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初恋2」を以下のとおり復元します。
<p class="main">翌日、SOS団部室。<br>
その日の授業は結局ちっとも耳に入らず、終始昨日の偶然の再会に考えをめぐらせていた俺は、<br>

終業のベルが鳴るや否やすぐに席を立ち、まっすぐ家に帰ろうとした・・・が、<br>

「ちょっとキョン!わかってるでしょうね?」<br>
と、俺の背後にそびえ立つ不動明王、涼宮ハルヒ様に見事に捕獲されてしまった。<br>

そのまま首根っこを掴まれ、ズルズルと引きずられていく俺。<br>

ああ・・・そういえば今日はこの拷問にも近いイベントが待ってたんだな・・・。<br>

<br></p>
<p class="main">
既に部室には俺とハルヒ以外のメンツが勢揃いしていた。<br>

ボンと床に投げ出される俺。もうちょっとそっとしてくれないもんか。<br>

ハルヒはそんな俺を意に介す風もなく、普段の団長席にドカンと鎮座した。</p>
<p class="main"><br>
<br>
「みくるちゃん!お茶!」<br>
そう言い放つハルヒ。<br>
朝比奈さんがおずおずと『団長専用』と書かれた湯飲みにお茶を注ぐ。<br>

ハルヒは見るからに熱そうな湯気を立てているそのお茶をズズーッと一気に飲み干すと、<br>

「ガンッ!」と湯飲みを机に叩き付け、睨みを利かせて言った。<br>
</p>
<p class="main">
「さあキョン!今日こそあんたのその初恋とやらについてキリキリ白状してもらうからねっ!」<br>

途端、長門、古泉、朝比奈さんとその他3人の視線が俺に集まる。<br>

「どうしても話さなきゃダメか?」<br>
それでも諦めの悪い俺は逃げ道を探す。<br>
「ダメに決まってるでしょ!?」<br>
Oh!ジーザス!コレはもう覚悟を決めるしかなさそうだ・・・。<br>

<br>
<br>
その後俺は延々と自分の初恋について語った。<br>
チクショウ、改めて語るとこんなに恥ずかしいもんだなんて思わなかった・・・。<br>

そして俺の話は、ねーちゃんが見知らぬどこの馬の骨とも知れない男と駆け落ちをしてしまった、<br>

というところで一応のオチを見た。<br>
昨日の再会について?そんなもんこの場で話せるわけはない。<br>
</p>
<p class="main">
俺が話している間は皆一様に押し黙っていたが、オチたと見るや否やハルヒが得意げに語りだす。<br>

「ふん、ヘタレのキョンにはお似合いな結末よね。<br>
 だから言ったじゃないの、恋愛感情なんてのは精神病の一種にしか過ぎないのよ」<br>

「まあ、そうかもな」<br>
俺はそんなハルヒの刺々しい言い方にも波風ひとつ立てることなく冷静に返してみせた。<br>

なんというか、そういう反応は予想してたしな。<br>
ハルヒのような特異な精神構造の持ち主には俺の淡い恋心なんて理解できないだろうよ。<br>

<br></p>
<p class="main">
「でも憧れの従姉妹のおねーさんですか・・・なんか素敵な響きですよね」<br>

とはお盆を抱きしめてウットリとしている朝比奈さんの弁。<br>

「そんな大層なもんじゃありませんよ」<br>
謙遜する俺に今度は古泉が言葉を投げてくる。<br>
「いずれにせよ、初恋は美化されますからね。あなたの記憶にもそれなりに良いものとして残っているのではないですか?<br>

 それに報われなかった初恋があってこそ今のあなたがあるのでしょう?<br>

 過去は過去のものとして割り切って、今は将来だけを見据える。そういう姿勢が肝要だと思いますね」<br>

やけに舌が滑らかな古泉。まあどんな立派なことを言おうが変態は変態だ。<br>
</p>
<p class="main">それにしても「過去の話」ね・・・。<br>
昨日のねーちゃんの笑顔、そしてメール、「いつか街を案内してね」というお誘い、<br>

そういったものが次々と思い出される。<br>
俺は視界の端に既に俺達の話に興味を失ったのか、再び本の虫になってしまっている長門の姿を収めながら、<br>

ボーっとねーちゃんの姿を思い浮かべていた。<br>
<br>
<br>
その日は俺の過去の傷跡を掘り返しただけで、団活は終了した。<br>

結局最後まで、ねーちゃんとの再会についてハルヒ達に話すことはなかった。<br>

むしろ話せなかったといった方が正確かな・・・。<br></p>
<p class="main">
家に着き、自分の部屋に戻ると俺は自分の携帯にメールの着信があることに気付いた。<br>

