マークとニキのSSのまとめ

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マークとニキのSSのまとめ - (2008/05/18 (日) 15:46:26) のソース

 無慈悲な宇宙の漆黒と星の瞬きが、窓の外には広がっている。硝子を隔てた、この部屋
の内も、外と同じ静寂に満ちているが、確かに違うのは、人の温もりがあるということな
のだろう。
 マーク・ギルダーは、抱き締められることで、命の熱を伝えてくる、ニキ・テイラーに
呼びかける。
「ニキ」
「……はい」
 マークを見つめてきた、ニキの頬を、そっと撫でる。不思議そうな表情で――二人きり
でいる時は、僅かとはいえ、無表情ではなくなる――ニキが訊いてくる。
「どうしたのですか?」
「うん?」
「今の、言動の理由を教えてください」
 マークは苦笑して答える。
「なんとなく、さ」
「不可解です」
 ぴしゃりと告げてきたニキを、更に抱き寄せる。マークの胸に、頭を当てる格好となっ
たニキが喘ぐ。
「う……く……」
「きみにとっては、理解できないことなのだろうが、許してくれないか?」
「はい。これが、恋人というものなのでしょう?」
 マークは、抱き締める力を、ほんの少し強めることで肯定した。
 その意図が、ニキに伝わったかどうかは、あまり、自身がなかったが。
「あなたを信じています。どうか、わたしを放さないでください」
「……放すものか」
 マークは、ニキの顎に両手を添えると、深く口づけた。
「んうっ……!? ふ……ああ……くっ!」
「……うおっ……!?」
 互いの舌が絡んだところで、マークは、ニキに突き押された。
(段階を誤ったのか……!?)
 ニキの心を傷つけてしまったかもしれないという恐れに、マークは悔いた。ニキが、頬
を染め、強い口調で言ってくる。
「に……妊娠するのは、まだ、早いでしょう!?」
「妊……し……?」
 あっけにとられ、マークは呻いた。
「結婚する前に、に、妊娠などと……は、はれんちです! あなたは――」
「いや。待ってくれ」
 続けてくるニキを遮り、マークは訊く。
「……きみは、口づけで妊娠するという認識なのか?」
「は、はい!」
 ニキの肯定に、マークは呆然とした。
(学ぶべき事柄の選択がおかしいだろう……)
 確かに、軍事、政治に関し、最も優れた成績を修めたニキが、意外な事柄を知らなかっ
たということはあった。だが、どうやら、マークの予想を超越した状態に、ニキはあるら
しい。
「今までに、三回……か……口づけあったことはあるだろう? 例えば、挨拶で口づけあ
う人たちが、その度に妊娠するのではあるまい」
「あれは、浅いものです。たった今の、こ、これは、深いものでしょう!」
 ニキの主張は、マークにとってかわいらしいものではあった。
 無垢な乙女であるニキの純白に、その純然さを壊さず、マークの色を加えなければなら
ない。それは、生涯をかけた、悦びの労力となるだろう。
「まずは、赤ちゃんが、どこから来るのかを学ぼうか」
 マークは囁き、優しく微笑んだ。
294スレ
883、884レス

「世界は驚きに満ちている」
「はい……にゃあ」
「きまじめで、軍事と政治に優れ、どこか世間知らずのお嬢さんが、猫の扮装をしている
ことも、おれにとっては驚きだ」
「は……にゃあ」
「無理に返事を変えなくていいぞ」
 深く、深く嘆息し、マーク・ギルダーは告げた。想像もしていなかった眼前の存在。猫
を模した、耳と手と尾を、いつものきちんとした軍服姿に付けた、ニキ・テイラーに、で
ある。
「誰に、とは言わない……どうせ、クレアだろう」
「にゃー」
 呟くマークに、首を傾げるニキは、かわいらしいことは間違いなかった。
「その格好をすれば、おれが悦ぶと、クレアに教えられたな?」
「にゃい」
 律儀に、猫を擬人化すればこうなるであろう口調で、ニキが肯定してきた。
 学生の頃、偉大なる恩師に要求された、どうすればいいか分からないとしか表現できな
い課題の提出に取り組むような気分で、マークは、ニキに言う。
「あー……よく聴いてくれ。確かに、その姿のきみはかわいいぞ。だが、平素のきみも十
分にかわいいんだ。そして、猫を模した装飾は、おれたちにとって機能性に優れていると
はいえまい。あ……つまり、蛇足……いや……この表現は違うな……チョコレートパフェ
に、更に、チョコレートソースを加えるようなものであって――」
「にゃー」
 自分でも支離滅裂だと思える説得の途中で、ニキが、猫の両手で、マークの頬を挟み、
遮ってきた。忠実に再現されている肉球が心地良い。
「大好きな人にかわいいと感じてもらいたくてがんばるのは、いけないことですか? に
ゃあ」
「……いや」
 目を僅かに潤ませたニキに訊かれ、マークは否定することができなかった。
「あなたが悦んでくれるのであれば、わたしは、どんなこともできそうです」
「嬉しいが……おれに依存していいのか? 勿論、おれは、きみを受け入れる心算だが」
「わたしが、受け入れて欲しいと決めた人は、過去にも未来にも、あなたしかいません」
 マークの問いに、ニキはにこやかに答えてきた。僅かに見えた猫の牙が、悪戯っぽく光
った。


「そもそも、ニキには、猫よりも犬が似合うだろう」
「たまに、酒を飲みに誘われたかと思えば、のろけを聞かされるのかよ」
 ラナロウ・シェイドが、態とがましいほどに、大きく嘆息したが、マークは構わずに続
ける。
「奢ってやるから、語らせろ。気まぐれな猫よりも忠実な犬が、ニキには適している」
「……おまえが頼めば、扮装してくれるんじゃないか?」
 軽い口調の、ラナロウの疑問を、マークは否定する。
「犬と猫のどちらがニキに似合うかという話だ。おれには、扮装させて悦ぶ性癖はない。
おそらくな」
「そういうやつが、怪しいもんだ」
「…………」
 ラナロウが茶化してきたが、更に否定することはできず、マークは、沈黙で答えた。
「前に、嘘を吐けないのは、良くも悪くもあるって言ったぜ」
 苦笑し、ウイスキーを喉に流し込むラナロウに、マークは告げる。
「あのお嬢さんは、不思議な存在だ。戦局の先を読む力に優れ、おれたちに最善の結果を
齎してくれるが、日々の、楽しみも喜びも知らず、機械のように生きてきた。おれには、
そんな姿が、ひどく、儚くて悲しいものに感じられた。人として護ってやりたいと、素直
に思える」
 マークは目を伏せ、グラスの縁を指でなぞった。琥珀色の液体に溶けていく氷が鳴った。
「おまえも変わったよ」
「うん?」
 僅かに感慨を含ませて言ってきたラナロウに、マークは疑問の声を発した。
「今のおまえ、生きていきたいって気概があるぜ。自分の命さえ、どこか他人事のように
扱っていた、おまえがさ。おまえらが惹かれあったってこと、なんとなく、分かる気がす
るよ」
「……ああ」
 ラナロウの答えに、マークは深く頷いた。
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