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スイング・第五楽章」を以下のとおり復元します。
<p align="center"><br />
カン・カン・カン</p>
<p> </p>
<p>朝倉の合図に従い、皆が演奏姿勢に入る。そうね、今よっ!</p>
<p> </p>
<p>「スタート」</p>
<p> </p>
<p>有希が手を振り上げ、基音となるべき音を作り出す。<br />
有希のベースがしばらく同じ進行をリフレイン、朝倉のドラムがそれに合わせていく。</p>
<p> </p>
<p>『ハルヒ、行こう』</p>
<p> </p>
<p align="right">始まる。</p>
<p align="right"> </p>
<p align="right"> </p>
<hr /><p><strong>ドラム&ベース</strong></p>
<p> </p>
<p>ゆっくりとベースの調が変わる。全然変わってないようで、長い目で見ると変わってる。
最初は強力なフォービート、ゆっくりとしたベースの調。そのうち、ドラムは不規則に、ベースは複雑に。</p>
<p><br />
それに合わせ、あたしはアクセントのようにギターを弾く。</p>
<p> </p>
<p>『まずは飛ばさないで…』</p>
<p> </p>
<p>有希のベースがそんな声を出している気がする。気がするんだけどね…う~ん。</p>
<p> </p>
<p>全っ然気にくわないわ。</p>
<p> </p>
<p>なんか、渋滞に巻き込まれてる車の中にいるようでいらいらするわね。<br />
もっとちゃっちゃとやっちゃいなさい!ってキョン、何聞き惚れてるのよ!</p>
<p><br /><strong>ピアノ・ブレーク</strong></p>
<p> </p>
<p>あたしはギターから手を離すと、ピアノに飛びつき、音を割り込ませた。 高い音をたたきつけてから、すぐに音階を急降下。</p>
<p> </p>
<p>今までゆっくりしていた分、激しく行くわよ!四人ともちゃっちゃとついてきなさい! 有希のベースのコードをピアノで叩き、今演奏中の二人をせかす。</p>
<p> </p>
<p>ん、よし!だんだんと早くなってるみたい。朝倉のドラムが少しずつ変わっていく。</p>
<p> </p>
<p>…強い視線を感じ、横を見ると、有希がこちらを見ていた。</p>
<p> </p>
<p>『いきなりはだめ…お願い…』</p>
<p>小声でそんなことを言われる。ん…ごめんね。</p>
<p> </p>
<p>『あんま勝手にすると呼び方戻すぞ、ハルヒ』</p>
<p>…それはなんか嫌。</p>
<p> </p>
<p>『このままピアノソロに入りましょう』</p>
<p>朝倉が合図。メロディが無くなり、ドラムだけになる。</p>
<p><br /><strong>ピアノ・ソロ</strong></p>
<p> </p>
<p>激しく、強く、情熱的に。<br />
あたしの音が響いていく。</p>
<p> </p>
<p>『夢がないの?ばっかじゃない?』</p>
<p> </p>
<p>え?モンテカルロ法で次元の呪いを何とかしようって問題、高校生で解ける訳がない?そんなこと絶対ない!
