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一つの野心、一つの決意 1 - (2009/11/09 (月) 22:31:24) の1つ前との変更点

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<br /><br />  かつて、彼が長門有希の世界改変に巻き込まれ、遭遇してしまった異世界が存在した。そこでは、長門有希の願望が具現化され、長門有希と朝比奈みくると彼は北高に、そして僕は彼女と共に別の高校に在籍し、彼女の傍らでいつも通りにやけ面をしていたと彼は言っていた。<br /><br />  以前はこう思ったことがあった。<br />  ―それは長門有希だけではなく、僕の隠れた願いをも取り込んで創造されたものだったのかもしれない— と。<br /><br />  とは言っても、当然それを僕の力によって成したものだということはあり得ない。それは、今考えつくこととしては、僕自身がただの制限付きの超能力者に過ぎないという理由だけには留まらない。<br />  僕が守りたい世界は、彼女が僕の傍らで絶えず不機嫌そうな仏頂面をしているだけの世界ではないからだ。そんな世界を僕は望まないという自負が、今は確かにある。<br /><br /><br /> ・・・・・・<br /> ・・・<br /> ・<br /><br /><br />  SOS団に入団して二年以上が過ぎているが、SOS団は何も変わらない。彼女が居て、彼女の傍らにはいつも彼が居て、僕と朝比奈みくると長門有希がそれを囲み、何のことはない放課後を過ごし、週末にはグループ分けして不思議探索に繰り出す。<br />  僕は相変わらず超能力者としての任務を背負ってはいるが、世界は平穏無事に在り続けている。この何の変哲もない日々・・・誤解を恐れず言ってみれば、つまらないとでも表現できてしまう平和な日々を、喜びを持って噛み締めている。いつまでもこんな日常が続いてくれればいいと、そう切に考えている。<br /><br />  今日の午前の部は僕と彼のペアと、女性3人のグループに別れた。この組合せになったとき、彼は必ず『何が楽しくて休日に野郎と2人で・・・』なんてぶつくさ言いながら歩き始める。しかし、彼のその不機嫌は初めの間だけで、歩き始めれば何のことはない。<br /><br /> 「なあ古泉、今度の夏もハルヒの我侭に付き合ってどこかに連れ出すつもりなのか?」<br /><br />  二人で黙って無言で過ごすこともあるが、大抵は他愛もない会話をしながら歩くことになる。どちらも僕にとっては楽しい時間で、充実した時間を送ることができたと感じることができる。<br /><br /> 「ハルヒのやつ、海外に行きたいなんて言っていたが、無理に合わせなくていいぞ。あいつの傍若無人な我侭にお前が奔走させられる理由は無いしな。」<br /><br /> 「僕が無理をして皆さんが喜んでくれるならお安いものですよ。」<br /><br />  僕は即答する。これは偽りの無い本心だから考えるまでもなく出てくる応えだ。<br /><br /> 「お前のその自己犠牲精神にはいつも呆れるよ。」<br /><br />  彼はお得意のやれやれと言った仕草と、その仕草に合わない笑みを含んだ表情で返してくれた。せめて呆れるではなく、感心すると言ってもらいたいものだが・・・<br /><br /> 「貴方自身はどこか行きたいところはありますか?参考のために伺っておきましょう。」<br /><br /> 「俺の行きたいとこなんて関係ないだろ。」<br /><br />  また唐変木なことを言う。最初は彼のこういった鈍さには驚きもしたが、今では逆にそれが微笑ましく感じてしまうのだから不思議なものだ。<br /><br /> 「貴方が楽しむことができなければ、涼宮さんも心から楽しんではくれないんですよ。」<br /><br /> 「ん・・・」<br /><br /> 彼は首を少し傾け、眉を寄せながら考え込む。<br /><br /> 「そうだな・・・正直どこでもいいかもな。近くの温泉やテーマパークとかでも俺は満足だぜ。ハルヒのことは心配しなくても、みんなで旅行ってだけで満足してくれるだろ。」<br /><br />  僕に無理をさせまいと気を使ってくれているのだろうか。