ねーちゃんからだ。<br>
『で、キョン君の空いている日はいつ?』<br>
とのことだ・・・ってしまった!<br>
昨日のねーちゃんのメールを俺は返信もせず放置していたんだ!<br>

俺は慌てて返事が遅れたことに対する謝罪の旨と、<br>
基本的に学生なので土日は完全にヒマであることを打ち込み、送信した。<br>

待つこと数分、返信が来る。<br></p>
<p class="main">『全然気にしてないよっ!<br>
 それじゃあ今週の土曜日なんかはどうかな?』<br>
土曜か・・・今のところ何の予定もない。<br>
俺は承諾の意を打ち込むと再度送信した。<br></p>
<p class="main">
それから数回、詳細な待ち合わせ場所や時間についてのメールのやり取りを行った。<br>

そして最後にねーちゃんが送ってきたメールにはこんなことが書かれていた。<br>

『これって2人きりだし、デートだよね?<br>
 おねーちゃん楽しみにしてるよっ!<br>
 キョン君ちゃんとエスコートしてね♪』<br>
若い男女が2人きりで出かけるということはまさにデート以外の何ものにも形容しがたい事実だ。<br>

しかし、改めてそれを認識してしまった俺は言いようのない恥ずかしさに襲われた。<br>

ねーちゃんとデートか・・・。<br>
<br>
<br>
そしてそんなデートを明日に控えた金曜日。<br>
SOS団のいつもの部室にいつものメンツ。<br>
朝比奈さんはいそいそとメイドさんのお仕事に勤しみ、<br>
長門は分厚い専門書を静かに読みふける。<br>
俺と古泉はオセロで対戦中。<br>
ハルヒは相変わらずネットサーフィン。<br>
今日も何の代わり映えのない日常の風景がそこにはある・・・はずだっ。<br>
</p>
<p class="main">
その「バンッ!」という音が響いたのはハルヒの座る団長机からであった。<br>

どうやら机に思いっ切り手をついたらしい。皆の視線がハルヒに集まる。<br>

ハルヒはキッと室内を見渡し、<br>
「最近たるんでるわ!!」<br>
と叫んだ。<br>
<br>
「毎日毎日部室で溜まってはくっちゃべってばっかり!いつからSOS団はこんな非生産的な集団になったのよ!?」<br>

元々この謎の組織が何らかの生産的な意図をもってして結成されたものとは俺には到底思えないのだが・・・。<br>

「あたし達SOS団の活動目的は何?みくるちゃん!言ってみなさい!」<br>

いきなり振られて目に見えて動揺する朝比奈さん。それでも何とか言葉を搾り出した。<br>

「ふええ~、宇宙人、未来人、異世界人、超能力者を探して一緒に遊ぶことですぅ~・・・」<br>

「その通り!」<br>
その4人の内3人はここにいるんだし、すでにその目的は達しているといっても過言ではないのだが・・・。<br>
</p>
<p class="main">
「とにかく!あたし達はもう1回原点に戻るべきだわ!」<br>

この意味不明な活動内容に原点なんてもんがあったのか。<br>

てっきりスタートラインに立ち尽くしたまんまだと思っていたのだが。<br>

<br>
<br>
エンジンのかかったハルヒは止まらない。<br>
ほっとけば地平線の彼方まで走っていってしまいそうだ。<br>

「よって!今週から市内不思議探索パトロールを再開します!」<br>

<br>
そうなのだ。<br>
ここ最近あの週末の市内探検という名目のただの意味のない散歩のような活動は行われていなかったのだ。<br>

俺としては無意味な体力を使うことも、到底納得の行かない理由で財布の中身が磨り減っていくことも減り、万々歳だった。<br>

まあ、朝比奈さんとペアで散歩できるなんてオイシイチャンスがなくなってしまったのは少し寂しいがな。<br>
</p>
<p class="main">
「ついては早速明日!土曜日にパトロールを行うわ!みんな、絶対来なさいよね!」<br>

高らかに悪しき慣習の復興を宣言するハルヒ・・・ってちょっと待て。<br>

今週の土曜日って・・・ねーちゃんと出かける日じゃないか・・・。<br>

ハルヒは既に俺以外のメンバーの週末の予定を聞き始めている。<br>

どうやら皆週末は暇を持て余していたらしい・・・。<br></p>
<p class="main">
「んでキョン!あんたは勿論参加よね!?」<br>
ああとうとう振られちゃったよ、と考えている暇すら与えず俺に肯定の意を要求してくるハルヒ。<br>

