SENOZ LIVE part "O"現在との差分 - 涼宮ハルヒのSS in VIP@Wiki

メニュー

管理人の業務連絡

更新履歴

取得中です。

「SENOZ LIVE part "O"」の編集履歴（バックアップ）一覧はこちら

SENOZ LIVE part "O" - (2009/05/16 (土) 02:05:17) の最新版との変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

新しい学年になってからもう一ヶ月以上が過ぎ、因縁関係であった（はずの）ＳＯＳ団と上ヶ原パイレーツとの戦いは先々週にカタがつき見事我らが勝利を修めたことによってうちの団長さんは超ご機嫌、こんな様子ならまたすぐ変な思いつきをして俺たちを困らせそうだなと予感を感じつつも、まあそれはそれでたまに俺たちも楽しめる当たりクジがあり、次回は是非当たりクジであって欲しいと望んでいる今日この頃、案の定ハルヒはまた新しい提案をしてきた。 　今回はそう、第三回目のSENOZライブ、と。 　 　ことの始まりはある日の放課後。もはやここだけ異空間と化したＳＯＳ団本部・文芸部室にある訪問客が来た時の話からしよう。 　団員四人が集結し、それを確認したハルヒは団長机に両手をついて立ち上がり、こう言い放った。 「みんな訊いてちょうだい！　またSENOZでライブするわよ！」 「また誰かの誕生日なのか？」 　２回もライブ光景を見ればもう慣れたもんだ。いまさら驚きなどはしないさ。 「そうなの、一週間後に岡島さんの誕生日ライブがあるんだけどね。ENOZのみんなと相談したんだけど、今回はみんなにも楽器演奏として参加もらおうと思って」 　おおそうか、一週間後にみんなで演奏……って、今なんて？ 「みんなで楽器を練習してライブで一緒に演奏するって言ったのよ。それくらいできるでしょ？」 「え、演奏ですかぁ？　わたしそれはちょっと……」 「あと一週間で、ですか……」 「なに？　なんか文句あるの？」 　有るに決まってる。国会議員たちがトチ狂って日本首相にアメリカ人を抜擢しちまうことくらい文句を言いたいね。そんな芸当ができるのはお前と長門くらいのもんだ。 「だから一週間の練習期間をあげるって言ってるじゃないの！　あ、来たみたいね。どーぞっ！」 　ノックの音を聞いたハルヒが扉を見ると、同時にそれが開かれ四人の見慣れた顔が出てきた。 「こんにちは、みなさん。もう涼宮さんから話を聞いているかしら？」 　ENOZの四人である。数々のライブで結構人気者になっていることを小耳に挟んだことがある、将来が有望な先輩だ。 　四人はハルヒの導きによって空いたスペースにパイプ椅子をだして座り、朝比奈さんがお茶の準備にとりかかったところで、 「今その話をしていたところよ。全員賛成の満場一致欠席無しで超可決よ」 　こら、誰が賛成なんてしたんだよ。それを言うなら超否決だ。 「ごめんなさいね、わたしたちも無理があるんじゃないかって思ったんだけど……」 　榎本さんが俺とハルヒを交互に見た。きっと俺にくれたのは同情と謝罪の目であろう。本当に申し訳なく思っているような目である。 「ちっちっち」 　ハルヒは人差し指を左右に振りながら、 「うちの団員をなめてもらっちゃ困るわね。このＳＯＳ団にはね、このあたし以外にも、企画物ならおまかせの頼れる副団長古泉くんに、超絶激ロリのどんなアイドルよりも可愛いメイドみくるちゃんに、スーパーコンピュータよりも万能選手な無口キャラ有希に……いざとなればそこそこ頑張れるキョンがいるのよ？」 　俺の肩書きだけやけに安っぽかったな。まあ、他の奴らの含めて否定はしないけどさ。だがな。 「だからと言って、楽曲を一週間で素人の俺たちに演奏しろって言われても、そりゃ無理があるぜ」 「あんた団員その一でしょ！　頑張りなさいよ。