<br /><br /> 「『~でも満足だ』と言うような消極的なことではなく、僕らの夏合宿という枠を外してもっと正直に自分の希望を仰ってみてくれませんか?」<br /><br />  以前は『本当はこんな喋り方もするんだよ』『こんな考えもするんだよ』と声を大にして言いたくなる衝動に駆られたものだったが、今となってはそれももうない。SOS団副団長としての古泉一樹と僕自身は、いつの間にか一致するに近い様相を持っていた。それだけに、自分にとってのSOS団という小宇宙が掛替えのないものであることを自覚している。<br /><br /> 「そうだな、行ってみたいところというのを真面目に考えるとだな、世界中の古代遺跡を見てみたいという気持ちがあるな。ハルヒの不思議探しには持って来いだし、朝比奈さんの不用意なうっかり発言がまた聴けるかもしれない。長門にとっては全く違う文化・文明に触れてみるってのは一般の人間以上に重要なことだと思うしな。」<br /><br />  自分の行ってみたいところを真面目に考えて、結局他の人の意志を忖度した結論を出してしまう辺り、彼らしいと言うか何と言うか…<br /><br /> 「そうですか。それではやはり海外に行ってみましょうか?費用なら機関が負担できますし、現地での安全を手配することもできるでしょう。その点は保証します。」<br /><br />  彼は再び考え込んだ。彼が僕の好意や提案に甘えてくれたり乗ってくれることは僕にとっては不愉快ではない。むしろ快く感じる。<br />  こんな捉えようによっては損とも言える気質が身についたのは一体いつ頃からだっただろうか。もっとも、僕自身が快く感じているのだから損とは言えないのだが。<br /><br />  こんなことを考えていたため、この後、彼が発した言葉は意外性を極めた。<br /><br /> 「なあ・・・」<br /><br />  彼は何かを言いかける。しかし躊躇っているのか沈黙が流れる。<br /><br /> 「はい。どうしました?」<br /><br />  彼はなかなか応えない。一体なんだというのだろうか。<br /><br /> 「前から気になっていたんだがな・・・<br /><br />  僕は「はい」と相槌を入れながら次を促すがなかなか次が続かない。旅行先でのことでここまで言い難いこととは何だろうか。宇宙旅行でも希望しているのだろうか。<br /><br /> 「・・・機関って一体何なんだ。」<br /><br />  焦らした挙句、彼が絞り出したことはこれだった。余りにも意外で、しかも漠然とし過ぎていて彼が何を意図しているのかがわからない。今は旅行先の話だったはずだ。<br />  <br /> 「お前等の機関はハルヒのご機嫌取りの為に島を丸ごと用意できる。そこにほぼ新築のお屋敷も用意できる。海外旅行の為の費用を全員分捻出して、現地で身に危険が及ばないよう色々手配もできる。必要となる費用は直接的なものだけじゃない。根回しにはかなりの時間と労力と費用を必要とするはずだ。」<br /><br />  僕の戸惑いを他所に、彼は先ほどの状態から堰を切ったように話始めた。僕は、彼が何を訊きたいのか探るべく耳を傾ける。<br /><br /> 「余計な人が入らないように交通規制をかける。口止めをする為に口止め料を払う。安全を確保するために警備体制も確保する。現地の有力者に根回しをする。他にも色々やることはあるだろう。一体どれくらいの費用を使うのか、俺には検討も付かない。」<br /><br /> 「そういえば、生徒会長を擁立してその地位に就けるには国会議員の選挙活動に必要なくらいの費用、つまるところ数千万から億単位の金を使ったんだったか。」<br /><br />  彼の質問が具体性を帯びてくる。<br /><br /> 「我らが公立の北高にはお前以外にも機関の人間が多数いるなら、教師にも間違いなくいるだろう。機関が結成された時から何年もかけて根回しをしてきたわけではないだろ?ということは公的なところにもかなりの影響力を持っているってことだよな。生徒会選挙のときも、学校や生徒会を傀儡にすることを黙認してもらうために、県議や市議、教育委員会等に秘密裏に働きかけていたからこそ、数千万からの費用が使われたんだろ?」<br /><br />  これは・・・できれば訊かれたくない、知られたくないことだ。