少し迷っていた俺だったが・・・一瞬ねーちゃんの笑顔が脳裏によぎった。<br>

すると自分でも不思議なのだが、自然と言葉を発してしまっていた。<br>
</p>
<p class="main">
「悪い。明日は用事があってな。参加できない」<br>
俺はシンプルに、そう答えていた。<br></p>
<p class="main">目に見えてムッとした表情になるハルヒ。<br>
「何よ、神聖な活動の一環であるパトロールをサボるだなんて、よっぽど大層な用事でもあるの?」<br>

素直に答えるわけには・・・いかないよな。<br>
「実はだな、今週になってまたシャミセンの具合が悪いようでな。餌も余り食わない。<br>

 俺は別にたいしたことはないと思ったんだが・・・妹がうるさくてな。<br>

 大事をとって明日動物病院に診せることになったんだ。生憎明日は親父もお袋も不在でな。<br>

 そうすると必然的に俺が連れて行くしかないわけだ」<br>
シャミセンをネタに使ったのはコレで2度目だ。<br>
正直もっとマシな嘘はつけないもんかと自分を呪った。<br></p>
<p class="main">しかし意外にもハルヒは、<br>
「ふーん、そうなの。じゃあ仕方ないわね。<br>
 全員揃ってなきゃ意味ないし、パトロールは日曜に延期ね」<br>

とあっさり信じてしまった。しかも、<br>
「妹ちゃん、きっと凄い心配してるでしょ?だからちゃんと連れてってあげなさいよね。<br>

 アンタが大したことないって思ってても動物の心や声なんてわかるわけないんだから」<br>

とまで言っている。シャミセンの声を聞いたことがある俺としては何とも複雑な言い分であったが、<br>

それよりもここまであっさり俺の嘘を信用してしまったハルヒに対して軽い罪悪感を覚えた・・・。<br>
</p>
<p class="main">
「ああ、その代わり日曜は必ず参加させてもらうさ」<br>
そう言ったのはせめてもの罪滅ぼしの気持ちだったのかもしれない。<br>

<br>
<br>
そして土曜日。俺はねーちゃんとの待ち合わせ場所である駅の北口改札前に立っていた。<br>

皮肉にもSOS団のパトロールの時の待ち合わせ場所と一緒だ。<br>

待ち合わせ時間は10時。今現在の時刻は9時45分である。<br>
ねーちゃんの姿はまだ見えない。<br></p>
<p class="main">9時55分。次第に緊張してきた・・・。<br>
だいたい俺が女性と2人で出かけることなんて今まで殆どなかったからな。<br>

ミヨキチと映画を見に行った時は確かに2人きりだったが・・・いくらなんでも小学生相手だしな。<br>

・・・そういえばハルヒと2人きりなんてこともあったな。<br>

あの時は俺とハルヒ以外のメンツが揃いも揃って全員欠席だったという事情があった。<br>

それでも1日中ハルヒに振り回され続けてヘトヘトになったのことは今でもよく覚えている。<br>
</p>
<p class="main">
いつのまにか俺は自身の過去のデート経験についての回想に耽っていた。<br>

そして、一度思考に耽りだすと周りが見えなくなるのは俺の悪い癖だ。<br>

さっきからずっと自分を呼ぶ声が上がっていることになかなか気付かなかった。<br>
</p>
<p class="main">「キョン君?おーい起きてるかい?」<br>
いつの間にか目の前にねーちゃんが立っていた。<br>
時刻は10時ちょうど。ジャストオンタイムだ。<br></p>
<p class="main">
ここで俺の視線はねーちゃんのとある体の一部分に移り、そのまま固まってしまった。<br>

その部分とは・・・髪である。<br>
なんとポニーテールだ。<br>
<br>
<br>
「随分早く来てたみたいだね?もしかしたら待たせちゃった?」<br>

バツの悪そうな表情のねーちゃん。<br>
しかし俺はねーちゃんのポニーテールを凝視したまま固まってしまい、何の反応も出来ない。<br>

そんな俺を尻目に、ねーちゃんはすぐに俺の視線が自分の髪型に向いていることに気付いたようだ。<br>
</p>
<p class="main">「ああコレ?」<br>
ポニーを右腕で持ち上げるねーちゃん。<br>
「この前は下ろしてたからね。久し振りに昔の髪型に戻してみましたっ!どうかな?」<br>

