<div class="main">「ホワイトカレーよ!カレーなのに白いのよ!不思議だわ!<br /> SOS団として、この不思議を見逃すわけにはいきません。<br /> 今日はみんなでホワイトカレーを食べましょう!」<br /> 今日も無駄にテンションが高い我らがSOS団団長が高らかに言い放った。<br /> 要するにお前が食ってみたいだけだろうが。<br /> CMを見た妹が騒いだ我が家では発売から早々に食卓に並んだが、味は結局ただのカレーだぞ。<br /> 「はあ……ホワイトカレー、ですかあ……?」<br /> 朝比奈さんはしきりに首を傾げている。この愛らしいお方はCMを見たことがないのかもしれない。<br /> 「いいですね」<br /> こんなとき決まってハルヒに賛同するのはイエスマン古泉だ。もちろんニヤケ面スマイルつきで。<br /> 「ちょうど僕の知り合いがハ○スに勤めていまして、つい最近家に結構な量のルーが送られてきたんです」<br /> お前の話はどこまで本当なのかわからんから俺はもう一々考えたりしないからな。<br /> 「じゃあ決まりね。あたしが作るから、古泉君は有希の家にルー持ってきてちょうだい」<br /> 「了解しました」<br /> 待て待て、長門の家でやることは決定済みなのか?<br /> 長門が反対するとも思えないが、それでも一応家主の許可を得てからにしろ。<br /> 「問題ない」<br /> ……随分きっぱりと言い切ったもんだな。お前カレーに反応しただろう。<br /> 「それじゃあ7時に有希の家に集合ね!遅れたら死刑だから!」<br /> お約束の台詞と共に一時解散となった。やれやれ。<br /> <br /> * * *<br /> <br /> 「……味は普通のカレーと大差ないわね、ちょっと辛さは物足りないけど。<br /> 特に不思議な味はしないわ。ま、こんなもんかしら」<br /> 自分の作ったホワイトカレーを食べたハルヒは一瞬眉を顰めたが<br /> 結局はいつもの満足そうな笑顔を浮かべていた。<br /> 「ふわあ~、涼宮さん、このカレーすっごくおいしいです~!」<br /> 「ええ、さすがは涼宮さんですね。これほどおいしいカレーは初めて食べますよ」<br /> カレーなんて誰が作ったってそこそこの味はするもんだがな。<br /> それにしてもハルヒの作ったカレーはまったく腹が立つことに半端じゃなくうまかった。<br /> 上品にスプーンを口に運ぶ言葉丁寧組二人を尻目に、<br /> ハルヒと俺はすでに二杯目を平らげて三杯目に突入しようとしていた。……ん?<br /> 「長門、どうした?具合でも悪いのか?」<br /> 長門は大好物のカレーを目の前にしてスプーンすら握っていない。<br /> 「有希っ、おかわりならたくさんあるんだから!じゃんじゃん食べちゃいなさい!」<br /> 「――こと」<br /> 何?よく聞こえなかった。すまんがもう一度頼む。<br /> <br /> 長門の無感情な目が俺を捉えた。<br /> きっ、という効果音が聞こえたような気がするのは俺の気のせいだ。<br /> 何故だろう……長門がとても怖い。<br /> 「これは一体どういうこと。今日はホワイトカレーつまりカレーを食べるという話だったはず。<br /> カレーとは日本語で茶色と定義される色もしくはそれに準じる色をしている。<br /> しかしこれは白ホワイトクリーム色もしくはそれに近似する色をしている。<br /> 私が知るカレーの色とこの色は決して結びつくことがない。なぜ。<br /> カレーという名がつくのになぜカレーの色をしていないの」<br /> ここで長門は宇宙人カミングアウト時並みのマシンガントークを一旦切りあげ、<br /> 俺の答えを待つそぶりを見せた。<br /> え、答えなきゃいけないのか俺?<br /> 「それは……ホワイトカレーだから、だろう。」<br /> ホワイトなのに赤や青だったら詐欺だ。<br /> そんなことより長門、ハルヒがぱかーんと口を開けた間抜け面でお前を見てるぞ。<br /> 古泉も朝比奈さんも似たような顔になっているし、多分俺もなんだろう。<br /> しかし長門の暴走は止まらなかった。<br /> <br /> 「それでは理由にならない。カレーの色という概念はカレーという個体を構成する重要な要素のはず。<br /> よってカレーの色をしていないカレーには成り得ない。つまりこれはカレーではないということになる。<br /> ではなぜ。なぜこれはカレーの名を冠しているの。それにあなたたち」<br /> ここで長門はぐるりと俺以外の団員の顔を見回した。<br /> ぎぎぎ、という効果音が聞こえたような気がするのは本当に俺の気のせいだろうか。<br /> 「あなたたちはなぜ、これをカレーと呼ぶの。これはカレーではないのにも関わらず」<br /> 俺たちは全員震え上がった。あまりの恐怖に声が出ない。<br /> 朝比奈さんはともかく、震え上がるハルヒと古泉なんて滅多に見られない。<br /> 今日は珍しいことだらけだ、ぜひ別の場面で見たかったね。<br /> 今はそんなものを楽しんでる場合じゃないんだ。残念ながら俺も当事者だからな。<br /> 「あなたたちの存在、そしてこのホワイトカレーの存在はカレーの概念を狂わせる」<br /> そして長門は決定的な一言を呟いた。<br /> 「この世界を私は認めない」<br /> <br /> * * *<br /> <br /> こうして世界は長門によって二度目の改変が行われた。<br /> 改変に立ち会った俺たち以外は決してその事実に気がつくことはないが、<br /> この世界はホワイトカレーの存在が綺麗さっぱり抹消された世界である。<br /> ハルヒはというと、ホワイトカレーのことはすぐに忘れて新しいものに飛びついたから問題ない。<br /> ……お前は本当に幸せなやつだよな。<br /> 朝比奈さんが言うには、このことによる未来への重大な影響はないそうだ。<br /> 古泉によると、カレーが絡んだ時の長門を恐れた各陣営は今回の事態を黙殺することで同意したらしい。<br /> ホワイトカレーをカレーと呼んでしまった俺たちはというと、<br /> 古泉が知り合いだか機関だかを通して手に入れた<br /> 大量のカレーレトルトパックを差し出すことで許してもらった。<br /> <br /> そう、未来への影響はない。<br /> ただひとつ、ハ○スの食品開発者の方々の努力が水泡に帰したことを除いては。<br /> 俺と朝比奈さんと古泉はそっと手を合わせた。<br /> ハウ○のみなさん、本当にごめんなさい、と。<br /> <br /> <br /> 終わり。</div>