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キョンの日常 - (2009/12/31 (木) 00:53:27) のソース

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<p> キョンの日常</p>
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<p> 第一章~キョンの日常~ </p>
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 中学のとき、「キョン」なる奇怪なあだ名をつけられた俺は、高校に進学さえすればついに本名で呼ばれる事になるのだろうと、少し、いやかなり期待していた。</p>
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 しかし現実ってのは意外と厳しいらしい。偶然同じく北高に入学した中学時代のクラスメート、国木田が入学早々不用意に俺のあだ名を発してしまったことにより、高校での俺のあだ名もめでたく「キョン」に決定してしまったのである。</p>
<p> 今回の話はそんな散々なスタートを切ったMy高校生活の、二年目の夏に起きた出来事である。</p>
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 季節は夏。俺の中の平和を奪い取るかのごとくセミどもが一斉に騒ぎ出す朝、俺は時間確認をするべく開いたケータイの画面に表示されていた文章を見て思いがけず硬直していた。</p>
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<p>「部室に来て」</p>
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<p> </p>
<p>……たった一行、長門からのメールである。</p>
<p> はて、俺は長門にメールアドレスを教えた覚えはないのだが。そもそも長門はケータイを持っていたか?</p>
<p>
 いや、今さら愚問だったな。宇宙人製『対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェイス』などと言う物々しい肩書きを持つあの長門有希のことだから、情報操作とやらで何とでもなるのだろう。</p>
<p>
 重要なのはその中身である。これまで長門に呼び出されたことなどあっただろうか?確か入学したての春、電波話を聞かされた時以来だ。長門があの時のように栞を使わず直接連絡をしてきたということは、おそらくハルヒ絡みで何かあったらしい。しかもこんな朝っぱらからわざわざ、だ。今すぐ行くべきだろう。</p>
<p> 俺はすぐにベッドから飛び出し、着替えて生の食パンを口にくわえ、急ぎ用の自転車に飛び乗った。</p>
<p>「あれ~?キョン君どこ行くの~?」</p>
<p> 妹が言っていたような気がするが、かまっている時間はない。すまん我が妹。</p>
<p> </p>
<p>「はぁっ、はぁっ、はぁっ………」</p>
<p> 部室に行くと、案の定長門はいつもの定位置にいた。しかし恐ろしく珍しいことに、本を読んでいなかった。</p>
<p> </p>
<p>「よ、よう、長門。部室に来るのは今でよかったんだよな?」</p>
<p> </p>
<p>「そう。」</p>
<p> </p>
<p>「そうか。で、何があったんだ?またハルヒ絡みの事件でも起こったのか?」</p>
<p> </p>
<p>「そう。今日7月13日の2時58分26秒、わたしの体内でイレギュラーな事態が発生した。」</p>
<p> </p>
<p>……いれぎゅらー?何だ?俺は英語はあまり得意とはいえないのだが。</p>
<p> </p>
<p>
「端的に言うと夕べの真夜中、わたしの部屋に情報生命素子が入り込んだ。その情報生命素子は天蓋領域よりもたらされた物であると情報統合思念体の調査により判明した。」</p>
<p> </p>
<p> 天蓋領域!?またあの周防九曜とか言うヤツが何かしでかしたのか!</p>
<p> </p>
<p>
「周防九曜と呼ばれる固体が直接関係しているかどうかは定かではない。あの固体は天蓋領域とは独立した存在。しかし恐らく今回のことは天蓋領域本体からの攻撃だと思われる。」</p>
<p> </p>
<p> こ、攻撃って、長門大丈夫なのか?見たところ怪我したところは無い様だが……</p>
<p> </p>
<p>
「天蓋領域による攻撃はわたしの内側への攻撃。彼らの中から射出された情報生命素子はあるプログラムを内蔵していた。それはわたしの体の情報連結を解除するもの。情報生命素子は破壊することが出来たが、内蔵されたプログラムはわたしの中に侵入してしまった。」</p>
<p> </p>
<p>
「おいおい……。で、そのジョウホウセイメイソシに書き込まれたプログラムってのはまだ起動してないのか?わざわざ天蓋領域の奴らが送ってきたって事は本気でやる気なんだろう。」</p>
<p> </p>
<p>「そう。プログラムはわたしの情報連結を解除するものだが、それには条件がある。」</p>
<p> </p>
<p>「条件?」</p>
<p> </p>
<p>
「涼宮ハルヒがわたしを視界に入れ、認識すること。その瞬間わたしの情報連結は解除される。天蓋領域の狙いは、わたしが消滅することで涼宮ハルヒが情報フレアを発生させること。」</p>
<p> </p>
<p>っ!!</p>
<p> あいつらはそこまで手を出してきやがったのかよ…!</p>
<p>
「な、なら、思念体の力でお前の情報連結を解除させないように出来ないのか?そうすれば何とかなるだろう?それか『不可視遮音フィールド』とかを展開して……」</p>
<p> </p>
<p>
「それは無理。今日6時15分、わたしと情報統合思念体の接続が完全に断ち切られた。わたしはその予兆を感じ、寸前にあなたに連絡をした。思念体との接続を断たれたわたしは極端に思考能力が落ちる。そのためにこれからどうすればよいかあなたに相談をしたかったから。」</p>
<p> </p>
<p>
「そうか、それがあのメールだったのか。…ってちょっと待て!!お前はハルヒに見られたら消えちまうんだよな?部室なんかにいたら思いっきりハルヒに見つかるじゃないか!」</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「…………あ」</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> 『あ』じゃねえよ!思考能力落ちるにも程があるだろ!</p>
<p> 俺はケータイで時間を確認する。8時02分。ヤバいじゃねえか!ハルヒはいつも8時15分には来るハズだ。</p>
<p>「長門!今からお前の家に行くぞ。今日は休みということにしておけ。俺も休んで一緒に行くから!」</p>
<p> </p>
<p>「しかしあなたが休んだら涼宮ハルヒが」</p>
<p> </p>
<p> しかしもクソもない!コレは非常事態だ、そのことは古泉にでも任せておけばいい。お前があいつの前で消えるよりはマシだ!</p>
<p> </p>
<p> よし、じゃあなるべく見つからないように学校を出るぞ。</p>
<p>「了解した。」</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「あれ?キョンじゃねえか。長門と一緒になってなにコソコソしてんだ?」</p>
<p>WAWAWA谷口!!</p>
<p>「そんなトコ涼宮が見たら怪しむぞ?ってあ、ひょっとしてお前らもう出来ムグゥ!?」</p>
<p> いいから黙れ。</p>
<p>こいつはすぐに良からぬ噂を広めるからな……どうするか?</p>
<p> </p>
<p>「おや、長門さんとキョン君ではないですか…ってそちらはお友達の谷口君ですか?」</p>
<p> おう古泉、ちょうど良かった。『機関』でこいつを暫くどうにかできるか?非常事態だ。あと俺たちは今日学校休むからそこんトコも頼む。</p>
<p>「また何か起こったんですか…。『機関』はまだ感知していないようですけど。」</p>
<p> そういうことだ。じゃ、頼んだぞ。お前にも後で連絡する。</p>
<p>「分かりました、では後ほど。谷口君、行きますよ。」</p>
<p> </p>
<p>「ブハァッ!!てめぇら俺を何だと…おい待て古泉!どこに連れてく気だぁっ?」</p>
<p>「良いから行きますよ。」</p>
<p>「WA~~WA~~~~~~~!!!!!」ズルズル</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>-長門宅-</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> ふう。何とか見つからずに来れたな。谷口のアホは古泉に任せたから大丈夫だろう。</p>
<p> </p>
<p>「恐らく。」</p>
<p> </p>
<p> さて長門、これからどうするか。情報統合思念体とは一切連絡が取れないんだよな。</p>
<p>「そう。困った。」</p>
<p>………そうか、思考能力も落ちているんだったな。</p>
<p>どうする。少し早いが、ここは古泉に連絡を取るべきか?</p>
<p>う~ん、う~ん、う~ん。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「こんにちはっ!お久しぶりねキョン君。」</p>
<p> 突然声がした。</p>
<p> この声は忘れたくても忘れられない。去年の春、入学したてで新しい高校生活に大いに胸を膨らませていた俺を一気に奈落の底に突き落とした張本人である。</p>
<p> </p>
<p>「朝、朝倉涼子!!」</p>
<p> </p>
<p>「あら?何かしらその怖い物でも見るような目は?」</p>
<p> 当たり前だ!長門に消されたはずのお前がお前今さら何しに来やがった!</p>
<p>
「何しに来たとはご挨拶ね。私は情報統合思念体から直々に命を受けて長門さんのサポートに来たのよ?もちろんあなたに危害を加えることも無いから心配しないで。」</p>
<p> 何?</p>
<p>「思念体から?わたしはそんな連絡は受けていない。」</p>
<p>「当たり前よ。あなたとの連絡が途絶えてから思念体がサポートを送ることを決定したのよ。それで去年まで世話係をしていた私に声がかかったわけ。」</p>
<p> …そうか、思考能力の落ちた長門を放っとく訳にも行かないからな。</p>
<p>「でしょ?あなたが来るのは予想外だったけど。」</p>
<p>「しかし」</p>
<p>「まあ待て長門、一応こいつの話には筋が通っている。俺もイヤだが、ほかに思念体と連絡を取れるやつはいないし、こいつなら情報操作も出来るはずだ。」</p>
<p>「…わかった。あなたがそう言うなら。」</p>
<p> よし、そういうことだ朝倉。よろしく頼む。</p>
<p>「分かったわ。」</p>
<p> だがお前を全面的に信じているわけじゃない。俺から古泉に頼んで『機関』から一人見張りに回してもらう。長門、それで良いか?</p>
<p>「良い。」</p>
<p> よし、じゃあ古泉に連絡を…。</p>
<p>PLLLLL</p>
<p>PLLLLガチャ</p>
<p>早いな。</p>
<p>『もしもし』</p>
