタンを押してくれない』ぃ? あんたって奴は……。<br> ——いいっ? 今度こそ切りなさいね、せーのっ!<br> ……。<br> ……キョンのバカ。こうなったら、絶対あたしからは掛けないからっ! 断固としてっ!<br> ……。<br> ……あ。バカハルヒっ! 自律しなさいっ! しっかり、ファイトッ! ……はぁ。<br><br> ……あ゛ぁぁぁ、時計の進みが遅いっ! もう五時間は経ったわよ!<br> なのに……それなのに一分も進んでないわ! きっと狂ってるのよ。<br> ……ええと、時報は1、1、7、っと。……一分も経ってないわ。<br> ……。きっと時報が狂ってるのよ……。うん。別の事を考えないと……。<br> そうだ、いっそのこと携帯を壊すとか良いかも! それで今度はキョンと同じ機——。<br> ……って逆、効、果、よっ! ……うぅ、別の事、キョンとは無縁の事……。あ。<br> そうだわ、勉強よ! 馬鹿なあいつとはまさに水と油! これなら大丈夫っ!<br> ……。<br> ……で、……今度の試験の予想問題なんて作ってどうすんのよっ! しかも、「キョン用(はぁと)」とかっ!<br> ……本当に恋愛感情なんて精神病の一種だわ。悲しい、本っ当ーに悲しいわ。<br> ……大嫌いよ、キョンなんて。……バカ、キョンのバカぁ……。<br> ……——! もしもしっ!? ……ふふーん、どうやらあたしの勝ちみたいね。それじゃあ、罰ゲームよ。<br> ——『そんなこと聞いてない』ぃ? 知らないわよ、そんなの。<br> ——いいっ? よーっく、ききなさいよ。<br> ——今晩は電話、……切っちゃ駄目よ。……切ったら、私刑だからね。<br> ——『それじゃ、罰ゲームにならない』? ……いいのよ、あたしへのご褒美になるから。<br> ……ねえ、キョン。やっぱり、大好き……。<br><br><hr> ――もしもーし、……もう誰からの電話か、確認すらしないのね。……ちょっと寂しいかも……。<br> ——! ……うん、そうよ、あたしっ! ……ふふ、あんたって変な奴ね。<br> ——やーね、誉めてんのよ、ちゃーんと。……『そんな気はしない』の?<br> ——じゃあ、……あんたって優しい、わよね。<br> ……。……二度目はないから。ちゃんと脳裏に焼き付けといたでしょうね?<br> ——よろしい。……所でさぁ、一つ知りたいんだけど。<br> ——うん、別に『大した事』じゃないのよ。本っ当ーにちょっとした事なんだけどね。<br> ……あんた、昨日電話切ったでしょ。……『何の事かなぁ』? ……いい根性ね。<br> ——バレバレの嘘つくんじゃないのっ!……刑を重くするわよ。<br> ——そうねぇ、手始めに明日の昼休みね。……『奢り』? ……勿論それもあるわ。<br> ——でもそれだけじゃないのよ。<br> その後で屋上に登って、あたしが満足するまで叫んでもらうからね。<br> ……『何を?』って分かってるでしょ? ……『謝罪の言葉か?』<br> ——あんた、やっぱり死刑にしようかしら? ……屋上から紐なしバンジー行ってみる?<br> ——そんなんじゃなくて、「ハルヒ、好きだぁっ!」って叫ぶのよ!<br> ——声が枯れるまでね。『小さかったら』、……そうねぇ、放送室を乗っ取って全校に流してもらうわ。<br> ——え? ……これが『刑罰じゃない』って言うの? じゃあ、やっぱり紐な——。<br> ……『遠慮しとく』のね。<br> ——あ、それと、放課後なんだけど、……ちょっと付き合ってもらうわ。<br> ——え? あのね、携帯を、かえようと思って。<br> ……ほら、あるじゃない。特定の番号に電話かけ放題ってのが。<br> ——バーカ。あんた以外にいるわけないでしょ。<br> ……それでね、どうせだから、……同じのにしよ?<br> ……うん、じゃあね。また明日。<br><br> キョンとお揃い、キョンとお揃い、キョンとお揃い。……えへへ。<br><br><hr><br> ――もしもし、あたし。……へ? ……あ、ごめん。間違えちゃった。<br> ――本当はキョンにかけたつもりだったのよ。ごめんね、古泉君、お休みっ!<br><br> いけない、いけない。ちょっとぼんやりしてたみたいね。……あれ、電話だ?<br> ――もしもし? あ、みくるちゃん、どうしたのよ? ……へぇー、そんなお店が、ねぇ……。<br> ――『鶴屋さんが教えてくれ』たんだ。……うん、ありがと。今度行ってみるわ。<br> ――あ、でさぁ今度のコスプレ衣装なんだけど……。<br>~一時間後~<br> ――あ、もうこんな時間ね。……うん、また明日ね。お休み!<br> ……中々面白そうなお店ね。今度キョンと行ってみようかしら。……そうだっ! あいつに電話しなきゃ!<br> ……。出ないわね。<br> ……。……あ、もしもし。……ねえ、もしかして寝てた? 『違う』の?<br> ――なんかテンション低いから寝惚けてるのかな、って。<br> ……別に『忘れてた』訳じゃないわよ。みくるちゃんから電話かかってきて話してたの。<br> ――なんかあんたいじけてない? ……『余計なお世話』じゃないわよ。<br> ――あ、ちょっと『切る』な!<br> ……。もしもし。……ちょっと、話くらいしてもいいでしょ?<br> ――『眠い』の? ……うん、あたしもよ。……でも、あんたとこんな雰囲気のままじゃ、寝れないわ。<br> ――『泣いて』ないわよっ! バカ!<br> ――別にあんたが謝らなくてもいいわ。……あ、そうだ。一つだけ言うこと聞いてあげる……。<br> ――へ? 『弁当』? ……うん、分かったわ。それでいいのね。……まかせなさい!<br> ――じゃあね! お休み!<br><br> お弁当……。キョンに弁当……何が良いかな。<br> 唐揚げ? 煮物? お箸で『あーん』とかっ!? 眠れないわ!<br><br><hr> ――もしもーし。……うん、そうよ。……『今日は早い』? んー、ちょっと寝不足でね。<br> ――でも、あんたと話したいし。……いいじゃない。『他愛もない世間話くらいしか』することなくても。<br> ――こう言うのは何を話すか、より、誰と話すか、が大事なのよ。<br> ――……そ、あたしにとってはあんたよ、残念ながら。……あんたは?<br> ――ねえ、話反らそうとしてるでしょ? そうは問屋とあたしが卸さないわ。<br> ――社会の基本はギブ・アンド・テイクよ。<br> ……あ、因みにあんたとあたしに限ってはギブ・ギブ・ギブ・アンド・テイクだから。<br> ――……ともかく、あたしが言ったんだからあんたも言わなきゃ駄目よ。<br> ――……えへへ。……『気持ち悪いな』? だって、改まって言われると嬉しいじゃない。<br> ――何よ? ……『三回に一回は返してくれるんだろ』って、……ああ、さっきのは例え。三回も言わなくて良いわ。<br> ――『何時から』? んー、あたしは、あんたと初めて会話が成立した時からよ。<br> ――『どの位か』って言うとね……、これはとっておきだからあんたから言いなさい。<br> ――『海より深く――』って、どこの将軍の奥さんよ?<br> ――……あたし? あたしはね。<br> ……。<br> ――言わなきゃ、いけない? ……そうよね、『当たり前』よね。<br> ――……あたしは、……あたしはっ! ……う゛ー……。<br> ――ちょ、ちょっと待ってね……。<br> ――え? 『何時まで』か、って言うと、えーと、あんたが、その、……十八になるまで。<br> ……。<br> ――……何か言いなさいよ。心拍数が、……やばいのよ。今知り合いに顔見られたら死ねるわ……。<br> ――! じゃあ……、その時はあんたにいの一番で電話かけるわ。<br> ――んーと、アトランティス大陸に!<br> ――『任せろ』? 期待、しちゃうわよ? ……じゃあね、お休み。<br><br> ……一年かぁ。……長いなぁ。……はふぅ。……ふぅ。……すぅ――。<br><br><hr> ――もしもし、キョン? ……あら、随分と鼻声ね。風邪? ……そうなの。<br> ――無理しないで寝てなさい。……うん、なんなら今すぐ切るわ。<br> ――あんたが『構わな』くてもあたしが、構うの!<br> ――……電話でもいいけど、面と向かって話したいじゃない。だから、……明日病欠したら私刑よ?<br> ――まあ、そこまで言うなら、布団にもぐってあたしの話でも聞いてなさいよ。<br> ――あ、寝ちゃってもいいわよ。独り言みたいなものだから。<br><br> ――一年の時にさ、夢を見たのよ。詳細は省くけど、馬鹿みたいな夢よ。<br> ――あたしは学校にいて、おまけみたいにあんたもいて、何か変な巨人もいたの。<br> ――ともかくね、色々あってクライマックスに、夢の中のあんたが戯言と一緒にキスしたの。<br> ――……あろうことかこのあたしによ。もう一度夢の中で会ったらはっ倒してやるわ!<br> ――でね、そこで目が覚めちゃったの。最悪じゃない? 一番盛り上がるシーンで幕が下りちゃったのよ。<br> ……。<br> ――……ねえ、あんたは消えないわよね? これは誰かが見てる夢じゃないわよね?<br> ――時々不安になるのよ。こんな幸せなのは、夢だからじゃないかって。<br> ……。<br> ――キョン、聞いてる? それとも……寝たのかしら?<br> ……。<br> ――でも、いつか、……またいつかもう一度聞いてね。あたしのこの不安を。<br> ――それで、その時は笑い飛ばしてくれたらいいな……。<br> ――ずっと側に居るって約束してくれたらいいな……。<br> ――おやすみ、キョン。また、明日ね。<br><hr><br> ――もしもし。……あれ、妹ちゃん? どうしたの?<br> ――『ハサミ』借りに、ね。 ああ、そうそう、キョンは? ……『お風呂入ってる』の。ふーん。<br> ――……? あ、バカキョン。人が妹ちゃんと話してるのに……。可哀想じゃないの!<br> ――『電話に勝手に出る方が悪い』のは、そうだけど何も無理矢理奪わなくてもいいじゃない。<br> ――まあ、良いわ。所でさ、あんたは一人っ子の方が良いって思ったことある?<br> ――へぇ。意外ね。『ない』んだ。……ん? 何と無くよ。あたしの勝手なイメージ。<br> ――あたし? あたしは、そうねぇ……上が欲しかったかな。