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しあわせⅠ」を以下のとおり復元します。
<p> 「……と、これが条件だ。これが出来なければ文芸部室は生徒会のものとする」 </p>
<p><br />
「ふんっ!1回負けてるくせにまだ勝負する気?片腹痛いわ!」 <br /><br />
「これは勝負などではない。勧告だ。別にせずに明け渡しといった流れでも私は一向に構わないのだが」 <br /><br />
「臨むところよ……見てなさい!生徒会!!」 <br /><br />
「言われなくとも監視はするつもりだがね」 <br /><br />
はあ、やれやれだ <br /><br />
生徒会長がわざとらしく俺と長門を呼び出したと思えば、「おい、涼宮ハルヒにこれを渡しとけ。新しい企画考えんのもめんどくさいからまた同じお題にしてやったんだから感謝しろよ」とのたまりやがった。 <br />
「これ」というのは一枚の藁半紙に印刷された書類(プリントといった方が適切かもしれん)であり、 <br />
そこには「文芸部の活動として、今年度中にも機関紙を発行すること。但し、学内文科系部活動推進活動(こんなめんどくさいもんまでやってやがったぞ機関もとい生徒会とやらは)による部費拡張に伴い、機関紙を夏季と冬季の二度に渡って発行すること。 <br />
尚、発行部数は300部とし、発行できなかった場合や発行部数分が配布できなかった場合には即座に文芸部室を生徒会に明け渡すこと」といった旨のことがあの生徒会長の仮の姿らしい嫌味な文体で書かれていたのである。 <br /><br />
それを見た団長様は、案の定「今年もやってきたのね生徒会!!」とおほざきになり、生徒会室へ俺のネクタイを掴んでインターハイ出場クラスの速度で猛ダッシュし、上述のやり取りが繰り広げられたわけである <br /><br />
もう一度言おう。 <br />
……はあ、やれやれだぜ <br /><br />
ところでハルヒ、俺は今年も恋愛小説を書けばいいのか? <br /><br />
「前回と一緒なんてもってのほかよ!ほら、ここにクジを用意したわ!!一部を除き前回とは趣旨を変更してあるからさっさと引きなさい!!」 <br /><br />
なんとまあ。 </p>
<p> </p>
<p>ハルヒから近い順に長門、朝比奈さん、古泉、そして俺と団長……もとい、編集長特製のクジを引いていくらしい。 <br /><br />
長門が引いたのは……恋愛小説か。ふむ、ここは鉄板でクジの変更もなかったと見える。 <br />
それにしても長門は恋愛小説なんてかけるのか?一抹の不安が胸をよぎる <br /><br />
朝比奈さんは……SFか。前回はあえて入れなかったと言っていたな <br />
それにしても朝比奈さんの書くSFとは……とてもSFとは言えないようなメルヘンなものかいや待てあの人のことだうっかり未来のことなど書きかねんぞむむむ…… <br /><br />
思考を走らせているうちに古泉の番らしい。古泉がひいたのはなんぞや? <br /><br /><br /><br />
同性愛………だと? <br /><br />
おい待て微笑むな。こちらを見るな。頬を赤く染めるなああああ!! <br /><br />
「最後はキョンね、さっさと引きなさい!!」 <br /><br />
へいへい言われなくても分かってますよっと <br /><br />
ん?残りクジは一枚じゃないのか。複数枚あるってことは……なるほど、またもや鶴屋さん谷口国木田にも手を借りる気なのか <br />
鶴屋さん、お手数かけますホントに……国木田も大変だな。谷口?あんなやつは知らん <br /><br /><br />
さて。考えるのはこのくらいにして、クジを引くとしようかね <br />
俺は一番最初に手に当たったクジを引き抜いていた。こいつはなんだ? <br /><br />
幻想ホラー……か <br /><br />
