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*街(Nasca Version) ◆7pf62HiyTE Section 04 山吹少女の事件簿 「ヴィヴィオちゃん……」  保健室のベッドで今も眠り続けるヴィヴィオを看る祈里の表情はとても辛い。  彼女を連れてきた霧彦の話によれば、白の怪人の攻撃によって霧彦共々負傷したらしい。  ヴィヴィオの受けたダメージは上半身の火傷と左腕の骨折、もっとも手当てした限り火傷のダメージの方は外見ほどひどいものではなく、左腕の方も骨折はしている様だが骨にヒビが入った程度である。  それでも女の子の体に刻まれた火傷の痕が痛々しく、ヒビ程度とはいえ左腕が骨折している事に違いはない。  クリスの方もそのヴィヴィオを心配そうに見つめている。  甘かった――そうとしか言いようがない。  この場で殺し合いに乗る危険人物などラビリンスの幹部であるノーザ等一部程度で他のみんなは絶対に殺し合いに乗らないと思っていた。  だが現実はどうだろうか?  2人が遭遇した白の怪人が彼女達を襲いここまでの傷を負わせていた。幸い命に別状はないがそれは運が良かったからに過ぎない。  更に言えば2人が元いた森が先ほどから炎上しており、霧彦がつい先ほど再び向かっていった。  霧彦はあえて祈里に言わなかったが恐らく白の怪人によるものと考えて良いだろう。  炎は数キロ離れたここからでも視認できる規模、そこから察するにその規模が大きいものなのは想像に難くない。  戦いによるものだとしたら犠牲者が出ている可能性だって否定できない。  他にもヴィヴィオが使用したガイアメモリ、霧彦によるとドーパントへの変身という強大な力を与える反面精神に強い影響を与えるという話らしい。  聞いた程度の話なので具体的にどうなるかは祈里には想像もつかないがナキワメーケやソレワターセの様なものになると考えて良いだろう。  そうなったら殺し合いを望まない普通の人達も他の人々を襲う事ぐらいは容易に予想が出来る。  更に祈里自身が最初に遭遇した黒服の少女、銃を突きつけられ一方的に自身の持つ情報を引き出させられ、食料と水、そして銃が奪われてしまっている。  幸い命に別状はなかったが今にして思えばこれも末恐ろしい話である。  あのまま用済みと判断され殺されていた可能性だってある。  変身していたから大丈夫という問題ではない、それこそ変身の隙を与えず撃たれていた可能性もあっただろう。  そもそも気がつけば銃を突きつけられていた事を考えれば、気づくことなく射殺されていたかもしれない。  それぐらい綱渡りな状況にいたのだと今更ながらに認識したのだ。  そんな中、窓から森の方を見つめる。果たして霧彦は無事に戻ってきてくれるのだろうか?  そして考える。もし、同じプリキュアの仲間である桃園ラブ達が燃え上がる森を見たらどうするのだろうか?  答えなどわかりきっている。迷うことなく炎に包まれた森で動けずにいる人々を助けに向かう筈だ。  霧彦に頼まれた為断念はしたが最初は祈里自身が森に向かう筈だったのだ、桃園ラブ達が燃え盛る森を放置する事などまずあり得ない。  そう考えればなおの事、霧彦の静止を振り切り自身が向かうべきだったのではないか?  傷ついた霧彦が向かうよりもプリキュアである自身の方がまだ良かったのではないか?  そう考えずにはいられない。  だが、傷ついたヴィヴィオをこのまま放置するわけにもいかない、そう考えればこの選択もやむを得ないものではある。  それでも、霧彦の身を案じると歯がゆく感じる。  今現在机に置かれている『あるもの』を見ると不思議と強く感じるのだ。  そんな時だった、僅かに窓が震えたのは―― 「え……?」  落ち着いて外を見る。するとどうだろう、夜の闇に加え離れた場所故にわかりにくいが何かが舞い上がっているのが見えた。 「竜巻……?」  そう、規模こそ小さいが竜巻が見えたのだ。  だが、竜巻などそうそう自然に発生するものではない。ならば―― 「霧彦さん……!!」  竜巻が見えた方向は丁度霧彦が向かった方向だ、それが意味するのは一つ―― 「誰かが霧彦さんを襲って――」  その推測に至ったとき、やはり自分が行くべきだったと後悔した。  いや、正直な所今すぐにでも様子を確かめに向かいたい。だが、ヴィヴィオ達を残して向かうわけにはいかない。  それにまだ霧彦が襲われたと決まったわけじゃない、今は霧彦を信じて待つべきだろう。  それからしばし静寂が訪れる――ほんの数分程度だったのだろうが祈里には数時間にも数十分にも感じられた。  そして再び窓から外を見ると中国風の服を着たおさげの少年が祈里達のいる中学校に向かっているのが見えた。  いつもの祈里ならばその少年が危険人物だとは考えたりはしない。  だが、有無を言わさず銃を突きつけてきた少女、ヴィヴィオ達を襲い森を燃やしたであろう白の怪人の存在があり楽観的に考える事は出来なかった。  いや、それでもいつもならば危険人物だとはまず判断しない。  そう、その少年が『あるもの』を持っていなければ――霧彦を襲ったであろう物的証拠を持っていたのだ。  故にその少年は今度は中学校に乗り込み中にいる自分とヴィヴィオを――そう判断するには十分だ。  そして今、危険人物からヴィヴィオを守れるのはただ1人、他の誰でもなく祈里だけである。 「クリス……ヴィヴィオの事お願い……」 「(こくこく)」  次々と巻き起こる状況に焦っていなかったと言えば嘘になる。  だが、傷つき眠り続けるヴィヴィオを守る為にも向かってくる危険人物は止めなければならない。  故に迷うことなくリンクルンにクローバーキーを差し込み回す事でそれを開き、中にあるボタンに触れ―― 「チェインジ・プリキュア! ビート・アーップ!」  自らをキュアパインへと変身させる言葉を唱えた―― Section 01 うつろうもの  ここでG-7の森が炎上するまでの経緯を今一度振り返り整理してみよう。  この火災はその場所で暁美ほむらとン・ダグバ・ゼバが交戦した際、ダグバの有する発火能力を切欠にして起こったものである。  その規模は非常に大きく、数キロ離れた場所であるG-8の中学校からも視認する事が出来る。  なお、視認こそ出来るがエリアを超越する程広がることがない事をここで付記しておく。これはG-7にある三途の池近辺に火の手が上がっていない事からも明らかである。  さて、火災が起こった時刻は大体いつ頃か、その時刻は大体午前2時前後、その後戦闘を終えH-7まで移動したダグバが時計を確認したのが2時半過ぎだった事からも明らかと考えて良い。  一方、そのダグバと交戦したほむらだが、彼女が交戦場所である森に移動する前、約1時間程延々と市街地を走り回っていた。  その理由は――超光戦士シャンゼリオンこと涼村暁と延々と追いかけっこを続けていたからである。理由については割愛させてもらう。  ともかく森への移動時間を踏まえると追いかけっこを始めた時刻は大体0時半前後、そう考えて間違いはないだろう。  それを踏まえると、ほむらが中学校で山吹祈里から情報を一方的に搾取し拳銃等を奪取した時刻は開始早々、大体0時10分から20分ぐらいという事になる。  一方のダグバは開始早々、高町ヴィヴィオと園咲霧彦を襲撃、その時刻もまた開始早々大体0時10分から20分、遅くても30分ぐらいと考えて良いだろう。  その後襲撃された両名は離脱し中学校で祈里と遭遇し情報交換と手当てを行った。中学校到着は大体1時から1時半ぐらいである。  そして霧彦達が森の火災を確認したのは2時10分から20分ぐらいのタイミングである。  さて、ダグバとほむらの戦いはほむらの完全敗北したものの幸い暁が何とか駆けつけほむらの機転もあり離脱に成功。だが、先程触れた三途の池にて志葉丈瑠と遭遇し交戦を開始、具体的な時刻はダグバが時間を確認した2時半頃と大体同じ頃と考えて良いだろう。  では、ここからが本題だ。  ほむらと暁が市街地で追いかけっこしていた約1時間、両名は他の参加者と接触する事はなかった。  そのタイミングで森から中学校まで移動していた霧彦達と遭遇する可能性はあったものの、幸か不幸か彼らと遭遇する事はなかった。  とはいえ1つのエリアが数キロ四方である以上、そうそう都合良く遭遇するとは限らないのも仕方ない事である。  つまり――市街地でほむら及び暁の姿を確認した参加者は他に誰もいない――  否、少なくとも1人はいる。その人物は開始早々のタイミング、大体0時10分から20分頃H-7にて丈瑠と遭遇しある事を頼まれ、知り合いとの遭遇を目指して市街地に向かった、その人物は―― 「ったくここにくりゃ誰かいると思ったのに誰もいねぇ……」  そう口にしたのは中国風の服を着たおさげの少年、早乙女乱馬である。  丈瑠と別れた後、知り合いを探すため市街地に向かい、一番目立つ建造物である風都タワー、その展望室までやって来たのだ。  が、結論から言えばその道中そして風都タワーに至るまで誰とも遭遇する事はなかった。  そんな乱馬の手にはあるものが握られていた。 「花火大会でコイツと写真を撮ったカップルは必ず結ばれる……本当かよ!?」  真面目な話、乱馬は微妙に苛立っていた。 「……そりゃ別にあの野郎が俺達に渡した物なんて最初からアテになんかしてなかったけどよ……こんなもんどうしろっていうんだ!?」  それは風車を模した風都を代表するマスコットキャラ――ふうとくん、そのキーホルダーである。  説明書きにご丁寧に花火大会での伝説についても書かれていたのである。  