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騎士」(2014/03/26 (水) 16:26:02) の最新版変更点

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*騎士 ◆gry038wOvE  冴島鋼牙の魔戒剣が円を描いた時、彼の身は金色の鎧に包まれた。  黄金騎士牙狼(ガロ)が吠える。この眩い金色の光を放つ金狼こそ、冴島鋼牙その人であった。  右手の剣もまた変化し、牙狼剣となって切っ先を眼前の怪物に向ける。  敵の名は暗黒騎士呀(キバ)といった。牙狼とは相対的に、その鎧は底知れぬ「闇」を放っていた。闇というものは、通常放たれるようなものではなく、何もないところに存在するものであるはずが、魔戒の鎧はそれを今、放っていた。それは見る人が見れば光と錯覚させるほどに神々しくもある。  暗雲が立ち込めるように、あるいは、無尽蔵な殺気を放つように、そのオーラは暗黒の鎧を中心にして周囲の光を奪っていた。その闇こそが、悪しき強敵の圧倒的な存在感を作り上げていた。 「はああああああぁぁぁぁぁっ!!!」  ガロ、駆ける。  その影は疾風のごとし。ガロに焦点を当てたなら、彼の周囲は景色ですらなくなっただろうか。彼を囲む森の木々は、ガロの輝きに押され、速さに追いつけず、その色さえも失うほどであった。  牙狼剣がキバの胸元へと引き寄せられるまで、一秒とかからなかった。その速さは、まさしく、先ほど喩えた疾風であった。  キバは己と戦っていたブラスターテッカマンブレード──相羽タカヤを引き離すと、暗黒剣を横に構えて真下からそれを受けた。剣と剣は弾きあい、ギギ……と小さな音を立てた。 「フンッ……その程度か」 「何?」 「同じ牙の名を持つ同士だ……折角だから、キバを名乗る意味を今おまえにわからせてやろう」  キバの胸元に輝くレイジングハートは目の前に突き出された攻撃に一瞬に焦りを抱いただろうか。彼女は、きっとキバに救われたと思ったに違いない。バラゴの言葉や敵の言葉に疑問を抱いても、バラゴとの契約を反故にする気はなかったし、一定の信頼値から下がる事もなかった。  バラゴとしては、既に、ある程度の情報は引き出している。後は、このレイジングハートの持つ力とやらを、引き出し、自分の物と成すか、あるいはこのまま「レイジングハート」を知る者の信頼を買い、更に情報を引き出すかだ。まあ、それこそどちらでも構わないが。  ただ、まあ、今この時は何となく、バラゴ自身も、レイジングハートを敵の攻撃から守った認識はしていた。咄嗟に、レイジングハートが傷つけられる事を避けたのである。  価値があるからこそ、だろうか……。  まあ、レイジングハートが秘める力には興味がある。それを得るためには、多少この身を汚しても構わないだろうと思った。 △  時は、少し遡る。 「……親しい者を失うのは辛い事だな」  先ほど。移動の途上で、バラゴはレイジングハートにそう言った。  不意の一言だったので、レイジングハートは驚く。これまでの言葉よりも、レイジングハートはその言葉に対して感情のようなものを感じた。  機械がそんな事を思うのも、変な話だが。  バラゴは、無駄話を嫌う人だと思ったから、それだけ呟いたのだろうと思った。しかし、彼は続けた。 「僕の父と母もかつて、異界の魔物ホラーによって命を奪われた。……僕は、両親を殺したホラーを滅ぼすために……魔戒騎士になったんだ」  レイジングハートは、その言葉を聞いて、少しばかり重い気分になった。これまで半信半疑だったバラゴに対して、「同情」というが生まれたのである。信頼でも疑念でもないが、それはレイジングハートの心を動かすには充分な物であった。  バラゴはそれから、少しだけ道に停まり、家族の話をした。  家族の死。  それを語る時のバラゴの口調は物憂げで、到底嘘とは思えなかった。何かに燃えるような闘志がバラゴの目に映っており、鋭く何かを睨みつけていた。その目は正でも邪でもない。彼が今、見ているのは、忌まわしき過去だろう──とレイジングハートは思った。そんな時の目を、善悪で計れるほど、レイジングハートも機械的ではなかった。  バラゴは今の自分と同じく親しい人を奪われた。そして、その悲しみをバネにして戦っている。彼は悪を狩っている。 「……つまらない話をしてしまったな」  彼はそんな中でもレイジングハートを気遣うだけの優しさを持っていた。それが、不思議とレイジングハートの側も彼に対する信頼を生ませる形になった。  信頼──いや、依存というべきかもしれない。  バラゴの見せた人間味と、同情すべき過去、「親しい人の死」という小さな記号が合致した(通常の神経ならば親近感を抱くほどではない)些細な偶然。  それが、バラゴに対する盲目を作り出した。  バラゴの内心や事情をよく知っている一方で、相手の事情は一切知らない。ゆえに、レイジングハートは相手方の短所ばかり見つけて、バラゴに正当性があるようにこじつける心理を働かせ始めていた。 『Kouga, I will never forgive you.』(鋼牙。私はあなたを許さない)  敵の冴島鋼牙と、味方の龍崎駆音。  この構図は、もはやレイジングハートの中では揺るがない真実と変わっていった。  鋼牙の境遇や内面を知らないレイジングハートは、鋼牙に微塵の同情も信頼も寄せられないが、それらを少しでも受けた駆音に対してはそれができる。  もはや、レイジングハートの中に正常な判断のできる神経などほとんどなかった。  バラゴが決めつけた龍崎駆音という名前──この名前の時のバラゴが心理学や精神医学に精通した心理カウンセラーである事など、レイジングハートが知る由も無い。  他人に絶対の信頼を寄せさせるためには、同情を寄せさせるのは一つの手である。  そう、バラゴは、レイジングハートを己に取り込むために、レイジングハートの精神を揺さぶる目的でこれを話したのである。  しかし、こうして、心理的な操作のためとはいえ、誰かに内情を伝える事は、──少なくとも、「このバラゴ」にとっては初めての経験だっただろう。だから、何故か、妙な連帯感が生まれる事になった。  機械的で、意思があるのかないのかさえわからない。他人の死を悲しむ事はできても、果たして人間らしい喜怒哀楽がはっきりしているとは言えないこのメカニズム。  だからこそ、なのだろうか。  プログラムを書き換えれば、人間よりも扱いやすい存在なのかもしれない。 △ 「フンッ……」  ガロの刃は弾かれ、キバの一太刀がガロの左肩へと食い込んでいく。  血が吹き出し、胸のレイジングハートはその返り血が濡れる。血を浴びる趣味はないが、またこれも敵を倒すための必然だというならば仕方ないかもしれない。  ガロの方も肉を切らせて骨を断つ覚悟で横凪ぎに剣を振るう。小さな風が起こるが、鎧はそんなものをものともしない。  キバは風を受けると同時に、後方に高く跳び上がった。マントがはためき、キバの両足は地を離れて木の枝に立つ。 「グッ」  タイミングよく避けたつもりであったが、どうやら腹部にしっかりとガロの一撃による傷跡が生まれたらしい。  キバの鎧の内から、黒く染まった血液が垂れた。  なるほど、やはり冴島鋼牙は実力を上げている。もう一方の無名の魔戒騎士が相応の力──無力に等しい力──しか持っていなかったのとは対照的だ。  戦いで、血を流すのはいつぶりだろう。  あまりにも久々すぎて、一瞬ばかり、敵の血だと思ってしまったほどである。誰の血なのかは、流石にすぐにわかったが、純粋な驚きと、それから喜びが湧きあがった。  闇に堕ちない騎士が、これほどの力を持ったとは。 「……はぁっ!!」  掛け声を聞いてキバは再び飛び上がる。  休んでいる暇はない。来るのはテッカマンブレードによるテックランサーの投擲。  つい先ほどまでキバがいた場所に向けて放たれたテックランサーは、木の幹に深々と突き刺さる。  いや、突き刺さるどころの騒ぎではなく、テックランサーは木を貫通していた。  まるでリンゴを握りつぶすようにあっさりと弾け、骨太な大木は一瞬で粉塵へと変わる。 (一歩間違えば、危ういか……)  キバは着地した後、木の滓を頭から被っていた。  それを意に介す事もなく、キバは剣を構える。  むしろ、上手く避けなければこのデスメタルの鎧もどうなったかわからないのだから、この程度を気にしてもいられないだろう。  余裕を持った戦いをする事はできない。 (とはいえ、黄金騎士がある程度落ち着いて戦っているのに対し、この男は感情を露骨に剥き出しにしている……付け入る隙は充分だ)  肌色の粉を振り払いながら、キバはテッカマンブレードに狙いを定めた。  まずは弱い者から潰していった方が、効率は良い。単純なエネルギー量において勝るテッカマンブレードは弱いながらも厄介で、ガロとの戦闘中にブレードの攻撃を受けてしまえば致命傷となる事もある。  キバの隙を見つける程度の戦闘経験はあるようだし、そもそもブレードは投擲にしろ戦闘にしろ「筋」は通っている。  天賦の才とでも呼ぶべきだろうか。  そこに相乗して、常人程度の努力も重ねていたようだが、所詮はキバに勝る者ではないと考えられる。 「フンッ」  キバは鎧の重量からは考えられぬスピードでブレードの眼前まで飛ぶ。  ブレードが顔を上げると、その仮面めがけて大剣が叩きつけられた。 「なっ……ぐああああああっ!!」  既にタカヤの身体の内で最も損傷が激しい脳の部分を強打した瞬間の痛みと来れば、もはや形容する事ができないほどであった。  脳がかき回されるような感覚に、咄嗟にブレードは己の頭部を抑えた。  棒を振り下ろされたスイカの感覚を、ブレードは味わっていた。  そこにすかさず、キバはもう一撃、横一閃──ブレードの胸を抉る剣技を見舞う。 「あああああああああああああああっ!!!」  ブレードの体液が吹き出し、レイジングハートはまたそれを浴びた。  もはや、元来のレイジングハートの透き通る赤い輝きは、どす黒い血の色に染まり、輝く事もなくなっている。  流石のレイジングハートにも不快感が募る。 「……」  しかし、龍崎駆音との契約のひとつ。  喋ってはならないとの契約から、レイジングハートは冷徹無比な「物」を貫き通す。  機械ですらない、ただの水晶玉。喋るはずもない。できるなら思考も奪いたいところだが、思考という物は簡単に止められるものではなかった。人が苦しむ姿への嫌悪。それはある。  しかし、限りなく無に近い状態で。息を止めるように。レイジングハートは、「物」であり続けた。 「……来るか」  背後から、ガロの気配を感じた。キバと同じく牙狼剣を構え、こちらに向かってくるガロは、おそらくキバのその背中を狙う。キバはそれに気づいている素振りさえ見せず、前方のテッカマンブレードに注意を払った。  ブレードも決してただ頭を抱えるだけではないようだ。  まだ脳がかき回されるような痛みに耐えているかもしれないが、それでも目の前の敵に一撃浴びせるべく、拳を前に突き出した。 「うおりゃあああああっ!!」  ブレードのただの我武者羅な一撃。しかし、それはあっさりとキバに手首を掴まれる。残念ながら、不発だ。  無論、手首を掴まれただけでは終わらない。攻撃の失敗は、そのまま敵の攻撃に転ずる。  ブレードの手首をつかんだまま身を翻したキバは、ブレードの背後に立つ事になった。その動作によって、ブレードの腕は大きく捻られ、右肩から先全てに刺激が走る。  そして、こうしてキバがブレードの背後に回ったという事は、ブレードの眼前にあるのはガロの剣であった。 「何っ!?」  ガロは咄嗟の出来事に対応しきれず、そのままブレードの腹を切り裂く。狙ったのはキバであったというのに、これでは同士討ちだ。  直前で最低限力を弱めたとはいえ、牙狼剣の威力は凄まじく、テッカマンブレードはその剣の鋭さを全身に感じた。頭頂から指先まで、四肢にも頭部にも激痛は巡り、その縛りが消えた時、テッカマンブレードはついに地面に足を突いた。 「……ぐっ」  しかし、ブレードはその痛みの中で、叫び喘ぐ事もなかった。喉が締まるような感覚とともに、叫びさえ出なくなったのである。  てっきり、首を絞められているのかと思ったが、おそらく首の筋肉が硬直したのだろう。  痛みというよりか、麻痺に近い。首から上が、吊ったように動かなかった。  やがて、それが自然と消え去ると、再び満身創痍の身体に鞭を打って立ち上がる。身体は罅割れ、全身は血を流す状態だ。足はもはや、通常ならば立ち上がれない状態である。目の前で仲間を奪われた怒りが彼を動かす原動力だった。 「そこかぁぁっ!!」  ブレードは、目の前に拳を振るう。そこに何があるのか、など、見えても……あるいは、考えてもいないだろう。ほとんど掠れた意識から放つ攻撃は、視覚にも聴覚にも頼らない。いや、もはや頼れないのである。  先ほど目の前に斬撃が放たれたのだ。今、そこには敵がいるだろう……。──短絡的な思考が彼を動かす。  真っ暗な世界で、世界の全てを恐れるように、信頼さえもしないように攻撃を続ける。  その攻撃の主がガロである事に気づく事もなく、ただわけもわからずに、どこかにいる「敵」を狙った。 「……やめろっ!! 俺は味方だ!!」  ガロの言葉など聞こえない。一撃、一撃。また一撃。テッカマンブレードの拳はガロに向けて振るわれる。  黄金の鎧を殴打する真っ赤な拳。二つの物体が弾け合った。  ガロはどうする事もできず、ブレードを引き離そうと努めるも、それはまた無意味だった。 「おりゃああああああっ!!」  ブレードの首はガロの首を掴み、ダイナミックに彼の身体を吹き飛ばす。この力は、ガロの装着者にとっても意外だったろう。  空中で数回転しながら、ガロは地面に叩きつけられ、跳ねた。叩きつけた方向にブレードは駆け、その身体を踏みつけた。距離間隔だけは寸分の狂いもない。  そして、ブレードはこう思った。「確かにその一撃は“鎧”を踏みつけている」。自分を攻撃した敵──バラゴを踏みつけているのは間違いないだろうと、ブレードは確信していた。 (……くっ、時間がない)  重いダメージを受けながらも、ガロが考えているのは全身の痛みの事などではなかった。  そう、ガロには鎧装着のリミットがある。鎧を装着できるのはほんの僅かな間だというのに、こうして仲間割れをしている時間がどこにあろうか。  その「時間」というものは、ガロだけではなく、ブレードの方も焦らせていた。  現状でブレードが変身を続けられる時間は残り十分程度だろうか。