そうなのである。昔のねーちゃんの髪型は常にポニーテールだったのだ。<br>

10年前、2人一緒に外を駆け回って遊んでいた頃から、<br>
俺の記憶の中のねーちゃんはずっとそのキレイな栗色の尻尾を風になびかせていたのである。<br>

そして、何を隠そう俺がポニーテール萌えという属性を持つことになる元凶も誰あろうねーちゃんその人なのだ。<br>

「キョン君、ちっちゃい時よくこの髪型を面白がって引っ張ったりしてたね~」<br>

そんなことしてたのか俺。記憶には全くないぞ。<br>
「大学入ってからはさすがに子供っぽいかな~と思って止めてたんだけど、<br>

 キョン君に会ったら何かもう一度ポニーにしてみたくなってね」<br>

栗色の尻尾が太陽の光を受けて輝く。ヤバ過ぎるだろコレは。反則だぜ。<br>

「で、似合うかな?」<br>
「も、勿論ですよっ!凄い似合ってます!」<br>
やっとのことでフリーズ状態から脱した俺は即答していた。<br>
</p>
<p class="main">
よく見れば全体的な服装もこの前に比べ、一段とオシャレになっている。<br>

黒のタイトなミニスカートに白のブラウスという出で立ち。何か本当に朝比奈さん(大)みたいだ。<br>

もちろんスタイルも申し分ない。<br>
すらりと伸びる健康的な白い足、きゅっと締まった腰回り、朝比奈さん(大)程ではないにしろそれなりの大きさの胸。<br>

正直・・・たまりません。<br>
<br>
<br>
「じゃあ行こっか?今日はキョン君が全部仕切ってくれるんでしょ?」</p>
<p class="main"><br>
さて、今回のデートはこの街についてまだよく知らないねーちゃんのために俺が街の案内をするというものであった。<br>

しかし、この街は観光名所でもなんでもないわけで、殊更改まって見せるほどのものがあるわけでもない。<br>

そんなわけで今回のデートでは、街をフツーにブラブラと歩き、ねーちゃんに心ゆくまでウィンドウショッピングなどを<br>

楽しんでもらい、その後は映画でも見て、食事でもして・・・とそれくらいのプランしか俺には考え付かなかった。<br>

我ながらこの発想の乏しさは男して情けないところである。<br>

もしハルヒが相手だったら、こんなグダグダなデートプランは一笑に付された上、散々罵倒されること間違い無しだ。<br>

それでもねーちゃんは文句ひとつ言わず、<br>
「今日は無理言ってもらって付き合ってもらってるんだし、キョン君に全部任せるよ!」<br>

なんて殊勝な言葉さえ投げかけてくれた。<br></p>
<p class="main">そんなこんなでデートが始まる。<br>
まずブラブラ繁華街を歩くついでに買い物に付き合ったわけだが・・・意外なねーちゃんの癖が発覚した。<br>

それは『浪費癖』だ。服やアクセサリーを中心に次から次に買うわ買うわ。俺は勿論荷物持ちだ。<br>

「今求職活動中って言ってましたよね?こんな金使って大丈夫なんですか?」<br>

という言葉がノドまで出掛かったが、結局口に出すことはなかった。<br>

しかし、ねーちゃんはスタイルがいいからか、何を着てもよく似合う。<br>

試着に付き合わされた俺はまるでファッションショーのような<br>

ねーちゃんの目くるめく衣装変化に、全く退屈することがなかった。<br>

もしかしたらメイド服なんかも似合うかもな、朝比奈さんといい勝負かもしれない――<br>

などという妄想を密かにしていたのはココだけの話だ。<br>
ただ、店員さんが試着に付き合う俺を、ねーちゃんの彼氏と勘違いするような素敵イベントは起こらなかった・・・。<br>

「弟さんですか?」って・・・。まあ普通はそうだよなぁ・・・。<br>

<br>
<br>
ファーストフード店で軽めの昼食を摂った後、俺達は映画館に足を運んだ。<br>

話題の大作恋愛映画から先週から封切されたらしい、とのことだ。<br>

『全米が泣いた・・・!』とか大層なキャッチコピーもつけられていることから内容にもそれなりに期待できるだろうし、<br>

デートコースとしてはまあ無難なところであろう。<br>
と、甘く見ていた俺だったが・・・正直言って映画はつまらなかった。<br>

むしろつまらないを通り越してあきれ果てるような内容だった。<br>
</p>
<p class="main">
超能力を持つイケメン少年主人公が未来人の美少女メイドと宇宙から来た美少女アンドロイドとの<br>