本来ならば限定50個の激レア品であり欲しい物は是が非でも欲しがるであろうが、この殺し合いにおいては完全なハズレアイテムと言って良い。  勿論、ガイアメモリなる胡散臭いもの渡された方が良い――とは口が裂けても言わないが、それにしたってもう少し他になかったのかと思わなくはない。 「くそぉ……絶対に一発ぶち込んでやる……とは言ってもあの野郎が高見の見物決め込んでる限りはどうにもならねぇしなぁ……  奴の手下か仲間を見つけて力尽くで聞き出す……って、その手下がいなけりゃどうにもならねぇよなぁ……」  加頭に対する怒りを湧き上がらせつつ懐にキーホルダーをしまう。そして今度はデイパックから名簿を取り出し改めて確認する。  一応最初に確認はしているものの気になる事があった為の再確認である。 「あかねに良牙、それにシャンプー……後はパンスト太郎だけか……」  乱馬の知り合いは4人、  現在早乙女家が居候している天道家の三女で乱馬の許嫁の天道あかね、  前の学校での同級生で今も好敵手でありあかねに好意を持っている響良牙、  女傑族の少女で乱馬が打ち破ったことで掟により命を狙われたり求婚されたりもしたがなんだかんだで今現在も乱馬を求愛しているシャンプー、  腰にパンスト、つまりはパンティストッキングを巻きある目的を持って乱馬とあかねの父である早乙女玄馬と天道早雲の師匠八宝斎を付け狙っているパンスト太郎、  さて、乱馬は知り合いとの合流を目指し最終的な目的地をC-7にある呪泉郷を目的地に定めていた。  5人が共通で把握している場所ならば合流できるという判断だ。  だが、それは彼らが殺し合いに乗らないという前提がなければ成り立たない。優勝狙う者がわざわざ知り合いとの合流を目指す筈もないだろう。 「あかねと良牙が乗る事はねぇと思うが……」  とはいえ、あかねと良牙の2人が殺し合いに乗る事はまずないと考えている。  あかねに関してはかわいくない所や不器用な所はあるものの殺し合いに乗る様な奴じゃない事は乱馬自身がよく知っている。不安要素がないではないがまず大丈夫だろう。  良牙に関しては全く心配していない。あかねを生還させる為殺し合いに乗る? そんな事はまずありえない。  貧力虚脱灸で弱体化した時、ここぞとばかりに九能帯刀や五寸釘光、ムースや風林館高校校長(九能の父)が襲ってきた一方、良牙だけは襲わずむしろ強さを取り戻すのに協力してくれたのだ。  それ以前に特訓の為良牙が本気で戦う必要があったが、弱体化した乱馬に対し全く本気を出せず―― 『どうやらおれは…自分で思っていたより…ずっとセンチでいいやつだったらしい…  弱くなった乱馬に本気を出すなど、優しいおれにはできんのだーっ!!  甘い男と笑わば笑え!!』 「……なんかすげーやな事思い出した気がする」  ともかく、その優しい(?)良牙が自分よりも弱い参加者を皆殺しにする姿が全く想像つかないのだ。 「う゛ーん……問題は……」  後の2人が正直問題だ。  シャンプーは乱馬自身を生き残らせる為なら何をやってもおかしくはない。そもそもこの機に乗じてあかねを亡き者にしようとする可能性すら十分にあり得る。  それ以前にあの場には自分達より少し幼い中学生ぐらいの少女が数多くいた。  シャンプーがその少女に仕掛ける、シャンプーが敗北しその相手に死の接吻を行う、そしてその命を奪うべく追いかけ回す、乱馬やあかねが苦しめられた一連の流れが繰り出される可能性は多分にある。  それ故、殺し合いに乗るあるいは危険人物になっている可能性が非常に高いといえよう。 「ていうかよ、俺が生き残ったってアイツ自身は生き残れねぇんだから意味ねぇんじゃねぇか……」  そんな疑問を感じる乱馬である。  最後の1人であるパンスト太郎に関してはそもそもそこまで仲が良いわけじゃない。  むしろ、パンスト太郎は目的の為ならば何をしでかしてもおかしくはない。 「優勝したらなんだって出来るって言ってもさすがに掟は変えられねぇだろうが……」  パンスト太郎が八宝斎をつけ狙う理由、それは自身の名前をパンスト太郎が望む名前(かっこいい太郎)に変えさせる為である。  村の掟により産湯に漬けた者である八宝斎以外が命名、あるいは変更する事は不可能。  加頭がどんな願いでも叶えるといっても掟は絶対だろう。  だが、掟の方は無理でも八宝斎に名前を変えさせるのに全面協力させる事は出来るだろう。そうさせる為の手段の幾つかは乱馬も把握している。  乱馬達ともそこまで仲も良くない以上、自分達の事などお構いなしに嬉々として殺し合いに乗る可能性は高い。 「それにしても……あかね以外はみんな呪泉郷に落ちた連中なんだよな……」  そう、あかね以外の4人は全員呪泉郷に落ち、水をかぶると変身し、お湯をかけると元に戻る特異体質となった。  良牙の場合は水をかぶると黒い子豚となり、シャンプーの場合は子猫となる。そしてパンスト太郎の場合は牛の頭に雪男の体、鶴の翼に鰻の尻尾の怪物となる。  当然、乱馬も3人同様に水をかぶると変身する体質である。 「この島に呪泉郷がある事といい……そういう連中ばかりを集めているのか……けどそれならあかねがいる筈ねぇし、むしろ親父やムースの野郎の方がいなきゃおかしいよなぁ……」  余談だが玄馬はパンダとなり、シャンプーに好意を持っているムースはアヒルになる。勿論、乱馬の知る呪泉郷関係者は他にもいるが彼らの名前は確認できない。  そんな中、 「そういや、あの剣客の兄ちゃんから頼まれていたんだっけな」  と、デイパックからこの地で最初に出会った丈瑠に託されたショドウフォンとメモ書きを出す。 「確か誰に渡すんだったかな……流之介と源太……ああ、こいつらだな」  そう言いながらメモを開き渡す相手を名簿を見ながら確認する。 「しかしアイツ何を考えているんだ……?」  気になったのはメモの中身だ。簡単にまとめればその意味合いは2つ、『ショドウフォンを持つ資格がないので2人に預ける』、そして『次に出会った時は敵だ』というものだ。  詳しい事情は聞かなかった為知り得ないわけだが穏やかじゃない事は確かだ。  何より、わざわざ偶然で会った何も知らない自分に頼んだ事自体奇妙な話だ、それこそ丈瑠自身で渡せば済む事の筈だ。 「ま、2人に会った時に聞いてみればいいか」  とはいえ、それこそ運良く2人に会った時に聞いてみれば良い。優先順位としてはさして高くはないが丈瑠と約束した手前やらないわけにはいかない。 「さて、どうすっか……」  ひとまず今後どうするかを考える。呪泉郷に向かう前に市街地を一回りするつもりではあったが、市街地は思ったよりも広い。  あかね達がいる可能性も高い為、捜索すべきなのはいうまでもないがこの広さだと全て回るだけでも数時間はかかる。  だからこそ風都タワーの展望室から周囲を見回したがその全てを把握しきれるものではない。 「う゛ーん……ん?」  そんな中、展望室の窓をのぞいてみると1人の黒服の少女が歩いているのが見えた。  急いで降りれば十分に追いつく距離、何か聞けるかもしれないと考えたが、 「!?」  次の瞬間にはその少女が消えていた。 「見間違いか……? いや、んなわけねぇよな……」  そう考えていると今度は白くキラキラした甲冑を身に纏った者が周囲を見回しながら何かを探しているのが見えた。 「………………」  そんな乱馬の脳裏に浮かんだのは五寸釘が奇跡の鎧ファイト一発を着た時の事だ。  その鎧は憎くて憎くて憎くて強いやつ(乱馬)を殴らなければ脱げない(しかも乱馬を拘束した状態でないとまともに動けない)厄介なものだった。  だが、そのパワーと堅さは非常に強く、乱馬自身手を焼かされた。  何より、時間制限で自爆に巻き込まれ(そのお陰で結果的には勝利したが)た事もあり良い思い出がない。  そんな嫌な事をあの白くキラキラした甲冑を見て思い出したのだ。そして思う、アレに関わったらロクな事にならないと―― 「さーて、あかねや良牙でも探しにいくかー」  故に乱馬は見なかったことにした。かくして水をかぶる事で変身するうつろうものは風都タワーの展望室を後にした。この時、展望台の時計は午前1時20分を刺していた。 Section 02 Castle・imitation 「はぁ……はぁ……」  風都タワーのあるこの場所は風都――否、  適当な市街地に風都タワーを持ってきただけの全然違う場所だ。  なによりも風が全く違うのだ、今霧彦自身に吹き付ける風は心地よさを全く感じない嫌な風だ――  そう、この場所は都合良く作られたイミテーションに過ぎないのだ。 「(ああ……本当に悪趣味だよ、お父様……いや、園咲琉兵衛!)」  参加者の多くに未成年がいた事実、そして参加者に支給されたドーパントに変化させる力を持つガイアメモリの存在、加頭の使用したガイアメモリとドライバーの存在、  それらから霧彦はこの殺し合いの黒幕はミュージアム、及びその主賓である園咲琉兵衛だと考え、同時にこの殺し合いはミュージアムによる実験の1つであろうと推測していた。 「(そしてあの時死ぬはずだった僕がこうして生きて参加させられている理由……それは最後のチャンスだということか、あるいは裏切り者に対する制裁なのか……)」  死を待つだけだった筈の自身がこうしてこの場で存命している謎、それは琉兵衛による最後の温情、あるいは制裁の可能性を考えた。 「(今一度生きるチャンスを与えてくれた事だけは感謝するよ……それでも僕の答えは変わらない、何も知らない子供達にガイアメモリを与え殺し合いを強要するお前達を僕は許さない……)」  それでも霧彦がすべき事に変わりはない。  