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腐女子上司 - (2008/12/24 (水) 06:55:48) の編集履歴(バックアップ)


腐女子・オタクネタ、キャラ崩壊注意



SS作者古泉くん保守番外編』

 


古泉「……うーん」
古泉「……『ユニーク』、と」
 
カチカチ……
 
森「さっきから携帯で何やってんの?」
古泉「も、森さん!?いつの間に背後に!?」
森「ずっといたわよ……って、何?小説書いてるの?」
古泉「み、見ないで下さい!」
森「まぁまぁ、お姉さんに見せてみなさい」
古泉「いやぁぁぁぁ!」
 
 
古泉「……汚された……もうお嫁に行けません」
森「人聞き悪いこと言わないの。それより……何の二次創作か分からないけど、結構面白いじゃない」
古泉(二次創作なのは分かるんだ……)
森「ねぇ、古泉」
古泉「……なんですか?」
森「BL、書いてみない?」
古泉「……は?」
 
 
SS作者古泉くん保守番外編
『腐女子上司』
 
 
古泉「嫌ですよ!気持ち悪い!」
森「そうよねぇ……いきなり言っても無理よね」
古泉「いきなりじゃなくても無理です」
森「ん~……どうするべきか」
古泉「書きませんよ、僕は」
森「まずはこちら側の嗜好を理解して貰おうかな?」
古泉「……嗜好?」
森「取り敢えず、軽いトコからってことで……普通の少女漫画を読んでみない?」
古泉「……」ピク
森「興味はあるみたいね?」
古泉「……少しは」
森「じゃ、読んでみよっか。その代わり何か萌え系の漫画貸して。私もそういうの読んでみたいし」
古泉「分かりました」
 
~熟読~
 
古泉「……」
森「……」
古泉「……手違いで男子寮に住むことになった女の子と、その周りのタイプの違う魅力的な男子とのラブコメ」
森「……親の再婚で出来た義理の妹とのドキドキラブストーリー」
古泉「男女が入れ替わっただけで男向けとシチュは一緒ですね」
森「……こっちも似たような話を読んだことあるわ。姉と弟だけど」
古泉「萌えポイントは男も女も変わらないのかも知れませんね」
森「うーん……なんとなくは知ってたけど、こうして比べてみると顕著ね」
古泉「僕は女性向けを読んだことがなかったので意外な発見でした」
森「ならさぁ……BLは百合と同じと考えれば書けそうじゃない?」
古泉「確かに……この分なら基本的な心理描写や萌え所は近いものがありそうですし……」
森「同性に恋心を抱いた葛藤とか?」
古泉「そうですね。個人的にはその辺をコミカルに…………って、書きませんよ?」
森(……惜しい)
 
 
森「お待ちかねのBL本よ」
古泉「待ってません。全く待ってません」
森「さぁ、これを参考に小説を書きなさい」
古泉「書かないと言ってるじゃないですか?」
森「そんな……ここまで来といて!?」
古泉「どこにも到達してませんよ」
森「……古泉、考えてみなさい」
古泉「何をです?」
森「これは自分の幅を広げるいいチャンスじゃない?これを書き終えたら、あんたはきっと一回り大きくなった物書きになれると思うの」
古泉「結構です。いい話っぽくまとめないで下さい。それに、あくまで趣味ですから好きな話以外は書きたくありません」
森「……」
古泉「……」
森「……じゃあ、仕方ないわね」
古泉「分かって頂けましたか」
森「うん。もう無理には頼まないわ」
 
ガシ
 
古泉「……そう言いながら、なぜ僕をホールドするんですか、森さん?」
森「それはねぇ……」
 
森「今からあんたを洗脳するからよ」ニコリ
 
古泉「……え?」
森「最初は原作漫画から行くわよ」
古泉「ちょっと?森さん?」
森「その後、アニメに一般向けアンソロに同人漫画、小説……二、三日は寝かせないから覚悟しなさい」
古泉「ま、待って下さい!」
森「レッツゴー」
 
ズルズル……
 
古泉「誰か!誰か助け――」
 
バタン
 
 
~数日後~
 
古泉「……」
キョン「……古泉のヤツ、連休明けてやつれたな?なんかあったのか?」
長門「……彼は連休の間、森園生のマンションで彼女と二人きりで過ごしていた」
キョン「……なんだと?」
長門「……その間、二人は一度足りともマンションから外に出ず、彼は不眠不休で彼女の相手をしていた」
キョン「なんてこった……じゃあ、あの精根尽き果てた様子は……」
長門「……」
キョン「古泉……お前、森さんとどんな羨ましいことをしてたんだ!?」
 
古泉「……ブツブツ」
 
キョン「……ん?」
古泉「……表面上の性格とカップリングの攻め、受けは必ずしも一致しない。むしろ、正反対なものも多い……」
キョン「古泉~?大丈夫か?」
古泉「……王道はツンデレ。しかし、ツンデレの中にも分類があり、その系統は多岐に渡る」
キョン「……おーい?」
古泉「……あぁ、起きてます。大丈夫、寝てませんよ、森さん」
キョン「……本当に何をしてたんだ?」
長門「……ユニーク」

 


森「うーん……」ジー
古泉「なんですか?人の顔をじっと凝視して」
森「あんたってさぁ……」
古泉「はい」
森「攻めね」
 
ガス!
 
森「どしたの?盛大に頭を机に打ち付けて?」
古泉「いきなり上司にそんなこと言われたら誰でもコケますよ!」
森「うん。私も新川あたりに『森はネコだな』って言われたら引くわね」ケラケラ
古泉「じゃあ言わないで下さい!」
森「なんとなくよ、なんとなく」
古泉「まったく、もう……」
 
森「……」ペラ
古泉「……」ペラ
 
森「はぁ……それにしても、若い男女が週末にマンションに篭って漫画交換してるってどーよ?」
古泉「一緒にしないで下さい。僕は不思議探索で若者らしく遊んでいます」
森「と言っても街を歩き回ってるだけじゃない。半分仕事だし」
古泉「……それなりに充実してるからいいんです」
森「……なんか虚しくなってきた」
古泉(じゃあ、言わなきゃいいのに……)
 
森「……」ペラ
古泉「……」ペラ
 
森「古泉ぃ。イケメンの同級生とかいないの?」
古泉「……やっとBLから足を洗って、まともな恋愛に目を向ける気になりましたか?」
森「いや、あんたとカップリングの話でも作ろうかなって」
古泉「絶対に紹介しません!」
森「あ、ほら、報告書にあった国木田君とか、生徒会長とかは?」
古泉「名前を出さないで下さい!まともに彼らを見れなくなるじゃないですか!」
森「お?それは恋かね?」
古泉「違います!一方的に気まずいって意味です!」
森「国木田君だと古泉は受けだけど、会長だと攻めになる……不思議!」
古泉「聞きたくない聞きたくない……」
森「この際だから三角関係いっちゃう?」
古泉「この際の意味が分かりません!」
森「で、古泉的にはどっちが本命なのかな?」
古泉「あぁぁぁぁ!もう!いい加減にして下さい!」
 
森「……」ペラ
古泉「……」ペラ
 
森「……でも、実際の話、彼氏欲しいかなぁ……」
古泉「へぇ?」
森「なによ、その意外そうな顔?」
古泉「いえいえ、失礼しました」
森「オタク趣味にも理解があって、この不規則なシフトの仕事も気にしない人がいいなぁ」
古泉「少しハードルが高いですね」
森「んで、女子高生の五人に一人は振り向くくらいのルックスで、なんだかんだで私のわがままに付き合ってくれる程度に優しくて、ついでに年下」
古泉「一気にハードル上がりましたね。なかなかいないと思いますよ」
森「そうね、自分でもそう思うわ」ケラケラ
森「あ、この巻の続きどれ?」
古泉「そこに積んでます。あ、僕も。この漫画の次はどこですか?」
森「これか。あ、そっちは鞄に入ってるから適当に漁って」
古泉「えっと……あったあった」
 
