恋の病・恋の熱
<div class="main"> <div>恋の病・恋の熱<br></div> <br> <div>また、あいつと違うグループかぁ……。<br> 今日は土曜日。<br> 毎週お馴染みの探索の日。<br> あたしは午前はみくるちゃんと二人で、そして今引いた午後の探索は、古泉くんと二人になった。<br> なんで、こんなに離れちゃうんだろ……。<br> 「…ず……さん?…涼宮さん?」<br> 「あ、え?ど、どしたの?古泉くん。」<br> 「どうしたも何も……涼宮さんがいきなり立ち止まったのでしょう?」<br> あれ?あたし…いつの間に?<br> 「あ、あはは。ごめんね、ちょっと考えごとしちゃった!さ、行きましょう!!」<br> </div> <br> <div> あたしは古泉くんと一緒に北側の探索を始めた。<br></div> <br> <br> <div>時間は流れて、集合時間まではあと1時間。<br> あたしは古泉くんが話があると言うから、今、公園のベンチに座っている。<br> 「ウーロン茶でよろしかったでしょうか?」<br> 「あ……ありがと。お金…」<br> 「僕からの話ですからお金は結構ですよ。」<br> 古泉くんが優しい笑顔を見せながら気遣う言葉、あいつもこれくらいの優しさを見せないかしら。<br> 「ふふふ、涼宮さん。よろしかったら先程の《考えごと》とやらの相談に乗りますよ?」<br> 「へっ?い、いや!い~のよ!なんでもない事だから!」<br> 「大丈夫ですよ、僕は涼宮さんの味方ですから。……キョンくんのことでしょう?」<br> 古泉くんは、なんでもわかってるみたい。<br> ……たまには頼っても…いいよね…。<br> 「うん……。最近、キョンと一緒にいない時、なんかこう……胸が締め付けられるの。それで、あいつのこと考えると…胸がドキドキして……切なくなるのよ。」<br> 古泉くんは、少し苦笑して答える。<br> 「なるほど。それで今日も浮かない顔だったんですね。それにしても、こんなに正直に答えてくれるなんて…。」<br> あんたが言わせたんでしょっ!!……とは言えないわね、相談してる身だし。<br> </div> <br> <div> 「ほんと、困ってるのよ。なんか……考え出すと止まらないの。」<br> 「……僕が思うに、《恋の病》と言うものでしょう。彼の事を思うと、何にも手につかなくなるという症状ですね。」<br> え?恋愛って精神病よね?<br> あたし、キョンのことを……?<br> ただ、キョンといた方が楽しいだけ、じゃないの?<br> あたしが考えていると、古泉くんが声をかけて来た。<br> 「あなたも、キョンくんに負けず劣らず鈍いですね。僕はここで待っていますから、《涼宮さんにとってのキョンくん》がどの様な存在か、しっかり考えて下さい。」<br> </div> <br> <div>あたしにとってのキョン?<br> SOS団の団員その1で……一緒に居て楽しい奴。<br> それだけ?…ほんとに?<br> わからない。頭が痛い。<br> あ、ダメだ。クラクラする……。<br></div> <br> <br> <div> 気がつくと、あたしはそのベンチに横たわっていた。<br> みんなの姿が見える、……キョンもいる。<br> 「ハルヒっ!大丈夫か!?」<br> キョンが心配してくれる、嬉しい……のかな?<br> それより、あたしはどうしたんだろう。頭が痛い。<br> 「いきなりぶっ倒れたって聞いて、こっちに来たら…凄い熱だぞ、お前。」<br> さっきまで、なんともなかったのに…。<br> 今は喋るのも辛い。<br></div> <br> <div> 「みんな、ハルヒは俺がチャリで家まで送るから、今日は解散してくれ。それでいいな?ハルヒ。」<br> あ、今日のキョンはなんかかっこいい。<br> 男っぽくて、頼りになる。<br> あたしは、キョンに向かって小さく頷き、そのままキョンに体を預けた。<br> </div> <br> <br> <div>あたしは、キョンに連れられて、家の前に来た。<br> 自転車の上では、何もわからずに気がつくと家の前にいた。<br> キョンがインターホンを鳴らす。<br> あ、ダメよ。今日は親がいないの。<br> まだ鳴らし続けるキョンに、あたしは声をかけた。<br> 「きょ………親、いない…の。鍵……カバンにある、から…。」<br> 喉が渇いてるのか、声が上手く出せない。<br> キョンの前で……恥ずかしい、格好悪い。<br> 「わかった。無理に喋るなよ、部屋まで連れてくから。」<br> やっぱり、今日のキョンは優しい。<br> ……今日くらい、甘えてもいいよね?<br> あたしは、キョンに抱かれて家の中、あたしの部屋まで連れて行かれた。<br> 「キョ…ン……水…ちょう、だい。」<br> たぶん、水さえ飲めば話が出来る。<br> キョンと話がしたい。<br> 「水だな?わかった、コップは勝手に使うぞ?」<br> と言うと、キョンはすぐに台所に向かった。<br> あたしは、キョンが持ってきた水をすぐに飲み干した。<br></div> <br> <div>うん、喋れそう。<br> 「キョン……ありがと。」<br> ダメ、お礼だけでもドキドキしちゃう。<br> ……あたし、ほんとに惚れたみたい。<br> 「よかった…、声は出せるようになったか。少しは楽になったか?」<br> 「うん、だいぶ楽になったわ。」<br> 「そうか、熱は……っと。」<br> キョンがあたしの額に手を当ててきた。<br> そんなに近付いたら、あたしの胸の音、聞こえちゃうかも…。