世界の終わりに
<div class="main"> <div>みくる「キョン君、私こういうの苦手で」<br /> キョン「ゲームだから適当に遊んどけばいいんですよ」<br /> ハルヒ「適当なんてとんでもないわ敗北主義者は角刈りの刑よ」<br /> 古泉「ゲームが始まりますよ」<br /> キョン「ハルヒの元気を少し分けてほしいよ」<br /> ハルヒ「ジー…」<br /> キョン「何やってんの？」<br /> ハルヒ「パワーを送ってんのよ、この勝負に勝つためにね」<br /> キョン・ハルヒ「…」<br /> キョン「Chu」<br /> ハルヒ「！？」</div> <div>その瞬間、ハルヒの激烈な平手打ちが、俺の左頬にクリーンヒットした。<br /> 正直、意識が飛ぶかと思ったねあれは。</div> <div>ハルヒ「ちょっと！あんたいきなり何すんのよ！？」</div> <div>キョン「いきなりおかしなことしてきたのはお前のほうだろ？それに今のは体勢が崩れたからなっただけだ。不可抗力だよ」</div> <div> 言うまでもなく嘘っぱちである。正直俺は、自分のとった行動に驚いていた。以前閉鎖空間で経験したせいなのかもしれない…俺は何も考えずハルヒにキスをしていた。</div> <div>ハルヒ「不可抗力って、あんたねぇ！！乙女心ってもんを何だと思っ…！」</div> <div>話が長くなりそうだったので</div> <div>キョン「おい、今はコンピ研との真剣勝負の最中なんだぞ？いいのか？団長がそんなんで」</div> <div>ハルヒ「うーー…。ふんっ！今回は大目に見てあげるわ！でも今度やったら殺すわよ！！」</div> <div>と、言いたい放題言ってハルヒは自分の席に戻った。自分で撒いた種とは言え、団長には困ったものだ。</div> <div>ちなみに勝負の結果は、長門の活躍によりSOS団の圧勝であった。</div> <div>コンピ研との勝負も終わり、俺たちは解散することにした。</div> <div>キョン「じゃあなハルヒ、また明日な」<br /> ハルヒ「……」</div> <div>聞こえていないのかと思い、もう一度言ってみようしたのだが…</div> <div>キョン「ハルヒ、じゃあ…」</div> <div>ハルヒ「うるさい！！さっさと帰れアホキョン！！！」</div> <div>怒鳴り声をあげて、ハルヒは俺を押し退けさっさと帰ってしまった。たしかに、悪いことしたとは思ったけどさ…。<br /> まぁ、明日になれば元に戻ってるだろ。</div> <div>さて、俺も家に帰ってだらだらするか</div> <div> 次の日教室に着くと、ハルヒは机に顔を伏せたまま微動だにしなかった。俺も何度か話し掛けたんだが、全てシカト。こんな反応もずいぶん久しぶりである。こういうときは何を言っても無駄だと悟っていたので、放っておくことにした。</div> <div>問題は放課後である。俺はいつものように古泉とオセロをし、いつものように朝比奈さんの入れるお茶をおいしく頂いていた。</div> <div>そろそろオセロも飽きてきたなと思っていると、勢いよくドアを開け、見るからに不機嫌そうな顔をしているハルヒがいた。</div> <div>キョン「よお」</div> <div>スタスタと定位置に座るハルヒ、またしても無視である。</div> <div> いつもなら既に朝比奈さんか俺に絡むか、わけのわからない企画を立ち上げている頃だったのだが…今日のハルヒはパソコンをいじくってるだけで、長門に勝るとも劣らない静けさだった。</div> <div>ただ今日は、それ以外にもいつもと違う仕草があった</div> <div>ハルヒがじーーっと俺を見つめている。最初は俺も気付かないふりをしていたのだが、あまりにもそれが続くので、俺もチラッとハルヒのほうをみた。</div> <div>するとハルヒはすぐに目をそらし、パソコン画面のほうに顔を向けてしまった。