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未来からのメッセージ - (2007/09/16 (日) 12:32:54) の編集履歴(バックアップ)


「キョンくん、話があるの。」

 

突然の事である。朝比奈さんがやけに真面目な顔で話しかけてきた。俺が感じた驚きは二重のもので、その真面目な顔と、未来の朝比奈さんの姿を垣間見ての驚愕だ。

 

「これから話す事は禁則事項に含まれるから…心して聞いてね。」


少し前文の説明が足りなかったからちょっとばかし説明しておこう。いつもの登校をし、いつもの授業を受けていつもどおーり部室に行って扉を開けたら今の状況になったわけである。
しかしまた朝比奈さんの大人(…だよな)姿を見れるとは、歓喜の極みである。…さて、さっきの続きだが。

 

「禁則事項を俺に話したりしていいんですか?」
「…本当は上からの了承は得てないの。でも、絶対に伝えなければいけないと思って。」

 

いつも隅で本を読んでる長門が居ないところを見ると…

 

「席を外してもらったわ。古泉くんは探しても居なかったから…もしかしたら部室に来るかもしれない。」
「きっとバイトか何かなんですよ。じゃあ、場所を移しましょうか?」
「そうね、ここでは少しマズいかも。」

 

俺はいつぞやの食堂の屋外テーブルに行き着いた。古泉と話した場所だったか。
朝比奈さんをイスに座らせて、自販機に向かいコーヒーを2つ持ってくる。よし、我ながらスピーディなセッティングだ。

 

「それで…話とは?」
「ええ、それが…その…いえ、率直に言います。」

 

急に敬語になった朝比奈さんの口調は、俺を緊迫の表情度を何十%かアップさせた。

 

「そうしてくれた方が助かります。」
「キョンくんは…明日から自分の部屋に引き篭もってしまいます。」
「…は、はあ?」
「信じられないでしょうが信じてください。未来から見ているんですよ。」
「それはそうですが…冗談じゃないですか?」
「わざわざこの時間平面まで来て冗談を言う理由はありません。」
「そうですね…でも、今ここで言ってしまったら…」

 

そうにはならないんじゃないだろうか。もしこの話を聞かないで過ごしていた俺が明日ヒッキーになったとしても、今の俺がこの話を聞いてしまった以上、そうにはならないはずだ。

 

「こんな話を聞いたら…そうにはならないんじゃないかって、そう思ってるでしょ。」
「え、ええ…はい。」

 

さすが朝比奈さんだ…俺の心の中もお見通しってことか。おっと、ここで紅潮するのはおかしいぞ俺。

 

「それにまだ続きがあるんです。」
「なんですか?」
「今日から三日後…あなたは死にます。」

 

俺はこの言葉を怪しい占い師から聞いたとすれば胡散臭くも思うが少しは驚くだろう。そしてその三日後にはビクビクしているかもしれない。
だがこの可愛らしさに大人の色っぽさが加わった超美人に告げられても緊張感というものがない。ああ、この人は未来人なんだっけ。

 

「でもそれもさっきと同じで…」
「簡単に考えるとそうです。でも、前に話したでしょ?時間というのはその時間ごとに区切られた一つの平面を積み重ねたものなんだって。」
「ああ…話してもらった記憶はあるんですが、残念ながら内容までは…」
「だと思いました。じゃあ今一度説明しますね。時間と時間との間には断絶があるから時間と時間には本質的に連続性がないの。」

 

よし、今のところはなんとか理解できる範囲内だ。俺の頭はなかなかこういう話に対処できる頭に進化したようだな。

 

「時間は連続してないから、仮にわたしがこの時代で歴史を改変しようとしても、未来には反映されなくて、この時間平面上のことだけて終わってしまうの。パラパラマンガを例にだして説明したっけ。」

…なんとなく分かったぞ。
「つまりはそういうこと。」
「つまり…どういうことですか?」
「…ええっと、今回のものは少し異例になるけど、確実に明日引き篭もるという事に対処はできない、ってこと。」
「な、なるほど。」