<br> ――そうよ、妹が「宇宙人はいるの」って主張したら、「俺の知り合いの何とかは宇宙から来たんだ」って言うような、<br> ――ちょっと、何よ? 何か変な事言った、あたしは? 笑い過ぎよ!<br> ――ともかく、そんなノリの良くてちょっと歳の離れた兄貴が良いわね。<br> ――はい? 『子供』ぉっ? ……えと、それって、誰が誰の子供を産む設定?<br> ――あ、『そんな細かいとこ』は考えてないの……。<br> ――でも、やっぱり二人は欲しいわね。男の子と女の子が一人づつ。<br> ――別に『五つ子』じゃなくてもいいわよ。だってそれは「不思議」っていうより「珍しい」だもの。<br> ――元気に育っていつまでも夢を見ることを忘れないでいて欲しいわね。<br> ――そうよ、いいじゃない。家庭は幸せが一番よ。<br> ――あとねぇ、旦那には唯一絶対の条件があるの。<br> ――聞きたい? でも、教えてあげないわ。だって……。<br> ――ううん、何でもない。忘れて。それじゃ、おやすみ!<br><br> ……言えるわけないじゃない。キョンじゃなきゃ嫌だ、何て。<br> はうぅ……。キョンにベタボレなあたし……。顔が熱いよぅ……。<br><hr><br><br> ……すぅ。……すぅ。……んん?<br> ――ふぁい、もひもーひ、あたしでふ。ハルヒぃ。……うんん、キョン? ……<br> ――っ! ……一旦切るわ! 十秒後にかけなおすからっ!<br> ……ああ、もう! あたしのバカ! ……と言うか睡魔のバカ、バカ、どバカ! 恥ずかしいぃ!<br> くぅぅぅ……。何が「もひもーひ」よ! 「あたしでふ」よ! うぅ……。<br><br> ――……もしもし。……そうね、確かに『寝惚けてた』わ。春だしね。<br> ――団長命令よ。今すぐ、記憶から消し去りなさい! その話題一回に付き罰金だからね。<br> ――『具体的』には、あんたの財布の中身が空になるまで奢りよ。『元から空』だったら私刑よ。<br> ――それはその時のお楽し……じゃなくて、その時のあたしの気分しだいよ。<br> ――だいたい春がいけないのよ! まるで睡眠を推奨するような温かさなんだもん。<br> ――あーあ……。……え、『可愛かった』? ……。そそそ、そう? ……へへ。<br> ――って、おだてても判決は覆らないわよ! ……あ、でもさあ、その……も、もう一回。<br> ――……。ふふふ。ふぁ……。でもやっぱり眠いわ。<br> ――うん、おやすみ。またね! ……っ!<br><br> ……もう、キョンのバカ! 寝る前に『かわいい』なんて言われたら、<br> 興奮して寝付けないじゃない。<br> ……でもかわいいって言われたぁ……。たまにはあのキャラでも良いかなぁ。<br><br><hr> ……ん、電話だわ。<br> ――もしもーし、あたしよ。<br> ――んふふふふ……ねえ、キョン? 昨日の今日だし、その話題一回に付き罰金って覚えてんでしょ?<br> ――……選ばせてあげるわ、明日罰金がいいかしら、それとも今すぐ私刑?<br> ――そう、『罰金』ね、分かったわ。明日から二週間昼休みは学食について来なさい。<br> ――いいじゃない、連休が間に挟まってるからたったの七日間よ。<br> ……。<br> ――ん、ちょっとね。……去年の今頃だったかしら。<br> ――あんたがあたしに話しかけて来たのが。……そうよね? 一年って早いわね。<br> ――夜って時々鬱にならない? 一年がこんなに早いなら、一生もあっと言う間じゃないかな、って。<br> ――死んだらどうなるんだろ、とか。悲しんでくれる人はいるかな、とか。<br> ――ごめん、ちょっと重いわね。……え? ……うん、ありがと。<br> ――別の話しましょ。……そうねえ、今度のみくるちゃんのコスプレどうしましょうか。<br> ――……ふむふむ、分かったわ。じゃ、それにはしないわね。<br> ――え、当たり前じゃない。あんたはただでさえみくるちゃんをジロジロ見てるんだもん。<br> ――その変わりあたしが着てあげるから。何ならポニーテールのオマケ付きでっ!<br> ――え、だったら別のがいいの? ふーん……。……というか『ポニーテールなら』何でもいいんだ。<br> ――節操ない奴ね。……あら、『違う』の? ……うわ、信じらんない。良くそんな恥ずかしいセリフを……。<br> ――あんた今日もあたしを寝かせないつもりでしょ? ……まあいいわ、時間も時間だし、また明日。お休み!<br><br> あのバカ。あたしならどんな格好でもいい、とか……ポニーテールなら更に良し、とか……。<br> うぅ……夜更かし決定よ、バカキョーン……責任取れぇ……。<br><hr>んー、明日はぁ……。で、次は、……っと。<br> ……。<br> ふむ、こんなもんかしらね。……あ、キョンからだわ。<br> ——もしもーし、そうそう、あたしよ。……『今』? 明日から休みだし、ちょっと予定を考えてたの。<br> ——そうよ、当然じゃない。暇な日なんて一日もないわよ! あんたは希望ある?<br> ——明日は『街に行く』のね。……あんたにしては良い選択じゃない。<br> ——じゃあ、昼ごはんも向こうで食べて、……え? 当然あんたのオゴリよ。<br> ——何よ、そんな盛大にため息ついて。大丈夫よ、そんな高くないとこにするから。<br> ——それで明後日は、……そうねえ、映画館でも行こうかしら。<br> ——あたしが何か変な事言った? 言ってないわよね?<br> ——それで、土曜日は不思議探索に空けといて、……はい?<br> ——一つ訊くけど、あんた、今まで何について話してたと思ってたのよ。<br> ——ふーん、へぇー。『SOS団のゴールデンウィーク中の活動予定について』ね。……ガッカリだわ。<br> ——せっかくデートのつもりで話してたのにぃ。あーあ、いいわよ、いいわよ。<br> ——あんたは鈍い奴だって忘れてたあたしが悪いのよ。はぁ……。<br> ——何よ、日曜日ぃ? ……予定考えてたけど、言う気なくしたちゃっわよ……。<br> ……。<br> ——『新しくできたテーマパーク』? それがどうしたのよ。<br> ——えっ……?! うぅーん……、そ、そうね、あんたがどうしてもって言うなら……。<br> ——うん、ともかく明日は遅れないようにね。じゃね。<br><br> ……良かったぁ、これでこの休みは毎日キョンに会える……。<br> 楽しみだなぁ……。<br><br><hr> ふふぅ、今日は楽しかったなぁ……。<br> 買い物も結構したし、明日はどれ着ていってやろうかしら。これなんか良いかなあ。<br> ……うーん、にしても髪って伸びるの遅いわね。短めでも良いけどさ。<br> ——もしもーし、キョン? 突然だけどあんたは長いのと短いのどっちが好き?<br> ——え、『何の事』って、髪の長さに決まってんじゃない。<br> ——ふむ、『長め』ね。参考に……してあげなくもなくもない気がしないわ。<br> ——バーカ、こんなのはノリで感じりゃいいのよ。<br> ——『嫌いな気がしないような日が今まで一度もないと言ったら嘘に……』って、長いわよ、アホキョン。<br> ——そういう事はビシッと一発で簡潔に決めないと。<br> ——そう、それでよし。……何よ、不満?<br> ——あんたの背筋がむず痒くなるような台詞を時々聞かされてれば『好き』の一つや二つどーって事ないわよ!<br> ……。<br> ——……一体どこにそんなクサいセリフをしまってるのよ。<br> ——信じらんないわ。……『殺し文句はハルヒ専用』ぅ? あんた、一度精神科に行きなさい。<br> ——あと、一つ訊くけど、お酒飲んでるでしょ? 間違いなく。だってあんたおかしいもの。<br> ——へぇ、『田舎のじいさま』が傘寿なの。<br> ……。<br> ——……はい、歯の浮くセリフ二発目。あんた酔うと手に負えないわね。<br> ——うん、もう何も言わないわ。今日はしっかり寝なさい。明日遅刻したら私刑ののち死刑よ!<br> ——じゃあね!<br><br> 悪酔いしてるキョンがちょっとカッコいいじゃない……。<br> でも酔うと殺し文句が出てくるのはまずいわね。<br> あたし以外の女の子の前では永久禁酒を誓わせないと……むぅ。<br><br><hr> ……。<br> ……出ないわ。また風呂でも入ってんのかしら、しょうがない奴ね。<br> 留守電入れとこ。……「キョン、これ聞いたら十秒以内にかけ直しなさい、いい、分かったわね!」<br> ……ふう、こんなもんね。さーてと、何しよう……。<br> ……。<br> うーん、どれもしっくり来ないわ。近頃夜はずっとキョンと電話してたからかしらね。<br> あーあ、暇よ、暇! 早くかけて来なさいよ……。<br> ……。<br> ……ぶぅー、遅ーい。最悪だわ、明日は私刑ね。ふふふ、どうしてやろうかしら。<br> ……あ、でもあんまりキツイのにすると明後日に支障がでるわ。……うーん、悩み所ね。<br> まあ、あいつの第一声で決める事にしましょ。……だから早くしなさいよぉ……。<br> ——! やっと来たわね。……もしもし、遅かったじゃない。<br> ——『電池が切れてた』ぁ? あんた、明日は覚悟しなさい。<br> ——『なぜ』かって言うと丁度今、私刑のフルコースが確定したからよ。<br> ——「奢り」から始まりあれやこれやを経て最後は「とっておき」が待ってるからね、逃げるんじゃないわよ?<br> ——ふーん、『頭が痛い』のね、風邪かしら? でも休んじゃ駄目よ。<br> ——明日休んだら明後日は二倍後悔するわよ。……『明後日休んだら』、一生後悔してもらうわ。<br> ——さて、明日も早いしもう切るわよ。<br> ——……でも、明日、明後日と二日休んで、一生かけて償って貰っても良いけどね。<br> ——『冗談か本気か』って言ったら、どっちだと思う?<br> ——ふふ。あたしは……結構本気、よ。<br> ——うん……じゃね!<br><br> もしかしてあたしはバカ? ちょっとマズイかも……。でも、キョンとなら……良い、のかな?<br><br><hr> あ、親父おかえりー。……えー? 『何』って弁当の下拵えよ。<br> ……うん、まあ、『デート』みたいなもんね。……そうそう、そのキョンよ。