「案外、こちらから出向くと中々見つからないものですわね」 東京、その雑多で慌ただしい人込みから少し外れた路地裏で、カチューシャで短い髪を纏め、ワイシャツを着崩した巨乳少女が舌打ちする。 気だるげに手持ち鞄を肩から担ぎ、獲物を探すかのように視線を辺りに飛ばす。 人気もなく、薄暗くてゴミも散らばっている殺風景な場所も相まって、その姿は援助交際の相手を探しているようにも見えた。 「……さて、来ましたわね」 「おうおうおう! サーヴァントも連れないで令呪を見せ付けてよぉ!」 「えらいハリキリ☆ガールがやってきたじゃねぇか」 三人組の男が少女を、[[北条沙都子]]を囲む。 些かこの東京には時代錯誤な学ランにリーゼント、モヒカンの頭をしたチンピラに、ポンチョを纏い腰に拳銃を収めたホルスターを巻いた西部劇のガンマン風の男。 (どうしてヤンキーにカウボーイが混じってますの?) そう思いながら、沙都子は怯えた様子も見せず余裕を崩さない。 「前置きは良いですから、早くなさいな」 「ああん?」 「あら? 三人も殿方がお揃いになって、それでもまだ戦力が足りないんですの? それとも戦うのが怖いのなら、聖杯戦争をお降りになっては?」 「上等だよォ! おう殺してやらァ!!」 新たに三人組の背後から、三つの人影を認めた時、沙都子は中指と親指を合わせる。 (一向に私のサーヴァントが召喚される素振りがありませんわね) この界聖杯の世界に呼ばれてから、恐らく最大の命の危機に陥りながらもサーヴァントは現れない。 つまらなそうに沙都子は目を細め、指を鳴らす――――。 「!?」 「なんだ……? ハーモニカの、音か?」 この薄暗い路地裏に似つかわしい旋律がサーヴァントを含んだ7人を支配した。 憂い気で、悲しく、何かを訴えるかのような音色に沙都子は僅かに自分に似たものを感じ取る。 (これが、私の……? このサーヴァント様子がおかしい) それは、顔に黄色のマーカーを入れた虚ろな瞳の男だった。 言語化出来ない何か、だが間違いなく伝わる何かが、これが己に宛がわれたサーヴァントだと確信させる。 「満足させてくれよ」 そのサーヴァントは長い銀髪を邪魔そうにかきあげながら、ハーモニカを口から離し、腰のホルスターから拳銃を引き抜く。 「バカか? 三人相手に何が出来る!」 拳銃は男の左腕へと吸い寄せられるように装着され、その姿を腕を覆うように変化し機械的な板のような盤が展開される。 そこには五か所の四角い何かをセットできる薄い窪みが存在する。 「破壊神より放たれし聖なる槍よ。今こそ魔の都を貫け! 」 盤にセットされたのはカードだった。イラストが描かれ何かのテキストが記された玩具、そこに封じられた一体の異形が実体化する。 「シンクロ召喚! 氷結界の龍トリシューラ―――!!」 氷河期が訪れた。 「な、うわああああああ!!!」 「ぐああああああああ!!?」 「ワンターンスリーキルゥ……」 その路地裏を形成するビル街が凍てつき、白い吹雪と閃光が瞬く間に三騎のサーヴァントは一瞬にして凍結し消滅する。 残されたのは、唖然とする沙都子と当然のような顔で瞼を閉じるサーヴァント、その二人の頭上に咆哮を上げながら君臨する三対の頭を持った氷の白龍だけだった。 夕暮れ、スーパーで調達した食材をエコバックに入れ沙都子は帰路に付く。 自転車のカゴにバックを入れ、徒歩のサーヴァントに合わせるように沙都子はそれを押して歩く。 サーヴァントは意にも介さず、ただハーモニカを吹き続ける。まるで先ほどの瞬殺劇では、何も心に響かず何も満足できず、つまらないと言いたげに。 口ではなく、その旋律で語り続ける。 「知りませんでしたわ。ミュージシャンのクラスなんてありますのね」 「デュエリストだ」 「口が利けましたの? その汚いハーモニカを咥える以外に、使い道がないと思いましてよ」 「……」 再び男はハーモニカを吹こうと唇に近づける。 「やめてくださいまし。まだ下らない馬鹿演奏を続けるのなら、令呪を使ってでも止めますわ」 「……俺は、お前の召喚を拒否し続けていた」 「何ですって?」 「聞きたかった事だろ? どうして聖杯戦争が始まったのに、サーヴァントが呼ばれなかったのか。 俺はお前に呼ばれたくなかった。だから、拒否していただけだ」 聖杯戦争が開始されてから、その予選のなかで沙都子のサーヴァントは一切召喚される様子がなかった。 