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ひかりのまち(後編)」(2014/03/21 (金) 19:00:20) の最新版変更点

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*ひかりのまち(後編) ◆gry038wOvE 『撃っていいのは、撃たれる覚悟がある奴だけだぜ、レディ?』 △ 「……あれ?」  この台詞を、この時発したのは、ン・ダグバ・ゼバの方であった。  ダグバが見ているのは空。  空。夕焼けの空。  何故、自分が今、仰向けで倒れているのか、ダグバは理解もしていないだろう。  計画が壊れた。否。 「どうして……僕は……」  自分が放ったはずのマキシマムドライブの一撃。  その銃口を見ていたのは、────自分だ。 「なんで……」  ダグバの最後の記憶では、スカルマグナムの銃口は、ダグバ自身を見つめていたのだ。  何故、スカル自身が、スカルマグナムの銃口を見る事になるのか。 「……がっ」  スカルは、いやダグバは──一歩も動けなかった。  彼はもう、何も着ていないみじめな人間の姿に戻っていた。  唯一、普通のリントと違うのは──胸部に巨大な穴が開いている事だろうか。 △  時は少しだけ遡る。  これは、スカルがマキシマムドライブを使用し、引き金を引く少し前の事であった。 「……やっぱりお前はバカだ! くそっ!」  その言葉とともに、仮面ライダーアクセルは、トライアルメモリを鳴らし、装着した。 ──Trial!!──  その音とともに、スカル自身が感知していない時間が始まる。 ──ブルルゥゥゥン……──  石堀光彦が変身した、仮面ライダーアクセルの強化形態。  この時間は、仮面ライダーアクセルトライアルの力が発動した、少しだけダグバたちよりも──ほんの少しだけ速度が速い時間である。 ──ブルルゥゥゥン……──  ダグバが見つめていない視界の裏で、男は仮面ライダーアクセルの力を引き出していた。  彼が奪ったのが、アクセルメモリやトライアルメモリを含む石堀の装備だったなら、また違った結果になったかもしれないが。 ──Trial!!──  仮面ライダーアクセルが、三つの音階とともに駆け抜ける。  スカルとシャンゼリオンのいる場所まで辿り着くまでは、一瞬であった。 「ふふっ!」  殆どゼロの距離で引き金に力を込めるスカル。その真横に、アクセルトライアルが居る事など、気づく余地もない。 「ふんっ!」  アクセルトライアルはスカルが引き金を引くと同時に、スカルマグナムの銃身を蹴りあげる。  それを持っていたスカルの腕ごと、スカルマグナムはスカルの顔を向けるようにひんまががった。銃口は、この時、スカルのこめかみにくっついていた。  スカルはその事に一切、気づかぬまま、マスクの裏で笑いながら、引き金を引いた。 「……っっっ!! ぐあああああああああっっっ!!!」  しかし、そのまま、突如裏返されたスカルマグナムのマキシマムドライブが、スカルの顔面に黒い世界を作り上げた。  こめかみを向いていようが、関係ない。  それは既に、スカルの視界全て、マスク全体を破壊し、麻痺させる協力な連射であった。 「なっ……!!」  ダグバの視界は、己の放ったマキシマムドライブによって──仮面ライダースカルのマキシマムドライブによって、この瞬間、殺される。  ダグバの世界は、この瞬間に、閉ざされたのである。  スカルマグナムが反動で、宙を舞う。スカルの身体が、真後ろに倒れていく。 「……ふんっっ!!」  だが、そのまま地面に突き落とす石堀ではない。  このスカルパニッシャーの一撃がダグバを殺せるかわからない以上、石堀は更に追い打ちをかける必要があった。 ──Trial Maximum Drive!!──  アクセルトライアルは、既にダグバの背後に回る。そして、今度は真後ろから、何発ものキックがダグバの身体を打ち付けた。 「ふんっ! ふんっ! ふんっ! はぁっ! せやぁっ!」  マシンガンスパイク。トライアルメモリが放り投げられ、秒読みが開始されている。  ダグバの意識はない。 「おいっ……!! ……ったく」  T字型に、ダグバの全身が砕かれていくのを、シャンゼリオンは見ていた。  己の身体に銃を向けて、引き金を引き、顔の前で爆発を起こすスカル。  その真後ろは、Tの字が浮かんでいる。  スカルパニッシャーの残滓、そして僅か数秒の打撃の数々。それらに挟まれ、ダグバの消えかかった意識を、完全に消滅させる。  どうやら、石堀がやってくれたらしい、とシャンゼリオンは理解した。スカルの後方でキックを放つ青い影が、シャンゼリオンにも鮮明に見えていた。  これを想定していたわけではないが、シャンゼリオンは好機を知った。  よし。 「……あんたも本当によくやるよな。とりあえず、ラッキーで助かったって事で」  胸のシャンディスクにクリスタルパワーを集合させる。  助かっただけでなく、どうやら勝利のチャンスにもなったらしい。 「じゃあ、俺もいくぜ……。シャイニングアタック!!」  その言葉とともに、シャンゼリオンの胸から現れる、もう一人のシャンゼリオン。  クリスタルパワーの結晶体が生み出される。  結晶体は、真っ直ぐにスカルの胸に向かっていく。 「はあああああああああああっっっ!!!」  そして、その叫びとともに、スカルの身体は貫かれる。  シャンゼリオンが己の身をもって刺し貫いたスカルの──その先には、既にアクセルトライアルの姿はない。  既にアクセルトライアルも駆け抜けていたのだ。 「俺ってやっぱり、決まりすぎだぜ……!」 「9.6秒、か。…………暁、それを言うなら……『俺達は』だろ」  ダグバがいた場所の、後ろにはシャンゼリオンが。  ダグバがいた場所の、前にはアクセルトライアルが。  背中合わせに、そう言いあった。  スカルメモリは割れ、そのまま爆発を起こした。  もはや、仮面ライダースカルの装着者は悲鳴もあげなかった。 △ 『だって、一条さんと会えたから……!』  ダグバが求めた宿敵・五代雄介は、少し前に笑顔で逝った。そこに後悔はない。それは、最後に親友と会えたからだ。  ダグバが知る由もない。 『みんな……無事でいてね……みんなが生きて帰れるって事を、私は信じているから……』  ダグバが殺した山吹祈里は、誰かを信じながら逝けた。そこにも後悔はない。それは、親友がこの殺し合いを打破できると信じたからだ。  ダグバが知る由もない。 『名前はモロトフ……所属は……ラダムだぁぁぁぁぁ!』 『ゴゼパ ザバギン バシグラ ゴ・ガドル・バ ザ』  それは、ダグバが出会ってきた戦士が、おのれの名を誇る強い意志。  善悪に関わらず、その誇りは確かな物であった。敵ながらあっぱれ、と言わしめるほどの熱き闘志に燃えた男たちであった。  ダグバが知る由もない。 『俺は、無差別格闘早乙女流・早乙女乱馬だ!!!』  ダグバが殺した早乙女乱馬。ダグバのバックルを破壊し、ダグバの殺害を一つ手伝った男。彼は、立ち上がり、勝利の鍵を後に残した。  仲間がいたから。愛する人がいたから。守りたい人がいたから。  ダグバが知る由もない。 『救い様の無い世界だとしても……あの子が守ろうとする世界を傷つける事は……私が許さない……』 『さあ、お前の罪を数えろ!!』  それは、かつて仮面ライダースカルの力を使った者たちの言葉。  愛する人を守るため。あのスカルマグナムの一撃は、そんな思いを秘めた者からのプレゼントだといえよう。  ダグバが知る由もない。  ダグバは── 『僕を笑顔にしてよ……』  ダグバは彼らが持っていた物を、何ひとつ持っていなかった。知らなかった。  悲しい事に、彼はそういう人間だったのだ。  本能のままに生き、殺傷そのものを楽しむ。誇りや意志があるわけではない。ただただ、快楽のために。  強い者と戦う事で己の快楽を満たすために、ダグバは殺し合ってきたのである。  守る者など何もない。  己さえも。 △ 「……どぉじで……僕は……」  立ち上がる事もできないダグバの前に、シャンゼリオンとアクセルがやって来る。アクセルが、ロストドライバーを回収し、周囲に落ちていたスカルメモリを拾い上げる。スカルメモリはメモリブレイクされており、Sの文字が割れ、中から壊れた機械が小さな煙をあげていた。  アクセルトライアルのマキシマムドライブは殺傷ができない。メモリブレイクはできても、中の人間を殺す事はできないのだ。  そのため、実質、殺害として有効だったのは、シャンゼリオンのシャイニングアタックだった事になるだろうか。 「……暁。ほれ」  シャンゼリオンは、ブレイクされたスカルメモリを手に取った。 「これは知り合いの物だろ。俺が持っていても仕方ない」  もう、石堀にとってスカルのメモリなど用済みだ。折角だから、持ち主に返してやろうというものである。 「……お、おう」  シャンゼリオンは、スカルメモリ自体は、快く受け取るが、地面に落ちている別の物体を見てかなり引いているようだった。  地面にあるのは、ダグバの死体だ。  ダグバの身体には巨大な穴が開いており、内臓が飛び散っている。何かそれらしき物が色んな方向を向いており、形容しがたい赤ピンクの物体を見せている。自分の身体にもこんな物が入っていると思うとゾッとする。  つい先ほどから暁にとって不快なものを露出してはいたが、まさかこれまで暁に見せるとは……。  暁は、探偵とはいえ、別にテレビにように殺人事件を担当したわけではない。