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スイング・第三楽章 - (2009/08/20 (木) 17:59:41) の編集履歴(バックアップ)


 


 

揺れる街


涼宮せ…ハルヒと朝比奈さん…みくる、とはちょっと呼べない…は先に帰ってしまい、同じ街に住んでいる三人…長門、古泉、俺は合宿の余韻を残しつつ帰路につこうとしている。

駅を降りると、ストリートミュージシャンが、ブルースを弾いていた。固定されたコードが、かえって自由に響く。

ギターが弾く、もの悲しく、まるでこの世を悲しむような旋律。
ドラムが叩く、怒りと、この世に挑戦しようとする旋律。

長門の足が止まる。続いて、俺たちの足も止まる。

ドラムソロ

旋律が変わり、ドラムソロ。
強いパンチ、怒鳴るようなシンバル。

無茶苦茶に、乱雑に、自由に。手が激しく動く。
まるで、おぼれかけてしまった子供のように。

『俺たちはこんなに苦しいんだ』
『この苦しみをお前たちに伝えたい』

ドラムから、こんな声が聞こえる。
ベースソロ

ドラムの旋律はやがて規則的になる。タイミングを合わせてベースが何かを弾き始める。
一転し、メロディックできれいで、それでいて激しいコードを叩く。

演奏は熱を帯びていく。
まるで、佳境に入った演説を説く政治家のように。

『でも、ただの言葉じゃ表しきれないんだ』

ドラムの旋律がまた変わる。ベースは規則的に、誰かを待つように。
その視線は、フルートのケースを持つ長門に向いていた。ドラムが手招き。

その合図に応え、長門はフルートを取り出す。
 
フルートソロ

長門が吹くそれは、今度の管弦楽コンクールの課題曲のソロであった。
それに従って、ドラムは穏やかに、ベースは跳ねるように合わせていく。

『だから、わたしたちは弾きまくるんだ』

旋律は元に戻り、長門は早く激しく指を動かす。
得意の超絶技法を使いながら、しかし、やはりどこかで聞いたことのあるクラシックの旋律で。

『だから、こんなにも激しく』

ベースのピックは対照的にゆっくりと、悲しげな音を出す。
『だから、こんなにも悲しく』

いつの間にか、古泉がバイオリンの弓を引こうとする。それを合図に旋律が変わり、長門は演奏をやめる。

 

 

バイオリンソロ

 

 
古泉のバイオリンは華麗に、きれいに、人の声のように響いていく。
ええと、これは…よく知っているアニソンだ。ただ、いろんな曲が混じっている。

『俺たちは弾きまくるんだ』

弦が振動する。その振動は音となり、街に響いていく。響いて街に伝わっていく。

『そうやって、俺たちは伝えるんだ』

 

演奏のち


ベースが終わりの際の定番らしいコードを弾き、それを合図に古泉は演奏をやめる。

そして、いつの間にか集まっていた群衆に頭を下げる。
長門もフルートを両手で持ち、同じように頭を下げた。

たたえるように、大きな拍手が沸き起こる。

泣いていた人もいた。笑っている人もいた。
そんな人達もまた、泣きながら、笑いながら、拍手をしていた。

そんな群衆に交じって、俺は、足を鳴らしていた(管弦楽流の拍手)…否、足踏みを、していた。