<p>「古泉、俺だ。」</p>
<p>『やあ、キョン君ですか。どうなりましたか[緊急事態]とやらは。』</p>
<p>「ああ、それなんだがカクカクシカジカ」</p>
<p>~~~~説明する事3分~~~~</p>
<p>『ほう、インターフェイスの[朝倉涼子]が来たのですか?[機関]からはそのような報告は受けていませんが。』</p>
<p>「ああ、そういうことだ。で、だ。一応『機関』から朝倉を見張る為の人材を回して欲しいんだが。」</p>
<p>『あぁ、了解しました。ではすぐに向かわせますので。』</p>
<p>「頼む。で、あ、朝倉、思念体はどうしろって言ってるんだっけ?」</p>
<p> </p>
<p>「『現状維持』だそうよ。対抗策が浮かぶまで。」</p>
<p> </p>
<p>「…らしい。だから色々言って悪いがその見張りは結構長く居て欲しいんだが。」</p>
<p>『[機関]に連絡しておきます。』</p>
<p>「サンキュー、頼むぜ親友!」</p>
<p>『し、親友ですか。僕がそこまであなたの信頼を得ていたとは…グスン』</p>
<p>「おい、泣くな気色悪い。切るぞ」</p>
<p>『ああ、待ってくださいディアフレンド。明日の朝まで僕と友情について語り合いまs</p>
<p>ツー、ツー、ツー</p>
<p> </p>
<p> 何か古泉のイケナイスイッチを入れてしまった気がするな。</p>
<p> </p>
<p>「じゃあ、俺のやることは無くなったわけだ。そろそろ帰るとするか。」</p>
<p>「「待って」」</p>
<p> 長門と朝倉の声が重なった。何だ?</p>
<p>「えっ?あー、うん・・・そう!これから帰ったら家族に怪しまれるんじゃない?今日は本当は学校がある金曜日だもの。」</p>
<p> あー、それもそうだな。じゃあもう少し居るとするか。長門は何だ?</p>
<p>「………」</p>
<p>沈黙。</p>
<p>「………………泊まっていって」ボソ</p>
<p> </p>
<p> ・・・・・・(←てん・てん・てん・てん・てんと読む)</p>
<p> 何だって?長門はこんな積極的キャラだったか?</p>
<p>「明日からは連休。出来ればあなたとすぐに相談が出来る状況にしておきたい。」</p>
<p> あ、そうね。そうだよね。あの長門だもの。グスン</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> こうして、俺は断る理由も無いので長門の家に泊まらせて頂く事となった。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>-夜-</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「やっぱり晩御飯といえばアッツアツのおでんよね!!」</p>
<p> </p>
<p>……夏真っ盛りのこの時期にこいつは何を考えているのだろうか。</p>
<p>「あなたは5年前からどこか抜けている。意識すべき。」</p>
<p>「何よぅ!美味しいおでんに文句つけるヤツは情報操作でアレしてコレして○○して●●して△△も……」</p>
<p>「「いただきます」」</p>
<p>「よろしい♪」</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>
 まあ、なんだ。おでんはやはりとても熱かった。少なめで止めようとした所へ朝倉の情報操作が炸裂して、俺はかなりアレなコトに…ガクガクブルブル</p>
<p> 長門が止めに入ってくれなければ今頃どうなっていたやら。そういえばあの時長門の目が微妙に潤んでいたのはやはり気のせいだろうか。</p>
<p> </p>
<p> 食べ終わったところへ、家全体にチャイムが鳴り響いた。</p>
<p>「何だ?長門の客か?」</p>
<p>「はぁ…。あなたねえ、さっき自分で見張りを頼んでたじゃないのよ」</p>
<p>「あ!そうだったな。すっかり忘れてた、どっこらしょっと」</p>
<p> 玄関まで行きドアを開くと、メイド服に身を包んで―――はいない普段着の森園生さんがいた。</p>
<p>「こんばんは。見張りをしろとの命を受け、やって参りました。」</p>
<p> やはりこの人だったな。</p>
<p>「あ、こんばんは。すみませんわざわざ。どうぞ中へ」</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「こんばんは長門さん。お久しぶりですね。」</p>
<p>「あなたは」</p>
<p>「はい、離島の時にお会いした森です。今日は見張りとしてやって来ました。見張ればいいのは…そちらの方ですか?」</p>
<p>「ええ、そうらしいです。キョン君ったら心配性なんだから。」</p>
<p> </p>
<p> 用心に越したことなんざ無いんだよ。</p>
<p> </p>
<p>「そうですか、ではこれから共に暮らすのですから、とりあえず握手でも。」</p>
<p>「ええ、よろしく。」</p>
<p> そう言って二人の手が触れた瞬間、朝倉の目の色が変わったのを俺は見た。</p>
<p> </p>
<p>バシッ!!!</p>
<p> </p>
<p>…………</p>
<p>…何だ何だ?朝倉が森さんの手を弾…いた?</p>
<p>驚いた顔をしているのは何故か二人ともである。</p>
<p>「……?」</p>
<p>「え………?」</p>
<p>どういうことだコレは。</p>
<p> </p>
<p>「あら。これはどういった意味なのかしら……」</p>
<p> </p>
<p>「あ、ご、ごめんなさい!何か手が…」</p>
<p> </p>
<p>……森さんは黙ったままである。困惑した朝倉なんてものは始めて見たな。</p>
<p>暫くの沈黙ののち、</p>
<p>「ま、気にするほどの事ではないわよね。とりあえずこれからよろしくね。」</p>
<p> いつものスマイルで取り繕う森さん。</p>
<p>……気にするほどではない?…絶対変だと思うのは俺だけか?</p>
<p> </p>
<p> 朝倉はその後もずっと謝っていたが、流石にうるさがられたのか森さんにある要求をされ、それをすれば許す、ということになった。森さんが提示した要求。</p>
<p>「全員で川の字になって寝たい」</p>
<p> ハ?</p>
<p>
保育園の保母さんのようなことを言い出す森さん。てかいつの間に俺と長門まで巻き込まれたんだ?森さん曰(いわ)く、育ちが良かったせいでいわゆる『雑魚寝』をした事が無いらしい。</p>
<p>だからって何故ここで言い出すかが謎だが、朝倉が泣きついてくるしお話的にも必要なのでここには深く触れないでくれ。作者が困る。</p>
<p> </p>
<p> そんなこんなで皆で雑魚寝。</p>
<p>楽しげに布団に入った森さん、アンド長門、早々に就寝。</p>
<p>残ったのは俺と朝倉である。聞きたいこともあったし朝倉と話をすることにした。</p>
<p> </p>
<p>「なあ朝倉、お前は一度消滅したから分かるか?」</p>
<p> </p>
<p>「何が?」</p>
<p>「今回の事件で、長門が消滅しないようにお前がいるよな。だが、もしも万が一消滅してしまった時にお前みたいに復活は出来るのか?」</p>
<p> </p>
<p>
「復活は出来るわ。特に長門さんは今や涼宮ハルヒにとって欠かす事の出来ない存在になっている。おそらく思念体は最優先で長門さんの復活に取りかかるでしょうね。」</p>
<p> そうか、それは良かった。消えちまってそのままになんかしたら俺がハルヒに「ジョン・スミス」を使う事になるだろうからな。</p>
<p> </p>
<p>「じょんすみす?誰それ?」</p>
<p> </p>
<p>「お前は知らないんだったな。コレは俺が持ってるジョーカーカードだ。詳しくは言えないが、コレがあれば大体の事は何とかなるハズだ。」</p>
<p>「よく分からないけど、それは涼宮さんが暴走したときとかにも使えるの?」</p>
<p> ああ、恐らく有効だろう。…何故だ?</p>
<p> </p>
<p>
「思念体が最優先でやるといっても、長門さんの復活は容易いことではないわ。今回、長門さんが涼宮ハルヒの目の前で消えてしまっても分からない程度にする位の速さで復活をする事は不可能よ。長門さんは今思念体との繋がりを断たれているわ。それは恐らく『天蓋領域』からの妨害のせい。それが止まるのは恐らく長門さんが完全に消滅してからでしょうね。だから長門さんが消えだしてから思念体との再接続までには時間がかかるわ。天蓋領域はどうしても涼宮ハルヒの情報フレアを観測したいらしいわね。それでその時あなたの言う『ジョーカー』が使えるか聞いておきたかったワケ。」</p>
<p> なるほど。確かにその時には必要になるか。</p>
<p>「正直安心したわ。長門さんが消えてから涼宮さんに何か手を打たないとと思っていたところなのよ。」</p>
<p> おいおい、そんな調子で大丈夫なのかよ。もう他に問題は無いだろうな。気が付いたら世界崩壊してましたってのは御免だぜ?そう朝倉に聞いてみると、</p>
<p> </p>
<p>「たぶんジョーカーがあれば大丈夫でしょう。」</p>
<p> </p>
<p>だそうだ。そんなアバウトな…。</p>
<p> </p>
<p>まあ、そんな感じで朝倉と話をした俺は、今日の突然の出来事で疲れていたせいか、いつの間にか夢の世界へと旅立っていた。</p>
<p> </p>
<p>――――次の日、事態が急変するなどとは思いもしないまま。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>  第二章~キョンの非日常~</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> 朝である。</p>
<p> </p>
<p> 横に寝ているのは朝倉である。</p>
<p> </p>
<p>・・・・・・はい?</p>
<p> </p>
<p>「どわああああっっっ!!!」</p>
<p>叫ぶ俺。と、</p>
<p>「うわぁっ!って何々!どうかしたの!?」</p>
<p>飛び起きる朝倉。</p>
<p>「何でお前が……って、ああ、そうか…。」</p>
<p> 俺は昨日起こった大事件の事を思い出した。何やってんだ俺は…</p>
<p>「ああ、スマン。何にも無かった。…スマン。」</p>
<p>「ああ驚いた。心臓止まるかと思ったわよ。」</p>
<p> スマン。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「はーい朝ごはんですよ~。」</p>
<p> </p>
<p> 朝から寝癖ひとつも無く完璧な立ち振る舞いで朝メシを持ってきた森さん。</p>
<p>「お二人とも、まず寝癖を直してきて下さい。すごい頭になってますよ?」</p>
<p> はいはい。了解ですよ。</p>
<p> 朝には弱い俺は少し不機嫌である。</p>
<p>…すごい?どんな頭…ってすごっ!!Σ</p>
<p> 何コレ…?パイナップルですか?</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>~朝ごはん~</p>
<p> </p>
<p>「いや~、初めてあんな頭見た…。」</p>
<p>「え?何か言ったかしら?」</p>
<p> いやいやなんでもない。</p>
<p>そういえば朝倉の頭もすごかった。アレは何と言うんだっけ?ゴトゥーザ?違う違う、あー、メデューサ!アレみたいになっていた。</p>