そんなの有希とあたしなら、絶対にできるんだから!全てはあたしが決める。</p>
<p> </p>
<p>低音を強く鳴らし、それと同時に高音を出す。音域は、夢は広げるものよ。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>『決めつける事なんて絶対に許さないんだから!』</p>
<p>指揮者に、命令されて踊ってるだけの音楽なんて、なんて愚かな。<br />
あなたが雀の落ちる事まで決めてるのと同じ。あたしは嫌いよ、そんなの!</p>
<p> </p>
<p>不規則に、乱雑に、自由に。あたしは、自由。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>『誰かじゃなくて、あたしがやるの!』</p>
<p> </p>
<p>誰かのための努力なんかじゃなくて、あたしのための努力をするのよ、それがたのしいから。<br />
有希みたいに、人が恐くてフルートの練習なんて、このバッカバカ!</p>
<p> </p>
<p>そう、この瞬間が楽しいから。踊れ!</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>ドラムの音が聞こえなくなる。…なんか三人固まってるような気がするけど、気にしない。 左手でリズムを打ち、ドラムの代わりをする。</p>
<p> </p>
<div align="center"><em><font size="2"><font size="3">さあ、あたしの音楽を聴けぇっ!</font></font></em></div>
<p> </p>
<p><strong>トランペット・リード</strong></p>
<p> </p>
<p>…せっかく良いところなのにキョンがトランペットを構える。全く、しょうがないわね…</p>
<p> </p>
<p>あたしはピアノを打楽器のように叩いて、キョンを待つ。</p>
<p> </p>
<p>キョンが入ってくる。</p>
<p><br />
キョンの音は、何かおそるおそるだった。スピードが出すぎたテンポに何とか乗ろうとしてる。</p>
<p>あんた自身がリードする気はないの?これじゃあ、あたしがリードなんだか、あんたがリードなんだか分からないじゃない!</p>
<p> </p>
<p>『でも、恐いんだ』</p>
<p> </p>
<p>壊れかけたおんぼろトランペットがなんか躊躇してる。<br />
ええっと、この音は…あたしについてきてる?</p>
<p> </p>
<p>『現状維持が、俺の一番なんだ』</p>
<p> </p>
<p>何言ってるんだか…じゃない、吹いてるんだか。</p>
<p> </p>
<p>『だめなら、あたしについてきて。でも、あんたがリードするなら、とっととリードしなさい』</p>
<p> </p>
<p>佐々木さん、ねぇ…あたしもあの演奏を聴いたわ。<br />
神のように支配する佐々木さんと、その佐々木さんにべったりくっついてってる音楽。 それが、たしか、あんた、だったよね。ただ、支配されるだけの。</p>
<p>あんたって、本当に不自由ね。なら、あたしが自由にしてあげるから。ついてきて!</p>
<p> </p>
<p>『現状、打破よ!』</p>
<p> </p>
<p><strong>ピアノ&ドラム</strong></p>
<p> </p>
<p>結局どっちがリードしてるか分からない調べは終わる。そして、ドラムがなり始めた。</p>
<p> </p>
<p>…</p>
<p> </p>
<p>……</p>
<p> </p>
<p>…………?</p>
<p> </p>
<p>さすがに委員長、こっちは結構強引ね。あたしがいること、忘れてない?</p>
<p> </p>
<p>『あなたなんかに、じゃまされるものですか』</p>
<p> </p>
<p>知ってるわ。定期演奏会の時、キョンを仲間はずれにしたの、あなたでしょ。
あの後、楽屋に殴り込みにいったらきょとんってしてたけど、あそこまであからさまだと誰だってすぐ分かるわ。</p>
<p> </p>
<p>朝倉がちらりとこちらを見る。</p>
<p> </p>
<p>『わたしの言うことを聞かなきゃ、まとまらないじゃない』</p>
<p> </p>
<p>指揮者でもないのに、ここでもなの?あなた、自分の意見ばっかりよ。<br />
みんながいるの、みんなの言うことを聞かなきゃ。全然民主的じゃないわよ。</p>
<p> </p>
<p>空気中に火花を散らしたまま、ピアノとドラムは鳴り続ける。</p>
<p><br /><strong>フィニッシュ</strong></p>
<p> </p>
<p>終わりの定番のコードを鳴らす。ドラムが鳴りやむ。音が、ホールに反響する。</p>
<p>気持ちよかったわ!楽しかったっ!</p>