ガロの方が変身を続けられる時間が短いとはいえ、このまま三十分変身し続ければラダムになってしまう。その性質への恐れが、──そんなリスクを避けるの行動が。まるでラダムと同じように「暴走」させているのは、何という皮肉だろうか。  ガロは、やっとの思いで、テッカマンブレードのキックのタイミングをとらえ、脚を掴んだ。ブレードはそのまま動けなくなる。その隙に、ガロは立ち上がった。  なるべく味方として共に戦いたかったが、この状態のブレードと共闘するのは不可能だ。  まずはキバとの決着をつけねばならない……と周囲を見回すと、 「ここだよ、黄金騎士」  黄金騎士の鎧を砕いて背後から突き刺すような一撃がガロに伝わる。  いつの間にか、キバはガロの背後を捉えていたのだ。  ガロがキバを見失い、ブレードは状況を冷静に見られなかった。  その状態が大きな隙で無くて何だろうか。キバが付け込まないはずがない。  キバはそれを引き抜くと、ガロの身体を蹴り飛ばした。 「……ぐぅぁっ!!」  小さな嗚咽とともに、ガロはブレードの身体にぶつかる。  二人まとめて土の上を転がった。 「無様だな……冴島鋼牙。そのまま消してやる!!」  暗黒の剣を盾に構えたキバは、数メートルは離れた場所にいる二人に向けて、剣を振るった。その衝撃は風を乗せて、二人のいる地面まで到達する。黒く染まった衝撃。常人の剣技を見慣れているものならば、非現実的だと思うかもしれない。数メートル離れた相手に向けて放たれた一振りが、闇の色を帯びてそのまま目標に到達する事など。  しかし、これは魔戒の騎士が齎した現実であった。魔戒に足を踏み入れた彼らならば、今更こんな事では驚きもしない。  地に伏す二人に成す術などない。  まるで地雷でも爆発したかのように地が爆ぜると、その上にいた二人は大きく飛び上がる。 「ぐああああああっっ!!!」 「ぬあああああああっ!!!」  二人の戦士は、そのまま、後方に吹き飛ばされる。風か黒い爆炎か、この一撃が起こした衝撃に吹き飛ばされたのだ。  着地した場所は斜面になっており、そのまま二人は自動的にそれを転がり落ちる。何度か木の根や木の幹にぶつかり、小さな悲鳴をあげながらも、二人は自分が下降していくのを止められなかった。それらはストッパーとしては弱かったのだろう。ただ、二人を打撃するための障害物にしかならなかった。 「……しまったな。探すのが面倒になる」  長く急な斜面を眺めながら、キバ──いや、バラゴは呟いた。  思ったよりかはガロの圧倒も容易であった。しかし、可能な限り目を付けておくべき相手なのは確かだ。  前に戦った時は二人がかりで手も足も出なかったというのに、この間の戦闘では一対一で互角。今回は偶然にもテッカマンブレードがああして我を失っていたのが幸いだった。 「レイジングハート。周囲には誰もいない。喋っても構わないぞ」 『OK.』 「……あれが、冴島鋼牙だ。他のやつらは見ない相手だったが、あの男はよく覚えておくといい」  バラゴは、そう教えながらレイジングハートの血を拭う。  バラゴの言葉に、──『Fate……』──レイジングハートは、フェイト・テスタロッサの事を思い出さずにはいられなかった。  鋼牙──その男は、レイジングハートにとって、フェイトの仇の名前だったのだから。 △ 「……くっ……」  剣を杖に、鋼牙は起き上がった。  見上げると、数十メートル──いや、百メートルくらいはあるだろうか。  よく生きていられたものだと思うほどの長い斜面があった。  幸いにも、鋼牙には意識があった。流石に黄金騎士の鎧は解除されているものの、意識があり、全身の怪我も大事には至らない程度に抑えられている。  バラゴ。──暗黒騎士キバ。  やはり侮ってはならない相手である。何千体ものホラーを宿した暗黒の鎧を持つ騎士だ。無論、簡単に倒されるはずがない。 「……大丈夫か?」  鋼牙は、傍らに倒れ伏すブラスターテッカマンブレードに声をかけた。  その巨体は、鎧を纏った時の鋼牙からすればまだそんなに大きくは見えないが、人間としての鋼牙から見れば化け物である。  しかし、鋼牙はその姿を恐れない。彼は既に先ほどのような暴走はしないだろうし、鋼牙はブレードが攻撃体勢に入れば、すぐに回避運動に入る事ができる。  ともかく、ブレードは起き上がった。やはり、暴走はしない。 「ここは…………くそっ!!」  周囲を見渡し、テッカマンブレードは自分が斜面を落ちた事を理解する。  全身は傷だらけだったが、先ほどに比べると冷静であった。少なくとも、視覚や聴覚の情報を遮断してまで敵を攻撃するほどではない。いや、それは敵が前にいないからだろうか。  辛うじてタカヤの記憶を繋ぎとめていた京水が殺されたのは、やはりタカヤにとっても強い怒りを放たせる原因だった。 「……そうだ、奴は!? 奴はどこだ!!」  意識がはっきりとすればするほど、自分の中にこみ上げていた怒りも確かなものになってくる。まるで、竜巻のように、彼の中の怒りはその姿を増す。いや、現状では、そうして小さな感情を爆発させることだけが、彼の唯一無二の生き方だった。  暗黒騎士キバが一体どこにいるのか──その一点に、ブレードの興味が向かっていた。  ──そう、記憶を失った彼にとっては、人の死や人が殺される事は、新鮮な体験であり、新鮮な怒りでもあったのである。  そんな相手に対する恨みも、普段の何倍にも膨れ上がっていた。  それと同時に、その感覚を、心の奥底で何度も味わったような──そんな複雑な、心の震えが止まらない。 「今はまだ、奴を相手にする段階じゃない。まずは頭を冷やせ!」  鋼牙はブレードを恫喝する。変身さえ解かないブレード。タカヤにならないという事は、彼はまだ戦いへの未練がある証だ。  現状では、キバを相手にしたところでやられるだけだというのは容易にわかるはずだ。しかし、ブレードはそれを飲み込む事は出来なかった。 「そうもいくか!! 奴は……奴は京水を!! ……あんな奴を放っておくわけにはいかない!!」 「駄目だ。二人で力を合わせて戦わなければ勝ち目はない」 「ならば何故、お前は戦わない!!?」  目の前で変身を解いて立ちすくんでいる鋼牙に、ブレードは些細な怒りを沸かせた。  これが彼の戦闘時の形態でない事はブレードもよく知っている。  相羽タカヤがテッカマンブレードに変身できるように、彼もまた変身能力を有しているはずだ。 「……奴を倒すために焦りは禁物だ。命を捨てに行くようなものだぞ」 「……奴を倒すためならば……俺はそれでも構わない!」  ブレードの怒号とともに時間が止まる。  鋼牙も何も返す事ができないほどの迫力であった。まるでブレードの本心の全てをまとめ上げるような言葉だった。  そうして止まった時間を戻すように、ブレードは弱弱しい声で言った。 「……俺には時間がない。時間がないんだ……」  何のために戦うか──その記憶が抜け落ちてしまうのではないかという恐怖が、なぜかタカヤの心の奥底に在った。  このまま何度戦えるかもわからない。  ブレードの背中から、強力なエネルギーが放出される。 「待て!」  鋼牙の制止を振り払い、テッカマンブレードはこの斜面の上に向けて飛んで行った。 △ 「おや……? 用があるのは君ではなく、もう一人の方なんだがね」  テッカマンブレードが地に足をつけた時、そこにいたのは黒衣の美青年であった。  二十代にも見えるし、三十代と言われても合点がいく。四十代、五十代と言われてもまだ理解する事ができるし、十代や六十代まで行くとやや極端だが在り得るともいえる。  そんな正体の掴みにくい男だったが、しかしその胸の赤い宝石が確かにあの騎士と同じであった。 「…………京水の仇だ!!」  ブレードは、テックランサーを構えた。  バラゴは、胸にかけた二つのペンダントを掴み、空中で回転させる。鎧を召喚するためのペンダントによって、暗黒の鎧がバラゴを包む。  暗黒騎士キバとなった彼は、レイジングハートを胸に装着した。  装着される時は、いつもレイジングハートはキバの鎧の冷たさを感じる。しかし、レイジングハートはそれを気にする事はなかった。闇の鎧を、たったひとかけらだけでも照らす光として、レイジングハートは輝く。  物、として。 「……潰す!! 貴様を潰す……!!」  ブレードは、先ほどと全く変わらない。  まるでイノシシのように、怒りに心を奪われる。猪突猛進。まるで戦いをわかっていない。憎しみに心を奪われた戦士……そういうと、まるでかつての己のようだ。愚かだった頃の自分と寸分違わない。  だが、今は違う。バラゴは、彼のように深い怒りの感情に縛られる事はない。  戦闘における強さはバラゴが上だ。 「望むところだ」  駆け出したテッカマンブレードのテックランサーがキバを狙う。  黒炎剣はそれを弾き返す。黒炎剣は、そのままブレードの胸部に向けて、そのまま真横に振るわれる。手ごたえがある。これで、ブレードは数メートル後方に引き下がる……はずだった。 「うおおおおおおおっ!!」  実際は、ひるまずにテックランサーを両手で構えてキバの肩にそれを突き刺す。  キバの脳内が捉えていた未来とは、少し違った攻撃だ。 「……何!?」  痛みを恐れずに──いや、受けた様子さえなく、テッカマンブレードが攻撃を仕掛けた事に驚愕する。しかし、キバの身体もまたそれを痛みとは捉えなかった。  無論、キバにとっては意外だった。  よもや、再びキバが血を流す事になるとは。  鎧を貫き、バラゴの腕にもそれは突き刺さっていたが、決して痛みはなかった。鎧に食われた時点で、バラゴもまた人として成り立たない存在になっているのだ。この程度の痛みは痛みと認識する事がない。  ……まあ、端的に言えば、少し驚いただけだった。  むしろ、キバについて、この攻撃は好都合。  この時のブレードの姿は、こう呼ぶべきだろうか。──攻撃に満足して隙だらけになった、と。 「……フンッ!!」  黒炎剣はXを描くようにテッカマンブレードの身体を切り裂く。深々と、──それこそ、人ならば一撃で刺し貫き兼ねない力を込めたまま、その身体を斬ったのだ。  この時こそ、ブレードは遂に数メートル後退した。 「ぐっ……ぐぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」  ブレードが、その痛みに慟哭する。実を言えば、これまでも痛みは消え去ってなどいないのだ。とにかく敵を滅する意志が、ブレードを突き動かしているに過ぎない。  要は、精神で痛みを殺し、立ち向かっていったのである。  しかし、この時のバラゴの太刀は、その意志さえも一瞬で打ち砕く業であった。 「消えろッ!!」  キバは、無慈悲なひと言とともに、もう一度、ブレードの胸を──その胸を抑える両腕の甲ごと、突き刺した。血は吹き出さない。彼の胸は、既に充分なほど血を吐き出したからだ。  ブレードの手にあったテックランサーは、ブレードの手の中から落ちる。  真っ二つ。  真ん中から、綺麗に分断される。元々ついている機能ではあるが、ブレードが意識的に分断したわけではない。テックランサーは、柔らかい土を突き刺した。ともかく、ブレードには、素手のほかに戦う術がなくなった。  追い詰められたブレードは、力を込めようとするも、剣を突き刺された勢いで数歩後退し、木を背にした。  一定のエネルギーを使い果たしたか、激しいダメージの影響か、ブラスター化が解除され、ブレードは元の姿に戻った。 ◇ (俺は勝てないのか……この怪物に……)  タカヤは思う。  障害物を背にして、眼前には暗黒騎士キバ。  肉弾戦ではもはや勝ち目はない。この圧倒的な剣のセンスは、タカヤのような人間の秀才がいくら必死で戦ったとしても、倒すどころか、ダメージを与える事さえ難しい。  ブラスター化まで解除されてしまったのだ。  いや……。 (俺は、こんなに弱かったのか……?)  今までも、幾つもの戦いを超えて、ここまで来たような気がする。  具体的には思い出せない。  何か。  何かが、あったはずなのだ。この身体だけが、決してゴダートやシンヤとの格闘で養っただけではありないようなセンスを感じさせている。  確かに、力だけはタカヤにも覚えがないほど強くなっている。無我夢中で戦っている時も、体は勝手に、キバを倒す方法を模索しているのだ。それは、かつての彼自身のセンスや教養を超える範囲の力だ。  ──それは、きっとタカヤが忘れているだけの、スペーツナイツでの数多の戦いや、このバトル・ロワイアルでの戦いを、覚えている「身体」の行動だろう。 (何故だ……俺は、何故、こんなに強く、こんなに弱いんだ……!)  そう思いながら、眼前でキバが剣を振りあげるのを見つめていた。 ◇  その時。 「全く。世話の焼ける奴だ」  藪の中から、もう一人の刺客が姿を現す。  冴島鋼牙、いや、黄金騎士ガロ。  ガロは、暗黒剣を抜き取るキバの真後ろに、黄金剣で飛びかかった。 「……とんだ、デンジャラスボゥイだな」  刃と刃が互いに傷つけあう音。  キバは、引き抜いた剣を、咄嗟に襲い掛かった黄金騎士の方に構え、盾として敵の攻撃を封じていた。背後からの気配を察したのである。 「全くの同意見だ、大河の倅……」 「初めて気があったな……だが」  二人の騎士は、互いの目を見て、会話を交わしながら、その手に力を込める。  同じ冴島大河のもとに生まれた魔戒騎士。その太刀筋は相似していた。だからこそ、互いの太刀は、この時ばかりは軽い力しか籠めていない事に気づいていた。 「残念な事だ。……お前は俺が斬る!」  剣を引き合い、ここからが本気の戦いだ。  今の一撃、鋼牙はバラゴが見抜くのを知っていたし、バラゴは鋼牙があまり力を込めて打ち込んで来ないだろうと予想していた。 「……確かにお前はかつてより強くなった。とはいえ、私には敵わない。私を斬れるか?」 「よせ。お前は、一度斬られた身だ。どうやら、お前は知らないようだがな」  暗黒騎士は、ガロのほうを見もせずに、振り向き、剣を構えた。その剣の切っ先は、テッカマンブレードの首元に向けられていた。動く事さえままならないブレードの、首元を狙った時、ガロの動きが止まった。 「仲間が大事か」 「……」  肯定も否定もしない。もう無駄話は要らない。これ以上、口を開く必要はない。真剣勝負だ。一瞬の気のゆるみが勝敗を分ける静寂の世界での戦いだ。 「……それでいい。この男はもう動く力も残っていないだろう。この男の息の根を止めるのは、貴様が倒れてからでも充分だ……。いくぞ」  まるで、ガロが応えるか確認しただけだったかのように、キバはブレードに対する興味を失い、剣の先をガロに向けた。  キバは、無言で、剣を真横に凪いだ。  