ミュージアムは人間の進化を促そうとガイアメモリによる実験を繰り返している。  霧彦自身、風都の未来の為、人類の進化は望むところ、故にミュージアムの幹部としてガイアメモリを街にばらまいていた。  ガイアメモリの危険性は承知している、だがそれを使うのは薄汚れた大人達、彼らの犠牲で風都にとって明るい未来が訪れるのであれば小さなものだ。  しかし子供達や何も知らない人々がその対象になる事は決して許されない。  そもそも風都の未来はそこに住む子供達や人々のものの筈だ、それなのにその子供達や人々が犠牲になるのは本末転倒ではなかろうか。  無論、参加者の多くは風都関係者ではない。だがそんな事は関係ない、どこの住民であろうとも何事もなく幸せに暮らせた筈の人々の未来を奪って良い理屈にはなり得ない。 『言ったよな、お前も……この街を愛してるって……もしそれが本当なら子供達にもうあんな涙は流させるな……』  思い出すのは仮面ライダー君こと左翔太郎の言葉、 「愛しているさ……その想いの強さだけなら仮面ライダー君にだって負けていない!」  そんな中、もし琉兵衛の長女で霧彦の妻であった園咲冴子と遭遇したらどうすべきか考える。  霧彦にとって運命の女性である冴子、そうそう簡単に諦めるわけにはいかないので可能な限りは説得するつもりだ。  だが、この地に来る直前にも共にミュージアムを抜ける様説得したが断られそのまま返り討ちにあった。  恐らく、この地で説得しても聞き届けられる事はないだろう。良くてこの場での対立を避ける事が出来る程度だ。  とはいえ、それを残念には思うものの冴子を恨むつもりは全くない。  冴子自身、強い目的があって自身の説得を拒んだ事は理解できる、そもそもその強い意志があるからこそ霧彦は彼女に惹かれたのだ。  裏切ったのはむしろ自分自身、それ故に拒絶した事を悪く言うつもりはない。  そもそも、あの時点で薄々その結果はある程度予想できていたのだ。だからこそ仮面ライダー君に風都の未来を託したのだ。 「(……待てよ……もしミュージアムが黒幕ならばどうして冴子が参加させられているんだ?)」  琉兵衛は誰よりも家族を愛しているのを霧彦は知っている。  最終的に袂を分かつ事にはなったが、琉兵衛自身は家族を失う事を心底残念がっていた。  その琉兵衛が目的の為とはいえ冴子を命の危険が大きい殺し合いの参加者にするだろうか?  むしろ、この殺し合いの運営側に回す方が自然ではなかろうか? 「(考えられる可能性は2つ……1つは冴子自身もミュージアムを裏切った可能性……)」  1つは冴子がミュージアムを裏切った事による制裁の可能性だ。  何故自身の説得を拒みミュージアムを裏切らなかった冴子がミュージアムを裏切ったのかという根本的な疑問は感じるが、仮にそうだとするならば説得が届いたかもしれない故、嬉しく思わなくはない。  だが、同時に責任を感じる。自身の説得が冴子を危険に巻き込んだ可能性があるのだから。 「(もう1つ……そもそもの前提が間違っていたとしたら……?)」  もう1つ、それはミュージアムが黒幕ではない場合だ。これならば冴子を参加させようがさせまいが全く関係がない。  ガイアメモリやドーパントとは全く異質の存在が幾つか存在する事からも可能性が無いとはいえない。 「(仮にそうだとするならば連中はミュージアムを取り込む程の力を持つ連中という事になる……)」  園咲家しか持ち得ないゴールドメモリ及びドライバーを所持していたのはミュージアムから手に入れたと考えれば筋が通る。 「(だが、そんな連中が本当にいるのか……いや、ミュージアムが今程の組織になったのだって様々なスポンサーの協力があったからだ、絶対に無いとは言い切れない……)」  とはいえ長々と考えても仕方が無い。優先すべき事は一刻も早く森の火災現場に駆けつけ様子を確かめる事だ。細かい事はまた後から考えれば良い。  時計を確認する。今現在2時30分ぐらいといった所だ。 「まだ森は遠い……か」  そう言いつつ霧彦はガイアドライバーを巻き、懐からガイアメモリを取り出し作動させる。 ――Nasca――  自身の持つナスカのメモリでナスカ・ドーパントへと変身し一気に森まで移動しようかと考えた。  だが、メモリを持つ手が震えている。  ナスカはゴールドメモリの1つ、その力は絶大故に使用者にかかる負担は非常に大きい。  そして度重なるメモリの使用により霧彦の体は限界を迎えようとしていたのだ。  それがいつかはわからない、それでも使えば死に近づく事だけは確実だ。 「迷っているのか……馬鹿馬鹿しい……」  だが、今更霧彦が命を惜しむわけにはいかない。  霧彦自身、ガイアメモリの力で薄汚れた大人達が犠牲になる事は納得出来ると考えているのだ。  ガイアメモリを流通させ子供達を苦しめた自身は既にドス黒く汚れた大人、他の参加者を助けられるならば幾らでも犠牲になろう。  そんな中、ささやかな風が霧彦の首に巻いている何かを揺らめかせた。 「(あぁ、そうか……)」  脳裏に浮かぶのは1人の女性――冴子とは違う別の――  無論、何かがあった時は仮面ライダー君の拠点である鳴海探偵事務所に行くに伝えてはいる。  だから仮に自分が戻ってこなくても大丈夫だと考えていた。  それでも――もし自分が残したものを調べたら自分に何が起こったかを察する可能性がある。  そうなればどうするのだろうか? メッセージ通り仮面ライダー君を頼るならばまだ良い。だが単身で無茶をする可能性は否定できない。  そう、たった1人遺される『彼女』の事が心配なのだ、霧彦にとって唯一の―― 「(本当にすまない……けれど……僕が死んでも決してそれに囚われないでくれ……僕なんかと違い未来が待っているんだから……)」  届くはずの無い伝言を内心で口にし、 ――Nasca――  意を決しメモリを作動しドライバーへと挿入、程なく霧彦の身体は青い戦士の姿ナスカ・ドーパントへと姿を変えた。 「超加ぞう゛ぁ!」  すぐさま超加速を発動し一気に移動しようとしたが、ナスカ・ドーパントの言葉はそこで止まる。  そう、その瞬間、頭部に跳び蹴りが炸裂したのだ。そのままナスカ・ドーパントは地へと伏せられる。  だが、ドーパントと化した身体に届くダメージは殆ど無い。蹴りの飛んできた方向を確認しつつゆっくりと立ち上がる。 「いきなり何をする……」  眼前には中国風の服を着たおさげの少年が立っていた。 「何をだぁ? そりゃこっちの台詞だ!」 「どういう意味だ?」 「テメェが奴らの仲間だって事はわかってんだ! 加頭の野郎の所まで案内してもらうぜ!」 「僕があいつらの仲間?何を言っているんだ?」 「テメェが使ったそのベルトとメモリ、加頭の野郎が使った奴と同じだろうが! それでもまだしらばっくれるつもりか!?」 Section03 ナスカクォーター  その少年、早乙女乱馬は風都タワーを離れた後、市街地の散策を続けていた。 「あかねどころか人っ子一人いねぇ……おーい、あかねー、シャンプー、パンスト太郎ー、Pちゃーん、どこだー?」  そう声を張り上げるも反応は無い。 「しょうがねぇ……あそこの学校にでも行って……ん?」  そんな中、ふとある方向を見上げる。 「あれ……燃えてねぇか?」  G-8の森が炎上しているのを見た。 「まさか……いやでもあそこにいる理由なんてねぇしなぁ……」  可能性が低いもののあかね達がいないとは限らない。どうするべきか乱馬は迷う。  そんな中、遠目に1人の男性の姿を見たのは。ようやく会えた参加者とはいえ火災の状況、それ故にすぐさま接触する思考には至らない。  だが、その時その男性がある行動を起こしたのだ。 「な……あれは……」  腰に巻かれるベルト、手に持ったガイアメモリ、恐らくドーパントなる存在に変身しようとしていたのは容易に予想がつく。  だが、重要なのはそんな事では無い。  加頭はメモリを肉体に挿入すればと言っていたがベルトの事は何も言っていなかった。つまりドーパントに変身するにはベルトは必要無いという事になる。  しかし目の前の男は加頭が使ったのと同じベルトを使用している。それは加頭、つまりは主催者側の関係者の可能性があるという事だ。  勿論、ベルトを使っただけで断定できるわけもない。それでもこのふざけた催しに巻き込んだ事に対する怒り、そしてようやく掴んだ主催への手がかり、  故に迷うこと無くその男性の変身したナスカ・ドーパントに蹴りを入れたのだ。 「君の言うとおりこのベルトとメモリはあの男が使ったものと同じだ……」  ナスカ・ドーパントは乱馬の問いに正直に答えた。 「やっぱり奴らの仲間じゃねぇか!」 「確かにミュージアムにいたのは事実……だが今は違う! それよりもこんな事をやっている場合じゃ無い、急がなきゃ……」  ナスカ・ドーパントとしてはすぐさま森に向かいたかった。それ故に早々に話を切り上げようとしていた。 「そう言って逃げようったってそうはいかねぇよ、ミュージアムって言ったか、連中の事を知っているんなら意地でも聞き出してやるぜ!」  だが、乱馬としても連中の仲間を見つけたのだ。ぶん殴ってでも連中の事について聞き出したい所だ。  一方のナスカ・ドーパントは乱馬と間合いを取りつつ。 「残念だけど付き合っている時間も余裕も……無い」  そう言って間合いを取り何発もの光弾を乱馬めがけて飛ばしていく。  乱馬の口ぶりから主催打倒を考えていて殺し合いに乗っていないのは明らか、故に直撃させる意図は無く全て威嚇程度である。  そして足が止まっている間に更に距離を取り超加速で離脱――そういう目論見だったが、 「猛虎高飛車!!」  