 

とりあえず相槌をうっておく。

 

「だからわたしは…この事だけを伝えに来たの。用は気を付けて、ってことね。」

 

今の言葉と明日の件と3日後の件だけ言えば1秒とかからずに俺は全て理解できたけどな。

 

「それじゃあ時間がないから。ごめんね、じゃあ。」
「はい、わざわざありがとうございました。」


まったく、朝比奈さんには悪いが部活――とはいえないか――の最初から奇妙な話を聞かされたもんだ。
俺が引き篭もる?俺はそこらへんのオタクとは違う。今考えてみれば、朝比奈さんも失礼なことを言ったもんだ…まったく。


【キョン視点→長門視点】
朝比奈みくるとの話が済んで彼が部室に戻って来たのを見たわたしは彼と同じく部室に入った。

 

「おう長門、部室に居ない間何してたんだ?」
「…読書。」
「またか…お前はいつも本を読むことしかできないのかね。」

 

…少し彼の様子がおかしい。いつもより眉毛の角度が2度急になっているのを確認。

わたしはいつものパイプ椅子に座って読みかけだった本を読む。

 

「ずっと本なんか読んでて何が楽しいんだか…」

 

そう言って彼は団長席にどすっと座ってパソコンを立ち上げた。

 

「…何の本読んでんだ、長門。まぁ聞いてもどーせ忘れるだろーがな。」

 

…わたしは喜怒哀楽中の怒の感情が表れていることを観測。彼にも、わたしにも。
後の一言がシャクに触ったわたしは、無言でその場をやりすごうとした。

 

「………」
「…おい、無視かよ長門。」
「………」
「…あーあ、ほんとにつまんないな。」

 

そう言って彼はパソコンのディスプレイに視点を移して黙々とパソコンを弄り始めた。
…わたしの心の中に、喜怒哀楽中の哀の感情を観測。

 

 

【長門視点→キョン視点】
朝比奈さんは変な事言い出すし、長門はシカトするし…もう、なんなんだ。
すると「MIKURU」というフォルダが目に入る。ああ…朝比奈さんの画像集だったか。…いらないな、もう。
フォルダを掴んでごみ箱へ持っていく。その後に「ごみ箱を空にする」を選択。これで削除完了だな…

 

「ご、ごめんなさぁ~い…ちょっと学級の仕事で遅れちゃって…。」

 

部室に朝比奈さんが入ってきた。…未来の朝比奈さんを見た後だからなのかは分からないが、あの喋り方がちとシャクに触った。

 

「あのキョンくん…メイド服に着替えるから…外へ」
「そんなの、着替えなくても大丈夫ですよ。」
「え…?で、でも涼宮さんが…」
「いつまでもハルヒに縛られてどうするんです。もっと自由に生きていきたいとは思わないんですか?」
「ふぇ…お、思います…けど…」
「けど?」
「ふぇ、ふぇぇえ…」

 

朝比奈さんは涙目になりながら部室を出て行った。ふん、涙もろいにも限度がある。

 


【キョン視点→古泉視点】
いやあ、緊急の機関内での会議があったから遅れてしまいました。きっと涼宮さんたちもお怒りになられることでしょうね…
そんな事を考えつつ、僕は部室のドアを開けました。

その瞬間に、「ふぇ、ふぇぇえ…」と涙目になりながら部室を出て行く朝比奈さんと遭遇。話しかける事ができない程そそくさと去っていきました。
部室の奥を見ると彼が座っていました。…眉間にシワを寄せているところを見れば、もしかして朝比奈さんと喧嘩を…?そんなまさか。

 

「どうしたんです、朝比奈さんと何かあったんですか?」
「…別になにもねぇ」
「じゃあ、何故彼女は泣いていたのですか?」
「朝比奈さんが勝手に泣いたからだ。」
「だから、その原因は……」
「お前には関係ないだろ!」
「………」