つまり、死体なんて見慣れていない。これは生涯、暁のトラウマとなるだろう。  吐き気を催す。 「うわ……これは女の子連れてこなくてて正解だ……ちょっと俺もヤバい……吐いてくる」 「まあ待て。だいたい、その姿のままどうやって吐くんだ?」  シャンゼリオン、涼村暁と仮面ライダーアクセル、石堀光彦はこの男の死に様を見てもドライだった。ドライにならざるを得ない。  この無様な姿もやむを得ないほど、彼は人を殺したのだから。そして、それに対して何も思っていない。とうに体も心も人間をやめた男だったのだから。 「教えでぐれ……僕は、どぉじで……、……ごんなごどに……」  ダグバは、すがるように問う。  ダグバが最後に見たのは、自分の前に突き付けられる銃口。  一体、何が起きたのか。ダグバの視覚も捉えなかった。 「……お前が知る事は永久にないさ。ま、因果応報ってやつだな……。俺は満足だぜ、予告通り、お前はどうしようもない絶望の淵で死んだ」 「おい。石堀、お前怖すぎ。何で平気でいられんの? 俺、今も吐きそうだぜ……オエエエエエエエ」  シャンゼリオンの姿のまま、暁は前傾姿勢になった。  本当に吐いているのかはわからないが、それらしき物は出ていない。 「嫌だ……教えでよ……嫌だよ、何もじらないまま、じんでゆぐなんで……! ぼげぁっごぇっ……!」  ダグバは口から血を吐く。巨大な血の泡がダグバの口元で膨らむ。全身がピンクがかった赤色に染まっている。  もし、ダグバがこの状況で笑えれば、それこそ凄いとしか言いようがない。石堀はそれについては、負けを認めよう。  しかし、ダグバは笑顔にはなれなかった。  何故、自分がこんな事になっているのか。  戦いは? どういう戦いをしたんだ?  自分は、あの二人は……。あらゆる疑問が芽生えてしまう。  戦いで死んだ気がしない。戦いを愉しんだ気がしない。楽しくない戦いで終わってしまったような、そんな不快感だけがダグバに残る。  シャンゼリオンが、そんなダグバの目元を見て──なるべくその他を見ないようにして言う。 「……だから、悪いけど無理。ていうか、なんでそんな姿で喋れんの? あんたさ、本当に人間?」 「気にするな、暁。どう考えても、こいつは普通の人間じゃない。というか、そんなにコレが気色悪いなら見るなよ」 「いや、なんかつい見ちまって……」  暁としても、これからしばらく肉が喰えなくなる気がするのだが、どうしてもそれを見てしまう。人間は、やはりグロテスクな異形に惹かれるのだろうか。 「……まあ、わからんでもないが。じゃあ、悪いが……暇じゃないんで、俺たちは行く」  頑なに、何も教えようとはしない石堀と暁。彼に何も教えようとはしない。石堀が、こう言いながらニヤリと笑っている事など、誰も知る由もないだろう。  立ち去ろうとしたが、シャンゼリオンは立ち止まり、アクセルに言う。 「ん。ちょっと待て石堀。こんなグロい死体を放置したら、後から来た奴に迷惑だって……」 「……これをやったのはお前だろ」 「え」  腹に穴を明けたシャイニングアタックは、シャンゼリオンの技だ。  確かにそうだが、まさかこれを掃除する責任は暁にあるとでも言うのだろうか。  暁としては、勿論それは嫌だ。お金を貰わないとやっていられなさそうだ。  しかし、石堀は彼に任せる気はなかった。 「冗談だ。後で俺が掃除する。コイツの死体を……まあ、海にでも捨てるよりは、副隊長の死体を埋葬してやりたい。それに、あの子も待ってるだろ? 今はまず、行かなきゃな」 「……ああ。そうだな」  シャンゼリオンとアクセルは、ダグバに背を向けて、二人で変身を解除した。  シャンゼリオンは、流石に石堀ほどドライに合理的な判断が下せない……いや、そこに少なからずの不快感を、一瞬だけ持った。  しかし、その思いもやがて消えた。 「じゃあな、今度こそお別れだ。何故、自分がそうなったのか……せいぜい考えると良い。答えなど出ないだろうがな……」 「ぞんな……っ」 「それじゃあ、俺も行くわ。悪いけど。あ、使わないからいいでしょ? お前の持ってたデイパックも貰っていくよ」  二人は行く。  もう、彼らが振り向く事はない。歩き出す。遠ざかっていく。  ああ、これで自分が何故死んだのか、それを知る機会がなくなっていってしまった。  ダグバは、仕方がなく、言われた通りに、自分で考える事にした。それしか、何故こうなったのか知る術はないのだ。 (……くそ。なぜ、僕がこんな事に……)  本当に、戦いで死んだのか?  そう、ダグバは──死ぬ時は、強いヤツとの戦いで、笑顔で死にたかった。  それならば良い。しかし、これは違う。何も知らないまま、ダグバは死んでしまう。  考えろ。  何故、自分は死んだ?  答えは出ない。  視界が殺された一瞬で、何かがあったはずだ。  あの後、背中に打撃があり、……そこから記憶はない。  あれからどれだけ時間が経ったのか。数分か、数時間か。それもわからない。 「あ゙あッ……げぼぇっ……」  痙攣して、血反吐が漏れる。  ダグバは今日日、どれだけ戦いをしてきただろう。  ナスカドーパント、ヒートドーパントとの戦い。  暁美ほむら、シャンゼリオンとの戦い。  仮面ライダーダブル、テッカマンブレード、ルナドーパントとの戦い。  ウルトラマンネクサス、佐倉杏子との戦い。  キュアパインとの戦い。  早乙女乱馬、アインハルトとの戦い。  仮面ライダースーパー1との戦い。  テッカマンランスとの戦い。 「ぐるぁっ……」  まるで、滅亡へのカウントダウンを告げるかのような、全身の痙攣と、言いようのない悪寒。  ……幾度もの戦いを繰り広げながら、彼は「傷」を負う事はあっても、「成長」する事はなかった。何かを知る事もなかった。  唯一は、電撃による強化のみ。しかし、他の参加者たちは、戦いの中で、身体的強化意外の何かで、強くなっていった事など、彼は知る由もない。  そう、今のシャンゼリオンでさえも……。  だんだんと、意識が朦朧として、頭が働くなり、考える事もできなくなった。 「うっ……ぶぉぇっ……」  じゃあ、せめて──と。  彼は笑おうとした。悔しいから。  心の底からの笑いじゃない。笑えないで死んでいく事が、あいつらのために自分の笑顔が妨害されて死ぬのが悔しいから笑おうとするのだ。 「げはっ、ぼぇっ、ぐぶぇ……っっっ!!」  だが、血の泡が口から吐き出されるのみで、笑う事ができない。  いつものように。  いつも、ダグバが笑って人を殺してきた時のように。  あんな笑いが漏れないのだ。 (……駄目だ、嫌だ……僕は、このまま死にたくない、僕はまだ……)  そんな思いが、恐怖が、ダグバの脳裏を掠める。  死にたくない。死にたくない。死にたくない。  死にたくない……。  死にたくない………………。 「……ぐぇ」  しかし、たとえどんなに生きたいと願っても、命には限界がある。  哀れなひと言とともに、最後の血を絞り出すように吐き出すと、数千人を殺し尽くしたグロンギの王は、魂を吐き出したかのように……こんなにも哀れな姿で死んだ。 &color(red){【ン・ダグバ・ゼバ 死亡】} &color(red){【残り 21人】} △ 「あ、もう変身解いていいよ」  暁が、キュアピーチのほうに歩いてきながら言った。石堀と並んで歩いている。  キュアピーチは、言われた通りに待っていたし、この時も変身を解いた。 「……あの人は、どうなったんですか?」  ラブのいる場所からは、何があったのか、詳しくは見えなかったのだろう。倒れている彼に話しかける二人しか見えなかったはずだ。  スカルのマキシマムドライブが発動した瞬間に、目を瞑って、その直後に決着がついてしまっていたのも、彼女を混乱させている。 「……死んだ」  暁があっさり言った。ラブは、悲しそうな顔を浮かべ、「……そうですか」と言った。  ラブの暗い表情に、暁もどういう態度で接すれば良いかわからなくなる。 「あいつは、最後まで笑いながら、俺達を殺そうとしながら死んでいった。頭のおかしい奴さ。殺さなければ、殺される所だった。最後まで、副隊長の死を嘲笑い、笑いながら俺達を……。悪いが、救いようもないよ」  石堀が、いけしゃあしゃあと嘘を吐く。暁は怪訝そうに石堀を見る。  だが、暁としても、それで良いと思った。  あの男は、同情の余地がなくて良い。みじめに死んだと知って、ラブが心に重荷を背負う必要はない。  あの男の死に様なんて、それこそどうでもいい。最後に少しでも人らしい心を見せれば良かったのだが、それがよりにもよって、自分が何故ああなったのかもわからないままに死ぬ「恐怖」だとは。  この妙な後味の悪さを背負わせる必要はなさそうだった。 「世の中にはいるのさ。ああいう奴も。最初っから最後まで、人間の心なんてわからないまま死んじまう奴が。女子高生を監禁して、毎日ひどい拷問して、死んだら海に捨てちまう奴だって、この日本にいたんだぜ……?」  暁なりの、へたくそなフォローだろうか。  何にせよ、ラブの顔色は優れなかった。 「……じゃあ、二人とも、どこかの建物に入って待っていてくれないか? 遺体の処理は、俺がやる。凪のものも、アイツのものも、今は酷い有様だ」  首から上を吹き飛ばされた遺体と、胸部と腹部を貫通する巨大な穴が開いて、内臓をまき散らした死体。  いずれも、人に見せられる物じゃない。 「ああ」  暁は、ラブを連れて近くの建物に入った。  暁が真っ先に向かった場所が、トイレだった事は言うまでもない。 △ (どうする……)  石堀は、凪の遺体を見ながら考えた。凪の遺体には、ラブがかけたらしい毛布がある。  それで、首から上をスカルマグナムで吹っ飛ばされた遺体も、まだ何とか見られるようになっていた。 (……こうなってしまった以上、光の動向を探るしかない。今はまだ、同行者を殺す必要はなさそうだが)  暁といい、ラブといい、まだある程度の利用価値はある。  ラブは単純そうだったし、なんだかんだで一筋縄でいきそうにない暁とも、そろそろ一定の信頼が芽生えた頃だろう。  二人は戦闘力としても不足はない。こういう事態が起きたからといって、殺さねばならない相手というわけではなさそうだ。 「さようならだ、副隊長……」  悲哀を込めた一言とともに、“ナイトレイダーの隊員”・石堀光彦はその遺体に敬礼をし、お別れを告げた。少なくとも、彼女はナイトレイダーの副隊長である。  こうして遺体に敬礼をしない事は不自然であったし、石堀光彦ならばこうするだろうという常識に合わせた行為であった。  いつ、どこで見ているかわからない誰かのために、ダークザギは、一人の防衛隊隊員のフリをした。 (……黒岩はいずれ死ぬ。だが、余計な事をしてくれたのは確かだな)  凪が気絶中の人間でなければ、もう少し守りやすかっただろう。  こうなったのも、元はと言えばあの黒岩省吾が原因である。石堀は、黒岩に対する強い怒りを感じながらも、彼の命が手中にある事を知った。  彼はせいぜい、勝手に参加者──いわば、凪が死なないための障害でも排除して、勝手に死んでくれれば御の字という存在だ。別に今から死のうが生きようが構わない。 (しかし……俺は、何故、この女が光の継承者だと知っていたんだ?)  ふと、石堀の脳裏に疑問が思い浮かぶ。  何故か今まで全く気にも留めなかったが、よくよく考えれば妙な話である。ネクサスの光を得るために、石堀は、将来的にネクサスの光を得る凪を泳がせた。  しかし、石堀は何故、凪がネクサスの光を得ると知れたのだ……? (くっ……なんだ、この感覚は……)  思い出そうとすると、頭が痛む。  そのために懸命になればなるほど、頭はもっと痛くなり、石堀は両手でそれを抱える。  だが…… (……駄目だ、思い出せない。だが、何らかの手段があったはずだ。それを探らなければ)  石堀は、諦めて、凪の遺体の埋葬に取り掛かる事にした。  ダグバの死体は、後で海にでも捨てればいい。奴の死体を埋めるのは面倒だ。  海は近い事だし、それで問題ないだろう。 (もう放送の時間か……。一人で聞く事になるが、さて、どうしたもんか)  石堀は、凪の遺体を埋葬するより前に、少し放送の準備をする事にした。  今現在、もう放送まで一分を切っているからだ。 【1日目 夕方】 【H-7/市街地】 【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】 [状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、頭痛 [装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー+ガイアメモリ(アクセル、トライアル)+ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ+T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW 、コルトパイソン+執行実包(2/6) 、ロストドライバー@仮面ライダーW [道具]:支給品一式×3(石堀、ガドル、ユーノ、凪、照井、フェイト)、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×18、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×4)、テッククリスタル(レイピア)@宇宙の騎士テッカマンブレード、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、血のついた毛布、ランダム支給品2~8(照井1~3、フェイト0~1、ガドル0~2(グリーフシードはない)、ユーノ1~2) [思考] 基本:今は「石堀光彦」として行動する。 0:放送の準備をした後、凪を埋葬する。その後、ラブからラビリンスについての話を聞いて平行世界について情報を得る。 1:凪……。 2:どこかに集まっているだろう仲間を探す。 3:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る。 4:次のデュナミストがどうなっているか気になる。もし異世界の人間だった場合どうするべきか… 5:孤門や、つぼみの仲間、光を持つものを捜す。 6:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する 7:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……。 [備考] ※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。 ※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。 ※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました。 ※良牙が発した気柱を目撃しています。 ※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました。 ※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています。 ※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。 ※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。 ※森林でのガドルの放送を聞きました。 ※予知能力に関する記憶が思い出せませんが、何故凪が光の継承者になった事を知っていたのか、疑問に思い始めているようです。 △ 「あー、気持ち悪かったー」  トイレで色々と吐いた後、暁はラブの元に戻ってきた。  流石にぼろぼろのオープンカフェに入ったわけではなく、近くの別の小さな喫茶店に二人は入っていた。とても残念な事に、その喫茶店のメニューが一部、肉が使われている。  暁は、なるべくメニューを見ないようにした。 「……ほんと、見なくて正解だぜ? 俺も一生モノのトラウマだ……あー、まったく……」  ダグバの死体は、今なお暁の脳裏に鮮明な形で焼き付いている。  とはいえ、流石にもう吐き出す事はないが。洗面所で、顔もちゃんと洗った事だし、今は随分とさっぱりした気分だ。少しお腹が減るが、何も食べる気にはならない。 「……仕方がない事なんですよね」  ラブが、押し黙っていた口を開いた。諦めるというよりは、問いかけるように、ラブはそう言った。  俯いたまま。  そのラブが、怖かった。人を殺した暁の事を、もしかすると恐れているのではないかと。  しかし、暁の口は止まらなかった。暁だって、あの死体を見れば少しは「殺人」というものの意味を知る。  だからこそ、自分がした事は正当なのだと、声を大にして反論しなければならない。 「……当たり前だ。人の形をしてるからって、あいつを人と呼ぶ気にはなれねえよ。……ほら、俺だってさ、あんまり人っぽくないじゃん? なんかピカピカ光るアレになって。でもまあ、一応、心は人らしいつもりだし」 「……」 「それとは反対に、人間の姿をしてても、ものすごく凶暴なヤツだっているんだぜ。……というか、俺は前にあいつが変身した姿見たんだけど、それがもう醜悪で醜悪で……見ただけで吐きそうになっちまうほどの……」  つらつらと、言い訳するように暁は言った。  無神経な表情をしながら、しかし、きっと何処かで痛みはあったに違いない。 「……まあさ、だからアイツの事は割り切って」  その先を言おうとしたところで、ラブが口を挟んだ。 「黒岩さんもですか?」 「え……?」  ここで挙がった想定外の名前に、暁は閉口する。  暁としては、ダグバの話をするつもりだった。ラブは、ダグバを殺した事について悩んでいるのかと、そう思った。  そんな暁の考えとは裏腹に、ラブは案外大人だ。確かに、命を奪う事は肯定しない。ダグバの死も気にしている。それを悔やむ気持ちもある。彼が分かり合える存在ならば、それで分かり合いたかった気持ちも。  しかし。  やはり、彼女も人間なのだろう。祈里を殺害したダグバ──その死を聞いて、ホッとした気持ちがあった。マミやせつなを殺したモロトフが自ら命を絶ったあの時とは、全く違う気持ちだ。 「……さっきの人の事は、……もう、いいんです。……もう、私が口出しできる事じゃない……でも、黒岩さんは?」  死。それが、いま、ここまで、どれだけ繰り返されただろう。  何人が死に、何人もの良い人たちが死んでいった中で、あのダグバは生きていた。  それが許せない気持ち。……それが、ラブの心さえも割り切らせていたのである。 「……言ったじゃないですか、黒岩さんの命を奪う事に……なるかもしれないって」  確かに、暁はそう言った。それは、つい、数十分前の話である。  その黒岩とは、ラブも暁も、ずっと行動を共にしてきたじゃないか。  