森「……」ペラ
古泉「……」ペラ

 


古泉「あれ?こんな本買いましたっけ?」
古泉「……表紙を見ても思い出せませんね」
古泉「……」ペラ
 
~森宅~
 
~♪~♪
 
ピッ
 
森「はいは~い?古泉?どしたの?」
古泉『何を普通に僕の本棚にBL本置いてるんですか!序盤は普通の話なんで騙されて読んじゃいましたよ!』
森「あ、うちにないと思ったらそっちにあったのね」
古泉『……あれ?』
森「ごめんごめん、この前忘れて帰ったみたい」
古泉『わざと置いていった訳じゃないんですか?』
森「違うわよ~」
古泉『……失礼しました。てっきり森さんが僕に読ませるために仕込んだのかと……』
森「あ、仕込んだのは押し入れの中のカラーボックスね」
古泉『……』
 
 
『ガタガタ!ガラ!』
『あぁぁぁぁ!』
 
 
森「おー狼狽えてる狼狽えてる」
 
古泉『仕込んだってレベルじゃないですよ!一段丸々BLじゃないですか!?』
森「いや~流石に本棚に仕込んだら友達が来た時に気まずいかな~?って思ってね」
古泉『中途半端な気遣いするくらいなら最初からやらないで下さい!というか、中に入れてた僕の本はどうしたんですか!?』
森「私が今読んでる」
古泉『うわぁぁぁぁ!』
森「へ~……こっちの趣味は三次元が多めね、古泉?」
古泉『ッ~~!』
森「お……これはエロい」
古泉『返して下さい!そして引き取って下さい!』
森「それがさ……意外と面白いのよね。もうちょっと貸しといて」
古泉『それならせめてBL本の回収だけでも!』
森「あんたも読めばいいじゃない?面白いかもよ?」
古泉『いりません!』
森「ふむ……愛読書交換の次は性癖暴露。私たちの親睦は確実に深まってるわね」
古泉『どこのセクハラオヤジですか!あなたは!?』
 
 
古泉『……』
森「……あ~……ごめん、そんなに怒るとは思わなかったわ」
古泉『……』
森「う~……夕飯一回奢りでどうよ?」
古泉『……』
森「……二回?」
古泉『……』
森「……分かったわよ!三回!しかも、それなりに高い店で!」
古泉『……くくっ』
森「!」
古泉『攻守が入れ替わると意外と弱いですね、森さん?』
森「な!?」
古泉『夕食三回、ご馳走様です』
森「……こ~い~ず~みぃ~!」
古泉『では、また』
森「あ、こら!」
 
ピッ
 
森「まったく……」
森「……夕飯三回、か」
森「……」ポリポリ
森「……ま、いっか」

 

 


森「ほ~……これが中学の頃の古泉か」
古泉「……もういいでしょう?アルバム返して下さいよ」
森「もうちょっと見せなさい……いやいや、十代は一、二歳違うだけで随分印象変わるわね」
古泉「はぁ……さっさと掃除に戻りましょうよ?」
森「あんた一人で頑張りなさいよ。ここはあんたの部屋なんだし」
古泉「……森さんが私物を持ち込み過ぎたせいで掃除が必要になったんですよ?」
森「そうだったかしら?……ところで中学は学ランだったのね」
古泉「ええ」
森「ふーん……学ランか……」
古泉「さ、掃除をやりましょう」
森「ねぇ、学ランまだある?」
古泉「は?学ランですか?一応押し入れに保管してますが……それよりも掃除を……」
森「ちょっと出してみて」
古泉「学ランなんて出してどうするんですか?それに掃除が……」
森「出しなさい」
古泉「……はい」
 
~発掘中~
 
古泉「……はい、ありましたよ」
森「うむ、ご苦労」
古泉「……で、どうするんです?まさか、僕に着ろだなんて言いませんよね?」
森「そんなこと言わないわよ」
古泉(ふぅ……)
森「私が着るの」
古泉「……は?」
森「さぁ、出てった出てった」
古泉「ちょ、森さん!?」
森「……それとも生着替えを見たいの?見掛けによらず大胆ね、古泉?」
古泉「うわわ!待って下さい!出ます!」
 
~お着替え中~
 
コンコン
 
古泉「森さん?終わりましたか?」
森『どうぞ~』
 
ガチャ 
 
古泉(本当に着てるよ、この人……わざわざ髪型まで変えてるし……)
森「どうよ?」
古泉「……いや、どうよ?と言われましても……」
森「似合ってない?」
古泉「……女顔の男子中学生に見えないことはないですが……」
森「そうかそうか」
古泉「……満足されましたか?では、掃除の続きを……」
森「……古泉先輩」
古泉「!」
森「僕……先輩のことが……」
古泉「!?!?」
森「……男同士なんて変ですよね……でも、でも……!」
古泉「ストーップ!」
森「なによ?これから切々と初々しい恋心が語られて盛り上がるトコなのに」
古泉「……」
森「おーい?」
古泉(……落ち着け、古泉一樹。あれは森さんだ。分類上は間違いなく女性。僕は決して男にときめいた訳ではないんだ……)
森「……ま、いっか。で、どう?ドキドキした?」
古泉「え?あ……まぁ、少しは……」
森「ほほ~?これはBL好きの素質アリね」
古泉「何故そうなるんですか!?」
森「だって、ドキドキしたんでしょ?」
古泉「…………はい」
森「なら言い逃れ出来ないわね。あんたは男に萌えたのよ」
古泉「でも、それは森さんが!」
森「私が?」
古泉「……」パクパク
森「……?」
古泉「ッ~~!ああ!もう!」
森「どしたの?」
古泉「か、帰って下さい!」
森「いや、帰れと言われても……ほら、私今学ランだし」
古泉「では、僕が出ていきます!」
森「は?」
古泉「鍵だけは掛けて下さいね」
森「ちょ、ちょっと、古泉?」
古泉「失礼します!」
 
ドタドタドタ!バタン!
 
森「……本当に出ていっちゃった」
森「……うーん」
森「……男に萌えた自分がそんなにショックだったのかしら?」
 


~一月某日・機関にて~
 
新川「森、すまないが日曜日に休日出勤してくれないか?少し人手が足りないんだ」
森「あ~……その日だけは無理。ずっと前から約束入れてるの」
古泉(……おや?珍しい)
新川「どうしても無理か?」
森「悪いけど、かなり大事な約束なんだわ」
新川「……分かった。そこまで言うなら他を当たろう」
森「ごめんね」
 
~翌日・生徒会室にて~
 
会長「……ふむ。多少の遅れはあるが、土日を使えばなんとかなるだろう」
古泉「生徒会長もなかなか大変そうですね」
会長「ふん、もう慣れたものだ。喜緑君、土日も登校するように他のメンバーへ連絡を回しておいてくれ」
喜緑「分かりました……ですが、申し訳ありません。生憎私は参加出来ませんね」
会長「何故だね?」
喜緑「日曜日にどうしても外せない用事がございまして」
古泉(……あれ?昨日も似たような台詞を聞いたような?)
会長「……仕方ないな。普段は無理をして貰ってることだし、今回だけは許可を出そう」
喜緑「ありがとうございます」
古泉(……ま、偶然ですよね)
 
~同日・文芸部部室にて~
 
ハルヒ「なに?みくるちゃん、週末は予定あるの?」
みくる「すいませ~ん……日曜はどうしても……」
長門「……」
古泉(……偶然……なのか?)
ハルヒ「どんな用事なの?」
みくる「内容は言えませんけど、大阪まで行かなくちゃいけないんです」
キョン「大阪ですか?結構遠出ですね?」
ハルヒ「……ま、いいわ。なにか大事な用事みたいだし、今週は活動自体を休みにしましょう」
みくる「ごめんなさい~」
古泉(……うーん……考えすぎですかね?)
 
