恐怖
<p>「有希って怖いものあるの?」<br /> 「……すぐに思いつかない。」<br /> 「案外幽霊とか苦手じゃない?」<br /> 「幽霊は存在しない。」<br /> 「わかんないわよ、今晩あたり有希の部屋にヒュ~ドロドロ……。」<br /> 「その表現は古典。それにまだ夏じゃない。」<br /> 「もう21世紀よ。ゴキブリみたいに年中無休になってるわよ。」<br /><br /><br /> 「なんだ長門、1時に電話ってなにか起きたのか?」<br /> 『問題が起きた。』<br /> 「なに!?大丈夫か?」<br /> 『直接的には被害は出ていない。ただ、迷惑。』<br /> 「ん? 何が起きたんだ?」<br /> 『わたしの部屋に幽霊が大量発生した。』<br /> 「……え?」<br /> 『昼間に涼宮ハルヒがわたしを怖がるものを知ろうとした。その時一例として幽霊を挙げた。』<br /> 「そうか。……怖くないのか!?」<br /> 『怖くはない。恐怖とはその個体に危機を与える可能性があるものに感じる。<br /> わたしに脅威を与える存在はなくはないが非常に少ない。ただ…』<br /> 「ただ?」<br /> 『非常にうっとうしい。わたしに恨み事や意味不明の訴えをしてくる。眠れない。』<br /> 「そ、そうか。」<br /> 『読書も妨害される。なので、あなたに電話してみた。迷惑?』<br /> 「いや、長門の役に立てるならかまわないぞ。」<br /> 『迷惑をかける。……!ひっ』<br /> 「長門!? おい長門返事しろ!!」<br /> 『なんでもない。おやすみなさい。』<br /> 「?」<br /><br /><br /> 「長門、昨日の電話の最後に何があった?」<br /> 「……。」<br /> 「何か恐ろしい幽霊が出たのか?」<br /> 「……喜緑江美里がわたしを助けにきてくれた。その時、彼女を幽霊だと勘違いして驚いた。」<br /> 「そうか。誰にも言わない方がいいな。」<br /> 「他言は無用。絶対。」<br /> 「……今のお前は怖かったぞ。……あ、すまん。俺が悪かったからそんな顔しないでくれ。」<br /> 「わたしが一番怖いのはあなたに嫌われること。」<br /> 「まんじゅうじゃないのか。」<br /> 「いじわる。」<br /><br /><br /></p> <hr /><p><br /><br /> 『晩御飯食べた?』<br /> 「なんだ長門、いきなり?」<br /> 『食べた?』<br /> 「いや、まだだが。」<br /> 『食べに来て。』<br /> 「あ、あぁ。わかった、すぐ行く。」<br /><br /> 「どうしました? 僕がいると不都合でしたか?」<br /> 「そうだな。」<br /> 「えぇぇ~」<br /> 「い、いえ、朝比奈さんは居ていいんですよ? ところで長門これは一体……。」<br /> 「わたしの失言。涼宮ハルヒに怖いものをしつこく尋ねられて思わず言ってしまった。」<br /> 「『まんじゅう怖い』か。」<br /> 「確かに、リビングを占領するこのまんじゅうは恐ろしいですね。<br /> 底面積4畳半、高さ1.5mといったところでしょうか。」<br /> 「情報連結の解除を申請したが却下された。」<br /> 「なんでだ!?」<br /> 「わからない。仕方がないので食べるしかないが、わたしという個体の体積を大幅に超えている。<br /> だからあなたたちを呼んだ。迷惑?」<br /> 「いや、お前の頼みなら断る気はさらさらないが……・さすがにこれはインチキだな。」<br /> 「困りました。包丁ぜんぶ入れてもあんこに届きません。」<br /> 「お茶淹れましょうか?」<br /> 「ぜひ。」<br /><br /><br /><br /> 「えーと、あの落語のオチは『今度はお茶が怖い』だっけ?」 <br /><br /><br /></p> <hr /><br /> 「有希ーところであんた怪談とか知ってる?」<br /> 「最近知ったのは」<br /><br /> ある町にお母さんが大好きな太郎くんがいました。<br /> そんな太郎くんはある夕日が綺麗な黄昏時にお母さんにたずねました。<br /> 『ねえ、お母さん、今日のおみそ汁はなに?』<br /> お母さんはゆっくり振り返って言いました。<br /><br /> 『きょうふのみそ汁』<br /><br /><br /> 「今日、麩の味噌汁。」<br /> 「……あーはっはっは!!ひー!!ひぃー!!!<br /> きょう!きょうふ、ひぃーあーはっはっは!!おなかいたーい!!!」<br /> 「おいハルヒ、長門がカチンときてるぞ」<br /><br /><br /><br /> 「で、これか。」<br /> 「そう。これは怖かった。」<br /> 「そりゃあ家に帰って電気つけたら、リビングの真ん中に麩のみそ汁が1つだけあるんだぞ。<br /> ホラー以外の何物でもない。」<br /><br /><br /><br /> 「ねぇ、こんな怪談知ってる? ある町に、ぷっ、ぷぷぷ、」<br /> 「涼宮姉さん、しゃべる前に自分でウケて笑わないでくださいよ。」