<p>「失礼ね。あたしヘビは嫌いなの。やめてくれる?」</p>
<p>…どうやら朝倉も朝には弱いらしい。不機嫌だ。というか怖い。</p>
<p> </p>
<p> しかしこんな女ばかりの食卓なんて何年かぶりだぜ。いい目の保養だな。</p>
<p>…ん?</p>
<p> </p>
<p>「長門、お前いつもみたいにたくさん食べないのか?」</p>
<p>「今わたしは情報操作ができない状態。食べられない。」</p>
<p>長門は少し不満そうに答えた。</p>
<p>やはりどうやらいつもの大食い長門は情報操作によって成り立っていたものらしいな。</p>
<p>「そう。」イラッ</p>
<p>・・・。「少し」ではないようだ。かなり不満そうである。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> 森さん特製スタミナ朝ごはんを食べ終わり、俺は自分の着替えを取りに行くべく長門の家を出た。</p>
<p>朝倉が『洗濯くらい私が情報操作でやってあげるわよ?』と言っていたが、俺も一応、オシャレをしたいお年頃の現役男子高校生である。そこは断っておいた。</p>
<p> </p>
<p> 家に着くと、</p>
<p>「あっ、キョン君おかえり~!」</p>
<p>我が妹のせっかくの出迎えだが、俺はまだ帰ってきたわけじゃありませんっ。</p>
<p>「えぇ~?そうなの~?帰ってきたならキョン君を外で連れ回そうと思ったのに~。」</p>
<p> さらっと恐ろしいことを言うな、妹よ。俺にとって休みの日の休養がどれだけ大事か、お前には分かるまい。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> 妹から逃げるように家を後にした俺は、これからの話し合い等したかったので古泉に連絡をとった。</p>
<p> </p>
<p>『もしもし。ディアフレンド、いかが致しました?』ヘラヘラ</p>
<p> </p>
<p>「気持ちの悪い呼び方をするな。『知り合い』に格下げするぞ。」</p>
<p> </p>
<p>『それはご勘弁願いたいですね。それで、どうしました?』</p>
<p>「これからどうするか話し合いたい。すぐに長門の家に来い。」</p>
<p>『そうですたか。了解すますた。』</p>
<p> 何故に田舎なまり!?</p>
<p>『作者の打ち間違いです。お気になさらずに。』</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> キャラがおかしくなってきた古泉との電話を切り、俺は長門の家に向かった。</p>
<p>その時、</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>パッ</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>と、空の色が変わり、辺りが暗くなった。</p>
<p>なんだなんだ!?神龍でも出るのか!?</p>
<p> </p>
<p>…どうやら俺の思い違いだったらしい。空が灰色だったのだ。そして建物も、いや、世界全体が灰色がかっている。</p>
<p>ここは恐らく…</p>
<p> </p>
<p>「閉鎖空間ですね。」</p>
<p> </p>
<p>やっぱりそうか、古泉。って、お前いつの間に?</p>
<p> </p>
<p>
「いやぁ、すぐそこまで車で来ていたのですが、突然運転手の荒川さん共々車が消え去りましてね。当然僕は地面に落下し……。見てください、一張羅のジーパンが台無しですよ。」</p>
<p> そんなモンはどうでもいい。何で俺たちはこんなトコにいるんだ?</p>
<p>「どうでもいいとは何ですか!Yah●●!オークションで落札した19●●年のビンテージですよ!?いくらディアフレンドだとは言っても聞き捨てなりm」</p>
<p> いいから早く答えてくださいませんか?古泉「さん」。</p>
<p>「電話の脅しは本気ですか…。」</p>
<p> 当たり前ですよ?古泉「さん」。</p>
<p> </p>
<p>「…分かりました。…キョン君。これは異常事態です。」</p>
<p> どう異常なんだ。</p>
<p>
「僕に分かることは、この閉鎖空間が涼宮さんによって構築されたものではないということです。つまりここには神人がいないのです。さらに僕たちは選ばれてこの空間に入れられた、ということも分かります。」</p>
<p> どうして分かるんだ。</p>
<p>「前にも言ったでしょう。『分かってしまうのだから仕方が無い。』ですよ。」</p>
<p> ……そうだったな。で、その異常事態の中でこれからどうすればいい?</p>
<p>「とりあえず長門さんの家に行きましょう。朝比奈さんがこの世界にいるのが感じ取れます。同じくSOS団メンバーである長門さんもいるでしょう。」</p>
<p> 朝比奈さんも来ているのか!?じゃあハルヒは?あいつはどうなんだ?</p>
<p>「残念ながら、長門さんと同じく分かりません。」</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> とりあえず俺たちは長門の家に向かった。そこで俺と古泉は信じられない光景を目にすることとなる。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「…………何だあれは?」</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>-朝倉サイド-</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> キョン君たら結局行っちゃたわね。私には有機生命体の持つ「オシャレ」の概念が良く分からないけど…。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>ポク、ポク、ポク、ポク、ポク、ポク、ポク・・・チーン!</p>
<p> </p>
<p> 暇だわ!</p>
<p>
 情報統合思念体は何をやってるのかしら。そりゃあ今の私の任務は長門さんのサポートだけど、私だって情報処理能力を持った高性能インターフェイスなのよ?何か他に仕事とかないのかしら?はっきり言っちゃうけど、長門さんも森さんも何かとっつきにくいというか…特に森さんなんかはニコニコしてるけど危険そうな雰囲気出してるし…。話しかけづらいのよね。</p>
<p> そういえば夕べの握手の時に森さんから出た「殺気」みたいな物は何だったのかしら?驚いて手を弾いちゃったけど…。</p>
<p> </p>
<p>「どうかしましたか?」</p>
<p> </p>
<p>うわぁっ!</p>
<p>も、森さん…。驚かさないで下さいよ。</p>
<p>「すみません、ずっと何か考え込んでいたようでしたので…。」</p>
<p> ああ、何でもありませんよ。別にあなたが怖いとか怪しいとかそういうことでは…ハッ!</p>
<p>「あー、成る程ォ・・・。へぇ・・・。」</p>
<p> な、何かしら?森さんの様子がおかしいケド…?</p>
<p>「放って置いたらあなたには気づかれるかもしれないですね…。」</p>
<p> え?</p>
<p>「幸いキョン君もいないですし…。ちょうど良いですね。計画を変えますか。」</p>
<p> </p>
<p>バッ!!</p>
<p> </p>
<p> な、何!?</p>
<p>森さんから黒い何かが出た…?結界!?いえ、違う…新しい空間が森さんを中心に広がっていく――――――!・・・・・・</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>ハッ。</p>
<p> </p>
<p>私ったら気を失っていたのかしら?ここは…長門さんの部屋ね。</p>
<p>そうよ!森さんは!?今のは何だったの!?長門さんは!?</p>
<p> </p>
<p>「ねえ森さん、ここでホントに超常現象が起こるの?有希の部屋じゃない。」</p>
<p> </p>
<p>!</p>
<p>この声…は!</p>
<p> </p>
<p>「ええ、そうですよ。涼宮さん。」</p>
<p> </p>
<p>やはり涼宮ハルヒ!</p>
<p> </p>
<p>「そうよ。これからこの子に情報フレアを起こさせるのよ。」</p>
<p> </p>
<p>「あなたは…あなたが、天蓋領域の手先!?」</p>
<p>
「手先という言い方は不適当ね。私たち『機関』の上層部と天蓋領域は手を組んだのよ。今私は天蓋領域によって情報操作能力を与えられているわ。それも天蓋領域の力を凝縮したようなすさまじい力をね。」</p>
<p>「そんな…何故?」</p>
<p>「あんた朝倉!?カナダに行ったはずでしょう??それにさっきから何の話をしているの?」</p>
<p>「涼宮さん、ちょっと待っていてね。後で説明するから。</p>
<p> …さて朝倉さん、何故私達が手を組んだか、だったわね。」</p>
<p>私は無言で頷く。</p>
<p>
「最初はこれは天蓋領域単独の計画だったのよ。でもそれは、そこで呑気に気絶している長門さんに崩壊プログラムを仕組んで『神』に情報爆発を起こさせようとした、そこまでだったわ。それが想定外にあなたと彼――『鍵』が長門さんを守りに来ちゃったせいで失敗に終わってしまった…。だから天蓋領域は計画を変えたわけ。」</p>
<p> </p>
<p>
「それは『機関』と手を組んで刺客を送り込んで『鍵』を殺すこと。でもそれも夕べ思念体の妨害で失敗したわ。しょうがないからあなた達の正体をバラすことにしたわけ。」</p>
<p> </p>
<p>な…</p>
<p>「ちょっと待ちなさい!貴方達は涼宮さんの味方だった筈じゃないの!?」</p>
<p>「あぁ、その事ですか。それはお話していませんでしたね。…良いでしょう。話します。」</p>
<p>
「確かに我々『機関』は『神』が味方として作り出した超能力集団…『神』の為に存在していたようなものでした。でもね、もうウンザリなんですよ!!毎日毎日戦場へと狩り出され、蒼い巨人を倒すために人ではない姿に変えられ、重傷を負う仲間達の顔を見させられ…。挙句の果てにはそれを起こした張本人のご機嫌取りをしなければならない!!………それで私達は天蓋領域と手を組んだのです。」</p>
<p> </p>
<p>「ちょ…っと…さっきから何の話をしてるわけ…?戦場…?重傷…?」</p>
<p>「えぇ、そうですよ。それもこれもみんなあなたのせいです。」</p>
<p> 涼宮さん聴いてはダメ!</p>
<p>「あなたのSOS団の古泉も例外ではないわ。あの子はまだ中学生だった。心の傷はあまりにも大きかったはず。」</p>
<p> やめて!やめなさい!</p>
<p>私は森さんへ攻撃を仕掛ける。でも…これは何?閉鎖空間のような透明な壁があって森のところに辿り着けない。</p>
<p>「残念だったわね。この空間の創造主は私。何でも出来るのよ?」</p>
<p> くつくつと、嫌な笑いをしながら森園生がこちらを見ている。</p>
<p>
「唯一怖かったのは古泉から聞いた『鍵』の持つジョーカーの存在だったけど、それももう無駄ね。『鍵』はここまで来ることが出来ない…結界を張ったから。」</p>
<p> </p>
<p>「さァて、じゃあこの世界を壊すとしますか。」</p>
<p>!やめなさい!!</p>
<p> </p>