その言葉と共に気の塊を放ち飛んできた光弾を消し飛ばし、 「飛び道具を使えば勝てると思ったら大間違いだぜ!!」  そのまま一気にナスカ・ドーパントへと迫り顔面へと拳を繰り出す。 「なっ、速い!」  ナスカ・ドーパントは装備している剣を盾にその攻撃を防ぐ。 「(まずい……超加速を使えば離脱自体は可能だが……この様子だと森まで追いかけてくるのは明白……彼を危険に巻き込むわけにはいかない……)」  乱馬の立ち回りから、このまま離脱しては乱馬を危険にさらす事になると判断する。 「仕方ない、相手してあげよう。すぐに終わることになるだろうけどね」  迅速に無力化しその後で向かうのが得策、そう考えて乱馬の方へと向き直る。 「大した自信じゃねぇか」 「普通の人間の力でドーパントに勝てるとは思わない事だ」 「はっ、化け物相手の戦いなら十分慣れているぜ。相手がドーパントだろうが何だろうが俺は負けねぇよ」  その言葉と共に両者は再びぶつかり始める。  ナスカ・ドーパントが距離を取れば乱馬がすぐさま懐へと飛び込み蹴りを入れ、  その乱馬の背後にナスカ・ドーパントは高速で回り込み剣を振り下ろそうとするが乱馬は紙一重で後方に飛ぶ事で回避、  だが、ナスカ・ドーパントは乱馬へと迫り至近距離から光弾を仕掛ける。  しかし乱馬は再び猛虎高飛車を炸裂させて相殺し再び両者は間合いを取る。そして再び――  ガイアメモリ――地球の記憶を意味するそれは使用者に対しドーパントへと変身させる力を与えるのは既に触れたとおり。  その力の源は地球の記憶、つまりは地球上のあらゆる事象の事である。  事象というからには生物に限らず金や嘘、人形遣い、氷河期といった人工的な物や地球の歴史のある一時期など本当に様々な種類がある。  一説ではかつて仮面ライダーが戦った敵幹部すら記憶しており、それを封入したメモリが存在するとも言われている。  その特製故にガイアメモリの種類でそのメモリによって変身するドーパントの能力が概ね把握できるのはおわかりであろう。  例えば参加者の1人が使う井坂深紅郎、彼の使うウェザーのメモリはその名の通り気象に関するあらゆる能力を扱う事が出来る。雷や風、雪などと言った気象に関する全てだ。  例えばミュージアムの主賓である園咲琉兵衛、彼の使うテラーが意味するのは恐怖、対峙した者全てに恐怖を刻み込むという究極的に恐ろしい力を持っている。  もしかしたらテラーなだけに地球(テラ)そのものという意味もあるのかもしれない。そういう意味ではミュージアムの帝王にふさわしいメモリともいえよう。  そして冴子の妹にして琉兵衛の娘である園咲若菜、彼女の持つクレイドールのメモリ、つまりは土人形の記憶が封入されており、土塊で出来た人形らしく、砕かれても再生する力を持っている。  勿論、それ自体は厄介なものではあるがそこまで強大というものではない。だが、果たして本当にそうだろうか? 永い歴史において土人形、つまりは土で作られた人形に土偶という存在がある。  土偶は何の為に作られたのか? それを踏まえればクレイドールに隠された真の意味、つまりはそれを持つ若菜に与えられた役割も見えてくるのではなかろうか?  ――と、説明したものの、今回の話に直接関わるわけでもないのでここまでにしておこう。  さて、園咲霧彦が使うナスカのメモリ、これには何の記憶が封入されているのだろうか?  読者諸兄の中にナスカの地上絵という地球に描かれた超巨大な絵の存在を聞いたことがある者も多いであろう。  長年の研究によりかつて存在したナスカ文化の時代に描かれたものである事が概ね判明した。  それを踏まえ考えれば、そのナスカ文明の記憶が封入されていると考えて良いだろう。  飛行機や宇宙船等の無い故に完成した地上絵を確認がまず不可能であるにも関わらず、現代人から見ても見事としか言いようのない巨大な地上絵を描いた人々の文明――  その文明が封入されたナスカの力は並のドーパントを凌駕するものであるのは想像に難くない。  だが、ドーパントの戦闘力を決めるのはガイアメモリの力だけでは無い。  それを決めるのは使用者とメモリとの相性、そして使用者の資質に他ならない。  メモリを使うのは基本的に人間(動物に使うケースもあるにはあるが)、その人物の力量次第で大幅に力量は変わるという事だ。  そう、いかにナスカが強大な力を持っていても霧彦が入手してからの実戦経験は仮面ライダーとの戦い数回程度しかない。  メモリを得てから、つまりはドーパントの力を手に入れてから間もない霧彦には圧倒的に経験が足りない。  一方の乱馬は様々な強敵との激闘や修羅場をくぐり抜けている。時に敗北や困難に遭おうともそれを乗り越えさらなる力を手に入れていた。  つまり――スペック的には圧倒的にナスカ・ドーパントの方が上とはいえ、乱馬は十二分に対応できているのである。 「驚いたよ、まさか普通の人間がここまでドーパントに対抗できるとはね」 「へっ、ドーパントがどれだけのものかと思ったら大した事ねぇじゃねぇか!」  幾度かの激突が繰り返された。だが双方共に致命的なダメージは見られない。 「強気なのは良いが2つ程君は間違っている」 「間違いだぁ?」 「まず1つ……」  そう言ってナスカ・ドーパントはハチドリを模した翼を展開し飛翔、そのまま連続で光弾を放っていく、 「くっ、速い!?」  猛虎高飛車を撃つ余裕も無く後方へと跳び回避する乱馬であったがそこにナスカ・ドーパントの首に巻かれているマフラーが飛んできて腕に絡みついてくる。 「なっ……」  そしてナスカ・ドーパントが高速で迫り剣を振り下ろす―― 「だりゃぁ!!」  だが、斬撃が届く直前乱馬は足を振り上げナスカ・ドーパントに蹴りを命中させる。その衝撃でマフラーが外れ距離を取る事に成功した。 「……あれがナスカの全力じゃ無いという事」 「ちっ……手加減してやがったのか……」 「そしてもう1つ、ナスカよりも強いドーパントは幾らでもいる。運良くナスカに勝てた所であの男が変身したドーパントに勝てるとは思わない事だ」  ナスカはそう言いながらゆっくりと乱馬へと近づいていく。 「(どうする……あのナスカ野郎妙に速い……このままじゃジリ貧じゃねぇか……)」  先の攻撃も何とか回避したとはいえ流石に乱馬に焦りの表情が現れる。  攻撃の命中数は乱馬の方が上だが肉体の強化されているナスカ・ドーパントに届くダメージはさほど大きいとはいえない。  一方、ナスカ・ドーパントの攻撃を殆ど回避しているものの当たればダメージが大きい為油断は出来ない。  更にスピードの方はナスカ・ドーパントの方が上、それを踏まえれば長期戦に持ち込まれれば乱馬の方が圧倒的に不利なのは明白だ。 「(弱点……奴に弱点はねぇのか……待てよ)」  ナスカ・ドーパントの腹部に巻かれているドライバーを見る。確かそこにメモリを挿入した事でドーパントに変身した筈だ。  ドーパントの力の源はメモリ、ならばドライバーを攻撃してメモリそのものを破壊すれば良いのではなかろうか? 「(問題は一撃でメモリを破壊できる程の……アレしかねぇか)」  考えを纏めた乱馬はじっとナスカ・ドーパントへと向き直る。 「さぁ、そろそろ終わらせるよ。僕も急いでいるんでね」 「ああそうだな、全力で来いよ。次で終わらせてやる」  その言葉を切欠にナスカ・ドーパントが再び翼を展開し急速で乱馬へと迫る。  一方の乱馬はナスカ・ドーパントの方を向いたまま後方へと後ずさりしていく、  対しナスカ・ドーパントは光弾やマフラーを乱馬の方へと飛ばすが回避しつつ後方へと下がっていく。 「逃げてばかりだけど、次で終わらせるんじゃなかったのかな?」  そう言ってナスカ・ドーパントが挑発するが乱馬は構わず後方へと移動を続ける。  距離が詰まりナスカ・ドーパントの斬撃が迫るが乱馬は冷静に回避を続けていく。  一見すると、ナスカ・ドーパントの猛攻に乱馬は手も足も出ず回避するしかない状況に見える。  だが、乱馬の動きを見るとある軌道を描いているのがわかる。  そう、ナスカ・ドーパントは知らず知らずの内に乱馬の動きに誘導されていたのだ。  しかし戦闘経験が足りないが故にナスカ・ドーパントこと霧彦その事に気づかない。 「(よし、後数歩……だが、何だこの妙な違和感……)」  先ほどまで熱くなっていた頭は冷えている、それ故に今更ながらに違和感を覚えた。  だが、既にその時は迫っている。今はこのままナスカ・ドーパントを『中心』へと――  しかし、業を煮やしたナスカ・ドーパントが決めるべく乱馬へと急接近し剣を振り下ろす。  乱馬の回避も今回は完全には間に合わず服の前部分が斬られた。 「(しまっ……)」  このまま猛攻が迫れば失敗に終わる――だが、  その時、懐から『あるもの』が飛び出していく――そしてナスカの動きが一瞬だけ鈍る。  何故、ナスカの動きが鈍ったのかはこの際どうだって良い――  今ならば確実に決められる――乱馬は右腕を振り上げ―― 「飛竜昇天破!!」 *時系列順で読む Back:[[復讐の戦鬼]]Next:[[街(Pine Version)]] *投下順で読む Back:[[願い]]Next:[[街(Pine Version)]] |Back:[[生きる意味を求めて]]|早乙女乱馬|Next:[[街(Pine Version)]]| |Back:[[波紋呼ぶ赤の森]]|園咲霧彦|Next:[[街(Pine Version)]]| |Back:[[波紋呼ぶ赤の森]]|山吹祈里|Next:[[街(Pine Version)]]| |Back:[[波紋呼ぶ赤の森]]|高町ヴィヴィオ|Next:[[街(Pine Version)]]| ----
