静かな、静かな場所に。 2名の闘士(もののふ)が対峙している。 気負うでなく。飽きた風でもなく。 場所は東京、本部流柔術――道場。対峙する2名の片方側、泰然自若としている本部以蔵の本拠たる空間である。無論それは聖杯戦争として存在する仮の場所。イビツな複製に限り無く近い。 だが、既にその空間は本部の玩具箱として隅から隅まで「掌握」されている。 入口。床。天井、そして刃物や鈍器に暗器などありとあらゆる武器道具が並び、かけられた壁。 上下左右前後――六方の座標全て満たすに至るまでこの男、本部のホームグラウンド。 しかし。 もう片方のにこやかにしている者もまた――己が生家が如くこの空間に馴染み、掌握していると言っても過言ではない。 ある日、本部は目覚めると共に今までとは「違う」と感じ取った。そこは間違いなく自身の領土とも言える道場。だが、何かが今までとは違う。 場所が、違う。 空気が、違う。 世界が、違うと。 武を張り詰めらせ何が起こるかと怪しんだ直後、本部の元へとサーヴァントが降りたった。 そのサーヴァントとは、セイバー。真名をば――新免武蔵守藤原玄信。 つまりは[[宮本武蔵]]。戦国の世において最強の名はここから始まったとも言われる……女である。 そう、女性。 本来ではありえぬ存在であった。ましてや本部以蔵ならば、その現状のおかしさは理解(わか)り過ぎるほどに理解っている。 にも関わらず。本部はその女性の存在を疑問に思わず。それどころか敬うような姿勢でさえいた。 「女だてらに道場に踏み入るなど――とは忌避(いやがら)ないんだ?」 対峙の中で疑問を言葉として切り出したのはむしろ、武蔵の方からであった。本部もまた、真摯に返す。 「本部流柔術は老若男女を問うでもなく、広く門戸を開いておりますから」 「ふふっ。イマドキって感じね……でも、ありがたい話」 ねえ本部さん、と。 軽やかに美しい女武蔵の声音が、マスターへと呼びかけた。 「今日の実戦稽古はどうするの?」 稽古。 そう、この主従は――稽古を重ねていた。 サーヴァントとマスター。 人類史の英雄と只人と言う存在の格差を持ちながら。対等の稽古を――為していたのだ。 「さて……やりながら決めますか」 そう言って無造作に、互いの距離が詰まる。手足が触れられるほど、その制空権まで…… と、淀みなく武蔵は払い込むように右の平手を突いた。貫手――否。目を擦るように狙うそれは急所狙いの牽制。視力を軽く喪失させるのは序の口。 しかしそれを全て読んでいたように本部は武蔵の手首を横合いから掴み、ひねり上げる――瞬間、武蔵のもう片方の手元から棒手裏剣が閃くように本部の顔面目がけて飛んだ。 だが咄嗟に顔を最小限の動きでズラし、これを回避る本部。 その回避の直後を狙い、武蔵はもう一本の棒手裏剣を掌に握りこんだまま、思いっきり自身の手を掴む本部の手の甲へと突き刺そうとする。すると、武蔵のひねり上げられた手はあっさりと離された。 別にもう、その手に執着は無いと言いたげに。 離れてやや距離を取る。武蔵の細くも力強い手首は……おかしな方向へと向いていた。攻防自体はわずか数瞬の――否、瞬きにも満たぬ時間の出来事である。 「へっ。何時の間にやら道場の壁から手裏剣をちょろまかしていたわけだ――」 「わかってた癖に。でも、あの一瞬で手首を外されるなんてね」 と言いながら、即座に外れた関節を戻す武蔵。明らかに「素手」の領域に関しては本部に分がある事は明白だった。 「さて……それじゃあ私も――」 温まってきた。と、言いたげにそこに刃が出現してくる。それは強力な想像力から来るイメージ上の刀――違う。 エア刀ではない。 (オイオイ……こいつは武蔵さんが宝具に使う獲物、モノホンの刀じゃねーか) 「待った」 掌を向け、本部は汗をかきながら。稽古なのに負けず嫌いな人だなぁ~ッと慌てて静止をかけた。 「二刀を使われちゃあ私に勝ち目は無い。降参です」 「本部さん。貴方と私の間で――「降参」がどれほどの意味を持つっての?」 やんわりと。武蔵はただ降参だけでは止まらないと、宣言していた。 確かに本部以蔵もまた「まいった」だけで戦いが終わるとは考えていない。生殺与奪を握り合うもの。