「Different World's Inhabitants YUKI~ニチヨウビ(その二)~」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
一日目のマエノヒ
そういって、朝倉涼子は手を振りながら、エレベーターを降りていった。さて、今日の晩御飯は何にしよう。最近、カレーばかり食べているからたまには、違うものを食べないと。
などと、考えているうちにエレベーターは7階に止まった。エレベーターから降りて、708号室へと向かう。鍵穴に鍵をさしこみ、ドアを開ける。中は、暗闇につつまれていた。
私は、壁についたスイッチで電気をつけ、本の他には何もない、閑散とした部屋に座り込んだ。一人暮らしはつい最近始めたわけではないので、一人でこの部屋にいることも、もう慣れた。だけど、たまに一人でいることがたまらなく寂しく感じることがある。
今日はそんな日だ。
朝倉涼子でも呼ぼうか。いや、彼女は今日は塾があるとかいってたっけ・・・。私は、他に呼べるような人を考えた。よく考えたら、この部屋にあがったことのある人は数人しかいない。朝倉涼子は、ほぼ毎日のように来ている。他は、去年の12月、ここでクリスマスパーティをやったときに来た、涼宮ハルヒ、朝比奈みくる、古泉一樹、そして・・・。
一昨年の12月の出来事が、脳裏をかけめぐる。朝倉涼子の話に生返事を返しながら、黙々とおでんを食べていた『彼』。あの次の日、彼は消えてしまった。私の目の前で。
あの時、部屋にいた他の3人は驚いていたが、私はなぜかそれほど驚かなかった。なぜだろう。よく分からないが、あの時の私は、彼がどこかへ行ってしまうのではないかと思っていた。あの、おでんを食べた日もそうだ。おでんを食べる前に帰ろうとした、彼を引き止めたのも、彼がそのままいなくなってしまいそうだったから。
だから、彼が帰るとき、彼に明日も部室に行っていいかと言われたときは嬉しかった。ひょっとしたら、彼がいなくなるというのは、私のただの思い過ごしじゃないだろうか、そう考えもした。
しかし、次の日、あの3人をつれてきた彼は、白紙の入部届けを私に渡してそのまま・・・。
私が文章の世界から帰ってきたのは、7時40分くらいだったろうか。ふいに隣の部屋から聞こえてきた音に私は思わず身構えた。
泥棒?でもここは7階、窓から入るのも不可能に近いだろう。では、何?危険なものだろうか。とりあえず包丁でも取りにいったほうがいいのだろうか。
と、目の前の少女は話し始めた。
その話によると、このもう一人の私は、こことは違う別の世界から来たらしく、この世界の涼宮ハルヒに用があって来たらしい。
とはいえ、目の前の自分から、こんな話をされてもすぐに信じるわけにはいかず、私はただぽかりと口を開けて、彼女の話を聞いていたが、彼女の次の言葉には耳を疑った。
目の前に立っている少女は私に向かって、そういった。
しかし、私は正直何が何だかまったく分からなかった。
本音を言うと、会いたい。会いたくて、会いたくて、仕方がない。
この一年間と少しの間、私の前で消えていった『彼』のことをずっと思い続けていた。
しかし、本当にそんなことができるのだろうか。
「この世界に長門有希と呼ばれる存在が二人も存在することはあってはならないこと。あなたには、私がこちらにいる間、向こうの世界に行って欲しい。」
・・・分からない。今、目の前に誰がいて何が起こっているのかさっぱり理解できなかった。
だけど・・・『彼』に会える?ずっと、思い続けていたことが叶うの?そう思ったとき私の頭の中で何かのスイッチが入った。
よく考えたら、こんな小説の中のような出来事、起こるはずがない。しかし、この時の私はそんなことは思いつきもしなかった。
彼に会いたい。
目を開けた私の周りには何だかよく分からないカラフルなものが漂っている空間が広がっていた。そして、目の前には、周りの風景にはあまりにも似合わない木製のドアがあった。
私は、これまで驚きの連続だったからか、それほど驚いていなかった。これはこういうものなのだと思っておこう。よく出来た夢なのかもしれない。
そういって、彼女は分厚いSFものの本を私に渡した。
先にいっておくが私は眼が悪い。眼鏡がないと、本も読めない。眼鏡を外したままで、どのように過ごせばいいのかとか、この本はいったいなんなのかとか、いろいろ聞こうとした。
しかし、その時、ドアをノックする音が聞こえた。