<br> まあ、何だかノラリクラリしてるし、間抜けだし、みくるちゃん見て鼻の下伸ばしてるけど、<br> それでもその、……あれなのよ、うん。……『惚れた理由』が分かんないって言われても困るわよ。<br> ……ちょっ、バ……、エロ親父っ! 信じらんない! もう、あっち行ってよ!<br> ……あー、腹立つ。何でそういう事を年頃の娘に訊けるのよ。もう……。<br><br> よし、終わり! 後は明日の朝ね。……さ、電話しよ、へへへぇ……。<br> ——もしもーし、元気? もちろん、あたしはバリバリよ! ……そこ、『死語』とか言わないの。<br> ——……そうそう、明日は八時に駅前集合よ。遅れたら罰金で、昼ごはん抜きよ。<br> ——折角のあたし謹製手作り弁当だから、食いそびれたら後悔することうけあいなんだから!<br> ——そうよ、泣いて喜びながら食べなさいよ。……ところで、献立の希望はある?<br> ……。<br> ——ふむ。……あたしの作った物なら『何でも良い』の……。<br> ——あんた、夜になると嫌味なくらいにクサい奴になるわね。<br> ——うわ、『男の性』って……あんたも親父と同類かぁ。<br> ——あ、因みに空気を読まずに……その、あれやこれやをしようとしたら死刑よ。私刑じゃなくてね。<br> ——……もうっ! 変態! バカキョン!<br> ——……今日はさっさと寝なさい。あたしももう寝るから。<br> ——じゃあね!<br><br> ……バカ! セクハラよ、セクハラ! あぁぁぁ、あのバカぁっ!<br> ……。<br> ふぅ……。寝よ。<br> <hr> <br>  ただいまぁ。……何よ、親父。先に警告しとくけど、セクハラ発言一回につき一度殴るわよ。<br>  『なら言うことがなくなる』って……もうっ! うるさい、言われなくてもお風呂入って寝るわよっ!<br> <br>  エロ親父ぃ……、母さんもあんなののどこに惚れたのかしら。<br>  ふぁぁ……、でも今日は疲れたぁ。お風呂入る前にちょっとだけ寝よー、っと。<br>  ……すぅ、……ぴい。<br> <br>  んんっ……あっ! もうこんな時間だわ……。でもまあ、いいや。電話、電話っと。<br>  ……。<br>  ——もしもーし、……もしかして寝てた? そうなら一応謝っとくわ、ごめんね。<br>  ——あ、そうなの? 奇遇ね。あたしも帰ってからすぐ寝ちゃって今起きたとこなのよ。<br>  ——ふふふ、一種のテレパシーかもね。……って、うわ、つまらない反応。<br>  ——もっとノリなさいよ、SOS団員としても、あたしの彼氏としても。<br>  ——はい、もう一回! ……一種のテレパシーかもね。<br>  ——……『恋のなせる業だろ』って、……実は言ってるあんたも恥ずかしいでしょ?<br>  ——へ、『平気』なのっ? どんだけ図太い神経してんのよっ?<br>  ——あたしにだけは『言われたくない』ですってぇっ?!<br>  ——……でもちょっと興味あるのよね。あんた、どれくらいのクサい台詞から身悶えすんの?<br>  ——へぇー、そう。分かったわ、言ってあげる。……『何で』って、遣られっぱなしで引っ込めるわけないでしょ?<br>  ——い、行くわよ! 「貴方の事を想うあまり今夜も一睡できません」、これでどうよっ?<br>  ——ちょ、ちょっと……、なな、何で笑ってんのよぉっ! 騙したの? 騙したんでしょ!?<br>  ——最悪最悪最悪ぅっ! あたしの一人損じゃないのっ!<br>  ——バカっ! 明日は覚悟しなさいよっ! 死刑よ死刑っ! じゃあねっ!<br> <br>  キョンのくせに……キョンのくせにぃっ!<br>  ……確かに眠れないのは事実なんだけどさぁ……。……ふぅ。<br> <hr> <br>  げ……電池切れてる。どうしよう? ……ま、子機でも使えばいいか。<br>  親父ぃー、お母さーん、ちょっと電話使うよー、っと。これでよし。キョンの番号はぁ……。<br>  ——もしもーし、……うん、そうそう。携帯の電池が切れちゃってんの。<br>  ——『おっちょこちょい』って言うなっ! すぐに切れる方が悪いのよ。<br>  ——メーカー各社は電池の容量を増やす事に今以上に力を入れるべきね。<br>  ——んー? 『誰か使うんじゃないか』って?<br>  ——多分大丈夫だと思うわ。夜に電話かけるなんて非常識極まりないじゃない。<br>  ——あ、でもあたしたちは例外。……あたしが決めたからそれで良いのよ!<br>  ——……だって寂しいじゃないの。それにもう習慣になってるし、今更やめられないわ。<br>  ——何よ、あたしが『非常識極まりない』って言うのがそんなに『似合わない』の?<br>  ——……一理あるけど、言い過ぎじゃない? ……ふん。<br>  ——あれ? ちょっと待ってね。……何だか親父が呼んでるの。<br>  何ー、親父? ……え、今あたしが使ってんだけど。……『誰』ってキョンよ。<br>  あと少し待ってよ、そしたら切るから。……ダメって言われても……。<br>  ……ふーん、キョンと話しさせてあげたら待ってくれるの?<br>  ——あ、ねえ、ちょっと親父が話したいんだって。代わるね。<br>  ……はい、手早くすませてよ。三分以内ね。あと変なこと口走らないようにね。<br>  ……。<br>  『ガサツ』……、『ワガママ』……、『暴力的』……、『貰い手』……、『よろしく』ぅ……?<br>  ……! おぉやぁじぃっ?! 何の話題なのっ?<br>  代われっ! 今すぐに代われぇっ! ……笑ってないで、早くっ!<br>  ——はあ、はあっ……。もしもしっ! 何言われたか知れないけど今すぐ忘れなさいっ!<br>  ——じゃねっ!<br> <br>  ……こんのバカ親父っ! 待てぇっ!<br> <hr> <br>  ——もしもし、あたし。……『元気ないな』? うん、そうね、ちょっと疲れてるの。<br>  ——さっきまでバカ親父と話してたんだけど、それが中々大変なのよ。<br>  ——『そうでもない』って……確かにあんたは昨日親父と喋ったかもしれないけど……。<br>  ——んー、多分それ以上。何より話題が際どいのよ、うちの親父は。<br>  ——どう贔屓目に見ても年頃の娘との会話じゃないわ。<br>  ——『楽しくて良い』って言うならあんたも同類ね。……これじゃお母さんの事言えないわ。<br>  ——あ、こっちの話よ。あんたは全く気にしないでいいわ。<br>  ——『仲が良い』ように思えるならあんたはちょっと考え方を変えなさい。<br>  ——当たり前じゃない! 誰が誰と『仲のいい親娘』なのっ? ……ちょっと待ってね。<br>  何か用? 今電話中だから後にしてよ、親父。……って、その沈んだオーラは何?<br>  ……『娘に嫌われた』と思うんなら接し方を変える事ね。じゃ、キョン待たせてるし。<br>  ——あ、ごめんね。あたしの発言聞いて親父がへこんでるだけだったわ。<br>  ——『父親になるなら』家の親父みたいのが『いい』? あたし、……もう何も言わないわ。<br>  ——……あ。<br>  ……。<br>  ——ねえ、キョン。電話越しに、不意打ちで、そういう系統のセリフは止めて。<br>  ——軽く心臓が止まりそうになっちゃうわ。……お互い顔をあわせてないから、場の空気が分かり辛いのよ。<br>  ——うん、そのかわり面と向かってならいくらでもいいわ。<br>  ——ふふ。……ん、じゃね。<br> <br>  はぁ、『でもそれ以上にハルヒが隣にいればいい 』……って、ププププロポー、ズかな?<br>  ……うぅっ、熱い、顔が熱いわ。でも嬉しいな……えへへ。<br> <hr> <br>  あれ、電話だ。誰からかしら? ……あれ、非通知だ。やぁね。<br>  ——もしもし、どなたですか? ……は? ……え、『メリーさん』?<br>  ——間違いじゃありませんか? ……。<br>  って、切れた……。一体誰よ?<br>  ……でもどっかで聞いた事があるのよね、あの声。多分男ね。<br>  誰かしら、キョン? うーん、違うわ……。古泉くん……でもないわよね、きっと。<br>  まさか、谷口? ……論外ね。……まただ。<br>  ——もしもしっ? また『メリーさん』? ねえ、さっきから誰なの?事と次第によっては怒るわよ?<br>  ——ちょっと、『家の前』って、え? 嘘でしょ?<br>  ——ホントに? ……あ、コラっ! 答えなさ……。<br>  切れちゃった……。でも絶対聞いたことあるのよ。<br>  むむぅ、キョンの友達の、国木田? ……違うわね。<br>  ……まさか、ホントにあたしが知らない人なのかしら。……ちょっと、怖いじゃない。<br>  ——もしもし。……か、『階段』? ……止めて、カウントしないでっ!?<br>  うぅ……階段の段数があってたんだけど……。ま、まさかね。<br>  でも、さっきから何か軋む音が……、でも、お母さんも何も言わないし……。<br>  ヤバイ、寒気がするわ。<br>  ひぃっ! き、来た……。<br>  ——も、もしも〜し。……あたしの『部屋の前』……にいるの?<br>  って、ちょっと待ちなさい。あの声は……。うん、きっと間違いないわ。<br>  あたしとしたことが、何でもっと早く気付かなかったのかしら? 「あいつ」の番号は……。<br>  ——もしもーし、バカ親父? 今、どこにいる? もしかして、もしかすると、あたしの部屋の前じゃない?<br>  ——……んふふ、『ご名答』、ねぇ? そこ、動くんじゃないわよ。今からそっち行くから。<br> <br>  ……こ、ん、の、ぶぁくぁ親父ぃぃっ! 娘からかって楽しいのっ!?<br>  『涙目』なわけないでしょっ! ええぃ、ともかく、待てぇっ!<br> <hr> <br>  ——もしもーし、……そうそう、あたし。……んー、まあね。<br>  ——ちょっとさっきまで変態に絡まれてたのよ。……ああ、大丈夫よ。<br>  ——返り討ちにして、粗大ゴミ置き場においといたから。<br>  ——でも、嬉しいな。心配してくれて。……『当たり前だろ』ってまあ、そうだけど……。<br>  ——それでも、あんたに気にかけて貰えるんだし。……たまになら良いかしら。<br>  ——ああ、こっちの話よ。所でさ、近頃暑いわよね、無駄に。……うん。<br>  ——でさ、去年の第一回市内パトロールがあった二日後のこと覚えてる?<br>  ——あ、酷っ! あまりの暑さにへばってるあたしが「扇いで♪」って、頼んだのに、あんた華麗に無視したじゃない。<br>  ——そうそれよ。……確かにほんの少しぐらいあたし『フィルター』通してるけどね。<br>  ——『少しじゃなく』ても、大筋は同じよ。……『何が言いたいか』? 決まってるじゃない。<br>  ——大分勘が鋭くなったじゃないの、そうよ。……ふーん、『頼み方にもよる』の?<br>  ——……へぇ、随分と注文をつけるのね。まあやってあげるわ。<br>  ——いっその事明日はカンカン照りが良いわね。そうね、今から照る照る坊主を作りなさい。<br>  ——ノルマは一人百個ね。……『無理』も何もないのよ、やるったらやるのっ!<br>  ——だーって、暑くもないのに扇がれても面白くないじゃない。<br>  ——と言うわけで切るわよ。今から作るから。じゃね! 明日期待してるわよ。<br> <br>  あいつも中々マニアックな注文するわね。<br> 『首を可愛く傾げながら「扇いで♪」って、言ったら云々』とか。<br> <br>  ……暑いわね。ねえ、キョン。扇いで♪<br>  まあ、こんな感じかなぁ……。それとももっと可愛くかな?<br>  うーん……。<br>