ライブでステージに立つって、気持ちいいのよ？」 　そりゃ……俺だってそういう場に憧れないわけでもない。けど今回の論点はそこじゃなくて、期限が一週間ってことにあるわけでだな…… 「やればなんだってできるわよ」 　俺はそういう考えが浅はかなんだって言ってるんだ。 「……もう！」 「あの、涼宮さん、そこはひとまず置いといて、曲についての話をしてもいいかしら？」 　俺とハルヒの馬鹿みたいな口喧嘩を見かねたのか、榎本さんが遮るように口をはさんできた。古泉がふうっと安堵したように息をはいたのが見えた。 　ハルヒは差し出された朝比奈印の甘露茶を一気に飲み干した後に、 「あ、曲できたの？」 　おいおい、ハルヒでさえまだ曲のことを知らされてなかったのか？　ENOZは何千メートル上空で命綱なしで綱渡りするド級の物好き並にギリギリを好むバンドなのか？ 「今回はね、あなたたちＳＯＳ団をテーマに作ってみたんだけど……良い曲ができたと思うわ。楽譜と歌詞はできてるの。あとは合わせるだけ」 「それじゃあさっそく練習しましょ！」 「……本当にいいの？」 「あたしのコーチングでみんなプロ級の腕前にしてあげるわ！」 　そう言い放ったハルヒの超新星爆発以上に眩しい笑顔にどんな反論も覆されてしまうだろうことを悟った俺は、肩をすくめて呆れの常套句を言うしかなかった。 「……やれやれ」 　 　 　そんなこんなで俺ら――ENOZの四人は用事があるだかで帰ってしまった――は音楽室にいる。それまでサックスを練習していた吹奏楽部員たちに立ち去るよう吹奏楽部顧問に願い出たハルヒの権力はもはや絶対王政時代のブルボン朝のそれをも超越している。まさか本当に音楽室を空けてくれるとは。サックスを持った女子部員たちのバツの悪そうな顔はあと一週間くらいたっても忘れられそうにない。すまんね、これがうちの団長なんだ。悪魔の手紙の宛先はこいつの元だけにしてくれよ。 　とりあえず俺らはそれぞれで楽器の練習体制に入った。朝比奈さんはハルヒの指導を受けてエレキギターなんかでキテレツな音を奏でている。長門はもともと完璧なので独学、古泉も興味深そうにギターを弾いている。けっこうサマになってるのがシャクだ。 　俺は岡島さんから借りたベースを肩にかけ、しぶしぶ弦をはじいてみた。ベース特有の文字に表し難い音が鳴る。いい音だ。 「あなたはベースを弾いた経験はあるんですか？」 　いつの間にか傍まで来ていた古泉は手馴れたように見える手つきで和音を響かせながら聞いてきた。 「ねえよ。お前は？　変に慣れてるように見えるが」 「僕もありませんよ。もしそう見えているのならば、僕のギタリストなりきりテクニックのたまものですね」 　俺はふんと鼻を鳴らして、 「しかし今回はどうすんだ？　いくらなんでも一週間でなんて無理だ。俺らの潜在能力に天才ギタリストの才能が秘められていない限りな」 「そうですね。はっきり言って無理でしょう。完璧に演奏をこなすのは、ですがね」 「下手でもいいっていうのか？」 「何も涼宮さんもそこまで鬼じゃありませんよ。目的は完璧な演奏をすることではなく、みんなで一緒に演奏を楽しむことなのです」 　まあ、俺もそんなことだろうとは思っていたが。 「それに、一週間の猶予を与えてくれただけでも大きな進歩と言っていいでしょう。今の状況と、言われて一時間後にライブ開始なんて状況があるとして、さあ、どちらがマシでしょうね？」 　なんだそれは。クイズのつもりなのか？ 　古泉は優しく微笑みながらニヤリと笑うという器用なことをやってのけた。 「そういうことです。さて、僕は少しでもマシな演奏ができるように長門さんの特別レッスンを受けてきますよ。あなたもご一緒にどうです？」 「遠慮しとくさ」 　俺も少しは空気の読める男でいるつもりだからな。 　 　 　練習を開始してから三十分後、遠くのほうでハルヒのかん高い声が聞こえてきた。 「違うわよ、その音はここをおさえてここを弾くの！」 