 

これは驚きました。あのいつも冷静(?)な彼が…まぁこんな日もあるのでしょう。こういうのは一人にさせておくのが一番です。

 

「…すいません、僕はそんなつもりで聞いたわけじゃ」
「うるせぇ!俺はもう帰る!!」

…謝るつもりが、逆に彼を怒らせてしまった様子。不覚…です。

「待ってください、ここは落ち着いて…」
「黙れって言ってるだろ…」
「……そういうわけにはいきません。」
「だからお前には関係ねぇんだよ!!」

 


【古泉視点→ハルヒ視点】
はあ…くだらない岡部の話に付き合わされたわ。何よ、着替え中にトイレに行きたくなったから下着姿でトイレまで行っただけじゃない!何なの?あの長ったらしい説教は。
まあいいわ、今日もみくるちゃんでストレス発散するから。さっさと部室に行きましょーっと。
あたしが部室の扉を開けようとしたら、勝手に扉が開いた。え…あたしって、遂に超能力を使えるようになっちゃったの?
でも、そうじゃなかった。扉が開く前に確かにキョンの声が聞こえたもの。

関係ねぇ…とか言ってたのを覚えてる。どっかの芸人でも真似してるつもりかしら。
だけどあたしは驚いたわ。今まで見たこともないほど恐ろしい顔をしたキョンが出てきたんだもの。

 

「……邪魔だ」
「え?あ…えっと…」

 

驚きすぎて言葉が上手く出てこなかったわ。そのままキョンは生徒玄関に向かって去っていったの。

 

「ちょっ…ちょっとあんた!!勝手に帰るなんて許さないわよ!?」

 

あたしの声はキョンに届いてたはずだった。でも、キョンは全然振り向いてくれない。…何なのよ、これ。

 

「涼宮さん、こんにちは。」
「ああ、古泉くん。キョンの奴、どうしたの?」
「…僕が来た時にはもうあの態度でしたよ。」

 

あたしは古泉くんからみくるちゃんの事とか、さっきまでの出来事とかを説明してもらった。

 

「もう…みくるちゃんを泣かすなんて、ほんっと無礼な奴ね、キョンって!!」
「まあ彼にも何かがあったのかもしれませんし…」
「有希は?何か知ってる?」
「……彼は怒っていた。」
「そ、それは分かるわよ。原因とか分かる?」

 

有希は横に首を振った。んもうっ、キョンったらほんとどうしたのかしら。

 

「ま、いいわ!キョンも明日になれば機嫌が戻ってるでしょ。今日は解散!」
「了解しました、団長様。」
「…了解」


その日はそれで終わった。…キョン、大丈夫かな。

 


【ハルヒ視点→みくる視点】
何故かキョンくんに怒られたその日、家に帰宅すると机の上に一枚の置手紙がおいてありました。何々…?

 

『わたしは、あなた【朝比奈みくる】の未来の姿です。きっと信じられないでしょう。でも、その証拠に
 あなただけしか知らない事を言い当てます。ずばり、あなたは今、抱き枕のぬいぐるみの首を絞めた状態が
 一番寝やすい体制でしょ?わたしの過去がそうだったから、分かるの。』

 

ふぇ、ふぇぇぇ…!?な、なんで知ってるんですかぁー!?

 

『じゃあ、本題に移ります。あなたの知り合いのキョンくんは、明日自分の部屋に引き篭もってしまう
 可能性があるの。そしてそのままいけば、彼は今日から3日後に死んでしまうわ。』

 

え、ええ!?キョンくんが…!?

 

『だからあなたに教えておくわ。これから起こり得る事、そしてこれからどうすればいいのか。』

 

やっぱりわたしが未来人だから…未来のわたしが伝えに来てくれたんですね。ありがとうございます、わたし!…な、なんか違和感がありますぅ…
何だか禁則事項に引っかかってそうな内容だけど…いいのかな。とりあえず、明日はわたしが頑張らなくっちゃ!