ダグバ以上に、倒すのが躊躇われる相手なのだ、彼は。  暁も少しばかり、悩んだ。 「……わからない。……それは俺もわからない。だって、そうだろ? 凪の命を奪ったのは、あの変態だ。でも……黒岩でもあるんだ」  黒岩省吾。まるで、人間のようなダークザイド。  彼はいつから欺いていたんだ? ずっと、騙していたのか? いずれ自分たちを殺すつもりだったのか? ……いや、きっと彼はそれだけじゃない。  何故か、彼は暁との決着にやたらと拘っていた。  そして、彼は隙があればいつでも殺せるはずの自分たちに、何もしなかった。本気で優勝を目指しているわけじゃない証拠は、それだった。それが信頼だった。  しかし、黒岩はその信頼を裏切り、凪のラームを奪った。  凪が万全ならば、ダグバに殺害される事はあっただろうか? 「……俺は凪を殺した奴の、一人を殺した。だから、俺の心は、もう一人の男も殺さなけりゃ許されないのかもしれない。俺はもう、心の中で何度もあいつを殺してる。……そうなっちまったのかもな」  暁は、仲間を殺した相手を殺した。その理由を正当化するには、黒岩も殺さなければならない。そうでなければ、違った理由になってしまう。  いや、……やはり、そうではないのかもしれない。それこそ、黒岩と戦う理由なんて後付けでもいい。  ダグバを殺した理由の正当化は必要であっても、黒岩と戦うのに理由はいるだろうか? 「あいつもきっと同じだ。あいつも心の中で俺を何度も殺してる。俺たちはお互い、生身の戦いでそれに答えないと駄目なんだ」 「……そうですか」 「……なあ、ラブちゃん。もしかして、今の俺って、怖い顔してない?」  暁は言った。  いや、しかし、ラブの目が捉えた暁の顔は、別に普通だ。いつものような、ちょっと魔の抜けた面のままである。 「普通、ですよ……?」 「あ、そう」  良かった、と暁は心底思った。怒った顔を見られたくない、と……それはラブも知っている。  ダグバをはっきり、あんなに無残に、死んでいく姿を見て、暁も動揺していた。せめて、人の形をしていなければ。ほむらのように安らかであれば。そうではなかったから、どうしても己が、あるいは黒岩が、ダグバと同じポーズ、同じ格好、同じ断末魔で死ぬ姿が、暁の脳裏にフラッシュバックしてしまうのだ。  それで自分が今、もしかすると笑顔とかそういうのを崩してしまって、怖い顔をして、ラブを怯えさせているのではないかとさえ思った。 「まあいいや、それなら……」  暁は、すぐにメニューの肉が見られるほど立ち直ってきた。  だんだんと、もう、あの姿が、頭から消えているのかもしれない。あの死体の凄惨さを忘れたわけではない。ただ、その思い出し方を忘れ始めているのだろう。 「あの、そういえば……暁さんって、探偵なんですよね」 「ああ、そうだよ。最近忘れられ気味な設定だけど」  自虐的にそんな事を言いながらも、暁は探偵である。  探偵としても別に一級品ではない。得意なのは逃げたペットを探す事だけ。  その他の事は殆どできない。というか、依頼を探す事さえできない。  殆どの人にとって、暁は探偵というよりは、遊んでる人という認識だろう。 「……じゃあ、黒岩さんとの戦いの前に、一つだけ依頼をさせてください」 「ん? 何かな?」 「必ず、勝ってください」  ラブは言った。本当は、黒岩を救え、とそう依頼したかったが……、いや、それは違うのだと気づいた。  暁と黒岩。二人は対局だ。シャンゼリオンとダークザイド。軟派と硬派。アレと真面目。不潔と清楚。女たらしと紳士。探偵と都知事。アレと博識。怠け者と努力家。……しかし、だからこそ、同じなのだ。  二人は、お互いに決着をつける事を望む。暁が望んでいるのなら、黒岩は、きっと暁との戦いを望む。  そんな二人を、どう救う事ができるだろうか。 「……悪いけど、俺の依頼料は高いんだ。子供が払える値段じゃないぜ」 「え? そうなんですか……、えっと……」  ラブは、ふと自分の貯金を思い出す。  貯金はドーナツを買ってしまって使い果たしたような……。  はっ、そんな事を考えている場合ではない。 「男なら一つの依頼で一千万円、女の子ならデート一回だ。つまり君の場合はデ・ェ・ト。どうだ? 払えるか?」  ……ラブが少し黙った。  ふと思い出される大輔の顔。 「……あれ? もしかして先客とかいる? あ、別に遊園地とかでまったりと過ごすだけだからそんな深く考える事は……」  地雷を踏んだかと思って、暁が慌てて取り繕うが、そんな暁をよそに、ラブは考えた。 (まあいっか……)  大輔とは、帰ったらいつでも会える。あっさりと、脳内の大輔を外に追い出して(「おいっ! こらっ! ラ~ブ~!」と慌てている大輔の声がだんだん小さくなる……)、その条件を呑む事にした。 「いいですよ。あなたに依頼します。デートするから、その代わりに、絶対依頼は果たしてくださいね……」 「勿論。俺は生まれてから、デートの約束を破った事が一度もないんだ」  放送まで、残り一分を切った。 【1日目 夕方】 【H-7/市街地・カフェ】 【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】 [状態]:疲労(中)、胸部に強いダメージ、黒岩への怒り、ダグバの死体が軽くトラウマ、嘔吐による空腹、ただし今は食欲減退 [装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、モロトフ火炎手榴弾×3 [道具]:支給品一式×7(暁(ペットボトル一本消費)、一文字(食料一食分消費)、ミユキ、ダグバ、ほむら、祈里(食料と水はほむらの方に)、霧彦)、首輪(ほむら)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス、八宝大華輪×4@らんま1/2、スタンガン、ブレイクされたスカルメモリ、ランダム支給品0~5(ミユキ0~2、ほむら0~2(武器・衣類ではない)、祈里0~1(衣類はない)) [思考] 基本:加頭たちをブッ潰し、加頭たちの資金を奪ってパラダイス♪ 0:放送を聞き、石堀が来るのを待って、どこかに集まっているだろう仲間を探す 1:別れた人達が心配、出来れば合流したい。 2:あんこちゃん(杏子)を捜してみる。 3:黒岩との決着は俺がつける 4:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。 [備考] ※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。 つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)。 ※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。知り合いの名前は聞いていませんでしたが、凪(さやか情報)及び黒岩(マミ情報)との情報交換したことで概ね把握しました。その為、ほむらが助けたかったのがまどかだという事を把握しています。 ※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。 ※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。 ※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。 ※森林でのガドルの放送を聞きました。 【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】 [状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、左肩に痛み、精神的疲労(小)、決意 [装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア! [道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×1@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─ 基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。 0:放送を聞き、石堀が来たらラビリンスについて説明する。 1:どこかに集まっているだろう仲間を探す。 2:黒岩さんのことはひとまず暁に任せる 3:マミさんの遺志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。 4:プリキュアのみんなと出来るだけ早く再会したい。 5:マミさんの知り合いを助けたい。もしも会えたらマミさんの事を伝えて謝る。 6:犠牲にされた人達のぶんまで生きる。 7:ダークプリキュアとと暗黒騎士キバ(本名は知らない)には気をつける。 8:どうして、サラマンダー男爵が……? [備考] ※本編終了後からの参戦です。 ※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。 ※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。 ※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。 ※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。 *時系列順で読む Back:[[ひかりのまち(前編)]]Next:[[第三回放送X]] *投下順で読む Back:[[ひかりのまち(前編)]]Next:[[第三回放送X]] |Back:[[ひかりのまち(前編)]]|[[涼村暁]]|Next:[[]]| |Back:[[ひかりのまち(前編)]]|[[桃園ラブ]]|Next:[[]]| |Back:[[ひかりのまち(前編)]]|[[石堀光彦]]|Next:[[]]| |Back:[[ひかりのまち(前編)]]|[[ン・ダグバ・ゼバ]]|&color(red){GAME OVER}| ----