三角関係に悩むだなんてどんなトンデモ設定だっつーの。<br>

しかも最終的に超能力イケメン少年は同級生の少年との真実の愛に目覚めるという結末だ。<br>

何じゃそりゃ、観客をナメてるとしか思えない。<br>
ただ何故だろう・・・。不思議と同じような映画をどこかで見た気が・・・。<br>

そして同じようなシチュエーションもとい身の危険を常日頃感じているような錯覚が・・・。<br>
</p>
<p class="main">
「ごめんなさい、つまらない映画選んじゃったみたいで・・・」<br>

自分のデートコース選択のセンスの無さに恥じ入っている俺にねーちゃんは、<br>

「ううん。ああいうの私結構好きだし、つまらなくなんかなかったよ?<br>

 それに最後に主人公と結ばれた同級生役の男の子、なんかキョン君に似てたよね」<br>

と言ってクスクスと笑う。<br>
少し背中の辺りにゾクッとするものを感じる発言であったが、ねーちゃんの言葉は俺に気を使ってのものではなく、<br>

ごく自然な、本音のように思えたのは俺にとっては喜ばしいことだった。<br>

<br>
<br>
そして夕飯はちょっとお洒落なイタリアンレストラン。<br>
こんな店に入るのは生まれてこの方初めてな俺は、何を頼んでいいやらさっぱりだったので適当にパスタにした。<br>

食事中の話題は今日のデートのこと、俺の両親と妹のこと、学校のことなど。いつかもあったありきたりな内容だ。<br>

そんな中、ねーちゃんはいきなり俺の顔をまじまじと見つめ、唐突にこう言った。<br>
</p>
<p class="main">
「キョン君てさ、今付き合ってる彼女とかいるの?」<br>
俺は口に含んでいたアイスコーヒーを吹き出しそうになった。<br>

「な、何すかいきなりっ・・・!」<br>
動揺する俺を尻目にねーちゃんは続ける。<br>
「だってキョン君って結構顔もイイし、性格もイイし。きっとクラスじゃモテるんじゃないかなーって」<br>

そんな言葉を言われたのは生まれてこの方初めてである。<br>

だからって別に非常に悲しくなってきたりはしない、むしろ嬉しい。<br>

「い、いや、そんなことないですって。彼女なんかいませんし・・・」<br>

必死に否定する俺。何だろう、普段なら自分に彼女がいないことをこんな必死に強調することはないのにな。<br>

「ふーん、そうなんだ~。もったいないな~。<br>
 それはきっとアレだね、キョン君の周りの女の子はオトコを見る目がないんだね」<br>

少しムッとした表情になるねーちゃん。<br>
「い、いきなり変なこと聞かないでください!」<br>
焦る俺をねーちゃんは再度まじまじと見つめると、ニコッとあの向日葵のような笑顔を浮かべて言った。<br>
</p>
<p class="main">「じゃあ私がもらっちゃおっかな~♪」<br></p>
<p class="main">
俺は口をあんぐりと開けてアイスコーヒーを滝のようにダラダラと零しそうになってしまった。<br>

「ははっ!冗談だよっ!もしかして本気にしちゃった~?」<br>

ええ、そりゃあしますとも。あんな笑顔で言われちゃあね。ときめかない男なんていないです。<br>

「冗談は程々にしてくださいよ・・・」<br>
「えへへ、ごめんね~」<br>
ポニーを左右に揺らしながら舌を出し申し訳なそうな表情をするねーちゃんであった。<br>

<br>
<br>
その後夕食を終え、会計を済ませて店を出る。<br>
ねーちゃんは、会計は全額自分が出すと言って聞かなかった。<br>

さっきの映画も全額ねーちゃんに奢ってもらっていた俺は、今回ばかりは自分が出すと言ったのだが・・・<br>

「キョン君はまだ学生でしょ?こーいう時はおねーさんが奢るのがジョーシキだよっ?<br>

 それに今日は私が頼んでキョン君に付き合ってもらったわけだし、ココは私が出すのが筋ってものでしょ?」<br>

と、あっさり説き伏されてしまった。<br>
オンナに奢られるオトコ・・・なんかヒジョーに情けない・・・。<br>
</p>
<p class="main">既に時刻は7時を回っていた。<br>
俺は駅前に不法駐輪していた自転車を転がしながらねーちゃんを自宅のマンションまで送ることにした。<br>