 


【みくる視点→キョン視点】
………なんだよ、高校生活ってのはこんなにつまらないもんだったのかよ…。
だいたい『SOS団』なんてガキみたいな事よく今までやってきたな俺…自分に尊敬しつつ軽蔑するね。
はあ、くだらねぇ…朝比奈みくるも長門有希も古泉一樹も涼宮ハルヒも…!!くだらねぇ…!!
何が未来人だ…何か宇宙人だ、インターフェースだ…何が超能力者だ、変な所でしか使えないくせに…!!!
…事の発端はあいつだったか、涼宮ハルヒ…とんだ自己中女だ。少し顔がいいからって調子に乗りやがって…何がキョンだよ!!変なあだ名で呼びやがって…

 

「キョンくーん!ごはんだよー?」

 

…妹の声がする。そういえばあいつだったっけか、キョンというあだ名を広め始めたのは。

 

「キョンくーん!!」ガチャガチャ

 

ドアを開けようとしても無駄だ。厳重に鍵をかけてあるからな。

 

「キョーンーくーん!?いないのー?」
「しつこい…」
「あ、キョンくん寝てたの?ドア開けてよー」
「今日は晩飯はいらない。もう話しかけてくるな。」
「…変なキョンくーん。」

 

邪魔者は追い払った…これで俺は独りになることができた…。もう誰にも邪魔されない、俺だけの時間…っくくく…はははは。

 


【キョン視点→ハルヒ視点】
…結論から言うと、今日キョンは学校に来なかった。まだ怒ってるのかしら…

 

「キョン、風邪でも引いたのかねー、馬鹿は風邪を引かないっていうのに。」
「谷口、それはきみが言っていい台詞じゃないと思うよ。」
「な、なんだと国木田ぁー!」

 

谷口や国木田もどこか寂しそうだったわね。あいつが風邪なんか引くわけないじゃないの。

そのまま放課後になって、欠席の一人を除いたSOS団の4人が集まったわ。

 

「キョンの奴、学校休んだのよ?しかも無断で。信じられる?」
「…そうですか、結局彼は来ませんでしたか…」
「…やっぱり…!」
「え?みくるちゃん、やっぱりって?」
「あの、その…昨日、わたしの机の上に誰かの予言が書かれた紙があったんですぅ…」
「みくるちゃん!それ、詳しく教えなさい!」

 

 

【ハルヒ視点→みくる視点】
「え、ええ…でも…」

 

未来からの手紙だなんて…涼宮さんに言えません…。

 

「もったいぶる必要はないでしょ!さっさと吐きなさい!」
「じ、実は…その手紙の予言に、キョンくんは部屋に引き篭もってしまう、と書いてあったんです。」
「キョンが引き篭もり?その予言、謎ね…それ、今持ってる?」

 

本当は鞄の中に入ってるんですが…見せたら色々とヤバそうですね。

 

「持ってないですぅ…」
「ふーん…とりあえず、キョンの家に行ってみるしかなさそうね…」


…という事で、それからすぐにわたしたちはキョンくんの家に向かいました。

 


【みくる視点→ハルヒ視点】
ピンポーンと、インターホンの音が鳴ってまもなく、キョンの妹ちゃんの声がした。

 

『はーい』
「あ、妹ちゃん?あたしだけど。」
『ハルにゃん!今開けるね~』

 

中からドッタッタと木製の床を走る音が聞こえた。

 

「わあ、みくるちゃんに有希ちゃん、古泉くんも!どうしたのー?」
「あのね妹ちゃん、キョン、居る?」
「キョンくん?居るけど…部屋から出てきてくれないのー。」

 

あたしたちは顔を見合わせた。やっぱりキョンが部屋で…

 

「ちょっと上がらせて頂戴。」
「どうぞー!」
「じゃあちょっとお邪魔するわね。」
「お、お邪魔します…」
「お邪魔します。」
「………」

 

キョンの部屋に案内してくれた妹ちゃんは実はね、と前置きして

 

「キョンくん、なんか冷たいの…。今はお母さんもお父さんも居ないから、一人で寂しかったとこなんだよ。」
「まったくキョンったら…根性から叩きなおさなきゃいけないようね!」

 

キョンの部屋のドアからはなんとなくどんよりとした雰囲気が漂ってた。この名交渉人涼宮ハルヒがキョンを救い出してみせるんだから!