</div> <div> 目が合った瞬間、顔を赤くさせていたのは気のせいではないだろう。それからもハルヒは度々俺をじーーっと見つめ、目が合うとそらすといった行動を終始とっていた。</div> <div>なんなんだよ……</div> <div>キョン「ハルヒ」<br /> ハルヒ「な、なななによ！？」<br /> 体をビクッとさせ、まるで朝比奈さんの物真似かと思わせるほどの反応だった。</div> <div>キョン「今日のおまえ、何か変だぞ。」<br /> ハルヒ「変じゃないわよ！あたしはいつも通りよ！」<br /> キョン「そうには見えないがな…」<br /> ハルヒ「何よ！？キョンの分際であたしに意見する気！？あーーっ、もう！！今日は終わり！解散！！」</div> <div>ハルヒは強制解散宣言により、その日は随分早い解散となった。</div> <div>ハルヒは怒った様子で部室を出ていき、俺と朝比奈さんは呆気にとられ、古泉はいつも通りのスマイル、長門は無表情だった。</div> <div>キョン「何なんだ、今日のあいつは…わけがわからん」<br /> みくる「昨日キョン君がした…その…キ、キスが原因…なんじゃないでしょうか…？」<br /> 古泉「そうですね、涼宮さんも女の子ですからね。今も少なからずあなたに腹を立てているのでしょう。<br /> まぁ、それだけではなさそうですが…」<br /> キョン「どういう意味だ？」<br /> 古泉「おやおや、やはり気付いていないんですね」<br /> みくる「キョンくん…」</div> <div>古泉だけでなく、朝比奈さんまで少し呆れ気味だったのには驚いた。<br /> 長門が本ではなく俺を見つめ…いや、睨んでいるのにはもっと驚いたが。</div> <div>家に帰った俺は、今日の部活(?)を振り返っていた。やはりきちんと謝っておくべきだろうか。古泉の言う通り、ハルヒも一応女の子なんだしな。<br /> 一番気掛かりなのは、古泉が最後に言った言葉と、朝比奈さんや長門の、あの態度の理由だった。<br /> こればっかりは全くわからん…とりあえず明日、ハルヒに謝っておくか。</div> <div>次の日のハルヒはというと、頬杖をついてぼーっとどこかを見つめているようだった。</div> <div>キョン「よお」<br /> ハルヒ「……ええ」<br /> キョン「一昨日は悪かった。すまん、この通りだ、許してくれ」<br /> ハルヒ「一昨日のこと？なにそれ？」<br /> キョン「それはお前…俺がお前にした…あの…」</div> <div>改めて聞かれると、ものすご～く答えにくい質問である。</div> <div>ハルヒ「ああ、あれね。別に、あんなの一日経ったらすっかり忘れてたわよ。不可抗力だったんでしょ？なら仕方ないじゃない」</div> <div>キョン「じゃあ昨日は何で機嫌悪かったんだ？」<br /> するとハルヒは再び顔を赤らめ…</div> <div>ハルヒ「えっ？それは…その…何でも…ないわよ…」</div> <div>だんだん声が小さくなり、自信がなさそうに下を向くハルヒは、ますます朝比奈さんのようだった。</div> <div>キョン「何だそりゃ、昨日といい今日といい、やっぱりお前変だぞ」<br /> ハルヒ「変じゃないって言ってんでしょ！ほらほら授業始まるわよ、さっさと前を向きなさい！」</div> <div>無理矢理前を向かされたわけだが、やはり引っ掛かる。まぁ、ハルヒの機嫌も直ったようだし、それだけでもよしとするか。</div> <div>４時間目終了のチャイムが鳴った。俺は途中からぐっすりと眠っていた。今もまだ眠い、このまま昼休みも寝ていようとしたのだが…</div> <div>ハルヒ「キョン！いつまでぐーすか寝てんのよ！ほら、さっさと起きなさい！昼御飯食べに行くわよ！！」</div> <div>ハルヒに叩き起こされてしまった、おかげで眠気はすっとんだものの、どこか損した気分であった。</div> <div>キョン「食べに行くって食堂にか？