~日曜日早朝・大阪某所~
 
ザッザッザッザッ……
 
森「みんな、リストは頭に入ってるわね?」
みくる「はい」
喜緑「もちろんです」
古泉「……ここ、どこですか?なんで僕がこんなところにいるんですか?」
森「喜緑さん、予定ルートに変更はある?」
古泉「……誰か答えて下さいよ。僕は家で寝てたはずなんですが?」
喜緑「少々お待ちを……ん~……朝比奈さんのルートですが、三番目の予定を一つ繰り上げたほうがいいですね」
みくる「了解です」
喜緑「他は大丈夫です。アクシデントが起きない限り我々に敗北はありません」
森「じゃ、あとは手筈通りね」
古泉「あの、本当に意味が分からないんですが?」
 
森「関西最大規模の同人誌即売会……全てはこの時のために!」
 
古泉「……は?」
森「行くわよ!」
みくる・喜緑「はい!」
古泉「まさか……同人誌を確保させるためだけに僕を拉致したんですか!?」
森「ぎゃーぎゃー言わないの。せめてもの情けで数が少ない一般向けルートにしてあげたんだから」
古泉「そういう問題じゃないでしょう!?」
喜緑「古泉君……買い逃したら後が恐いですよ?」
古泉「ひっ……!」
古泉「……それより……このイベントに参加しているということは、まさかお二人も腐……」
みくる「禁則事項です♪」
古泉「全然誤魔化せてませんよ!朝比奈さん!?」
森「さ、キリキリ歩く!」
古泉「ま、待って下さい!今日は楽しみにしてる連載の投下予告が……」
 
ズルズル……
 
古泉「……あぁ、僕の安らかな休日が……」
 
ザッザッザッザッ……

 

 


~某国際展示場~
 
ガヤガヤガヤ……
 
古泉「……噂には聞いてましたが凄い人ですね?人を見てるだけで疲れてしまいそうです……」
古泉「はぁ……今日は日がな一日SSを書いたり、新作SSを読んだり、保守ネタを投下したりと、非常に有意義な休日になる予定だったのに……」
古泉「……仕方ありません。さっさとリストの買い物を済ませましょう……」
 
~そして~
 
古泉「……ふぅ、これで全部ですか?案外楽勝でしたね」
古泉「さて、あとは森さんたちに戦利品を渡して終わりです。なんとか僕だけでも先に帰らせて貰いましょう」
 
ガヤガヤガヤ……
 
古泉「……あれ?」
古泉「……こ、ここは……?」
 
~集合場所~
 
森「……遅い。古泉のヤツ、どこで油を売ってるのかしら?」
喜緑「確かに……もう約束の時間から三十分も過ぎてますね」
森「携帯は繋がらないし……何か妙な事件に巻き込まれたりしてないわよね?」
みくる「……まさか、買いそびれて逃げ出したんじゃ?」
森「……うーん、あいつに限ってそんなことはないと思うけど……」
喜緑「ちょっと探してみますか?私ならすぐに見付けられると思いますが」
森「……いや、私が連れて来たんだし私が探してみるわ。二人は自分の買い物に行ってきて」
みくる「いいんですか?」
森「ま、弟分の尻拭いは姉貴分の仕事ってことで」
喜緑「……では、お言葉に甘えましょうか、朝比奈さん?」
みくる「……分かりました。お願いしますね、森さん」
森「了解。んじゃ、また後でね」
 
ガヤガヤガヤ……
 
森「……とは言ったものの、一体どこを探せばいいのやら?」
森「うーん……とにかく古泉の予定ルートを辿ってみるか」
 
ガヤガヤガヤ……
 
古泉「…………」
 
森「お?いたいた。ここまで来てるってことは買い物は無事に済んでるみたいね?」
森「ったく、何をやってるんだか……」
森「おーい、古いず……」
森「……」
森「……あー……そういうことね」
 
ガヤガヤガヤ……
 
古泉「……むぅ、やはりハルキョン物は数が多いですね」
古泉「……ちゃんと狙いを絞らないと。いきなり連れて来られたのでもう資金が尽きそうです」
古泉「……むむむ」
 
森「い・つ・き・くん?」
 
古泉「!?」ビクゥッ
森「……嫌々だった割りには結構楽しんでるみたいね?」
古泉「も、森さん!?」
森「いやいや、無理矢理連れてきたからどうかと思ったけど、楽しんでくれてるならそれに越したことはないわ。うん」
古泉「は、はぁ……?」
森「ただねぇ……」
 
森「あんたを待ってたり探してたりしたせいで、私の自由時間が減っちゃったのは、ちょーっと不満かなぁ?」
 
古泉「…………あぁ!す、すいません!」
森「それに……何かあったのかも?って心配するじゃないの」
古泉「……本当にすいません……」
森「よろしい」
 
森「それはさておき……どうやってお詫びして貰おっかな~?」
古泉「!」ビクッ
森「……ま、予定にあった本は全部買えてるみたいだし、軽い罰ゲーム一回で許してあげるわ」
古泉「……罰ゲーム、ですか?」
森「そ、罰ゲーム」ニコリ
古泉「……肉体系ですか?精神系ですか?」
森「ん~とねぇ……」
森「――――」ゴニョゴニョ
古泉「な!?全然軽くないですよ、それ!」
森「今日帰ったらやるわよ?」
古泉「……無理です……想像しただけで死にたくなりました」
森「大丈夫。相手は私一人だから」
古泉「……お願いします。他の罰ゲームで……」
森「却下」
古泉「そんな……」
森「ほら、荷物持ちもやって貰うわよ。今から回れるだけ回るんだから」
古泉「……あぁぁぁぁ」
 

 

 


~その夜のこと~
 
古泉「……本当にやるんですか?」
森「もちろん」
古泉「……なんとか別のことには……」
森「ならないわねぇ」
古泉「……」
森「覚悟、決めなさい」
 
森「じゃ、『一樹くんが買ったエロ同人誌朗読会』の始まり始まり~」
 
古泉「……本気で恥ずかしいんですが」
森「だからこそ罰ゲームになると思わない?」
古泉「……男のエロ朗読を聞いて楽しいですか?」
森「かなり面白そうではあるわね」
古泉「……はぁ」
森「……しっかし、見事に主人公×メインヒロインの純愛路線ばかりね。鬼畜入ってるヤツないの?読ませるならそっちの方が面白いのに」
古泉「あの……出来たら短いヤツで……」
森「よし、これにしよう。モノローグが多いから雰囲気出るわ」
古泉「うわ……」
森「そんじゃ、行ってみよっか」
 
古泉「……」
古泉『ここはどこだなんてかんがえるよりさきに……』
 
森「はい、カーット」
古泉「え?」
森「何よ、その棒読み?あんた文化祭じゃ結構ノリノリだったらしいじゃない?」
古泉「……これをノリノリで朗読出来たら変態ですよ?」
森「あんたは今エロゲ声優を敵に回したわね」
古泉「……知りませんよ」
森「照れを捨てなさい。私が満足するまでこの罰ゲームは終わらないわよ?」
古泉「……分かりましたよ。やればいいんでしょ!やれば!」
森「いい感じにふっ切れてきたわね?その感じで行きましょう」
古泉「……はぁ」
 
古泉『――ここはどこだ?……なんて考える先よりに、これは誰の仕業だ?という疑問が頭に浮かんだ。こういう異常事態に順応してきている自分の思考回路に、呆れに近い苦笑いが溢れる』
 
森(……お?)
 