「ええと、こことここを……こ、こう？」 「その一本下の弦！　みくるちゃん、あなたはやればデキる子なのよ！　女優としては完璧だったじゃないの！」 　それはどうかと思う。 「ふぇえ、ギターなんて無理ですぅ」 「次の音は、ここを！　こう！」 「おい、いい加減にしろ」 　朝比奈さんへの過度な調教をするハルヒの頭をぐしぐしと弄る。ビクついたハルヒはこっちを向いて、 「ちょっ……あ、あんた自分の練習はどうなったのよ！」 　……どうしてそんなに耳が赤いんだ？ 「うるさい！　余計なお世話だわっ！！」 「ぐわっ！」 　その瞬間ハルヒのまわし蹴りが俺の腹部に直撃した。激痛の感覚とともに何か縞々のものが目に映った気がするが言ったらマジで殺されそうなので心に秘めておく。 「キョ、キョンくん！」 「少しは手加減しやがれ、この野郎！」 　朝比奈さんから差し伸べられた、神の手よりも神聖で清楚な手を取って俺は立ち上がる。 「ふんっ！　さあみくるちゃん、よく頑張ってくれたわ。妥協は許さないつもりだったんだけど、あなたにはタンバリンを持ってステージの華を飾る役を与えるわ。うん、そっちの方がいいかも」 「よ、良かったぁ……」 「さて、それじゃあたしは……」 　ハルヒが俺を見てニンマリと笑う。と同時に、寒気がしたのは俺が薄着であるからではなさそうだ。 「あたし特製の地獄の特訓プログラムをあんたに教えてあげるわ……感謝しなさい！」 「キョンくん……」 　ああ、そんな哀れむような目で俺を見ないでください朝比奈さん。大丈夫です、あなたの不幸は全て俺が引き受けましょう。 「さあ、始めるわよ？」 　俺のメンタルポイントが尽き果てるまでは。 　 　 　その名の通り――一音でも間違えたらすぐに罵倒とつばが飛んでくる鬼教官が講師の下の――地獄の特訓であった数時間が終わり、やっと俺たちは帰路につくことができた。正直、長門の助けを借りようかと思ったほどだ。しかしこんなところで長門に負担をかけたくもなく、それ以上にあのカップルの中に立ち入って「ここ教えてくれ」とそれこそ空気の読めない発言をしたくないのは前途の通りだ。 　まあそのおかげで俺もそれなりに上達したと思う。もちろんまだまだド素人の域だが、この調子だと人に聴かせるにはそれなりに誤魔化せるレベルになれるのではないかと思える。それというのは、ハルヒの教え方が上手いのか俺にもともと音楽の才能があったのかと訊かれれば完璧に前者であり、俺に才能など塵ほどもないこともここにひとつ明言しておこう。 　そんな、朝比奈さんがタンバリンをぽんぽんと叩いている毎日が一週間の間続いた。 　 　そして、ライブ当日。つまり岡島さんの誕生日。 　俺たちはすでにライブ会場の控え室に集まり、結構な人数の客がぞくぞくとライブハウスに足を運んでくる光景を見ながら、心拍数をかつての高度な経済成長期の日本の発展と同じようにしてあげていった。 　特に朝比奈さんのおぼつかなさ具合と長門の落ち着き具合の差はまさに、か弱き女子生徒と万能宇宙人との差を表しているかのようで……という意味不明なことを口走っているのは俺が極度に緊張しているせいだろう。 「というか、いくらなんでも客足が多すぎないか？」 「そうよね、いつもより多い感じがする……」 　岡島さんが冷静に答えた。そういえばENOZの４人は緊張が少しはあれどあまりしてないように見えるな。やはり俺とはキャリアとこなしてきたライブ数が違うな。くぐり抜けてきた修羅場と死線の数は俺のほうが多いだろうけど。 「あんた、緊張してるの？」 「……ま、まあな。そうだ、こういう時はあれだ、素数を数えて落ち着くんだ」 「へえ？」 「１、２、３、５、７…………」 「１は素数じゃないわよ、ばか」 「いてっ」 　ハルヒに背中を小突かれる。ガチガチなこの体にはいい刺激だ。 「そうね……あ、そだっ、もしあんたが練習通りにできたらご褒美をあげるわ。