今まで触れてくることはなかったのに、何故今頃になって・・・<br /><br /> 「どうなんだ?公権力にも影響力を持っているんだろ?警察を含めた行政機関、政治家を含めてだ。」<br /><br />  途切れた。どうやら僕に回答を求めているようだ。<br /><br /> 「・・・ええ。そうでなければあれくらいの活動はできませんからね。」<br /><br />  今更否定できることではない。<br /><br /> 「なら、億単位の金を簡単に動かせる資金源は一体どこにあるんだ?まさか、お前の同士の超能力者や機関の中にどっかの王族や石油王がいるわけじゃないんだろ。」<br /><br />  明らかにレールを敷かれたやりとりだ。<br /><br /> 「貴方もご存知のように、鶴屋家のような資産家から投資を受けていますよ。」<br /><br />  そうか、と言わんばかりの相槌を目でしてくる。<br /><br /> 「そうだったな。だが鶴屋さんの家はほんの一部なんだろ。他にも似たようなところから援助をしてもらっているわけだな。億単位の金を動かせるくらいだ、かなり大規模な援助活動なされてるんだろうな。」<br /><br /> 「そしてその資金を元に、あちこちに根回しができるってわけか。いや違うな。金だけじゃ限界もあるし、時間もかかるはずだ。資金力で影響力を行使できだけではなくて、公的な力を持った人達からも資金ではない形で多くの協力を得ているんだな。」<br /><br />  彼のボードゲームの強さを見れば、こういうやりとりは彼の本領と言えるのだろうか。<br /><br /> 「僕は末端の人間なので、あまり詳しくは分かりませんよ。」<br /><br />  釘を刺すも、<br /><br /> 「お前の性格で4年余りも全く何も知らない身を良しとしてきてるはずはないだろ。しかも、俺が思うにお前は機関の中でもかなり重要な存在だ。何せ超能力者で、しかもハルヒの身辺に近づいている上にハルヒの信頼も厚いわけだからな。他の能力者の中でもオンリーワンだろ。何も知らないなんてことはあり得ない。」<br /><br />  釘を刺し返される。初めの戸惑いがちに話始めた彼の雰囲気はもう無い。完全に追求の構えだ。<br /><br /> 「続けるぞ。ここからが本題なんだが。」<br /><br />  もう予想は付いている。<br /><br /> 「機関の本当の目的はなんだ?」<br /><br />  予想が付いていただけに次の応えるべきことも用意している。できるだけ自然に、迷うこと無く応える。<br /><br /> 「以前にお話しましたように、世界の安寧と平和のため、我々は努力しているのですよ。」<br /><br /> 「違うな。」<br /><br />  彼も予想済みと言わんばかりの即座の強い口調での否定。ここまでくれば、彼に否定されることも予想済みだ。<br /><br /> 「お前も小さい頃は世界を救うとか悲劇のヒーローとか英雄とか、そういったものに憧れを持っていたことがあるはずだ。・・・まあ、お前はある意味実現しているが。」<br /><br />  これは予想外だった。何を言い出すんだ彼は・・・<br /><br /> 「普通の人間はそれを実現することはないし、歳を取ればその憧れは消え、現実に沿った夢へと変わる。地位とか名誉とか金と言ったものだ。俺は人より賢くないから、そんなことは他人から見た知人の夢という程度にしか思えないが、そう志向する人間が大勢居ることは理解できる。俺だって頭が良かったら野心の一つも持ったかもしれない。」<br /><br />  こういう切り口で来るわけか・・・<br /><br /> 「そういうことでしたら心外ですね。貴方は既に世界の命運を握る鍵としての生を送っているではありませんか。」<br /><br />  彼はお得意の仕草を取ってみせた。<br /><br /> 「でだ、潤沢な資産を所有して俺の色眼鏡ではお歯黒をしてそうな連中や、雲の上に鎮座まします権力を持った先生方がスポンサーとして集まって、やっていることが世界平和への慈善事業に対しての無償協力なんてことはないだろう?」<br /><br />  ・・・本当に嫌な切り口だ。誤魔化し切ることができるだろうか。<br /><br /><br /><br /><p><a href="http://www24.atwiki.jp/yasasii/pages/307.html">  一つの野心、一つの決意 2 へ  </a></p>
