「いつも曜日は九曜日 第三話「タニグチ、ゲキツイ」」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
「―――すぅー・・・すぅー・・・」
「やれやれ、幸せそうな寝顔だ」
「本当ですなぁ」
「チェックメイト」
「うぉ!? またやられましたぞい。強いですなぁ、キョン殿は! はっはっはっ!」
九曜の寝顔を見ながらアドバーグ・エルドルこと天蓋領域とチェスをする。
なんだ、このシュールな光景は。
というか思念体に対抗しうる宇宙的存在がチェスでこんなに弱くていいのか。
・・・まぁ、良いか。
九曜の寝顔を見ているとそう思う。
彼氏彼女の形になってから、随分と経った。日々、九曜には驚かせられ、そして惹かれていく。
あの頃は中度半端な気持ちだったが、今ならはっきり大好きと言える。
最近、俺の日常の中で無くてはならない存在なんだからきっとそれは好きという事なんだと思うんだ。
・・・なんか臭いな俺。
「―――んぅ・・・ふぅ―――」
九曜がうっすらと目を開けた。
「おはよう、九曜」
「おはよう、九曜」
「―――おはよう・・・―――キョンくん―――・・・とパパ―――」
そう言っている九曜は何となく笑っているように見える。が、もしかしたら俺の気のせいかもしれない。
だが格段と雰囲気が明るくなったのは確かだ。
佐々木がぞろりぞろぞろ引き連れていた時と比べて随分と明るみがある。
あの頃の冷たさはもう微塵も感じさせない。
と、突然九曜がぴくりとし、突然起き上がったかと思ったらカーテンを閉めた。
「どうした?」
「―――”円”の範囲内に誰か来た―――こっちを観察している―――」
「・・・”円”?」
「娘よ、”凝”を怠るな。ひ~らりひひらりひひらりら~」
「踊るなぁぁぁあぁぁぁあああああっ! ビックバン・インパクトゥゥゥォォォオオオオオオッッッッッ!!」
俺の右手からは得体の知れない力が溢れ出した。それは核ミサイル一発分の威力。
天蓋領域は何処かへと吹っ飛びそして、そのまま恐らく星になった。
これでしばらくは天蓋領域も帰ってこれまい。
「―――凄い・・・―――念能力者になりたてなのに・・・―――」
「・・・そのネタやめにしないか? 自分でやっといて難だけど」
「―――・・・うん―――」
そんなわけでそのネタは却下した。
「それにしても誰が俺達の動向をチェックしてるんだ・・・」
「―――お茶漬け星人―――」
「ジャンプから離れろ」
「―――じゃあ、イブキジャコウ―――」
「ガンガンか。ヒーリングプラネットなんて誰も知らないだろ」
「―――・・・パーソナルネーム・谷口―――」
「・・・え?」
いきなりその名前が出た。本当に何の前触れもなく唐突に。
何、谷口って変態なの? 九曜を狙ってるストーカー?
どういう事なんだ。
「―――確認した・・・―――パーソナルネーム・谷口、通称:WAWAWAである事を―――確認した」
通称:WAWAWA・・・天蓋領域内でも変な名前だな、お前は。
「・・・しかし、何故谷口が・・・」
「―――彼は腕利きの探偵―――恐らく私に彼氏が出来たという噂の依頼をしていると思われる―――」
「本当に人気だな、九曜」
「―――何でだろう・・・―――」
「さぁ?」
そんなわけで俺達はカーテンを締め切った部屋の中でテレビを見る事にした。どういう訳かは知らないが。
「あぁ、そういえば今日は七夕か・・・」
テレビのニュースで流れてきた文字に俺はなんとなくガキの頃を回顧する。
よくウルトラマンになりたいとか、仮面ライダーになりたいとか書いてたっけ。
一時期ブラック・マジシャンになりたいって書いた記憶もある。・・・って、やっぱりジャンプか。
「―――あ―――・・・笹の葉用意してない―――笹の葉の構成をする―――」
九曜が立ち上がりさっと高速詠唱する。
そうだな、七夕には笹の葉が必要だよな・・・って。
「部屋の中で!?」
次の瞬間、俺の目の前には笹の葉があった。
「これでOK―――」
その九曜のノリを見ていると、なんとなく泣きボクロとアホ毛の生えた背の小さい少女が重なって見えた。
それが誰かは解らない。解ってたまるか。
「―――曖昧3セン」
「やめぃ!」
と、いうわけで俺達は短冊に願い事を書くことにした。
意外に子供染みているこういう作業には結構頭を使う。
何て書こうか。本当に悩む。
「『ショートカットになりたい』、と―――」
「そんな願いで良いのか?」
「―――冗談」
「ああ、そうか」
それから一時間後。何故か構成されたパンダが笹の葉を食っている。
「よし、出来た。俺達の願い事を届けてくれる笹だ」
「―――ん」
室内にあるという訳の解らない状態ではあるが、まぁ、良いさ。
きらびやかな飾り付けだなしかし。
色紙で作った色々な装飾、くつしたに、頂上には星・・・って。
「これじゃクリスマスじゃねぇか!!」
「―――何となく」
「・・・そうか」
「・・・そうか」
やれやれ。今じゃそんな九曜が可愛く見えてしかたない。
俺は衝動的に九曜を抱き締めた。手に髪が絡みつく。
・・・しかし長い髪だな。いくらか髪を切らせたとは言え・・・。
まぁ、触り心地は抜群なんだけどな。それにポニテにすると丁度良いんだ、長さは。
ふと視界の隅に九曜の書いた短冊が見える。
キョンくんに似合う私になりたい
ちょっと日本語的には可笑しい気がするが、それがまた愛らしいじゃないか。
ん? 俺は何て書いたかって? 簡単な話だ。
俺の願い事は・・・
このまま幸せで居られますように。
―――その頃の谷口。
「・・・くそ・・・俺の監視がバレただと・・・」
「おたく、私の娘に何をしておられるのかね」
「うわ! なんだこのこしみのオヤジは!!」
「キタキター!」
「ぐはっ!!」
探偵・谷口。九曜の調査中にアドバーグ・エルドル、もとい天蓋領域に襲われ殉職。