 

「キョン?あたしよ。」

 

中からの反応はなし。シカトとはいい度胸ね。

 

「聞こえてるんでしょ?とりあえず、出てきなさいよ。」
「…なんで来たんだ」

 

聞こえてきたのは、明らかにいつもより暗くて湿った感じのキョンの声だった。

 

「あんた、無断で学校休んでどーするのよ。SOS団部室には必ず一日一回は来ること――」
「――くだらないんだよ、そんなの!」
「えっ…」
「SOS団なんてもうやってられっか。」
「な、何よそれ!!あんたは団員第一号なのよ!?そんな事、もう言わないで!」
「…もう俺には関係ない。」
「キョン…」
「…他の奴らも居るのか。」
「ええ、みんなあんたを心配して来てくれたの。」
「よくお前らも付き合ってられるよなぁ。あんなくだらない活動に。」
「…あなたはこのSOS団の活動を少なからずは楽しんでいた…違いますか?」
「古泉か…それは違うな。俺はただ付き合いまわらされていただけだ。」
「僕は、あなたと一緒に活動していた頃は楽しいと思っていましたがね。」
「…」
「5人揃ってこそSOS団なのです。あなたが居なければ…」
「…よく言うよな。本当の目的は違うくせによ。」
「キョンくん!あなたはそんな事言う人じゃありませんよ…一体、どうしちゃったんですかぁ?」
「朝比奈さん、俺はあなたが思っているようなお人好しじゃなかった、ってことですよ。」
「キョンくん…そのっ…えと…うぅ…」

みくるちゃんは今にも泣きそうな顔で拳を震わせていた。

「ちょっとキョン!あんた、いつからそんな生意気になったわけ!?」
「ハルヒ、俺はもううんざりしてるんだよ。お前の面倒事にな。」
「はあ…!?」
「その団の目的はもう果たしてんだからもういいだろ。」
「…え?」
「ああ、知らなかったんだよな。そこにいる朝比奈さんや古泉は実は…!!」

 

突如、あたしの目の前が真っ暗になる。意識を無くした。

 


【ハルヒ視点→古泉視点】
「未来人と超能力者なんだよ!!」

 

…言ってしまいましたね。もう僕はどうすればいいか…
恐る恐る涼宮さんの反応を見ようとした僕ですが、涼宮さんは本を片手に持っている長門さんに抱きかかえられていました。

 

「…これは一体?」
「涼宮ハルヒを一時的に気絶させた。彼の言葉を聞かせない為。」

 

さすが長門さん。判断と行動の速さが天下一品です。

 

「今の言葉は度が過ぎている。これからは注意するべき。」
「やっぱり長門も居たのか…お前らも大変だな。」
「涼宮ハルヒの観測はわたしの義務。別に大変でもない。」
「ああ、そうかい。でもその自己中女にはうんざりしてるんだろ?」
「そんなことは、ない。」
「もうやめましょう長門さん。涼宮さんも気絶してしまいましたし…ここはもう帰ったほうがいいかと。」

 

まあ長門さんが気絶させたのですがね。
長門さんがゆっくりと首を縦に振って涼宮さんの体を僕へ差し出しました。
それを僕が受け取るとまた読書に移り…って、やはり僕が運び役ですか…。

 

「きっとあなたが考えを直さないかぎり、涼宮さんは何度でも来ると思いますよ。では、僕たちはこれで。」
「………」

涼宮さんが泣きながら気絶していたことを、彼には伝えないことにしておきます。

 