「あら、あんたがそれを引き当てちゃったのね。あたしは古泉くんか国木田あたりが引き当てるのを待ってたんだけど……まあ、仕方ないわよね、クジだもん」 <br /><br />
おい待てハルヒ。俺は幻想ホラーと言われてもなにを書けばいいのかなんてさっぱり分からんぞ <br /><br />
「それを考えるのがあんたの仕事じゃない。〆切は今から一週間後!!一秒でも遅れたら死刑だから!それじゃあ、作業始め!!」 </p>
<p> </p>
<p>ぬぬう <br /><br /><br /><br />
結局その日一日考えても幻想ホラー小説の原稿の「げ」の字も浮かばなかった俺は、前回ぴーぴー言いながら妹の友人の恋愛小説(断じてロリコンではない) <br />
を書き上げたことを省みて、1ページでも進めておこうと考えてノートパソコンを自宅にお持ち帰りしていた。 <br /><br />
「全く……どうしたものかね…」 <br /><br />
そういえば去年の機関紙があったな…… <br /><br />
幻想ホラーは……おっと、長門のアレだったか。参考にならんな <br />
去年の同じテーマの小説をパクrゲフンゲフン参考にするつもりでいたのだが、どうやらその望みも絶たれたらしい。 <br />
それならば猫の手も借りたいとばかりにシャミセンをゆすってみてもネタのネの字も出てくるわけも無く、藁にもすがる思いで妹に聞いてみても <br />
「しらなぁい。キョンくんが自分で考えなきゃダメだよ?それよりもお風呂出たら宿題教えてね。さんすう~どりーる~ん!」と言われただけであった。 <br />
つーか。俺に自分でやれって言うならお前も自分でやれよな算数ドリル <br /><br />
「……ん?」 <br /><br />
なんだろう、この違和感は。 <br />
過去に味わったような……そうだ、雪山での長門襲撃事件のときにもこんな感覚に陥ったんだ。 <br />
あのときはなにが引っかかったんだ?たしか……古泉が竪琴を……まあ、そのことはいい。今はなにが引っかかった? <br /><br />
「そうだ…」 <br /><br />
今年の春先、その台詞の後に電話を掛けてきたやつのことを、俺は思い出していた。 </p>
<p> </p>
<p>渡橋泰水……いや、ヤスミと言ったほうがいいのかもしれない。 <br />
例の事件でα世界を盛大に引っ掻き回して行ってくれた人物である。結果、あいつのお陰で事件は最悪の結果を辿らずに済んだわけだがな。 <br /><br />
俺はあの事件のあと、ヤスミと会ったときのことを思い出した。……そう、あれはSOS団創立一周年パーティが終了した日のことであった <br /><br /><br />
パーティが終了し、家路につこうとしていた俺であったが、なんだか無性にキャッチボールがしたくなった。 <br />
それで古泉を誘ってみたところ、「いいですね。んっふ」との答えが返ってきたので、ハルヒたちを先に帰し、運動場でキャッチボールを開始した。 <br />
そして古泉の放った「古泉つなぎカーブ」を後ろにそらしてしまい、ボールを拾いに走ったところで俺はそいつに出会った。 <br /><br />
「こんにちは。えへっ、最後に来ちゃいました」 <br /><br />
ヤスミはそう言うと、俺の拾おうとしていたボールを拾い、小走りでこちらへ歩み寄ってきた。 <br /><br />
「ボールどうぞ。よかったぁ、最後に先輩の顔を見ることが出来て。あ、古泉先輩もこんにちは」 <br /><br />
気が付くと、いつのまにか古泉まで俺のすぐ近くまで来ていた。ニヤケスマイルを120%くらいにまで強化し、ヤスミのことを眺めていた。 </p>
<p>「こんにちは、渡橋さん。それより、最後に……というのはどういうことですか?」 <br />
「あん、分かってるのに意地悪言わないでください。言ったとおりの意味です」 <br />
古泉は「なるほど」と言って小難しい顔で考え込むような動作に入り、それ以上口を開くことは無かった。 <br /><br />
「言ったとおりってどういう意味なんだよ」 <br />