あんなとこわざわざ行かなくても、教室で食べればいいじゃねぇか」<br /> ハルヒ「食堂なんて暑苦しいとこに行くわけないでしょ？いーからあんたは黙ってついてきなさい！」</div> <div>ハルヒが連れてきたのは中庭だった。ここに来るのは大抵女子の仲良しグループか、あるいはカップルくらいのものである。</div> <div>ハルヒ「あっ、あそこがいいわね。ちょうど陰になってるし、いい感じだわ」</div> <div>ハルヒがチョイスしたのは、木陰のある芝生で、いつもなら女子のグループが占領している場所だった。</div> <div>ハルヒ「さっ、食べましょ」</div> <div>そういえばハルヒの弁当をみるのはこのときが初めてだったな。意外にも女の子らしいものだったんで、俺はつい「ウマそうだな」と口にした。</div> <div>するとハルヒは</div> <div>ハルヒ「と～ぜんよ～、なんたってこのあたしが作ったんだからね。おいしくないわけがないわ！」<br /> キョン「お前が自分で作ったのか！？」<br /> ハルヒ「何よ……その顔は…あたしだって弁当くらい作れるわよ！」<br /> キョン「俺はてっきりお前の親が作ったもんだと思ってだな…」<br /> ハルヒ「しっつれいね！あたしだって弁当の一つや二つ作れるわよ！」</div> <div>しかしこいつが自分で弁当を作っていたとはな…なんというか、人は見かけによらないな。</div> <div>ハルヒ「さっきからじ～っと見て、もしかして食べたいの？『食べさせて下さい』って言ったら、考えてあげてもいいわよ」</div> <div>正直、ちょっと食べてみたかったがこんな言われ方をすると、意地でも食わねぇって気分になるもんだ。</div> <div>キョン「別に食いたかねぇよ、何が入ってるかわかんねぇしな」<br /> ハルヒ「そんな言い方されると妙にムカツくわね。」</div> <div>そう言うとハルヒは、おかずの一つを箸でつまんで、俺の口元へ差し出した。</div> <div>ハルヒ「ほら、食べてみなさいよ！あまりの味付けに卒倒してもしらないわよ？」<br /> キョン「それはつまり、自分の味付けは卒倒するくらい酷いって言いたいのか？」<br /> ハルヒ「つべこべ言わずに食べなさい！ほらっ！」</div> <div> 仕方ないから食べてみた。普通ならここで「おいしい」と社交辞令を言うべきだが、そんなことを言うとハルヒがつけ上がるのわかっているので、正直に感想を言ってやろうと思った。</div> <div>キョン「……うまい…」さっきと矛盾してるって？いやいやそんなことはない、本当にウマかったのだ。</div> <div>するとハルヒは満面の笑みで</div> <div>ハルヒ「でしょ！我ながらいい出来だと思ってたのよ～。それに、料理って結構面白いわよね。今度から自分で作ってみようかしら」<br /> キョン「いつも自分で作ってたんじゃなかったのか？」<br /> ハルヒ「そんなわけないじゃない、いつもはコンビニで買ったやつを食べてるわ」<br /> キョン「どうして今日に限って作ってきたんだ？」<br /> ハルヒ「それは……気分よ、気分。朝起きたらそんな気分だったのよ」</div> <div>それから俺は昼飯を食い終わり、再び教室に向かった。ハルヒはもう少し中庭でダラけていたいらしい。<br /> 一人になりたかったようで、「あんたは先に行け！」と追い出されてしまった。</div> <div>ハルヒ「うまい…か…。ふふっ、よかった…ちゃんとおいしく出来て。味見する暇なかったから自信なかったのよね。明日からは早起きしよっかな…」</div> <div>それにしてもハルヒの弁当、ウマかったな。あれで性格さえ良ければ、完全無欠の美少女女子高生が出来上がるというのに…おしい。<br /> ５時間目開始のチャイムが鳴る寸前にハルヒは帰ってきて、あわてた様子で弁当を直していた。