故に敢えて人気の少ない路地裏に単独で乗り込んだのは、サーヴァントを強制的に呼び出す為だ。 どんなマスターでも死ねば、サーヴァントは現界方法をなくす。死地に赴けば現れざるを得ないだろうと。 危険な方法ではあるが、魔術の知識がない沙都子には召喚陣を描いて、自ら呼び出すという芸当は出来ない。 仮にできたとしても触媒がなければ、その召喚はランダムとなる。下手に制御不能な下僕を呼ぶのなら、沙都子の窮地を救う程度には良識があった方が良い。 それに、もししくじったとしても―――やり直せる。 「拒否だなんて、随分嫌われましたわね。なら、さっきはどうして助けましたの」 「界聖杯が俺を強制的に召喚した。このガラクタのポンコツは、サーヴァントもなしにマスターが落ちては満足できないんだろう。 不本意だが、召喚されちまったのなら……そこで満足するしかないじゃないか……」 「敵か、味方か……はっきりさせていただいて?」 「お前に従ってやるよ。サーヴァントだからな。そこで、出来る限りの満足をするさ」 召喚の拒否。早速、ゲーム序盤から誤算だった。 基本的にサーヴァントは願いを叶える為に召喚に応じ、マスターの支配下に一先ずは置かれるのではと考えていたが、早計だったらしい。 「貴方の満足はどうすれば満たされますの?」 「……さあな。忘れちまったよ。 お前の、信じていた絆のようにな」 「何が言いたくて?」 「お前、カッコ悪いよ」 「!?」 それ以上は何も言わず、再びハーモニカを吹きだす。 沙都子は舌打ちし、ハンドルバーを強く握りしめた。 「あの口ぶり、まるで……」 知っているのだろうか。あの名も知らないサーヴァントは。 沙都子がその死を迎えることで、本来生者が逝くべき冥府ではなく、時を遡り過去へと赴くことに。 それを、たった一人の友達を、梨花の心を折る為に。ずっと、自分の傍に繋ぎ留めておく為に。幾年もの年月を繰り返していたことに。 サーヴァントとマスターは記憶が交わることがあるらしいが、もしそうだとするのなら、こちらの手の内を一つ知られている事にもなる。 やり直せば、リセットは可能であり、そもそも知られたから何だ、という話でもあるが万が一という事もある。 沙都子に従うと言っているが、先ほどまで召喚を拒んでいた。信用するのも難しい。 だからといって、別のサーヴァントを再召喚する術も知らない。 いっそ、ここで死に戻り―――。 (いえ、本当に戻れますの私は?) そこで、別の可能性に気付く。雛見沢ではない別の世界のカケラ、エウアの力はそこでも健在なのだろうかと。 彼女の言動を思えば、沙都子と梨花の因縁にここまでの介入も、聖杯なんて装飾も施すとは考え難い。 もし、エウアの力が及ばないのだとすれば、過去ではなくそのままあの世に直行する事もあり得る。 (安易に死ぬのは、馬鹿ですわね。……死ぬにしても最低限聖杯戦争の参加者やその戦術、弱点等の情報を把握してからのが有意義ですわ) 今の沙都子からすれば分からないことが多すぎる。 仮に過去に戻れてもそれは雛見沢なのか、この界聖杯の東京からのリスタートなのか。 前者ならばそれでも良いが、後者ならばこの場からの脱出方法を模索しなければならない。わざわざ、ここで無駄に死んでやり直す時間も惜しい 何より、戻れなかったという最悪の可能性も完全に否定は出来ない。 死ぬにしても、情報がいる。やり直せるからと、即自殺するような馬鹿をして取り返しのつかないポカをする訳にはいかない。 「一つ聞かせてくださいまし、貴方のクラスと名前はなんですの?」 「……」 ―――仲間達と、かつてデカい事をやり最高潮の満足を得ていた。 もっとも、満足とは一度満足してしまえば、最高に燃えれば燃えるほど、後にはただ文字通りの燃えカスにしかならない。 一生の仲間と思っていた奴らが徐々に自分から離れていく。それは、別の新たな末来や目標を見つけたからだ。 だが、自分だけは見つけられなかった。認められなかった。 仲間達と別れることを、同じ夢を見ていて、その夢が終わってしまった事に。 些細な勘違いで最期には裏切られたと思い込み、下らない妄想と復讐心でかつての友を苦しめた。 その諍いの果てに、ようやく命を落とす寸前で気付かされた。 「アサシン」 ずっと同じものを見続けることなど、ないのだと。 絆は友を、仲間を縛り続けるものなどではない。未来は全ての人に平等にあり、その当人が選び進まなければならない。 そこに、別れがあったのだとしてもだ。 