だから頑張りなさい！」 「ご褒美？」 　ゴミ箱へ直行するような物はいらないぞ？ 「安心しなさい。……その、イイコトよ」 　イイコトってのはなんなんだと俺が訊く前にハルヒは自分のギターを持ち出して、 「さあみんな！　本番いくわよっ！」 　自らSENOZの統率役を買って出て、ステージのほうへ歩き出した。皆もそれにならい、それぞれの楽器を持って歩き出す。 　さて、俺も頑張らなきゃいけないな。何よりも、ハルヒのご褒美を貰うためにさ。 　 　 　まったく、音楽活動なんてことをするなんて夢にも思ってなかったぜ。一週間前まではどうせグダグダなデキになる思っていたが……どうやら、それは俺の大きな勘違いだったようだ。 　歌ってやれ、ハルヒ。聴いてくれ、お客さん。俺らの音楽を―― 「『ＳＯＳならだいじょーぶ』！」 　 　 廊下を横切る影が　あわてて駆け寄る午後も あまりに普通で退屈だし 　 扉を開いた後　座るのはいつものトコ 頬杖ついたら思いついた名案！ 　 あたしはずっとあたしだけど　いつのまにか みんなのパワー期待してたのかな Let's go my land! 　 SOSならだいじょうーぶ　ドキワク・ハラハラ・サイン SOSって騒いだら　夢が近くなるわ 　 　 誰でも楽しさもって　そのままで待ってるのね やらなきゃ　行かなきゃ　なんでも本気なのよ 　 瞳の中のあたしが笑顔　いいね、みんな 歌いたいな歌いたくなったよ Happy for you! 　 I,MY,MEから始まって　ワキアイ・ニコニコ・ムード I,MY,MEでも我が儘も　明日を呼ぶ準備よ 　 　 SOSならだいじょうーぶ　ドキワク・ハラハラ・サイン SOSって騒いだら夢が近くなるわ 　 SOSほらSOS!　だいじょうーぶだからね 面白いことは大歓迎　夢が近くなるわ 　 　 　 　 　全曲を歌い終え、第三回目のSENOZライブは無事成功を修めた。大きな歓声に包まれながら俺たちはステージを後にする。 　ところどころ至らない箇所もあったかもしれんが、きっとハルヒは合格点をくれるはずさ。朝比奈さんもタンバリンで頑張ってたし。 「結構練習通りにできたぜ、ハルヒ」 　気持ち良く汗をかいたハルヒに、控え室で声をかける。 「うん、あんたにしては上出来だったわ」 「それで？　ご褒美ってのは、なんなんだ？」 「……そ、そーだったわね。ちょっと来なさい！」 　立ち上がったハルヒに腕を取られ、俺とハルヒは誰も居ない廊下へと出て行く。 「な、なんだよ」 「えっと、目、閉じてよ」 「なんでだよ」 「だ、だからご褒美よ！」 　しかたなく俺は目を閉じる。薄目を開けておこうかなと思った。だってほらさ、二人っきりで目を閉じるなんてシチューエンションですることって言ったらひとつしかないだろう？　俺にだってそれくらい解かるぞ。 　十数秒後、何も起こらないのでおかしいなと思いつつそろそろ目を開けようかと思ったその時、 「ぐおえっ！！」 　ハルヒのゲンコツが再び俺の腹部を刺激した。正直、まわし蹴りより痛かった。 「なにすんだよ！」 　見るとハルヒの顔は先日の時のように赤い。 「変な想像したでしょっ！　この変態バカキョン！」 「変態だと……！？」 「そ、そーよっ！　今のがご褒美だからねっ！」 　ぷいっとこちらに背中を向け、肩まで届く黒髪を揺らせながらハルヒは駆け足で戻っていく。 「ったく、これのどこがご褒美なんだか……」 　腹をさすりながら俺は不気味にも笑みをこぼしていた。それは、大きな達成感とともにハルヒからの愛情の証をこの腹に受けたせいかもな。 　なんとも迷惑な愛情表現だったけどさ。 　 　 　SENOZ LIVE part "O"　end 　 　 　 　 ……これは、広江美奈さんの誕生日に掲載させていただいたＳＳです。 他の誕生日作品は<a title="Birthday in the world of Haruhi (20m)" href="http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3613.html">こちら</a>でどうぞ。

