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crane love ~EP0~ - (2007/05/07 (月) 23:16:29) の編集履歴(バックアップ)


「ふう・・・・・・」
 今日もやっと習い事が終わった。今日は火曜日だからお習字の日。
週に六日は習い事がある。
それもこれもすべては鶴屋家次期当首としての務め。 おろそかにはできない。
まあ、そのおかげであまり高校の友達と遊ぶ機会はあまり無いが。
それも仕方が無い。

毎日毎日習い事ばかり。
頭では理解できていても、心のどこかで自分が叫んでいる。
もっと友達と遊んでも良いのではないか。なぜこんな疲れる、面白くも無いことをしなければならないのかと。
今日も今日とて習い事が終わり現在時刻夜9時。
体はすでに疲労困憊だ。だが一人で歩いて帰路についている。
別に家の者に車で迎えに来させても良い。
だが、こういった習い事の後はなんとなく一人でのんびりと帰りたいと思う。
この夜の澄んだ冷たい空気を味わいたいと思うからだ。
空気をゆっくりと、胸いっぱいに吸い込む。
うん、気持ち良い。
気のせいかもしれないが、体が少し軽くなったような気がする。


夜道を女の子一人で帰るのは危険だ、と言う人もいるだろう。
しかし、私は合気道の有段者である。
決しておごっているわけではないが、大の男5人に囲まれても逃げきる自信はある。
全員倒すとなると難しいところだが、一人二人を倒し、相手がひるんだところで走る。
足にも自信があるので、あとは全力疾走すれば逃げ切れるはずだ。
相手が一人ならば倒す自信はある。
もし何かあった場合でも、大声を出せば鶴屋家お抱えのボディーガードがすぐに駆けつける。 だから心配は無い。


しかし、一人で帰るのにはもう一つ理由がある。
といってもこれは淡い希望のようなもので、宝くじを「当たれば良いな、
でもそんなわけないよな」と思って買うようなものであるのだが。

あの人と、こうして歩いて帰っていればばったり会えるかもしれない。

車で家に帰ってしまっては、あの人と偶然会う、ということは無いだろう。
だからこうして歩いている。
まあ、しかしあの人とは家の方向がまるっきり違うので普通に生活している分には
会う可能性は殆ど無いだろう。
現に、あの人と出会ってから一年ほど経つが、今までこういった状況では一度も出会ったことは無い。
だがその僅かな可能性に、私は賭けたかった。



空気の冷たい心地よさを感じながらながら歩いていると、向こうの角から人が歩いて来ている。
街灯から少し離れたところにいるので顔は見えない。 身長や体格から見るとどうやら男性のようだ。
やはりいくら心配ないとはいえ、警戒態勢をとらないわけにはいかない。
すぐに行動に移せるようになるべく視界に入るように離れて歩いていると、その男はこちらに気付いたようで、いきなり走り出してきた。
「誰?!」
警戒態勢をさらに強めながら、かつ少々声をすごめながら言う。
だが向こうは一向に止まる気配が無い。

仕方が無い、とこちらも駆け出す。相手との距離が狭まる。
あと数歩というところで私は加速して、相手の懐に潜り込んだ。
そして右腕を相手の首に掛け、かつ左手で背中を反らせた。するとてこの原理のようなもので、 相手を簡単に地面になぎ倒すことが出来た。
相手は地面に叩きつけられ、辺りにドスンと鈍い音がする。
そこで相手の顔を確認する。これだけ近ければ見えるだろう。そこで私は驚いた。
なんとあの人だったのだ。

「キョン君!?」


 先程も言ったが、私はとても驚いた。
なにしろ、会うはずが無い。出会ったとしてもそれはほとんど宝くじに当たるような確立だ、
と思っていたあの人に出会ったのだから。
さらにそのキョン君とこのような出会い方をしてしまった。
驚かないわけが無い。でも、なぜここに?
そこまで思考が及んだところで、キョン君はうめき声をあげた。
「いてて・・・・」

そうだ、私はなんてことをしてしまったんだろう。
自責の念に駆られながら、急いでキョン君を介抱しようとする。
「キョン君、大丈夫かい?!」
言いながら彼の頭を抱きかかえる。
「鶴屋さん・・・」
そう言いながら、彼は気絶した。

ああ、なんてことをしてしまったんだろう・・・


彼にこんなことをしてしまった・・・
こうしてはいられない、と私は携帯を取り出しアドレス帳から一つを選び、コールする。
我が鶴屋家の緊急コール先だ。コール音が一回鳴ったかどうかと言うところで、相手が出た。
「お嬢様、一体どうされたのですか?!」
焦ってしまい大声になりながら私は、
「直ぐに救護班をこちらに向かわせて欲しいんだ!場所は分かるかい?!」
「それは分かっておりますが・・・
一体なにが起こったんですか?もしやお嬢様の身に危険が?!」
「いや、そうじゃないんだけどさっ、ちょっと友達がね・・・」
これ以上先は恥ずかしくて口ごもってしまう。
「とっとにかく!!!できるだけ早くきて欲しいっさ!!」
そう言い残し電話を切る。

「キョン君・・・本当にごめんっさ・・・・・・」

苦しさで胸がいっぱいになる。


涙が一筋、頬を伝っていった。