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第三章　涼宮ハルヒの選択　２ - (2007/01/27 (土) 00:52:51) のソース

<p>　第三章　涼宮ハルヒの選択　２　<br>
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　十二月十七日、朝比奈さんの家で紅茶を飲んだところからの続きを話そう。朝比奈さんは俺の肩に頭を乗せ、そして眠りに落ちていった。俺は嬉しいはずなのに、なぜだが漠然とした不安と行き場のない怒りをまぜたような感情に襲われ、柔らかな髪を広げる朝比奈さんを直視することはどうしてもできなかった。どうしてお前はそんなことをしているんだ？　頭の中で何度も俺が問いかけた。ハルヒ達の目をかいくぐってまでやりたかったのは、こんなことだったのだろうか？<br>

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　朝比奈さんのかわいい寝顔を堪能して、マンションを出たのは十二時を過ぎていた。なかなか起きてくれない朝比奈さんを起こすのはとても苦労した。むやみに触るわけにはいかないし、といって大声を出すのもかわいそうだったからだ。駅前の喫茶店に戻ると、長門は文字通り棒立ち、ハルヒは俺たちを見つけた途端仁王立ちで待ち構えていた。<br>

「あんたたちどこ行ってたのよ」<br>
　ハルヒは明らかに不満そうな声で言った。<br>
「ちょっと川のほうまでな」<br>
　ハルヒが言ってくることは分かっていたので、あらかじめ答えを用意しておいた。<br>

「そう」<br>
　ハルヒは「ふうっ」と息を吐くと、<br>
「中に入りましょ。あんたたちが待たせるから寒くてしょうがないわ」<br>

　朝比奈さんがホットティーを飲み、長門がアイスティーを一定の速度で飲んでいる時、午後のくじ引きは行われた。班分けは、俺とハルヒの班、長門と朝比奈さんの班になった。<br>

「昼飯は各自でいいわね？」</p>
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　ハルヒに連れられて――任意同行という名の強制連行だー―、俺は電車に乗っていた。<br>

「街中に出たほうが宇宙人がいるかもしれないじゃない」<br>

「確率的にはな」<br>
　空集合だということは言わなかった。<br>
「一人くらいいるはずだわ。地球人を視察してるかもしれない」<br>

「その観察してる宇宙人をどうやって見つけるんだ？　恐らく相手も馬鹿じゃない。人間の姿をしているはずだ」<br>

「わたしには分かるのよ」<br>
「何が分かるんだ？」<br>
　俺たちが座っている向かいの席には明らかに怪しい奴が座っていた。さっきから挙動不審だ。こいつが宇宙人の可能性だってある。<br>

「あんたに言ったって分からない」<br>
「言葉では伝えられない概念なのか？」<br>
「そう」<br>
　ハルヒは素っ気無く言った。<br>
「そうかい」<br>
　俺はハルヒと会話するのを諦めて、背もたれに体重を預けた。<br>

「ねえ、キョン」<br>
　ハルヒは会話を止めるつもりはないらしかった。<br>
「なんだ？」<br>
　俺は寄りかかったまま、横目でハルヒを見た。<br>
「あんたがみくるちゃんと一緒に楽しんでる間、あたしは有希と一緒に図書館に行ってたの」<br>

「図書館に行ってたのか」<br>
「そうよ。有希にどこか行きたいところはない、って訊いたら『図書館』って例の小さな声で言ったの。有希ね、図書館に入ったら楽しそうにするのよ？　そりゃ表情一つ変えないけど、あたしには分かったわ。有希は図書館が大好きなんだって」<br>

「長門がね」<br>
「でも、有希がいつもと違うことに気付いたの。いつもなら分厚いＳＦを読んでるでしょ？　図書館では違ったの。恋愛小説を熱心に読み始めたのよ？　どういう心境の変化なのかしら」<br>

「長門も恋愛小説が読みたいときがあるんだろ？」<br>
「あたしも最初はそう思ったわよ。でも、明らかにいつもとは違うの。ページをめくるスピードがいつもの三分の一もでてないし、なにか一生懸命考えてるみたいだった」<br>

「で、お前は何が言いたいんだ？」<br>
「有希って好きな人でもできたのかな？」<br>
「できたらどうなんだ」<br>
「そりゃ、好きな人ができるくらいいいけどさ。なんとなくね」<br>

「それならいいだろ」<br>
「確かにそうね」<br>
「お前でも他人の色恋沙汰に興味があるんだな」<br>
「ち、違うわよ！　ただね、有希に彼氏ができたら、ＳＯＳ団はどうなっちゃうんだろうって思って。だってそうでしょ？　有希だって彼氏と一緒にいたいだろうし、ＳＯＳ団に参加することもなくなるかもしれないじゃない」<br>

「ＳＯＳ団は永久に不滅じゃなかったのか？」<br>
「そうだけど。でも、いつかは解散しないといけない時がくるでしょう？」<br>

「いつか、な」<br>
「物事に永遠はないの。いつかは変わっていくものよ」<br>
「万物は流転する」<br>
　俺は少しだけ偉そうに言ってみた。<br>
「キョンがその言葉を知ってるとは驚きだわ。ヘラクレイトスね」<br>

「俺でもそれぐらいは知ってるよ」<br>
「ＳＯＳ団もいつか解散することになるわね」<br>
「ハルヒらしくないな。今を精一杯楽しむんじゃなかったのか？」<br>

「キョンは全然分かってない。もういい！」<br>
　ハルヒは腕を組んで、そっぽを向いた。その後、深い溜息をついて、向かいの窓から見えるビルに目をやった。俺はそれ以上関わると殴られそうだったので、しだいに高層化していく建物を見つめていた。</p>