ガロはそれを柄で弾き、跳ぶ。ガロが暗黒剣の上に立つ。  キバの腕は、ガロの重量を易々と持ち上げ、ガロを後方へ吹き飛ばす。  そこには、息も絶えかけたブレードがいる。このままでは、激突する。 「……くっ」  ガロは、腕を伸ばし、多少無理のある体勢で、ブレードが寄りかかる木の幹に剣を突き刺す。それを鉄棒代わりに、ガロは上方へ避け、ブレードとの激突を回避する。 △ 「……強いな……お前は」  不意に、真下から聞こえた声。ガロは、敵に集中しつつも、一瞬気を取られた。  テッカマンブレード、相羽タカヤ。木に肩を寄せる彼の声である。その言葉は、まるで鋼牙を羨んでいるように、あるいは、自分自身を嘲るように、虚しく響いた。  ブレードの外形からは表情が読み取れないが、頭を垂れた彼の姿からは、一縷の生気も感じられなかった。  あれだけの憎しみを持ちながら、あれだけキバを憎む心を強く持ちながら、何もできない自分自身が不甲斐ないと、タカヤは思っていたに違いない。  ガロは、いや、冴島鋼牙は思った。 (違う……。俺は決して強くはない……。俺だけが強いんじゃないんじゃない……)  果たして、歴史が「冴島鋼牙」から始まっていたならば、鋼牙は決して強くはなれなかった。  そう、鋼牙は確実な積み重ねと共に生き、先人たちの屍を超えて戦ってきたのだ。  鋼牙が憧れた偉大なる父、冴島大河。その意志は今もなお剣に眠る。  優しき母、冴島りん。その思いは今もなお鋼牙の栗色の髪に宿る。  守れなかった親友、ヤマブキ、クロ、アカネ、ムラサキ。その日々は今の彼の剣に、胸元の誓いに残る。  かつて黄金騎士の名を継いだ英霊たち。その戦いは鎧に刻まれている。  ザルバ、零、翼、阿門、邪美、カオル……。  今日まで描かれた物語が、鋼牙の背中を押し、鋼牙の強さとなる。  その記憶が、その思いが、鋼牙を強くしているのだ。  「記憶」  それが、今のタカヤに欠落している「力」なのだと、鋼牙もタカヤも知る由もない。 △  ガロが着地する。  ──キバは、そんなガロの眼前まで来ていた。  黒衣をなびかせ、ガロの瞳を突き刺そうと剣を立てる。  しかし、ガロはそれを己の剣で防いだ。 「……聞こえたぞ、黄金騎士。その男はお前を強いと言ったな」  どうやら、キバの耳に入っていたらしい。  強さ。──それは、キバが渇望して止まないものだ。かつて、両親を殺し、己の平和を奪った「ホラー」。それを倒すべく、バラゴが得ようとした「強さ」。そして、やがてバラゴは、その「強さ」こそが全てであり、魔戒騎士の使命など忘れるようになった。  だからこそ、彼は、この言葉だけには反応せざるを得なかったのだ。 「だが、違う」  ブレードの目線で鍔迫り合いをしながら、ガロとキバは互いの瞳を睨む。 「お前は本当の強さに足を踏み入れてはいない。……魔戒騎士の持つ制約を忘れてはいないだろう。その制約を破り、鎧に食われる事で、魔戒騎士はより強い力を得られる。その制約に縛られ、愚かに倒れていった魔戒騎士を私は何人も知っているぞ」  そう、魔戒騎士は99.9秒しかその鎧を纏う事はできない。  黄金騎士、銀牙騎士、白夜騎士、雷鳴騎士──あらゆる魔戒騎士に例外なく、この制約は、降りかかる。  だから、本来は鎧の装着は、人間界で使うには本当に最後の手段、言うならばトドメなのである。魔界ならばともかく、この場では鋼牙はその力を使えない。 「鎧装着のタイムリミットはもう間もなくだ。この僕を倒したいならば、このまま放っておくわけにもいくまい……」  バラゴは、鎧の中でニヤリと笑っただろう。  鋼牙が鎧に食われたとするならば、それはそれで面白い。──いや、むしろ、それを期待しているのだ。  鋼牙や零──純然たる魔戒騎士の彼らが、自分と同じ闇に堕ちるのである。その方が喰い甲斐があるというものかもしれない。  かつて、バラゴがこのままバトル・ロワイアルに連れてこられる事がなかった世界では、鋼牙が闇に堕ちようとした。その時、バラゴも戸惑いつつ、ニヤリと笑った事があった。それと同じだ。  彼は、どこかで自分と同じ場所に他の魔戒騎士を引きずり下ろそうと……そう思っているのではないだろうか。それが遊戯を求め続けるからか、あるいは人間の心が寂しがっているからかは、誰にもわからないが。 「バラゴ……。一つ訊きたい。お前は、俺の父から、一体何を学んだ……? 父は……冴島大河は、決してそれを強さとは教えなかったはずだ」  限りなく、タイムリミットに近づいている中でも、ガロはそれを聞かずにはいられなかった。  鋼牙は、バラゴの心に深く踏み込んだ事はない。  しかし、父の弟子が。父が師事したはずのこの男が、こんな事を言ったこの時──鋼牙どうしようもなく、むず痒い気持ちになったのである。 「考えろ。黄金騎士・冴島大河は、誰によって敗れたか。……鎧の力を解放した魔戒騎士ではないか?」  その魔戒騎士とは、バラゴ自身だ。  しかし、バラゴは敢えて曖昧な言い方をした。胸元のレイジングハートに、それを知られると不都合な部分が出てくる。 「……守りし者の存在こそが、何よりも、俺達、魔戒騎士の力……俺の父はそう教えた。いや、俺達、黄金騎士に代々伝わってきた教えだ。お前に、黄金騎士を……」  だが、この言葉を聞いた時、ほんの一時ばかり、レイジングハートは思った。  もしかすると、この冴島鋼牙という男は、悪人ではないのかもしれない。  自分の中に在る善悪構造こそが間違っていて、冴島鋼牙は間違って等いないのかもしれないと。  否──  ガロは、剣を構えたまま、数歩前に出た。  隙を作った腹部を狙うかと思いきや、彼が狙ったのはその胸。 「冴島大河の名を」  しかし、キバは、咄嗟にその胸を、左腕で守り、右手の剣でガロの脇腹を狙った。  この状況で、特に鎧の装甲が硬い胸部を守る必要があるだろうか。  隙が出たところで、今のキバがそうしているように、腹を狙われるに違いない。  ガロは、脇腹の一撃を受けながらも、脚で地面を蹴りあげた。地面は深く盛り上がり、一本の刀が、地中から飛び上がる。 「……口にする資格は、無い!」  鋼牙にとって、二本目の剣。いや、鋼牙たちにとって、もう一本の剣。  半分に砕かれたテックランサーが、真下から、飛魚のようにキバを襲った。  キバの左手は塞がっている。右手はガロの鎧を断つ剣の手が止まらない。 『Karune!』  テックランサーの片割れが狙ったのは、バラゴの胸元に輝く真っ赤な宝玉。  レイジングハートは叫んだ。  バラゴの名前を呼んだ。  キバが、この宝玉を庇うような仕草を見せた事にガロが、気づかぬはずはなかった。  だからこそ、彼はそれがキバにとって何らかの弱点だと思い、今、その宝玉を狙ったのである。  そして──。  レイジングハートが、魔導具のように意思を持つ宝玉である事に、ガロは、気づいているはずもない。  だからこそ、冴島鋼牙は、魔導具でも何でもない、新たな力の源なのだろうと察して、何の躊躇もなく、レイジングハートを狙った。 「くっ……!」  一方の、キバはレイジングハートが狙われた事を知り、戦慄する。  間に合うか、間に合わぬか。バラゴは、咄嗟に身体を逸らし、テックランサーの軌道がレイジングハートに辿り着かないようにした。  牙狼剣を左手で弾き、  右手の黒炎剣を引いて、  レイジングハートの元へと到達するテックランサーを回避……する。  辛うじて、レイジングハートの真横の鎧に火花を散らし、テックランサーの一撃は殆ど不発に終わる。宙を舞うテックランサーの断片。危なかったが、どうやらレイジングハートを傷つける事はなかったようだ。 (なるほど……)  バラゴは、それを成功させた瞬間、鋼牙の意図を察した。  彼は、このレイジングハートを暗黒騎士の弱点か何かと思っているのだ。  そういえば、以前の戦闘ではレイジングハートを装着していなかった。  つまり、彼にとって、胸に赤い宝玉を付けた暗黒騎士との戦いは初めての事なのだ。  キバがレイジングハートを庇ったのは、何て事のない理由だ。  まだ利用価値があるから、破壊させるのも忍びない……それだけである。  だが、キバがレイジングハートに拘る理由を、鋼牙やタカヤが知るはずもないし、知る術はない。レイジングハートは、今「モノ」なのだから。  ……どちらにせよ、捨てようと思えば、バラゴはレイジングハートを捨てて戦える。 (意外な使い方だな。……ただ庇うだけで、相手が勝手に勘違いしてくれるとは)  あからさまに弱点のように見せかけておきながら、実は全く違う。  レイジングハートを破壊するのに躍起になっているようだが、彼らがそれを破壊したところで、キバの力は変わらず、キバの心も痛まない。  なるほど、意外と単純な相手である。 △  眠気、だろうか。  ブラスターテッカマンブレードは、この全身の疲れをそう思った。  これまでの戦いの意識がもう少しはっきりしていれば、それは眠気などではない事はすぐにわかっただろう。  だんだんと、己の身体が朽ちていくような感じがした。 (俺は、死ぬのか……)  今、タカヤがテッカマンの姿をしているのは、戦うためではない。  戦うためではなく、己の身を守るためだ。眼前で繰り広げる二人の騎士の前に、そのとばっちりがいつ回ってきてもいいように、ここで置物のように眺める事だけだ。  ダメージも大きい。  しかし、はっきりと打ち負け、憎しみの声さえ届かないこのもどかしさが、だんだんとタカヤの意識の大半を占めていた。 (俺はこの男に運命を委ねる。……全ては、この男の勝敗にかけよう)  黄金騎士を見て、タカヤはそう思い始めていた。  暗黒騎士に葬られるか、それともこれから生き延びるかは、そこに賭けるしかないのだろうか。 (俺は……)  ミユキは死んだ。京水も死んだ。  ……俺は、死んでもいいのではないだろうか。  遠き日に消えた家族との思い出。そこに帰ると思えば、もう怖い事など何もない。 (俺は……)  しかし。  その思い出を、何かが邪魔する。  決して、家族だけじゃない。相羽シンヤが、相羽ミユキが、相羽ケンゴが……いる家庭、だけではない。  ラダムによって侵略を受けている故郷や、オービタルリング。  タカヤは、そこで……ノアルや、アキと出会った。  彼らの顔を、タカヤは思い出す。 (そうだ……俺は、こんな所で死ぬわけにはいかない……)  ブレードは、殆ど動かぬ脚に力を込めた。  立ち上がれ。  もっと、強く。こんなふらふらの足でどうなる。 (シンヤとの決着もまだだ……! 俺は、死ぬわけにはいかないんだ……!!)  ブレードの活動限界は残り僅かだ。既に危険信号が鳴り響いている。  ただ、それでも、まだ戦う事はできる。 △ 「うぐあああああああああああああああっ!!」  ガロとキバがその異様な雰囲気に気づかないはずがなかった。  ブレードがあげた雄叫び。 「そうだ……。これだ……これが、俺の本当の力……忘れるはずもない……俺の戦い方……。全てのラダムを倒すために……俺は……俺は死ねない!」  死ねない。  それが、相羽タカヤの心の引き金。  たとえ、数多の死闘で全身に、あるいは心に傷を負っていたとしても、タカヤは、生きている限り、生き抜くための戦いをしなければならない。  ささやかな幸せを奪ったラダムを滅するために、戦う。  人類の、今の仲間たちの世界を守るために、戦う。 「クラッシュイントルード!」  ブレードの背中からエネルギーが放出され、キバとの距離はゼロに縮まる。  咄嗟の出来事に、キバは驚愕した。ガロもまた、ブレードにこれだけのエネルギーが残っていた事には驚愕せざるを得ない。  敵に向かって突撃するブレード。 「姑息な……!」  キバの身体に激しい衝撃。キバの全身は、ブレードと大木の狭間に叩きつけられる。  ここでブレードが足掻いたところで、いずれは斬られるというのに。  キバは、余計な邪魔が入った事に苛立ちを感じつつも、ブレードの腹部にはしっかりと黒炎剣を突き立てていた。  今度は、貫通している。 「ぐおっ……!」  ブレードの身体が、地面に落ちる。  だが、ブレードは、その一撃に苦汁を舐めながら、しかし真っ直ぐに敵を見据えていた。 「……だが、死なん……!」  ブレードの肩が開き、エネルギーが充填されていく。  大木との間に挟まれたキバは、思った以上に強い衝撃を与えられていたらしく、眼前の攻撃からの回避の術がない。 「ボルテッカァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!」  キバの真後ろの大木が、次の瞬間には消滅していた。 △  目の前は、煙で見えない。あの大木と暗黒騎士の鎧がほとんどエネルギーを吸収してしまったのか、かつてほどの被害は感じられなかった。  ともかく。  ブレードは、痛む腹部の黒炎剣を引き抜き、遠くに捨てた。 「ぐあっ……!」  先ほどのテックランサーのように、黒炎剣は地面に突き刺さった。  引き抜く瞬間は、流石に相当の苦痛が伴う。  血が噴き出る。身体はボロボロだ。ブレードは、肩で息をしながら、テックセットを解除する。解除しなければ、もう間もなくラダムに支配されてしまうのだ。 「……はぁ、はぁ……。やったか……」  煙の中からは、キバの姿は見えない。  見えないが。 「……まだだ。まだ奴は生きてる。……だがよくやった。後は俺がやる……。下がっていろ」  ガロが、いや、鎧を解除した鋼牙が、そう言った。  彼は、傍らの黒炎剣を見やる。あれが黒炎剣である限り、敵は鎧を解除していない。  鎧を解除していないという事は、中のバラゴの生死にかかわらず、暗黒騎士は襲い掛かってくるという事だ。  鋼牙は、魔戒剣を構えた。 「聞け、バラゴ。本当に強いのは、守るべき者の顔が見えている者だ。それが魔戒騎士“守りし者”の条件だ」  鋼牙は、父ならばこう言うだろうな、と思いながら、バラゴに……真の強さを伝えた。  煙が止む。  鋼牙の目の前には、両腕を胸に前に翳し、今なお、“弱点”を隠し続ける暗黒騎士の姿があった。 △  バラゴは、ただ、自分がこんな事をした事に驚いていた。  確かに、利用できる存在とはいえ、何かを庇いながら戦うとは、少しこれまでとは違った趣向の戦闘方法だったと思う。  その策に溺れすぎたか、と少しばかり考えた。  今後、生存するために利用するはずだった存在。それを守るために、自分が死んでしまっては本末転倒ではないか。 「……レイジングハート」  バラゴには、魔導具がない。その代わりに、バラゴはこのレイジングハートを選び、首にかけていたのかもしれない。それは、かつて純粋に黄金騎士を目指した男の寂しさから、だろうか──。  