こんなギリギリまで一人で何してたんだ、おい。</div> <div>放課後、部活の時間がやってきた。いつもなら俺とハルヒは、別々のタイミングで部室に行くのだが、俺はハルヒに引っ張られて一緒に行く羽目になった。<br /> ハルヒ「やっほーー！さぁ、今日も気合い入れていくわよー！ね～、みくるちゃ～ん」<br /> みくる「あっ、は、はいぃ…」</div> <div>昨日のダウナーモードが嘘のように、今日のハルヒはやたらハイテンションで、いつも以上に朝比奈さんに絡んでいた。</div> <div>古泉「どうやら元に戻ったようですね。」<br /> キョン「ん？ああ」<br /> 古泉「僕の言ったことにもちゃんと気付いてくれたようで」<br /> キョン「それだけが未だにわからないんだがな。ハルヒの機嫌も直ったんだし、教えてくれないか？」</div> <div>古泉はしばらく沈黙し、長門も読書を中断してこちらを見ている。</div> <div>古泉「この場合、本当に困った人は涼宮さんではなく、あなたなのかもしれませんね」<br /> キョン「だからどういう意味なんだ？」<br /> 古泉「いずれお気付きになる日が来ますよ」<br /> キョン「なんだそりゃ」</div> <div>これ以上古泉と話していてもラチがあかないので、珍しく本でも読もうかと、本棚に近付いたときだった。</div> <div>長門「……鈍感………」キョン「ん？何だ長門、今何か言ったか？」<br /> 長門「私は何も言っていない」<br /> キョン「そうか」<br /> 長門「そう」</div> <div>相変わらず無表情な長門だったが、俺を見つめるその目から、怒りのようなものを感じたのは気のせいだったのだろうか。</div> <div>ある日のこと、部室に行くとそこには誰もおらず、俺一人だった。一人だと何もやることがないので、時間を置いてから出直そうとしたのだった。</div> <div>キョン「ん？」</div> <div>出るときにふと目についたものがあった。部屋の片隅に捨てられるように放置されてあった、いつかの笹の葉である。<br /> 葉も短冊も随分汚れており、何が書かれてあるかなんて全くわからなかった。</div> <div>しかし、よく見ると一つだけ新しい短冊があった。誰かが付け足したのだろうか。</div> <div> さてさて、ハルヒが新たに何と書いてあったか見せてもらおう。多少の罪悪感はあったといえばあったが、好奇心には勝てなかった。悪いなハルヒ…でも隠すならもっと見付かりにくい場所に隠すべきだぜ。</div> <div> それにしても、ハルヒにしては随分無用心というか、迂濶だったな。古泉や朝比奈さん、長門なら見付けても何も言わなかっただろうが、残念ながら見付けたのは俺だ。</div> <div>運が悪かったな、ハルヒ。</div> <div>一応念のために警戒しておこう。え～っと、廊下には誰もいない、来る気配もなし。</div> <div>よし、じゃあ拝見させてもらいますよ～ハルヒさん。</div> <br /> <br /> <div>俺がこのあと激しく後悔するなんて、誰が予想できただろう…いいや、誰もできやしないね</div> <div>短冊に書かれていたのはこうだった。</div> <div>「キョンが(消した跡がある)、キョンと…幸せになれますように 涼宮ハルヒ」</div> <div>俺は頭が真っ白になった。つまりこれの意味するところは、ハルヒが…俺を…。</div> <div> 正直俺は困った。いや、ハルヒが嫌いだから困ったわけじゃない。ハルヒが俺をそんな風に思ってるなんて、考えたこともなかったのだ。そもそも俺にとってハルヒは、俗に言う友達以上恋人未満な存在で、恋愛対象として認識していなかった。<br /> 見なければよかった…明日から、いや今からどんな顔して接したらいいんだ…。<br /> こういうとき俺以外の第３者なら、軽々しく「今まで通りでいいじゃないか」といったことを言うだろう。