<p>世間には姿が無くとも確かに存在するものがある。などと言われているが、<br> 本日はそういった目に見えぬ事柄に甘ったるい物で形を与え、<br> そしてとある条件下に置かれた男女にとっては殆ど例外無く<br> その甘ったるいものを互いに確認し、そして見つめ合うであろう事が<br> 想像するに難くない…2月14日。つまり、バレンタインデーである。</p> <p><br> そしてもう一つ。ここに人類が存在しているなんてのは、<br> 瓶詰めにされた時計の部品が振り乱される事によって偶然完成をみる事のような、<br> 摩訶不思議的かつ天文学的な確立の数値で表される程の現象であるらしい。…のだが、<br> 俺は、実は意外とそんな事は多発的に起こり得るんじゃなかろうかと感じている。</p> <p><br> 北高という限定された空間の中で三年間振り乱された俺達の中にもまた、<br> 一体この世の誰が想像出来たのであろうかという物が組み上げられてしまったのだから。</p> <p><br> <br> <br> 早朝、北高へ臨む坂道にも若干の名残惜しさを感じながら<br> 俺と谷口が肩を並べて登校している時だった。<br> 俺の前に、ある者によって背中をパシンと叩かれる長門の姿が現れた。</p> <p><br> 「……ひゅっ!?」<br> 「よっ!有希!今日も朝から天気が良くて気持ちいいな!」</p> <p><br> ああ、長門も不意打ちを受けて息を漏らす程に成長したんだな…。<br> 俺は目前で展開されている場面を観察しながら、まるで小学校に入り数年経過し、<br> もうすっかり馴染んでしまった愛娘を見る父親の瞳の如き柔和な感情を抱いていた。</p> <p><br> だがしかし、二年前の俺がこんな物を見てしまったなら絶句するに違いない。<br> そしてすぐさま逆方向へと一目散に走り出す事だろう。…光陽園学院の制服を確認しに。</p> <p><br> 今、どうして俺が平静を保ち続けているのかと聞かれれば答えは簡単だ。<br> なぜならば、俺が見ている風景に不自然な点など何も無いのである。</p> <p><br> 少なくとも…長門と谷口が、肩を並べて登校している姿には。<br> <br> <br> <br> <br> つづく…</p>