古泉『――一面灰色に覆われた空。一目でハルヒの閉鎖空間だということは分かった。なら、またハルヒに何かあったんだろう……閉鎖空間を作るような何かが……』
古泉『……ちょっと待て』
古泉『――その何かを俺は知っている。知っているはずだ。なのに……なんで思い出せないんだ?』
 
森(これは意外と……)
 
古泉『……ハルヒ?』
古泉『キョン……何しに来たのよ?』
 
森(くく……女役はまだ照れがあるみたいね?)
 
古泉『……何しにって……俺自身がなんでこんな所にいるのかさっぱり分からないんだが』
古泉『……誰もこの世界には呼んでないわよ。ここはあたしだけの場所なの』
古泉『――呼んでないって……まさか、こいつ自力で閉鎖空間に引き込もったのか?』
 
森(……だんだんノってきたかしら?ま、エロシーンまではオマケみたいなもんだけど)
 
古泉『なに驚いた顔してんのよ……あんたは知ってたんでしょ?この力のこと』
古泉『――……ああ、そうか。なんで忘れてたんだろ?ほんの少し前に、こいつは自分のことを……』
 
森(……あ、録音しときゃよかった)
 
古泉『……帰って。一人にして欲しいの』
古泉『――……これがあの涼宮ハルヒか?こいつの背中はこんなにも小さかったのか?』
古泉『……帰れ、か……』
 
森(まずったなぁ……こんなおいしいネタ、滅多にないのに)
 
古泉『……そう、帰りなさい。帰る場所はあるはずだから』
古泉『――……まぁ、帰れと言われても一人で帰る気はないんだけどな』
古泉『よっ……と』
古泉『……なんで隣に座るのよ?帰れって言ってるでしょう?』
 
森(……ん?)
 
古泉『やだね』
古泉『……喧嘩売ってるの?』
古泉『俺がいたいからここにいさせて貰う』
 
森(……あ、なんか雰囲気が違うと思ったら一人称が『俺』だからか)
 
古泉『はぁ?』
古泉『本当のことを知ってショックを受けたか?それとも、現実世界が色褪せて見えたか?……ま、どっちでもいいか』
古泉『……何が言いたいのよ?』
 
森(それに、ちょっとぶっきらぼうなキャラみたいだし)
 
古泉『……その、なんだ。とにかく付き合わさせて貰うぞ。お前が向こうに帰る気になるまで、ずっとな』
古泉『……余計なお世話よ。なんであんたがそんなことするのよ……』
古泉『……それはな』
 
森(普段の古泉とのギャップが……)
 
 
古泉『……俺はお前のことが好きだからだよ』
 
 
森「…………」
 
 
古泉『……は?何を言っ――』
 
森「……すとーっぷ」
古泉「……あれ?何かまずかったでしょうか?」
森「いや、そうじゃないんだけどねぇ……」ポリポリ
古泉「?」
森「……えっと、その本はもういいわ。次はこっち、この本行ってみよう」
古泉「……今度はまたベタ甘なチョイスを……というか、一冊で終わりじゃなかったんですか?」
森「誰もそんなこと言ってないでしょ?さ、読みなさい」
古泉「はぁ……分かりましたよ。もう一冊も二冊も一緒です」
森「あ、それと……今度は男役のセリフだけでやってみて」
古泉「それだと話の内容が分かりにくくないですか?」
森「……いいからいいから」
古泉「はぁ……?分かりました」
森「……感情を込めてね」
古泉「はいはい」
 

 


~生徒会長の日記~
 
 前日予習に使った英語のノートを、うっかり家に置き忘れてしまった。そのことを喜緑君に話すと快くノートを貸してくれた。ありがたい。
 喜緑君のノートはとても見やすくまとめられていて授業でも非常に助かったのだが……。
 ノートの隅に気になる落書きを見付けてしまった。
 
『やっぱり眼鏡っ漢は受けですよ』
『いずれは眼鏡総攻め派の未来人と決着をつけなければならないでしょう』
『○○×△△(←人名?)』
 
 ……めがねっ……かん?受け?総攻め?未来人?……数式?……SF小説か何かの設定だろうか?
 他にも見たことのないアルファベットの略語や聞いたこともない単語が多数確認出来た。
 ノートを返す時にでも尋ねてみようと思っていたのだが、いざ喜緑君を前にすると何故か口に出すことが憚られた。
 ……まるで本能が危機を回避するかのように……。
 ……考え過ぎか。
 
 ……一つだけ分かったことは、喜緑君のメモによれば、どうやら俺は「受け」とやらにカテゴライズされるらしい。「受け」が何を意味するかはよく分からないが、彼女のノートに自分の名前があったことが気恥ずかしくもあり……嬉しくもあった。
 ……いつか彼女に「受け」とは何か尋ねてみようと思う。
 ……何事も包み隠さず話せる、そんな間柄になれた時に。
〈終〉
 

 


~居酒屋にて~
 
古泉「森さん遅いですね」
多丸圭一「ったく、言い出しっぺが遅れるってどういうことだよ?」
多丸裕「あいつが飲み会に遅れるのも珍しいな」
新川「仕方ない。先に始めるか」
古泉「そうですね」
新川「それでは……みんな、今月もご苦労だった。また来月も頑張っていこう、乾杯」
一同「カンパーイ」
 
カチン
 
古泉「…………」
圭一「どうした、古泉?全然飲み食いしてないじゃないか?」
古泉「……あの、今しか聞くチャンスがないと思うので、少しお聞きしたいのですが……」
裕「なんだ?恋の相談か?はははは」
古泉「……森さんってお何歳ですか?」
裕「……」
圭一「……」
新川「……」グビ
裕「……どうしてそんなことを気にするんだ?」
古泉「……この前ですね、森さんが古いアニメについて、やたら詳しく解説してたんですよ」
圭一「……ふむ……まぁ、あいつはアニメとか好きらしいし、別におかしくはないんじゃないか?」
古泉「……後で調べたら80年代のアニメでした」
圭一「……」
裕「……」
新川「……」グビ
古泉「……」
裕「だ、だからと言って放送当時に見ていたとは限らないだろう?」
古泉「それはそうなんですが……それより、皆さんは森さんの年齢を知っているんでしょう?何故そんな風に誤魔化すような態度を取るんですか?」
圭一「それは……なぁ?」
裕「だって……なぁ?」
新川「……」グビ
古泉「なんですか?凄く気になるじゃないですか?」
圭一「気にするな。飲め」
古泉「あからさまに話を逸らしてません?」
裕「すいませーん、瓶ビール追加で」
古泉「……」
古泉「……そんなに言いにくいってことは……まさか、本当に森さんはみそ――」
裕「ストップ。そこから先は言わない方がいい」
古泉「え?」
裕「何故なら……」
古泉「何故なら……?」
裕「本人が後ろにいるからな」
森「やっほー、遅れてごめんね?」
古泉「……」
 
ガシィ!
 