新しい学年になってからもう一ヶ月以上が過ぎ、因縁関係であった（はずの）ＳＯＳ団と上ヶ原パイレーツとの戦いは先々週にカタがつき見事我らが勝利を修めたことによってうちの団長さんは超ご機嫌、こんな様子ならまたすぐ変な思いつきをして俺たちを困らせそうだなと予感を感じつつも、まあそれはそれでたまに俺たちも楽しめる当たりクジがあり、次回は是非当たりクジであって欲しいと望んでいる今日この頃、案の定ハルヒはまた新しい提案をしてきた。 　今回はそう、第三回目のSENOZライブ、と。 　 　ことの始まりはある日の放課後。もはやここだけ異空間と化したＳＯＳ団本部・文芸部室にある訪問客が来た時の話からしよう。 　団員四人が集結し、それを確認したハルヒは団長机に両手をついて立ち上がり、こう言い放った。 「みんな訊いてちょうだい！　またSENOZでライブするわよ！」 「また誰かの誕生日なのか？」 　２回もライブ光景を見ればもう慣れたもんだ。いまさら驚きなどはしないさ。 「そうなの、一週間後に岡島さんの誕生日ライブがあるんだけどね。ENOZのみんなと相談したんだけど、今回はみんなにも楽器演奏として参加もらおうと思って」 　おおそうか、一週間後にみんなで演奏……って、今なんて？ 「みんなで楽器を練習してライブで一緒に演奏するって言ったのよ。それくらいできるでしょ？」 「え、演奏ですかぁ？　わたしそれはちょっと……」 「あと一週間で、ですか……」 「なに？　なんか文句あるの？」 　有るに決まってる。国会議員たちがトチ狂って日本首相にアメリカ人を抜擢しちまうことくらい文句を言いたいね。そんな芸当ができるのはお前と長門くらいのもんだ。 「だから一週間の練習期間をあげるって言ってるじゃないの！　あ、来たみたいね。どーぞっ！」 　ノックの音を聞いたハルヒが扉を見ると、同時にそれが開かれ四人の見慣れた顔が出てきた。 「こんにちは、みなさん。もう涼宮さんから話を聞いているかしら？」 　ENOZの四人である。数々のライブで結構人気者になっていることを小耳に挟んだことがある、将来が有望な先輩だ。 　四人はハルヒの導きによって空いたスペースにパイプ椅子をだして座り、朝比奈さんがお茶の準備にとりかかったところで、 「今その話をしていたところよ。全員賛成の満場一致欠席無しで超可決よ」 　こら、誰が賛成なんてしたんだよ。それを言うなら超否決だ。 「ごめんなさいね、わたしたちも無理があるんじゃないかって思ったんだけど……」 　榎本さんが俺とハルヒを交互に見た。きっと俺にくれたのは同情と謝罪の目であろう。本当に申し訳なく思っているような目である。 「ちっちっち」 　ハルヒは人差し指を左右に振りながら、 「うちの団員をなめてもらっちゃ困るわね。このＳＯＳ団にはね、このあたし以外にも、企画物ならおまかせの頼れる副団長古泉くんに、超絶激ロリのどんなアイドルよりも可愛いメイドみくるちゃんに、スーパーコンピュータよりも万能選手な無口キャラ有希に……いざとなればそこそこ頑張れるキョンがいるのよ？」 　俺の肩書きだけやけに安っぽかったな。まあ、他の奴らの含めて否定はしないけどさ。だがな。 「だからと言って、楽曲を一週間で素人の俺たちに演奏しろって言われても、そりゃ無理があるぜ」 「あんた団員その一でしょ！　頑張りなさいよ。ライブでステージに立つって、気持ちいいのよ？」 　そりゃ……俺だってそういう場に憧れないわけでもない。けど今回の論点はそこじゃなくて、期限が一週間ってことにあるわけでだな…… 「やればなんだってできるわよ」 　俺はそういう考えが浅はかなんだって言ってるんだ。 「……もう！」 