<br /><br />  かつて、彼が長門有希の世界改変に巻き込まれ、遭遇してしまった異世界が存在した。そこでは、長門有希の願望が具現化され、長門有希と朝比奈みくると彼は北高に、そして僕は彼女と共に別の高校に在籍し、彼女の傍らでいつも通りにやけ面をしていたと彼は言っていた。<br /><br />  以前はこう思ったことがあった。<br />  ―それは長門有希だけではなく、僕の隠れた願いをも取り込んで創造されたものだったのかもしれない— と。<br /><br />  とは言っても、当然それを僕の力によって成したものだということはあり得ない。それは、今考えつくこととしては、僕自身がただの制限付きの超能力者に過ぎないという理由だけには留まらない。<br />  僕が守りたい世界は、彼女が僕の傍らで絶えず不機嫌そうな仏頂面をしているだけの世界ではないからだ。そんな世界を僕は望まないという自負が、今は確かにある。<br /><br /><br /> ・・・・・・<br /> ・・・<br /> ・<br /><br /><br />  SOS団に入団して二年以上が過ぎているが、SOS団は何も変わらない。彼女が居て、彼女の傍らにはいつも彼が居て、僕と朝比奈みくると長門有希がそれを囲み、何のことはない放課後を過ごし、週末にはグループ分けして不思議探索に繰り出す。<br />  僕は相変わらず超能力者としての任務を背負ってはいるが、世界は平穏無事に在り続けている。この何の変哲もない日々・・・誤解を恐れず言ってみれば、つまらないとでも表現できてしまう平和な日々を、喜びを持って噛み締めている。いつまでもこんな日常が続いてくれればいいと、そう切に考えている。<br /><br />  今日の午前の部は僕と彼のペアと、女性3人のグループに別れた。この組合せになったとき、彼は必ず『何が楽しくて休日に野郎と2人で・・・』なんてぶつくさ言いながら歩き始める。しかし、彼のその不機嫌は初めの間だけで、歩き始めれば何のことはない。<br /><br /> 「なあ古泉、今度の夏もハルヒの我侭に付き合ってどこかに連れ出すつもりなのか?」<br /><br />  二人で黙って無言で過ごすこともあるが、大抵は他愛もない会話をしながら歩くことになる。どちらも僕にとっては楽しい時間で、充実した時間を送ることができたと感じることができる。<br /><br /> 「ハルヒのやつ、海外に行きたいなんて言っていたが、無理に合わせなくていいぞ。あいつの傍若無人な我侭にお前が奔走させられる理由は無いしな。」<br /><br /> 「僕が無理をして皆さんが喜んでくれるならお安いものですよ。」<br /><br />  僕は即答する。これは偽りの無い本心だから考えるまでもなく出てくる応えだ。<br /><br /> 「お前のその自己犠牲精神にはいつも呆れるよ。」<br /><br />  彼はお得意のやれやれと言った仕草と、その仕草に合わない笑みを含んだ表情で返してくれた。せめて呆れるではなく、感心すると言ってもらいたいものだが・・・<br /><br /> 「貴方自身はどこか行きたいところはありますか?参考のために伺っておきましょう。」<br /><br /> 「俺の行きたいとこなんて関係ないだろ。」<br /><br />  また唐変木なことを言う。最初は彼のこういった鈍さには驚きもしたが、今では逆にそれが微笑ましく感じてしまうのだから不思議なものだ。<br /><br /> 「貴方が楽しむことができなければ、涼宮さんも心から楽しんではくれないんですよ。」<br /><br /> 「ん・・・」<br /><br /> 彼は首を少し傾け、眉を寄せながら考え込む。<br /><br /> 「そうだな・・・正直どこでもいいかもな。近くの温泉やテーマパークとかでも俺は満足だぜ。ハルヒのことは心配しなくても、みんなで旅行ってだけで満足してくれるだろ。」<br /><br />  僕に無理をさせまいと気を使ってくれているのだろうか。<br /><br /> 「『~でも満足だ』と言うような消極的なことではなく、僕らの夏合宿という枠を外してもっと正直に自分の希望を仰ってみてくれませんか?」