 もしもし、キョン? 何よ、こんな夜中に電話なんかかけてきて? 寝てたらどう責任とるつもりだったわけ?<br> 『起きてたからいいだろ』とかそんな問題じゃないでしょっ!?<br> ——えっ……オメデトって、ちょ、ちょっと待ちなさい! なんで知ってんのよ、あたしの誕生日!<br> 『聞いた』? 誰によ? へぇー、谷口? あいつ……後でシメるわ。<br> ——ちょっと、何笑ってんの! 『そんな事言いながら、声が笑ってるぜ』?<br> バババ、バカキョン! 笑ってないわ、全然嬉しくなんかないわよ!<br> なんで誕生日をいの一番にあんたから祝われなきゃいけないのよ? 嬉しいわけ、……ないでしょ。<br> 『そういう事にしといてやる』じゃないわよ、あんた生意気よ! 団長に対する心構えがなってないわ!<br> ……もう、いいわ。今日一日かけてじっくり団長たるあたしへの接し方を教えてあげる。<br> 九時に駅前集合よ! 遅れたら、罰金刑と私刑の両方に処すわよ、いい?<br> じゃね。<br><br><br>……キョンと誕生日にデート、誕生日にデート、誕生日にデート……う゛ードキドキするぅ。<br> 眠れないよぉ。<br><hr><br> もしもし、——なんだ、またあんたなの? いい加減にしないと、怒るわよ。<br> はぁ……。何よ、その反省の色ゼロな声は。<br> ——で、何の用よ。このあたしの睡眠時間を削るぐらいなんだから、ものスゴい用事でしょうねっ?<br> 違ったら承知しないわよっ!<br> ……。<br> ……。<br> ねえ、さっさと言いなさいよ。……何、深呼吸なんかしちゃって。<br> え? は? ちょ、ちょ、ちょっと待ちなさい。どういう意——。<br> 『忘れろ』って? あ、コラ! 切るなぁ!<br><br> 聞き間違いじゃ、ないわよね……? 『好きだ』って言ったわよね?<br> どーしよ……。嬉しいけど……、んー……何て言うのかし——ひゃうっ!<br> もしもしもし、なななな何、はい、あたしは涼宮ハルヒです、どちら様です、か……ってキョンなの?<br> あぁ、びっく——ううん、なんでもないわ。忘れなさい。<br> ……うん、その事なんだけどね、いいわよ。どうせ谷口辺りから聞いてるでしょ?<br> あたしは告白されても断んないの。……振るのは早いけどね。<br> 明日? 早速ね。別に、いいけど。『八時』? 分かったわ。<br> 精々あたしを楽しませなさいよっ! いいわねっ!? じゃあね。<br><br><br> ふふ、明日はポニーテールにしよっ、と! ふぁ、ねむ……。<br> ——ぐぅ。<br><hr><br> もしもし、——そ、あたしよ。——何、その寒い反応は。あたしから電話しちゃいけないわけ?<br> ——じゃあ、問題ないじゃないの。——何よ、眠そうな声しちゃって。<br> まさかバテバテなのかしら? 情けないわねぇ。あたしはまだまだ余裕よ!<br> 明日も同じコース回っても問題ないわね。<br> ——『学校があるだろ』? バカキョン。例えに決まってんじゃない。<br> もしどうしてもってんなら……その、いいけど……。<br> ——『遠慮しとく』ぅ? この、バカ、マヌケ、ドンガメ! あたしは楽しかったのよ! 悪い?<br> 楽しかったんだからもう一回って思っちゃダメなのっ?!<br> あんたと一日歩き回ってただけでこんな風に思うなんてどーしちゃったのかしら、あたしはっ!<br> ——そーよ、“せーしんびょー”よ。文句ある? ないでしょ?<br> ……。<br> ……何よ、何なのよ。何で黙っちゃうのよ。<br> ——『満月』がどうかしたの? 『綺麗だな』って、……まさかあんた外にいんの?<br> ——『見てみろよ』? ……まあ、見てあげてもいいけど。へぇ、『外で見たほうが綺麗』なんだ。<br> ……風邪ひいたら責任とりなさいよ。治るまで泊まり込みで看病しなさいよ。<br> ——え、電話? 切らないわよ。あんた、切ったら即私刑だからね。<br> ——ふう、寒いわね。……あ、本当だ。あんたに風流を解する精神があったとは驚きだけどね。<br><br> ——ひあぅっ! 誰っ!?<br> ……え? キョンなの? はぁ、驚かさないで、突然後ろから抱くのは反則よ。<br> ……で、何しにきたのかしらこんな寒い夜に携帯片手にあたしん家まで。<br> ……。<br> ——お、お、お、『お休みのキス』って……うわぁ、恥ずかしい奴……。<br> ……でも、ありがと。<br> ——ちゅ<br><hr><br> ……。<br> ……。<br> ……出ないわねぇ。折角あたしがかけてやってるんだから一回目で出なさいよ、バカキョン……。<br> あーあ、お風呂でも入ろうっと。<br>〜二時間後〜<br> ……うー、すっかり長風呂しちゃったわ。水でも飲も。……あれ、親父帰ってたの? おかえり。<br> ——あ、丁度いいわ。それもらうね。……『飲むな』? いいじゃない、水くらい。<br> ——ってあれ、これ、おさけ? 先言ってよ、イッキ飲みしちゃったじゃない。まあ、いいや。おやすみぃ。<br> ……『酔って』なんかないってばぁ。大丈夫よぅ。あ、でも少しフラフラするかも。<br> うん? 大丈夫、大丈夫、階段から落ちたりなんかしないから。……キョンでもないんだしね。<br><br> ふぅ、疲れたわぁ。親父も先に言ってくれればいいのに。あたし一生の不覚よ。<br> あ、そうだ。携帯はっと……着信、十件? キョンに、キョンに、キョン……。<br> ちょっとかけすぎよあのバカ! ……でもしょうがないわねぇ。<br> 可哀想だし、あたしからかけてあげよぅっと。<br> ——あ、もひもし、キョン? そーよ、あたしよー。……んー? あ、さっきまでぇ? お風呂よ、お風呂。<br> ——うん、うん、そうなのよ。……え、やーねー『酔って』にゃんかないわよ!<br> ——ってさっき親父にも同じこと言われたわぁ。<br> ——そ、一言一句ちがわなかったわよ。『お前、酔ってるだろ』って。<br> ……たかだか、お酒一杯で酔うわけなーいじゃない。<br> ——『やっぱり酔ってる』? しつこいわね、あたしが大丈夫って言ったら何もかも、おっひぇなのひょ!<br> そうしょう、『そーゆーこと』にしとき、……はふぅ、なさい。<br> ——ふわぁ、うーん? ……なんか、眠くなっちゃった。<br> ……そう、そう。……うん、お休み、また明日ね。<br> ——あ、後ね、だぁい好きよ、きょー……ぐぅ。<br><hr><br> ——もしもし、キョン? ……何よ、『今日は酔ってないだろうな』ぁ?<br> ……あたしは飲んだくれか、バカキョン! 開口一番に言うセリフじゃないわよ!<br> ——というより、あんたは神聖にして絶対たる団長様に対してどんなイメージを抱いているのかしら?<br> ……言ってみなさいよ。ええ、きっと怒らないから。<br> ——しつこいわね、さっさと言いなさいっ! いつまで念押し続ける気なのよ!<br> ——ふーん、『短気、自己中心的、ヒネクレ者』。何、まだ続くの?<br> ……それより、そんな風に思ってたのに告白するって、あんた被虐趣味ある?<br> ——『巻き込まれ型人生』なんて、あるわけないじゃない。それは主体性の欠如に他ならないわよ。<br> ——え、『本番はここから』?<br> ——『可愛い、スタイルがいい、頭が良い、行動力溢れている、ポニーテールにすると魅力度36パーセントアップ』<br> ——何よ、魅力度って。……『胸のトキメキ具合』ぃ? ちょっと気持ち悪いわ。<br> ——でも、でもね。さ、参考までに訊きたいんだけど、……36パーセントアップって、どれくらいなの?<br> ——『上限を軽くオーバーするくらい』ってどういう意味よ?<br> ……。<br> ……うわぁ、よくそんな歯の浮くようなセリフが言えるわね。<br> ——え、あたしがあんたをどう思ってるか? 決まってるじゃない! 一度しか言わないわよ!<br> ——愛してる。<br> ……。<br> ……。<br> ——あーあー、眠い眠い。寝ることにするわ。んじゃね!<br> ——プツン<br><br> ……勢いで言っちゃったけど恥ずかしいぃよぅ。うー、心臓がぁ……心臓がぁ……。<br><hr><br> ——もしもーし。……ふふ、……ん、近頃電話に出るまでの間が短くなったじゃないって思ってね。<br> ——まあ、『毎日同じくらいにかけて』て気付かなかったからあんたの頭を疑うけどね。<br> ……そーよ、あんたは十分前科あり、なんだから。鈍感過ぎんのよ。<br> ——『お互い様』ぁ? どの口が言うのかしら、キョン?<br> ……まったく、減らない口ね。少しは妹ちゃんの素直さを見習いなさいよ。<br> ……まーた、あー言えばこー言うのね。<br> ——このあたしが一日付きっきりで素直になれるように指導してあげるわよ。<br> ……何でそこで有希の名前を出すのかしら? 