本当は、あの時。  自分の過去を、レイジングハートに伝えた時。  ──僕は、レイジングハートを利用するためなんかではなく、  ──この寂しさを埋めたくて、レイジングハートにそれを教えたんじゃないか?  不意に、バラゴの脳裏に浮かんだ事実。  あるいは、御月カオルに対しても、そうだったのかもしれない。  旅の途中で出会ったアキラに対しても、そうだったのかもしれない。  今となっては、バラゴには、わからない。  何故、あれほど力を求めたのか。  何故、ホラーに復讐するはずが、ホラーに協力していたのか。  何故、強さのために全てを犠牲にする覚悟を持ちながら、アキラを弟子にしたのか。 「聞け、バラゴ。本当に強いのは、守るべき者の顔が見えている者だ。それが魔戒騎士“守りし者”の条件だ」  暗黒騎士の目の前に、煙が漂う。  どこかで見た白衣の魔導着がはためくのが見えた。  かつても見た。師匠の姿だ。  大河。冴島大河だ。彼の言葉だ。  いや── 「おまえは……」  よく見れば、それは大河のおもかげを残す、息子であった。 「冴島鋼牙か……」  キバは、鋼牙を睨みつけながら、ふたたびその名を呼んだ。  鋼牙。師匠の息子だが、彼は決してバラゴにこんな事を言っていい年ではない。  バラゴが知っていた鋼牙は、まだ十歳前後の童である。  そんな男に、まるで師のような事を言われるいわれはない。  いや、そんな男が、かつての師のように見えていいはずがない。  それに……彼の言葉もまた、バラゴを激昂させた。 「……父の顔も、母の顔もとうに忘れたこの僕には、強さが無いと言うか!」  それでは、まるでこのバラゴの人生は滑稽な一生だったようではないか。  バラゴが思う強さは間違っていた。それに踊らされて、長い日々を無駄に過ごした。  それがバラゴだったというのなら、バラゴの人生とは何だったのだろう。 「まあいいさ。それじゃあ、最後の勝負だ……鎧を装着しろ、黄金騎士。その代わり、僕に剣を渡せ。大河の倅が説く強さが本物か否か、試してみようではないか」  卑怯な暗黒騎士の、妙に堂々とした提案に、鋼牙は顔を顰めた。 △  鋼牙は、みたび鎧を纏い、言う通り、黒炎剣を投げた。  キバが、それを空中でキャッチした時、ガロの初動──。  ガロは、すぐさまキバの元に走り出した。  キバは、その動きを予測し、剣を、ガロの前に立てた。  剣は、胸を狙うに違いない。  奴は、胸のレイジングハートが弱点だと、そう信じている。  だから、奴は真っ先に此処を狙うはずだ。  しかし── 「がっ……!?」  ──勝負は、一瞬だった。  ガロは、キバの予想に反して、その腹を斬った。赤い光が傷口を煌めかせる。  あまりにも手薄であったその腹部を、ガロは斬り抜けた。  ガロは確かに先ほどまで、胸部が弱点だと、そう勘違いしていたかもしれない。  しかし、それを守るために他が手薄になれば、そこが隙になるのは当然の話である。  ましてや、隙を作った場所は、本来守らなければならない自分自身の体だ。  ブレードによるボルテッカの一撃も、ガロによる一太刀も、どちらもトドメと呼ぶべきものだったのだろう。  疲弊したキバの身体を斬った一撃は、闇に堕ちる事もなく、堂々と力を積み上げていった騎士たちのものだった。  かつて憧れた黄金騎士の姿は、バラゴにはもう見えなかった。 △ (……なるほど)  バラゴは、空を見上げる。  間もなく夕暮れだ。空が美しい。  かつて、バラゴは、大河の元で熱心に魔戒騎士となるための修行を受けていた。  その時にも、空を見ていた。……辛い修行の最中、二人で休憩し、笑いあった。  そうだ、懐かしい。  そういえば、アキラとは、あんな風に笑いあう事はなかったな。 (遅かったか……何もかも……)  鋼牙は、去っていく。今更何を告げても仕方がない。  まあいい。全力で戦って負けたのだ。  つまり、バラゴが弱かっただけの事だ。 (どうやら、僕が求めた強さは、間違っていたらしいな……)  バラゴは、それを認めた。いや、認められる時を、きっと待っていたのだ。  本来のバラゴの生き方を邪魔した悪。殆ど、それに乗っ取られていたのだ。そして、誰かに助けを求めていた。  この殺し合いの中でも何人かの戦士は、彼と同じであった。  侍になれなかった者。ウルトラマンになれなかった者。仮面ライダーになれなかった者。正義のテッカマンになれなかった者。プリキュアになれなかった者。  彼は、魔戒騎士になれなかった者だ。 (……もしかすると、僕の魔戒騎士の最後の仕事……。それは、……正しき心を持つ者に全力で挑み……そして、負ける事で、僕自身の求めた強さのまちがいを証明する事……だったのかもしれない)  どちらにせよ、鋼牙は魔戒騎士として、暗黒に落ちた魔戒騎士バラゴを葬った。今となっては、それだけでいい。  悪は葬られた。その生き方が、いかに間違った者なのかを、この身の亡びを持って証明された。バラゴとて、先ほどの戦いで手を抜いてはいないのである。  もはや、すがすがしいくらいだ。  この時、殆どバラゴが正気を取り戻していた事など、鋼牙は知るはずもない。  それでいい。  それで一向に構わないと、バラゴは思う。  どれほどの命を弄び、どれほどの命を子の手で消していったか。もはや、数える事さえもできないくらいだ。  何人、何十人、何百人、何千人。名前も知らない。その家族の事も知らない。  バラゴの行いによって死んだ者たちの数はわからない。  速水克彦、園咲冴子、泉京水、冴島大河、静香、道寺、阿門、風雲騎士。  冴島鋼牙、涼邑零。  そのたび、バラゴはとことん無慈悲だった。  誰の死も、重んじた事はない。 (父よ、母よ、師匠よ……)  そう、この時なら、自分の死さえも。  バラゴ。魔戒騎士の歴史上、最も恥ずべき罪人として名前を残すか。 『Karune!』  胸元でレイジングハートは、バラゴの名前を呼ぶ。  ああ、そうか。こいつは生きているんだった……。 「レイジングハート……」  せめて、寄り添ったこの宝玉に、今生の別れを。  最後の力を振り絞って、その名を呼んだ。 &color(red){【バラゴ@牙狼 死亡】} &color(red){【残り 24人】} △ 「奴は斬ったか……」  タカヤは、眼前の男に言った。  仰向けで、腹を抑え、タカヤは満身創痍の身体を休めていた。  タカヤは、二人の決着を見届ける事はできなかった。元より、初対面の男が、いかに暗黒騎士と決着をつけるかなど興味はなかった。  膝を立て、タカヤの顔を見下ろす鋼牙。肯定の意を表すように、彼は首を縦に振った。 「そうか……。俺の手で決着をつけてやりたかったが」  タカヤは、鋼牙とバラゴの詳しい因縁など知らない。鋼牙の父が共通の知り合いらしい事はわかったが、それ以外は全く知らないままだった。 「……奴を倒せたのは、あらゆる人の協力があってこそだ。お前の一撃がなければ、奴を倒す事はできなかった……相羽、タカヤ」 「……相羽タカヤ。そうか。なんだか、その名前で呼ばれる事には、少し違和感があったんだが」  鋼牙の顔は逆光で見えない。彼がどんな表情をしているのかはわからない。 「俺は、Dボゥイだ。そう呼んでくれ」 「……Dボゥイ」 「お前の名前は……?」  確か、名前をちゃんと聞いてはいなかった。  当人の口から自己紹介として、ちゃんと聞いた事はない。 「冴島鋼牙、またの名を……黄金騎士ガロだ」  鋼牙は、表情を変える事もなく、タカヤに己の名を告げる。 「黄金騎士か、……それなら、俺は宇宙の騎士、テッカマンブレードだ」  まるで対抗意識はないが、己のもう一つの名前を名乗った。  彼らがこうして、その名に誇りを持って名乗る事が出来るのは、ほんの偶然に支えられての事だろう。  正義と悪は表裏一体。  バラゴのように、かつて善であっても闇に堕ちた者は悪。しかし、鋼牙も同じように力を欲し、その道を選んだことがある。  シンヤのように、ラダムに洗脳された者は悪。しかし、助けられたのがシンヤならば、タカヤとシンヤの立場は逆だっただろう。  バラゴが魔戒騎士として鋼牙を斬る時があったかもしれないし、シンヤが人類の味方としてタカヤを葬る時があったかもしれない。  つくづく、因果な人生だ。  敵を葬った時も、決して後味は良い物にはならない。まるで、自分を殺したようで。 「鋼牙。もし、シンヤに出会ったら……俺の弟に出会ったら、お前の手で倒してくれ……」  バラゴは、あの時、タカヤの腹部に深々と剣を刺した。全身を負傷し、全身で血も滴っていたタカヤには限界が来ていたのである。タカヤの全身に向けて、血だまりが広がっていく。  少なくとも、このままでは生きながらえても、このままシンヤと決着をつける事などできないはずだ。  他人に任せる事になるのは癪だが、この際、それしか術はない。 「……いや。それはできない」 「何故だ……」 「相羽シンヤは、もう死んだ。もう放送で名前が呼ばれた……」  道理で。  考えてみれば、つぼみの態度はおかしかった。シンヤの名前を聞いた途端、まるで何か心当たりがあるかのように……。 「そうか……。そうだったのか……。……クソッ」  タカヤは起き上がろうとする。起き上がろうとしても、体が動かなかった。  まさか、既に自分がシンヤと決着をつけたなどとは、タカヤも思うまい。  それに、その決着がついた事を知る者は、もう誰もこの世に残っていなかった。 「休め。テッカマンブレード。お前はよくやった」  決して、死を薦めるわけではないが、鋼牙は満身創痍のその男を、これ以上無理して戦わせたくはなかった。  勿論、生きられるのならば生きた方がいい。たとえどんな生きざまでも、死を薦める事などない。  忘却や死を、苦しみから逃れる手段に使ってはならない。  しかし、彼は── 「死ねない……俺は……」  ──彼らだけは、唯一、家族がいる家に、死という形で帰る事が、許されるのかもしれない。 『おかえり……兄さん』 &color(red){【相羽タカヤ@宇宙の騎士テッカマンブレード 死亡】} &color(red){【残り 23人】} 【1日目/午後】 【D―8/森の中】 【冴島鋼牙@牙狼─GARO─】 [状態]:疲労(中)、ダメージ(中) [装備]:魔戒剣、魔導火のライター [道具]:支給品一式×2(食料一食分消費)、ランダム支給品1~3、村雨のランダム支給品0~1個 [思考] 基本:護りし者としての使命を果たす 1:みんなの所に戻る 2:首輪とホラーに対し、疑問を抱く。 3:加頭を倒し、殺し合いを終わらせ、生還する 4:良牙、一条、つぼみとはまたいずれ会いたい 5:未確認生命体であろうと人間として守る [備考] ※参戦時期は最終回後(SP、劇場版などを経験しているかは不明)。 ※魔導輪ザルバは没収されています。他の参加者の支給品になっているか、加頭が所持していると思われます。 ※ズ・ゴオマ・グとゴ・ガドル・バの人間態と怪人態の外見を知りました。 ※殺し合いの参加者は異世界から集められていると考えています。 ※この殺し合いは、何らかの目的がある『儀式』の様なものだと推測しています。 ※首輪には、参加者を弱体化させる制限をかける仕組みがあると知りました。  また、首輪にはモラックスか或いはそれに類似したホラーが憑依しているのではないかと考えています ※零の参戦時期を知りました。 ※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。 ※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。 ※つぼみ、一条、良牙と125話までの情報を交換し合いました。 【特記事項】 ※今のところ、タカヤの遺体は同エリアに放置されています。タカヤが所持していたテッククリスタルも同じくタカヤの死体と共にあると思われます。 △ 『Karune, ……』  レイジングハートは、また大事な人を喪った。  バラゴ。  その名前を呼んでも、もう返事はない。  いま、確かにレイジングハートは見た。  冴島鋼牙が、バラゴを斬り、命を奪った瞬間を。  バラゴに声もかけず、鋼牙は素知らぬ顔で帰っていった。 『Kouga, I will never forgive you.』  誰もいなくなったこの場所で、レイジングハートは再びそう呟いた。  私は鋼牙を許さない。 『Kouga, I will never forgive you.』  しかし、その声を、聴く者は……いない。  虚しく、何もない森の中に、その声は響く。  レイジングハートは一切の悪事を行っていない。  言うなれば、ただの被害者だ。  レイジングハートは、既にこの世に存在しないバラゴに──今もなお利用され続ける。  もはや人を利用する気も一切ないであろうバラゴの口車に乗せられ、バラゴによって余計な思想を持ったまま。  このまま夕闇が空を覆い、空の色が変わるまで。  レイジングハートは、また思い出したように、何度でも、より強く……復讐を誓うように、歌うように……。 『Kouga, I will never forgive you.』 その言葉を、繰り返すのだった……。 【特記事項】 ※バラゴの遺体、ペンダント、魔戒剣、ボーチャードピストル(0/8)、レイジングハート・エクセリオン、顔を変容させる秘薬はD-8エリアに放置されています。 ※ビートチェイサー2000@仮面ライダークウガのほか、次の支給品がD-7エリアのどこかに放置されています。 支給品一式×6、バラゴのランダム支給品0~2、冴子のランダム支給品1~3、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!、呪泉郷の水(種類、数は不明。本人は確認済み。女溺泉あり)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、双眼鏡@現実、ランダム支給品0~2(シャンプー0~1、ゴオマ0~1)、水とお湯の入ったポット1つずつ、バグンダダ@仮面ライダークウガ、マッハキャリバー(破損済)@魔法少女リリカルなのは *時系列順で読む Back:[[確認]]Next:[[仮面劇のヒーローを告訴しろ]] *投下順で読む Back:[[暁の決意!決着は俺がつける!!]]Next:[[哀しみの泣き声、ふしぎな宝石を見つけました!!]] |Back:[[終わらない戦い。その名は仮面舞踏会(マスカレード)]]|[[冴島鋼牙]]|Next:[[]]| |Back:[[終わらない戦い。