<br> 「うん、熱も少しは引いたみたいだな。」<br> もう…ダメかも。<br> 二人になるチャンスなんて無いかもしれない。<br> 自分の気持ち、今伝えないと後悔する。<br> 「ねぇ、キョン……。」<br> ドキドキする。鼓動が早くなるのがわかる。<br> 「どうした?また、水か?」<br> ふふふ、キョンらしい返事だわ。<br> 「違うの。……今日、熱出した理由、あたしわかっちゃった。」<br> 「は?……大丈夫か?薄着したとかか?」<br> やっぱり、優しい。あたしが弱ってるとキョンは心配してくれるんだ。<br> 「…あんたのせいよ。あんたが、あたしの頭の中、独占しちゃったせいで考え過ぎて熱が出ちゃったの。」<br> 「……ハルヒ、そんな考えはお前らしくないんじゃないか?そもそも、恋愛は精神病の一種じゃなかったのか?気の迷いだったか?」<br> </div> <br> <div> やっぱり、言われると思った。……でも、退けない。<br> 「……しょうがないじゃない、気付いたんだもん。あたしは、あんたが好き。気の迷いでも、なんでもない。……ほんとに好きなの。」<br> 「……………………。」<br> キョンが、黙る。<br> 怖い、返事を聞くのが怖い。<br> やっぱり、言わなきゃよかった。今までの日常を無くすのが、怖いよ……。<br> 「あっ……痛い。頭が…。」<br> 「ハルヒ!?大丈夫か?」<br> ごめん、嘘。<br> こう言えば、キョンなら近くに来てくれるから。<br></div> <br> <div>チュッ。<br></div> <br> <div> あたしは、キョンにキスをした。もう、心臓が破裂しそう。<br> 「ハ、ハルヒ……?」<br> ごめん、キョン。ごめん…<br> 「帰って?ごめん、ありがと。だけど……帰って。」<br> ほんと、あたしはダメな女だ。<br> 「お願い…ごめん……。」<br> あたしは、気がつくと涙を流していた。<br> キョンは、何も言わずに部屋を後にしてくれた。…ありがとう。<br> </div> <br> <br> <div>今日で三日も、学校を休んでる。<br> 熱は、とっくに引いてるけど足や、心が学校に行こうとしてくれない。<br> たぶん、あたしはキョンに会うのが怖いんだ。<br> キョンに『ごめん』って言われるのが、怖いんだ。<br></div> <br> <div> お母さんは、何も言わずに接してくれてる。迷惑かけてるのに、ありがとう。<br> 今日も何をするでもなく、ベッドに寝たままテレビを見ていると、メールの着信音。<br> キョンからだ。<br> 『今日、お前ん家に行くからな。』<br> キョンらしく、余計な物のない文。少し、笑っちゃう。<br> そういえば、今は昼休みの時間だっけ?<br> まぁいいわ、どうせ放課後まで時間はあるんだし……少し、眠ろう……。<br> </div> <br> <br> <div>ん……頭、撫でられてる?<br> 誰かな…お母さん?<br> 「いつから俺はお前の母さんになったんだよ。」<br> 「……っ!?キョンっ!?」<br> びっくりした。なんで、キョンが…?<br> あ、もう5時半か……。<br> 「ったく、大声出すなよ。体調は…どうだ?」<br> こんな無防備な姿、見られちゃった。…恥ずかしいよ。<br> 「まあまあ……よ。」<br> なんとも無いの、わかってるのかな。<br> 「そうか、なんとも無いのか。そりゃよかった。」<br> ……やっぱりわかってた。少し、嬉しいかも。<br> 「……それで、何しに来たのよ。」<br> 返事なら……いらない。キョンが来てくれただけで嬉しいから。<br> 「ハルヒ………ごめん。」<br> 今……『ごめん』って?<br> やだ、やだ、やだ。その言葉だけは聞きたくなかった。<br></div> <br> <div> キョンに嫌われるくらいなら、いっその事、あんなこと言わなきゃよかった…。<br> あたしは、気がつくと泣いていた。<br> 涙が止まらない。<br> 「最後まで聞け!!」<br> キョンが怒鳴る。怖いよ……聞きたくない。<br> でも、声は聞こえてくる。<br> 「ハルヒ…ごめんな。俺、お前が好きだった。ずっと好きだったけど、誤魔化して、逃げてた。」<br> ……え?今、好きって言ったのかな…耳ふさいでて、聞こえなかった。<br> 「今……ひくっ、今、なんて言ったの?」<br> 「耳塞いでるからだ。…もう一度だけ言うぞ。大好きだ、ハルヒ。」<br> 嬉しい。さっきまでの不安が、どっか行ったみたい。<br> 「ありがと……ありがと、キョン。」<br> あたしはキョンに抱き付いた。キョンも、あたしを受け止めてくれた。<br> キョンが優しい間に、あたしが元気を出す前に、最後に甘えよう。<br> 「ね、キョン。……キスして?」<br> あたしは目を瞑る。キョンがどんな顔をしてるかはわからない。<br> それでも、キョンはちゃんと口付けてくれた。<br> ドキドキする。……良い意味で。<br></div> <br> <div> キョンは部室に行ってあたしが元気だったと伝えるらしく、帰り支度をして、部屋を出る。<br> あたしが玄関まで送って行った時、不意にキョンが口を開いた。<br> 「結局、お前の病気って何だったんだよ。」<br> 何かしら?……ここは古泉くんの言葉を借りとこう。<br> 「ん~……恋の病よ!」<br> あたしはそう言って、キョンにウインクをした。<br></div> <br> <div>終わり<br></div> </div> <!-- ad -->