有希の方が『素直だから』?<br> ……あんたは一度周りから自分がどう想われてるか確認……はしなくていいわ、やっぱり。<br> ——くしゅん! うう、寒っ! ……ん? 散歩よ、散歩。星空ウォーク。<br> ……こないだあんたに言われて外出てからはまっちゃってね。案外綺麗なのよ。<br> ——でもまだ寒いのよね。上着着ててもクシャミでちゃう。<br> ……心配してくれてるの? ふーん、『言えば付き合って』くれるんだ。<br> ——じゃあ、早速明日付き合ってね。……『急いては事を仕損じる』ぅ?<br> ……バカね、あたしは思い立ったが吉日がモットーよ。<br> ——と言うわけだから今から来なさい。……ふふふ、そんな慌てないで、冗談よ。<br> ——そ、明日よ。あんたん家の方に行くから。……いいじゃない、たまにはシャミや妹ちゃんにも会いたいの!<br> ——それと、女の子が一人夜道は危ないから泊まることにするからね! 『考え直』さないわよ。<br> ——じゃあね。明日、楽しみにしてるから。<br><br> あぁぁっ! キョンの家に泊まるなんて言っちゃったけど、<br> ……正直早まったかも。ヤバイわ、どーしよー……。<br> ……悩んでもしょうがないわ! もう、なるようになれ! 襲いたきゃ襲っちゃえっ!<br> ……って、言ってて恥ずかしいのよ、バカハルヒ……。うぅ……。<br><hr><br> ……。うぅ、夜中に出歩くんじゃなかったわ。頭が痛い……。風邪のバカ!<br> ……いたたた。だいぶ頭に響くわ。おとなしく寝てよ。<br><br> ……そういえば、今日はみんな部活どうしたんだろ。あたしが居なくてもちゃんとやったかしら。<br> そうなら良いんだけど、でもそれはそれとして誰一人としてお見舞いに来ないってどういう訳なの?<br> 団長の一大事だってのに。少なくとも電話くらいかけてくれてもいいじゃない……。<br> あーあ、みんな冷たいわ……。極寒よ、南極なんて目じゃないわね。<br> ……ふぅ、おやす——っ!<br> ——もしもしっ!! ……ああ、やっぱりあんただったの。……うん、大丈夫よ。<br> ——え? 『息が荒い』? 気のせいよ、気のせい。<br> ——さっきまでは世の無情にしみじみと浸ってたんだけどね。<br>  ……『体調』? うん、まあまあね。明日からはまた学校に行けると思うわ、いいえ、行ってみせるわっ!<br> ——たかだか風邪ごときがあたしを阻めるわけないのよ!<br> ——なんでそこで苦笑いしか出てこないのよ、あんたももっと喜びなさい。<br> ……まさか。『無理』なんかしてないわ。風邪なんて一日寝てりゃ治るのよ。覚えときなさい。<br> ……偉そうな物言いね。泣きながら感謝するくらいのものなのよ、あたしの至言は。<br> ——ちなみにまだまだあるわよ、聞く?<br> ……遠慮しないでいいじゃない。こんな『風邪がぶり返す』わけないわ、大丈夫よ。<br> ——そうそう、その態度よ。じゃあ、行くわよ。<br> ……。<br> ——大好き!<br> ……。<br> ——あ、ヤバイわ、顔が熱い。熱が上がって来ちゃったみたい。じゃあね、おやすみ。<br><br> ……いいよね、もう一日くらい休んでも。<br> それで、明日は、……お見舞いに、来て……よね……キョ——……。すぅ。<br><hr><br> ……うー、うるさいわよ。……誰なの、病人の耳元で騒ぐバカは?<br> ……っ! ちょっと、何であんたがいんのよ! 『お見舞い』? 誰がそんな事を頼んだのかしら?<br> ——まあ、どうしてもって言うならまだいても良いけど。<br> 何よ、『もう帰る』っての。……『時間』がどうだっていうのよ。<br> ……じ『十一時』ぃっ?! 嬉しく……は、あるけど限度があんでしょ?<br> ——信じらんない。……ちょっとここで待ってなさい。……ああ、それと。<br> ——あたしが帰ってきたときにあんたが1ナノメートルでも動いてたら死刑だからね。<br> ——『罪状』? そんなのどうでも良いわよ。まあ、強いて言うなら「あたしの部屋を荒らした」罪ね。<br> 裁判官かつ検察官あたし、被告あんた、弁護人はなし、……って裁判をしたくなけりゃ動くんじゃないわよ。<br><br> ——お母さん! 一体何時まであいつをここに置いとくつもりなのよ。もう夜じゃないのっ!<br> ——『帰さないで』? そんな事頼んでないわよ!<br> ……え。嘘……。ホント? ホントにホント? あちゃー……。<br>  ——何か頭が痛くなってきたわ。ちょっと水飲むね。……あ、親父、今日も早いのね。おかえり。<br> ——『飲むか』って。病人にお酒をすすめる神経が理解できないわ……。<br> ……『酔った勢いでやっちまえ』? ……ねえ、親父、それ完全にセクハラ。<br> お母さん。このタコ入道どうにかしてー。<br> ——『用事』? あ、そう、そうなのよっ! もう遅いから、あいつに布団用意してあげてよ。<br> ……そ、そんなわけないでしょっ! もぅ、酔っ払いは嫌いよ、バカ親父っ。ともかくよろしく。<br><br> ——ふう。どうやら動いてないわね。……よろしい。<br> ……ところでさ、あたし良く覚えてないんだけど、あんたを引き留めたって本当?<br> ——……なんか、腕をガッチリ掴んで「今夜は帰さない」って言ったとか、言わないとか。<br> ……あ、やっぱりやっちゃったんだ。<br> ——こうなりゃヤケよ。今夜は……寝かせないんだから。<br><br> 『とか言ってお前が寝てりゃ世話ねえよ。……やれやれ』<br><br><hr> ——もしもし、……うん、あたし。……ふふ、そうね、もう癖みたいな物ね。<br> ——『理由』? あんたの声聞いてるといい具合に眠くなるのよ。夢見も……いいしね。<br> ——そうよ『子守唄』みたいなもんよ。……いいじゃない、あたしの役にたってるんだし。<br> ……ところでさ、一つ訊いていい? あんた今日の市内探索ずっとアクビしてたけど、昨日は眠れなかったの?<br> ——『一睡もしてない』?<br> ……まさか、あたしが寝てるのをいいことに、……何よ、そのバカを相手にするような口調は。<br> ——『朝起きたとき』は、なんか枕が何時もより固かったなー、って思ったけど。<br> ——ひひひ『膝枕』ぁっ?! バカ、変態! ……そういうのはあたしからやるもんでしょ、……普通。<br> ……ともかく、あたしを起こしちゃ悪いと思ってその姿勢でまる一晩過ごしたわけね。<br> ——あ、じゃあさ、手をしきりにさすってたのは?<br> ……ふむ、あたしの『髪をずっと撫でてた』、と。それで筋肉痛になったのね。<br> ——実はあんた頭髪萌? 『柔らかくて、触り心地がいい』から『つい夢中で』、ねえ……。<br> ——あたしの権限であんたを第二級の変態に認定するわ。<br> ——そうよ、文句ある? ちなみに『第一級の変態』の基準は……やっぱり言わないでおくわ。<br> ——と言う訳だから、あんたが間違いを起こさないようにあたしがキッチリ指導してあげる。<br> ……。<br> ……そこでその発想がでてくるあんたに脱帽だわ。鈍感を軽く超越してるわよ。あんたの心は大理石かっ?!<br> ——『健康な男子高校生にそんな事を匂わせるな』? ……よーく分かったわ。あんた準一級の変態に格上げね。<br> ——ねえ、キョン。今、物凄く眠い? ……『そう』よね、声がいつも以上にマヌケっぽいしね。<br> ——そ、こ、で! ……あ、何その「あちゃー」って感じの声は。……『何を言うか分かった』のね。<br> ——ふふふん。嬉しいでしょ? あたしがわざわざ膝枕しにあんたの家に行ってあげるんだから。<br> ——『風邪ひかないうちに帰れ』? それは無理な相談ね。今いるのはあんたの家の玄関前なの。<br> ——さあ、さっさと扉を開けなさい! ……ちょっと肌寒いから五秒以内ね。<br> ……あ、でもあんたの顔を今すぐ見たいからやっぱり三秒以内ね。<br><br> お邪魔しまーす。えへへぇ……。<br><br><hr><br> ——もしもーし、そうそう、あたしよ。……え? 『ゲームしないか』?<br> ……ふふふ、このあたしを相手にいい度胸ね。<br> ——いいわ、乗ってあげる。後悔しても知らないわよ。<br> あたしは何においても全力投球、白旗なんて掲げても勘弁してあげないから!<br> ——で、ルールは? ……『先に電話をかけたほうの負け』なのね。分かったわ。……じゃあ、一旦切るわよ。<br> ……何してんのよ、早く切りなさいよ。……もう、しょうがないわね。『いっせーの、せーで』!<br> ……。<br> ——もうっ! 切りなさいってば! あんた、やる気あんのっ?!<br> ……『指がボタンを押してくれない』ぃ? あんたって奴は……。<br> ——いいっ? 今度こそ切りなさいね、せーのっ!<br> ……。<br> ……キョンのバカ。こうなったら、絶対あたしからは掛けないからっ! 断固としてっ!<br> ……。<br> ……あ。バカハルヒっ! 自律しなさいっ! しっかり、ファイトッ! ……はぁ。<br><br> ……あ゛ぁぁぁ、時計の進みが遅いっ! もう五時間は経ったわよ!<br> なのに……それなのに一分も進んでないわ! きっと狂ってるのよ。<br> ……ええと、時報は1、1、7、っと。……一分も経ってないわ。<br> ……。きっと時報が狂ってるのよ……。うん。別の事を考えないと……。<br> そうだ、いっそのこと携帯を壊すとか良いかも! それで今度はキョンと同じ機——。<br> ……って逆、効、果、よっ! ……うぅ、別の事、キョンとは無縁の事……。あ。<br> そうだわ、勉強よ! 馬鹿なあいつとはまさに水と油! これなら大丈夫っ!<br> ……。<br> ……で、……今度の試験の予想問題なんて作ってどうすんのよっ! しかも、「キョン用(はぁと)」とかっ!<br> ……本当に恋愛感情なんて精神病の一種だわ。悲しい、本っ当ーに悲しいわ。<br> ……大嫌いよ、キョンなんて。……バカ、キョンのバカぁ……。<br> ……——! もしもしっ!? ……ふふーん、どうやらあたしの勝ちみたいね。それじゃあ、罰ゲームよ。<br> ——『そんなこと聞いてない』ぃ? 知らないわよ、そんなの。