*ひかりのまち(後編) ◆gry038wOvE 『撃っていいのは、撃たれる覚悟がある奴だけだぜ、レディ?』 △ 「……あれ?」  この台詞を、この時発したのは、ン・ダグバ・ゼバの方であった。  ダグバが見ているのは空。  空。夕焼けの空。  何故、自分が今、仰向けで倒れているのか、ダグバは理解もしていないだろう。  計画が壊れた。否。 「どうして……僕は……」  自分が放ったはずのマキシマムドライブの一撃。  その銃口を見ていたのは、────自分だ。 「なんで……」  ダグバの最後の記憶では、スカルマグナムの銃口は、ダグバ自身を見つめていたのだ。  何故、スカル自身が、スカルマグナムの銃口を見る事になるのか。 「……がっ」  スカルは、いやダグバは──一歩も動けなかった。  彼はもう、何も着ていないみじめな人間の姿に戻っていた。  唯一、普通のリントと違うのは──胸部に巨大な穴が開いている事だろうか。 △  時は少しだけ遡る。  これは、スカルがマキシマムドライブを使用し、引き金を引く少し前の事であった。 「……やっぱりお前はバカだ! くそっ!」  その言葉とともに、仮面ライダーアクセルは、トライアルメモリを鳴らし、装着した。 ──Trial!!──  その音とともに、スカル自身が感知していない時間が始まる。 ──ブルルゥゥゥン……──  石堀光彦が変身した、仮面ライダーアクセルの強化形態。  この時間は、仮面ライダーアクセルトライアルの力が発動した、少しだけダグバたちよりも──ほんの少しだけ速度が速い時間である。 ──ブルルゥゥゥン……──  ダグバが見つめていない視界の裏で、男は仮面ライダーアクセルの力を引き出していた。  彼が奪ったのが、アクセルメモリやトライアルメモリを含む石堀の装備だったなら、また違った結果になったかもしれないが。 ──Trial!!──  仮面ライダーアクセルが、三つの音階とともに駆け抜ける。  スカルとシャンゼリオンのいる場所まで辿り着くまでは、一瞬であった。 「ふふっ!」  殆どゼロの距離で引き金に力を込めるスカル。その真横に、アクセルトライアルが居る事など、気づく余地もない。 「ふんっ!」  アクセルトライアルはスカルが引き金を引くと同時に、スカルマグナムの銃身を蹴りあげる。  それを持っていたスカルの腕ごと、スカルマグナムはスカルの顔を向けるようにひんまががった。銃口は、この時、スカルのこめかみにくっついていた。  スカルはその事に一切、気づかぬまま、マスクの裏で笑いながら、引き金を引いた。 「……っっっ!! ぐあああああああああっっっ!!!」  しかし、そのまま、突如裏返されたスカルマグナムのマキシマムドライブが、スカルの顔面に黒い世界を作り上げた。  こめかみを向いていようが、関係ない。  それは既に、スカルの視界全て、マスク全体を破壊し、麻痺させる協力な連射であった。 「なっ……!!」  ダグバの視界は、己の放ったマキシマムドライブによって──仮面ライダースカルのマキシマムドライブによって、この瞬間、殺される。  ダグバの世界は、この瞬間に、閉ざされたのである。  スカルマグナムが反動で、宙を舞う。スカルの身体が、真後ろに倒れていく。 「……ふんっっ!!」  だが、そのまま地面に突き落とす石堀ではない。  このスカルパニッシャーの一撃がダグバを殺せるかわからない以上、石堀は更に追い打ちをかける必要があった。 ──Trial Maximum Drive!!──  アクセルトライアルは、既にダグバの背後に回る。そして、今度は真後ろから、何発ものキックがダグバの身体を打ち付けた。 「ふんっ! ふんっ! ふんっ! はぁっ! せやぁっ!」  マシンガンスパイク。トライアルメモリが放り投げられ、秒読みが開始されている。  ダグバの意識はない。 「おいっ……!! ……ったく」  T字型に、ダグバの全身が砕かれていくのを、シャンゼリオンは見ていた。  己の身体に銃を向けて、引き金を引き、顔の前で爆発を起こすスカル。  その真後ろは、Tの字が浮かんでいる。  スカルパニッシャーの残滓、そして僅か数秒の打撃の数々。それらに挟まれ、ダグバの消えかかった意識を、完全に消滅させる。  どうやら、石堀がやってくれたらしい、とシャンゼリオンは理解した。スカルの後方でキックを放つ青い影が、シャンゼリオンにも鮮明に見えていた。  これを想定していたわけではないが、シャンゼリオンは好機を知った。  よし。 「……あんたも本当によくやるよな。とりあえず、ラッキーで助かったって事で」  胸のシャンディスクにクリスタルパワーを集合させる。  助かっただけでなく、どうやら勝利のチャンスにもなったらしい。 「じゃあ、俺もいくぜ……。シャイニングアタック!!」  その言葉とともに、シャンゼリオンの胸から現れる、もう一人のシャンゼリオン。  クリスタルパワーの結晶体が生み出される。  結晶体は、真っ直ぐにスカルの胸に向かっていく。 「はあああああああああああっっっ!!!」  そして、その叫びとともに、スカルの身体は貫かれる。  シャンゼリオンが己の身をもって刺し貫いたスカルの──その先には、既にアクセルトライアルの姿はない。  既にアクセルトライアルも駆け抜けていたのだ。 「俺ってやっぱり、決まりすぎだぜ……!」 「9.6秒、か。…………暁、それを言うなら……『俺達は』だろ」  ダグバがいた場所の、後ろにはシャンゼリオンが。  ダグバがいた場所の、前にはアクセルトライアルが。  背中合わせに、そう言いあった。  スカルメモリは割れ、そのまま爆発を起こした。  もはや、仮面ライダースカルの装着者は悲鳴もあげなかった。 △ 『だって、一条さんと会えたから……!』  ダグバが求めた宿敵・五代雄介は、少し前に笑顔で逝った。そこに後悔はない。それは、最後に親友と会えたからだ。  ダグバが知る由もない。 『みんな……無事でいてね……みんなが生きて帰れるって事を、私は信じているから……』  ダグバが殺した山吹祈里は、誰かを信じながら逝けた。そこにも後悔はない。それは、親友がこの殺し合いを打破できると信じたからだ。  ダグバが知る由もない。 『名前はモロトフ……所属は……ラダムだぁぁぁぁぁ!』 『ゴゼパ ザバギン バシグラ ゴ・ガドル・バ ザ』  それは、ダグバが出会ってきた戦士が、おのれの名を誇る強い意志。  善悪に関わらず、その誇りは確かな物であった。敵ながらあっぱれ、と言わしめるほどの熱き闘志に燃えた男たちであった。  ダグバが知る由もない。 『俺は、無差別格闘早乙女流・早乙女乱馬だ!!!』  ダグバが殺した早乙女乱馬。ダグバのバックルを破壊し、ダグバの殺害を一つ手伝った男。彼は、立ち上がり、勝利の鍵を後に残した。  仲間がいたから。愛する人がいたから。守りたい人がいたから。  ダグバが知る由もない。 『救い様の無い世界だとしても……あの子が守ろうとする世界を傷つける事は……私が許さない……』 『さあ、お前の罪を数えろ!!』  それは、かつて仮面ライダースカルの力を使った者たちの言葉。  愛する人を守るため。あのスカルマグナムの一撃は、そんな思いを秘めた者からのプレゼントだといえよう。  ダグバが知る由もない。  ダグバは── 『僕を笑顔にしてよ……』  ダグバは彼らが持っていた物を、何ひとつ持っていなかった。知らなかった。  悲しい事に、彼はそういう人間だったのだ。  本能のままに生き、殺傷そのものを楽しむ。誇りや意志があるわけではない。ただただ、快楽のために。  強い者と戦う事で己の快楽を満たすために、ダグバは殺し合ってきたのである。  守る者など何もない。  己さえも。 △ 「……どぉじで……僕は……」  立ち上がる事もできないダグバの前に、シャンゼリオンとアクセルがやって来る。アクセルが、ロストドライバーを回収し、周囲に落ちていたスカルメモリを拾い上げる。スカルメモリはメモリブレイクされており、Sの文字が割れ、中から壊れた機械が小さな煙をあげていた。  アクセルトライアルのマキシマムドライブは殺傷ができない。メモリブレイクはできても、中の人間を殺す事はできないのだ。  そのため、実質、殺害として有効だったのは、シャンゼリオンのシャイニングアタックだった事になるだろうか。 「……暁。ほれ」  シャンゼリオンは、ブレイクされたスカルメモリを手に取った。 「これは知り合いの物だろ。俺が持っていても仕方ない」  もう、石堀にとってスカルのメモリなど用済みだ。折角だから、持ち主に返してやろうというものである。 「……お、おう」  シャンゼリオンは、スカルメモリ自体は、快く受け取るが、地面に落ちている別の物体を見てかなり引いているようだった。  地面にあるのは、ダグバの死体だ。  