古泉「はぅ!」ビクゥッ
森「……古泉君」
古泉「は、はい!」
森「私ってそんなにおばさんに見えるのかしら?」ギリギリギリ
古泉「痛ッ!か、関節……関節が!」
森「どうなの?」ギリギリギリ
古泉「森さんはお若いです!はい!」
森「あんた、さっき『みそ』って言いかけたよね?『みそ』って何のことなのかしら?」ギリッ!
古泉「ぎ、ギブ……ギブアップ……」タンタン
森「……古泉、あんたには再教育が必要のようね?」
古泉「待って下さい……だって、圭一さんたちが……」
森「問答無用!カウンター席行くわよ!マスター!焼酎ボトルで!」
古泉「た、助けて……」
 
ズルズル……
 
新川「……」グビ
新川「……何故本当の歳を教えてやらなかったんだ?見た目からすれば別に隠すような歳でもないだろ?」
圭一「いや、こっちの方が面白いでしょう?」
裕「そうそう」
新川「……はぁ、あまり若い奴らで遊ぶなよ?」
圭一「くく……そう言う新川さんだって黙ってたじゃないか?」
裕「なんだかんだであいつら見てるのが楽しいんでしょ?」
新川「……なんのことかよく分からんな」グビ
圭一「ま、おっさん連中はこっちでのんびりやりましょうや」
裕「ちょっと違うけど、あとは若い二人に任せて、ってヤツで」チラ
 
『待って下さい!焼酎を日本酒で割ってもそれはただのチャンポンです!』
『いいから飲みなさい!』
『無理ですって!』
『マスター!次、ウォッカで割って!』
『もっと危険ですよ!』
 
新川「……やれやれ」
 

 


~森宅~
 
森「古泉」
古泉「……ん」
森「起きなさい、古泉」
古泉(……うぅ)
森「そんな格好で寝てたら風邪ひくわよ?」
古泉(……そうだ、確か居酒屋で飲んでて……)
森「それに……」
古泉(……それから……えーっと……)
 
森「あなたは女の子なんだから、うたた寝なんかしちゃはしたないわよ?」
 
古泉「……」
 
ガバッ
 
古泉「……今、なんて言いました?僕が女の子?」
森「そうよ、一美ちゃん」
古泉「いつみ?誰ですか、それ?」
森「あなたのことじゃない?」
古泉「は?」
森「お酒飲んで混乱してるのね。ほら、鏡を見てみなさい」
古泉「鏡……?」
森「ね?どこから見ても女の子じゃないの?」
古泉「……なぁッ!?」
 
 そこには、どこか見覚えのある美少女がいた。
 ……見覚えがあるはずだ……だって、見間違うはずがない。
 ……それは紛れもなく『僕』自身だったのだから……。
 
森「……そんな馬鹿な……目が覚めたら女の子になってるなんて……」
古泉「勝手にモノローグを付けないで下さい!なんですか!これは!?」
森「だから、あなたは女の子になったのよ」
古泉「そのネタはもういいですよ!僕が聞きたいのは――」
 
古泉「なんで僕がセーラー服を着てるのかってことです!」
 
森「いや~巷で性転換ネタが大流行らしいから、やっちゃいました♪」
古泉「やっちゃいました♪、じゃないですよ!ただの女装じゃないですか!」
森「あははは♪」
古泉「すぐに僕の服を返して下さい!」
森「覚えてないの?あんた、服にお酒溢しちゃったから洗濯したのよ。朝まで乾かないわね」ケラケラ
古泉「な!?」
森「くく……安心して。脱がす時も下着までしか見てないから」
古泉「~~ッ!」
森「うふふふ……かわいいわよ、一美ちゃん」
古泉「……さては、まだ酔ってますね?」
森「お酒を飲んだら酔っ払うのは当たり前じゃない?」
古泉「うわ、空き缶がこんなに……」
森「ま、ま、飲みなさい。酔いが足りないから恥ずかしいのよ」
古泉「……いや、それよりも別の服はないんですか?」
森「あんたにサイズの合う服なんてウチにあるはずないじゃない?」
古泉「……じゃあ、このセーラー服は一体どこから……よく見れば北高の制服じゃないですか?」
森「何かに使えないかと思って未来人とTFEI端末の知り合いにお願いしときました♪」
古泉「……それだけの人脈を恐ろしく駄目な方向に活用してますね」
森「あははは♪なんなら体操服とブルマもあるわよ?」
古泉「いりません!」
 
森「まぁまぁ、飲んでたらその内に楽しくなるわよ♪」
 
トクトクトク……
 
古泉「……」
 
グビッグビッグビッ……
 
古泉「ふぅ……」
森「おぉ~いい飲みっぷりね。そうこなくっちゃ」
古泉「……こうなりゃヤケです。森さんも飲んで下さい」
森「はいは~い♪」
 
トクトクトク……
 
グビッグビッグビッ……
 
森「ぷはぁ……よし!このまま朝まで行くわよ!」
古泉「うぅ……下半身がスースーする」
森「飲みなさい。お酒が全てを解決してくれるわ」
 
トクトクトク……
 
 
~翌朝~
 
チュン……チュンチュン
 
森「……う」
森「……うぁ……頭痛い」
森「……」
森「あ~……またやっちゃったか」ポリポリ
森「……居酒屋で飲んで、そっからどうしたっけ?」
古泉「……」スゥスゥ
森「……あれ?なんで古泉がウチに……」
 
森「げッ!?」
 
古泉「ん……」ゴロ
森「……どうして古泉がセーラー服を……?」
森「……」
森「あ、そうか。昨日私が着せたんだっけ?」
古泉「……」スヤスヤ
森「うーん……なんか違うわね」
森「……そうだ。メイクしてみよう」
 
ゴソゴソ……
 
パタパタ、ペタペタ……
 
古泉「……んぅ」
森「…………」
 
ゴソゴソ
 
カシャ、カシャ
 
森「……ふぅ、いい画が撮れたわ」
古泉「ふぁ……」
森「!?」ビクッ
古泉「う……ん、おはようございます」
森「お、おはよう」
古泉「どうしたんですか?なんか顔が赤いですよ?」
森「だ、大丈夫!なんでもないから!」
古泉「そうですか……?それならいいんですが」
森(……ふぅ)
古泉「……あ、そうだ。『とれた』、って何のことですか?」
森「!!」ビクゥッ
古泉「……あの、森さん?」
森「あ、安心して!他の誰にも見せないから!」
古泉「……話が見えないんですが?誰にも見せないとは?」
森「あぅ……そ、空耳よ、空耳!」
古泉「……何か誤魔化してません?」
森「えーっと、えーっと……そ、そうだ!もう乾いてるはずだから服を着替えてきたら?」
古泉「……それもそうですね。流石に素面でこれは恥ずかしいですし」ヒラヒラ
森「……うゎ」
古泉「……本当に大丈夫ですか?さっきから様子が変ですよ?」
森「い、いいから!さっさと着替えてきなさい!」グイッ
古泉「ちょ、ちょっと、森さん?」
森「バスルームの場所は分かるわね!?そこに干してるから!」
 
バタン!
 