「だから言ったとおりなんです。それより上でも下でもありません」 <br />
それが分からねえから訊いてんだろうが。しかし古泉から聞いていたヤスミの正体から考えてみると、うっすらではあるがヤスミの言おうとしていた事柄の輪郭が分かる気がした。 <br /><br />
「あっ、今日はそれだけじゃないんです。先輩にこれを渡そうと思って……」 <br />
そう言ってヤスミが俺に手渡したのは、シャミセンがすっぽり入りそうな大きさの箱だった。 <br />
「これはなんだ?」 <br />
「家に帰って開けてみてください。それまでのお楽しみって事で。あっ!!でもでも怪しいものではありません。妹さんにでもどうぞ」 <br />
妹にねえ。……ますます気になるぞこりゃ <br />
「今日はこれを渡しにここまで来たんです。目的は果たしましたし、あたしはもう帰りますね。先輩方も、あんまり遅くならないうちに帰ったほうがいいですよ、それじゃあ……」 <br /><br />
「ヤスミ!!」 <br /><br />
気が付くと、俺はヤスミを呼び止めていた <br /><br />
「……なんですか?」 <br />
「……還るのか?……閉鎖空間に」 <br />
俺がそういうと、古泉は俺の肩に片手を乗せ、ゆっくりと首を左右に振った。あまり深く追求するなという意味だろうか。 <br />
「……そんな感じです。でもちょっと違うような……まあいいです、さようなら!」 <br />
そう元気に言い残し、ヤスミは運動場の出口に向かって走って行った。 <br />
団室にボールとグローブを片付けて、俺らが帰ろうとヤスミの走っていった方向へと歩を進めたとき、当然ながら、そこにはもう誰もいなかった。 <br /><br />
ヤスミがくれた箱の中には、某リス的生命体のおうちのようなメルヘンな家らしきものが入っていた。 <br />
「キョンくーん、なにそれー?」 <br />
「ああ、こないだ家に来て猫と遊んでったやつがいただろ?そいつがくれたんだよ」 <br />
「ふーん。ねね、触ってみてもいーい?」 <br />
「ああ。壊すなよ」 <br />
ポロン ポロロロロン ポロロロロン <br />
妹が家の扉を開けると、ピアノの音色が聞こえてきた。どうやら扉を開けるとピアノの音が出る仕組みらしい。中には女の子が一人、ピアノの前で座っていた。 <br />
「ん?」 <br />
この女の子の人形……どこかで見たことがあるような……いや、正確には頭の……… <br /><br />
「キョンくーん」 <br /><br />
ぬわ、びっくりした。 <br />
「このお人形、動かないよー」 <br />
妹曰く、ピアノの前から動かないらしい。俺が知るかよそんな事。 <br />
人形がピアノの前から動かなかったせいか我が妹は即座に飽きたらしく、その人形の家は俺の机の一番下の引き出しのスペースに放置されていたのであった。 <br /><br />
「そんなもんがあったのすっかり忘れていたな……」 <br />
俺はなんだかその家を見たくなり、気が付くと机の上に人形の家をセットしていた。そして中の人形を確認し…… <br />
「………間違いないよなあ」 <br />
そう、俺があのときに気になった人形の頭部には、小さな黄色の髪飾りがつけられていた。そしてその髪飾りは………ヤスミのものと同じ柄であった <br />
ひょっとして、閉鎖空間に還るというのは…… <br />
「そんなわけねえか」 <br />
頭の中に浮かびかけた超SF的展開を振り払いつつ、俺はそろそろ眠りにつくことにした。 <br />
「……ん?」 <br />
なぜか頭の中に生徒会長とノートパソコンが浮かんだが、俺はそれを無視して睡魔に身を委ねた。 <br /><br /><br />
―――後にして思えば、あれは天啓のようなものだったのかも知れなかった </p>
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