実戦とはそういうものである。稽古と言えどもそこは重視すべきである。 「……それじゃまあ、私が動けぬよう縛り上げればよろしい」 「へえ――良いね、うん。じゃ、そうさせてもらいますか」 その後。帯を取って本部を縛ろうと近づいた矢先、ドロップキックからの不意打ち気味に抵抗する本部によって逆に縛られた武蔵の姿があった。 ● 「あのタイミングで蹴って縛ってくるとは思わなかったわ~本部流おっそろしいわぁ。合戦思考すぎるわ」 稽古も一段落して終わり。縛法による捕縛も解かれ、道場で壁の武器を眺めながらくつろぎ始める武蔵と……それをもてなす本部。 「何をおっしゃる。あからさまにこちらの技や虚を突く要を探って自分のモノにする気満々だった癖に」 「あ、バレてた?」 「当然。稽古でなければ幾度こちらが一方的に殺されていたことか」 「あはは」 「ふふふ」 朗らかながらも聞くに恐ろしい談笑が2人の間であがった。 ややツボに入った形である。 「それにしても武器……暗器もか。いくらか持って行っていいかしら。対サーヴァントでも使えるわよ、これ」 「ふむ。ではこの煙幕などどうです」 「へぇ。あっこれ素焼き? 手作りじゃない。良い造作。致命傷を与えるんじゃなくて意表を突くのに特化してるわね」 「お目が高い、流石は宮本武蔵。ではこれとこれを携帯しますか」 「そうね。えっと後はこっちの手裏剣と鎖も持ち歩いておこうかな――あれ、これなに?」 「ああ、それは硫酸入りのカプセルです……主に口などに仕込んで相手の顔面に吹きかける形で――」 暗器の会話(トーク)に花が咲く。 そしてその中で…… 研がれていた。 研がれていた。 チームワークが。連携が。どうしようもなく研がれつつあった。 それはセイバー、宮本武蔵が召喚されたその瞬間から。稽古や会話、或いは雑事。そう言った他愛もないことでさえ高まっていく、一卵性双生児でも及ばぬほどの――阿吽の呼吸。或いはそう、当事者たちでさえもはや止められないであろう次元の……相互作用が起こっていた。 「しっかしなんっていうかなぁ。酷く馴染むのよね、ここ。落ち着くって言うか……まるで慣れ親しんだ自分の家みたい。それでいてワクワクするし」 「ええ、わかりますよ。私もです。道場にはいつ居ても構いません」 うれしいなあ。と武蔵はコロコロ笑う。だが、本当にいつまでも「ここ」にだけ居る事はできないだろうとは互いに了承していた。 「聖杯戦争だもんね」 「聖杯戦争だもんなァ…」 しみじみと、2人揃って言葉が重なる。 にしてもさ。武蔵は道場にしかれた座布団に腰を下ろしながら、本部に確認するように問いかけた。 「疑わないの? こんな――見も知らぬ女にさ。私が宮本武蔵だぁ、なんて言われて」 「それはもう……」 武蔵の言葉を噛みしめるが如く、武蔵のマスター。本部以蔵は、正座で襟を正し言葉を紡ぐ。 「歴史(セカイ)が、理が違っていても理解ります。天下無双。二天一流の宮本武蔵は――宮本武蔵なのだと」 直線。真っ直ぐに――本部以蔵という男は、武蔵であることを一分の疑いなく断じてのけた。 迷わぬその言葉に武蔵は、やや嬉しそうに頬を掻いた。 「……そっちの「武蔵」はどんな感じだった?」 話として本部から聞いた際にはこの「セイバー」として顕現した武蔵も驚愕したものだ。複製の肉体(クローン)に魂を降ろす――またなんとも恐ろしげな行為にて降臨したと言う、本部の世界の宮本武蔵。 「失礼ながら、膂力はあちらの「武蔵」の方が上でしたな」 事実である。本部自身が言ったように腕力はクローン体の武蔵の方が上だろう。 何せ本部の世界に居た武蔵とは――空に対し素振りをするだけで並の日本刀ならば折れ、青竹は割れ、ささらとなってしまう。果ては恐竜をその五体のみで屠ってきた原人ピクルと手四つをして見せるほどの……そこいらのサーヴァントが裸足で逃げ出すような怪力である。 そういう意味では、このセイバーとして呼ばれた武蔵はむしろ更に本部に近しいスペックと戦闘スタイルとも言えるだろう。 「後は――貴方よりは現代の世俗に慣れてない感じでしたか。まあ、すれ違いもありましたが。そこはご老公と現代格闘士がちょっかいを出したせいもあるのでしょうが」 「ご老公。