次の日。やはり彼は学校には来なかったようです。
いつもの顔が1つなくなったSOS団に、更に暗くなるニュースが届きます。

 

「今日、涼宮ハルヒは学校を休んだ。」

 

それは長門さんの口から発せられたもので、僕にはその顔に困ったような表情が微かにあったように見えました。

 

「困った状況になりましたね…」
「今日はどうしますかあ…?」

 

その時、予想はしていたいつもの携帯の着信音が鳴り、僕は「すいません、バイドです」と言い残して閉鎖空間へ行くことに。

 

「な、長門さん…どうします?」
「………」
「…か、帰りましょうか。」

 


【古泉視点→みくる視点】
何もできなかったその日の夜、わたしは重大な事に気付いて、思わず一人言を口走ってしまいました。

 

「キョンくんが死んでしまう三日後って…明日の事!?」

 

どうしよう…未来のわたしが言ったことだから…このままじゃ本当にキョンくんは…自殺でもしてしまうんでしょうか。
わたしはずっと考えていました。夜が明ける頃まで、ずうっと。でもようやく結論が出て、わたしは覚悟を決めました。
だって、キョンくんが死んじゃうのは嫌だから。

 


翌日、キョンくんと涼宮さんはごく普通に登校して放課後に部室に集まりました。
何故かって?そもそもわたしが、キョンくんが引き篭もる事自体を無くしたんだもの。そう、今日から4日後にまで戻って…。

もちろん許されることじゃないというのは分かってました。でも、わたしにはこれしかできなくて…。

 


【みくる視点→キョン視点】
放課後の活動中、尿意に襲われた俺はトイレに向かった。その途中に、予測もしてなかった人物と出会った。
未来の朝比奈さんである。聞くと、俺が一人で部室から出てくるのを伺っていたという。

 

「今回はなんですか、朝比奈さん。」

 

何度か会ってるせいか、俺には最初に未来の朝比奈さんと出会った時に感じた緊張感というものが無くなっていた。

 

「実は…わたし自身のことについてなんです。」
「朝比奈さん自身のこと?」
「ええ、キョンくん、あなたには自覚がないかもしれませんが…キョンくんの死を阻止しようとして過去のわたしがやってはいけないことをしてしまったんです。」

 

ん、なんだなんだ?俺の死?それを今の朝比奈さんが阻止してくれたって?それは有難いことだが…やってはいけないこととは?

 

「事の発端が起こる前の過去まで戻って、その後の未来を変えてしまったんです。」
「は、はあ…」
「あまり理解してませんね。これからわたしが話すこと、集中して聞いてください。」

 

俺は全てを話された…らしい。俺が引き篭もろうとした(まったく、俺は何をしようとしてたんだ)事からハルヒたちとの口論までの話や、朝比奈さん(小)が過去に戻ってした事。
まあ結局全細胞を集中させたが2割程度理解できなかった部分もあったが、まあいいだろう。

 

「過去のわたしには、これから未来へ戻って厳重な処罰が与えられると思います。」
「厳重な処罰とは?」
「禁則事項です。」
「もう一度ここへ戻って来られるんですか?」
「禁則事項です。」
「…もしかして、死刑の可能性も。」
「…ありますね。かなりの確率で。」

「禁則事項です。」という言葉が帰ってくると予想していたが、朝比奈さん(大)は素直に答えてくれた。

「でも、未来のあなたが存在するということは、今の朝比奈さんは死んではいない…ということですよね?」
「そうとも限らないんです。」
「へ?」
「予期されぬ過去の言動は、未来に繋がる可能性があるんです。つまり、未来が変わってしまう可能性が。現に、わたしの過去にはこんな事はありませんでしたから。」

 

…ええと、つまりもし朝比奈さん(小)が死刑にされてしまえば、朝比奈さん(大)も消えてしまう可能性がある、と。

 