その名は仮面舞踏会(マスカレード)]]|[[相羽タカヤ]]|&color(red){GAME OVER}| 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*騎士 ◆gry038wOvE  冴島鋼牙の魔戒剣が円を描いた時、彼の身は金色の鎧に包まれた。  黄金騎士牙狼(ガロ)が吠える。この眩い金色の光を放つ金狼こそ、冴島鋼牙その人であった。  右手の剣もまた変化し、牙狼剣となって切っ先を眼前の怪物に向ける。  敵の名は暗黒騎士呀(キバ)といった。牙狼とは相対的に、その鎧は底知れぬ「闇」を放っていた。闇というものは、通常放たれるようなものではなく、何もないところに存在するものであるはずが、魔戒の鎧はそれを今、放っていた。それは見る人が見れば光と錯覚させるほどに神々しくもある。  暗雲が立ち込めるように、あるいは、無尽蔵な殺気を放つように、そのオーラは暗黒の鎧を中心にして周囲の光を奪っていた。その闇こそが、悪しき強敵の圧倒的な存在感を作り上げていた。 「はああああああぁぁぁぁぁっ!!!」  ガロ、駆ける。  その影は疾風のごとし。ガロに焦点を当てたなら、彼の周囲は景色ですらなくなっただろうか。彼を囲む森の木々は、ガロの輝きに押され、速さに追いつけず、その色さえも失うほどであった。  牙狼剣がキバの胸元へと引き寄せられるまで、一秒とかからなかった。その速さは、まさしく、先ほど喩えた疾風であった。  キバは己と戦っていたブラスターテッカマンブレード──相羽タカヤを引き離すと、暗黒剣を横に構えて真下からそれを受けた。剣と剣は弾きあい、ギギ……と小さな音を立てた。 「フンッ……その程度か」 「何?」 「同じ牙の名を持つ同士だ……折角だから、キバを名乗る意味を今おまえにわからせてやろう」  キバの胸元に輝くレイジングハートは目の前に突き出された攻撃に一瞬に焦りを抱いただろうか。彼女は、きっとキバに救われたと思ったに違いない。バラゴの言葉や敵の言葉に疑問を抱いても、バラゴとの契約を反故にする気はなかったし、一定の信頼値から下がる事もなかった。  バラゴとしては、既に、ある程度の情報は引き出している。後は、このレイジングハートの持つ力とやらを、引き出し、自分の物と成すか、あるいはこのまま「レイジングハート」を知る者の信頼を買い、更に情報を引き出すかだ。まあ、それこそどちらでも構わないが。  ただ、まあ、今この時は何となく、バラゴ自身も、レイジングハートを敵の攻撃から守った認識はしていた。咄嗟に、レイジングハートが傷つけられる事を避けたのである。  価値があるからこそ、だろうか……。  まあ、レイジングハートが秘める力には興味がある。それを得るためには、多少この身を汚しても構わないだろうと思った。 △  時は、少し遡る。 「……親しい者を失うのは辛い事だな」  先ほど。移動の途上で、バラゴはレイジングハートにそう言った。  不意の一言だったので、レイジングハートは驚く。これまでの言葉よりも、レイジングハートはその言葉に対して感情のようなものを感じた。  機械がそんな事を思うのも、変な話だが。  バラゴは、無駄話を嫌う人だと思ったから、それだけ呟いたのだろうと思った。しかし、彼は続けた。 「僕の父と母もかつて、異界の魔物ホラーによって命を奪われた。……僕は、両親を殺したホラーを滅ぼすために……魔戒騎士になったんだ」  レイジングハートは、その言葉を聞いて、少しばかり重い気分になった。これまで半信半疑だったバラゴに対して、「同情」というが生まれたのである。信頼でも疑念でもないが、それはレイジングハートの心を動かすには充分な物であった。  バラゴはそれから、少しだけ道に停まり、家族の話をした。  家族の死。  それを語る時のバラゴの口調は物憂げで、到底嘘とは思えなかった。何かに燃えるような闘志がバラゴの目に映っており、鋭く何かを睨みつけていた。その目は正でも邪でもない。彼が今、見ているのは、忌まわしき過去だろう──とレイジングハートは思った。そんな時の目を、善悪で計れるほど、レイジングハートも機械的ではなかった。  バラゴは今の自分と同じく親しい人を奪われた。そして、その悲しみをバネにして戦っている。彼は悪を狩っている。 「……つまらない話をしてしまったな」  彼はそんな中でもレイジングハートを気遣うだけの優しさを持っていた。それが、不思議とレイジングハートの側も彼に対する信頼を生ませる形になった。  信頼──いや、依存というべきかもしれない。  バラゴの見せた人間味と、同情すべき過去、「親しい人の死」という小さな記号が合致した(通常の神経ならば親近感を抱くほどではない)些細な偶然。  それが、バラゴに対する盲目を作り出した。  バラゴの内心や事情をよく知っている一方で、相手の事情は一切知らない。ゆえに、レイジングハートは相手方の短所ばかり見つけて、バラゴに正当性があるようにこじつける心理を働かせ始めていた。 『Kouga, I will never forgive you.』(鋼牙。私はあなたを許さない)  敵の冴島鋼牙と、味方の龍崎駆音。  この構図は、もはやレイジングハートの中では揺るがない真実と変わっていった。  鋼牙の境遇や内面を知らないレイジングハートは、鋼牙に微塵の同情も信頼も寄せられないが、それらを少しでも受けた駆音に対してはそれができる。  もはや、レイジングハートの中に正常な判断のできる神経などほとんどなかった。  バラゴが決めつけた龍崎駆音という名前──この名前の時のバラゴが心理学や精神医学に精通した心理カウンセラーである事など、レイジングハートが知る由も無い。  他人に絶対の信頼を寄せさせるためには、同情を寄せさせるのは一つの手である。  そう、バラゴは、レイジングハートを己に取り込むために、レイジングハートの精神を揺さぶる目的でこれを話したのである。  しかし、こうして、心理的な操作のためとはいえ、誰かに内情を伝える事は、──少なくとも、「このバラゴ」にとっては初めての経験だっただろう。だから、何故か、妙な連帯感が生まれる事になった。  機械的で、意思があるのかないのかさえわからない。他人の死を悲しむ事はできても、果たして人間らしい喜怒哀楽がはっきりしているとは言えないこのメカニズム。  だからこそ、なのだろうか。  プログラムを書き換えれば、人間よりも扱いやすい存在なのかもしれない。 △ 「フンッ……」  ガロの刃は弾かれ、キバの一太刀がガロの左肩へと食い込んでいく。  血が吹き出し、胸のレイジングハートはその返り血が濡れる。血を浴びる趣味はないが、またこれも敵を倒すための必然だというならば仕方ないかもしれない。  ガロの方も肉を切らせて骨を断つ覚悟で横凪ぎに剣を振るう。小さな風が起こるが、鎧はそんなものをものともしない。  キバは風を受けると同時に、後方に高く跳び上がった。マントがはためき、キバの両足は地を離れて木の枝に立つ。 「グッ」  タイミングよく避けたつもりであったが、どうやら腹部にしっかりとガロの一撃による傷跡が生まれたらしい。  キバの鎧の内から、黒く染まった血液が垂れた。  なるほど、やはり冴島鋼牙は実力を上げている。もう一方の無名の魔戒騎士が相応の力──無力に等しい力──しか持っていなかったのとは対照的だ。  戦いで、血を流すのはいつぶりだろう。  あまりにも久々すぎて、一瞬ばかり、敵の血だと思ってしまったほどである。誰の血なのかは、流石にすぐにわかったが、純粋な驚きと、それから喜びが湧きあがった。  闇に堕ちない騎士が、これほどの力を持ったとは。 「……はぁっ!!」  掛け声を聞いてキバは再び飛び上がる。  休んでいる暇はない。来るのはテッカマンブレードによるテックランサーの投擲。  つい先ほどまでキバがいた場所に向けて放たれたテックランサーは、木の幹に深々と突き刺さる。  いや、突き刺さるどころの騒ぎではなく、テックランサーは木を貫通していた。  まるでリンゴを握りつぶすようにあっさりと弾け、骨太な大木は一瞬で粉塵へと変わる。 (一歩間違えば、危ういか……)  キバは着地した後、木の滓を頭から被っていた。  それを意に介す事もなく、キバは剣を構える。  むしろ、上手く避けなければこのデスメタルの鎧もどうなったかわからないのだから、この程度を気にしてもいられないだろう。  余裕を持った戦いをする事はできない。 (とはいえ、黄金騎士がある程度落ち着いて戦っているのに対し、この男は感情を露骨に剥き出しにしている……付け入る隙は充分だ)  肌色の粉を振り払いながら、キバはテッカマンブレードに狙いを定めた。  まずは弱い者から潰していった方が、効率は良い。単純なエネルギー量において勝るテッカマンブレードは弱いながらも厄介で、ガロとの戦闘中にブレードの攻撃を受けてしまえば致命傷となる事もある。  キバの隙を見つける程度の戦闘経験はあるようだし、そもそもブレードは投擲にしろ戦闘にしろ「筋」は通っている。  天賦の才とでも呼ぶべきだろうか。  そこに相乗して、常人程度の努力も重ねていたようだが、所詮はキバに勝る者ではないと考えられる。 「フンッ」  キバは鎧の重量からは考えられぬスピードでブレードの眼前まで飛ぶ。  ブレードが顔を上げると、その仮面めがけて大剣が叩きつけられた。 「なっ……ぐああああああっ!!」  既にタカヤの身体の内で最も損傷が激しい脳の部分を強打した瞬間の痛みと来れば、もはや形容する事ができないほどであった。  脳がかき回されるような感覚に、咄嗟にブレードは己の頭部を抑えた。  棒を振り下ろされたスイカの感覚を、ブレードは味わっていた。  そこにすかさず、キバはもう一撃、横一閃──ブレードの胸を抉る剣技を見舞う。 「あああああああああああああああっ!!!」  ブレードの体液が吹き出し、レイジングハートはまたそれを浴びた。  もはや、元来のレイジングハートの透き通る赤い輝きは、どす黒い血の色に染まり、輝く事もなくなっている。  流石のレイジングハートにも不快感が募る。 「……」  しかし、龍崎駆音との契約のひとつ。  喋ってはならないとの契約から、レイジングハートは冷徹無比な「物」を貫き通す。  機械ですらない、ただの水晶玉。喋るはずもない。できるなら思考も奪いたいところだが、思考という物は簡単に止められるものではなかった。人が苦しむ姿への嫌悪。それはある。  しかし、限りなく無に近い状態で。息を止めるように。レイジングハートは、「物」であり続けた。 「……来るか」  背後から、ガロの気配を感じた。キバと同じく牙狼剣を構え、こちらに向かってくるガロは、おそらくキバのその背中を狙う。キバはそれに気づいている素振りさえ見せず、前方のテッカマンブレードに注意を払った。  ブレードも決してただ頭を抱えるだけではないようだ。  まだ脳がかき回されるような痛みに耐えているかもしれないが、それでも目の前の敵に一撃浴びせるべく、拳を前に突き出した。 「うおりゃあああああっ!!」  ブレードのただの我武者羅な一撃。しかし、それはあっさりとキバに手首を掴まれる。残念ながら、不発だ。  無論、手首を掴まれただけでは終わらない。攻撃の失敗は、そのまま敵の攻撃に転ずる。  ブレードの手首をつかんだまま身を翻したキバは、ブレードの背後に立つ事になった。その動作によって、ブレードの腕は大きく捻られ、右肩から先全てに刺激が走る。  そして、こうしてキバがブレードの背後に回ったという事は、ブレードの眼前にあるのはガロの剣であった。 「何っ!?」  ガロは咄嗟の出来事に対応しきれず、そのままブレードの腹を切り裂く。狙ったのはキバであったというのに、これでは同士討ちだ。  直前で最低限力を弱めたとはいえ、牙狼剣の威力は凄まじく、テッカマンブレードはその剣の鋭さを全身に感じた。頭頂から指先まで、四肢にも頭部にも激痛は巡り、その縛りが消えた時、テッカマンブレードはついに地面に足を突いた。 「……ぐっ」  しかし、ブレードはその痛みの中で、叫び喘ぐ事もなかった。喉が締まるような感覚とともに、叫びさえ出なくなったのである。  てっきり、首を絞められているのかと思ったが、おそらく首の筋肉が硬直したのだろう。  痛みというよりか、麻痺に近い。首から上が、吊ったように動かなかった。  やがて、それが自然と消え去ると、再び満身創痍の身体に鞭を打って立ち上がる。身体は罅割れ、全身は血を流す状態だ。足はもはや、通常ならば立ち上がれない状態である。目の前で仲間を奪われた怒りが彼を動かす原動力だった。 「そこかぁぁっ!!」  ブレードは、目の前に拳を振るう。そこに何があるのか、など、見えても……あるいは、考えてもいないだろう。ほとんど掠れた意識から放つ攻撃は、視覚にも聴覚にも頼らない。いや、もはや頼れないのである。  先ほど目の前に斬撃が放たれたのだ。今、そこには敵がいるだろう……。──短絡的な思考が彼を動かす。  真っ暗な世界で、世界の全てを恐れるように、信頼さえもしないように攻撃を続ける。  その攻撃の主がガロである事に気づく事もなく、ただわけもわからずに、どこかにいる「敵」を狙った。 「……やめろっ!! 俺は味方だ!!」  ガロの言葉など聞こえない。一撃、一撃。また一撃。テッカマンブレードの拳はガロに向けて振るわれる。  黄金の鎧を殴打する真っ赤な拳。二つの物体が弾け合った。  ガロはどうする事もできず、ブレードを引き離そうと努めるも、それはまた無意味だった。 「おりゃああああああっ!!」  ブレードの首はガロの首を掴み、ダイナミックに彼の身体を吹き飛ばす。この力は、ガロの装着者にとっても意外だったろう。  空中で数回転しながら、ガロは地面に叩きつけられ、跳ねた。叩きつけた方向にブレードは駆け、その身体を踏みつけた。距離間隔だけは寸分の狂いもない。  そして、ブレードはこう思った。「確かにその一撃は“鎧”を踏みつけている」。自分を攻撃した敵──バラゴを踏みつけているのは間違いないだろうと、ブレードは確信していた。 (……くっ、時間がない)  重いダメージを受けながらも、ガロが考えているのは全身の痛みの事などではなかった。  そう、ガロには鎧装着のリミットがある。鎧を装着できるのはほんの僅かな間だというのに、こうして仲間割れをしている時間がどこにあろうか。  その「時間」というものは、ガロだけではなく、ブレードの方も焦らせていた。  現状でブレードが変身を続けられる時間は残り十分程度だろうか。ガロの方が変身を続けられる時間が短いとはいえ、このまま三十分変身し続ければラダムになってしまう。その性質への恐れが、──そんなリスクを避けるの行動が。