<br> ——いいっ? よーっく、ききなさいよ。<br> ——今晩は電話、……切っちゃ駄目よ。……切ったら、私刑だからね。<br> ——『それじゃ、罰ゲームにならない』? ……いいのよ、あたしへのご褒美になるから。<br> ……ねえ、キョン。やっぱり、大好き……。<br><br><hr> ――もしもーし、……もう誰からの電話か、確認すらしないのね。……ちょっと寂しいかも……。<br> ——! ……うん、そうよ、あたしっ! ……ふふ、あんたって変な奴ね。<br> ——やーね、誉めてんのよ、ちゃーんと。……『そんな気はしない』の?<br> ——じゃあ、……あんたって優しい、わよね。<br> ……。……二度目はないから。ちゃんと脳裏に焼き付けといたでしょうね?<br> ——よろしい。……所でさぁ、一つ知りたいんだけど。<br> ——うん、別に『大した事』じゃないのよ。本っ当ーにちょっとした事なんだけどね。<br> ……あんた、昨日電話切ったでしょ。……『何の事かなぁ』? ……いい根性ね。<br> ——バレバレの嘘つくんじゃないのっ!……刑を重くするわよ。<br> ——そうねぇ、手始めに明日の昼休みね。……『奢り』? ……勿論それもあるわ。<br> ——でもそれだけじゃないのよ。<br> その後で屋上に登って、あたしが満足するまで叫んでもらうからね。<br> ……『何を?』って分かってるでしょ? ……『謝罪の言葉か?』<br> ——あんた、やっぱり死刑にしようかしら? ……屋上から紐なしバンジー行ってみる?<br> ——そんなんじゃなくて、「ハルヒ、好きだぁっ!」って叫ぶのよ!<br> ——声が枯れるまでね。『小さかったら』、……そうねぇ、放送室を乗っ取って全校に流してもらうわ。<br> ——え? ……これが『刑罰じゃない』って言うの? じゃあ、やっぱり紐な——。<br> ……『遠慮しとく』のね。<br> ——あ、それと、放課後なんだけど、……ちょっと付き合ってもらうわ。<br> ——え? あのね、携帯を、かえようと思って。<br> ……ほら、あるじゃない。特定の番号に電話かけ放題ってのが。<br> ——バーカ。あんた以外にいるわけないでしょ。<br> ……それでね、どうせだから、……同じのにしよ?<br> ……うん、じゃあね。また明日。<br><br> キョンとお揃い、キョンとお揃い、キョンとお揃い。……えへへ。<br><br><hr><br> ――もしもし、あたし。……へ? ……あ、ごめん。間違えちゃった。<br> ――本当はキョンにかけたつもりだったのよ。ごめんね、古泉君、お休みっ!<br><br> いけない、いけない。ちょっとぼんやりしてたみたいね。……あれ、電話だ?<br> ――もしもし? あ、みくるちゃん、どうしたのよ? ……へぇー、そんなお店が、ねぇ……。<br> ――『鶴屋さんが教えてくれ』たんだ。……うん、ありがと。今度行ってみるわ。<br> ――あ、でさぁ今度のコスプレ衣装なんだけど……。<br>~一時間後~<br> ――あ、もうこんな時間ね。……うん、また明日ね。お休み!<br> ……中々面白そうなお店ね。今度キョンと行ってみようかしら。……そうだっ! あいつに電話しなきゃ!<br> ……。出ないわね。<br> ……。……あ、もしもし。……ねえ、もしかして寝てた? 『違う』の?<br> ――なんかテンション低いから寝惚けてるのかな、って。<br> ……別に『忘れてた』訳じゃないわよ。みくるちゃんから電話かかってきて話してたの。<br> ――なんかあんたいじけてない? ……『余計なお世話』じゃないわよ。<br> ――あ、ちょっと『切る』な!<br> ……。もしもし。……ちょっと、話くらいしてもいいでしょ?<br> ――『眠い』の? ……うん、あたしもよ。……でも、あんたとこんな雰囲気のままじゃ、寝れないわ。<br> ――『泣いて』ないわよっ! バカ!<br> ――別にあんたが謝らなくてもいいわ。……あ、そうだ。一つだけ言うこと聞いてあげる……。<br> ――へ? 『弁当』? ……うん、分かったわ。それでいいのね。……まかせなさい!<br> ――じゃあね! お休み!<br><br> お弁当……。キョンに弁当……何が良いかな。<br> 唐揚げ? 煮物? お箸で『あーん』とかっ!? 眠れないわ!<br><br><hr> ――もしもーし。……うん、そうよ。……『今日は早い』? んー、ちょっと寝不足でね。<br> ――でも、あんたと話したいし。……いいじゃない。『他愛もない世間話くらいしか』することなくても。<br> ――こう言うのは何を話すか、より、誰と話すか、が大事なのよ。<br> ――……そ、あたしにとってはあんたよ、残念ながら。……あんたは?<br> ――ねえ、話反らそうとしてるでしょ? そうは問屋とあたしが卸さないわ。<br> ――社会の基本はギブ・アンド・テイクよ。<br> ……あ、因みにあんたとあたしに限ってはギブ・ギブ・ギブ・アンド・テイクだから。<br> ――……ともかく、あたしが言ったんだからあんたも言わなきゃ駄目よ。<br> ――……えへへ。……『気持ち悪いな』? だって、改まって言われると嬉しいじゃない。<br> ――何よ? ……『三回に一回は返してくれるんだろ』って、……ああ、さっきのは例え。三回も言わなくて良いわ。<br> ――『何時から』? んー、あたしは、あんたと初めて会話が成立した時からよ。<br> ――『どの位か』って言うとね……、これはとっておきだからあんたから言いなさい。<br> ――『海より深く――』って、どこの将軍の奥さんよ?<br> ――……あたし? あたしはね。<br> ……。<br> ――言わなきゃ、いけない? ……そうよね、『当たり前』よね。<br> ――……あたしは、……あたしはっ! ……う゛ー……。<br> ――ちょ、ちょっと待ってね……。<br> ――え? 『何時まで』か、って言うと、えーと、あんたが、その、……十八になるまで。<br> ……。<br> ――……何か言いなさいよ。心拍数が、……やばいのよ。今知り合いに顔見られたら死ねるわ……。<br> ――! じゃあ……、その時はあんたにいの一番で電話かけるわ。<br> ――んーと、アトランティス大陸に!<br> ――『任せろ』? 期待、しちゃうわよ? ……じゃあね、お休み。<br><br> ……一年かぁ。……長いなぁ。……はふぅ。……ふぅ。……すぅ――。<br><br><hr> ――もしもし、キョン? ……あら、随分と鼻声ね。風邪? ……そうなの。<br> ――無理しないで寝てなさい。……うん、なんなら今すぐ切るわ。<br> ――あんたが『構わな』くてもあたしが、構うの!<br> ――……電話でもいいけど、面と向かって話したいじゃない。だから、……明日病欠したら私刑よ?<br> ――まあ、そこまで言うなら、布団にもぐってあたしの話でも聞いてなさいよ。<br> ――あ、寝ちゃってもいいわよ。独り言みたいなものだから。<br><br> ――一年の時にさ、夢を見たのよ。詳細は省くけど、馬鹿みたいな夢よ。<br> ――あたしは学校にいて、おまけみたいにあんたもいて、何か変な巨人もいたの。<br> ――ともかくね、色々あってクライマックスに、夢の中のあんたが戯言と一緒にキスしたの。<br> ――……あろうことかこのあたしによ。もう一度夢の中で会ったらはっ倒してやるわ!<br> ――でね、そこで目が覚めちゃったの。最悪じゃない? 一番盛り上がるシーンで幕が下りちゃったのよ。<br> ……。<br> ――……ねえ、あんたは消えないわよね? これは誰かが見てる夢じゃないわよね?<br> ――時々不安になるのよ。こんな幸せなのは、夢だからじゃないかって。<br> ……。<br> ――キョン、聞いてる? それとも……寝たのかしら?<br> ……。<br> ――でも、いつか、……またいつかもう一度聞いてね。あたしのこの不安を。<br> ――それで、その時は笑い飛ばしてくれたらいいな……。<br> ――ずっと側に居るって約束してくれたらいいな……。<br> ――おやすみ、キョン。また、明日ね。<br><hr><br> ――もしもし。……あれ、妹ちゃん? どうしたの?<br> ――『ハサミ』借りに、ね。 ああ、そうそう、キョンは? ……『お風呂入ってる』の。ふーん。<br> ――……? あ、バカキョン。人が妹ちゃんと話してるのに……。可哀想じゃないの!<br> ――『電話に勝手に出る方が悪い』のは、そうだけど何も無理矢理奪わなくてもいいじゃない。<br> ――まあ、良いわ。所でさ、あんたは一人っ子の方が良いって思ったことある?<br> ――へぇ。意外ね。『ない』んだ。……ん? 何と無くよ。あたしの勝手なイメージ。<br> ――あたし? あたしは、そうねぇ……上が欲しかったかな。<br> ――そうよ、妹が「宇宙人はいるの」って主張したら、「俺の知り合いの何とかは宇宙から来たんだ」って言うような、<br> ――ちょっと、何よ? 何か変な事言った、あたしは? 笑い過ぎよ!<br> ――ともかく、そんなノリの良くてちょっと歳の離れた兄貴が良いわね。<br> ――はい? 『子供』ぉっ? ……えと、それって、誰が誰の子供を産む設定?<br> ――あ、『そんな細かいとこ』は考えてないの……。<br> ――でも、やっぱり二人は欲しいわね。男の子と女の子が一人づつ。<br> ――別に『五つ子』じゃなくてもいいわよ。だってそれは「不思議」っていうより「珍しい」だもの。<br> ――元気に育っていつまでも夢を見ることを忘れないでいて欲しいわね。<br> ――そうよ、いいじゃない。家庭は幸せが一番よ。<br> ――あとねぇ、旦那には唯一絶対の条件があるの。<br> ――聞きたい? でも、教えてあげないわ。だって……。<br> ――ううん、何でもない。忘れて。それじゃ、おやすみ!<br><br> ……言えるわけないじゃない。キョンじゃなきゃ嫌だ、何て。<br> はうぅ……。キョンにベタボレなあたし……。顔が熱いよぅ……。<br><hr><br><br> ……すぅ。……すぅ。……んん?<br> ――ふぁい、もひもーひ、あたしでふ。ハルヒぃ。……うんん、キョン? ……<br> ――っ! ……一旦切るわ! 十秒後にかけなおすからっ!