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メイド注意報 - (2008/09/15 (月) 17:35:10) の編集履歴(バックアップ)


「…………」

この三点リーダーは長門のものではなく俺のものであり、

「何か…言いなさいよ。」

この歯切れの悪い台詞はハルヒのである。

突然こんな場面から始まっても何がなんだかわからないだろうから、

今俺が置かれている状況を簡潔に箇条書きしてみる。

 

・俺とハルヒは俺の家で二人っきりである。

・ハルヒは猫耳メイドの格好をしている。

・俺はハルヒに何かしら命令をしなければならない。

 

訳がわからんだろうがこれが今俺が置かれている状況である。

さて、何でこんなことになっちまったんだろうな。

現実逃避がてらにこの状況を作り出した出来事を振り返ることにするか。

ということで回想モードスタート。

 

 

あれは昨日のことだった。

 

バンッ

 

「皆!トランプするわよっ!」

部室に入るなりハルヒはそんなことを言い出した。

今度はトランプか。しかし、こいつが実にいい笑顔をしてるってことはどうせただの

トランプではあるまい。

「何だ、藪から棒に。」

「ただのトランプじゃつまんないから、最下位になったら罰ゲームね。」

俺のことは無視か。まあ、慣れてるが…。それにしてもやっぱり普通のトランプじゃなかったな。

「えっ。ばば罰ゲームって、何するんですか?」

さすが朝比奈さん、驚くお姿も微笑ましい。

「そうね、罰ゲームは皆で決めるってのはどうかしら。」

「それはいいですね。でもどのように。」

おい古泉、あんまりハルヒをもちあげるな。

「まずは皆1つずつ罰ゲームを考えるの。」

「そう。」

おーい長門、本当に聞いてるか?

「具体的には条件、場所、する事もしくは、される事。この三つを決めるの。因みに罰ゲームは

明日、土曜にやるから場所は学校内じゃなくてもオッケーだし、する事は1日でできる範囲まで

オッケーだから。」

ハルヒよ、何故そこで俺を見る。今度は俺の番ってか。はあ、しかたがない聞いてやるか。

「する事に対象相手がいる場合や何かをされる罰ゲームの場合相手はどうすんだ。」

「それは別に作るわ。どの道相手がちゃんと罰ゲームをしたかを確かめる証人がいるし…。」

 

コンコンコン

 

「あっ、は~い。」

 

バンッ

 

「ひゃぁ。」

「ちぃーっす!みくる、忘れ物届けに来たっさ!」

来客は鶴屋さんか。相変わらず元気なお人だ。

「あっ、ありがとうございます。」

「気をつけなよ。」

「あっ、はい。」

「鶴屋さん調度いいところにきたわね。実はさ――。」

ハルヒは鶴屋さんに近寄るなり内緒話を始めた。別に内緒話をするような内容でもあるまいに。

「――ってわけよ。鶴屋さんもやるでしょ。」

「おもろそうだねっ。やるやるっ!」

その面白いと言うのがここにいる全員、特に俺と朝比奈さんにとっても面白いであることを願いたい。

「それじゃあ紙を配るわね。はいキョン。」

「ああ。」

さて、何て書こうかね。

 

 

まあこんなところが妥当だろう。

『トナカイの被り物をして 部室で 芸をする』

「ハルヒ、できたぞ。」

「よし、これで全員ね。」

「ところで、一体何をするんだ。トランプと言っても色々あるぞ。」

「そうね、最初はオーソドックスにばば抜きにしましょう。」

 

 

ここまでくれば、みんなおちに気付くだろうから意味がなさそうだが、

一応トランプの結果を全てお伝えしよう。

 

1回目:最下位古泉

     罰ゲーム『男装or女装して部室で写真を撮られる』

      相手鶴屋さん

 

2回目:最下位朝比奈さん

     罰ゲーム『かえるのきぐるみを着てデパートで 500ページ以上の本を1冊読み終える』

      相手長門

 

そしてこの次がいよいよ核心だ。

 

3回目:最下位ハルヒ

     罰ゲーム『猫耳メイドの格好をして相手の家で 言うことをきく』

      相手

 

以上、第一回SOS団トランプ大会(仮)の結果である。

因みにハルヒは自分の罰ゲームを見たとたん、悔しさのあまりか顔を真っ赤にして

すぐに帰っちまった。やれやれ。

 

その後、夜中の11時位にハルヒが電話をかけてきて、

「明日、9時からあんたの家行くから。」

と言われ、慌てて家族に明日1日中外出してもらうように取り計らい、―猫耳メイド姿のハルヒに

命令する姿を見られたら、すさまじいことになりそうだからな―、そして翌日、

家族と入れ違いに来たハルヒが洗面所で着替えてから俺の部屋に来て今に至る。

 

以上回想モード終わり。

 

「ねえ。」

「なっ、何だ。」

いかん、緊張して声がうわずった。

「何か言いなさいよ。あんたの言うことを聞かないと罰ゲームしたことにならないんだから。」

「そ、そうだったな。すまん。」

これじゃあさっき回想した意味が無いな。我ながら情けない。

「で、あたしは…何を…すればいいのよ。」

ええっと、ハルヒが来るまでに何かさせることを考えていたはずなんだが…、なんだっけ?