ダグバの身体には巨大な穴が開いており、内臓が飛び散っている。何かそれらしき物が色んな方向を向いており、形容しがたい赤ピンクの物体を見せている。自分の身体にもこんな物が入っていると思うとゾッとする。  つい先ほどから暁にとって不快なものを露出してはいたが、まさかこれまで暁に見せるとは……。  暁は、探偵とはいえ、別にテレビにように殺人事件を担当したわけではない。つまり、死体なんて見慣れていない。これは生涯、暁のトラウマとなるだろう。  吐き気を催す。 「うわ……これは女の子連れてこなくてて正解だ……ちょっと俺もヤバい……吐いてくる」 「まあ待て。だいたい、その姿のままどうやって吐くんだ?」  シャンゼリオン、涼村暁と仮面ライダーアクセル、石堀光彦はこの男の死に様を見てもドライだった。ドライにならざるを得ない。  この無様な姿もやむを得ないほど、彼は人を殺したのだから。そして、それに対して何も思っていない。とうに体も心も人間をやめた男だったのだから。 「教えでぐれ……僕は、どぉじで……、……ごんなごどに……」  ダグバは、すがるように問う。  ダグバが最後に見たのは、自分の前に突き付けられる銃口。  一体、何が起きたのか。ダグバの視覚も捉えなかった。 「……お前が知る事は永久にないさ。ま、因果応報ってやつだな……。俺は満足だぜ、予告通り、お前はどうしようもない絶望の淵で死んだ」 「おい。石堀、お前怖すぎ。何で平気でいられんの? 俺、今も吐きそうだぜ……オエエエエエエエ」  シャンゼリオンの姿のまま、暁は前傾姿勢になった。  本当に吐いているのかはわからないが、それらしき物は出ていない。 「嫌だ……教えでよ……嫌だよ、何もじらないまま、じんでゆぐなんで……! ぼげぁっごぇっ……!」  ダグバは口から血を吐く。巨大な血の泡がダグバの口元で膨らむ。全身がピンクがかった赤色に染まっている。  もし、ダグバがこの状況で笑えれば、それこそ凄いとしか言いようがない。石堀はそれについては、負けを認めよう。  しかし、ダグバは笑顔にはなれなかった。  何故、自分がこんな事になっているのか。  戦いは? どういう戦いをしたんだ?  自分は、あの二人は……。あらゆる疑問が芽生えてしまう。  戦いで死んだ気がしない。戦いを愉しんだ気がしない。楽しくない戦いで終わってしまったような、そんな不快感だけがダグバに残る。  シャンゼリオンが、そんなダグバの目元を見て──なるべくその他を見ないようにして言う。 「……だから、悪いけど無理。ていうか、なんでそんな姿で喋れんの? あんたさ、本当に人間?」 「気にするな、暁。どう考えても、こいつは普通の人間じゃない。というか、そんなにコレが気色悪いなら見るなよ」 「いや、なんかつい見ちまって……」  暁としても、これからしばらく肉が喰えなくなる気がするのだが、どうしてもそれを見てしまう。人間は、やはりグロテスクな異形に惹かれるのだろうか。 「……まあ、わからんでもないが。じゃあ、悪いが……暇じゃないんで、俺たちは行く」  頑なに、何も教えようとはしない石堀と暁。彼に何も教えようとはしない。石堀が、こう言いながらニヤリと笑っている事など、誰も知る由もないだろう。  立ち去ろうとしたが、シャンゼリオンは立ち止まり、アクセルに言う。 「ん。ちょっと待て石堀。こんなグロい死体を放置したら、後から来た奴に迷惑だって……」 「……これをやったのはお前だろ」 「え」  腹に穴を明けたシャイニングアタックは、シャンゼリオンの技だ。  確かにそうだが、まさかこれを掃除する責任は暁にあるとでも言うのだろうか。  暁としては、勿論それは嫌だ。お金を貰わないとやっていられなさそうだ。  しかし、石堀は彼に任せる気はなかった。 「冗談だ。後で俺が掃除する。コイツの死体を……まあ、海にでも捨てるよりは、副隊長の死体を埋葬してやりたい。それに、あの子も待ってるだろ? 今はまず、行かなきゃな」 「……ああ。そうだな」  シャンゼリオンとアクセルは、ダグバに背を向けて、二人で変身を解除した。  シャンゼリオンは、流石に石堀ほどドライに合理的な判断が下せない……いや、そこに少なからずの不快感を、一瞬だけ持った。  しかし、その思いもやがて消えた。 「じゃあな、今度こそお別れだ。何故、自分がそうなったのか……せいぜい考えると良い。答えなど出ないだろうがな……」 「ぞんな……っ」 「それじゃあ、俺も行くわ。悪いけど。あ、使わないからいいでしょ? お前の持ってたデイパックも貰っていくよ」  二人は行く。  もう、彼らが振り向く事はない。歩き出す。遠ざかっていく。  ああ、これで自分が何故死んだのか、それを知る機会がなくなっていってしまった。  ダグバは、仕方がなく、言われた通りに、自分で考える事にした。それしか、何故こうなったのか知る術はないのだ。 (……くそ。なぜ、僕がこんな事に……)  本当に、戦いで死んだのか?  そう、ダグバは──死ぬ時は、強いヤツとの戦いで、笑顔で死にたかった。  それならば良い。しかし、これは違う。何も知らないまま、ダグバは死んでしまう。  考えろ。  何故、自分は死んだ?  答えは出ない。  視界が殺された一瞬で、何かがあったはずだ。  あの後、背中に打撃があり、……そこから記憶はない。  あれからどれだけ時間が経ったのか。数分か、数時間か。それもわからない。 「あ゙あッ……げぼぇっ……」  痙攣して、血反吐が漏れる。  ダグバは今日日、どれだけ戦いをしてきただろう。  ナスカドーパント、ヒートドーパントとの戦い。  暁美ほむら、シャンゼリオンとの戦い。  仮面ライダーダブル、テッカマンブレード、ルナドーパントとの戦い。  ウルトラマンネクサス、佐倉杏子との戦い。  キュアパインとの戦い。  早乙女乱馬、アインハルトとの戦い。  仮面ライダースーパー1との戦い。  テッカマンランスとの戦い。 「ぐるぁっ……」  まるで、滅亡へのカウントダウンを告げるかのような、全身の痙攣と、言いようのない悪寒。  ……幾度もの戦いを繰り広げながら、彼は「傷」を負う事はあっても、「成長」する事はなかった。何かを知る事もなかった。  唯一は、電撃による強化のみ。しかし、他の参加者たちは、戦いの中で、身体的強化意外の何かで、強くなっていった事など、彼は知る由もない。  そう、今のシャンゼリオンでさえも……。  だんだんと、意識が朦朧として、頭が働くなり、考える事もできなくなった。 「うっ……ぶぉぇっ……」  じゃあ、せめて──と。  彼は笑おうとした。悔しいから。  心の底からの笑いじゃない。笑えないで死んでいく事が、あいつらのために自分の笑顔が妨害されて死ぬのが悔しいから笑おうとするのだ。 「げはっ、ぼぇっ、ぐぶぇ……っっっ!!」  だが、血の泡が口から吐き出されるのみで、笑う事ができない。  いつものように。  いつも、ダグバが笑って人を殺してきた時のように。  あんな笑いが漏れないのだ。 (……駄目だ、嫌だ……僕は、このまま死にたくない、僕はまだ……)  そんな思いが、恐怖が、ダグバの脳裏を掠める。  死にたくない。死にたくない。死にたくない。  死にたくない……。  死にたくない………………。 「……ぐぇ」  しかし、たとえどんなに生きたいと願っても、命には限界がある。  哀れなひと言とともに、最後の血を絞り出すように吐き出すと、数千人を殺し尽くしたグロンギの王は、魂を吐き出したかのように……こんなにも哀れな姿で死んだ。 &color(red){【ン・ダグバ・ゼバ 死亡】} &color(red){【残り 21人】} △ 「あ、もう変身解いていいよ」  暁が、キュアピーチのほうに歩いてきながら言った。石堀と並んで歩いている。  キュアピーチは、言われた通りに待っていたし、この時も変身を解いた。 「……あの人は、どうなったんですか?」  ラブのいる場所からは、何があったのか、詳しくは見えなかったのだろう。倒れている彼に話しかける二人しか見えなかったはずだ。  スカルのマキシマムドライブが発動した瞬間に、目を瞑って、その直後に決着がついてしまっていたのも、彼女を混乱させている。 「……死んだ」  暁があっさり言った。ラブは、悲しそうな顔を浮かべ、「……そうですか」と言った。  ラブの暗い表情に、暁もどういう態度で接すれば良いかわからなくなる。 「あいつは、最後まで笑いながら、俺達を殺そうとしながら死んでいった。頭のおかしい奴さ。殺さなければ、殺される所だった。最後まで、副隊長の死を嘲笑い、笑いながら俺達を……。悪いが、救いようもないよ」  石堀が、いけしゃあしゃあと嘘を吐く。暁は怪訝そうに石堀を見る。  だが、暁としても、それで良いと思った。  あの男は、同情の余地がなくて良い。みじめに死んだと知って、ラブが心に重荷を背負う必要はない。  あの男の死に様なんて、それこそどうでもいい。最後に少しでも人らしい心を見せれば良かったのだが、それがよりにもよって、自分が何故ああなったのかもわからないままに死ぬ「恐怖」だとは。  この妙な後味の悪さを背負わせる必要はなさそうだった。 「世の中にはいるのさ。ああいう奴も。最初っから最後まで、人間の心なんてわからないまま死んじまう奴が。女子高生を監禁して、毎日ひどい拷問して、死んだら海に捨てちまう奴だって、この日本にいたんだぜ……?」  暁なりの、へたくそなフォローだろうか。  何にせよ、ラブの顔色は優れなかった。 「……じゃあ、二人とも、どこかの建物に入って待っていてくれないか? 