<br> ……ああ、もう! あたしのバカ! ……と言うか睡魔のバカ、バカ、どバカ! 恥ずかしいぃ!<br> くぅぅぅ……。何が「もひもーひ」よ! 「あたしでふ」よ! うぅ……。<br><br> ――……もしもし。……そうね、確かに『寝惚けてた』わ。春だしね。<br> ――団長命令よ。今すぐ、記憶から消し去りなさい! その話題一回に付き罰金だからね。<br> ――『具体的』には、あんたの財布の中身が空になるまで奢りよ。『元から空』だったら私刑よ。<br> ――それはその時のお楽し……じゃなくて、その時のあたしの気分しだいよ。<br> ――だいたい春がいけないのよ! まるで睡眠を推奨するような温かさなんだもん。<br> ――あーあ……。……え、『可愛かった』? ……。そそそ、そう? ……へへ。<br> ――って、おだてても判決は覆らないわよ! ……あ、でもさあ、その……も、もう一回。<br> ――……。ふふふ。ふぁ……。でもやっぱり眠いわ。<br> ――うん、おやすみ。またね! ……っ!<br><br> ……もう、キョンのバカ! 寝る前に『かわいい』なんて言われたら、<br> 興奮して寝付けないじゃない。<br> ……でもかわいいって言われたぁ……。たまにはあのキャラでも良いかなぁ。<br><br><hr> ……ん、電話だわ。<br> ――もしもーし、あたしよ。<br> ――んふふふふ……ねえ、キョン? 昨日の今日だし、その話題一回に付き罰金って覚えてんでしょ?<br> ――……選ばせてあげるわ、明日罰金がいいかしら、それとも今すぐ私刑?<br> ――そう、『罰金』ね、分かったわ。明日から二週間昼休みは学食について来なさい。<br> ――いいじゃない、連休が間に挟まってるからたったの七日間よ。<br> ……。<br> ――ん、ちょっとね。……去年の今頃だったかしら。<br> ――あんたがあたしに話しかけて来たのが。……そうよね? 一年って早いわね。<br> ――夜って時々鬱にならない? 一年がこんなに早いなら、一生もあっと言う間じゃないかな、って。<br> ――死んだらどうなるんだろ、とか。悲しんでくれる人はいるかな、とか。<br> ――ごめん、ちょっと重いわね。……え? ……うん、ありがと。<br> ――別の話しましょ。……そうねえ、今度のみくるちゃんのコスプレどうしましょうか。<br> ――……ふむふむ、分かったわ。じゃ、それにはしないわね。<br> ――え、当たり前じゃない。あんたはただでさえみくるちゃんをジロジロ見てるんだもん。<br> ――その変わりあたしが着てあげるから。何ならポニーテールのオマケ付きでっ!<br> ――え、だったら別のがいいの? ふーん……。……というか『ポニーテールなら』何でもいいんだ。<br> ――節操ない奴ね。……あら、『違う』の? ……うわ、信じらんない。良くそんな恥ずかしいセリフを……。<br> ――あんた今日もあたしを寝かせないつもりでしょ? ……まあいいわ、時間も時間だし、また明日。お休み!<br><br> あのバカ。あたしならどんな格好でもいい、とか……ポニーテールなら更に良し、とか……。<br> うぅ……夜更かし決定よ、バカキョーン……責任取れぇ……。<br><hr>んー、明日はぁ……。で、次は、……っと。<br> ……。<br> ふむ、こんなもんかしらね。……あ、キョンからだわ。<br> ——もしもーし、そうそう、あたしよ。……『今』? 明日から休みだし、ちょっと予定を考えてたの。<br> ——そうよ、当然じゃない。暇な日なんて一日もないわよ! あんたは希望ある?<br> ——明日は『街に行く』のね。……あんたにしては良い選択じゃない。<br> ——じゃあ、昼ごはんも向こうで食べて、……え? 当然あんたのオゴリよ。<br> ——何よ、そんな盛大にため息ついて。大丈夫よ、そんな高くないとこにするから。<br> ——それで明後日は、……そうねえ、映画館でも行こうかしら。<br> ——あたしが何か変な事言った? 言ってないわよね?<br> ——それで、土曜日は不思議探索に空けといて、……はい?<br> ——一つ訊くけど、あんた、今まで何について話してたと思ってたのよ。<br> ——ふーん、へぇー。『SOS団のゴールデンウィーク中の活動予定について』ね。……ガッカリだわ。<br> ——せっかくデートのつもりで話してたのにぃ。あーあ、いいわよ、いいわよ。<br> ——あんたは鈍い奴だって忘れてたあたしが悪いのよ。はぁ……。<br> ——何よ、日曜日ぃ? ……予定考えてたけど、言う気なくしたちゃっわよ……。<br> ……。<br> ——『新しくできたテーマパーク』? それがどうしたのよ。<br> ——えっ……?! うぅーん……、そ、そうね、あんたがどうしてもって言うなら……。<br> ——うん、ともかく明日は遅れないようにね。じゃね。<br><br> ……良かったぁ、これでこの休みは毎日キョンに会える……。<br> 楽しみだなぁ……。<br><br><hr> ふふぅ、今日は楽しかったなぁ……。<br> 買い物も結構したし、明日はどれ着ていってやろうかしら。これなんか良いかなあ。<br> ……うーん、にしても髪って伸びるの遅いわね。短めでも良いけどさ。<br> ——もしもーし、キョン? 突然だけどあんたは長いのと短いのどっちが好き?<br> ——え、『何の事』って、髪の長さに決まってんじゃない。<br> ——ふむ、『長め』ね。参考に……してあげなくもなくもない気がしないわ。<br> ——バーカ、こんなのはノリで感じりゃいいのよ。<br> ——『嫌いな気がしないような日が今まで一度もないと言ったら嘘に……』って、長いわよ、アホキョン。<br> ——そういう事はビシッと一発で簡潔に決めないと。<br> ——そう、それでよし。……何よ、不満?<br> ——あんたの背筋がむず痒くなるような台詞を時々聞かされてれば『好き』の一つや二つどーって事ないわよ!<br> ……。<br> ——……一体どこにそんなクサいセリフをしまってるのよ。<br> ——信じらんないわ。……『殺し文句はハルヒ専用』ぅ? あんた、一度精神科に行きなさい。<br> ——あと、一つ訊くけど、お酒飲んでるでしょ? 間違いなく。だってあんたおかしいもの。<br> ——へぇ、『田舎のじいさま』が傘寿なの。<br> ……。<br> ——……はい、歯の浮くセリフ二発目。あんた酔うと手に負えないわね。<br> ——うん、もう何も言わないわ。今日はしっかり寝なさい。明日遅刻したら私刑ののち死刑よ!<br> ——じゃあね!<br><br> 悪酔いしてるキョンがちょっとカッコいいじゃない……。<br> でも酔うと殺し文句が出てくるのはまずいわね。<br> あたし以外の女の子の前では永久禁酒を誓わせないと……むぅ。<br><br><hr> ……。<br> ……出ないわ。また風呂でも入ってんのかしら、しょうがない奴ね。<br> 留守電入れとこ。……「キョン、これ聞いたら十秒以内にかけ直しなさい、いい、分かったわね!」<br> ……ふう、こんなもんね。さーてと、何しよう……。<br> ……。<br> うーん、どれもしっくり来ないわ。近頃夜はずっとキョンと電話してたからかしらね。<br> あーあ、暇よ、暇! 早くかけて来なさいよ……。<br> ……。<br> ……ぶぅー、遅ーい。最悪だわ、明日は私刑ね。ふふふ、どうしてやろうかしら。<br> ……あ、でもあんまりキツイのにすると明後日に支障がでるわ。……うーん、悩み所ね。<br> まあ、あいつの第一声で決める事にしましょ。……だから早くしなさいよぉ……。<br> ——! やっと来たわね。……もしもし、遅かったじゃない。<br> ——『電池が切れてた』ぁ? あんた、明日は覚悟しなさい。<br> ——『なぜ』かって言うと丁度今、私刑のフルコースが確定したからよ。<br> ——「奢り」から始まりあれやこれやを経て最後は「とっておき」が待ってるからね、逃げるんじゃないわよ?<br> ——ふーん、『頭が痛い』のね、風邪かしら? でも休んじゃ駄目よ。<br> ——明日休んだら明後日は二倍後悔するわよ。……『明後日休んだら』、一生後悔してもらうわ。<br> ——さて、明日も早いしもう切るわよ。<br> ——……でも、明日、明後日と二日休んで、一生かけて償って貰っても良いけどね。<br> ——『冗談か本気か』って言ったら、どっちだと思う?<br> ——ふふ。あたしは……結構本気、よ。<br> ——うん……じゃね!<br><br> もしかしてあたしはバカ? ちょっとマズイかも……。でも、キョンとなら……良い、のかな?<br><br><hr> あ、親父おかえりー。……えー? 『何』って弁当の下拵えよ。<br> ……うん、まあ、『デート』みたいなもんね。……そうそう、そのキョンよ。<br> まあ、何だかノラリクラリしてるし、間抜けだし、みくるちゃん見て鼻の下伸ばしてるけど、<br> それでもその、……あれなのよ、うん。……『惚れた理由』が分かんないって言われても困るわよ。<br> ……ちょっ、バ……、エロ親父っ! 信じらんない! もう、あっち行ってよ!<br> ……あー、腹立つ。何でそういう事を年頃の娘に訊けるのよ。もう……。<br><br> よし、終わり! 後は明日の朝ね。……さ、電話しよ、へへへぇ……。<br> ——もしもーし、元気? もちろん、あたしはバリバリよ! ……そこ、『死語』とか言わないの。<br> ——……そうそう、明日は八時に駅前集合よ。遅れたら罰金で、昼ごはん抜きよ。<br> ——折角のあたし謹製手作り弁当だから、食いそびれたら後悔することうけあいなんだから!<br> ——そうよ、泣いて喜びながら食べなさいよ。……ところで、献立の希望はある?<br> ……。<br> ——ふむ。……あたしの作った物なら『何でも良い』の……。<br> ——あんた、夜になると嫌味なくらいにクサい奴になるわね。<br> ——うわ、『男の性』って……あんたも親父と同類かぁ。<br> ——あ、因みに空気を読まずに……その、あれやこれやをしようとしたら死刑よ。私刑じゃなくてね。<br> ——……もうっ! 変態! バカキョン!<br> ——……今日はさっさと寝なさい。あたしももう寝るから。<br> ——じゃあね!<br><br> ……バカ! セクハラよ、セクハラ! あぁぁぁ、あのバカぁっ!