*街(Nasca Version) ◆7pf62HiyTE Section 04 山吹少女の事件簿 「ヴィヴィオちゃん……」  保健室のベッドで今も眠り続けるヴィヴィオを看る祈里の表情はとても辛い。  彼女を連れてきた霧彦の話によれば、白の怪人の攻撃によって霧彦共々負傷したらしい。  ヴィヴィオの受けたダメージは上半身の火傷と左腕の骨折、もっとも手当てした限り火傷のダメージの方は外見ほどひどいものではなく、左腕の方も骨折はしている様だが骨にヒビが入った程度である。  それでも女の子の体に刻まれた火傷の痕が痛々しく、ヒビ程度とはいえ左腕が骨折している事に違いはない。  クリスの方もそのヴィヴィオを心配そうに見つめている。  甘かった――そうとしか言いようがない。  この場で殺し合いに乗る危険人物などラビリンスの幹部であるノーザ等一部程度で他のみんなは絶対に殺し合いに乗らないと思っていた。  だが現実はどうだろうか?  2人が遭遇した白の怪人が彼女達を襲いここまでの傷を負わせていた。幸い命に別状はないがそれは運が良かったからに過ぎない。  更に言えば2人が元いた森が先ほどから炎上しており、霧彦がつい先ほど再び向かっていった。  霧彦はあえて祈里に言わなかったが恐らく白の怪人によるものと考えて良いだろう。  炎は数キロ離れたここからでも視認できる規模、そこから察するにその規模が大きいものなのは想像に難くない。  戦いによるものだとしたら犠牲者が出ている可能性だって否定できない。  他にもヴィヴィオが使用したガイアメモリ、霧彦によるとドーパントへの変身という強大な力を与える反面精神に強い影響を与えるという話らしい。  聞いた程度の話なので具体的にどうなるかは祈里には想像もつかないがナキワメーケやソレワターセの様なものになると考えて良いだろう。  そうなったら殺し合いを望まない普通の人達も他の人々を襲う事ぐらいは容易に予想が出来る。  更に祈里自身が最初に遭遇した黒服の少女、銃を突きつけられ一方的に自身の持つ情報を引き出させられ、食料と水、そして銃が奪われてしまっている。  幸い命に別状はなかったが今にして思えばこれも末恐ろしい話である。  あのまま用済みと判断され殺されていた可能性だってある。  変身していたから大丈夫という問題ではない、それこそ変身の隙を与えず撃たれていた可能性もあっただろう。  そもそも気がつけば銃を突きつけられていた事を考えれば、気づくことなく射殺されていたかもしれない。  それぐらい綱渡りな状況にいたのだと今更ながらに認識したのだ。  そんな中、窓から森の方を見つめる。果たして霧彦は無事に戻ってきてくれるのだろうか?  そして考える。もし、同じプリキュアの仲間である桃園ラブ達が燃え上がる森を見たらどうするのだろうか?  答えなどわかりきっている。迷うことなく炎に包まれた森で動けずにいる人々を助けに向かう筈だ。  霧彦に頼まれた為断念はしたが最初は祈里自身が森に向かう筈だったのだ、桃園ラブ達が燃え盛る森を放置する事などまずあり得ない。  そう考えればなおの事、霧彦の静止を振り切り自身が向かうべきだったのではないか?  傷ついた霧彦が向かうよりもプリキュアである自身の方がまだ良かったのではないか?  そう考えずにはいられない。  だが、傷ついたヴィヴィオをこのまま放置するわけにもいかない、そう考えればこの選択もやむを得ないものではある。  それでも、霧彦の身を案じると歯がゆく感じる。  今現在机に置かれている『あるもの』を見ると不思議と強く感じるのだ。  そんな時だった、僅かに窓が震えたのは―― 「え……?」  落ち着いて外を見る。するとどうだろう、夜の闇に加え離れた場所故にわかりにくいが何かが舞い上がっているのが見えた。 「竜巻……?」  そう、規模こそ小さいが竜巻が見えたのだ。  だが、竜巻などそうそう自然に発生するものではない。ならば―― 「霧彦さん……!!」  竜巻が見えた方向は丁度霧彦が向かった方向だ、それが意味するのは一つ―― 「誰かが霧彦さんを襲って――」  その推測に至ったとき、やはり自分が行くべきだったと後悔した。  いや、正直な所今すぐにでも様子を確かめに向かいたい。だが、ヴィヴィオ達を残して向かうわけにはいかない。  それにまだ霧彦が襲われたと決まったわけじゃない、今は霧彦を信じて待つべきだろう。  それからしばし静寂が訪れる――ほんの数分程度だったのだろうが祈里には数時間にも数十分にも感じられた。  そして再び窓から外を見ると中国風の服を着たおさげの少年が祈里達のいる中学校に向かっているのが見えた。  いつもの祈里ならばその少年が危険人物だとは考えたりはしない。  だが、有無を言わさず銃を突きつけてきた少女、ヴィヴィオ達を襲い森を燃やしたであろう白の怪人の存在があり楽観的に考える事は出来なかった。  いや、それでもいつもならば危険人物だとはまず判断しない。  そう、その少年が『あるもの』を持っていなければ――霧彦を襲ったであろう物的証拠を持っていたのだ。  故にその少年は今度は中学校に乗り込み中にいる自分とヴィヴィオを――そう判断するには十分だ。  そして今、危険人物からヴィヴィオを守れるのはただ1人、他の誰でもなく祈里だけである。 「クリス……ヴィヴィオの事お願い……」 「(こくこく)」  次々と巻き起こる状況に焦っていなかったと言えば嘘になる。  だが、傷つき眠り続けるヴィヴィオを守る為にも向かってくる危険人物は止めなければならない。  故に迷うことなくリンクルンにクローバーキーを差し込み回す事でそれを開き、中にあるボタンに触れ―― 「チェインジ・プリキュア! ビート・アーップ!」  自らをキュアパインへと変身させる言葉を唱えた―― Section 01 うつろうもの  ここでG-7の森が炎上するまでの経緯を今一度振り返り整理してみよう。  この火災はその場所で暁美ほむらとン・ダグバ・ゼバが交戦した際、ダグバの有する発火能力を切欠にして起こったものである。  その規模は非常に大きく、数キロ離れた場所であるG-8の中学校からも視認する事が出来る。  なお、視認こそ出来るがエリアを超越する程広がることがない事をここで付記しておく。これはG-7にある三途の池近辺に火の手が上がっていない事からも明らかである。  さて、火災が起こった時刻は大体いつ頃か、その時刻は大体午前2時前後、その後戦闘を終えH-7まで移動したダグバが時計を確認したのが2時半過ぎだった事からも明らかと考えて良い。  一方、そのダグバと交戦したほむらだが、彼女が交戦場所である森に移動する前、約1時間程延々と市街地を走り回っていた。  その理由は――超光戦士シャンゼリオンこと涼村暁と延々と追いかけっこを続けていたからである。理由については割愛させてもらう。  ともかく森への移動時間を踏まえると追いかけっこを始めた時刻は大体0時半前後、そう考えて間違いはないだろう。  それを踏まえると、ほむらが中学校で山吹祈里から情報を一方的に搾取し拳銃等を奪取した時刻は開始早々、大体0時10分から20分ぐらいという事になる。  一方のダグバは開始早々、高町ヴィヴィオと園咲霧彦を襲撃、その時刻もまた開始早々大体0時10分から20分、遅くても30分ぐらいと考えて良いだろう。  その後襲撃された両名は離脱し中学校で祈里と遭遇し情報交換と手当てを行った。中学校到着は大体1時から1時半ぐらいである。  そして霧彦達が森の火災を確認したのは2時10分から20分ぐらいのタイミングである。  さて、ダグバとほむらの戦いはほむらの完全敗北したものの幸い暁が何とか駆けつけほむらの機転もあり離脱に成功。だが、先程触れた三途の池にて志葉丈瑠と遭遇し交戦を開始、具体的な時刻はダグバが時間を確認した2時半頃と大体同じ頃と考えて良いだろう。  では、ここからが本題だ。  ほむらと暁が市街地で追いかけっこしていた約1時間、両名は他の参加者と接触する事はなかった。  そのタイミングで森から中学校まで移動していた霧彦達と遭遇する可能性はあったものの、幸か不幸か彼らと遭遇する事はなかった。  とはいえ1つのエリアが数キロ四方である以上、そうそう都合良く遭遇するとは限らないのも仕方ない事である。  つまり――市街地でほむら及び暁の姿を確認した参加者は他に誰もいない――  否、少なくとも1人はいる。その人物は開始早々のタイミング、大体0時10分から20分頃H-7にて丈瑠と遭遇しある事を頼まれ、知り合いとの遭遇を目指して市街地に向かった、その人物は―― 「ったくここにくりゃ誰かいると思ったのに誰もいねぇ……」  そう口にしたのは中国風の服を着たおさげの少年、早乙女乱馬である。  丈瑠と別れた後、知り合いを探すため市街地に向かい、一番目立つ建造物である風都タワー、その展望室までやって来たのだ。  が、結論から言えばその道中そして風都タワーに至るまで誰とも遭遇する事はなかった。  そんな乱馬の手にはあるものが握られていた。 「花火大会でコイツと写真を撮ったカップルは必ず結ばれる……本当かよ!?」  真面目な話、乱馬は微妙に苛立っていた。 「……そりゃ別にあの野郎が俺達に渡した物なんて最初からアテになんかしてなかったけどよ……こんなもんどうしろっていうんだ!?」  それは風車を模した風都を代表するマスコットキャラ――ふうとくん、そのキーホルダーである。  説明書きにご丁寧に花火大会での伝説についても書かれていたのである。  本来ならば限定50個の激レア品であり欲しい物は是が非でも欲しがるであろうが、この殺し合いにおいては完全なハズレアイテムと言って良い。  