<p>「SOS団の『鍵』以外をここに集めます。彼らの正体を知ったあなたは一体どんな世界を作るのかしら?ねえ、涼宮さん?」</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>-キョンサイド-</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> っ!?おい古泉、どうした?</p>
<p> 古泉の身体が浮いている。</p>
<p>「どうやらこの空間を発生させた何者かが僕を呼び寄せている様です。」</p>
<p> 何!?抵抗できるか?</p>
<p>「おそらく無理だと…!いえ、キョン君は今呼び寄せられていませんね?」</p>
<p> ああ、まだ空を飛べるような感じは無いが。</p>
<p>「それです。今あなたは意図的に呼び寄せる対象から外されているようです。僕の身体を掴んで下さい!」</p>
<p> あ、ああ。</p>
<p> よくわからんが俺は浮いている古泉の足を掴んだ。(嫌だけど)</p>
<p> </p>
<p>その瞬間、古泉が勢いよく落下し地面に叩きつけられた。</p>
<p> </p>
<p>「ふもっふぅぅっっ!!!???」</p>
<p> </p>
<p>「おい、大丈夫か?」</p>
<p> </p>
<p>「……ふっ…ふふふ……ふふふふふ………………マッガーレ」</p>
<p> </p>
<p> いよいよヤバくなってきたなこいつ。</p>
<p> </p>
<p>「えぇ、大丈夫ですよ?超能力者を舐めないで頂きたい。…ホントに痛くありませんから。はい。大丈夫です。はい。」</p>
<p>…こいつ絶対強がりだな。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「さて、今の呼び寄せで朝比奈さんが向かっているようですね。場所は…長門さんの家!?」</p>
<p> なんだと!敵は長門の家にいるのか?ってぇ事は天蓋領域のやつらだな…長門と朝比奈さんがヤバイ!行くぞ古泉!!</p>
<p> </p>
<p>「あ~ぁ…僕のお気に入りだったのになぁこのジャケット…ボロボロだぁ…」</p>
<p> </p>
<p>「こぅいずみィィィくぅぅゥゥん?」</p>
<p> </p>
<p>「はい、行きましょう。」タタタタタ</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「…………何だあれは?」</p>
<p> </p>
<p>長門の家に着いた俺達だが、…あれは何だ?</p>
<p> </p>
<p>「結界…ですね。」</p>
<p>どうやらそうらしい。長門の部屋がマンションが透明な結界で覆われている。感じとしてはハルヒの閉鎖空間の壁に似ているな。かなり堅いが。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p><strong>「ドォォォォオオオン!!!!!」</strong>「ふみゅっ!」</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「うわっ?何だ!?」</p>
<p> 長門の部屋と思われる箇所に黄色い砲丸のような物が直撃した。</p>
<p>「あれは砲丸ではありません!よく見てください。」</p>
<p> </p>
<p>「あ、あれは……」</p>
<p> 朝比奈さんではないか!黄色いバリアに包まれた朝比奈さんが、破壊された部屋の壁から入っていく。</p>
<p> </p>
<p> おい古泉!どうにかこの結界の中に入れないのか!</p>
<p>「やってみます。」</p>
<p> 古泉が結界に手を当てる。と、古泉の手が結界を通り抜けた。</p>
<p>「うわっ?」</p>
<p> 古泉が飛んでいかないように手を掴んでいた俺まで引っ張られる。何だ何だ?これは結界じゃなかったのか?俺が一瞬そう考えると、</p>
<p> </p>
<p><strong>ガァン!!</strong></p>
<p> </p>
<p> 痛ってぇぇっっ!!</p>
<p> </p>
<p> 古泉が入ったのはいいが、俺が入れずに結界の壁に激突した。</p>
<p>「おっと、この結界はあなたのみを通さないための物のようですね。」</p>
<p>「古泉、どうにかしろ。」</p>
<p> 俺はぶつけた鼻を押さえながら、辛うじて掴んでいる手だけこっちにある古泉に命令した。</p>
<p>「無茶を言いますね…。」</p>
<p>「超能力者だろうお前。」</p>
<p>「まぁそれはそうですが…。あ!もしかしたら…」</p>
<p> そう言った古泉の身体が、突然赤く光りだした。おいおい、お前ここで能力使えたのか?</p>
<p>「僕も今気が付きました。これはもしかしたら……」</p>
<p> …まさか。</p>
<p> </p>
<p> ここで整理しておこう。</p>
<p>古泉たち超能力者のチカラは、ハルヒによって与えられたものである。</p>
<p>そして、それはハルヒのストレスの化身、『神人』を退治させるためのものである。</p>
<p>つまり『神人』がいなければ超能力は発現しない。</p>
<p> </p>
<p> ここまで言えばパソコン画面の前のあなたにも分かるだろう。</p>
<p>…『神人』が現れたのである。</p>
<p> </p>
<p>『えぇ~?さっき古泉が神人はいないって言ってたじゃん!』</p>
<p> と言う人は、作者が泣くから指摘しないでいてもらいたい。</p>
<p> </p>
<p>「『あれ』のことは後で何とかするとして、この超能力で作ったバリアであなたを包めればたぶん入れるハズなんですが……」ビリビリ</p>
<p> 古泉はバリアを伸ばすために頑張っている様だが、数センチずつしか伸びていない。</p>
<p> ガンバレ古泉!!</p>
<p>「ふんもっふぅっ!ふんもっふぅっ!もふもふもふもふぅぅぅ!!!」</p>
<p> キモイ声は出さなくていいぞ。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>-時間が少し戻って朝倉サイド-</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「今SOS団に『召集』をかけたわ。もうすぐ来るでしょう。…!……古泉は『鍵』に…いえ、『キョン君』に引き止めてもらってるようですね。」</p>
<p>「キョン!?キョンも関係あるの!?」</p>
<p>「涼宮さん、ちょっと黙っていて。」</p>
<p> 私は涼宮さんを押さえる。</p>
<p>「キョンが…?そんな…何なの…?古泉君…」ブツブツ</p>
<p> </p>
<p>「…古泉君は確かあなた達の仲間だったわね…なら」</p>
<p> 私は一番考えたくない可能性について訊いてみることにした。</p>
<p> </p>
<p>
「いいえ、私は『機関の上層部』と言ったでしょう?彼は涼宮ハルヒの調査を任されてはいるけど、まだ『上層部』とは言えないわね。彼は今のところあなた達の味方よ。まぁでも、古泉は変にあなた達に肩入れしている様だから、どちらにせよ私達側にはつかないでしょうね……。」</p>
<p> </p>
<p>「そう…良かった……。」</p>
<p> </p>
<p> 気絶していた長門さんが気づいたらしい。</p>
<p>「有希!大丈夫?」</p>
<p> 放心状態だった涼宮さんが駆け寄る。</p>
<p>「だいじょう……涼宮ハルヒ!ここに来てはいけない」</p>
<p> 涼宮さんに気が付いた長門さんが珍しく大声を出す。</p>
<p>「え、だって…森さんが超常現象がって言ってたから…」</p>
<p>「超常現象など無い。狙いはあなた。早く逃げて。」</p>
<p>「そんなこと言ったっt<strong>『ドガァァァァアアン!!!』</strong>『ふみゅっ』</p>
<p> </p>
<p>「な、何?」</p>
<p> 窓側の壁が爆発した。というより吹き飛んだ。</p>
<p>「あら、あなた達のお仲間の登場よ?」</p>
<p> お仲間…?あ、あれは!</p>
<p> </p>
<p>「みくるちゃん!」</p>
<p> </p>
<p>「ふみゅ~、痛いですぅ……」</p>
<p> 黄色いバリアのようなものに包まれた、あれは…未来人の「朝比奈みくる」!?</p>
<p>「大丈夫みくるちゃん?」</p>
<p> 涼宮さんが今度は朝比奈みくるの方に駆け寄った。</p>
<p>「あ、涼宮さぁ~ん……私、気が付いたらお空飛んでてぇ~、降りたくても降りられなかったし…怖かったですよぅ~ふみぃ……」</p>
<p> 相変わらず情けない声を出す未来人さんね。</p>
<p> </p>
<p>「さて、これで古泉以外はそろったわね。あ、言っておくけどそのバリアはTPDDを無効化するから♪」</p>
<p> 森が嬉しそうに言う。</p>
<p> </p>
<p>「森さん、あんた一体何なの!?あんたがみくるちゃんをこんな目に合わせたワケ!?」</p>
<p>
「あらあら涼宮さん、そんなに怒るから『神人』が出ちゃったじゃないの?ここは一応閉鎖空間なんだから。それにあなたが気にすることはそんな事じゃあ無いわ。」</p>
<p>「『新人』?そんな事って…じゃあ他に何のことよ?」</p>
<p>「『神人』よ。それは…」</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>
 さて、ここまで来てもさっきから私が何で何もしないのか、気になっている人もいるでしょうね。実は私、さっきから森のチカラで口以外が動かせないように拘束されているのよね。未来人さんはバリアの中であうあう言っているだけだし…長門さんはまた気を失ってしまったし…これは援軍を(主に古泉君)を待つしかないわね…。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「そうね。涼宮さんあなた、自分の傍若無人で自己中な性格を分かっているかしら?」</p>
<p>「な、何のことよ?あたしは寛大にして不可侵で象徴たる存在、SOS団団長涼宮ハルヒよ?そんなこと」</p>
<p>「ハッ、やっぱりあんたは最悪な神様ね。」</p>
<p>「神様って…あたしはそこまで言ってないけど。」</p>
<p>「あなた、そのSOS団とか言う団を作るとき、どうやって人員集めをしたんだっけ?」</p>
<p>「そ、それは…キョンを誘って、有希に部室を貸してくれるように頼んで…みくるちゃんを誘って、古泉君も…」</p>
<p>「何を言っているのかしら。</p>
<p>
 あなたはキョン君を脅して、長門さんの居場所を奪い取り、そこの未来人を誘拐し、恐喝し、部を抜けさせ、古泉に至っては無理矢理にその団だか何だがに入れたんでしょう!?普通は途中で停学処分や退学になっても当然のことよ?少しはおかしいと思わなかったの?」</p>
<p>「そ…んな…あたしは……そんなつもりで…………?……みら、いじん…?」</p>
<p> </p>
<p>「そうよ。それがあんたのイカレた行動を正当化してきたものの答えよ。」</p>
<p> </p>
<p> や…やめ……</p>
<p>声を出そうとして、それが不可能なことに気づいた。森が私の言語機能にも干渉したのだ。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「あんたがこの世界の『神』よ。まァもっとも?こんなキチガイ女が『神』だなんて認めたくないけどね。」</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>!!……言ってしまった…</p>