古泉「……いきなりどうしたんだろ?」
古泉「……うーん……」
古泉「何か気に障るようなことをしたでしょうか?」
 
 
~注意~
 
長門「……未成年の飲酒は法律で禁じられている」
長門「……それと、他人に飲酒を強要することは推奨しない。一気飲みなどは以ての外」
長門「……約束」
 


~生徒会長の日記・2~
 
 最近は生徒会の雑務を処理するために、昼休みも生徒会室に赴くことが増えてきた。普通なら貴重な休み時間を削られることに愚痴の一つも言いたくなるところだが、そこに喜緑君との昼食というオプションが付くなら話は別だ。
 特に昼休みが終わるまでの僅かな歓談の時間は、今の俺には何事にも代えがたい至福の一時となっていた。
 今日の話題は野球部の話から一昔前に流行った野球漫画の話になった。俺が持っている数少ない漫画の一つだったが、驚いたことに喜緑君もその漫画を好きだと言ってくれた。
 自分の好きな漫画を彼女も好きだった。それだけで胸にとても暖かいモノが溢れていく。
 それからチャイムが終わりの鐘を鳴らすまで、俺は真面目な生徒会長の仮面を外して、ただの高校生のように好きな漫画について語った。
 あとになって気恥ずかしなったが、喜緑君との会話が弾んだことに比べれば些細なことだ。今日のような出来事があるからこそ、俺は明日からも生徒会の仕事を頑張っていける。
 そう思った。
 
 
 そう言えば、気になったことが一つだけ。
 喜緑君は「主人公と眼鏡の子がお似合いですよね」と興奮気味に語っていたが……。
 はて?あの漫画に眼鏡の女の子なんて出てきただろうか?
〈終〉

 


~機関にて~
 
森「あれ?古泉は?」
圭一「電話みたいだな。携帯持って廊下に行ったよ」
森「あいつ……仕事中だってのに、私用電話とはいい度胸ね」
圭一「んー……今あいつにやらせる仕事はないし、別にいいんじゃないか?」
森「ダメ。呼んでくる」
圭一「……ま、説教は程々にな」
 
 
森「あ、いたいた。コラ、古いず――」
古泉「はい。では、明日の正午に駅前で待ち合わせということで」
森「……む?」
古泉「ええ……そうですね、昼食はご一緒しましょうか?」
森「……」ピク
古泉「それでは、デートを楽しみにしてますよ」
森「!」
古泉「あははは。明日お会いしましょう」
 
ピッ
 
森「……古泉」
古泉「あ、森さん。すいません、すぐに戻ります」
森「……いや、それよりさ……えっと」
古泉「?」
森「……その、明日はデートなの?」
古泉「あ、聞かれちゃいましたか?」
森「……どうなの?」
古泉「そうですね、ただ二人で遊びに行くだけですが……まぁ、デートみたいなものですかね?あはは」
森「…………ふーん」
古泉「森さん?どうかなさいましたか?」
森「……なんでもないわよ」
 
 
森「――ということがあったんだけど、何か知らない?」
みくる『う~ん……残念ながら。古泉君はあまりそういうことを話すタイプじゃないですからね』
森「……やっぱり知らないか」
みくる『気になります?』
森「……そういう訳じゃないけど……」
みくる『……』
森「……」
みくる『……分かりました。明日は古泉君を尾行してみましょう!』
森「は?」
みくる『私も古泉君のお相手は気になりますし』
森「あの……それはやりすぎじゃないかしら?」
みくる『どちらにしろ、古泉君に恋人が出来たら機関は調べるんじゃないですか?』
森「それはそうだけど……」
みくる『では、決まりですね?』
森「あ、で、でも明日は仕事があるから無理だわ。朝比奈さんも一人じゃ難しいんじゃない?」
みくる『いえ、森さんがいなくても大丈夫です!古泉君の様子はリアルタイムでメールで報告しますね!』
森「そ、そう……でも――」
みくる『朝比奈みくる、頑張ります!では、また明日!』
 
ピッ
 
森「あ……」
森「……古泉のデートの相手、か」
森「……知りたいような、知りたくないような」
森「……なんでこんなに落ち着かないんだろ?」

 


~デート当日~
 
みくる「ふむ、古泉君もお相手の方もまだ来てませんね」
長門「……朝比奈みくる、何故私まで呼び出されたのか説明を求める」
みくる「森さんには一人で大丈夫って言っちゃいましたけど、やっぱりちょっと不安で……協力してくれませんか?」
長門「……そもそもこれはあなたには関係がない問題のはず。あなたがこの役目を買って出る必要はない」
みくる「森さんは(BL繋りの)お友達です。友達の恋を応援するのに理由なんかいりませんよ」
長門「……それはつまり古泉一樹と森園生の二人が?」
みくる「そういうことみたいですね」
長門「…………」
長門「理解した。知的好奇心により私も協力する」
みくる「あ、ありがとうございます!」
 
 
みくる「むむ?古泉君が来ましたね」
長門「……約束の10分前。デートの待ち合わせとしては普通」
みくる「『ごめん、待った?』『いえ、今来たところですよ』とかやっちゃうんですかねぇ?……チッ」
長門「……朝比奈みくる?」
みくる「おや?古泉君が手を振ってますね?お相手も来たみたいですよ」
長門「……あれは……」
 
 
古泉「お待ちしてましたよ」
キョン「俺は時間ぴったりに来たぞ。お前が早く来すぎだ」
古泉「はは、デートに遅れる訳にはいきませんので」
キョン「冗談でもやめろ。気持ち悪い」
古泉「ひどい言われ様ですね。涼宮さんとのデートの予行演習に付き合って差し上げてるというのに」
キョン「……ハルヒとはデートじゃないし、これは予行演習でもない」
古泉「おや?では、中止しますか?」
キョン「……当日にハルヒが機嫌損ねたらお前らも困るだろ?」
古泉「それは困りますね」
キョン「……なら『ご機嫌取りのために連れていく場所』の下見に行くぞ」
古泉「はいはい」
 
 
長門「……相手は女性ではなかった。デートという情報は間違いだったのでは?」
みくる「……いえ、これは間違いなくデートですね」
長門「?」
みくる「これはやばいですよ!森さんに超強力ライバルの出現です!」
長門「……まさか、彼らは男同士。そのような関係にはなりえない」
みくる「何を言っているんですか!」
長門「!?」ビクッ
みくる「いいですか、そもそも思春期の男子というのは――」
 
 
~ただいま朝比奈先生によるBL講座が展開されていますので、しばらくお待ち下さい~
 
 
みくる「――という訳で、彼らの行動が青い衝動によるものだという可能性は捨て切れないのです!」
長門「…………はぁ」
みくる「早速森さんにメールを!」
長門「あ……」
 
 
~♪~♪
 
森「……朝比奈さんからかな?」
 
カチカチ
 
『やばいです。本気のラブラブデートです。』
 
森「……って、それだけ?相手は誰なのよ?」
森「それに、ラブラブってどういうことよ?……そんな相手があいつにいたなんて聞いてないわよ」
森「う~……気になる」
新川「コラ、手が止まってるぞ」
森「あ……」
新川「今日中に全部の資料を仕上げる必要があるからな。休憩もないと思っておけよ?」
森「……了解」
 
 
みくる「あ、二人が移動しますね。早速尾行開始です!」
長門「……色々と疑問は残るけど、了解した」
 
 
古泉「昼食はファーストフードですか」
キョン「何か問題あるのか?」
古泉「いえ……そうですね、初デートならそこまで気合いを入れなくてもいいでしょう」
キョン「……初と言われても次なんかないぞ。ハルヒに付き合うのは一回だけだ」
古泉「それにファーストフードならではのイベントもありますし」
キョン「話を聞け。それに、イベントって何だよ?」
古泉「『はい、あ~ん』などでしょうか?」
キョン「……頼むから実演しないでくれ。リアクションに困る」
古泉「実際に食べられたら僕も困りますけどね」パク
キョン「……ならやるなよ」
 
 
みくる「み、見ましたか!?ポテトで『あ~ん』ですよ!?」
長門「落ち着いて。今のは明らかにジョークの類。その証拠にすぐに自分で食べた」
みくる「きっと照れ隠しですよ!これは報告しなきゃ!」
 
 
森「あ、『あ~ん』ですって?」
森「なんというバカップル……どんなバカ女なのよ、相手は……」
新川「森、さっきから仕事をしないで一体何を――」
森「うっさい!やればいいんでしょう!」
新川「!」ビクッ
森「さっさと終わらせてやるわよ!」
新川「あ、あぁ……頼む……」
 