「名は、鬼柳京介」 「そう、ならばアサシン……いえ鬼柳さん、貴方がどこまで私の記憶を見ているのかは知りませんが、これだけは言っておきますわ」 このマスターはそれに気付けるのだろうか。気付けなければ、それまでだ。かつての鬼柳のように、必ず報いと後悔を受ける。 どんな強い絆で結ばれようとも、永遠にそれを繋ぎとめることなど出来ない。あってはならないのだ。 だがもし、それに気付けたのなら―――。 「私、絶対に負けられませんの。私は私の梨花(みらい)を手に入れる。勝つと決めたら絶対に勝つんですの。 貴方にはその為に働いてもらいますわ。その為の、駒(サーヴァント)なのでしょう?」 「……好きにしろ。 精々、俺を……満足させてくれよ」 最低限の受け答えだけをして、鬼柳はハーモニカを吹く。 そこにまだ、満足は灯されてはいなかった。 【クラス】 アサシン 【真名】 鬼柳京介@遊戯王5D's 【ステータス】 筋力D 耐久A++ 敏捷C 魔力E 幸運C 宝具B 【属性】 満足 【クラススキル】 気配遮断:B サーヴァントとしての気配を断つ。隠密行動に適している。 完全に気配を絶てば発見することは非常に難しい。 ただし、鬼柳はハーモニカを吹く為、速攻で発見される。 【保有スキル】 満足:E 鬼柳のテンションにより、ランクが変動する。今は最低のE。 EXまで上がる。 セルフBGM:A 姿を現す時、ハーモニカを吹く。 騎乗:E Dホイール及びバイクに近しいものならばある程度乗りこなせる。 戦闘続行:A ダイナマイトの爆破が直撃し、谷底から生身のまま落下しても無傷で戦える。 【宝具】 『満足(ハンドレスコンボ)』 ランク:B 種別:対人宝具 レンジ:??? 最大捕捉:??? 宝具として昇華された満足。 生前、鬼柳がデュエルに用いたカードとデュエルディスクで、デュエルの[[ルール]]を一定の範囲内で戦闘に適用できる。 カードのモンスターを実体化させサーヴァントと交戦させることは可能だが、 「〇〇を破壊、除外、リリースする」といった皆の直接的な除去カードを、マスターやサーヴァントに適用する事は不可能。 更にこの宝具以外の一切の武器を持たない(ハンドレス)事で、自身のステータスを上昇させる。 『満足同盟(チームサティスファクション)』 ランク:??? 種別:??? レンジ:??? 最大捕捉:??? 鬼柳のスキルである満足がEXに達した場合、聖杯戦争中に一度だけ発動できる。 固有結界によりサティスファクションタウンを出現させ、英霊の座から伝説のチームサティスファクションのメンバー、不動遊星、ジャック・アトラス、クロウ・ホーガンを特殊召喚する。 チームサティスファクションが再結集した時、未知なる力を発揮する。 【weapon】 ハーモニカ(トンボ社)@遊戯王5D's 拳銃式のデュエルディスクとセットされたデッキ@遊戯王5D's 【人物背景】 かつて、チームサティスファクションを率い、サテライト呼ばれるスラム街のギャングを一掃し統一に成功した男。 だが大きな目標をやり遂げた為に、新たな未来に進み離別する仲間達と徐々に疎遠になってゆき、とち狂った鬼柳は国家権力にテロを敢行する。 当然ながら逮捕されるが、その際仲間である不動遊星が鬼柳を売ったと勘違いしてしまった事で復讐心を持ち、独房の中、邪神と契約し闇の力を伴って復讐に現れる。 壮絶なデュエルの末、最期は自分の逆恨みであると自覚しながら、満足できないまま消滅。半年後に復活し、今度は己の罪の重さに耐えきれず死に場所を探しクラッシュタウンで、命を懸けたデュエルに勤しむ。 そこで遊星と再会、満足を取り戻しかつての仲間達、束の間とはいえチームサティスファクション再結成を喜び、新たな目標を見つけ、クラッシュタウンをサティスファクションへと変え、そこの町長として新たな満足へと進んでいった。 【方針】 仲間を逆恨みする沙都子のやっていることは気に入らないが、遊星を逆恨みした自分が言えた義理でもないので、従って満足するしかないのか? お前ならどうする。答えろ遊星……。 【マスター】 北条沙都子@ひぐらしのなく頃にシリーズ 【マスターとしての願い】 梨花と一緒に暮らす未来を手に入れる。 【備考】 容姿は女子高生時代のものにされています。 参戦時期は、業で梨花にループを仕掛けて以降の何処か。 【方針】 情報収取を優先し、死に戻りで雛見沢に戻れると確信を得る。 場合によっては優勝も狙う。