<br /><br />  以前は『本当はこんな喋り方もするんだよ』『こんな考えもするんだよ』と声を大にして言いたくなる衝動に駆られたものだったが、今となってはそれももうない。SOS団副団長としての古泉一樹と僕自身は、いつの間にか一致するに近い様相を持っていた。それだけに、自分にとってのSOS団という小宇宙が掛替えのないものであることを自覚している。<br /><br /> 「そうだな、行ってみたいところというのを真面目に考えるとだな、世界中の古代遺跡を見てみたいという気持ちがあるな。ハルヒの不思議探しには持って来いだし、朝比奈さんの不用意なうっかり発言がまた聴けるかもしれない。長門にとっては全く違う文化・文明に触れてみるってのは一般の人間以上に重要なことだと思うしな。」<br /><br />  自分の行ってみたいところを真面目に考えて、結局他の人の意志を忖度した結論を出してしまう辺り、彼らしいと言うか何と言うか…<br /><br /> 「そうですか。それではやはり海外に行ってみましょうか?費用なら機関が負担できますし、現地での安全を手配することもできるでしょう。その点は保証します。」<br /><br />  彼は再び考え込んだ。彼が僕の好意や提案に甘えてくれたり乗ってくれることは僕にとっては不愉快ではない。むしろ快く感じる。<br />  こんな捉えようによっては損とも言える気質が身についたのは一体いつ頃からだっただろうか。もっとも、僕自身が快く感じているのだから損とは言えないのだが。<br /><br />  こんなことを考えていたため、この後、彼が発した言葉は意外性を極めた。<br /><br /> 「なあ・・・」<br /><br />  彼は何かを言いかける。しかし躊躇っているのか沈黙が流れる。<br /><br /> 「はい。どうしました?」<br /><br />  彼はなかなか応えない。一体なんだというのだろうか。<br /><br /> 「前から気になっていたんだがな・・・<br /><br />  僕は「はい」と相槌を入れながら次を促すがなかなか次が続かない。旅行先でのことでここまで言い難いこととは何だろうか。宇宙旅行でも希望しているのだろうか。<br /><br /> 「・・・機関って一体何なんだ。」<br /><br />  焦らした挙句、彼が絞り出したことはこれだった。余りにも意外で、しかも漠然とし過ぎていて彼が何を意図しているのかがわからない。今は旅行先の話だったはずだ。<br />  <br /> 「お前等の機関はハルヒのご機嫌取りの為に島を丸ごと用意できる。そこにほぼ新築のお屋敷も用意できる。海外旅行の為の費用を全員分捻出して、現地で身に危険が及ばないよう色々手配もできる。必要となる費用は直接的なものだけじゃない。根回しにはかなりの時間と労力と費用を必要とするはずだ。」<br /><br />  僕の戸惑いを他所に、彼は先ほどの状態から堰を切ったように話始めた。僕は、彼が何を訊きたいのか探るべく耳を傾ける。<br /><br /> 「余計な人が入らないように交通規制をかける。口止めをする為に口止め料を払う。安全を確保するために警備体制も確保する。現地の有力者に根回しをする。他にも色々やることはあるだろう。一体どれくらいの費用を使うのか、俺には検討も付かない。」<br /><br /> 「そういえば、生徒会長を擁立してその地位に就けるには国会議員の選挙活動に必要なくらいの費用、つまるところ数千万から億単位の金を使ったんだったか。」<br /><br />  彼の質問が具体性を帯びてくる。<br /><br /> 「我らが公立の北高にはお前以外にも機関の人間が多数いるなら、教師にも間違いなくいるだろう。機関が結成された時から何年もかけて根回しをしてきたわけではないだろ?ということは公的なところにもかなりの影響力を持っているってことだよな。生徒会選挙のときも、学校や生徒会を傀儡にすることを黙認してもらうために、県議や市議、教育委員会等に秘密裏に働きかけていたからこそ、数千万からの費用が使われたんだろ?」<br /><br />  これは・・・できれば訊かれたくない、知られたくないことだ。今まで触れてくることはなかったのに、何故今頃になって・・・<br /><br /> 「どうなんだ?公権力にも影響力を持っているんだろ?警察を含めた行政機関、政治家を含めてだ。」<br /><br />  途切れた。どうやら僕に回答を求めているようだ。