 
古泉「次は映画ですか?」
キョン「ああ」
古泉「恋愛映画とアクション映画がありますね?」
キョン「ハルヒならアクションかな?」
古泉「…………」
キョン「その可哀想なものを見る目はやめろ」
古泉「ここは恋愛映画一択ですよ。涼宮さんはああ見えてロマンティストですから、その方が喜ばれるでしょう」
キョン「……そういうものか?」
古泉「そういうものです。では、行きましょう」
 
 
みくる「男二人でベタベタの恋愛映画……これはカップル確定ですね!」
長門「……何故その結論に至ったのか、説明を求める」
みくる「男同士で見る恋愛映画ほど辛いものはないと聞きます。しかし、それが恋人同士なら?」
長門「……なるほど……いや、しかし……」
みくる「ひとまず送信、と。私たちも行きますよ」
 
 
森「…………」イライラ
圭一「……森のヤツ、なんか荒れてない?」
裕「ああ……危険ゾーンに突入してるな」
新川「どうも携帯を見る度に機嫌が悪くなってるようだ」
圭一「いつもなら古泉を生贄に捧げるところだが……あいつは今日休みだしな」
裕「どうします?新川さん」
新川「触らぬ神になんとやらだ。ここは穏便に行こう」
多丸兄弟「ラジャ!」
 
 
キョン「わりと面白かったな」
古泉「はい。……ただ、男同士で見るものではありませんね」
キョン「……それには同意しとこう」
古泉「それで、次はどうするんですか?」
キョン「実はここから先は決めてないんだ」
古泉「ふむ……では、今から散策しながらプランを考えますか?」
キョン「そうだな」
 
 
古泉「……あ」
キョン「どうした?」
古泉「いえ、こちらの値段もチェックしておきますか?」
キョン「こちらって……ぶっ!」
古泉「いざという時、お金が足りないでは困りますよ?」
キョン「……古泉」
古泉「はい?」
キョン「何故ハルヒと遊ぶのにラブホの値段をチェックする必要があるんだ!?」
古泉「ジョークですよ、ジョーク。流石に初デートでそこまで行けるとは思いませんから」
キョン「……それはそれでむかつく発言だな」
古泉「おや?自信がおありで?」
キョン「それ以前にデートじゃねぇって言ってるだろ!」
 
 
みくる「……見ました?」
長門「……見た」
みくる「……ラブホテルを指差してましたね?」
長門「……」コクリ
みくる「……送信」
 
 
森「…………」ミシミシッ
圭一「も、森?そんなに力一杯握り締めたらマウスが壊れるぞ?」
森「黙れ」
圭一「はい」

 


~その夜・古泉のマンション前にて~
 
森「…………」
古泉「……おや?森さん、どうされましたか?」
森「……おかえり、古泉」
古泉「わざわざマンションの前で待ってるなんて……僕の部屋に何か忘れ物でも?」
森「あのさ……」
古泉「はい?」
森「……デート、楽しかった?」
古泉「デート……?あ、今日のことですか?まぁ、それなりに楽しかったですけど、それが何か?」
森「……あんた、彼女いたんだね?」
古泉「え?」
森「……いや、隠してたことを怒ってる訳じゃないのよ。あんたのプライベートの問題だしさ。でもね、ちょっと寂しさを感じたっていうか、なんか納得いかないというか……」
古泉「あの~?何か勘違いしてませんか?」
森「……何をよ?」
古泉「えーと……今日一緒に出掛けた相手はSOS団の『彼』ですよ?」
森「『彼』って……キョン君?」
古泉「はい」
森「……」
古泉「……」
森「そんな……あんた、キョン君と『あ~ん』したり、恋愛映画見たり、ラブホに入ろうとしたりしたの!?」
古泉「は?…………いや、ちょっと待って下さい!最後のだけは明らかに違います!……って言うか、なんでそんなことまで知ってるんですか!?」
森「そんなことより!最後以外は事実なの!?」
古泉「事実ですけど、多分何か勘違いしてますよ!」
森「……そんな……私がBLを薦めたばっかりに……」
古泉「あの、森さん?話を聞いてますか?」
森「私はそんなつもりであんたを腐男子に育てた訳じゃないわよ!」
古泉「育てられてません!」
森「じゃあ、あんた元々男が好きだったのね!?」
古泉「いや、もう本気で意味が分かりませんよ!というか、話を聞いて下さい!」
森「もういい!古泉のバカァ!」
 
ダッ!
 
古泉「あ、ちょっと!森さん!」
古泉「……えぇ~?」
古泉「……一体何がどうなってるんだ……?」
 
~その後~
 
圭一「んで、結局どうなったんだっけ?」
古泉「……今朝、僕と彼が付き合っているという誤情報が涼宮さんに伝わってまして、ご存知の通り大閉鎖空間が発生しました」
裕「あぁ、凄かったらしいな」
古泉「それで閉鎖空間の対処に、女性陣への弁明にと、僕は東奔西走の一日……先程やっと解放されたところですよ」
圭一「お疲れさん。まぁ、コーヒーだが飲め」
 
コポコポ……
 
古泉「ありがとうございます……」
裕「ま、誤解も解けたみたいだし、よかったじゃないか」
古泉「そうですね、誤情報の出所も判明しましたし……でも、ひとつ腑に落ちないことがあるんですよね」
裕「なんだ?」
古泉「……昨晩、なんで森さんはあんなに取り乱してたんでしょうか?」
多丸兄弟「…………」
圭一「あ~……たまにいるよな。他人には気が回るくせに、自分のことになるとまるで気付かないヤツ」
裕「……まぁ、森もはっきりと自覚してないみたいだからお互い様だけど」
古泉「なんですか?いきなり二人で内緒話を始めたりして」
圭一「お前は人のことを気にする前に、自分の現状を見つめ直すべきだな」
裕「そうそう」
古泉「はぁ……?」


 

~12月24日・古泉宅~

森「明日のパーティーで使う物はこれで全部かしら?」
古泉「はい。僕が用意する物はそうですね」
森「SOS団のイベントも鶴屋家主催だと私たちはやることが少ないわね」
古泉「そうですね。ただ、新川さんも森さんもいらっしゃらないので緊急時が少々不安ですが」
森「ま、長門さんたちもいるし大丈夫でしょ。それより本当に忘れ物はないわね?」
古泉「……あ、そういえば」
森「ん?どしたの?」
古泉「明日着て行く服を用意してませんでした」
森「なんだ。そんなのさっさと決めちゃいなさいよ」
古泉「ええ。忘れない内に準備しておきますか」

ガラッ

古泉「さて、どれを着て行きましょう?」
森「……ん?」
古泉「えーっと……下はコレで、上はコレを着て……」
森「…………」
古泉「こんな感じですか」
森「……ねぇ、古泉」
古泉「なんでしょう?」
森「私の見間違いじゃなけりゃ、それって二年近く前に機関が支給した服じゃない?」
古泉「ええ、そうですよ。よく分かりましたね?」
森「……うん、だって用意したの私だし、何回か着てるトコ見てるし」
古泉「そうでしたか。大きめのサイズだったお蔭で、今でも充分着られるのでありがたいですよ」
森「それはよかった……じゃなくて、ちょっとくたびれてるみたいだし、別のにしたら?」
古泉「そうでしょうか?……でしたら……」ゴソゴソ
森「…………」
古泉「これにしますか」
森「……うん、それも見覚えがあるわ。やっぱり私が用意した機関からの支給品よね?」
古泉「こっちは昔に比べるとサイズが少しきついんですけど、あまり着ていないので見た目もまだ新しいですよ?」
森「…………」
古泉「どうされましたか?」
森「……古泉」
古泉「はい」
森「最後に服を買ったのはいつ?」
古泉「最後に、ですか?……えーっと、夏にユ○クロでシャツを三枚セットで買った時ですかね」
森「……いや、シャツとかじゃなくて……それにユ○クロって……」
古泉「上着とかですか?それなら去年の秋にやっぱりユ○クロで……」
森「…………」
古泉「……森さん?」
森「……凄く嫌な予感がする……」
古泉「はい?」
森「古泉、今すぐクローゼットとタンスの中身を全部見せなさい」
古泉「え?」
森「早くしなさい!」
古泉「は、はい」