散々買い込んだ服などの荷物はママチャリの荷台に縛り付けておいた。<br>

「別にそんな気を使ってもらわなくてもよかったのに・・・」<br>

と、送ってもらうことに対し、申し訳なさそうなねーちゃんだったが流石に俺も男としてコレくらいは<br>

させて欲しいところだったので、無理いって帰りをご一緒させてもらった。<br>

駅から徒歩20分ほど。閑静な住宅街の一角にねーちゃんの住むマンションはあった。<br>

2階建てで1階は半地下。マンションと言うには少し規模が小さいかもしれないが、<br>

オートロックなんかも完備されている、それなりにしっかりした所らしい。<br>
</p>
<p class="main">
それまで並んで歩いていた俺の方に向き直り、ねーちゃんが言う。<br>

「ホントに今日は私のワガママに付き合ってくれてありがとね。楽しかったよ」<br>

「いいんですよ、俺も楽しかったですし」<br>
「じゃあ、また機会があったら一緒に出かけようね。メールもするから」<br>

手を振って、マンションの玄関に入っていこうとするねーちゃん。<br>

「ええ、それじゃあまた」<br>
俺は踵を返し、自転車に跨ろうとしたその矢先・・・<br>
マンションの中に入っていこうと背を向けていたはずねーちゃんがまた俺の方を見つめている。<br>

何やら・・・思いつめたような複雑な顔をしている。<br>
<br>
<br>
「どうか・・・しました?」<br>
跨りかけた自転車から降りて、俺は尋ねる。<br>
相変わらずねーちゃんは黙りこくったまま、下を向いている。<br>

互いに数秒の沈黙。やっとのことでねーちゃんはゆっくり顔を上げ、ポツポツと語り始める。<br>
</p>
<p class="main">「キョン君はやっぱり優しいよね・・・」<br>
その発言の意図は正直掴みかねた。<br>
「いきなりまた・・・どうしてですか?」<br>
「だって私が何で今更こんなところにいるのか・・・その理由に少しも触れないようにしてくれているじゃない?」<br>

「それは・・・」<br>
俺が今まで触れたくても触れられなかった話題だ。<br>
「キョン君も知ってるでしょ?私は彼氏を作って、その人と一緒に・・・両親や親戚の反対を押し切って実家を飛び出してきた」<br>

「そうですね・・・。それは知っています・・・」<br>
「そんな私が今になってどうして独りでこんなところにいるのかって。気にならない?」<br>

「ならないと言えば・・・嘘になります」<br>
その時ねーちゃんは泣いていたように見えた。<br>
そしてねーちゃんは自分がこの街にいる事情についてゆっくりと話し始めた。<br>
</p>
<p class="main">
「恥ずかしい話よね、要はケンカして・・・別れてね。それでこうして飛び出してきたの・・・」<br>

何となく予想はしていたが、どうやらねーちゃんは5年前駆け落ちした恋人と破局したらしい。<br>

「実家からも逃げ出して・・・彼の部屋からも逃げ出して・・・馬鹿みたいよね、私」<br>

俺は何も言えなかった。ただただねーちゃんを見つめるのみだった。<br>

「それでこうしてこの街に流れ着いたのがちょうど1週間前・・・。<br>

 部屋を借りて仕事を探して・・・何となく生活していくのかなと思っていた矢先ね、キョン君に会ったのは。<br>

 最初は本当にびっくりしたけれどね」<br>
<br>
<br>
俺は、胸の中がどうしようもない切なさで一杯になっていた。<br>

あのどこまでも明るくて元気で、俺の憧れであり理想であり――初恋の人だったねーちゃんが、<br>

今までに一度も見たことのないような暗い表情を見せ、今までに一度も聞いたことのないような落ち込んだ口調で俺に語りかける。<br>

俺は本気で、心からそんなねーちゃんを助けてあげたかった。元気付けてあげたかった。<br>

でもどうしたらそれが出来るのかはわからない・・・そんな無力な自分が悔しかった。<br>
</p>
<p class="main">
「でも今日キョン君と1日一緒にいて、色んなとこ行って、何か少し元気が出たよっ!ありがとねっ!」<br>

ねーちゃんは明るい笑顔を浮かべてそう言ったつもりだったのかも知れないが、<br>

俺には到底無理して作り笑いをしているようにしか見えなかった。<br>

表現の仕様がない切なさがどんどん込み上げてくる。<br></p>
<p class="main">
そしてまた悲しそうな表情に戻ったねーちゃんは、一段と小さな声で搾り出すように言った。<br>

「だからね・・・キョン君が良ければだけど・・・またデートに付き合ってもらえない・・・かな?」<br>
</p>
<p class="main">
その次の台詞を俺は殆ど衝動的に発していた。<br>
「当たり前だろっ!!ねーちゃんのためなら・・・いくらだって付き合ってやるさっ!!」<br>