勿論、ガイアメモリなる胡散臭いもの渡された方が良い――とは口が裂けても言わないが、それにしたってもう少し他になかったのかと思わなくはない。 「くそぉ……絶対に一発ぶち込んでやる……とは言ってもあの野郎が高見の見物決め込んでる限りはどうにもならねぇしなぁ……  奴の手下か仲間を見つけて力尽くで聞き出す……って、その手下がいなけりゃどうにもならねぇよなぁ……」  加頭に対する怒りを湧き上がらせつつ懐にキーホルダーをしまう。そして今度はデイパックから名簿を取り出し改めて確認する。  一応最初に確認はしているものの気になる事があった為の再確認である。 「あかねに良牙、それにシャンプー……後はパンスト太郎だけか……」  乱馬の知り合いは4人、  現在早乙女家が居候している天道家の三女で乱馬の許嫁の天道あかね、  前の学校での同級生で今も好敵手でありあかねに好意を持っている響良牙、  女傑族の少女で乱馬が打ち破ったことで掟により命を狙われたり求婚されたりもしたがなんだかんだで今現在も乱馬を求愛しているシャンプー、  腰にパンスト、つまりはパンティストッキングを巻きある目的を持って乱馬とあかねの父である早乙女玄馬と天道早雲の師匠八宝斎を付け狙っているパンスト太郎、  さて、乱馬は知り合いとの合流を目指し最終的な目的地をC-7にある呪泉郷を目的地に定めていた。  5人が共通で把握している場所ならば合流できるという判断だ。  だが、それは彼らが殺し合いに乗らないという前提がなければ成り立たない。優勝狙う者がわざわざ知り合いとの合流を目指す筈もないだろう。 「あかねと良牙が乗る事はねぇと思うが……」  とはいえ、あかねと良牙の2人が殺し合いに乗る事はまずないと考えている。  あかねに関してはかわいくない所や不器用な所はあるものの殺し合いに乗る様な奴じゃない事は乱馬自身がよく知っている。不安要素がないではないがまず大丈夫だろう。  良牙に関しては全く心配していない。あかねを生還させる為殺し合いに乗る? そんな事はまずありえない。  貧力虚脱灸で弱体化した時、ここぞとばかりに九能帯刀や五寸釘光、ムースや風林館高校校長(九能の父)が襲ってきた一方、良牙だけは襲わずむしろ強さを取り戻すのに協力してくれたのだ。  それ以前に特訓の為良牙が本気で戦う必要があったが、弱体化した乱馬に対し全く本気を出せず―― 『どうやらおれは…自分で思っていたより…ずっとセンチでいいやつだったらしい…  弱くなった乱馬に本気を出すなど、優しいおれにはできんのだーっ!!  甘い男と笑わば笑え!!』 「……なんかすげーやな事思い出した気がする」  ともかく、その優しい(?)良牙が自分よりも弱い参加者を皆殺しにする姿が全く想像つかないのだ。 「う゛ーん……問題は……」  後の2人が正直問題だ。  シャンプーは乱馬自身を生き残らせる為なら何をやってもおかしくはない。そもそもこの機に乗じてあかねを亡き者にしようとする可能性すら十分にあり得る。  それ以前にあの場には自分達より少し幼い中学生ぐらいの少女が数多くいた。  シャンプーがその少女に仕掛ける、シャンプーが敗北しその相手に死の接吻を行う、そしてその命を奪うべく追いかけ回す、乱馬やあかねが苦しめられた一連の流れが繰り出される可能性は多分にある。  それ故、殺し合いに乗るあるいは危険人物になっている可能性が非常に高いといえよう。 「ていうかよ、俺が生き残ったってアイツ自身は生き残れねぇんだから意味ねぇんじゃねぇか……」  そんな疑問を感じる乱馬である。  最後の1人であるパンスト太郎に関してはそもそもそこまで仲が良いわけじゃない。  むしろ、パンスト太郎は目的の為ならば何をしでかしてもおかしくはない。 「優勝したらなんだって出来るって言ってもさすがに掟は変えられねぇだろうが……」  パンスト太郎が八宝斎をつけ狙う理由、それは自身の名前をパンスト太郎が望む名前(かっこいい太郎)に変えさせる為である。  村の掟により産湯に漬けた者である八宝斎以外が命名、あるいは変更する事は不可能。  加頭がどんな願いでも叶えるといっても掟は絶対だろう。  だが、掟の方は無理でも八宝斎に名前を変えさせるのに全面協力させる事は出来るだろう。そうさせる為の手段の幾つかは乱馬も把握している。  乱馬達ともそこまで仲も良くない以上、自分達の事などお構いなしに嬉々として殺し合いに乗る可能性は高い。 「それにしても……あかね以外はみんな呪泉郷に落ちた連中なんだよな……」  そう、あかね以外の4人は全員呪泉郷に落ち、水をかぶると変身し、お湯をかけると元に戻る特異体質となった。  良牙の場合は水をかぶると黒い子豚となり、シャンプーの場合は子猫となる。そしてパンスト太郎の場合は牛の頭に雪男の体、鶴の翼に鰻の尻尾の怪物となる。  当然、乱馬も3人同様に水をかぶると変身する体質である。 「この島に呪泉郷がある事といい……そういう連中ばかりを集めているのか……けどそれならあかねがいる筈ねぇし、むしろ親父やムースの野郎の方がいなきゃおかしいよなぁ……」  余談だが玄馬はパンダとなり、シャンプーに好意を持っているムースはアヒルになる。勿論、乱馬の知る呪泉郷関係者は他にもいるが彼らの名前は確認できない。  そんな中、 「そういや、あの剣客の兄ちゃんから頼まれていたんだっけな」  と、デイパックからこの地で最初に出会った丈瑠に託されたショドウフォンとメモ書きを出す。 「確か誰に渡すんだったかな……流之介と源太……ああ、こいつらだな」  そう言いながらメモを開き渡す相手を名簿を見ながら確認する。 「しかしアイツ何を考えているんだ……?」  気になったのはメモの中身だ。簡単にまとめればその意味合いは2つ、『ショドウフォンを持つ資格がないので2人に預ける』、そして『次に出会った時は敵だ』というものだ。  詳しい事情は聞かなかった為知り得ないわけだが穏やかじゃない事は確かだ。  何より、わざわざ偶然で会った何も知らない自分に頼んだ事自体奇妙な話だ、それこそ丈瑠自身で渡せば済む事の筈だ。 「ま、2人に会った時に聞いてみればいいか」  とはいえ、それこそ運良く2人に会った時に聞いてみれば良い。優先順位としてはさして高くはないが丈瑠と約束した手前やらないわけにはいかない。 「さて、どうすっか……」  ひとまず今後どうするかを考える。呪泉郷に向かう前に市街地を一回りするつもりではあったが、市街地は思ったよりも広い。  あかね達がいる可能性も高い為、捜索すべきなのはいうまでもないがこの広さだと全て回るだけでも数時間はかかる。  だからこそ風都タワーの展望室から周囲を見回したがその全てを把握しきれるものではない。 「う゛ーん……ん?」  そんな中、展望室の窓をのぞいてみると1人の黒服の少女が歩いているのが見えた。  急いで降りれば十分に追いつく距離、何か聞けるかもしれないと考えたが、 「!?」  次の瞬間にはその少女が消えていた。 「見間違いか……? いや、んなわけねぇよな……」  そう考えていると今度は白くキラキラした甲冑を身に纏った者が周囲を見回しながら何かを探しているのが見えた。 「………………」  そんな乱馬の脳裏に浮かんだのは五寸釘が奇跡の鎧ファイト一発を着た時の事だ。  その鎧は憎くて憎くて憎くて強いやつ(乱馬)を殴らなければ脱げない(しかも乱馬を拘束した状態でないとまともに動けない)厄介なものだった。  だが、そのパワーと堅さは非常に強く、乱馬自身手を焼かされた。  何より、時間制限で自爆に巻き込まれ(そのお陰で結果的には勝利したが)た事もあり良い思い出がない。  そんな嫌な事をあの白くキラキラした甲冑を見て思い出したのだ。そして思う、アレに関わったらロクな事にならないと―― 「さーて、あかねや良牙でも探しにいくかー」  故に乱馬は見なかったことにした。かくして水をかぶる事で変身するうつろうものは風都タワーの展望室を後にした。この時、展望台の時計は午前1時20分を刺していた。 Section 02 Castle・imitation 「はぁ……はぁ……」  風都タワーのあるこの場所は風都――否、  適当な市街地に風都タワーを持ってきただけの全然違う場所だ。  なによりも風が全く違うのだ、今霧彦自身に吹き付ける風は心地よさを全く感じない嫌な風だ――  そう、この場所は都合良く作られたイミテーションに過ぎないのだ。 「(ああ……本当に悪趣味だよ、お父様……いや、園咲琉兵衛!)」  参加者の多くに未成年がいた事実、そして参加者に支給されたドーパントに変化させる力を持つガイアメモリの存在、加頭の使用したガイアメモリとドライバーの存在、  それらから霧彦はこの殺し合いの黒幕はミュージアム、及びその主賓である園咲琉兵衛だと考え、同時にこの殺し合いはミュージアムによる実験の1つであろうと推測していた。 「(そしてあの時死ぬはずだった僕がこうして生きて参加させられている理由……それは最後のチャンスだということか、あるいは裏切り者に対する制裁なのか……)」  死を待つだけだった筈の自身がこうしてこの場で存命している謎、それは琉兵衛による最後の温情、あるいは制裁の可能性を考えた。 「(今一度生きるチャンスを与えてくれた事だけは感謝するよ……それでも僕の答えは変わらない、何も知らない子供達にガイアメモリを与え殺し合いを強要するお前達を僕は許さない……)」  それでも霧彦がすべき事に変わりはない。  ミュージアムは人間の進化を促そうとガイアメモリによる実験を繰り返している。  霧彦自身、風都の未来の為、人類の進化は望むところ、故にミュージアムの幹部としてガイアメモリを街にばらまいていた。  