<p> </p>
<p>「さらに言うと、」</p>
<p> </p>
<p> やめて!!もうやめて!!!!</p>
<p>声にはならないけど必死で息を吐く。</p>
<p> </p>
<p>
「そこにいる長門有希と朝比奈みくる、それに古泉一樹はそれぞれ宇宙人、未来人、超能力者。それもあんたを見張るために派遣されたエージェントよ。つまり今までのユカイな『団ごっこ』は最初から偽物だったワケ。」</p>
<p> </p>
<p>「……」</p>
<p> </p>
<p>「どうしたの?驚きすぎて声も出ない?</p>
<p>
 ああ、まだこれがあったわね。今言った3人はあんたが中学校のときから持ってた奇天烈な願いによって作り出されたモンよ。しかも強制的にね。無差別に。相手のことなんてこれっぽっちも考えずに!宇宙人と未来人は新しく作り出されたからまだいいけれど、古泉はただの一般人だったのに……。突然意味不明な能力を持たされて、狂いそうになっていたし自殺未遂なんて何度もあったわ。理解できたならもうすぐ来る『一樹』に謝罪の一つでもしたらどうなの!?」</p>
<p> </p>
<p>「あ…ぅ……」</p>
<p> </p>
<p> …?森の様子がおかしい。さっきからずっと古泉君のことばかり話している。</p>
<p>「そりゃそうよ、……私は一樹の姉だもの。」</p>
<p> 思考を読まれた?…って今何て…</p>
<p>「古泉君の…姉弟?」</p>
<p>「ええそうよ?一樹の狂って苦しんでいく姿をずっと傍で見てきたたった一人の肉親よ。」</p>
<p>「そ…そん…な…」</p>
<p>「さァ、分かったらとっととこの世界を作り変えたらどうなのこの悪神がっ!?」</p>
<p> 森が声を荒らげる。</p>
<p>「せか…いを…?」</p>
<p>「…そうよ、あんたが作ったこのフザけた世界を普通に戻すのよ。」</p>
<p>「……そう…よね……SOS団のみんなが迷惑してるのよね……私のせいで」</p>
<p>「そうよ。」</p>
<p>「そうよ!!分かったら早くやれぇぇェェェェェェェ!!!!」</p>
<p> </p>
<p> も、もうダメだわ…そう諦めかけたその時、</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p><font size="4">「よせハルヒィィィィィィィイイイ!!!!!!!!!!!!!!!!」</font></p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> バーーーン!!</p>
<p>と、ドアを吹き飛ばして入ってきたのは……キョン君!!??</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>-キョンサイド-</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> ふうっ、ふうっ、ふうっ!</p>
<p>俺は今長門のマンションの階段を上っている。さっきの透明バリアは古泉の変態パワーで通り抜けることができた。そこは感謝である。</p>
<p> </p>
<p>「いえいえ、ディアフレンドのためならこんな…事っ…ゴホッ、ガフッ!」</p>
<p> おい大丈夫か古泉!?</p>
<p>どうやら古泉は能力の酷使のし過ぎで身体にダメージが来たらしい。</p>
<p>「えぇ…、まさか能力効果範囲の拡大の負荷がこれほどとは……」</p>
<p> あまりに辛そうなので、今俺は古泉を背負っている。これは結構キくな…。</p>
<p>「すみません……。」</p>
<p> いいさ。お前は十分頑張ってくれたんだ。俺もこの位の事は…</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>『美しい友情ですね。』</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> ん?どこからか声がする。誰だ!?</p>
<p> </p>
<p>『あら、お分かりになりませんか?私です。インターフェイスの喜緑江美里ですよ。』</p>
<p> 喜緑さん!どこにいるんですか?</p>
<p>『すみません、今そこにはいないんです。そちらの世界から隔絶されてしまったので…』</p>
<p> そ、そうですか…</p>
<p>『でも手助けすることはできるんです。現在情報統合思念体の全情報処理能力をあなた達を助けるために使うことを「思念体が」決定しました。』</p>
<p> え、そんなマジですか!?それは凄い心強いですけど、何でまた?</p>
<p>『そちらの世界の長門さんの部屋で我々が一番恐れていた事態が起こっています。これからあなた達の脳内に、起こった事すべての情報を送ります。』</p>
<p> </p>
<p> うわっ!?</p>
<p>突然俺の頭の中に映像が浮かんできた。</p>
<p>『そうよ。これからこの子に情報フレアを起こさせるのよ。』</p>
<p> 森さん!?</p>
<p> </p>
<p>『今私は天蓋領域によって情報処理能力を与えられているわ。』</p>
<p>『さァて、じゃあこの世界を壊すとしますか。』</p>
<p>『あんたがこの世界の[神]よ。まァもっとも?こんなキチガイ女が[神]だなんて認めたくないけどね。』</p>
<p> そんな…森さんが…?</p>
<p>―――ここから現在の様子です―――</p>
<p> 喜緑さんの声だ。</p>
<p>『ええそうよ。一樹の狂って苦しんでいく姿をずっと傍で見てきたたった一人の肉親よ!』</p>
<p>『さァ、分かったら分かったらとっとと世界を―――』</p>
<p> マズイ!!喜緑さん!俺たちを長門の部屋に飛ばせますか!?</p>
<p>―――部屋の前にだったらテレポートさせることが出来ます―――</p>
<p> それでいい!急いでお願いします!</p>
<p>―――はい―――古泉君の怪我も一緒に治しておきます―――</p>
<p> それはありがたい。頼みます。</p>
<p> </p>
<p> と、唐突にTPDDのような凄まじい立ちくらみが来た。</p>
<p>――視界が暗転する。</p>
<p> </p>
<p> 次の瞬間、俺は長門の住む部屋の扉の前に立っていた。</p>
<p>ありがとうございます黄緑さん。</p>
<p>「ふぅ、テレポートとは結構フラフラするものですね。」</p>
<p> ああ、そうだな。</p>
<p>『早くやれぇぇぇェェェェェ!!!!!』</p>
<p> まずい、行くぞ古泉!</p>
<p>「はい!」</p>
<p> </p>
<p> せェのオ――</p>
<p> </p>
<p>「せっっ!!!!」</p>
<p><strong>バアアアアアアン!!!</strong></p>
<p> </p>
<p>「よせハルヒィィィィィィイイイイ!!!!!」</p>
<p> </p>
<p> 俺と古泉は渾身の力でドアを蹴破った。</p>
<p> </p>
<p> 部屋の中にいた全員がこちらを向いた。</p>
<p>「何とか間に合ったようですね……」</p>
<p> ああ、危なかった。ギリギリセーフってトコか。</p>
<p>「一樹、来たわね。これからあなたを苦しめるこの世界を消し去るの。そこで見ていなさ……っ!?何故ここにキョン君が…」</p>
<p> やあ、久しぶりですね、森さん。いえ…古泉さん。</p>
<p>「僕が入れたんですよ?結構苦労しましたがね…」</p>
<p>「くっ…何故だ!全てお前のためにやったことなのに邪魔をするのか!?」</p>
<p>「それは…」</p>
<p> </p>
<p>「…キョン……?」</p>
<p> </p>
<p> おう、ハルヒ。</p>
<p>…なんて顔してやがる。もう死にそうじゃねえか。</p>
<p>「…来ないで…」</p>
<p> え?</p>
<p>「来ないで!!」</p>
<p> </p>
<p> ……どうしたんだハルヒ</p>
<p>「あたしはあんた達を巻き込んだ!!傷つけた!振り回した!</p>
<p> あんた達もあたしが神だったからしょうがなく付き合ってくれてたんでしょう?</p>
<p> これからそれを無かったことにするのよ。これがあんた達への償い…」</p>
<p> </p>
<p> 何言ってやがる。</p>
<p> </p>
<p>「え?」</p>
<p> </p>
<p> 俺がいつ、お前に仕方なく付き合ってやってるって言った?</p>
<p> </p>
<p>「そうですよ、涼宮さん。」</p>
<p>「一樹!?」</p>
<p>「森さ…いえ…姉さん、僕は確かに能力が発現してからこの僕の運命を呪いました。なぜ僕なんだ…兆を越す全人類の中でどうして…とね。</p>
<p>
 しかし僕はSOS団に入ってその考えが間違っていたと思うようになりました。波乱万丈の日々、賑やかで優しく、楽しい仲間たちの中でね。姉さんの目には昔と同じように見えたのかもしれませんが、今の僕は間違いなくSOS団が大好きです。</p>
<p> だからもし姉さんがそれを壊すというのなら、名誉あるSOS団副団長、古泉一樹として容赦はしません。」</p>
<p>「古泉君…」</p>
<p>「一樹……、分かっ・・・たわよ。」</p>
<p> </p>
<p>「わ、わたし達もですよ涼宮さん!わたし達もSOS団が大好きでしゅ!」</p>
<p> 肝心なところで可愛らしく台詞を噛む朝比奈さん。そしてまだ完璧に意識が回復していないらしい長門が横でコクコク頷いている。</p>
<p> </p>
<p>
 まあそういうことだハルヒ。「償い」だなんてらしくないことを言うんじゃない。俺達SOS団の団長様はちょっと元気あり過ぎな位が丁度良いんだ。お前が神だとか、そんなことは関係ない。</p>
<p> …だから、過去共々俺達の思い出を消しちまうなんて事はしないでくれ。いつものお前に戻ってくれないか?</p>
<p> </p>
<p>「……」</p>
<p> </p>
<p> なぁ、ハルヒ。</p>
<p> </p>
<p>「わ…った…ょ」</p>
<p> </p>
<p> ん?聞こえんぞ。</p>
<p> </p>
<p>「分かったわよ!戻ってやるわよ!後悔するんじゃないわよ?せっかく人生をやり直すチャンスをあげたんだからね?」</p>
<p> ああ、分かってるさ、おかえり団長様。</p>
<p>「ふん!そのかわり今まで何があったのかキッチリ話聞かせてもらうからね?」</p>
<p> それは古泉と相談してからかな。…分かった分かった、分かったから頬を膨らませるんじゃない。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「…………………あの、もう良いかしら?助けて欲しいんだけど。」</p>
<p> え?他に誰かいたか?</p>
<p>「うん、それ無理♪」</p>
<p> 朝倉か。スマン、忘れてた。</p>
<p>「うん、それも無理♪」</p>
<p> …ゴメン。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「ぐ」</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>…ぐ?何の音だ?古泉か?</p>
<p>「いいえ、僕ではありませんよ?」</p>
<p> じゃあ何だ。</p>