「あの、涼宮さん、そこはひとまず置いといて、曲についての話をしてもいいかしら？」 　俺とハルヒの馬鹿みたいな口喧嘩を見かねたのか、榎本さんが遮るように口をはさんできた。古泉がふうっと安堵したように息をはいたのが見えた。 　ハルヒは差し出された朝比奈印の甘露茶を一気に飲み干した後に、 「あ、曲できたの？」 　おいおい、ハルヒでさえまだ曲のことを知らされてなかったのか？　ENOZは何千メートル上空で命綱なしで綱渡りするド級の物好き並にギリギリを好むバンドなのか？ 「今回はね、あなたたちＳＯＳ団をテーマに作ってみたんだけど……良い曲ができたと思うわ。楽譜はできてるの。あとは合わせるだけ」 「それじゃあさっそく練習しましょ！」 「……本当にいいの？」 「あたしのコーチングでみんなプロ級の腕前にしてあげるわ！」 　そう言い放ったハルヒの超新星爆発以上に眩しい笑顔にどんな反論も覆されてしまうだろうことを悟った俺は、肩をすくめて呆れの常套句を言うしかなかった。 「……やれやれ」 　 　 　そんなこんなで俺ら――ENOZの四人は用事があるだかで帰ってしまった――は音楽室にいる。それまでサックスを練習していた吹奏楽部員たちに立ち去るよう吹奏楽部顧問に願い出たハルヒの権力はもはや絶対王政時代のブルボン朝のそれをも超越している。まさか本当に音楽室を空けてくれるとは。サックスを持った女子部員たちのバツの悪そうな顔はあと一週間くらいたっても忘れられそうにない。すまんね、これがうちの団長なんだ。悪魔の手紙の宛先はこいつの元だけにしてくれよ。 　とりあえず俺らはそれぞれで楽器の練習体制に入った。朝比奈さんはハルヒの指導を受けてエレキギターなんかでキテレツな音を奏でている。長門はもともと完璧なので独学、古泉も興味深そうにギターを弾いている。けっこうサマになってるのがシャクだ。 　俺は岡島さんから借りたベースを肩にかけ、しぶしぶ弦をはじいてみた。ベース特有の文字に表し難い音が鳴る。いい音だ。 「あなたはベースを弾いた経験はあるんですか？」 　いつの間にか傍まで来ていた古泉は手馴れたように見える手つきで和音を響かせながら聞いてきた。 「ねえよ。お前は？　変に慣れてるように見えるが」 「僕もありませんよ。もしそう見えているのならば、僕のギタリストなりきりテクニックのたまものですね」 　俺はふんと鼻を鳴らして、 「しかし今回はどうすんだ？　いくらなんでも一週間でなんて無理だ。俺らの潜在能力に天才ギタリストの才能が秘められていない限りな」 「そうですね。はっきり言って無理でしょう。完璧に演奏をこなすのは、ですがね」 「下手でもいいっていうのか？」 「何も涼宮さんもそこまで鬼じゃありませんよ。目的は完璧な演奏をすることではなく、みんなで一緒に演奏を楽しむことなのです」 　まあ、俺もそんなことだろうとは思っていたが。 「それに、一週間の猶予を与えてくれただけでも大きな進歩と言っていいでしょう。今の状況と、言われて一時間後にライブ開始なんて状況があるとして、さあ、どちらがマシでしょうね？」 　なんだそれは。クイズのつもりなのか？ 　古泉は優しく微笑みながらニヤリと笑うという器用なことをやってのけた。 「そういうことです。さて、僕は少しでもマシな演奏ができるように長門さんの特別レッスンを受けてきますよ。あなたもご一緒にどうです？」 「遠慮しとくさ」 　俺も少しは空気の読める男でいるつもりだからな。 　 　 　練習を開始してから三十分後、遠くのほうでハルヒのかん高い声が聞こえてきた。 「違うわよ、その音はここをおさえてここを弾くの！」 「ええと、こことここを……こ、こう？」 「その一本下の弦！　みくるちゃん、あなたはやればデキる子なのよ！　女優としては完璧だったじゃないの！」 　それはどうかと思う。 「ふぇえ、ギターなんて無理ですぅ」 「次の音は、ここを！　こう！」 