ガイアメモリの危険性は承知している、だがそれを使うのは薄汚れた大人達、彼らの犠牲で風都にとって明るい未来が訪れるのであれば小さなものだ。  しかし子供達や何も知らない人々がその対象になる事は決して許されない。  そもそも風都の未来はそこに住む子供達や人々のものの筈だ、それなのにその子供達や人々が犠牲になるのは本末転倒ではなかろうか。  無論、参加者の多くは風都関係者ではない。だがそんな事は関係ない、どこの住民であろうとも何事もなく幸せに暮らせた筈の人々の未来を奪って良い理屈にはなり得ない。 『言ったよな、お前も……この街を愛してるって……もしそれが本当なら子供達にもうあんな涙は流させるな……』  思い出すのは仮面ライダー君こと左翔太郎の言葉、 「愛しているさ……その想いの強さだけなら仮面ライダー君にだって負けていない!」  そんな中、もし琉兵衛の長女で霧彦の妻であった園咲冴子と遭遇したらどうすべきか考える。  霧彦にとって運命の女性である冴子、そうそう簡単に諦めるわけにはいかないので可能な限りは説得するつもりだ。  だが、この地に来る直前にも共にミュージアムを抜ける様説得したが断られそのまま返り討ちにあった。  恐らく、この地で説得しても聞き届けられる事はないだろう。良くてこの場での対立を避ける事が出来る程度だ。  とはいえ、それを残念には思うものの冴子を恨むつもりは全くない。  冴子自身、強い目的があって自身の説得を拒んだ事は理解できる、そもそもその強い意志があるからこそ霧彦は彼女に惹かれたのだ。  裏切ったのはむしろ自分自身、それ故に拒絶した事を悪く言うつもりはない。  そもそも、あの時点で薄々その結果はある程度予想できていたのだ。だからこそ仮面ライダー君に風都の未来を託したのだ。 「(……待てよ……もしミュージアムが黒幕ならばどうして冴子が参加させられているんだ?)」  琉兵衛は誰よりも家族を愛しているのを霧彦は知っている。  最終的に袂を分かつ事にはなったが、琉兵衛自身は家族を失う事を心底残念がっていた。  その琉兵衛が目的の為とはいえ冴子を命の危険が大きい殺し合いの参加者にするだろうか?  むしろ、この殺し合いの運営側に回す方が自然ではなかろうか? 「(考えられる可能性は2つ……1つは冴子自身もミュージアムを裏切った可能性……)」  1つは冴子がミュージアムを裏切った事による制裁の可能性だ。  何故自身の説得を拒みミュージアムを裏切らなかった冴子がミュージアムを裏切ったのかという根本的な疑問は感じるが、仮にそうだとするならば説得が届いたかもしれない故、嬉しく思わなくはない。  だが、同時に責任を感じる。自身の説得が冴子を危険に巻き込んだ可能性があるのだから。 「(もう1つ……そもそもの前提が間違っていたとしたら……?)」  もう1つ、それはミュージアムが黒幕ではない場合だ。これならば冴子を参加させようがさせまいが全く関係がない。  ガイアメモリやドーパントとは全く異質の存在が幾つか存在する事からも可能性が無いとはいえない。 「(仮にそうだとするならば連中はミュージアムを取り込む程の力を持つ連中という事になる……)」  園咲家しか持ち得ないゴールドメモリ及びドライバーを所持していたのはミュージアムから手に入れたと考えれば筋が通る。 「(だが、そんな連中が本当にいるのか……いや、ミュージアムが今程の組織になったのだって様々なスポンサーの協力があったからだ、絶対に無いとは言い切れない……)」  とはいえ長々と考えても仕方が無い。優先すべき事は一刻も早く森の火災現場に駆けつけ様子を確かめる事だ。細かい事はまた後から考えれば良い。  時計を確認する。今現在2時30分ぐらいといった所だ。 「まだ森は遠い……か」  そう言いつつ霧彦はガイアドライバーを巻き、懐からガイアメモリを取り出し作動させる。 ――Nasca――  自身の持つナスカのメモリでナスカ・ドーパントへと変身し一気に森まで移動しようかと考えた。  だが、メモリを持つ手が震えている。  ナスカはゴールドメモリの1つ、その力は絶大故に使用者にかかる負担は非常に大きい。  そして度重なるメモリの使用により霧彦の体は限界を迎えようとしていたのだ。  それがいつかはわからない、それでも使えば死に近づく事だけは確実だ。 「迷っているのか……馬鹿馬鹿しい……」  だが、今更霧彦が命を惜しむわけにはいかない。  霧彦自身、ガイアメモリの力で薄汚れた大人達が犠牲になる事は納得出来ると考えているのだ。  ガイアメモリを流通させ子供達を苦しめた自身は既にドス黒く汚れた大人、他の参加者を助けられるならば幾らでも犠牲になろう。  そんな中、ささやかな風が霧彦の首に巻いている何かを揺らめかせた。 「(あぁ、そうか……)」  脳裏に浮かぶのは1人の女性――冴子とは違う別の――  無論、何かがあった時は仮面ライダー君の拠点である鳴海探偵事務所に行くに伝えてはいる。  だから仮に自分が戻ってこなくても大丈夫だと考えていた。  それでも――もし自分が残したものを調べたら自分に何が起こったかを察する可能性がある。  そうなればどうするのだろうか? メッセージ通り仮面ライダー君を頼るならばまだ良い。だが単身で無茶をする可能性は否定できない。  そう、たった1人遺される『彼女』の事が心配なのだ、霧彦にとって唯一の―― 「(本当にすまない……けれど……僕が死んでも決してそれに囚われないでくれ……僕なんかと違い未来が待っているんだから……)」  届くはずの無い伝言を内心で口にし、 ――Nasca――  意を決しメモリを作動しドライバーへと挿入、程なく霧彦の身体は青い戦士の姿ナスカ・ドーパントへと姿を変えた。 「超加ぞう゛ぁ!」  すぐさま超加速を発動し一気に移動しようとしたが、ナスカ・ドーパントの言葉はそこで止まる。  そう、その瞬間、頭部に跳び蹴りが炸裂したのだ。そのままナスカ・ドーパントは地へと伏せられる。  だが、ドーパントと化した身体に届くダメージは殆ど無い。蹴りの飛んできた方向を確認しつつゆっくりと立ち上がる。 「いきなり何をする……」  眼前には中国風の服を着たおさげの少年が立っていた。 「何をだぁ? そりゃこっちの台詞だ!」 「どういう意味だ?」 「テメェが奴らの仲間だって事はわかってんだ! 加頭の野郎の所まで案内してもらうぜ!」 「僕があいつらの仲間?何を言っているんだ?」 「テメェが使ったそのベルトとメモリ、加頭の野郎が使った奴と同じだろうが! それでもまだしらばっくれるつもりか!?」 Section03 ナスカクォーター  その少年、早乙女乱馬は風都タワーを離れた後、市街地の散策を続けていた。 「あかねどころか人っ子一人いねぇ……おーい、あかねー、シャンプー、パンスト太郎ー、Pちゃーん、どこだー?」  そう声を張り上げるも反応は無い。 「しょうがねぇ……あそこの学校にでも行って……ん?」  そんな中、ふとある方向を見上げる。 「あれ……燃えてねぇか?」  G-8の森が炎上しているのを見た。 「まさか……いやでもあそこにいる理由なんてねぇしなぁ……」  可能性が低いもののあかね達がいないとは限らない。どうするべきか乱馬は迷う。  そんな中、遠目に1人の男性の姿を見たのは。ようやく会えた参加者とはいえ火災の状況、それ故にすぐさま接触する思考には至らない。  だが、その時その男性がある行動を起こしたのだ。 「な……あれは……」  腰に巻かれるベルト、手に持ったガイアメモリ、恐らくドーパントなる存在に変身しようとしていたのは容易に予想がつく。  だが、重要なのはそんな事では無い。  加頭はメモリを肉体に挿入すればと言っていたがベルトの事は何も言っていなかった。つまりドーパントに変身するにはベルトは必要無いという事になる。  しかし目の前の男は加頭が使ったのと同じベルトを使用している。それは加頭、つまりは主催者側の関係者の可能性があるという事だ。  勿論、ベルトを使っただけで断定できるわけもない。それでもこのふざけた催しに巻き込んだ事に対する怒り、そしてようやく掴んだ主催への手がかり、  故に迷うこと無くその男性の変身したナスカ・ドーパントに蹴りを入れたのだ。 「君の言うとおりこのベルトとメモリはあの男が使ったものと同じだ……」  ナスカ・ドーパントは乱馬の問いに正直に答えた。 「やっぱり奴らの仲間じゃねぇか!」 「確かにミュージアムにいたのは事実……だが今は違う! それよりもこんな事をやっている場合じゃ無い、急がなきゃ……」  ナスカ・ドーパントとしてはすぐさま森に向かいたかった。それ故に早々に話を切り上げようとしていた。 「そう言って逃げようったってそうはいかねぇよ、ミュージアムって言ったか、連中の事を知っているんなら意地でも聞き出してやるぜ!」  だが、乱馬としても連中の仲間を見つけたのだ。ぶん殴ってでも連中の事について聞き出したい所だ。  一方のナスカ・ドーパントは乱馬と間合いを取りつつ。 「残念だけど付き合っている時間も余裕も……無い」  そう言って間合いを取り何発もの光弾を乱馬めがけて飛ばしていく。  乱馬の口ぶりから主催打倒を考えていて殺し合いに乗っていないのは明らか、故に直撃させる意図は無く全て威嚇程度である。  そして足が止まっている間に更に距離を取り超加速で離脱――そういう目論見だったが、 「猛虎高飛車!!」  その言葉と共に気の塊を放ち飛んできた光弾を消し飛ばし、 「飛び道具を使えば勝てると思ったら大間違いだぜ!!」  そのまま一気にナスカ・ドーパントへと迫り顔面へと拳を繰り出す。 