<p>「僕が知るわけ…」</p>
<p> </p>
<p><strong>「ぐあああああああああああ!!!!!!」</strong></p>
<p> </p>
<p>「姉さん!?」</p>
<p> 突然森さんが叫び声をあげた。</p>
<p>「あ…ぅ……ぐ…」</p>
<p>「どうしたんだ姉さん!?おい!姉さん!」</p>
<p>「私のな、かに…天蓋…領域が……情報…処…理能力を出す…ため、融合していたの…だけれど…それが…出てく…るゥウアアァ!!!!!!」</p>
<p> なんだって!?森さんの中に天蓋領域が!?</p>
<p>「わた、しから…能力が消える前に…TPDDバリアと…長…門さんの、接続、妨害を…解いておく…後はおねが……」ドサッ</p>
<p> 森さんが倒れた。</p>
<p>「姉さん!姉さん!」</p>
<p> おい古泉待て!</p>
<p>駆け寄ろうとした古泉をギリギリ引き止める。</p>
<p>「出るぞ…天蓋領域が…」</p>
<p> </p>
<p> な  ん だこれ は。</p>
<p> </p>
<p> 森さんの背中から出てきたのは…闇。どこを見ても底が知れないとてつもない闇。これが天蓋領域か?</p>
<p>「ええ、でも完全な状態ではないわね。」</p>
<p> どういうことだ朝倉?</p>
<p>
「『あれ』は恐らく『天蓋領域』が森さんの中に入るために一時的に情報から物質へと変化したもの。だから完全な状態ではないの。だから今が倒すチャンスよ。広域帯宇宙存在としてよりは格段に力が落ちているからね。とは言え、半端じゃない力を持っているのは確かだからかなり危険よ。」</p>
<p>  こいつをそのまま放っておいたらどうなる?</p>
<p>「それは多分…また情報に戻ってしまって二度と倒せなくなるし、新しい手先を送ってくるでしょうね。」</p>
<p> ここで倒すしかないってか……</p>
<p> </p>
<p>「そう。」</p>
<p> </p>
<p> いつの間にか横にいた長門がそう言った。 </p>
<p> もう大丈夫なのか?長門。</p>
<p>「大丈夫。情報統合思念体との再接続も進行中。少しなら戦える。」</p>
<p> そうか、それは心強いな。と俺が言ったところへ、天蓋領域の成れの果てによる攻撃が襲ってきた。</p>
<p> と言っても、『それ』がそのまま襲い掛かってきたわけではない。いつかの朝倉のようにそこら中の物を宙に浮かせ、光の槍に変えて飛ばしてきたのだ。</p>
<p> </p>
<p>「「彼らには触れさせない(わよ?)」」</p>
<p> そう言った長門と朝倉が前に飛び出し、森さんの足を掴んでこちらへ投げ飛ばす。そして、</p>
<p>「「ofhgfhn46fgjgvdv4rvmvm4or659kkgfxgnhn31bjrtjfmn5igyjk」」</p>
<p>  情報操作のときに唱える呪文のような意味不明な言語を二人がつぶやくと、俺達の眼前に透明な防御壁が展開され、飛んで来た大量の槍を弾いた。</p>
<p>「どうかしらキョン君。前に命を狙ってきた相手が味方に付いた気分は?」</p>
<p> 朝倉がこっちを向いて笑いながら俺に問いかけてきた。</p>
<p>「ああ、悪くないぞ?」</p>
<p> むしろ心強い。一度狙われてお前の強さは知っているからな。</p>
<p>「ふふ、当たり前ね。」</p>
<p> 朝倉が満足したように言った………</p>
<p> </p>
<p> ところへ、</p>
<p> </p>
<p><strong>バァァァァァアアアン!!!</strong></p>
<p> </p>
<p> と、大きな音を立ててバリアが破られた。というより拡散して霧消した。</p>
<p>「え?」</p>
<p> </p>
<p> 驚いて反応できなかった2人に光の槍が突き刺さる。それもとんでもない数だ。2人を狙っているかのように四方八方からどんどんと刺さっていく。</p>
<p> </p>
<p>「やめろおおおおおおおおおおお!!!!!!」</p>
<p>「「長門さぁぁぁぁあん!!!」」</p>
<p>「有希いいいいいいいいい!!!」</p>
<p> 俺達はあらん限りの力で叫ぶ。</p>
<p>「長門!!朝倉ァァァ!!!!」</p>
<p> もう二人の姿を確認することができない。何なんだこれは…悪夢か?ならとっとと覚めろ。</p>
<p> そう現実逃避に走り頬をひっぱたいてみたが、これが夢であるはずが無い。これが広域宇宙存在の力なのか…?</p>
<p> </p>
<p> 突然攻撃がやみ、光の槍が消えた。</p>
<p>俺は二人の姿を探すが、どこにも見つけることができない。……ま さ か。</p>
<p> </p>
<p>「そうだよ。寄り代となる肉体が無くなってしまったから消滅したんだ。おそらく思念体に回帰したのだろう。くっくっくっ」</p>
<p> </p>
<p> この声は、笑い方は…</p>
<p> </p>
<p>「いやいや、今は我々が神と考える者のカタチをとらせてもらっているが、本人ではないから安心したまえ。君の考えている『佐々木』ではない。」</p>
<p> </p>
<p>
 目の前にいるのは俺の中学時代の親友、佐々木のカタチを模しているという……天蓋領域。形を人間にしたらしい。しかもご丁寧に声も話し方も、全てをコピーしているらしい。</p>
<p>「てめェ!!よくも長門たちを!しかも俺の親友の身体を勝手に…」</p>
<p>「おやキョン、君にそんなことをいちいち言われる筋合いは無いと思うのだがね。それに今は君には用が無いのだよ。あるのは…君だ。涼宮さん。」</p>
<p> 何だと!</p>
<p>「!あたし!?」</p>
<p>「君の神の能力を彼女に移すのだよ。」</p>
<p> 彼女って…佐々木か!?</p>
<p>
「他に誰がいると言うのだね?…もう涼宮さんは情報フレアを起こさないと思われるからね。もともと僕の目的は超大規模情報フレアを観測するで自律進k…いや、もう知っているか。そこでその能力を持つ資格がある彼女に移して再チャレンジをしようというわけだ。」</p>
<p>「何よそれ!そんなのあたしが防いで…」</p>
<p> くっ…ハルヒ、残念だが今お前のその能力は使えない。</p>
<p>「何でよ!」</p>
<p>
 今ヤツが言っただろう。あいつの目的は自律進化の道を見つけることなんだ。それはつまり力を使えばあいつを進化させ、余計強くしてしまうということだ。そんなことになったらもう手がつけられん。</p>
<p>「じゃ、じゃあどうするのよ!」</p>
<p> </p>
<p>「くっくっく、どうしようもないだろう。さあ、分かったら早くその力をこちらへ渡してもらえないだろうか?」</p>
<p> ニヤニヤこちらを見てくる『天蓋領域』。くそ、どうしたら!</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>―――キョン君―――</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> この頭の中に直接響いてくる声は…喜緑さんか!?</p>
<p>―――はい、そうです――今は思念体の代弁を任されています――ちなみにこの通信は天蓋領域以外の全員に聞こえています―――</p>
<p> それは大役ですね。で、思念体は何と?</p>
<p> 俺は頭の中で問いかけた。</p>
<p> </p>
<p>―――先程と同じで、思念体は全力であなた達をサポートします―――</p>
<p>―――キョン君には情報処理能力を、古泉君には超能力の強化エネルギーを送ります――そして朝比奈さんにはTPDDの使用制限の解除を行います―――</p>
<p> 俺が情報操作!?俺にはあんなに早く喋る事なんて出来ませんよ。</p>
<p>
―――ああ、その点はご心配なく。古泉君の能力と同じく、直感的な使い方が出来るように改良しておきました――「こうしたい」と思うだけである程度のことは出来ます―――あ、もうひとつありました。そちらで消滅した2人の情報は、現在統合思念体に戻ってきています。すぐは無理ですが復活させます――ですから貴方達は天蓋領域を倒すことに専念してください―――それでは。</p>
<p> </p>
<p> …通信が切れてしまった。</p>
<p> </p>
<p>「いい加減にしてくれないかい涼宮さん?キョン?…早く能力を渡せ。」</p>
<p> 佐々…天蓋領域の顔から表情が消えていた。</p>
<p> </p>
<p>「そうはいかないな。」</p>
<p>「何だと?」</p>
<p> </p>
<p>「行くぞ古泉ィ!!」</p>
<p>「了解しました!!」</p>
<p> </p>
<p> 俺達は同時に天野郎に向かって走り出す。</p>
<p>「ふぅ…なんだい?君達程度の力でこの僕に触れられるとでも思っているのか?だとしたら失望したよ。君達は自分の力量も測れないのか。」</p>
<p> 半ば呆れた感じで天蓋はため息をついている。</p>
<p>「どうだかな。まぁ…見ていろ!!」</p>
<p>
 俺はハルヒや朝比奈さんが巻き込まれないよう、防御結界を後ろに展開し、俺自身の肉体を情報操作で強化した。確かに考えるだけでチカラが使えるようだ。これは情報操作というより魔法だな。</p>
<p> そして古泉はいつもの紅玉に…と思いきや、何だ?蒼玉だぞ?あぁ、温度が高いって事か。</p>
<p> 共に肉体を強化した俺達は、天蓋領域に襲い掛かる。</p>
<p> </p>
<p>「うおォォォォオオ!!!」</p>
<p> </p>
<p>「何をやったって無d…ぅぐあぁぁぁぁっっっ!!!??」</p>
<p> 思いのほかクリーンヒットした。</p>
<p> 二つの攻撃を同時に受けた偽佐々木の身体は浮き上がり、向こう側の壁にまでぶっ飛んだ。</p>
<p> </p>
<p>「ぅぐ……な…何故だ…何故お前が情報操作を行える!?」</p>
<p> ほう、やはり分かるものか。てか、口調変わってるし…。</p>
<p>「当たり前だァ!お前ら単体でこんな力が出せるわけが無い!!」</p>
<p> そうか、だがお前に答える必要は無いな。</p>
<p>「何だとォ!?」</p>
<p> </p>
<p>「情報連結、解除!」</p>
<p> </p>
<p>……</p>
<p>………</p>
<p>何だ?何も起きない…?何故だ!?</p>
<p> </p>
<p>「ククク…クハハハハハッ!!!」</p>
<p> 何故、どうして消えないっ!?</p>
<p> </p>
<p>―――キョン君―――</p>
<p> </p>
<p> 喜緑さんっ!??</p>
<p> どうしてです!?何故ヤツは消えないんです!?</p>
<p>―――今更ではありますが、天蓋領域の情報量はとてつもないものです――それを解除するのは思念体の全能力をもってしても100年はかかります―――</p>
<p> そんな…それじゃあどうすれば!?</p>
<p>
―――必ず解決策はあるはずです――なぜならあなたは『現在の世界』と繋がっている未来出身の未来人と会っているでしょう。それが未来を切り開ける可能性があるという証拠ではないですか―――</p>
<p> 朝比奈さんと朝比奈さん(大)の事か―――。</p>
<p> </p>
<p>―――だから頑張って下さい――あの二人が復活するであろう未来を…守ってあげてください―――</p>
<p> !…分かりました。全力で…天蓋領域を……倒します。二人に言っといて下さいよ、「俺が絶対助けてやるから待っていろ」って。</p>