徳川の末裔のおジイちゃんかぁ……確かに出世にはちょうどいいかもね」 「でも些か身勝手な方ですよ」 「はは、わかるわかる。こうして話に聞いただけでも大変そう」 と、歓談をしているとどちらからともなく。ぐぅ……と腹が鳴った。 「もう飯時ですか。昼食にでもしましょうかね」 「それじゃ、うどんでも食べに行きましょうか!」 「好きですなあ」 本部も手早く道着からジャケットに着替えると、武蔵と共に街へと出かけていく。別段なにを隠すようでなく自然体で……しかし、武装は隠されていた。 服の下に鎖分銅と手裏剣、煙玉。手槍。ありとあらゆる武装から帷子や刃を通さぬ具足までもが……仕込まれていた。 本部も武蔵も、その武装行為に対してなんら特別な反応をしない。自然体での、武装である。 ● 果たしてこれは運命のお膳立てなのか、あるいはただの偶然か。本部の道場及び家屋の近所にあったうどん屋でうどんを美味そうにすする武蔵。 闘うために呼ばれたサーヴァントとは思えぬ姿だが、本部はどこかそういった武蔵の気安い所作に、既に充分すぎるほど慣れていた。 今ここに居る「武蔵ちゃん」は本部の印象からしてもどこか――「あちら」の武蔵よりもより人懐っこい部分がある。悪戯っぽいような、取っつきやすいような。 鮮烈な戦国の武を持ちながらも、現世にさらりと馴染むだろう不思議な感覚。 それは彼女が「孤独慣れ」しているからだろうか。家族、親戚、恋人、友人――心許せる者が誰一人いない異空間への来訪。 それを繰り返してきたからこその、順応か。 しばらくして、うどんを食べ茶をすすり、一息ついた武蔵は本部に対して今さらだが、このままで良いの? と聞いた。 「いいの……とは」 「だってさ。こっちとしてはありがたいんだけど、安易にホイホイ外出して大丈夫なの? このまま穴熊決め込むって手もあるのだけれど」 「ええ。場合によっては籠城もアリでしょう。だが今現在において……貴方と私ならば、こちらも固まって動き偵察した方が良い。自然体で居た方が良い。貴方とごく普通に生活し――町を出歩き。寝食を行い、いつものように稽古をする。それで良い」 「それで充分勝てる、と」 自信と言うよりは、あまり緊張した姿や警戒の挙動は敵に気取られるという事か。なるほど理はあると、武蔵が納得するが。 「勝つと言うより――守護りたい。と言ったところですかな」 との不可思議な台詞が本部より飛び出した。 「守護……る?」 「そう。戦国の「武」の作法を現代まで伝えられし端くれとして、聖杯戦争に巻き込まれたまだ見ぬ人々――そして貴方を」 沈黙が、降りた。だが本部は構わず宣言を続ける。 「宮本武蔵。俺が貴方を守護(まも)る。この聖杯戦争から――守護り抜く!」 その宣言に対し、武蔵は。 憤怒るでもなく。 拒絶るでもなく。 「はい? あ、ありがとう……ございます?」 戸惑った。しかし、戸惑いながらもその中に――喜悦。僅かに悦びのようなものをも見せた。 「いや……でもさ、本部さんが――私からするとマスターじゃない? 優先順位としては、マスターの命や願いが優先なハズで。そりゃあまあ。私を守護ってくれると言うのはありがたいけど……」 とは言えマスターから守護ると言われ、どこか釈然としないのも事実。 「なるほど、理解しがたい――と」 「まあ……そりゃ……ウン」 「自分より遥かに弱いおっさんが、何をハネッ返っているんだと。私は天下の宮本武蔵だぞ、と。見損なってもらっては困ると」 「いやいやいや。そこまでは……」 偉く食い下がるなあ。そう武蔵は戸惑いを深めた。 「疑問はもっともです。弱者が強者を守護るのは理に合わない……私より遥かに強い貴方を、なぜ私が守護ろうとするか。決まっている。貴方が、貴方そのものが……武の至宝だからだ」 「…………」 唐突にして意外なほどの賛辞に、武蔵は思わず固まる。 「二天一流、宮本武蔵。性別が違う? 世界が違う? 人類史から追放された? そんなことは関係無い。一目見た時より心奪われました。 貴方の武が。貴方自身の輝きこそが失ってはならないかけがえのない『究極の宝』――あくまでいち現代格闘士に過ぎない俺などより遥かに得難い存在である事は見れば理解る」 一転、熱弁する本部。