「その通りです。」

『可能性』というフレーズが随分多かった会話だったが、だいたい理解できた。…じゃあこれはかなり危険な状況なんじゃ。

「ええ、そうですね…過去のわたしのことだから、絶対みんなに言わずに未来に帰っちゃうと思うから…。」
「それはもう阻止できないんですか?」
「…過去にでも戻らない限り、絶対。」
「…そうですか…。」

頭が不安がよぎった。いや、さっきから充満しているのかもしれない。
朝比奈さんが未来へ帰って死んでしまう…?そんな事、俺は考えたくなかった。

 

朝比奈さん(大)が未来へ帰っていく。今回はヒントくれなかったな…この情報自体がヒントだったのだろうか。
俺一人の力でどうにかするなんてこと、できやしない。それは前々から分かっていた事だ。

頼れるのは一人しかいまい。

俺はトイレを済まし、活動終了の時刻まで部室で待つことにした。

 

「随分長いトイレね。」
「ちょっとな。」
「ちゃんと手洗ってきたでしょうね!」
「あ…ああ。」

 

忘れてた。ま、まぁ…いいだろ。
この時はまだ朝比奈さんはメイド姿で部室に居た。いつ帰るんだろう?という疑問が頭の中でアクロバット運動をしていた時、小声で朝比奈さんの声が聞こえた。

 

「あっ…そろそろ時間…」

 

確かに聞こえたその言葉。未来に帰る時間とみて間違いはないだろう。

 

「ごめんなさい、今日は用事があってこれで失礼します…」
「みくるちゃん、用事って?」
「禁則事こ…あ、えっと…家の用事で。」
「っそ、なら仕方ないわね…今日の分、明日ちゃんと働くのよ!いい?」
「…は、はい…」

 

朝比奈さんは頭をガクッと下ろしてそう言った。だが、どうせ途中で帰ってしまうなら今日部室には来ないはず…朝比奈さんはそういう人だ。
きっと名残惜しかったのだろう。朝比奈さんは制服を手に持って「じゃあ、トイレで着替えてきますね。」と言い残して部室を出て行った。

…朝比奈さんが帰ってしまう。
条件反射で俺は部室を出た。もちろん朝比奈さんを追うためさ。

 

「キョン、何処いくの!?」
「トイレだ!」
「さっき行ったじゃない!」
「手を洗い忘れた!!」
「はあ?」

 

上手く口実を作ってハルヒの制止攻撃を受け流す。別に右から来たわけでもないぞ。
部室を出ると栗色の髪を揺らして歩く朝比奈さんが目に入る。

 

「朝比奈さん!!」
「ひぇっ…!」

 

可愛らしい顔がこちらを振り向く。両肩を掴もうとしたが、手洗ってなかったんだっけ。

 

「今から…帰ってしまうんですか。」
「…!どうしてそれを…?」
「俺には朝比奈さんの事はなんでもお見通しですよ。」

 

少し言ってみたかった言葉だ。俺の脳内ではこの後に朝比奈さんが照れ出すというシナリオが組み立てられていたのだが、朝比奈さんはしょんぼりと顎を引いた。

 

「ごめんなさい。勝手にこんな事を…。でも、わたしが居なくても全然大丈夫…でしょう?わたしなんか、別に…」
「何を言ってるんですか!あなたはSOS団に必要不可欠ですよ!」

 

たとえそれが違ったとしても少なくとも俺にはそうであることは間違いない。

 

「嘘です!わたしはただ…皆さんにお茶を出すくらいしか…。必要とされていない存在なんです…!」

 

朝比奈さんがこんな事を考えていたとは…予想外だ。

 

「皆朝比奈さんを必要としてますよ。ハルヒも長門も古泉だって、もちろん俺も!」
「…ごめんなさい!!」

 