まるでラダムと同じように「暴走」させているのは、何という皮肉だろうか。  ガロは、やっとの思いで、テッカマンブレードのキックのタイミングをとらえ、脚を掴んだ。ブレードはそのまま動けなくなる。その隙に、ガロは立ち上がった。  なるべく味方として共に戦いたかったが、この状態のブレードと共闘するのは不可能だ。  まずはキバとの決着をつけねばならない……と周囲を見回すと、 「ここだよ、黄金騎士」  黄金騎士の鎧を砕いて背後から突き刺すような一撃がガロに伝わる。  いつの間にか、キバはガロの背後を捉えていたのだ。  ガロがキバを見失い、ブレードは状況を冷静に見られなかった。  その状態が大きな隙で無くて何だろうか。キバが付け込まないはずがない。  キバはそれを引き抜くと、ガロの身体を蹴り飛ばした。 「……ぐぅぁっ!!」  小さな嗚咽とともに、ガロはブレードの身体にぶつかる。  二人まとめて土の上を転がった。 「無様だな……冴島鋼牙。そのまま消してやる!!」  暗黒の剣を盾に構えたキバは、数メートルは離れた場所にいる二人に向けて、剣を振るった。その衝撃は風を乗せて、二人のいる地面まで到達する。黒く染まった衝撃。常人の剣技を見慣れているものならば、非現実的だと思うかもしれない。数メートル離れた相手に向けて放たれた一振りが、闇の色を帯びてそのまま目標に到達する事など。  しかし、これは魔戒の騎士が齎した現実であった。魔戒に足を踏み入れた彼らならば、今更こんな事では驚きもしない。  地に伏す二人に成す術などない。  まるで地雷でも爆発したかのように地が爆ぜると、その上にいた二人は大きく飛び上がる。 「ぐああああああっっ!!!」 「ぬあああああああっ!!!」  二人の戦士は、そのまま、後方に吹き飛ばされる。風か黒い爆炎か、この一撃が起こした衝撃に吹き飛ばされたのだ。  着地した場所は斜面になっており、そのまま二人は自動的にそれを転がり落ちる。何度か木の根や木の幹にぶつかり、小さな悲鳴をあげながらも、二人は自分が下降していくのを止められなかった。それらはストッパーとしては弱かったのだろう。ただ、二人を打撃するための障害物にしかならなかった。 「……しまったな。探すのが面倒になる」  長く急な斜面を眺めながら、キバ──いや、バラゴは呟いた。  思ったよりかはガロの圧倒も容易であった。しかし、可能な限り目を付けておくべき相手なのは確かだ。  前に戦った時は二人がかりで手も足も出なかったというのに、この間の戦闘では一対一で互角。今回は偶然にもテッカマンブレードがああして我を失っていたのが幸いだった。 「レイジングハート。周囲には誰もいない。喋っても構わないぞ」 『OK.』 「……あれが、冴島鋼牙だ。他のやつらは見ない相手だったが、あの男はよく覚えておくといい」  バラゴは、そう教えながらレイジングハートの血を拭う。  バラゴの言葉に、──『Fate……』──レイジングハートは、フェイト・テスタロッサの事を思い出さずにはいられなかった。  鋼牙──その男は、レイジングハートにとって、フェイトの仇の名前だったのだから。 △ 「……くっ……」  剣を杖に、鋼牙は起き上がった。  見上げると、数十メートル──いや、百メートルくらいはあるだろうか。  よく生きていられたものだと思うほどの長い斜面があった。  幸いにも、鋼牙には意識があった。流石に黄金騎士の鎧は解除されているものの、意識があり、全身の怪我も大事には至らない程度に抑えられている。  バラゴ。──暗黒騎士キバ。  やはり侮ってはならない相手である。何千体ものホラーを宿した暗黒の鎧を持つ騎士だ。無論、簡単に倒されるはずがない。 「……大丈夫か?」  鋼牙は、傍らに倒れ伏すブラスターテッカマンブレードに声をかけた。  その巨体は、鎧を纏った時の鋼牙からすればまだそんなに大きくは見えないが、人間としての鋼牙から見れば化け物である。  しかし、鋼牙はその姿を恐れない。彼は既に先ほどのような暴走はしないだろうし、鋼牙はブレードが攻撃体勢に入れば、すぐに回避運動に入る事ができる。  ともかく、ブレードは起き上がった。やはり、暴走はしない。 「ここは…………くそっ!!」  周囲を見渡し、テッカマンブレードは自分が斜面を落ちた事を理解する。  全身は傷だらけだったが、先ほどに比べると冷静であった。少なくとも、視覚や聴覚の情報を遮断してまで敵を攻撃するほどではない。いや、それは敵が前にいないからだろうか。  辛うじてタカヤの記憶を繋ぎとめていた京水が殺されたのは、やはりタカヤにとっても強い怒りを放たせる原因だった。 「……そうだ、奴は!? 奴はどこだ!!」  意識がはっきりとすればするほど、自分の中にこみ上げていた怒りも確かなものになってくる。まるで、竜巻のように、彼の中の怒りはその姿を増す。いや、現状では、そうして小さな感情を爆発させることだけが、彼の唯一無二の生き方だった。  暗黒騎士キバが一体どこにいるのか──その一点に、ブレードの興味が向かっていた。  ──そう、記憶を失った彼にとっては、人の死や人が殺される事は、新鮮な体験であり、新鮮な怒りでもあったのである。  そんな相手に対する恨みも、普段の何倍にも膨れ上がっていた。  それと同時に、その感覚を、心の奥底で何度も味わったような──そんな複雑な、心の震えが止まらない。 「今はまだ、奴を相手にする段階じゃない。まずは頭を冷やせ!」  鋼牙はブレードを恫喝する。変身さえ解かないブレード。タカヤにならないという事は、彼はまだ戦いへの未練がある証だ。  現状では、キバを相手にしたところでやられるだけだというのは容易にわかるはずだ。しかし、ブレードはそれを飲み込む事は出来なかった。 「そうもいくか!! 奴は……奴は京水を!! ……あんな奴を放っておくわけにはいかない!!」 「駄目だ。二人で力を合わせて戦わなければ勝ち目はない」 「ならば何故、お前は戦わない!!?」  目の前で変身を解いて立ちすくんでいる鋼牙に、ブレードは些細な怒りを沸かせた。  これが彼の戦闘時の形態でない事はブレードもよく知っている。  相羽タカヤがテッカマンブレードに変身できるように、彼もまた変身能力を有しているはずだ。 「……奴を倒すために焦りは禁物だ。命を捨てに行くようなものだぞ」 「……奴を倒すためならば……俺はそれでも構わない!」  ブレードの怒号とともに時間が止まる。  鋼牙も何も返す事ができないほどの迫力であった。まるでブレードの本心の全てをまとめ上げるような言葉だった。  そうして止まった時間を戻すように、ブレードは弱弱しい声で言った。 「……俺には時間がない。時間がないんだ……」  何のために戦うか──その記憶が抜け落ちてしまうのではないかという恐怖が、なぜかタカヤの心の奥底に在った。  このまま何度戦えるかもわからない。  ブレードの背中から、強力なエネルギーが放出される。 「待て!」  鋼牙の制止を振り払い、テッカマンブレードはこの斜面の上に向けて飛んで行った。 △ 「おや……? 用があるのは君ではなく、もう一人の方なんだがね」  テッカマンブレードが地に足をつけた時、そこにいたのは黒衣の美青年であった。  二十代にも見えるし、三十代と言われても合点がいく。四十代、五十代と言われてもまだ理解する事ができるし、十代や六十代まで行くとやや極端だが在り得るともいえる。  そんな正体の掴みにくい男だったが、しかしその胸の赤い宝石が確かにあの騎士と同じであった。 「…………京水の仇だ!!」  ブレードは、テックランサーを構えた。  バラゴは、胸にかけた二つのペンダントを掴み、空中で回転させる。鎧を召喚するためのペンダントによって、暗黒の鎧がバラゴを包む。  暗黒騎士キバとなった彼は、レイジングハートを胸に装着した。  装着される時は、いつもレイジングハートはキバの鎧の冷たさを感じる。しかし、レイジングハートはそれを気にする事はなかった。闇の鎧を、たったひとかけらだけでも照らす光として、レイジングハートは輝く。  物、として。 「……潰す!! 貴様を潰す……!!」  ブレードは、先ほどと全く変わらない。  まるでイノシシのように、怒りに心を奪われる。猪突猛進。まるで戦いをわかっていない。憎しみに心を奪われた戦士……そういうと、まるでかつての己のようだ。愚かだった頃の自分と寸分違わない。  だが、今は違う。バラゴは、彼のように深い怒りの感情に縛られる事はない。  戦闘における強さはバラゴが上だ。 「望むところだ」  駆け出したテッカマンブレードのテックランサーがキバを狙う。  黒炎剣はそれを弾き返す。黒炎剣は、そのままブレードの胸部に向けて、そのまま真横に振るわれる。手ごたえがある。これで、ブレードは数メートル後方に引き下がる……はずだった。 「うおおおおおおおっ!!」  実際は、ひるまずにテックランサーを両手で構えてキバの肩にそれを突き刺す。  キバの脳内が捉えていた未来とは、少し違った攻撃だ。 「……何!?」  痛みを恐れずに──いや、受けた様子さえなく、テッカマンブレードが攻撃を仕掛けた事に驚愕する。しかし、キバの身体もまたそれを痛みとは捉えなかった。  無論、キバにとっては意外だった。  よもや、再びキバが血を流す事になるとは。  鎧を貫き、バラゴの腕にもそれは突き刺さっていたが、決して痛みはなかった。鎧に食われた時点で、バラゴもまた人として成り立たない存在になっているのだ。この程度の痛みは痛みと認識する事がない。  ……まあ、端的に言えば、少し驚いただけだった。  むしろ、キバについて、この攻撃は好都合。  この時のブレードの姿は、こう呼ぶべきだろうか。──攻撃に満足して隙だらけになった、と。 「……フンッ!!」  黒炎剣はXを描くようにテッカマンブレードの身体を切り裂く。深々と、──それこそ、人ならば一撃で刺し貫き兼ねない力を込めたまま、その身体を斬ったのだ。  この時こそ、ブレードは遂に数メートル後退した。 「ぐっ……ぐぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」  ブレードが、その痛みに慟哭する。実を言えば、これまでも痛みは消え去ってなどいないのだ。とにかく敵を滅する意志が、ブレードを突き動かしているに過ぎない。  要は、精神で痛みを殺し、立ち向かっていったのである。  しかし、この時のバラゴの太刀は、その意志さえも一瞬で打ち砕く業であった。 「消えろッ!!」  キバは、無慈悲なひと言とともに、もう一度、ブレードの胸を──その胸を抑える両腕の甲ごと、突き刺した。血は吹き出さない。彼の胸は、既に充分なほど血を吐き出したからだ。  ブレードの手にあったテックランサーは、ブレードの手の中から落ちる。  真っ二つ。  真ん中から、綺麗に分断される。元々ついている機能ではあるが、ブレードが意識的に分断したわけではない。テックランサーは、柔らかい土を突き刺した。ともかく、ブレードには、素手のほかに戦う術がなくなった。  追い詰められたブレードは、力を込めようとするも、剣を突き刺された勢いで数歩後退し、木を背にした。  一定のエネルギーを使い果たしたか、激しいダメージの影響か、ブラスター化が解除され、ブレードは元の姿に戻った。 ◇ (俺は勝てないのか……この怪物に……)  タカヤは思う。  障害物を背にして、眼前には暗黒騎士キバ。  肉弾戦ではもはや勝ち目はない。この圧倒的な剣のセンスは、タカヤのような人間の秀才がいくら必死で戦ったとしても、倒すどころか、ダメージを与える事さえ難しい。  ブラスター化まで解除されてしまったのだ。  いや……。 (俺は、こんなに弱かったのか……?)  今までも、幾つもの戦いを超えて、ここまで来たような気がする。  具体的には思い出せない。  何か。  何かが、あったはずなのだ。この身体だけが、決してゴダートやシンヤとの格闘で養っただけではありないようなセンスを感じさせている。  確かに、力だけはタカヤにも覚えがないほど強くなっている。無我夢中で戦っている時も、体は勝手に、キバを倒す方法を模索しているのだ。それは、かつての彼自身のセンスや教養を超える範囲の力だ。  ──それは、きっとタカヤが忘れているだけの、スペーツナイツでの数多の戦いや、このバトル・ロワイアルでの戦いを、覚えている「身体」の行動だろう。 (何故だ……俺は、何故、こんなに強く、こんなに弱いんだ……!)  そう思いながら、眼前でキバが剣を振りあげるのを見つめていた。 ◇  その時。 「全く。世話の焼ける奴だ」  藪の中から、もう一人の刺客が姿を現す。  冴島鋼牙、いや、黄金騎士ガロ。  ガロは、暗黒剣を抜き取るキバの真後ろに、黄金剣で飛びかかった。 「……とんだ、デンジャラスボゥイだな」  刃と刃が互いに傷つけあう音。  キバは、引き抜いた剣を、咄嗟に襲い掛かった黄金騎士の方に構え、盾として敵の攻撃を封じていた。背後からの気配を察したのである。 「全くの同意見だ、大河の倅……」 「初めて気があったな……だが」  二人の騎士は、互いの目を見て、会話を交わしながら、その手に力を込める。  同じ冴島大河のもとに生まれた魔戒騎士。その太刀筋は相似していた。だからこそ、互いの太刀は、この時ばかりは軽い力しか籠めていない事に気づいていた。 「残念な事だ。……お前は俺が斬る!」  剣を引き合い、ここからが本気の戦いだ。  今の一撃、鋼牙はバラゴが見抜くのを知っていたし、バラゴは鋼牙があまり力を込めて打ち込んで来ないだろうと予想していた。 「……確かにお前はかつてより強くなった。とはいえ、私には敵わない。私を斬れるか?」 「よせ。お前は、一度斬られた身だ。どうやら、お前は知らないようだがな」  暗黒騎士は、ガロのほうを見もせずに、振り向き、剣を構えた。その剣の切っ先は、テッカマンブレードの首元に向けられていた。動く事さえままならないブレードの、首元を狙った時、ガロの動きが止まった。 「仲間が大事か」 「……」  肯定も否定もしない。もう無駄話は要らない。これ以上、口を開く必要はない。真剣勝負だ。一瞬の気のゆるみが勝敗を分ける静寂の世界での戦いだ。 「……それでいい。この男はもう動く力も残っていないだろう。この男の息の根を止めるのは、貴様が倒れてからでも充分だ……。いくぞ」  まるで、ガロが応えるか確認しただけだったかのように、キバはブレードに対する興味を失い、剣の先をガロに向けた。  キバは、無言で、剣を真横に凪いだ。  ガロはそれを柄で弾き、跳ぶ。ガロが暗黒剣の上に立つ。  キバの腕は、ガロの重量を易々と持ち上げ、ガロを後方へ吹き飛ばす。  