驚くべきは無意識のうちに俺の口調がガキの頃のそれに戻っていたことだ。<br>

再会してから今までどこか遠慮があって、ねーちゃんに対し、丁寧語を使っていた俺だったが、<br>

この瞬間は、初恋に心焦がしていたあの生意気なガキの頃に完全に戻っていたのかもしれない。<br>
</p>
<p class="main">
ねーちゃんはいきなりの俺の豹変振りに目を丸くしていたが、すぐに小さく笑顔を見せ、<br>

「ありがとう・・・」<br>
と一言呟き、マンションの中へと入っていった。<br>
<br>
<br>
俺は複雑極まりない心境だった。<br>
ねーちゃんの破局、またデートに連れてってくれとのお誘い、悲しそうなねーちゃんの顔、<br>

ねーちゃんの涙、そして衝動的にガキの頃の口調に戻っていた俺、<br>

そんな様々なことが俺の頭の中でグルグルと回転し、俺の脳細胞を焼き切ろうと暴れている。<br>
</p>
<p class="main">
俺はひとつ息をつき、落ち着けと自分に言い聞かせると自転車を転がし、帰路についた。<br>

乗って帰るだけの気力は残っていなかった。<br></p>
<p class="main">
数十メートル程歩いた頃だろうか、俺は辺りに人の気配を感じた。それも複数だ。<br>

もしかして俺にカツアゲをカマそうとしている不良集団にでも囲まれたか?<br>

こんな人通りの少ない夜道だ。それも十分に考えられる。<br>

俺は気を引き締め、身構えた。<br>
やがて街頭の光の中に背の高い男のシルエットが見える。やはり誰かいる・・・!<br>

これは逃げるが勝ちだ!そう思った瞬間、その横に小さな女性と思われるシルエットが3つあるのに気付いた。<br>

しかもどこか見覚えがあるシルエット・・・何か毎日見ているような・・・。<br>
</p>
<p class="main">
その3つのシルエットの内の1つがザッと俺の目の前に姿を現す。<br>

「ふっふ~ん。見たわよ?キョン。随分とお楽しみだったようね~?」<br>

ああ、神よ。あなたは私に何かウラミでもあるのですか?<br>

そう嘆きたくもなるさ。<br>
そのシルエットは誰あろう――我がSOS団団長、涼宮ハルヒであった。<br>

そしてその他の3つのシルエットは――言うまでもない。<br>

長門、朝比奈さん、古泉のいつものメンツであった。<br>
ああ、今日が俺の命日かもしれないな。<br>
ねーちゃん、ごめん。もうデート付き合えないかも・・・。<br>

<br>
~Interlude 1~<br>
こんばんは。<br>
『自動車修理工のツナギが似合う北高男子コンテスト』初代チャンピオンの古泉一樹です。<br>

え?何でお前がいきなり出てくるかって?引っ込め変態?<br>

まあまあ、お気持ちはよくわかりますが一旦落ち着いてください。<br>

今私達は、この駅前の繁華街で極秘のミッションにあたっているのです。<br>

無論私達と言うのは、僕と涼宮さん、長門さん、朝比奈さんの4人のことです。<br>

誰か1人足りないんじゃないかって?よくお気づきになりましたね。<br>

そうです。私達は残るもう1人の団員である彼を密かに尾行中なのです。<br>
</p>
<p class="main">
事の発端は今週の放課後、SOS団の活動時における彼の一連の言動とそれに伴う異変にあります。<br>

まず、普段は色恋沙汰にはてっきり興味を示さない彼の口から『初恋』についての話題が出ました。これには流石の僕も驚きましたね。<br>

彼は誤魔化してしましたが、何か彼の身辺で『初恋』に関わる異性問題が進行しているのは火を見るより明らかです。<br>

そうとなったらやはり気になるのが人情ってものでしょう。<br>

涼宮さんなどは特に顕著な興味を示していましたからね。<br>

そして決定的な出来事があったのは昨日、金曜日のことです。<br>

市内探索パトロールの復活を大々的に宣言し、土曜日に早速その活動を行うとの勅令を下した涼宮さんに対し、<br>

彼は何と活動への参加辞退の旨を告げたのです。<br>
しかも誰が聞いても嘘とわかるような取ってつけた言い訳までしています。<br>
</p>
<p class="main">
以上から推理するに、彼の身辺では現在『初恋』に関わる重要な異性関係の懸案事項が存在し、<br>