<p> </p>
<p>そして周りを見る。</p>
<p align="center"><br />
沈黙。</p>
<p><br />
…あれ?あたし、なんか間違ったことしたかしら。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<hr /><center>パチパチパチ</center>
<p> </p>
<p> </p>
<p>一人、小さく拍手が響く。</p>
<p><br />
「すばらしいです、みなさん」</p>
<p> </p>
<p>埼玉県松伏町にある音楽ホール、『エローラ』</p>
<p> </p>
<p>音楽作曲界の権威、故・芥川 也寸志氏
のアドバイスにより、極限までクラシックの音の響きを追求したホール。万一、芥川也寸志が誰だか分からなかったら…JASRACの理事長だった人だと言えば十分ね。</p>
<p> </p>
<p>最高の反射音を求めて敢えて小さめに作られたこのホール、クラシック界の数々の有名人がここでリサイタルをしてる。</p>
<p> </p>
<p>そのホールに、佐々木さん、キョン、朝倉、有希、そして…あたしがいる。佐々木さんは客席でにこにこしていて、それ以外は舞台で固まっている。</p>
<p> </p>
<p>「まさか、『神々の楽器』スタインウェイをあんな風に叩いて演奏できるなんて、涼宮さん、思いっきりがありますね」</p>
<p> </p>
<p>ここのピアノはスタンウェイの、とびきり上級なピアノ。バカみたいに叩くピアノじゃないけど、どうせこの町の予算でしょ、あたしには関係ないわ。<br />
佐々木さんはちょっと変わった笑い方で笑う。フランスではこの笑い方が普通なのかしら。少し間をおく。</p>
<p> </p>
<p>「それでだ、文句があるのは…」</p>
<p>視線はキョンを向いていた。すこし怒った感じでむすっとするキョン。</p>
<p> </p>
<p>「いや失礼。そういう意味じゃないんだ。ただ、キミとここで『協奏』したことを思い出してね」</p>
<p> </p>
<hr /><p align="center">非日常・1<br />
 <br />
『神童 佐々木・凱旋来日コンサート』</p>
<p align="center"> </p>
<p>わざわざ遠くから学校をさぼってここに来た理由は、あたしが地味にクラシックが好きで、その中でもクラリネットについては、佐々木さんの大ファンだったからだ。
本当は海外での公演も行きたかったんだけど…あたし、パスポート持ってないし、お金もそんなにある訳じゃないし。だから、</p>
<p> </p>
<p>あの神とさえ言われた天才クラリネット・佐々木さんが日本にやってくる。あの深い、深い音が、直に聞ける。</p>
<p> </p>
<p>それだけで踊り出しそうだった。</p>
<p> </p>
<hr /><p align="center">神・2(キョン・カットイン)</p>
<p> </p>
<p>ええと…確かに得意だと大きな事を言ってしまったが、俺の英語は山奥深くの東北弁より分かりずらいぜ。<br />
そんなんでよいなら、この愚漢、汝に日本語を教授いたそう…</p>
<p> </p>
<p>「いいや、そんなたいそうなものじゃないんだ。サボタージの意味がフランス語と日本語で違っていたから、もしやと思ってね」</p>
<p>ササキはこちらを見て笑う。疑問符を付けて、</p>
<p> </p>
<p>「『ピアノ』は日本語でどういう意味かい?」</p>
<p>…そのまんまじゃね~か、返答に困る。まあ、とりあえず返事をしよう。</p>
<p> </p>
<p>[Piano]</p>
<p>ササキはそれを聞いて首をかしげる。いや…ピアノの英訳はピアノに決まっている。 これに限って、断じて訳が間違ってるわけがない…はずだ。 <br />
ササキの質問は続く。</p>
<p> </p>
<p>「では、ここに書いてある、『ピアノ演奏・佐々木』とはどんな意味かい?」</p>
<p> </p>
<p>言うまでもない、これもそのままに近いだろう。</p>
<p> </p>
<p>[Pianist・Sasaki]</p>
<p> </p>
<p>言ったとたん、ササキは普通に笑い始めた。いや違う、大爆笑…</p>
<p>しばらくこの笑いは止まりそうにない。<br />
…なんだ、何があった。</p>
<p> </p>
<p>「…何故、パンフレッドに『BABY ELEPHANT WALK(子象の行進)』と書いてあるんだろか。しかも、何でピアニストが僕…なんだい?」</p>
<p> </p>
<p>
ええと、よく分からんが。ここにそう書いてあるなら、この佐々木の専門はピアノだったんだろ?あと、もう一つ気になるのは、このパンフレッドの日付が今日だって事だ。</p>

復元してよろしいですか?