森「…………」
古泉「あの……何か問題がありますか?」
森「……うかつだったわ。そういえば仕事には学校の制服で来るし、家ではラフな格好しか見てないし、ここ半年ほどこいつのまともな私服を見ることはなかった……」
古泉「えーっと……?」
森「……それにしてもよ」
古泉「も、森さん?」

森「機関が大昔に支給したのしかまともな服がないってどういうことよ!?」

古泉「!?」ビクッ
森「あんたそれなりに給料貰ってるんだから古くなったら新しいの買いなさいよ!」
古泉「で、ですが、機関から頂いた服ならまだどれも着られますし……」
森「そんなこと言って、どうせ服に回すべきお金を趣味に突っ込んでるだけでしょうが!」
古泉「!?……な、なぜそれを……」
森「長くオタクやってれば誰もが一度は通る道よ。服の次は髪や靴、その次は食費。オタク活動のための費用削減は止まることがないのよ?」
古泉「僕はまだそこまで酷くはないと自分では思――」

ガシッ

古泉「ひっ!?」
森「……いい?古泉?」
古泉「は、はい!」
森「こっから本音なんだけどさぁ……」
古泉「…………」コクコク
森「……社会人の女はね、どうしても最低限は化ける必要があるの」
古泉(化けるって……)
森「もちろん男もそうだろうけど、比べ物にならないくらい女の方が費用は重むの」
古泉「はぁ……?」
森「嗚呼、このDVDBOXを買いたい……でも、これを買うと化粧品や食費に回すお金がなくなる……それでもやっぱり欲しい」
森「そういう葛藤を毎月のように繰り返してる訳」
古泉「…………」
森「そんな風に生活してる私を尻目に、最低限の身だしなみすらせず買いたい物を買い漁ってるあんたを――」

森「――私が見逃すと思ってるの?」

古泉(……理不尽な)


~駅前~

森「という訳で、今からあんたの服を買いに行くわよ」
古泉「はい……」
森「私もアドバイスするけど、外出用のそれなりにいいものを選ぶように。分かった?」
古泉「分かりました……」


森「あ、これなんてどう?」
古泉「こういう服はあまり持ってませんね」
森「合わせてみなさいよ。ほら、こんな感じ」
古泉「……ふむ」
森「なかなかいいみたいね?」
古泉「はい。これなら……って、高!」
森「こ、こら!恥ずかしいからそんなこと言わないの!」ヒソヒソ
古泉「で、でも、これは明らかに高いですよ」ヒソヒソ
森「いい物が高くなるのは仕方がないことじゃない」
古泉「しかし……」
森「いい?服を買うコツは値段は見ない、いいと思ったら買う、以上」
古泉「そんなことをしてたらお金が足りませんよ」
森「あんたも本を買う時は値段を見ないでしょ?それと一緒」
古泉「……いやいや、少し納得しかけましたけど、値段が全然違いますよ!」
森「とにかく!今回は値段を気にせずに買うわよ!」
古泉「そんな……」


森「こんなのはどう?」
古泉「……少し派手過ぎやしませんか?」
森「イメチェンよ。たまにはこういうのもいいと思うわよ?」
古泉「そうですか?」
森「こう……髪型も少し変えて……」チョイチョイ
古泉「ちょ、ちょっと森さん……」
森「どうよ?」
古泉「……確かにイメージは変わりましたね」
森「うん。凄く『受け』っぽくなったわ」
古泉「…………」
森「これは決定、っと」
古泉「却下です」


シャーッ

古泉「試着してみましたが……こんな感じですか?」
森「……なんかイメージと違うわね」
古泉「そうですか?」
森「そうだ。シャツをきちんと中に入れてみなさい」
古泉「シャツを……ですか?分かりました」

シャーッ

古泉「入れてみましたけど……」
森「いいわね」
古泉「これでは印象が堅すぎやしませんか?」
森「それでいいのよ」
古泉「そうでしょうか?」
森「そういうキャラも需要はあるしね」
古泉「…………」
森「あ、そうだ。ついでに伊達眼鏡も買わない?」
古泉「アドバイスするなら真面目にやって下さい!」


古泉「はぁ……やっと一通り回りましたね……」
森「随分疲れたみたいね?」
古泉「……たかが買い物でこんなに疲れたのは初めてですよ」
森「そう?それじゃ、次の店を見に行こうか?」
古泉「……え?」
森「どしたの?」
古泉「……次の店?」
森「そうよ。気に入ったのだけチェックして最後にまとめて買うの」
古泉「……これで終わりじゃないんですか?」
森「当然。あと三軒は回るわよ」
古泉「ああぁ……」

 


~数時間後~

森「はあ~……買った買った」
古泉「…………」
森「なによ、辛気臭い顔しちゃって?気に入らなかった?」
古泉「いえ……」
森「お金のことなら気にしなくていいのよ?明日は半分仕事でもある訳だし、これくらいは助けてあげるわ」
古泉「ですが……こんなに高価な物を買って頂いて……」
森「ん~……それじゃ、クリスマスプレゼントってことで」
古泉「…………」
森「次からはちゃんと自分で買いなさいよ?」
古泉「…………」
森「古泉?」
古泉「あ、あの、荷物を見ていて下さい!」
森「え?」
古泉「すぐに戻ります!」
森「ちょっと!古泉!?」


森「…………」

タッタッタッタッ

古泉「ハァ……ハァ……」
森「…………」
古泉「た、ただいま戻りました」
森「おかえり」
古泉「あ、あの……急だったので大した物は用意出来ませんでしたが……」
森「……駄目よ、古泉」
古泉「え?」
森「そういうのは気持ちが大事なんだから。野暮なことを言わないで渡すものよ?」
古泉「あ……」
古泉「……では、メリークリスマス、森さん」
森「メリークリスマス、古泉」
森「早速だけど開けていいかしら?」
古泉「……どうぞ」

ガサガサ

森「腕時計か……なんだかんだ言いながら結構頑張ったわね」
古泉「…………」

チャリ……

森「……ふ~ん」
古泉「あの、どうでしょう?」
森「だから、野暮なことを聞かないの」
古泉「……すいません」

チャリ……

森「……ふふ」
古泉「…………」
森「よし!ついでだからご飯食べて帰るわよ!」
古泉「……随分いきなりですね?」
森「せっかく駅前まで来てるんだし、どう?」
古泉「でも、イブですよ?どこも混んでるんじゃないですか?」
森「ラーメン屋とかなら空いてるでしょ。それに今日はお互いお金がないから気取った店なんて無理じゃない?」
古泉「……それもそうですね」
森「じゃ、行きましょうか?」
古泉「はい。お供します」
森「あ、こっちは奢らないわよ?」
古泉「分かってますよ」


~翌日~

森「~♪」

圭一・裕「…………」
裕「……なぁ、兄貴」
圭一「……なんだ?」
裕「森の笑顔が恐いんだが……」
圭一「……あれはヤケクソで無理矢理楽しそうに仕事してるのかも知れんな」
裕「……あのお祭り好きがクリスマスに仕事で機嫌がいい訳ないもんな」
圭一「……なるべく仕事を任せないようにしよう」
裕「ああ……」

森「~♪」

チャリ……