突如腹部あたりに痛みが染み渡る。ああ、また朝比奈さんに殴られる事になるとは…
少し腹を抱える俺をよそに、朝比奈さんは時間移動を始めた(のだろう)。

 

「待ってくださ…朝比奈さん…!」

 

くそ、さっきのパンチが効いたぜ。あの細い腕であんな剛拳を放つ事ができるなんて…

 

「さようなら、皆さんによろしくね。」
「朝比奈さん!!」

 

朝比奈さんは音も無く光の中に消えていった。…残る手段は絞られた…か。

 


「手を洗うのにそんなに時間がかかったのかしら?」

 

ああ、すっかり忘れてた。もう一度本当に手を洗いに行くのは不自然か?

 

「何してたのよ!」
「別に大したことじゃねえよ。」
「そんな答えが許されるとでも思ってるの?だいたいあんたは…」

 

ハルヒは俺の無責任さに説教を始めた。俺はその姿をただ見ていた。…別に上から来たわけじゃないけどな。

部室の時計が活動終了の時刻を指した。ハルヒを先頭に、古泉と長門が部室を出て行き、その後に俺が続く。
が、ここで何もしなかったら何の意味もない。俺は小声で長門を引き止めた。

 

「なに?」
「あのさ、お前も…知ってたりするのか?」
「なにを」
「朝比奈さんの事だよ。」
「知っている」

 

なら話が早い。お前になんとかできないものなのか?

 

「できないこともない。けれど、この時空の流れの歴史を書き換えてしまうことになる。」
「やっぱりそれってまずいのか?」
「まずい」
「でも…お前も朝比奈さんの事が心配だろ?」

 

ここで長門が首を横に振ればもう終わりだと思ったけどな。長門はそんな非情な奴じゃない。

 

「心配」
「今度美味しいカレーでも奢ってやるよ。行ってくれるか?」
「いく」
「そうか、ちなみにどこ――まあ、この場合過去と未来とカレー屋という選択肢があるだけだ――に?」
「未来に。」

 

俺はてっきり過去かカレー屋へ移動するのかと思っていた。未来ってことはやっぱり…

 

「朝比奈みくるがいる未来。」

 

だよな。俺がここで行かないわけがない。

 

「じゃあ目を閉じて」
「ちょっと待て。」
「なに?」
「またこの空間ごと凍結とかしたりするんじゃないだろうな。」
「しない。ここを凍結するのはあまりにも無理矢理。」
「そうか、なら続けてくれ。」

 


ふっ、と体が浮いたような感じ。何回も味わっている時間移動の感覚だ。これに慣れてしまっている俺はある意味(でなくとも)凄いのだろうな。すっかり未来人気分だ。
そんなに長い時間がかかったようには思えなかった。数分くらいかな?俺は足で地面に立っている感触を掴んだ。
五感の内のひとつに異常に反応する匂い。まろやかなような、香ばしいような、それでいて辛そうな匂い…
俺は目を開けて呆然とした。

 

「…あれ?」
「…間違えた」

 

頼むぜ長門、ここは明らかにカレー屋の厨房だ。しかもいつの時代かさえ分からん。
そしてまたさっきの感覚が俺を包む。さっきの移動時間が短かった理由が分かったね。今回は何十分もかかったような感覚だ。
着いて目を開けた先には、いつも見ている光景が広がっていた。そう、文芸部室。

 

「また間違えたんじゃないだろうな」
「違う。間違いなく未来。」

 

じゃあここは何年か後の文芸部室なのか?長門、説明してもらわないと分からん。

 

「朝比奈みくるが行った未来と同じ時間平面にわたし達はいる。ターゲットを朝比奈みくるだけに揃えたから、何年後なのかは分からない。」
「朝比奈さんは何処なんだ?」
「探すしかない。」

 

また随分と難易度の高いミッションだな。まぁ長門が傍に居るなら何でもできそうな気分になってくる。俺は暗くなりかけていた気分を一掃し、明るい声を放った。

 

「じゃ、行くか!」