そして今日、この土曜日にその懸案事項に大きな影響を及ぼす何らかのイベントがある、ということです。<br>

正直言って彼が涼宮さんにパトロール不参加の旨を伝えた時は、身が縮まる思いがしました。<br>

ああ、彼のせいでまた涼宮さんは不機嫌になり、閉鎖空間を発生させ、僕はアルバイトに駆り出される、と。<br>

そんな方程式が一瞬で頭の中に組み立てられました。<br>
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~Interlude 2~<br>
しかし、意外なことに涼宮さんは彼の言い訳をすっかり受け入れてしまいました。<br>

怪しいとは思いましたが、やはり涼宮さんは彼の嘘に気付いていたようです。<br>

その時の涼宮さんの表情は何か面白いことを思いついたような期待に満ちたものでした。<br>

勿論、彼はそんなことには気付いていないようでしたがね。<br>
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その後、団員がそれぞれ帰宅した後、涼宮さんから直々に電話連絡がありました。<br>

その内容は、まあ何と言うか、これも僕の予想通りですが、<br>

『キョンは何か隠し事をしているに違いないので、残りのメンバーで明日は1日中キョンの尾行をする』<br>

というものでした。<br>
そして今に至る、という訳です。<br></p>
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さて、しかしまさか彼がSOS団の活動に代えてまでに優先した予定が<br>

年上の麗しい女性とのデートだなんて予想もつきませんでしたよ・・・。<br>

うーんまあ正確に言うとこのような事態を多少は危惧していたのですが、まさかに本当にデートとは・・・。<br>

ああ、涼宮さんの機嫌が悪くなっていくのが手に取るようにわかります・・・。<br>

今のところ閉鎖空間発生にまでは至っていませんがコレは時間の問題かも知れません・・・。<br>
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しかもあの女性、なぜかポニーテールです。狙ってるとしか思えません。<br>

ちなみに涼宮さんの機嫌が最も悪くなった瞬間はあのポニーテールが視界に入った瞬間だったみたいですね。<br>

ああ、そんな涼宮さんを目の当たりにして朝比奈さんは余りの恐怖に震えてしまっていますよ・・・。<br>

長門さんは一見普段と同じく無表情ではありますが、やはり心中穏やかでないようですね。<br>

その証拠に、途中で買ったジュースの缶を握りつぶしています。それ、スチール缶ですよ?<br>

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~Interlude 3~<br>
さて、その後彼とその女性はショッピング、映画と至って普通のデートをしていたようです。<br>

しかし、涼宮さんの行動力には驚かされます。映画館の中まで尾行をするんですよ?<br>

しかも彼が座っている2つほど後ろの席での監視です。<br>
正直気付かれるかと思いましたが、彼は私達よりパートナーの方にご執心のようで全く気付くことはありませんでした。<br>

その後、イタリアンレストランで夕食を摂ったようです。<br>

さてこれからどうするのかと思った矢先、彼とその女性は並んで繁華街から離れる方向へ歩いていきました。<br>

もしもここで2人がホテル街にでも向かっていくような事態になったら・・・<br>

その時は世界の破滅を覚悟せねばならなかったでしょうね。<br>
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そして何よりも僕自身がそれは許しません。<br>
なぜならキョンタンのアナルを最初に頂くのは僕以外を差し置いていくぁwせdrftgyふじこlp;@<br>

・・・・・・・・・・・・。<br>
申し訳ありません。少し取り乱しました。<br>
幸いなことに彼はその女性を自宅まで送り届けるだけだったようです。<br>

意外に彼が紳士的なのは感心しましたね。<br>
って待てよ!?自宅にキョンタンを誘い込んでその未開発のアナくぁwせdrftgyふじこlp;@<br>

・・・・・・・・・・・・。<br>
申し訳ありません。また少し取り乱しました。<br>
幸いなことに玄関口で数刻言葉を交わしただけでお別れになったようです。<br>

しかし、その時の彼の表情やその女性の表情がかなり真剣だったのは少し気になりましたね・・・。<br>

暗い上に遠くからの観察だったので詳しくはわかりませんでしたが。<br>

もしかしたら長門さんなどは2人のやり取りについて詳細に把握できていたのかもしれません。<br>

その証拠に、近所の電話ボックスから拝借してきたらしいタウンページを真っ二つに引き裂いていましたからね。<br>

そしてついに彼と我々が遭遇する時が来てしまいました・・・。<br>

涼宮さんの表情はもう僕も怖くて伺うことも出来ません。<br>

さてさて・・・どうなることでしょう・・・?<br>
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<li><font color="#666666">続き</font></li>
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