<br /> 俺だって当事者じゃなかったらそう言う。</div> <div>だが今は違う。俺がその当事者なのだ。少なくとも俺にとって、今まで接するというのは困難である。</div> <div>そうこうしてるうちに足音が近付いてきた。まずい、笹の葉を隠さないと…！</div> <div>なんとか笹の葉を元の場所に戻し、見えないように隠すことができた。さぁ誰だ、誰が来るんだ…ハルヒか…今来られるとちと厳しいが…</div> <div>ガチャ</div> <div>長門だ…よかった。今のこの状況では一番安心できる。</div> <div>キョン「よう、ハルヒ達ならまだ来てないぞ」<br /> 長門「休み」<br /> キョン「えっ？」<br /> 長門「先程涼宮ハルヒに会った。今日は彼女の都合で休み。私はあなたへの伝言を頼まれた」<br /> キョン「ああ、そうか…わざわざありがとな」<br /> 長門「いい」</div> <div>休み…か。今はそのほうがありがたいな。</div> <div>キョン「じゃあな長門、また明日な」</div> <div>長門は小さく頷いた。あいつなりの挨拶だったんだろう。</div> <div>俺は振り返ることができなかった、長門の視線を感じたからだ。あいつに見つめられると、隠し事を全部話してしまいそうになるからだ。</div> <div>さて、明日からどうする…俺</div> <div> 翌朝、こんなに学校へ行くのが憂鬱なのは久々だ。できることなら昨日に戻って、あのときの俺を引き止めたいところだ。しかし、休む訳にもいかないのでしぶしぶ俺は、学校へ行った。</div> <div>教室のドアを開けると、ハルヒが待ってましたと言わんばかりに</div> <div>ハルヒ「おっはよーキョン！今日もシケた面してるわね～朝御飯ちゃんと食べてんの？」<br /> 最近のハルヒは、以前に比べ随分社交的になり、クラスの男子や女子と普通に会話するくらいになっていた。<br /> しかも以前までの奇人変人ぶりもピタリと止まっており、男子にも女子にも人気が出てきたようだ。<br /> まぁ性格以外は完璧だったからな、こいつは。</div> <div>ハルヒ「聞いてキョン！今日は弁当箱も新しいのに変えたのよー」<br /> 前に中庭で食べて以来、俺とハルヒは毎日一緒に昼食をとっていた。人気急上昇中のハルヒと弁当を食べている俺は、谷口曰く「羨ましい」の一言だそうだ。<br /> しかし今日の俺は一緒に食べる気にはなれなかった。</div> <div>キョン「すまん、ハルヒ。悪いが今日は一緒に食べれそうにない」<br /> ハルヒ「え？……どうして……」<br /> キョン「昼休み、少し用事ができてしまってな、だから今日は…すまん」ハルヒ「うん…わかった…仕方ないわね」</div> <div>ハルヒはすでに普通の女の子となっていた。それだけに、このときの悲し気で寂し気な表情は、直視できなかった。</div> <div> 俺はその日から、ハルヒを避けるようになってしまった。授業中、休み時間、部活に関しては適当に理由をつけてずっと休んでいた。最初の頃はハルヒも問いつめてきたのだが、次第にそれもなくなり、会話すらもしなくなった。</div> <div>そんなある日のこと、ハルヒは学校を休んでいた。会話はほとんどしていなかったが、いないとなると寂しい気もする。</div> <div>国木田「キョン、お客さんだよ」</div> <div>お客とは古泉、朝比奈さん、長門だった。</div> <div>古泉「最近姿を見せませんね、どうしたんですか？」<br /> みくる「涼宮さんがすごく心配してましたよ…それに、悲しそうでした…」<br /> 長門「あなた…なぜ…？」<br /> キョン「それは…ちょっと理由があって…」<br /> 長門「嘘」</div> <div>たしかに下手な嘘だったが、俺はとっさに</div> <div>キョン「嘘じゃねぇよ、証拠でもあんのか？」