そこには、息も絶えかけたブレードがいる。このままでは、激突する。 「……くっ」  ガロは、腕を伸ばし、多少無理のある体勢で、ブレードが寄りかかる木の幹に剣を突き刺す。それを鉄棒代わりに、ガロは上方へ避け、ブレードとの激突を回避する。 △ 「……強いな……お前は」  不意に、真下から聞こえた声。ガロは、敵に集中しつつも、一瞬気を取られた。  テッカマンブレード、相羽タカヤ。木に肩を寄せる彼の声である。その言葉は、まるで鋼牙を羨んでいるように、あるいは、自分自身を嘲るように、虚しく響いた。  ブレードの外形からは表情が読み取れないが、頭を垂れた彼の姿からは、一縷の生気も感じられなかった。  あれだけの憎しみを持ちながら、あれだけキバを憎む心を強く持ちながら、何もできない自分自身が不甲斐ないと、タカヤは思っていたに違いない。  ガロは、いや、冴島鋼牙は思った。 (違う……。俺は決して強くはない……。俺だけが強いんじゃないんじゃない……)  果たして、歴史が「冴島鋼牙」から始まっていたならば、鋼牙は決して強くはなれなかった。  そう、鋼牙は確実な積み重ねと共に生き、先人たちの屍を超えて戦ってきたのだ。  鋼牙が憧れた偉大なる父、冴島大河。その意志は今もなお剣に眠る。  優しき母、冴島りん。その思いは今もなお鋼牙の栗色の髪に宿る。  守れなかった親友、ヤマブキ、クロ、アカネ、ムラサキ。その日々は今の彼の剣に、胸元の誓いに残る。  かつて黄金騎士の名を継いだ英霊たち。その戦いは鎧に刻まれている。  ザルバ、零、翼、阿門、邪美、カオル……。  今日まで描かれた物語が、鋼牙の背中を押し、鋼牙の強さとなる。  その記憶が、その思いが、鋼牙を強くしているのだ。  「記憶」  それが、今のタカヤに欠落している「力」なのだと、鋼牙もタカヤも知る由もない。 △  ガロが着地する。  ──キバは、そんなガロの眼前まで来ていた。  黒衣をなびかせ、ガロの瞳を突き刺そうと剣を立てる。  しかし、ガロはそれを己の剣で防いだ。 「……聞こえたぞ、黄金騎士。その男はお前を強いと言ったな」  どうやら、キバの耳に入っていたらしい。  強さ。──それは、キバが渇望して止まないものだ。かつて、両親を殺し、己の平和を奪った「ホラー」。それを倒すべく、バラゴが得ようとした「強さ」。そして、やがてバラゴは、その「強さ」こそが全てであり、魔戒騎士の使命など忘れるようになった。  だからこそ、彼は、この言葉だけには反応せざるを得なかったのだ。 「だが、違う」  ブレードの目線で鍔迫り合いをしながら、ガロとキバは互いの瞳を睨む。 「お前は本当の強さに足を踏み入れてはいない。……魔戒騎士の持つ制約を忘れてはいないだろう。その制約を破り、鎧に食われる事で、魔戒騎士はより強い力を得られる。その制約に縛られ、愚かに倒れていった魔戒騎士を私は何人も知っているぞ」  そう、魔戒騎士は99.9秒しかその鎧を纏う事はできない。  黄金騎士、銀牙騎士、白夜騎士、雷鳴騎士──あらゆる魔戒騎士に例外なく、この制約は、降りかかる。  だから、本来は鎧の装着は、人間界で使うには本当に最後の手段、言うならばトドメなのである。魔界ならばともかく、この場では鋼牙はその力を使えない。 「鎧装着のタイムリミットはもう間もなくだ。この僕を倒したいならば、このまま放っておくわけにもいくまい……」  バラゴは、鎧の中でニヤリと笑っただろう。  鋼牙が鎧に食われたとするならば、それはそれで面白い。──いや、むしろ、それを期待しているのだ。  鋼牙や零──純然たる魔戒騎士の彼らが、自分と同じ闇に堕ちるのである。その方が喰い甲斐があるというものかもしれない。  かつて、バラゴがこのままバトル・ロワイアルに連れてこられる事がなかった世界では、鋼牙が闇に堕ちようとした。その時、バラゴも戸惑いつつ、ニヤリと笑った事があった。それと同じだ。  彼は、どこかで自分と同じ場所に他の魔戒騎士を引きずり下ろそうと……そう思っているのではないだろうか。それが遊戯を求め続けるからか、あるいは人間の心が寂しがっているからかは、誰にもわからないが。 「バラゴ……。一つ訊きたい。お前は、俺の父から、一体何を学んだ……? 父は……冴島大河は、決してそれを強さとは教えなかったはずだ」  限りなく、タイムリミットに近づいている中でも、ガロはそれを聞かずにはいられなかった。  鋼牙は、バラゴの心に深く踏み込んだ事はない。  しかし、父の弟子が。父が師事したはずのこの男が、こんな事を言ったこの時──鋼牙どうしようもなく、むず痒い気持ちになったのである。 「考えろ。黄金騎士・冴島大河は、誰によって敗れたか。……鎧の力を解放した魔戒騎士ではないか?」  その魔戒騎士とは、バラゴ自身だ。  しかし、バラゴは敢えて曖昧な言い方をした。胸元のレイジングハートに、それを知られると不都合な部分が出てくる。 「……守りし者の存在こそが、何よりも、俺達、魔戒騎士の力……俺の父はそう教えた。いや、俺達、黄金騎士に代々伝わってきた教えだ。お前に、黄金騎士を……」  だが、この言葉を聞いた時、ほんの一時ばかり、レイジングハートは思った。  もしかすると、この冴島鋼牙という男は、悪人ではないのかもしれない。  自分の中に在る善悪構造こそが間違っていて、冴島鋼牙は間違って等いないのかもしれないと。  否──  ガロは、剣を構えたまま、数歩前に出た。  隙を作った腹部を狙うかと思いきや、彼が狙ったのはその胸。 「冴島大河の名を」  しかし、キバは、咄嗟にその胸を、左腕で守り、右手の剣でガロの脇腹を狙った。  この状況で、特に鎧の装甲が硬い胸部を守る必要があるだろうか。  隙が出たところで、今のキバがそうしているように、腹を狙われるに違いない。  ガロは、脇腹の一撃を受けながらも、脚で地面を蹴りあげた。地面は深く盛り上がり、一本の刀が、地中から飛び上がる。 「……口にする資格は、無い!」  鋼牙にとって、二本目の剣。いや、鋼牙たちにとって、もう一本の剣。  半分に砕かれたテックランサーが、真下から、飛魚のようにキバを襲った。  キバの左手は塞がっている。右手はガロの鎧を断つ剣の手が止まらない。 『Karune!』  テックランサーの片割れが狙ったのは、バラゴの胸元に輝く真っ赤な宝玉。  レイジングハートは叫んだ。  バラゴの名前を呼んだ。  キバが、この宝玉を庇うような仕草を見せた事にガロが、気づかぬはずはなかった。  だからこそ、彼はそれがキバにとって何らかの弱点だと思い、今、その宝玉を狙ったのである。  そして──。  レイジングハートが、魔導具のように意思を持つ宝玉である事に、ガロは、気づいているはずもない。  だからこそ、冴島鋼牙は、魔導具でも何でもない、新たな力の源なのだろうと察して、何の躊躇もなく、レイジングハートを狙った。 「くっ……!」  一方の、キバはレイジングハートが狙われた事を知り、戦慄する。  間に合うか、間に合わぬか。バラゴは、咄嗟に身体を逸らし、テックランサーの軌道がレイジングハートに辿り着かないようにした。  牙狼剣を左手で弾き、  右手の黒炎剣を引いて、  レイジングハートの元へと到達するテックランサーを回避……する。  辛うじて、レイジングハートの真横の鎧に火花を散らし、テックランサーの一撃は殆ど不発に終わる。宙を舞うテックランサーの断片。危なかったが、どうやらレイジングハートを傷つける事はなかったようだ。 (なるほど……)  バラゴは、それを成功させた瞬間、鋼牙の意図を察した。  彼は、このレイジングハートを暗黒騎士の弱点か何かと思っているのだ。  そういえば、以前の戦闘ではレイジングハートを装着していなかった。  つまり、彼にとって、胸に赤い宝玉を付けた暗黒騎士との戦いは初めての事なのだ。  キバがレイジングハートを庇ったのは、何て事のない理由だ。  まだ利用価値があるから、破壊させるのも忍びない……それだけである。  だが、キバがレイジングハートに拘る理由を、鋼牙やタカヤが知るはずもないし、知る術はない。レイジングハートは、今「モノ」なのだから。  ……どちらにせよ、捨てようと思えば、バラゴはレイジングハートを捨てて戦える。 (意外な使い方だな。……ただ庇うだけで、相手が勝手に勘違いしてくれるとは)  あからさまに弱点のように見せかけておきながら、実は全く違う。  レイジングハートを破壊するのに躍起になっているようだが、彼らがそれを破壊したところで、キバの力は変わらず、キバの心も痛まない。  なるほど、意外と単純な相手である。 △  眠気、だろうか。  ブラスターテッカマンブレードは、この全身の疲れをそう思った。  これまでの戦いの意識がもう少しはっきりしていれば、それは眠気などではない事はすぐにわかっただろう。  だんだんと、己の身体が朽ちていくような感じがした。 (俺は、死ぬのか……)  今、タカヤがテッカマンの姿をしているのは、戦うためではない。  戦うためではなく、己の身を守るためだ。眼前で繰り広げる二人の騎士の前に、そのとばっちりがいつ回ってきてもいいように、ここで置物のように眺める事だけだ。  ダメージも大きい。  しかし、はっきりと打ち負け、憎しみの声さえ届かないこのもどかしさが、だんだんとタカヤの意識の大半を占めていた。 (俺はこの男に運命を委ねる。……全ては、この男の勝敗にかけよう)  黄金騎士を見て、タカヤはそう思い始めていた。  暗黒騎士に葬られるか、それともこれから生き延びるかは、そこに賭けるしかないのだろうか。 (俺は……)  ミユキは死んだ。京水も死んだ。  ……俺は、死んでもいいのではないだろうか。  遠き日に消えた家族との思い出。そこに帰ると思えば、もう怖い事など何もない。 (俺は……)  しかし。  その思い出を、何かが邪魔する。  決して、家族だけじゃない。相羽シンヤが、相羽ミユキが、相羽ケンゴが……いる家庭、だけではない。  ラダムによって侵略を受けている故郷や、オービタルリング。  タカヤは、そこで……ノアルや、アキと出会った。  彼らの顔を、タカヤは思い出す。 (そうだ……俺は、こんな所で死ぬわけにはいかない……)  ブレードは、殆ど動かぬ脚に力を込めた。  立ち上がれ。  もっと、強く。こんなふらふらの足でどうなる。 (シンヤとの決着もまだだ……! 俺は、死ぬわけにはいかないんだ……!!)  ブレードの活動限界は残り僅かだ。既に危険信号が鳴り響いている。  ただ、それでも、まだ戦う事はできる。 △ 「うぐあああああああああああああああっ!!」  ガロとキバがその異様な雰囲気に気づかないはずがなかった。  ブレードがあげた雄叫び。 「そうだ……。これだ……これが、俺の本当の力……忘れるはずもない……俺の戦い方……。全てのラダムを倒すために……俺は……俺は死ねない!」  死ねない。  それが、相羽タカヤの心の引き金。  たとえ、数多の死闘で全身に、あるいは心に傷を負っていたとしても、タカヤは、生きている限り、生き抜くための戦いをしなければならない。  ささやかな幸せを奪ったラダムを滅するために、戦う。  人類の、今の仲間たちの世界を守るために、戦う。 「クラッシュイントルード!」  ブレードの背中からエネルギーが放出され、キバとの距離はゼロに縮まる。  咄嗟の出来事に、キバは驚愕した。ガロもまた、ブレードにこれだけのエネルギーが残っていた事には驚愕せざるを得ない。  敵に向かって突撃するブレード。 「姑息な……!」  キバの身体に激しい衝撃。キバの全身は、ブレードと大木の狭間に叩きつけられる。  ここでブレードが足掻いたところで、いずれは斬られるというのに。  キバは、余計な邪魔が入った事に苛立ちを感じつつも、ブレードの腹部にはしっかりと黒炎剣を突き立てていた。  今度は、貫通している。 「ぐおっ……!」  ブレードの身体が、地面に落ちる。  だが、ブレードは、その一撃に苦汁を舐めながら、しかし真っ直ぐに敵を見据えていた。 「……だが、死なん……!」  ブレードの肩が開き、エネルギーが充填されていく。  大木との間に挟まれたキバは、思った以上に強い衝撃を与えられていたらしく、眼前の攻撃からの回避の術がない。 「ボルテッカァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!!!!」  キバの真後ろの大木が、次の瞬間には消滅していた。 △  目の前は、煙で見えない。あの大木と暗黒騎士の鎧がほとんどエネルギーを吸収してしまったのか、かつてほどの被害は感じられなかった。  ともかく。  ブレードは、痛む腹部の黒炎剣を引き抜き、遠くに捨てた。 「ぐあっ……!」  先ほどのテックランサーのように、黒炎剣は地面に突き刺さった。  引き抜く瞬間は、流石に相当の苦痛が伴う。  血が噴き出る。身体はボロボロだ。ブレードは、肩で息をしながら、テックセットを解除する。解除しなければ、もう間もなくラダムに支配されてしまうのだ。 「……はぁ、はぁ……。やったか……」  煙の中からは、キバの姿は見えない。  見えないが。 「……まだだ。まだ奴は生きてる。……だがよくやった。後は俺がやる……。下がっていろ」  ガロが、いや、鎧を解除した鋼牙が、そう言った。  彼は、傍らの黒炎剣を見やる。あれが黒炎剣である限り、敵は鎧を解除していない。  鎧を解除していないという事は、中のバラゴの生死にかかわらず、暗黒騎士は襲い掛かってくるという事だ。  鋼牙は、魔戒剣を構えた。 「聞け、バラゴ。本当に強いのは、守るべき者の顔が見えている者だ。それが魔戒騎士“守りし者”の条件だ」  鋼牙は、父ならばこう言うだろうな、と思いながら、バラゴに……真の強さを伝えた。  煙が止む。  鋼牙の目の前には、両腕を胸に前に翳し、今なお、“弱点”を隠し続ける暗黒騎士の姿があった。 △  バラゴは、ただ、自分がこんな事をした事に驚いていた。  確かに、利用できる存在とはいえ、何かを庇いながら戦うとは、少しこれまでとは違った趣向の戦闘方法だったと思う。  その策に溺れすぎたか、と少しばかり考えた。  今後、生存するために利用するはずだった存在。それを守るために、自分が死んでしまっては本末転倒ではないか。 「……レイジングハート」  バラゴには、魔導具がない。その代わりに、バラゴはこのレイジングハートを選び、首にかけていたのかもしれない。それは、かつて純粋に黄金騎士を目指した男の寂しさから、だろうか──。  本当は、あの時。  自分の過去を、レイジングハートに伝えた時。  ──僕は、レイジングハートを利用するためなんかではなく、  ──この寂しさを埋めたくて、レイジングハートにそれを教えたんじゃないか?  不意に、バラゴの脳裏に浮かんだ事実。  あるいは、御月カオルに対しても、そうだったのかもしれない。  旅の途中で出会ったアキラに対しても、そうだったのかもしれない。  今となっては、バラゴには、わからない。  何故、あれほど力を求めたのか。  何故、ホラーに復讐するはずが、ホラーに協力していたのか。  何故、強さのために全てを犠牲にする覚悟を持ちながら、アキラを弟子にしたのか。 「聞け、バラゴ。本当に強いのは、守るべき者の顔が見えている者だ。それが魔戒騎士“守りし者”の条件だ」  暗黒騎士の目の前に、煙が漂う。  どこかで見た白衣の魔導着がはためくのが見えた。  かつても見た。師匠の姿だ。  大河。冴島大河だ。彼の言葉だ。  いや── 「おまえは……」  よく見れば、それは大河のおもかげを残す、息子であった。 「冴島鋼牙か……」  キバは、鋼牙を睨みつけながら、ふたたびその名を呼んだ。  鋼牙。師匠の息子だが、彼は決してバラゴにこんな事を言っていい年ではない。  バラゴが知っていた鋼牙は、まだ十歳前後の童である。  そんな男に、まるで師のような事を言われるいわれはない。  いや、そんな男が、かつての師のように見えていいはずがない。  それに……彼の言葉もまた、バラゴを激昂させた。 「……父の顔も、母の顔もとうに忘れたこの僕には、強さが無いと言うか!」  それでは、まるでこのバラゴの人生は滑稽な一生だったようではないか。  バラゴが思う強さは間違っていた。それに踊らされて、長い日々を無駄に過ごした。  それがバラゴだったというのなら、バラゴの人生とは何だったのだろう。 「まあいいさ。それじゃあ、最後の勝負だ……鎧を装着しろ、黄金騎士。その代わり、僕に剣を渡せ。大河の倅が説く強さが本物か否か、試してみようではないか」  卑怯な暗黒騎士の、妙に堂々とした提案に、鋼牙は顔を顰めた。 △  鋼牙は、みたび鎧を纏い、言う通り、黒炎剣を投げた。  キバが、それを空中でキャッチした時、ガロの初動──。  ガロは、すぐさまキバの元に走り出した。  キバは、その動きを予測し、剣を、ガロの前に立てた。  剣は、胸を狙うに違いない。  奴は、胸のレイジングハートが弱点だと、そう信じている。  だから、奴は真っ先に此処を狙うはずだ。  しかし── 「がっ……!?」  ──勝負は、一瞬だった。  ガロは、キバの予想に反して、その腹を斬った。赤い光が傷口を煌めかせる。  あまりにも手薄であったその腹部を、ガロは斬り抜けた。  ガロは確かに先ほどまで、胸部が弱点だと、そう勘違いしていたかもしれない。  しかし、それを守るために他が手薄になれば、そこが隙になるのは当然の話である。  ましてや、隙を作った場所は、本来守らなければならない自分自身の体だ。  ブレードによるボルテッカの一撃も、ガロによる一太刀も、どちらもトドメと呼ぶべきものだったのだろう。  疲弊したキバの身体を斬った一撃は、闇に堕ちる事もなく、堂々と力を積み上げていった騎士たちのものだった。  かつて憧れた黄金騎士の姿は、バラゴにはもう見えなかった。 △ (……なるほど)  バラゴは、空を見上げる。  間もなく夕暮れだ。空が美しい。  かつて、バラゴは、大河の元で熱心に魔戒騎士となるための修行を受けていた。  その時にも、空を見ていた。……辛い修行の最中、二人で休憩し、笑いあった。  そうだ、懐かしい。  そういえば、アキラとは、あんな風に笑いあう事はなかったな。 (遅かったか……何もかも……)  鋼牙は、去っていく。今更何を告げても仕方がない。  まあいい。全力で戦って負けたのだ。  つまり、バラゴが弱かっただけの事だ。 (どうやら、僕が求めた強さは、間違っていたらしいな……)  バラゴは、それを認めた。いや、認められる時を、きっと待っていたのだ。  本来のバラゴの生き方を邪魔した悪。殆ど、それに乗っ取られていたのだ。そして、誰かに助けを求めていた。  この殺し合いの中でも何人かの戦士は、彼と同じであった。  侍になれなかった者。ウルトラマンになれなかった者。仮面ライダーになれなかった者。正義のテッカマンになれなかった者。プリキュアになれなかった者。  彼は、魔戒騎士になれなかった者だ。 (……もしかすると、僕の魔戒騎士の最後の仕事……。それは、……正しき心を持つ者に全力で挑み……そして、負ける事で、僕自身の求めた強さのまちがいを証明する事……だったのかもしれない)  どちらにせよ、鋼牙は魔戒騎士として、暗黒に落ちた魔戒騎士バラゴを葬った。今となっては、それだけでいい。  悪は葬られた。その生き方が、いかに間違った者なのかを、この身の亡びを持って証明された。バラゴとて、先ほどの戦いで手を抜いてはいないのである。  もはや、すがすがしいくらいだ。  この時、殆どバラゴが正気を取り戻していた事など、鋼牙は知るはずもない。  それでいい。  それで一向に構わないと、バラゴは思う。  どれほどの命を弄び、どれほどの命を子の手で消していったか。もはや、数える事さえもできないくらいだ。  何人、何十人、何百人、何千人。名前も知らない。その家族の事も知らない。  バラゴの行いによって死んだ者たちの数はわからない。  速水克彦、園咲冴子、泉京水、冴島大河、静香、道寺、阿門、風雲騎士。  冴島鋼牙、涼邑零。  そのたび、バラゴはとことん無慈悲だった。  誰の死も、重んじた事はない。 (父よ、母よ、師匠よ……)  そう、この時なら、自分の死さえも。  バラゴ。魔戒騎士の歴史上、最も恥ずべき罪人として名前を残すか。 『Karune!』  胸元でレイジングハートは、バラゴの名前を呼ぶ。  ああ、そうか。こいつは生きているんだった……。 「レイジングハート……」  せめて、寄り添ったこの宝玉に、今生の別れを。  最後の力を振り絞って、その名を呼んだ。 &color(red){【バラゴ@牙狼 死亡】} &color(red){【残り 24人】} △ 「奴は斬ったか……」  タカヤは、眼前の男に言った。  仰向けで、腹を抑え、タカヤは満身創痍の身体を休めていた。  タカヤは、二人の決着を見届ける事はできなかった。元より、初対面の男が、いかに暗黒騎士と決着をつけるかなど興味はなかった。  膝を立て、タカヤの顔を見下ろす鋼牙。肯定の意を表すように、彼は首を縦に振った。 「そうか……。俺の手で決着をつけてやりたかったが」  タカヤは、鋼牙とバラゴの詳しい因縁など知らない。鋼牙の父が共通の知り合いらしい事はわかったが、それ以外は全く知らないままだった。 「……奴を倒せたのは、あらゆる人の協力があってこそだ。お前の一撃がなければ、奴を倒す事はできなかった……相羽、タカヤ」 「……相羽タカヤ。そうか。なんだか、その名前で呼ばれる事には、少し違和感があったんだが」  鋼牙の顔は逆光で見えない。彼がどんな表情をしているのかはわからない。 「俺は、Dボゥイだ。そう呼んでくれ」 「……Dボゥイ」 「お前の名前は……?」  確か、名前をちゃんと聞いてはいなかった。  当人の口から自己紹介として、ちゃんと聞いた事はない。 「冴島鋼牙、またの名を……黄金騎士ガロだ」  鋼牙は、表情を変える事もなく、タカヤに己の名を告げる。 「黄金騎士か、……それなら、俺は宇宙の騎士、テッカマンブレードだ」  まるで対抗意識はないが、己のもう一つの名前を名乗った。  彼らがこうして、その名に誇りを持って名乗る事が出来るのは、ほんの偶然に支えられての事だろう。  正義と悪は表裏一体。  バラゴのように、かつて善であっても闇に堕ちた者は悪。しかし、鋼牙も同じように力を欲し、その道を選んだことがある。  シンヤのように、ラダムに洗脳された者は悪。しかし、助けられたのがシンヤならば、タカヤとシンヤの立場は逆だっただろう。  バラゴが魔戒騎士として鋼牙を斬る時があったかもしれないし、シンヤが人類の味方としてタカヤを葬る時があったかもしれない。  つくづく、因果な人生だ。  敵を葬った時も、決して後味は良い物にはならない。まるで、自分を殺したようで。 「鋼牙。もし、シンヤに出会ったら……俺の弟に出会ったら、お前の手で倒してくれ……」  バラゴは、あの時、タカヤの腹部に深々と剣を刺した。全身を負傷し、全身で血も滴っていたタカヤには限界が来ていたのである。タカヤの全身に向けて、血だまりが広がっていく。  少なくとも、このままでは生きながらえても、このままシンヤと決着をつける事などできないはずだ。  他人に任せる事になるのは癪だが、この際、それしか術はない。 「……いや。それはできない」 「何故だ……」 「相羽シンヤは、もう死んだ。もう放送で名前が呼ばれた……」  道理で。  考えてみれば、つぼみの態度はおかしかった。シンヤの名前を聞いた途端、まるで何か心当たりがあるかのように……。 「そうか……。そうだったのか……。……クソッ」  タカヤは起き上がろうとする。起き上がろうとしても、体が動かなかった。  まさか、既に自分がシンヤと決着をつけたなどとは、タカヤも思うまい。  それに、その決着がついた事を知る者は、もう誰もこの世に残っていなかった。 「休め。テッカマンブレード。お前はよくやった」  決して、死を薦めるわけではないが、鋼牙は満身創痍のその男を、これ以上無理して戦わせたくはなかった。  勿論、生きられるのならば生きた方がいい。たとえどんな生きざまでも、死を薦める事などない。  忘却や死を、苦しみから逃れる手段に使ってはならない。  しかし、彼は── 「死ねない……俺は……」  ──彼らだけは、唯一、家族がいる家に、死という形で帰る事が、許されるのかもしれない。 『おかえり……兄さん』 &color(red){【相羽タカヤ@宇宙の騎士テッカマンブレード 死亡】} &color(red){【残り 23人】} 【1日目/午後】 【D―8/森の中】 【冴島鋼牙@牙狼─GARO─】 [状態]:疲労(中)、ダメージ(中) [装備]:魔戒剣、魔導火のライター [道具]:支給品一式×2(食料一食分消費)、ランダム支給品1~3、村雨のランダム支給品0~1個 [思考] 基本:護りし者としての使命を果たす 1:みんなの所に戻る 2:首輪とホラーに対し、疑問を抱く。 3:加頭を倒し、殺し合いを終わらせ、生還する 4:良牙、一条、つぼみとはまたいずれ会いたい 5:未確認生命体であろうと人間として守る [備考] ※参戦時期は最終回後(SP、劇場版などを経験しているかは不明)。 ※魔導輪ザルバは没収されています。他の参加者の支給品になっているか、加頭が所持していると思われます。 ※ズ・ゴオマ・グとゴ・ガドル・バの人間態と怪人態の外見を知りました。 ※殺し合いの参加者は異世界から集められていると考えています。 ※この殺し合いは、何らかの目的がある『儀式』の様なものだと推測しています。 ※首輪には、参加者を弱体化させる制限をかける仕組みがあると知りました。  また、首輪にはモラックスか或いはそれに類似したホラーが憑依しているのではないかと考えています ※零の参戦時期を知りました。 ※主催陣営人物の所属組織が財団XとBADAN、砂漠の使徒であることを知りました。 ※第二回放送のなぞなぞの答えを全て知りました。 ※つぼみ、一条、良牙と125話までの情報を交換し合いました。 【特記事項】 ※今のところ、タカヤの遺体は同エリアに放置されています。タカヤが所持していたテッククリスタルも同じくタカヤの死体と共にあると思われます。 △ 『Karune, ……』  レイジングハートは、また大事な人を喪った。  バラゴ。  その名前を呼んでも、もう返事はない。  いま、確かにレイジングハートは見た。  冴島鋼牙が、バラゴを斬り、命を奪った瞬間を。  バラゴに声もかけず、鋼牙は素知らぬ顔で帰っていった。 『Kouga, I will never forgive you.』  誰もいなくなったこの場所で、レイジングハートは再びそう呟いた。  私は鋼牙を許さない。 『Kouga, I will never forgive you.』  しかし、その声を、聴く者は……いない。  虚しく、何もない森の中に、その声は響く。  レイジングハートは一切の悪事を行っていない。  言うなれば、ただの被害者だ。  レイジングハートは、既にこの世に存在しないバラゴに──今もなお利用され続ける。  もはや人を利用する気も一切ないであろうバラゴの口車に乗せられ、バラゴによって余計な思想を持ったまま。  このまま夕闇が空を覆い、空の色が変わるまで。  レイジングハートは、また思い出したように、何度でも、より強く……復讐を誓うように、歌うように……。 『Kouga, I will never forgive you.』 その言葉を、繰り返すのだった……。 【特記事項】 ※バラゴの遺体、ペンダント、魔戒剣、ボーチャードピストル(0/8)、レイジングハート・エクセリオン、顔を変容させる秘薬はD-8エリアに放置されています。 ※ビートチェイサー2000@仮面ライダークウガのほか、次の支給品がD-7エリアのどこかに放置されています。 支給品一式×6、バラゴのランダム支給品0~2、冴子のランダム支給品1~3、インロウマル&スーパーディスク@侍戦隊シンケンジャー、紀州特産の梅干し@超光戦士シャンゼリオン、ムカデのキーホルダー@超光戦士シャンゼリオン、『ハートキャッチプリキュア!』の漫画@ハートキャッチプリキュア!、呪泉郷の水(種類、数は不明。本人は確認済み。女溺泉あり)@らんま1/2、呪泉郷顧客名簿、呪泉郷地図、双眼鏡@現実、ランダム支給品0~2(シャンプー0~1、ゴオマ0~1)、水とお湯の入ったポット1つずつ、バグンダダ@仮面ライダークウガ、マッハキャリバー(破損済)@魔法少女リリカルなのは *時系列順で読む Back:[[確認]]Next:[[仮面劇のヒーローを告訴しろ]] *投下順で読む Back:[[暁の決意!決着は俺がつける!!]]Next:[[哀しみの泣き声、ふしぎな宝石を見つけました!!]] |Back:[[終わらない戦い。その名は仮面舞踏会(マスカレード)]]|[[冴島鋼牙]]|Next:[[騎士の物語]]| |Back:[[終わらない戦い。その名は仮面舞踏会(マスカレード)]]|[[相羽タカヤ]]|&color(red){GAME OVER}| 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