<br> ……。<br> ふぅ……。寝よ。<br> <hr> <br>  ただいまぁ。……何よ、親父。先に警告しとくけど、セクハラ発言一回につき一度殴るわよ。<br>  『なら言うことがなくなる』って……もうっ! うるさい、言われなくてもお風呂入って寝るわよっ!<br> <br>  エロ親父ぃ……、母さんもあんなののどこに惚れたのかしら。<br>  ふぁぁ……、でも今日は疲れたぁ。お風呂入る前にちょっとだけ寝よー、っと。<br>  ……すぅ、……ぴい。<br> <br>  んんっ……あっ! もうこんな時間だわ……。でもまあ、いいや。電話、電話っと。<br>  ……。<br>  ——もしもーし、……もしかして寝てた? そうなら一応謝っとくわ、ごめんね。<br>  ——あ、そうなの? 奇遇ね。あたしも帰ってからすぐ寝ちゃって今起きたとこなのよ。<br>  ——ふふふ、一種のテレパシーかもね。……って、うわ、つまらない反応。<br>  ——もっとノリなさいよ、SOS団員としても、あたしの彼氏としても。<br>  ——はい、もう一回! ……一種のテレパシーかもね。<br>  ——……『恋のなせる業だろ』って、……実は言ってるあんたも恥ずかしいでしょ?<br>  ——へ、『平気』なのっ? どんだけ図太い神経してんのよっ?<br>  ——あたしにだけは『言われたくない』ですってぇっ?!<br>  ——……でもちょっと興味あるのよね。あんた、どれくらいのクサい台詞から身悶えすんの?<br>  ——へぇー、そう。分かったわ、言ってあげる。……『何で』って、遣られっぱなしで引っ込めるわけないでしょ?<br>  ——い、行くわよ! 「貴方の事を想うあまり今夜も一睡できません」、これでどうよっ?<br>  ——ちょ、ちょっと……、なな、何で笑ってんのよぉっ! 騙したの? 騙したんでしょ!?<br>  ——最悪最悪最悪ぅっ! あたしの一人損じゃないのっ!<br>  ——バカっ! 明日は覚悟しなさいよっ! 死刑よ死刑っ! じゃあねっ!<br> <br>  キョンのくせに……キョンのくせにぃっ!<br>  ……確かに眠れないのは事実なんだけどさぁ……。……ふぅ。<br> <hr> <br>  げ……電池切れてる。どうしよう? ……ま、子機でも使えばいいか。<br>  親父ぃー、お母さーん、ちょっと電話使うよー、っと。これでよし。キョンの番号はぁ……。<br>  ——もしもーし、……うん、そうそう。携帯の電池が切れちゃってんの。<br>  ——『おっちょこちょい』って言うなっ! すぐに切れる方が悪いのよ。<br>  ——メーカー各社は電池の容量を増やす事に今以上に力を入れるべきね。<br>  ——んー? 『誰か使うんじゃないか』って?<br>  ——多分大丈夫だと思うわ。夜に電話かけるなんて非常識極まりないじゃない。<br>  ——あ、でもあたしたちは例外。……あたしが決めたからそれで良いのよ!<br>  ——……だって寂しいじゃないの。それにもう習慣になってるし、今更やめられないわ。<br>  ——何よ、あたしが『非常識極まりない』って言うのがそんなに『似合わない』の?<br>  ——……一理あるけど、言い過ぎじゃない? ……ふん。<br>  ——あれ? ちょっと待ってね。……何だか親父が呼んでるの。<br>  何ー、親父? ……え、今あたしが使ってんだけど。……『誰』ってキョンよ。<br>  あと少し待ってよ、そしたら切るから。……ダメって言われても……。<br>  ……ふーん、キョンと話しさせてあげたら待ってくれるの?<br>  ——あ、ねえ、ちょっと親父が話したいんだって。代わるね。<br>  ……はい、手早くすませてよ。三分以内ね。あと変なこと口走らないようにね。<br>  ……。<br>  『ガサツ』……、『ワガママ』……、『暴力的』……、『貰い手』……、『よろしく』ぅ……?<br>  ……! おぉやぁじぃっ?! 何の話題なのっ?<br>  代われっ! 今すぐに代われぇっ! ……笑ってないで、早くっ!<br>  ——はあ、はあっ……。もしもしっ! 何言われたか知れないけど今すぐ忘れなさいっ!<br>  ——じゃねっ!<br> <br>  ……こんのバカ親父っ! 待てぇっ!<br> <hr> <br>  ——もしもし、あたし。……『元気ないな』? うん、そうね、ちょっと疲れてるの。<br>  ——さっきまでバカ親父と話してたんだけど、それが中々大変なのよ。<br>  ——『そうでもない』って……確かにあんたは昨日親父と喋ったかもしれないけど……。<br>  ——んー、多分それ以上。何より話題が際どいのよ、うちの親父は。<br>  ——どう贔屓目に見ても年頃の娘との会話じゃないわ。<br>  ——『楽しくて良い』って言うならあんたも同類ね。……これじゃお母さんの事言えないわ。<br>  ——あ、こっちの話よ。あんたは全く気にしないでいいわ。<br>  ——『仲が良い』ように思えるならあんたはちょっと考え方を変えなさい。<br>  ——当たり前じゃない! 誰が誰と『仲のいい親娘』なのっ? ……ちょっと待ってね。<br>  何か用? 今電話中だから後にしてよ、親父。……って、その沈んだオーラは何?<br>  ……『娘に嫌われた』と思うんなら接し方を変える事ね。じゃ、キョン待たせてるし。<br>  ——あ、ごめんね。あたしの発言聞いて親父がへこんでるだけだったわ。<br>  ——『父親になるなら』家の親父みたいのが『いい』? あたし、……もう何も言わないわ。<br>  ——……あ。<br>  ……。<br>  ——ねえ、キョン。電話越しに、不意打ちで、そういう系統のセリフは止めて。<br>  ——軽く心臓が止まりそうになっちゃうわ。……お互い顔をあわせてないから、場の空気が分かり辛いのよ。<br>  ——うん、そのかわり面と向かってならいくらでもいいわ。<br>  ——ふふ。……ん、じゃね。<br> <br>  はぁ、『でもそれ以上にハルヒが隣にいればいい 』……って、ププププロポー、ズかな?<br>  ……うぅっ、熱い、顔が熱いわ。でも嬉しいな……えへへ。<br> <hr> <br>  あれ、電話だ。誰からかしら? ……あれ、非通知だ。やぁね。<br>  ——もしもし、どなたですか? ……は? ……え、『メリーさん』?<br>  ——間違いじゃありませんか? ……。<br>  って、切れた……。一体誰よ?<br>  ……でもどっかで聞いた事があるのよね、あの声。多分男ね。<br>  誰かしら、キョン? うーん、違うわ……。古泉くん……でもないわよね、きっと。<br>  まさか、谷口? ……論外ね。……まただ。<br>  ——もしもしっ? また『メリーさん』? ねえ、さっきから誰なの?事と次第によっては怒るわよ?<br>  ——ちょっと、『家の前』って、え? 嘘でしょ?<br>  ——ホントに? ……あ、コラっ! 答えなさ……。<br>  切れちゃった……。でも絶対聞いたことあるのよ。<br>  むむぅ、キョンの友達の、国木田? ……違うわね。<br>  ……まさか、ホントにあたしが知らない人なのかしら。……ちょっと、怖いじゃない。<br>  ——もしもし。……か、『階段』? ……止めて、カウントしないでっ!?<br>  うぅ……階段の段数があってたんだけど……。ま、まさかね。<br>  でも、さっきから何か軋む音が……、でも、お母さんも何も言わないし……。<br>  ヤバイ、寒気がするわ。<br>  ひぃっ! き、来た……。<br>  ——も、もしも〜し。……あたしの『部屋の前』……にいるの?<br>  って、ちょっと待ちなさい。あの声は……。うん、きっと間違いないわ。<br>  あたしとしたことが、何でもっと早く気付かなかったのかしら? 「あいつ」の番号は……。<br>  ——もしもーし、バカ親父? 今、どこにいる? もしかして、もしかすると、あたしの部屋の前じゃない?<br>  ——……んふふ、『ご名答』、ねぇ? そこ、動くんじゃないわよ。今からそっち行くから。<br> <br>  ……こ、ん、の、ぶぁくぁ親父ぃぃっ! 娘からかって楽しいのっ!?<br>  『涙目』なわけないでしょっ! ええぃ、ともかく、待てぇっ!<br> <hr> <br>  ——もしもーし、……そうそう、あたし。……んー、まあね。<br>  ——ちょっとさっきまで変態に絡まれてたのよ。……ああ、大丈夫よ。<br>  ——返り討ちにして、粗大ゴミ置き場においといたから。<br>  ——でも、嬉しいな。心配してくれて。……『当たり前だろ』ってまあ、そうだけど……。<br>  ——それでも、あんたに気にかけて貰えるんだし。……たまになら良いかしら。<br>  ——ああ、こっちの話よ。所でさ、近頃暑いわよね、無駄に。……うん。<br>  ——でさ、去年の第一回市内パトロールがあった二日後のこと覚えてる?<br>  ——あ、酷っ! あまりの暑さにへばってるあたしが「扇いで♪」って、頼んだのに、あんた華麗に無視したじゃない。<br>  ——そうそれよ。……確かにほんの少しぐらいあたし『フィルター』通してるけどね。<br>  ——『少しじゃなく』ても、大筋は同じよ。……『何が言いたいか』? 決まってるじゃない。<br>  ——大分勘が鋭くなったじゃないの、そうよ。……ふーん、『頼み方にもよる』の?<br>  ——……へぇ、随分と注文をつけるのね。まあやってあげるわ。<br>  ——いっその事明日はカンカン照りが良いわね。そうね、今から照る照る坊主を作りなさい。<br>  ——ノルマは一人百個ね。……『無理』も何もないのよ、やるったらやるのっ!<br>  ——だーって、暑くもないのに扇がれても面白くないじゃない。<br>  ——と言うわけで切るわよ。今から作るから。じゃね! 明日期待してるわよ。<br> <br>  あいつも中々マニアックな注文するわね。<br> 『首を可愛く傾げながら「扇いで♪」って、言ったら云々』とか。<br> <br>  ……暑いわね。ねえ、キョン。扇いで♪<br>  まあ、こんな感じかなぁ……。それとももっと可愛くかな?<br>  うーん……。<br>

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