「ちょっとまってくれ。確か何かさせる事があった気がするんだ。」

駄目だ、全く思い出せん。

「ちょっと、まだなの?」

ええい、人が必死に思い出そうとしてる横で喋るな。気が散るだろ。

「気が散るから、黙ってろ。」

「…わかったわよ。」

やけに素直だな。まあいい思考続行だ。

 

 

そうだ思い出した。お袋が家を出る前に掃除、洗濯を俺に頼んで行ったんだ。

「ハルヒ、お袋に頼まれた掃除と洗濯をしてくれ。」

俺のめ命令にハルヒは口をカモノハシのようにして不満を訴えていたが、

「お前が罰ゲームをしてるところを家族に見られないように出かけてもう事を取り計らったら、

その条件として家事をお袋に頼まれたんだ。」

と言い足してやると渋々首を縦に振った。

 

 

この後は、ハルヒが洗濯や家の各部屋を掃除をしただけで特に描写することもなく

――本当はハルヒが俺の部屋を掃除しているときに他人には見られたくないものを見つかって、

一悶着あったが、思い出したくも無いので省略。――昼飯時をもう少しに控える時間になった。

 

 

「もうこんな時間か。」

「………。」

無言で肯くハルヒ。

ハルヒのやつさっきから長門並みに無口にだな。まあ無口なハルヒっていうのも

悪くは無いが、やはりちょっと違和感があるな。

「なあ、ハルヒ。」

「………。」

ハルヒは、何?と言いたげに無言で首を傾ける。

うっ、それは反則だ。か…、かわい…って、何考えてるんだ俺、相手はあの涼宮ハルヒだぞ。

しっかりしろ、KOOL、…いやいや、COOLになるんだ。とりあえず今の状況を打開せねば。

「何でさっきから喋らないんだ?」

「………。」

おい、何で溜息ついて俺を馬鹿を見るような目で見る。そして何で俺の横に回って手をとる。

「おい、何す…、」

 

ツー

 

「!」

く、くすぐったい。

 

ツー

 

どうやらハルヒは俺の手のひらに字を書いてるようだ。なになに、

「あ ん た が だ ま つ て、いや“だまって”か。……つまり、

『あんたが黙ってろって命令したんじゃない。』って言いたいんだな。」

肯くハルヒ。

「そうだっけ?」

「………。」

 

ツー

 

「今度は何だ?『あ ほ き ょ ん。』……あほで悪かったな。」

俺が顔をしかめつつそう言うと一瞬だけ部屋を静寂が支配し、

その次の瞬間には表情を緩めた俺たちの笑い声がそこを支配した。

深い意味は無い、ただ笑いたかっただけだ。俺もハルヒも。

 

「おい、お前は喋っちゃいけないんじゃないのか?」

 

ツー

 

「『あ た し は し ゃ べ っ て る ん じ ゃ な く て わ ら っ て ん の。』」、

おいおい、それは屁理屈だろ。

「そうかい。」

ハルヒは『そうよ』と言わんばかりに満面の笑顔で肯いた。

 

「話を戻すが、そろそろ昼時だな。」

「………。」

ハルヒ首肯。

「だから、昼飯を作ってくれ。冷蔵庫にあるもん何でも使っていいから。」

「………。」

再びハルヒ首肯。

「あー…、それと…」

「………。」

またもやハルヒは、何?と言いたげに無言で首を傾ける。

だからそれは反則だって。

「もう喋ってもいいぞ。」

この言葉を聞くやいなやハルヒはすぐに口を開いた。余程黙ってるのが性に合わんのだろう。

「あっそう。ところであんた昼ご飯に何か希望ある。あったらそのほうが作るの楽なんだけど。」

何故か俺はハルヒが何時もどうりに話す様子を見て安心した。

もの静かで甲斐甲斐しく家事をこなす(俺の部屋での騒動を除く)ハルヒは様にはなっていたが、

やはり、無駄に元気で姦しいのが1番あいつには似合ってるみたいだ。

それに…、このままあの物静かな猫耳ハルヒを見ていると…変な事を…考えちまいそうそうだしな。

…断っておくが、変なことと言っても別にやらしいことじゃないぞ。ほ、本当だぞ!

って、俺はいったい何に念押しをしてるんだ?

「ちょっと、キョン!」

「なっ、何だ?ハルヒ?」

「何だってじゃ無いわよ。さっきから昼ご飯に何がいいかって聞いてるの。これで4回目よ。」

そういえばそんなこと言ってたな。でも4回も言われたのか気付かなかった。

「そうだな、お前の作る料理は何でも美味そうだから昼飯は別に何でもいいぞ。」

「ばっ…、ばかキョン!何恥ずかしいこと言ってんのよ!」

そう叫ぶやいなやハルヒは物凄いスピードで台所へ行っちまった。

はて、俺は何か不味い事を言ったんだろうか。

 

そんなことを考えつつ、俺はハルヒ特製の昼飯ができるのを待つことにした。

続く