<br /> ある、今ムキになっている俺自体がその証拠だ。<br /> 長門「ならどうして、私達を見ない？嘘じゃないのなら、どうして私の目を見ない？」</div> <div>みくる「長門さんの言う通りですよ。キョン君、本当のことを教えてください。」</div> <div>キョン「………」</div> <div>古泉「言えませんか。ということは、もう気付いてしまったのですね、涼宮さんのこと…」</div> <div>古泉は何もかもお見通しのようだった。俺のことも、ハルヒのことも。</div> <div>古泉「長門さん、頼みます」<br /> 長門「了解」</div> <div>古泉がそう言うと、いきなり長門は例の呪文を唱え始めた。</div> <div>キョン「な、なにをするつもりだ！古泉！」<br /> 古泉「知ってもらおうと思いましてね、最近の涼宮さんを」</div> <div> キョン「ハルヒを？どういう意味だ…！？」古泉「あなたがいないときの涼宮さん。その情報をあなたの脳に送ってるんですよ。ほら？だんだん見えてきたでしょう？」</div> <div>ハルヒ『キョンは…また来ないの…？どうして？』<br /> 『お弁当がマズかった…？』<br /> 『最近は話してもくれない…見てもくれない…』<br /> 『ｸﾞｽｯ…嫌われちゃったの…あたし…。もしそうなら、謝るから…ｸﾞｽｯ…あたし、謝るから…。<br /> ｸﾞｽｯ…キョンに…会いたい…話がしたい…キョン…どこ行っちゃったの？…戻ってきてよ…』</div> <div> 古泉「機関や閉鎖空間、そんなのは抜きにして言わせてもらいます。涼宮さんを助けてあげて下さい。ここまで彼女の心を弱くしたのはあなたです。追い詰めたのもあなたです。だから助けてあげて下さい」</div> <div>みくる「キョン君…わたしからも、お願いします。私もあんな悲しそうな涼宮さん、見てられません」</div> <div>長門「あなたには責任がある。義務がある。拒否は認められない」<br /> そんなに言わないでくれよ、泣いてるあいつを見たとき、もう決心してたさ。</div> <div>キョン「あいつは今、どこにいるんだ？」</div> <div>長門「自宅。じゅう…しょ…は…」<br /> 言い終わる前に長門の体は消滅した。</div> <div>キョン「長門！？」</div> <div>古泉「閉鎖空間ですね、しかも今までに類を見ないほどの速さです。この速さだと、さすがにぼ…くも…」</div> <div>続いて古泉が消えた。<br /> みくる「キョンくん…涼宮さんのこと、よろしくお願いします。」<br /> そう言って朝比奈さんは、笑顔で消滅した。</div> <div> 背後ですさまじい轟音が聞こえた。振り返るそこにいたのは…神人だ…しかも数が尋常じゃない。古泉達に気をとられていたが、クラスの連中も消滅していた。</div> <div>俺は急いで崩壊する学校から脱出した。ハルヒに会いに行くために。だが住所がわからない、教える前に長門が消えてしまったからな。<br /> 仮に聞いたとしても、この状況だと住所の確認なんかしていられない。</div> <div>俺はただ走った…崩壊する街を…崩壊する世界を…。ここで世界を、いやハルヒを助けられなきゃ、俺はただの屑だ…。</div> <div>ハルヒの居場所はわからない、だけど闇雲に走っているわけでもない。あいつの居場所は、神人が教えてくれる。<br /> 神人が唯一壊していない、きれいな道…俺はその道をただひたすらに走った。</div> <div>こんなときでも俺の体は消えていない…ハルヒが、俺を必要としてくれているんだな…ありがとう、ハルヒ</div> <div>部室の机に伏して泣いているハルヒ、朝比奈さんに泣きついているハルヒ…俺がいない間の、ハルヒの記録だった。</div> <div>そして俺は、ハルヒを見つけた。周囲にいるのは神人だけ…それ以外は何もない、寂しい場所だった。