<div class="main"> <div>三章<br></div> <br> <div>悪夢を見た。<br> あの色のない世界で、またキョンと二人きり。<br> 「あ~、しょうがない。こないだに倣ってとりあえず部室に行こうぜ」<br> キョンはそう言ってあたしに手を差し出してきた。でも、こいつはあたし達が尾行ていたことを知らずにみくるちゃんとキスをした。<br> あたしに気がないくせに優しい態度、取らないでよ…。<br> あたしはキョンの手を無視し、部室と逆の方向へ向かうことにした。<br> 「いまからあたしは不思議なことを探すから!あんたはみくるちゃんでも探して好きなことしてれば」<br> 「……そうか、じゃあそうさせてもらうよ」<br> え?いつものキョンなら追いかけてくれるのに……。<br> 後ろを振り向くと、キョンと手を繋いで去って行くみくるちゃんの姿。何処に行くのよ。<br> キョン、あたし一人はヤダよ。あたしにも構ってよ。<br></div> <br> <div>「一人にしないで!!」<br></div> <br> <br> <div> あたしは、目を覚ました。自分の声で目を覚ましたなんて初めて。<br> しかも今日見た夢は前に見た悪夢を見る夢。フロイトさんもびっくりだわ。<br> そしてあたしは気付く。自分の頬を這う一筋の涙。<br> 「あれ?何で……?」<br> 言い様のない不安、それであたしは気付いた。<br></div> <br> <div> キョンがいなくなる、誰かの物になることの不安に。あいつはとっくにあたしの《特別》になっていた。だけど、認めたくなかった。<br> だけど、みくるちゃんとキスした所を見て、悪夢を見てやっと気付いた。<br> 「あたしはキョンが好きだったんだ……」<br> ふと、時計に目をやった。午前4時17分。<br> 「……あたしの精神病も、末期症状かもね」<br> そう呟くと、もう一度目を閉じた。明日は学校に行く時ポニーテールにしてみよう。キョンが気付いてくれるといいなぁ……。<br> </div> <br> <br> <div> 教室で一人窓の外を眺める。ポニーテールには満たない後ろを括った髪型で。<br> キョンは似合ってるって言ってくれるかな?それだけで少し幸せになれるのに。<br> キョンは朝からあたしに話しかけてきた。どうやら携帯が壊れたみたい。……そりゃあ自分ごと水没したら壊れるわよ。<br> 話しかけられても、どうしても元気が出ない。昨日あんなシーンを見ちゃったから。尾行るなんてやめとけばよかったわ。<br> しばらく話しかけられて、携帯の買い物について行くことに。キョンと出かけるのはうれしかった。気を遣ってくれるのもうれしかった。<br> ただ、一つ。キョンに対して愛想笑いを振り掛けた自分が許せなかった。……これが《やきもち》か。<br> </div> <br> <div> 放課後、街を二人で歩いた。携帯を買って、ご飯を奢ってもらい、あたしの好きな物を買ってもらう為に。<br> 「さて、まずは携帯からだ。行こうぜ」<br> キョンが手を差し延べてきた。不意に、夢を思いだす。この手を取らないと、キョンはみくるちゃんとどっかに行っちゃう……。<br> 「…ヒ……ハルヒ!痛いって!」<br> あたしは無意識の内にキョンの手を異常な力で握っていた。はぁ……これは末期症状ね。<br> 「あ、ごめん。……行きましょ」<br></div> <br> <div> 二人で歩く、あたしはキョンのちょっと後ろ。明かりのない空間で歩いた時のような位置関係。<br> ただ一つ違うのは、あたしの手はキョンの手をしっかりと握っていること。<br> みくるちゃんに《宣戦布告》され、二人でキスしてる所まで見ちゃったのに今更自分の気持ちに気付いて、諦められないあたしがいた。<br> 携帯ショップに着くと、しばらく見回っていたキョンがあたしの近くに寄ってきた。<br> 「なぁ、ちょっと携帯貸してくれよ」<br> 「なんでよ」<br> 「どうせならお前のと一緒のにしようと思ってな」<br> 「……っ!あんたはみくるちゃんとベタベタしてりゃいいじゃない!なんであたしなんかに優しくするのよ、みくるちゃんに構ってキスでもなんでもしてりゃ……」<br> あ、しまった!<br> 「お前……尾行てたのか!?」<br> バレちゃった…。もう、キョンに合わせる顔がない。絶対嫌われちゃった。<br> 「ごめん、帰るわ」<br> あたしは走りだした。<br> 心の隅で期待してた。キョンが追いかけて来て、『あれは誤解だ』って言ってくれることを。<br> 二回、三回と振り向いても追いかけてくる影はなかった。<br> 「バカ、バカ、あたしの気持ちくらい考えなさいよ…」<br> そのまま、夕方の学生やサラリーマンが集まる街中を駆け抜けて帰った。<br> </div> <br> <br> <div> もうヤダ……。せっかくキョンと出かけたのに、尾行を自白して終わりなんてあたしらしくないミスだわ。<br> 最低の女って思っただろうな……。あ~、なんだか疲れちゃった。体がダルい……。<br> </div> <br> <div> あたしが熱を測ると、38.3という素晴らしい数値がでた。夏風邪はバカがひくって言うけど…あたしってバカなんだろうか。<br> まぁ、いいわ。これでしばらくキョンと顔合わせずに済むから。<br> </div> <br> <br> <div> 結局、熱は引かずにあたしは今週を丸々休むことになった。その間は、SOS団のみんなから心配のメールが来たけど、とうとうキョンからは一通も来なかった。<br> やっぱり怒ってるんだ。それか、あたしの事なんかどうでもいいのよね。<br> もう、諦めよう。<br> そう思ったのが土曜日。その日にはあたしの熱は引いていった。<br> まったく、タイミング悪すぎよ。探索が一日なくなったじゃない。<br> 大事を取って一日をベッドの中で過ごした。本を読んだり、テレビを見たり、携帯をいじくってみたり……。ふと、アドレス帳の中のキョンの名前が目に入った。<br> 涙が出た。<br> やっぱり、諦めきれない。だけど顔を合わせるのが怖い。もうどうすればいいのよ……。<br> </div> <br> <br> <div>そのまま、あたしは寝たみたいだった。<br> あたしを起こしたのは一通のメールの音。<br> 《いつまで仮病使う気だ?》<br> 同時に窓ガラスに何かが当たる音がした。なんなのよ。<br> あたしがカーテンを開けると、あたしの部屋を見上げて真顔で手を振るキョンが居た。<br> </div> <br> <br> <ul> <li><a href="http://www25.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/714.html"><font color= "#666666">四章</font></a></li> </ul> </div> <!-- ad -->