「おい、いい加減にしろ」 　朝比奈さんへの過度な調教をするハルヒの頭をぐしぐしと弄る。ビクついたハルヒはこっちを向いて、 「ちょっ……あ、あんた自分の練習はどうなったのよ！」 　……どうしてそんなに耳が赤いんだ？ 「うるさい！　余計なお世話だわっ！！」 「ぐわっ！」 　その瞬間ハルヒのまわし蹴りが俺の腹部に直撃した。激痛の感覚とともに何か縞々のものが目に映った気がするが言ったらマジで殺されそうなので心に秘めておく。 「キョ、キョンくん！」 「少しは手加減しやがれ、この野郎！」 　朝比奈さんから差し伸べられた、神の手よりも神聖で清楚な手を取って俺は立ち上がる。 「ふんっ！　さあみくるちゃん、よく頑張ってくれたわ。妥協は許さないつもりだったんだけど、あなたにはタンバリンを持ってステージの華を飾る役を与えるわ。うん、そっちの方がいいかも」 「よ、良かったぁ……」 「さて、それじゃあたしは……」 　ハルヒが俺を見てニンマリと笑う。と同時に、寒気がしたのは俺が薄着であるからではなさそうだ。 「あたし特製の地獄の特訓プログラムをあんたに教えてあげるわ……感謝しなさい！」 「キョンくん……」 　ああ、そんな哀れむような目で俺を見ないでください朝比奈さん。大丈夫です、あなたの不幸は全て俺が引き受けましょう。 「さあ、始めるわよ？」 　俺のメンタルポイントが尽き果てるまでは。 　 　 　その名の通り――一音でも間違えたらすぐに罵倒とつばが飛んでくる鬼教官が講師の下の――地獄の特訓であった数時間が終わり、やっと俺たちは帰路につくことができた。正直、長門の助けを借りようかと思ったほどだ。しかしこんなところで長門に負担をかけたくもなく、それ以上にあのカップルの中に立ち入って「ここ教えてくれ」とそれこそ空気の読めない発言をしたくないのは前途の通りだ。 　まあそのおかげで俺もそれなりに上達したと思う。もちろんまだまだド素人の域だが、この調子だと人に聴かせるにはそれなりに誤魔化せるレベルになれるのではないかと思える。それというのは、ハルヒの教え方が上手いのか俺にもともと音楽の才能があったのかと訊かれれば完璧に前者であり、俺に才能など塵ほどもないこともここにひとつ明言しておこう。 　そんな、朝比奈さんがタンバリンをぽんぽんと叩いている毎日が一週間の間続いた。 　 　そして、ライブ当日。つまり岡島さんの誕生日。 　俺たちはすでにライブ会場の控え室に集まり、結構な人数の客がぞくぞくとライブハウスに足を運んでくる光景を見ながら、心拍数を育ち盛り男児の心身の発達スピードよりも著しいペースであげていった。 　特に朝比奈さんのおぼつかなさ具合と長門の落ち着き具合の差はまさに、か弱き女子生徒と万能宇宙人との差を表しているかのようで……という意味不明なことを口走っているのは俺が極度に緊張しているせいだろう。 「というか、いくらなんでも客足が多すぎないか？」 「そうよね、いつもより多い感じがする……」 　岡島さんが冷静に答えた。そういえばENOZの４人は緊張が少しはあれどあまりしてないように見えるな。やはり俺とはキャリアとこなしてきたライブ数が違うな。くぐり抜けてきた修羅場と死線の数は俺のほうが多いだろうけど。 「あんた、緊張してるの？」 「……ま、まあな。そうだ、こういう時はあれだ、素数を数えて落ち着くんだ」 「へえ？」 「１、２、３、５、７…………」 「１は素数じゃないわよ、ばか」 「いてっ」 　ハルヒに背中を小突かれる。ガチガチな今の体にはいい刺激だ。 「そうね……あ、そだっ、もしあんたが練習通りにできたらご褒美をあげるわ。だから頑張りなさい！」 「ご褒美？」 　ゴミ箱へ直行するような物はいらないぞ？ 「安心しなさい。……その、イイコトよ」 　イイコトってのはなんなんだと俺が訊く前にハルヒは自分のギターを持ち出して、 「さあみんな！　本番いくわよっ！」 　