</div> <div>キョン「ハルヒ…」</div> <div>座ってうずくまっていたハルヒがゆっくり顔を上げる。</div> <div>ハルヒ「キョン？どうしたの？そんなに血相変えて…」</div> <div>今にも消えかかりそうな声と、弱々しい表情でハルヒは言った。</div> <div>キョン「帰ろう、元の世界へ」<br /> ハルヒ「元の世界？何言ってるの？」<br /> キョン「いいから。こっちへ来るんだ、ハルヒ。」<br /> ハルヒ「……イヤ…」<br /> キョン「ハルヒ？」<br /> ハルヒ「イヤ…行きたくない。」<br /> キョン「どうして！？」ハルヒ「だって…そこには誰もいないもの…有紀もみくるちゃんも、古泉くんも…」<br /> キョン「俺がいるじゃねぇか！」<br /> ハルヒ「いないわよ！あんたは今、目の前に立ってるけど…どこにも…いないわよ…」<br /> キョン「ハルヒ…」<br /> ハルヒ「もう帰って…誰も見たくない、誰とも話したくない…みんな消えちゃばいいわ…」<br /> キョン「嘘つくなよ…」ハルヒ「嘘じゃないわよ！」<br /> キョン「嘘だ！じゃあ俺はどうして消えてないんだ！？お前が本当にみんな消えちまえって思ってるんなら、俺はここにはいない」<br /> ハルヒ「それは…」<br /> キョン「お前はわかってるはずだ、何もかも。だから…」<br /> ハルヒ「うるさいうるさい！もうあたしに構わないで！ほっといて！」</div> <div>その瞬間、俺の体が…足元からゆっくりと消え始めた</div> <div>キョン「はは…まいったな…どうやら本当に必要なしと判断されたらしい」</div> <div>ハルヒは俺を睨みつけている。敵意を剥き出しにして…</div> <div>キョン「ハルヒ…実は俺、お前が新しく書いた短冊…見ちまったんだ」<br /> ハルヒ「えっ？」<br /> キョン「それで、お前の気持ち…知ってしまったんだ。そのせいで俺、どんな顔してお前に接したらいいかわかんなくてさ…悪かったな。」<br /> ハルヒ「キョン…」<br /> キョン「お前が誰も必要としてなくてもいい。ただ覚えててくれ、俺達SOS団は…最期まで団長のお前を必要としていたってこと」</div> <div>ハルヒ「キョン…ダメ…行っちゃダメ…」</div> <div>ハルヒは立ち上がり、目からは大粒の涙を流していた。そして消えかかる俺に近付いてくる…</div> <div>ハルヒ「わたしを置いて…どこ行っちゃうの…？もうどこにも行かないで…独りは寂しいの…」</div> <div>キョン「俺だって…寂しいさ…すごくな…」<br /> ハルヒ「どうして…どうしてこれ止まらないのよ…あたしが止まれって命令してんのよ…キョンは消さないでよ…。世界の終わりに、独りはイヤなの…」</div> <div>キョン「ハルヒ…もうそろそろ限界みたいだ…」ハルヒ「ダメ…ダメ…！あんたが消えるなら…あたしも消える！」</div> <div>ハルヒの体が消え始める…すごい速さで…</div> <div>キョン「バカなことはやめろ、ハルヒ！！」<br /> ハルヒ「いいの…ごめんね…最期までワガママな女で…素直になるのってむずかしいね…」</div> <div>ハルヒの体は俺と同じくらい消えかかり、速度も俺と同じになった。</div> <div>キョン「今のお前は…充分素直だよ…」<br /> ハルヒ「でも、遅すぎたわね…こんなギリギリで…」<br /> キョン「お互い様だ」ハルヒ「……キョン…？」<br /> キョン「なん……」</div> <div>ハルヒは自分の唇と俺の唇を重ね合わせた。前の閉鎖空間とは逆になっちまったな。</div> <div>ハルヒ「好き……よ、キョ………ン…」<br /> キョン「ああ、お…れ……も……だ……」</div> <div>そして俺達は消えた。世界と共に</div> <br /> <br /> <br /> <br /> <br /> <br /> <br /> <div>目が覚めた。