遺体の処理は、俺がやる。凪のものも、アイツのものも、今は酷い有様だ」  首から上を吹き飛ばされた遺体と、胸部と腹部を貫通する巨大な穴が開いて、内臓をまき散らした死体。  いずれも、人に見せられる物じゃない。 「ああ」  暁は、ラブを連れて近くの建物に入った。  暁が真っ先に向かった場所が、トイレだった事は言うまでもない。 △ (どうする……)  石堀は、凪の遺体を見ながら考えた。凪の遺体には、ラブがかけたらしい毛布がある。  それで、首から上をスカルマグナムで吹っ飛ばされた遺体も、まだ何とか見られるようになっていた。 (……こうなってしまった以上、光の動向を探るしかない。今はまだ、同行者を殺す必要はなさそうだが)  暁といい、ラブといい、まだある程度の利用価値はある。  ラブは単純そうだったし、なんだかんだで一筋縄でいきそうにない暁とも、そろそろ一定の信頼が芽生えた頃だろう。  二人は戦闘力としても不足はない。こういう事態が起きたからといって、殺さねばならない相手というわけではなさそうだ。 「さようならだ、副隊長……」  悲哀を込めた一言とともに、“ナイトレイダーの隊員”・石堀光彦はその遺体に敬礼をし、お別れを告げた。少なくとも、彼女はナイトレイダーの副隊長である。  こうして遺体に敬礼をしない事は不自然であったし、石堀光彦ならばこうするだろうという常識に合わせた行為であった。  いつ、どこで見ているかわからない誰かのために、ダークザギは、一人の防衛隊隊員のフリをした。 (……黒岩はいずれ死ぬ。だが、余計な事をしてくれたのは確かだな)  凪が気絶中の人間でなければ、もう少し守りやすかっただろう。  こうなったのも、元はと言えばあの黒岩省吾が原因である。石堀は、黒岩に対する強い怒りを感じながらも、彼の命が手中にある事を知った。  彼はせいぜい、勝手に参加者──いわば、凪が死なないための障害でも排除して、勝手に死んでくれれば御の字という存在だ。別に今から死のうが生きようが構わない。 (しかし……俺は、何故、この女が光の継承者だと知っていたんだ?)  ふと、石堀の脳裏に疑問が思い浮かぶ。  何故か今まで全く気にも留めなかったが、よくよく考えれば妙な話である。ネクサスの光を得るために、石堀は、将来的にネクサスの光を得る凪を泳がせた。  しかし、石堀は何故、凪がネクサスの光を得ると知れたのだ……? (くっ……なんだ、この感覚は……)  思い出そうとすると、頭が痛む。  そのために懸命になればなるほど、頭はもっと痛くなり、石堀は両手でそれを抱える。  だが…… (……駄目だ、思い出せない。だが、何らかの手段があったはずだ。それを探らなければ)  石堀は、諦めて、凪の遺体の埋葬に取り掛かる事にした。  ダグバの死体は、後で海にでも捨てればいい。奴の死体を埋めるのは面倒だ。  海は近い事だし、それで問題ないだろう。 (もう放送の時間か……。一人で聞く事になるが、さて、どうしたもんか)  石堀は、凪の遺体を埋葬するより前に、少し放送の準備をする事にした。  今現在、もう放送まで一分を切っているからだ。 【1日目 夕方】 【H-7/市街地】 【石堀光彦@ウルトラマンネクサス】 [状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、頭痛 [装備]:Kar98k(korrosion弾7/8)@仮面ライダーSPIRITS、アクセルドライバー+ガイアメモリ(アクセル、トライアル)+ガイアメモリ強化アダプター@仮面ライダーW、エンジンブレード+エンジンメモリ+T2サイクロンメモリ@仮面ライダーW 、コルトパイソン+執行実包(2/6) 、ロストドライバー@仮面ライダーW [道具]:支給品一式×3(石堀、ガドル、ユーノ、凪、照井、フェイト)、メモレイサー@ウルトラマンネクサス、110のシャンプー@らんま1/2、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×18、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×4)、テッククリスタル(レイピア)@宇宙の騎士テッカマンブレード、イングラムM10@現実?、火炎杖@らんま1/2、血のついた毛布、ランダム支給品2~8(照井1~3、フェイト0~1、ガドル0~2(グリーフシードはない)、ユーノ1~2) [思考] 基本:今は「石堀光彦」として行動する。 0:放送の準備をした後、凪を埋葬する。その後、ラブからラビリンスについての話を聞いて平行世界について情報を得る。 1:凪……。 2:どこかに集まっているだろう仲間を探す。 3:周囲を利用し、加頭を倒し元の世界に戻る。 4:次のデュナミストがどうなっているか気になる。もし異世界の人間だった場合どうするべきか… 5:孤門や、つぼみの仲間、光を持つものを捜す。 6:都合の悪い記憶はメモレイサーで消去する 7:加頭の「願いを叶える」という言葉が信用できるとわかった場合は……。 [備考] ※参戦時期は姫矢編の後半ごろ。 ※今の彼にダークザギへの変身能力があるかは不明です(原作ではネクサスの光を変換する必要があります)。 ※ハトプリ勢、およびフレプリ勢についてプリキュア関連の秘密も含めて聞きました。 ※良牙が発した気柱を目撃しています。 ※つぼみからプリキュア、砂漠の使徒、サラマンダー男爵について聞きました。 ※殺し合いの技術提供にTLTが関わっている可能性を考えています。 ※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。 ※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。 ※森林でのガドルの放送を聞きました。 ※予知能力に関する記憶が思い出せませんが、何故凪が光の継承者になった事を知っていたのか、疑問に思い始めているようです。 △ 「あー、気持ち悪かったー」  トイレで色々と吐いた後、暁はラブの元に戻ってきた。  流石にぼろぼろのオープンカフェに入ったわけではなく、近くの別の小さな喫茶店に二人は入っていた。とても残念な事に、その喫茶店のメニューが一部、肉が使われている。  暁は、なるべくメニューを見ないようにした。 「……ほんと、見なくて正解だぜ? 俺も一生モノのトラウマだ……あー、まったく……」  ダグバの死体は、今なお暁の脳裏に鮮明な形で焼き付いている。  とはいえ、流石にもう吐き出す事はないが。洗面所で、顔もちゃんと洗った事だし、今は随分とさっぱりした気分だ。少しお腹が減るが、何も食べる気にはならない。 「……仕方がない事なんですよね」  ラブが、押し黙っていた口を開いた。諦めるというよりは、問いかけるように、ラブはそう言った。  俯いたまま。  そのラブが、怖かった。人を殺した暁の事を、もしかすると恐れているのではないかと。  しかし、暁の口は止まらなかった。暁だって、あの死体を見れば少しは「殺人」というものの意味を知る。  だからこそ、自分がした事は正当なのだと、声を大にして反論しなければならない。 「……当たり前だ。人の形をしてるからって、あいつを人と呼ぶ気にはなれねえよ。……ほら、俺だってさ、あんまり人っぽくないじゃん? なんかピカピカ光るアレになって。でもまあ、一応、心は人らしいつもりだし」 「……」 「それとは反対に、人間の姿をしてても、ものすごく凶暴なヤツだっているんだぜ。……というか、俺は前にあいつが変身した姿見たんだけど、それがもう醜悪で醜悪で……見ただけで吐きそうになっちまうほどの……」  つらつらと、言い訳するように暁は言った。  無神経な表情をしながら、しかし、きっと何処かで痛みはあったに違いない。 「……まあさ、だからアイツの事は割り切って」  その先を言おうとしたところで、ラブが口を挟んだ。 「黒岩さんもですか?」 「え……?」  ここで挙がった想定外の名前に、暁は閉口する。  暁としては、ダグバの話をするつもりだった。ラブは、ダグバを殺した事について悩んでいるのかと、そう思った。  そんな暁の考えとは裏腹に、ラブは案外大人だ。確かに、命を奪う事は肯定しない。ダグバの死も気にしている。それを悔やむ気持ちもある。彼が分かり合える存在ならば、それで分かり合いたかった気持ちも。  しかし。  やはり、彼女も人間なのだろう。祈里を殺害したダグバ──その死を聞いて、ホッとした気持ちがあった。マミやせつなを殺したモロトフが自ら命を絶ったあの時とは、全く違う気持ちだ。 「……さっきの人の事は、……もう、いいんです。……もう、私が口出しできる事じゃない……でも、黒岩さんは?」  死。それが、いま、ここまで、どれだけ繰り返されただろう。  何人が死に、何人もの良い人たちが死んでいった中で、あのダグバは生きていた。  それが許せない気持ち。……それが、ラブの心さえも割り切らせていたのである。 「……言ったじゃないですか、黒岩さんの命を奪う事に……なるかもしれないって」  確かに、暁はそう言った。それは、つい、数十分前の話である。  その黒岩とは、ラブも暁も、ずっと行動を共にしてきたじゃないか。  ダグバ以上に、倒すのが躊躇われる相手なのだ、彼は。  暁も少しばかり、悩んだ。 「……わからない。……それは俺もわからない。だって、そうだろ? 凪の命を奪ったのは、あの変態だ。でも……黒岩でもあるんだ」  黒岩省吾。まるで、人間のようなダークザイド。  