そこには下心もおべんちゃらも無い全力のリスペクト、称賛がある。思わず―― 「えっと、そんなに私……素晴らしい?」 と確認すると。 「無論」 迷いなど無い。全力で宮本武蔵の武を。存在を。究極だと――本部以蔵は断言する。 それに対し武蔵は漸く感情定まったように―― 「えへへぇー」 照れた。 これは表の史実、読者諸兄も知る「男の宮本武蔵」その逸話にも記載されている程に有名だが……宮本武蔵とは承認欲求が強い人物であった。 仕官を乞い、己が名声をどこまでも欲する。いっそ純粋なまでに「褒められたい」 それは本部がかつて会いまみえた武蔵も、この女性である武蔵にも強く共通する点だった。 だが武蔵の「武」とは卑劣にして卑怯。 明らかな他の武人と比べてもなお天衣無縫にして――凶悪。 更には彼女は、若くしてあらゆる世界を放浪するハメとなった剪定事象の宮本武蔵である。 だからこそ――ここまで剛直にして理解ある『褒められ』に対する耐性、免疫が無い。世辞ではなく。歴史に刻まれた「宮本武蔵」という高名(ビッグネーム)にでなく。あるいは容姿や行動力ではなく。 目の前の武蔵ちゃんと言う存在とその強さ、武の性質を理解してまだ一切迷わず「あなたのそこが凄い。偉い。素晴らしい」と言ってのける存在はそうは居ない。 故に照れる。 照れて、照れて、照れて――照れまくる。 「いやそんなこと無いわよ! うん! 本部さんも超一流と言っても過言ではないし!(お、おじさんで逆に良かった……本部さんがもっと年若い美少年なら完ッ全に危なかったわ)」 「ご冗談を」 顔を赤くして身悶えする武蔵に対し、本部は微笑ましいと言いたげに落ち着いた態度を崩さない。 「いやいや。天下無双を譲る気は確かに無いけど。でも本部さん無手の組み技や鎖分銅とかなら私より上じゃない。あそこまでのキレの良さ、元居た時代の武芸者でも見た事無いよ」 「何をおっしゃる。俺が英霊の器に見えますかね。小汚いおっさんだ」 それはまあ――あながち否定はできなかった。何より武蔵ちゃんからしても好みのタイプとは違う(そういう問題ではない)。 「『英霊』になれる存在とは鬼神の如き暴力を振るうオーガ……範馬勇次郎。あるいは範馬刃牙。合気を完成させた渋川先輩や、空手で言えば独歩辺りが相応しい。 俺は……ただ、現在(いま)の世にそぐわない戦国の武を細々と伝えていくだけの中年に過ぎません」 「…………」 ここまで話が進んで少し、武蔵は憮然とした表情になった。 マスターとサーヴァントとして道場で寝食を共にし、稽古をしたからこそ言葉にせずとも解った事実。 本部以蔵とは、武を愛している。武に打ち込み――武を考え――武に生きている。 (つまりその武愛があるからこそ、私の事を理解し、評価してくれてもいる) にも拘らず。心底では己を大したものだと見ていない。時代に不適合であると。他の武人たちのような「輝ける側」ではないのだと。傲岸不遜なようでいて、そう言った卑屈さ――良く言えば慎みのようなものがある。 いや、それは曇り誤った認識ではなく。事実彼は元の世界ではそんな扱いではあったのだろう。本部の居た時代においてはその自己認識こそが正確な真実。 『あの弱い――あの冴えない――あの年老いた――あのよく分からない本部以蔵』 ある時に裏の権力者たる徳川光成の下した、そして世の超一流グラップラーたちに共通していたであろう本部以蔵像である(無論凡百の武術家にとっては悪夢のような存在ではあったにせよ)。 皮肉にも、それは彼の世界においてクローンとして復活せり「宮本武蔵」との戦いである程度ひっくり返された物ではあるのだが―― それが、その彼の居た元の世界で共通しているだろう、武の界隈におけるイメージこそが今のセイバー……武蔵ちゃんからすると我慢ならなかった。 本部が全開にした「武」は武蔵の「武」に非常に酷似している。いや、こうしてすり合わせた今では親族のような物と言っても過言ではないかもしれない。 シンパシーを、感じていたのだ。個人としても親しみがあった。 それが何故こうも現代社会とやらにおいては肩身を狭く過ごしている? 何故己をそうも過度に律し、卑下する? 