<br /> どこだ？<br /> 部室だ<br /> どうして？<br /> 俺とハルヒは確かに消滅した。<br /> なのに体は元通り…どうなってる…？</div> <div>ハルヒが倒れている…まさか死んでるなんてことはないよな…</div> <div>キョン「おい、ハルヒ。ハルヒ！」<br /> 頼む、目を覚ましてくれ</div> <div>ハルヒ「う……ん……キョン？」</div> <div>キョン「よかった…一瞬死んでんじゃないかと思ったぜ。でも、どうして…俺達部室にいるんだ…あのときたしかに…」<br /> ハルヒ「消滅したわよ…あたしも、あんたも…」<br /> キョン「じゃあ何で…？」<br /> ハルヒ「それは…その…」<br /> キョン「もしかして、お前がやったのか…？」<br /> ハルヒ「うん……。完全に消えちゃう前に、一つだけ願い事したの…」</div> <div>キョン「願い事？なんて？」<br /> ハルヒ「何てって…あんたも知ってるじゃない…」</div> <div>ハルヒはもじもじしてそう言った。</div> <div>キョン「知るわけないだろ。あの状況でどうやってお前の思考を読みとるってんだ」</div> <div>ハルヒ「そ、そうじゃないわよ…！」<br /> キョン「じゃあ一体どういう意味なんだ？」</div> <div>ハルヒ「だ、だからぁ…」<br /> こんなときに何考えてんだって思うかもしれないが、もじもじしながら下を向いて、耳まで真っ赤にしているハルヒはかなり可愛かった。</div> <div>ハルヒ「見たんでしょ？あの短冊？」<br /> キョン「短冊？ああ…見たな」<br /> ハルヒ「だからあたし、それをお願いしたのよ…。キョンと一緒に…幸せになれますように…って…」</div> <div>俺と幸せになる…俺の幸せって何だ？元の世界に戻ること？違う。ハルヒと一緒に生きること？違う</div> <div>元の世界に戻って、ハルヒと一緒に生きることだ。</div> <div>そうか……だからか。だから戻って来られたのか…。</div> <div>キョン「ハルヒ」<br /> ハルヒ「何よ……あっ……」</div> <div>俺はハルヒを抱き締めた。</div> <div>キョン「これからはずっと一緒だ。もうどこにも行かない。」<br /> ハルヒ「……約束よ？」<br /> キョン「約束だ」<br /> ハルヒ「破ったら…死刑なんだからね…」<br /> キョン「望むところだ」<br /> ハルヒ「バカ…キョン」</div> <div> それからしばらくして、古泉と朝比奈さん、長門とも再会できた。朝比奈さんは号泣し、古泉はいつものスマイルで「よかったですね」、長門に関しては…</div> <div>キョン「世話かけたな」長門「ええ」</div> <div>てっきり「いい」って言うと思ったんだがな。</div> <div>キョン「長門」<br /> 長門「なに？」<br /> キョン「えーっと、その…」<br /> 長門「おかえりなさい」キョン「えっ？」<br /> 長門「おかえりなさい、キョン…お疲れ様」<br /> キョン「何だか新婚の奥さんみたいだな」<br /> 長門「そうね。ふふっ」</div> <div>長門が初めて笑った。カメラがあれば…カメラがあれば…！！</div> <div>俺達はそのまま鍋パーティーをした。材料等は『機関』と鶴屋さんがどうにかしてくれた。</div> <div>俺はこれから、ハルヒの側にいようと思う。閉鎖空間なんて発生させない。もし発生してしまっても、そのときは俺がなんとかしてやる。</div> <div>俺の隣にはハルヒが、ハルヒの隣には俺がいる。俺達は手を握りあった、もう二度と離れないように…いつも一緒にいられるように…</div> <div>ハルヒ「幸せに…なれますよーーにっ！！」</div> <div> Fin</div> </div>