<p> </p>
<p>―――分かりました、お願いします―――</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「……オイ、どうした?ネタ切れか?」</p>
<p> もう完璧に佐々木の話し方とかけ離れた天蓋領域がこっちを向いた。</p>
<p>「キョン君、今の通信は――」</p>
<p> あぁ、完璧に絶望的ってわけじゃあ無いらしいな。だが解決策とは何だ…?100年もの時間をどうやって作ればいい!?</p>
<p> </p>
<p>「通信…?……そうか…!」</p>
<p> ちっ、気づかれたか…</p>
<p>「情報統合思念体が味方しているんだな?…そうなんだな?」</p>
<p> だからどうした。</p>
<p> </p>
<p>「なら貴様ら二人の思念体との繋がりを断てばいいと言うわけだな!!??」</p>
<p> </p>
<p> !! よせェェェエエエ!!!</p>
<p>そう叫んで、俺と古泉はもう一度天蓋領域に飛び掛かる。</p>
<p> </p>
<p> だが、すでに遅かった。</p>
<p>
俺の身体から一気に力が抜け、古泉の玉の色も、鮮やかな蒼からマグマの様な紅へと変わってしまった。と同時に俺と古泉はとんでもない勢いで後方へ弾き飛ばされた。</p>
<p>「ぁぐッ…!」「ぅ…あ…」</p>
<p> 声にならない程の痛み。半端じゃねェぜこれ…。い、意識が……飛ぶ…</p>
<p>「アハハハハハァ!これで終わりね!所詮てめェ等には手も足も出ねェンだよォ!!」</p>
<p>「こ、古泉君!キョン!」</p>
<p> </p>
<p>「ふえぇ……!キョンくぅん、古泉くぅん…!しっかりしてください…!」</p>
<p> あぁ朝比奈さん…今あなたがホントに天使に見えます……。</p>
<p>ん……?あさ、ひな…さん?そ…うだ…!朝比奈さんだ…!</p>
<p> </p>
<p>「キョンくぅん…グスッ」</p>
<p> あ、朝比奈さん…</p>
<p>「え…?な、なんですか?」</p>
<p> ヤツにき…聞こえないように小さな声で…お願いします…</p>
<p>「は、はい…」ヒソヒソ</p>
<p>「まず…一つ前の喜緑さんの通信は…聞こえましたね?」ヒソヒソ</p>
<p>「聞こえました。」ヒソヒソ</p>
<p>「じゃあ次に、TPDDの使用制限は無くなっていますか…?」ヒソヒソ</p>
<p>「ええ、信じられませんが今は私の自由に時間遡行が出来ます…」ヒソヒソ</p>
<p>「それです。」ヒソヒソ</p>
<p>「え…?」ヒソヒソ</p>
<p> 俺は自身渾身の策を伝えた。</p>
<p>突破口を見つけたのだ。だがそれは…朝比奈さんとハルヒにやってもらうしかない。非常に情けない事この上ないが、俺と古泉はほとんど身体に力が入らない。</p>
<p> 朝比奈さん、あなた達に懸かっています…</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「あんた!あたしの大事な団員達によくも!」</p>
<p>
「何を叫んでいる?所詮お前らは消える運命にあるんだ。どうせお前はこの状況を覆すような大きな力を出すことは出せない!さっさとチカラを渡せこの愚神がァ!」</p>
<p>「この…!」</p>
<p> </p>
<p>「ダメです涼宮さぁん!」</p>
<p> 朝比奈さんが、向かっていくハルヒをこちらに引き倒す。</p>
<p>…頼みますよ…朝比奈さん!</p>
<p> </p>
<p>「何すんのよみくるちゃん!あいつを一発殴らなきゃあたしの気が…!」</p>
<p> </p>
<p>「いいから俺達に任せろ…行くぞ古泉。」</p>
<p>「は…い…」</p>
<p> とは言っても、俺達はホントに戦うわけではない。さっき言ったように身体がガタガタだからな。時間稼ぎをするだけだ。</p>
<p> </p>
<p>「待ちなさいよ!キョむぐっ?」</p>
<p> 朝比奈さんがハルヒの口をふさいだ。それでいい。</p>
<p> </p>
<p>…さァて、せいぜい時間を稼ぐとしますか。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> 第三章~SOS団の逆転~</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>-ハルヒサイド-</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>むぐっ!?</p>
<p>ちょっとみくるちゃん何を…キョンが!</p>
<p>「シーーーッ!涼宮さん聞いて!キョン君の作戦ですぅ!」ヒソヒソ</p>
<p>「え?」</p>
<p> キョンの作戦?</p>
<p>「――――を使って―――を―――へ――るんです。」ヒソヒソ</p>
<p>「え!?そんなことが出来るの?」ヒソヒソ</p>
<p>「ばれちゃったけど、私は未来人です。それくらい出来るんですよ?」ヒソヒソ</p>
<p> あ、そうか…みくるちゃんの正体…</p>
<p>「それで、あなたのチカラが必要なんです。」ヒソヒソ</p>
<p> あたしのチカラ?</p>
<p>でもそれは使ったらいけないんじゃ…</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「ぐああぁぁぁあ!」</p>
<p>「ガフッ!?」</p>
<p> </p>
<p> 佐々木さんの偽物に向かっていったキョンと古泉君が悲鳴を上げた。</p>
<p>みくるちゃん!キョンが!</p>
<p>「押さえてください、キョン君が絶対に手を出すなと言ったんです!」</p>
<p> キョンが…?でも…</p>
<p>
と、そこまで言ったところでみくるちゃんの目に涙が溜まっているのが見えた。あのみくるちゃんが泣き出さないって事は、相当の覚悟なんだろう。…わかったわよ!</p>
<p> </p>
<p>「では…話を戻しましゅ。それは大きな力に限ってのことです……してほしいのは、」</p>
<p> </p>
<p>「あそこにいる蒼い巨人を操ることです。」</p>
<p> </p>
<p>「え?巨人?」</p>
<p> あたしはみくるちゃんが指さした壁の穴の方を見た。あれは…</p>
<p>去年の夢に出てきた巨人!?てことは…</p>
<p>「はい、アレは夢じゃありません。」</p>
<p> そんな…じゃああたしはキョンと…?思い出したら顔が熱くなってきた。</p>
<p>「今は紅くなっている場合ではないです。」</p>
<p> そ、そうね…みくるちゃん、顔がコワイわよ。</p>
<p>「アレは涼宮さんが生み出した者です。」</p>
<p> あたしが?でも操り方なんて知らないわよ?</p>
<p>「そこでチカラの出番です。あの巨人を操るくらいのチカラなら情報爆発に比べれば微々たる物です。」</p>
<p> みくるちゃん…キャラが変わってるわよ?</p>
<p>「あの巨人を使って偽佐々木さんを攻撃して欲しいんです。その隙をついて―――します。」</p>
<p> え…?大丈夫なの?</p>
<p>「今回は一番出番が少ないんでしゅ!!なんとしてでもやらないと本当に空気になってしまうのです!!!!」</p>
<p> 必死さが半端じゃないみくるちゃんは怖い…</p>
<p>「わ…分かったわ…」</p>
<p>「良かった…、ではお願いします!キョン君達がもうもちません!」</p>
<p> ハッ!</p>
<p>あたしがキョン達の方を向くと、</p>
<p> </p>
<p>「…ぁ……!」「ぅぉ………!」</p>
<p> </p>
<p> 信じたくない光景があたしの目に飛び込んできた。</p>
<p>キョンと古泉君が全身を血みどろにして、それでも偽佐々木さんに向かっていっている。</p>
<p>「いい加減にしろ…貴様ら邪魔をするなァァァァァァァァ!!!!!!」</p>
<p> また二人が吹っ飛んだ。</p>
<p> </p>
<p>「涼宮さん!早く!!」</p>
<p> </p>
<p>「…ぁぁァぁぁああァァァァあぁァァあぁ!!!!!??」</p>
<p> キョンと古泉君を助けたい!そう思った瞬間、 </p>
<p>あたしは蒼い巨人と『願い』で頭の中がリンクしたことを感じた。</p>
<p>「涼宮さん…?」</p>
<p> </p>
<p>「みくるちゃん…やるわよ……準備はいい…?」</p>
<p> 近くにいた『神人』を呼び寄せながらあたしはみくるちゃんに訊く。</p>
<p>「は、はい!行けます!」</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>「……いっけェェェェェェエエエエ!!!!」</p>
<p> </p>
<p> あたしは『神人』に命令を飛ばす。</p>
<p> </p>
<p>「な、何だ?」</p>
<p> 命令はもちろん、『あのバカを押さえつけろ』だ。</p>
<p> </p>
<p>「ぐふぁぁぁぁあああっっっっ!!!??」</p>
<p> よし!成功した!!破壊された壁をさらに壊しながら、蒼い巨人の手が伸びてきて、あっという間にバカをひれ伏させた。まさに『神速』ね。</p>
<p>「くそっ!?何だこれは……!!」</p>
<p> だけど向こうの押し返してくる力が凄すぎる。押さえてられるのはあと数秒ね。</p>
<p> </p>
<p>「行きなさいみくるちゃぁぁん!!!」</p>
<p> あたしの叫びと同時に、みくるちゃんが飛び出す。</p>
<p> </p>
<p>「いっきまあああああす!!!」</p>
<p> みくるちゃんが偽佐々木に飛び付く。</p>
<p> </p>
<p>「うぉっっ!?」</p>
<p>「『ちぇっくめいと』ですよ?天蓋領域さん?」</p>
<p>「まさか……貴様…やめろおおおおお!!」</p>
<p>「うん、それ無理です♪」</p>
<p>「あああああああああああああ!!!!!!!!」</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> パッ!</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> と、朝倉の決まり文句をパクったみくるちゃんとバカが、突然、目の前から、消えた……。</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p>-キョンサイド-</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> う……。</p>
<p> ど、どうやら…ガフッ、成功したらしいな。</p>
<p> </p>
<p>「えぇ、あんたの計画どおりよ。」</p>
<p> そりゃ良かったぜ……なぁ古泉。</p>
<p>「え、えぇ…そうですね。身体を張った甲斐があるというものですね……。」</p>
<p> </p>
<p>
「ねぇ、みくるちゃんにあいつを『10億年前の過去』へ連れて行かせたのはいいけどさ、あいつ人間じゃなくて、情報…だったっけ?確かそれよね。死ぬことってあるのかしら?」</p>
<p> </p>
<p> あぁ、無いだろうな。だが、</p>
<p>「それじゃダメじゃないの!またここに来るかもって事でしょ!?」</p>
<p> ハルヒ、人の話は最後まで聞くもんだ。</p>
<p>
「放っておけばヤツが死ぬことは無いだろう。だがその時代にも長門と朝倉の親玉は存在してるんだ。そして長門たちは、過去・未来、全ての時代の自分と『同期』って言うものが出来る。」</p>