自らSENOZの統率役を買って出て、ステージのほうへ歩き出した。皆もそれにならい、それぞれの楽器を持って歩き出す。 　さて、俺も頑張らなきゃいけないな。何よりも、ハルヒのご褒美を貰うためにさ。 　 　 　まったく、音楽活動なんてことをするなんて夢にも思ってなかったぜ。一週間前まではどうせグダグダなデキになる思っていたが……どうやら、それは俺の大きな勘違いだったようだ。 　歌ってやれ、ハルヒ。聴いてくれ、お客さん。俺らの音楽を―― 「『ＳＯＳならだいじょーぶ』！」 　 　 廊下を横切る影が　あわてて駆け寄る午後も あまりに普通で退屈だし 　 扉を開いた後　座るのはいつものトコ 頬杖ついたら思いついた名案！ 　 あたしはずっとあたしだけど　いつのまにか みんなのパワー期待してたのかな Let's go my land! 　 SOSならだいじょうーぶ　ドキワク・ハラハラ・サイン SOSって騒いだら　夢が近くなるわ 　 　 誰でも楽しさもって　そのままで待ってるのね やらなきゃ　行かなきゃ　なんでも本気なのよ 　 瞳の中のあたしが笑顔　いいね、みんな 歌いたいな歌いたくなったよ Happy for you! 　 I,MY,MEから始まって　ワキアイ・ニコニコ・ムード I,MY,MEでも我が儘も　明日を呼ぶ準備よ 　 　 SOSならだいじょうーぶ　ドキワク・ハラハラ・サイン SOSって騒いだら夢が近くなるわ 　 SOSほらSOS!　だいじょうーぶだからね 面白いことは大歓迎　夢が近くなるわ 　 　 　 　 　全曲を歌い終え、第三回目のSENOZライブは無事成功を修めた。大きな歓声に包まれながら俺たちはステージを後にする。 　ところどころ至らない箇所もあったかもしれんが、きっとハルヒは合格点をくれるはずさ。朝比奈さんもタンバリンで頑張ってたし。 「結構練習通りにできたぜ、ハルヒ」 　気持ち良く汗をかいたハルヒに、控え室で声をかける。 「うん、あんたにしては上出来だったわ」 「それで？　ご褒美ってのは、なんなんだ？」 「……そ、そーだったわね。ちょっと来なさい！」 　立ち上がったハルヒに腕を取られ、俺とハルヒは誰も居ない廊下へと出て行く。 「な、なんだよ」 「えっと、目、閉じてよ」 「なんでだよ」 「だ、だからご褒美よ！」 　しかたなく俺は目を閉じる。薄目を開けておこうかなと思った。だってほらさ、二人っきりで目を閉じるなんてシチューエンションですることって言ったらひとつしかないだろう？　俺にだってそれくらい解かるぞ。 　十数秒後、何も起こらないのでおかしいなと思いつつそろそろ目を開けようかと思ったその時、 「ぐおえっ！！」 　ハルヒのゲンコツが再び俺の腹部を刺激した。正直、まわし蹴りより痛かった。 「なにすんだよ！」 　見るとハルヒの顔は先日の時のように赤い。 「変な想像したでしょっ！　この変態バカキョン！」 「変態だと……！？」 「そ、そーよっ！　今のがご褒美だからねっ！」 　ぷいっとこちらに背中を向け、肩まで届く黒髪を揺らせながらハルヒは駆け足で戻っていく。 「ったく、これのどこがご褒美なんだか……」 　腹をさすりながら俺は不気味にも笑みをこぼしていた。それは、大きな達成感とともにハルヒからの愛情の証をこの腹に受けたせいかもな。 　なんとも迷惑な愛情表現だったけどさ。 　 　 　SENOZ LIVE part "O"　end 　 　 　 　 ……これは、広江美奈さんの誕生日に掲載させていただいたＳＳです。 他の誕生日作品は<a title="Birthday in the world of Haruhi (20m)" href="http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3613.html">こちら</a>でどうぞ。

表示オプション

横に並べて表示：

変化行の前後のみ表示：