彼はいつから欺いていたんだ? ずっと、騙していたのか? いずれ自分たちを殺すつもりだったのか? ……いや、きっと彼はそれだけじゃない。  何故か、彼は暁との決着にやたらと拘っていた。  そして、彼は隙があればいつでも殺せるはずの自分たちに、何もしなかった。本気で優勝を目指しているわけじゃない証拠は、それだった。それが信頼だった。  しかし、黒岩はその信頼を裏切り、凪のラームを奪った。  凪が万全ならば、ダグバに殺害される事はあっただろうか? 「……俺は凪を殺した奴の、一人を殺した。だから、俺の心は、もう一人の男も殺さなけりゃ許されないのかもしれない。俺はもう、心の中で何度もあいつを殺してる。……そうなっちまったのかもな」  暁は、仲間を殺した相手を殺した。その理由を正当化するには、黒岩も殺さなければならない。そうでなければ、違った理由になってしまう。  いや、……やはり、そうではないのかもしれない。それこそ、黒岩と戦う理由なんて後付けでもいい。  ダグバを殺した理由の正当化は必要であっても、黒岩と戦うのに理由はいるだろうか? 「あいつもきっと同じだ。あいつも心の中で俺を何度も殺してる。俺たちはお互い、生身の戦いでそれに答えないと駄目なんだ」 「……そうですか」 「……なあ、ラブちゃん。もしかして、今の俺って、怖い顔してない?」  暁は言った。  いや、しかし、ラブの目が捉えた暁の顔は、別に普通だ。いつものような、ちょっと魔の抜けた面のままである。 「普通、ですよ……?」 「あ、そう」  良かった、と暁は心底思った。怒った顔を見られたくない、と……それはラブも知っている。  ダグバをはっきり、あんなに無残に、死んでいく姿を見て、暁も動揺していた。せめて、人の形をしていなければ。ほむらのように安らかであれば。そうではなかったから、どうしても己が、あるいは黒岩が、ダグバと同じポーズ、同じ格好、同じ断末魔で死ぬ姿が、暁の脳裏にフラッシュバックしてしまうのだ。  それで自分が今、もしかすると笑顔とかそういうのを崩してしまって、怖い顔をして、ラブを怯えさせているのではないかとさえ思った。 「まあいいや、それなら……」  暁は、すぐにメニューの肉が見られるほど立ち直ってきた。  だんだんと、もう、あの姿が、頭から消えているのかもしれない。あの死体の凄惨さを忘れたわけではない。ただ、その思い出し方を忘れ始めているのだろう。 「あの、そういえば……暁さんって、探偵なんですよね」 「ああ、そうだよ。最近忘れられ気味な設定だけど」  自虐的にそんな事を言いながらも、暁は探偵である。  探偵としても別に一級品ではない。得意なのは逃げたペットを探す事だけ。  その他の事は殆どできない。というか、依頼を探す事さえできない。  殆どの人にとって、暁は探偵というよりは、遊んでる人という認識だろう。 「……じゃあ、黒岩さんとの戦いの前に、一つだけ依頼をさせてください」 「ん? 何かな?」 「必ず、勝ってください」  ラブは言った。本当は、黒岩を救え、とそう依頼したかったが……、いや、それは違うのだと気づいた。  暁と黒岩。二人は対局だ。シャンゼリオンとダークザイド。軟派と硬派。アレと真面目。不潔と清楚。女たらしと紳士。探偵と都知事。アレと博識。怠け者と努力家。……しかし、だからこそ、同じなのだ。  二人は、お互いに決着をつける事を望む。暁が望んでいるのなら、黒岩は、きっと暁との戦いを望む。  そんな二人を、どう救う事ができるだろうか。 「……悪いけど、俺の依頼料は高いんだ。子供が払える値段じゃないぜ」 「え? そうなんですか……、えっと……」  ラブは、ふと自分の貯金を思い出す。  貯金はドーナツを買ってしまって使い果たしたような……。  はっ、そんな事を考えている場合ではない。 「男なら一つの依頼で一千万円、女の子ならデート一回だ。つまり君の場合はデ・ェ・ト。どうだ? 払えるか?」  ……ラブが少し黙った。  ふと思い出される大輔の顔。 「……あれ? もしかして先客とかいる? あ、別に遊園地とかでまったりと過ごすだけだからそんな深く考える事は……」  地雷を踏んだかと思って、暁が慌てて取り繕うが、そんな暁をよそに、ラブは考えた。 (まあいっか……)  大輔とは、帰ったらいつでも会える。あっさりと、脳内の大輔を外に追い出して(「おいっ! こらっ! ラ~ブ~!」と慌てている大輔の声がだんだん小さくなる……)、その条件を呑む事にした。 「いいですよ。あなたに依頼します。デートするから、その代わりに、絶対依頼は果たしてくださいね……」 「勿論。俺は生まれてから、デートの約束を破った事が一度もないんだ」  放送まで、残り一分を切った。 【1日目 夕方】 【H-7/市街地・カフェ】 【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】 [状態]:疲労(中)、胸部に強いダメージ、黒岩への怒り、ダグバの死体が軽くトラウマ、嘔吐による空腹、ただし今は食欲減退 [装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、モロトフ火炎手榴弾×3 [道具]:支給品一式×7(暁(ペットボトル一本消費)、一文字(食料一食分消費)、ミユキ、ダグバ、ほむら、祈里(食料と水はほむらの方に)、霧彦)、首輪(ほむら)、姫矢の戦場写真@ウルトラマンネクサス、タカラガイの貝殻@ウルトラマンネクサス、八宝大華輪×4@らんま1/2、スタンガン、ブレイクされたスカルメモリ、ランダム支給品0~5(ミユキ0~2、ほむら0~2(武器・衣類ではない)、祈里0~1(衣類はない)) [思考] 基本:加頭たちをブッ潰し、加頭たちの資金を奪ってパラダイス♪ 0:放送を聞き、石堀が来るのを待って、どこかに集まっているだろう仲間を探す 1:別れた人達が心配、出来れば合流したい。 2:あんこちゃん(杏子)を捜してみる。 3:黒岩との決着は俺がつける 4:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。 [備考] ※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。 つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)。 ※ほむら経由で魔法少女の事についてある程度聞きました。知り合いの名前は聞いていませんでしたが、凪(さやか情報)及び黒岩(マミ情報)との情報交換したことで概ね把握しました。その為、ほむらが助けたかったのがまどかだという事を把握しています。 ※黒岩とは未来で出会う可能性があると石堀より聞きました。 ※テッカマン同士の戦いによる爆発を目にしました。 ※第二回放送のなぞなぞの答えを知りました。 ※森林でのガドルの放送を聞きました。 【桃園ラブ@フレッシュプリキュア!】 [状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、左肩に痛み、精神的疲労(小)、決意 [装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア! [道具]:支給品一式×2(食料少消費)、カオルちゃん特製のドーナツ(少し減っている)@フレッシュプリキュア!、毛布×1@現実、ペットボトルに入った紅茶@現実、巴マミの首輪、工具箱、黒い炎と黄金の風@牙狼─GARO─ 基本:誰も犠牲にしたりしない、みんなの幸せを守る。 0:放送を聞き、石堀が来たらラビリンスについて説明する。 1:どこかに集まっているだろう仲間を探す。 2:黒岩さんのことはひとまず暁に任せる 3:マミさんの遺志を継いで、みんなの明日を守るために戦う。 4:プリキュアのみんなと出来るだけ早く再会したい。 5:マミさんの知り合いを助けたい。もしも会えたらマミさんの事を伝えて謝る。 6:犠牲にされた人達のぶんまで生きる。 7:ダークプリキュアとと暗黒騎士キバ(本名は知らない)には気をつける。 8:どうして、サラマンダー男爵が……? [備考] ※本編終了後からの参戦です。 ※花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつき、月影ゆりの存在を知っています。 ※クモジャキーとダークプリキュアに関しては詳しい所までは知りません。 ※加頭順の背後にフュージョン、ボトム、ブラックホールのような存在がいると考えています。 ※放送で現れたサラマンダー男爵は偽者だと考えています。 *時系列順で読む Back:[[ひかりのまち(前編)]]Next:[[第三回放送X]] *投下順で読む Back:[[ひかりのまち(前編)]]Next:[[第三回放送X]] |Back:[[ひかりのまち(前編)]]|[[涼村暁]]|Next:[[ラブと祈里 さよならの言葉!]]| |Back:[[ひかりのまち(前編)]]|[[桃園ラブ]]|Next:[[ラブと祈里 さよならの言葉!]]| |Back:[[ひかりのまち(前編)]]|[[石堀光彦]]|Next:[[ラブと祈里 さよならの言葉!]]| |Back:[[ひかりのまち(前編)]]|[[ン・ダグバ・ゼバ]]|&color(red){GAME OVER}| ----

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