<p>「へぇ、便利な力ね。で、それが出来るとどうなるの?」</p>
<p> だから人の話は最後まで聞け。</p>
<p>「この時代で俺達が親玉に頼んで10億年前の自分と同期してもらえば、過去にいるあいつを消すことが出来る。まぁ100年はかかるがな。」</p>
<p>「あ、だからあいつを10億年も前に飛ばしたのね。あいつが殺すかもしれない生き物がいない時代へ……」</p>
<p> そういうことだ。</p>
<p>「いやぁ、キョン君がこれほどの策士だったとは驚きですね。」</p>
<p>
 あぁ、正直自分でも驚いている。恐らくこれは『既定事項』だったんだろうな。ってあれ?いつの間にお前そんなに元気になった!?さっきまでボロボロだったじゃねえか。</p>
<p>「あ、あれ?そういえば…。でもキョン君もでしょう?」</p>
<p> そう言われて俺は自分の身体を見てみる。どういうことだ?服以外、身体の傷が完全に治っている。これは―――</p>
<p> </p>
<p>―――えぇ、私達です。―――</p>
<p> </p>
<p>「やはり喜緑さんですか。」</p>
<p>―――正しくは思念体ですがね。天蓋領域による妨害が無くなったので、手出しが出来るようになりました―――</p>
<p>「喜緑さん、その天蓋領域のことなんですが…」</p>
<p>―――あぁ、それは聞いていました。安心してください。天蓋領域は地球の時間軸で9億9879年前に消滅しました―――</p>
<p>「121年ですか。ずいぶん粘ったようですね、ヤツは。」</p>
<p>―――ええ、あの必死さには鬼気迫るものがありました。正直『おっかなかった』ですね―――</p>
<p>「ハハ、そりゃすごいでs「キョ、キョン君。」</p>
<p> …何だ古泉。</p>
<p>「あなたの計画でおかしい箇所を発見しました。」</p>
<p> 何だと?</p>
<p>「未来人はここから4年以上前の時間軸には遡れない筈では…?」</p>
<p> …ハッ。</p>
<p>そういえばそうだ。確か以前朝比奈さんはハルヒが「道を閉ざしている」と言っていた。それなら何故遡れたんだ?</p>
<p>「あ、あたし!?」</p>
<p>―――それは恐らく――涼宮さんに計画を話した時点で彼女の深層心理がそのことに気づき、遡るための道を開いたのではないかと思われます―――</p>
<p>「あたしって色々やってたのね………」</p>
<p> ああ、まだまだあるぞ?今度話してやる。</p>
<p>俺が言ったところへ、</p>
<p> </p>
<p>「ひゃう!?」</p>
<p> </p>
<p>朝比奈さんが降って来た。</p>
<p>……どこにって?…俺の頭上だよ。</p>
<p> </p>
<p>「ゴキッ!!」</p>
<p> 当然、俺の首はイヤーな音を立てて朝比奈さんのクッションとなった。</p>
<p> </p>
<p>「ァ……」</p>
<p> こ、声が出ん……。</p>
<p>fvcゴpcmpdfjccンbbc5fgふぁはfgdgn………!!!</p>
<p>頭の中で声にならない叫びを上げる俺。</p>
<p> </p>
<p>「た、ただいまですぅ…。」</p>
<p> </p>
<p>お、お帰りなさいMyエンジェル。ご無事で何…より……ガク。</p>
<p> </p>
<p>「って、え!?キョン君!?キョン君!死んじゃダメですぅーー!!」</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> 第4章~キョンの帰ってきた日常~</p>
<p> </p>
<p> </p>
<p> その後のことを少しだけ話そう。</p>
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<p> 黄緑さんの言ったとおり、長門と朝倉は次の日には復活していた。</p>
<p>何故分かったかと言うと、その日の放課後に二人がそろって部室に来たからである。しかも朝倉の方は腕に「名誉団員」と書き殴られた腕章をつけている。</p>
<p>朝倉は</p>
<p>「これからよろしくね?」</p>
<p> としか言わない。</p>
<p> 後からいつものように扉を蹴破り入ってきたハルヒにその事を訊いてみると、</p>
<p>「あの事件の功績からすれば当然の措置でしょう?」</p>
<p> …だそうだ。相変わらず強引だな。ていうか俺には何か無いのか?</p>
<p>「あんたは一生平団員よ。いえ、雑用だったわね。」</p>
<p> そんなアホな。</p>
<p>「それよりも!!」</p>
<p> うわァ。何だ何だ、いきなり大声を出すんじゃない。</p>
<p>「あんた、昨日の約束は覚えているわよね?」</p>
<p> ニヤニヤと笑いながら尋ねてくるハルヒ。</p>
<p>あー…どうだったかな。…まあ、いいよな?古いず…み?</p>
<p>「あれ?古泉はどこだ?」</p>
<p>「あんた今さら気付いたの?古泉君は今日はまだ来てないわよ?」</p>
<p> そうか…。それならこれから何が起こっても古泉の責任だな。無いとは思うが、ハルヒに全て話して、それで閉鎖空間が発生しても俺は知らん。</p>
<p>「ちょっと!古泉君なんてどうでもいいのよ!早く話をしなさい!」</p>
<p> 哀れ古泉。お前どうでもいいとか言われているぞ。合掌くらいはしといてやろう。</p>
<p> </p>
<p> さて、何から話すとするか。今後のSOS団の活動内容に関わるからな。慎重に決めなければ。</p>
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 だがまぁ、まずはこいつが七夕に会ったという、突発性居眠り病にかかった姉を背負ったお人よしの男子高校生の正体について話してやろうと、俺は思っている――――――。</p>
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<p> おまけ章~古泉氏のその後~</p>
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<p>-二週間後-</p>
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<p>「みんみんみらくる、みっくるんるん~♪</p>
<p> おやっ?みくる、あれは古泉君ではないかい?」</p>
<p> アタシは鶴屋さんっさ!苗字だけなのはめがっさご愛嬌っさ!</p>
<p>「あ、ホントです~、古泉くーん」タタタタタ</p>
<p> 夏休みに入った今、アタシはみくると一緒に絶賛お出かけ中だったんだけど、途中の川辺で座っている古泉君を発見したのさっ!</p>
<p>「待っておくれみくる~!」</p>
<p> アタシも川原へ走り出す。</p>
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<p>「え?…ああ、お二人ですか。鶴屋さんの方はご無沙汰してます……」</p>
<p> うわぁっ。どうしたんっさ古泉君、やつれてるよ?</p>
<p>「あれ?そうですか?そういえば最近こころなしか身体が軽くなったような…」</p>
<p>「こ、古泉君ちゃんとご飯食べてますかぁ~?」</p>
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<p>「えぇ、食べてはいますよ。一応は…」</p>
<p> 一応って、一体何を食べているんっさ?</p>
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<p>…ん?ややっ。古泉君そのジーパンはもしかして。</p>
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「やぁ、分かりますか!この間僕の一張羅の19●●年のジーンズがボロボロになってしまってですね、またもやYah●●!オークションで競り落としたのですよ!いやぁ、同じものが出ていてホントに良かったですよ!」</p>
<p> 古泉君が目をキラッキラさせながら話してくる。しょ、正直こわいっさ…</p>
<p>「でもこれを欲しがっているジーンズコレクターもたくさん来てですね、ちょっとした競り合いになったのです…。」</p>
<p> い、いくらしたのさ?</p>
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「資金が足りなくなる位です。しょうがないので生活費と食費を回したらいつの間にやらスッカラカンになっていた…というわけでして。かなりギリギリの生活を送っているところなのです。今ではもやし達だけが僕の強い味方ですよ…。」</p>
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<p> そ、そういうわけだったにょろね…。通りで古泉君がやせ細っちゃってるはずっさ…</p>
<p>「つきましては、寛大なる先輩達にお金を貸して欲しいのですが…。」</p>
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<p>ナヌ!?</p>
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<p>「バイト先にも給料の前借りを断られまして…このままでは、」</p>
<p> しょ、しょうがないにょろね…古泉君がのたれ死んだりしたらハルにゃんが悲しむっさ…。</p>
<p> そう思って、アタシは財布に手をかけた…けど、</p>
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<p>「このままでは、同じくボロボロになったジャケットの修理が出来ないのです!」</p>
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<p> こ、このアホは…。おっと、キャラが違っちゃったっさ…</p>
<p>「みくる、行こう…」</p>
<p>「はい…」</p>
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<p>「え、ちょっと待って!!僕の相棒の復活は!?鶴屋さーん!朝比奈さーん!」</p>
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<p>「お姉さん、無駄遣いをする子に貸すお金は無いっさ。古泉君、この夏は頑張ってもやしで切り抜けるにょろ~。」</p>
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<p>「ガーン!そ、んな…、ぼ、僕の…ジャケットが……いや、彼なら…」ブツブツ</p>
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<p> 終わっとけ。</p>
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 と、いうわけで終わりです。お粗末さまでした。文法がおかしかったり情報が足りなかったりしたトコは加筆修正しておいたので、気になった方はもう一度見てみてください。</p>
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