「なっ、速い!」  ナスカ・ドーパントは装備している剣を盾にその攻撃を防ぐ。 「(まずい……超加速を使えば離脱自体は可能だが……この様子だと森まで追いかけてくるのは明白……彼を危険に巻き込むわけにはいかない……)」  乱馬の立ち回りから、このまま離脱しては乱馬を危険にさらす事になると判断する。 「仕方ない、相手してあげよう。すぐに終わることになるだろうけどね」  迅速に無力化しその後で向かうのが得策、そう考えて乱馬の方へと向き直る。 「大した自信じゃねぇか」 「普通の人間の力でドーパントに勝てるとは思わない事だ」 「はっ、化け物相手の戦いなら十分慣れているぜ。相手がドーパントだろうが何だろうが俺は負けねぇよ」  その言葉と共に両者は再びぶつかり始める。  ナスカ・ドーパントが距離を取れば乱馬がすぐさま懐へと飛び込み蹴りを入れ、  その乱馬の背後にナスカ・ドーパントは高速で回り込み剣を振り下ろそうとするが乱馬は紙一重で後方に飛ぶ事で回避、  だが、ナスカ・ドーパントは乱馬へと迫り至近距離から光弾を仕掛ける。  しかし乱馬は再び猛虎高飛車を炸裂させて相殺し再び両者は間合いを取る。そして再び――  ガイアメモリ――地球の記憶を意味するそれは使用者に対しドーパントへと変身させる力を与えるのは既に触れたとおり。  その力の源は地球の記憶、つまりは地球上のあらゆる事象の事である。  事象というからには生物に限らず金や嘘、人形遣い、氷河期といった人工的な物や地球の歴史のある一時期など本当に様々な種類がある。  一説ではかつて仮面ライダーが戦った敵幹部すら記憶しており、それを封入したメモリが存在するとも言われている。  その特製故にガイアメモリの種類でそのメモリによって変身するドーパントの能力が概ね把握できるのはおわかりであろう。  例えば参加者の1人が使う井坂深紅郎、彼の使うウェザーのメモリはその名の通り気象に関するあらゆる能力を扱う事が出来る。雷や風、雪などと言った気象に関する全てだ。  例えばミュージアムの主賓である園咲琉兵衛、彼の使うテラーが意味するのは恐怖、対峙した者全てに恐怖を刻み込むという究極的に恐ろしい力を持っている。  もしかしたらテラーなだけに地球(テラ)そのものという意味もあるのかもしれない。そういう意味ではミュージアムの帝王にふさわしいメモリともいえよう。  そして冴子の妹にして琉兵衛の娘である園咲若菜、彼女の持つクレイドールのメモリ、つまりは土人形の記憶が封入されており、土塊で出来た人形らしく、砕かれても再生する力を持っている。  勿論、それ自体は厄介なものではあるがそこまで強大というものではない。だが、果たして本当にそうだろうか? 永い歴史において土人形、つまりは土で作られた人形に土偶という存在がある。  土偶は何の為に作られたのか? それを踏まえればクレイドールに隠された真の意味、つまりはそれを持つ若菜に与えられた役割も見えてくるのではなかろうか?  ――と、説明したものの、今回の話に直接関わるわけでもないのでここまでにしておこう。  さて、園咲霧彦が使うナスカのメモリ、これには何の記憶が封入されているのだろうか?  読者諸兄の中にナスカの地上絵という地球に描かれた超巨大な絵の存在を聞いたことがある者も多いであろう。  長年の研究によりかつて存在したナスカ文化の時代に描かれたものである事が概ね判明した。  それを踏まえ考えれば、そのナスカ文明の記憶が封入されていると考えて良いだろう。  飛行機や宇宙船等の無い故に完成した地上絵を確認がまず不可能であるにも関わらず、現代人から見ても見事としか言いようのない巨大な地上絵を描いた人々の文明――  その文明が封入されたナスカの力は並のドーパントを凌駕するものであるのは想像に難くない。  だが、ドーパントの戦闘力を決めるのはガイアメモリの力だけでは無い。  それを決めるのは使用者とメモリとの相性、そして使用者の資質に他ならない。  メモリを使うのは基本的に人間(動物に使うケースもあるにはあるが)、その人物の力量次第で大幅に力量は変わるという事だ。  そう、いかにナスカが強大な力を持っていても霧彦が入手してからの実戦経験は仮面ライダーとの戦い数回程度しかない。  メモリを得てから、つまりはドーパントの力を手に入れてから間もない霧彦には圧倒的に経験が足りない。  一方の乱馬は様々な強敵との激闘や修羅場をくぐり抜けている。時に敗北や困難に遭おうともそれを乗り越えさらなる力を手に入れていた。  つまり――スペック的には圧倒的にナスカ・ドーパントの方が上とはいえ、乱馬は十二分に対応できているのである。 「驚いたよ、まさか普通の人間がここまでドーパントに対抗できるとはね」 「へっ、ドーパントがどれだけのものかと思ったら大した事ねぇじゃねぇか!」  幾度かの激突が繰り返された。だが双方共に致命的なダメージは見られない。 「強気なのは良いが2つ程君は間違っている」 「間違いだぁ?」 「まず1つ……」  そう言ってナスカ・ドーパントはハチドリを模した翼を展開し飛翔、そのまま連続で光弾を放っていく、 「くっ、速い!?」  猛虎高飛車を撃つ余裕も無く後方へと跳び回避する乱馬であったがそこにナスカ・ドーパントの首に巻かれているマフラーが飛んできて腕に絡みついてくる。 「なっ……」  そしてナスカ・ドーパントが高速で迫り剣を振り下ろす―― 「だりゃぁ!!」  だが、斬撃が届く直前乱馬は足を振り上げナスカ・ドーパントに蹴りを命中させる。その衝撃でマフラーが外れ距離を取る事に成功した。 「……あれがナスカの全力じゃ無いという事」 「ちっ……手加減してやがったのか……」 「そしてもう1つ、ナスカよりも強いドーパントは幾らでもいる。運良くナスカに勝てた所であの男が変身したドーパントに勝てるとは思わない事だ」  ナスカはそう言いながらゆっくりと乱馬へと近づいていく。 「(どうする……あのナスカ野郎妙に速い……このままじゃジリ貧じゃねぇか……)」  先の攻撃も何とか回避したとはいえ流石に乱馬に焦りの表情が現れる。  攻撃の命中数は乱馬の方が上だが肉体の強化されているナスカ・ドーパントに届くダメージはさほど大きいとはいえない。  一方、ナスカ・ドーパントの攻撃を殆ど回避しているものの当たればダメージが大きい為油断は出来ない。  更にスピードの方はナスカ・ドーパントの方が上、それを踏まえれば長期戦に持ち込まれれば乱馬の方が圧倒的に不利なのは明白だ。 「(弱点……奴に弱点はねぇのか……待てよ)」  ナスカ・ドーパントの腹部に巻かれているドライバーを見る。確かそこにメモリを挿入した事でドーパントに変身した筈だ。  ドーパントの力の源はメモリ、ならばドライバーを攻撃してメモリそのものを破壊すれば良いのではなかろうか? 「(問題は一撃でメモリを破壊できる程の……アレしかねぇか)」  考えを纏めた乱馬はじっとナスカ・ドーパントへと向き直る。 「さぁ、そろそろ終わらせるよ。僕も急いでいるんでね」 「ああそうだな、全力で来いよ。次で終わらせてやる」  その言葉を切欠にナスカ・ドーパントが再び翼を展開し急速で乱馬へと迫る。  一方の乱馬はナスカ・ドーパントの方を向いたまま後方へと後ずさりしていく、  対しナスカ・ドーパントは光弾やマフラーを乱馬の方へと飛ばすが回避しつつ後方へと下がっていく。 「逃げてばかりだけど、次で終わらせるんじゃなかったのかな?」  そう言ってナスカ・ドーパントが挑発するが乱馬は構わず後方へと移動を続ける。  距離が詰まりナスカ・ドーパントの斬撃が迫るが乱馬は冷静に回避を続けていく。  一見すると、ナスカ・ドーパントの猛攻に乱馬は手も足も出ず回避するしかない状況に見える。  だが、乱馬の動きを見るとある軌道を描いているのがわかる。  そう、ナスカ・ドーパントは知らず知らずの内に乱馬の動きに誘導されていたのだ。  しかし戦闘経験が足りないが故にナスカ・ドーパントこと霧彦その事に気づかない。 「(よし、後数歩……だが、何だこの妙な違和感……)」  先ほどまで熱くなっていた頭は冷えている、それ故に今更ながらに違和感を覚えた。  だが、既にその時は迫っている。今はこのままナスカ・ドーパントを『中心』へと――  しかし、業を煮やしたナスカ・ドーパントが決めるべく乱馬へと急接近し剣を振り下ろす。  乱馬の回避も今回は完全には間に合わず服の前部分が斬られた。 「(しまっ……)」  このまま猛攻が迫れば失敗に終わる――だが、  その時、懐から『あるもの』が飛び出していく――そしてナスカの動きが一瞬だけ鈍る。  何故、ナスカの動きが鈍ったのかはこの際どうだって良い――  今ならば確実に決められる――乱馬は右腕を振り上げ―― 「飛竜昇天破!!」 *時系列順で読む Back:[[復讐の戦鬼]]Next:[[街(Pine Version)]] *投下順で読む Back:[[願い]]Next:[[街(Pine Version)]] |Back:[[生きる意味を求めて]]|[[早乙女乱馬]]|Next:[[街(Pine Version)]]| |Back:[[波紋呼ぶ赤の森]]|[[園咲霧彦]]|Next:[[街(Pine Version)]]| |Back:[[波紋呼ぶ赤の森]]|[[山吹祈里]]|Next:[[街(Pine Version)]]| |Back:[[波紋呼ぶ赤の森]]|[[高町ヴィヴィオ]]|Next:[[街(Pine Version)]]| ----

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