<br /><br /> 「・・・ええ。そうでなければあれくらいの活動はできませんからね。」<br /><br />  今更否定できることではない。<br /><br /> 「なら、億単位の金を簡単に動かせる資金源は一体どこにあるんだ?まさか、お前の同士の超能力者や機関の中にどっかの王族や石油王がいるわけじゃないんだろ。」<br /><br />  明らかにレールを敷かれたやりとりだ。<br /><br /> 「貴方もご存知のように、鶴屋家のような資産家から投資を受けていますよ。」<br /><br />  そうか、と言わんばかりの相槌を目でしてくる。<br /><br /> 「そうだったな。だが鶴屋さんの家はほんの一部なんだろ。他にも似たようなところから援助をしてもらっているわけだな。億単位の金を動かせるくらいだ、かなり大規模な援助活動なされてるんだろうな。」<br /><br /> 「そしてその資金を元に、あちこちに根回しができるってわけか。いや違うな。金だけじゃ限界もあるし、時間もかかるはずだ。資金力で影響力を行使できだけではなくて、公的な力を持った人達からも資金ではない形で多くの協力を得ているんだな。」<br /><br />  彼のボードゲームの強さを見れば、こういうやりとりは彼の本領と言えるのだろうか。<br /><br /> 「僕は末端の人間なので、あまり詳しくは分かりませんよ。」<br /><br />  釘を刺すも、<br /><br /> 「お前の性格で4年余りも全く何も知らない身を良しとしてきてるはずはないだろ。しかも、俺が思うにお前は機関の中でもかなり重要な存在だ。何せ超能力者で、しかもハルヒの身辺に近づいている上にハルヒの信頼も厚いわけだからな。他の能力者の中でもオンリーワンだろ。何も知らないなんてことはあり得ない。」<br /><br />  釘を刺し返される。初めの戸惑いがちに話始めた彼の雰囲気はもう無い。完全に追求の構えだ。<br /><br /> 「続けるぞ。ここからが本題なんだが。」<br /><br />  もう予想は付いている。<br /><br /> 「機関の本当の目的はなんだ?」<br /><br />  予想が付いていただけに次の応えるべきことも用意している。できるだけ自然に、迷うこと無く応える。<br /><br /> 「以前にお話しましたように、世界の安寧と平和のため、我々は努力しているのですよ。」<br /><br /> 「違うな。」<br /><br />  彼も予想済みと言わんばかりの即座の強い口調での否定。ここまでくれば、彼に否定されることも予想済みだ。<br /><br /> 「お前も小さい頃は世界を救うとか悲劇のヒーローとか英雄とか、そういったものに憧れを持っていたことがあるはずだ。・・・まあ、お前はある意味実現しているが。」<br /><br />  これは予想外だった。何を言い出すんだ彼は・・・<br /><br /> 「普通の人間はそれを実現することはないし、歳を取ればその憧れは消え、現実に沿った夢へと変わる。地位とか名誉とか金と言ったものだ。俺は人より賢くないから、そんなことは他人から見た知人の夢という程度にしか思えないが、そう志向する人間が大勢居ることは理解できる。俺だって頭が良かったら野心の一つも持ったかもしれない。」<br /><br />  こういう切り口で来るわけか・・・<br /><br /> 「そういうことでしたら心外ですね。貴方は既に世界の命運を握る鍵としての生を送っているではありませんか。」<br /><br />  彼はお得意の仕草を取ってみせた。<br /><br /> 「でだ、潤沢な資産を所有して俺の色眼鏡ではお歯黒をしてそうな連中や、雲の上に鎮座まします権力を持った先生方がスポンサーとして集まって、やっていることが世界平和への慈善事業に対しての無償協力なんてことはないだろう?」<br /><br />  ・・・本当に嫌な切り口だ。誤魔化し切ることができるだろうか。<br /><br /><br /><p><a href="http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/5954.html">  一つの野心、一つの決意 2 へ  </a></p>

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