「第3章-9 Near face」の編集履歴(バックアップ)一覧に戻る
めずらしく疲れ切った顔をしている。ああ、そうか。こいつは、こいつでいろいろと苦労をしているのだろう。
たしかに古泉は気が利く奴で、先の事を考えている奴だと思う。でも、そのために自分を犠牲にしているんじゃないか?その作り笑顔の下には、昨日までの俺のような笑えない顔をした古泉がいるのではないだろうか。
こいつは1人で世界が滅びないように頑張っている正義の味方を気取っているのか?正義の味方ってのは、たいてい1人じゃ何も出来ない。ああいうのは、仲間がいて、助けてくれるから最後にはハッピーエンドを迎えることができるんだ。なんかむかつくな。一体誰が、こいつだけに苦労を負わせている?俺の思い違いかもしれん。だが、組織とかなんとかあるんなら、こいつだけ苦労を背負わせるんじゃねえ。
今回のことで、仲間の大切さってのがわかった。1人で生徒会室にいるってのは、どうもしっくりこないし、寂しいもんだったぞ。古泉、お前も1人で世界の事に気を回すのは正直つらいんじゃないか?
「しょうがねえな。また、何かあれば手伝ってやるよ。1人じゃいろいろ大変だろ?」
古泉は驚いた顔をした。
「怒っていないのですか?もう二度と手伝わないと言われると思ったのですが……」
「怒ってるぞ。でも、お前はお前なりにいろいろ苦労しているみたいだし、一人で抱え込むことはないと思う。せっかく事情を知ってるんだし、負担ってのは分担した方が楽なはずだ。ただし今回みたいに、勝手に決めて、何も知らされないってのはなしだ。本気でへこむぞあれは」
古泉は、驚いた顔をした後、数秒間をおいて、
「善処します」
俺の気のせいかもしれないが、この時、本当に笑っているように見えた。
さてさて、そんな出来事があってあるべき日常が戻ってきたわけだが、少しだけ変わったものがある。
日が変わった翌日のこと。古泉が6組の教室前に立っていて、
「おはようございます」
と無駄なスマイル挨拶をした。どうも嫌な予感がする。こいつが、挨拶をするためだけにここにいるはずがない。
「あなたに頼みがあります。実は……」
俺は古泉の説明を聞き、朝っぱらから頭痛がした。
「んなことできるか!昨日言ったことを撤回する!」
俺は気の迷いから言った昨日のセリフを後悔していた。過去に戻り、俺の口を防ぎたいくらいだ……。
古泉、調子に乗るな!それに顔が近い、くっつくな!
そう、変わったのは俺と古泉の顔の距離。勘弁してくれ……。
第4章 前編に続く