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佐々木は長門のよき話し相手 - (2007/08/27 (月) 17:00:14) のソース

<p> 団長様がまだ来ぬ文芸部室。<br>
 学外団員の佐々木(今日は授業が午前中で終わったそうで、長門の次に来ていた)と長門が何やら小難しい会話を交わしていた。<br>
 俺も、古泉も、朝比奈さんも、手を休めて、二人の会話を聞いていた。<br>
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「長門さん。天蓋領域や情報統合思念体は、生物なのかしら?」<br>
「生物とは、自己維持能力をもち自己複製を行なう体系化された物質結合体として定義される。物質としての身体をもたない彼らは、この定義には当てはまらない」<br>
「でも、思考し何らかの活動を行なう知的存在であることは確かでしょう?」<br>
「知性とは、情報を収集し蓄積した情報を自発的に処理する能力レベルによって判定される。彼らはその能力を充分にもつので、知的存在といえる」<br>
「なるほど、知的存在ではあるけれども、生物ではないと。なら、彼らには、有機生命体がもつ生殖本能は理解しがたいものかもしれないわね」<br>
「そう」<br>
「九曜さんに接するときには、その点を念頭においておく必要があるかしら。まあ、彼女の場合は、それだけが問題じゃないけれども」<br>
「彼女は、地球人類との情報交換能力が不充分。天蓋領域がどのような意図をもって彼女を構成したのかは不明」<br>
「酷いいわれようね。あれでも、彼女は私の友人なんだけれども」<br>
「彼女との間に友人と呼ばれるような関係を築くには、相応の労力が必要」<br>
「それはそのとおりだと思うわ。でも、藤原君と友人関係になるよりは、簡単だと思うんだけど。そういえば、彼や朝比奈さんは、未来人だったわね。彼らは現代の人類と比べて生物学的に見て進化しているといえるのかしら?」<br>
「生物の進化とは、遺伝子構成の変化を原因とする発現形質の変化の集積として定義される。その意味では、彼らは現代の地球人類と異なる部分はほとんどなく、進化しているとは言いがたい」<br>
「じゃあ、科学技術の進歩と文化・環境の違いだけを念頭をおいておけば、いいかしらね。私が見る限りでは、感情や思考能力にも格段の変化があるようには思われないし」<br>
「そう理解して構わない。ただし、未来の女性の胸囲の平均値は、現代の女性のそれよりも格段に大きい。むかつく」<br>
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 長門は、そういうと、朝比奈さんの方を見た。<br>
 朝比奈さんが震え上がる。<br>
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「……今のはエラー。気にしないで……」<br>
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 長門。何か怖いぞ。<br>
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「……ま、まあ……ヒトは、外見じゃなく内面だと思うわよ。それはともかくとして、彼らが過去が来るということは、それだけで歴史が変わってしまうことにならないのかしらね? <br>
もしそうだとすれば、彼らが過去に来たことで、彼らの帰るべき元の世界が変わってしまうことにもなると思うのだけれども」<br>
「彼らのいうところの時間平面理論によれば、微細な介入は、その後の歴史の経過には変化を与えない」<br>
「そういえば、藤原君もそんなことをいってたわね。パラパラ漫画がどうとか」<br>
「そう」<br>
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 俺は、朝比奈さんがかつて話してくれたことを思い出した。<br>
 あれは、なかなか分かりやすい例えだったな。<br>
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「逆にいえば、微細じゃない介入は、歴史を変える可能性があるともいえるわね」<br>
「そう。時間平面理論は擬似的に次元を一つ減らして観念するモデルであるが、次元をさらに二つ減らして観念すれば時間の流れを方向性をもつ直線、すなわちベクトルとして観念することができる。<br>
このベクトルに平行に力を加えれば時間軸を上書きすることができ、角度のある力を加えれば時間軸を分岐させることが可能」<br>
「なるほど」<br>
「彼らの目的は、上書きまたは分岐の阻止または保全にあると思われる」<br>
「でも、おかしくないかしら? 上書きによって世界が変わってしまうなら、変わってしまった世界からはその変化は観測しようがないでしょうし、阻止することも不可能でしょう?」<br>
「上書き前の世界構成情報も、この世界に発現しないデータとしては残存する。特殊な手段を用いれば、それを観測することは可能。この……」<br>
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 長門は、パソコンを指差した。<br>
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「原始的情報処理装置の画面には現れない情報であっても、記憶媒体にはデータが残存しているのと、類似している」<br>
「ファイルを消去しても、復元ソフトを使えばデータが取り出せるのと似たようなものね。それで、上書きの阻止が可能な理屈は、どんなものなのかしら?」<br>
「上書きの効果がその後の時間軸にいきわたるには『時間』がかかるから」<br>
「その『時間』は、四次元的な意味における時間とは異なる概念かしら?」<br>
「そう。時間軸における時点と時点の間は、四次元的には時差として観念されるが、五次元的には擬似的に距離として観念できる。その距離を伝わる時間が、五次元的な意味における『時間』として観念できる。<br>
五次元距離を五次元時間を除すれば、五次元速度を観念することも可能。この速度は、加えられた力に大きさによって変化する」<br>
「つまり、上書きの効果が及ぶには五次元的な意味における時差があるから、その間に変化を観測することができれば、阻止に行くこともできるということね」<br>
「そう」<br>
「でも、その五次元時間や五次元速度は、観測者によって異なるものじゃないかしら?」<br>
「そう。それは相対的なもの。もとより、四次元的な意味における時間も相対的なものである」<br>
「確かに、相対性理論によれば、そういうことになってるわね」<br>
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 ここまで来ると、無学な俺には到底理解できないレベルだ。<br>
 ところで、さっきから朝比奈さんの顔が青ざめているのは、なぜなんだろうね。<br>
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 バン!<br>
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 団長様が入室を果たし、会話は中断した。<br>
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 ハルヒは、長門と佐々木が向かい合って座っているのを見ると、<br>
「あら、有希。佐々木さんと何の話?」<br>
「アインシュタインの相対性理論について」<br>
 長門の返答は、ぎりぎり嘘ではない。<br>
「ふーん。まあ、いいわ。有希も佐々木さんも、いい話し相手ができてよかったわね。バカキョン相手じゃ、そんな話もできないでしょうし」<br>
 佐々木が反論する。<br>
「話相手としての適性は、知的レベルだけで判断できるものでもないですけどね」<br>
 なんか微妙に馬鹿にされたような気がするのは、気のせいかね。<br>
 ハルヒはそれには答えずに、パソコンの前に座って、ネットサーフィンを始めた。<br>
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 長門と佐々木が会話を再開する。<br>
 今度は、ハルヒに聞かれてはまずいような話は含まれてなかった。<br>
 アインシュタインから始まった話は、いつの間にか、カントやデカルトといった哲学の領域に変わっていく。<br>
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 何はともあれ、長門はなんだか楽しそうだ。<br>
 それは、悪いことではないのだろう。<br>
 だから、ここはひとまず、佐々木には感謝すべきなのかもしらんね。<br>
 <br>
終わり<br>
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