私のような世界の放浪者でもないのに。時空を追放された宮本武蔵を敬する上として見、己をまるで無価値な存在のように言う本部以蔵に武蔵は不満を覚えた。 「武」に対する感情はしばしば、男女の色恋。恋愛へと例えられる。 闘いたいと思う相手に対し――よく知りたい、よく触れ合いたいと思う恋心。また、手に入らぬ高みを見上げ、それでもなお求め追いかけたくなる恋心。 ならばこれは……既によく見知った相手でありながら、もはや手に入ったも同然と言える程に掌握していながら「焦れる」気持ちは一体――どういった感情に酷似していると言うのか。 強引、無理に例えるのならそれはまるで――自分だけがその良さ、魅力をハッキリと知っている幼馴染の彼女から「私なんて貴方と比べたらまるで釣り合わない。冴えない娘よ」と言われた時のような。 そんな風に自分を卑下しないでくれ、違うだろうと叫びたくなる感覚。 「そう。だからこそ――我が身に変えても、戦国の武をこの身に宿すこの本部には皆を守護る義務が――」 「本部さん。それは認めないわ」 武蔵は強く……神妙に、本部のその態度を否定する。 「私の武が宝だとしたら――貴方も宝よ。これは慰めじゃない。紛れもない事実。貴方が私を守護ると言うのなら、私だって貴方を守護りたくなる程には……得難い宝よ」 確かに、才も強さも宮本武蔵の方が上だろう。 本部以蔵では空位には達してはいるまい。 彼より猛々しく、輝ける武人はサーヴァントの中にも間違いなく存在するだろう。だが。だが―― 『本部が強くて何が悪い』 宮本武蔵の中に、そういった激情のような思考が沸々と湧いていた。 あるいは……あるいは自身が軽んじられるよりも、強い激情だった。 「武蔵さん――」 報われた。 天下無双、宮本武蔵にそう言われる。その時点で――それだけで報われたように、本部はありがとうと一言小声で呟いた。 そして―― よしっ、と決めたように武蔵は気合を入れ直す。 「この聖杯戦争。悪党の企みが出てくるのなら叩き潰す。でも、それは貴方と一緒になのよ本部さん。『宮本武蔵と本部以蔵が組む』というその事実の恐ろしさ、見せてやろうじゃない!!」 そう言って武蔵は、天真爛漫の笑みで本部へと手をさしのべた。 本部は一瞬あっけにとられたような顔をして――やがて、笑顔を返し力強く手を取った。 「そうですな! 宮本武蔵と本部以蔵……この2人が組んで敵などあろうはずもなし、か! 勝てるぜ――武蔵ちゃん!!」 一見すると。仲間同士が理想的に一致団結する、美しい光景がそこにあった。 だがそれは即ち――卑怯卑劣、武芸百般にしてあらゆる戦術を得意とするマスターとサーヴァントが、連携、罠、だまし討ち、逃げetc……その全てを全開して敵に容赦なく襲いかかるという「エゲつない」事実が確定した瞬間の光景でもあった。 【クラス】 セイバー 【真名】 宮本武蔵@Fate/Grand Order 【パラメータ】 筋力B 耐久B 敏捷B 魔力E 幸運B 宝具A 【属性】 混沌・善 【クラス別スキル】 対魔力:A 【保有スキル】 第五勢:A 天眼:A 無空:A 戦闘続行:EX 『六道五輪・倶利伽羅天象(りくどうごりん・くりからてんしょう)』 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:2~20 最大捕捉:1人 剣轟抜刀。二刀流のまま泰然と構え、「小天衝」で相手の気勢を削がんと剣気にて威圧してから、「大天衝」で渾身の一刀を繰り出す武蔵の最終手。 背後に浮かぶ仁王はあくまで剣圧によるもの。武蔵がまだ体得していない『空』の概念、『零』の剣の具現と言える。 対人宝具と言っているが、その本質は対因果宝具。あらゆる非業、宿業、呪い、悲運すら一刀両断する仏の剣。 『二天一流・天下無双』 ランク:A 種別:対人宝具 レンジ:??? 最大捕捉:??? マスターとの並はずれた相性の良さ、そのシナジーにより生まれた「魔剣破り、承る!」の変形変則型宝具。 「宮本武蔵」とはあらゆる策あらゆる手あらゆる武芸を用い敵を撃滅する存在である、という武の在り様が具現化した物。 ありとあらゆる手段が敵の神秘の守り、その種別と無関係な損傷を与え得る。 それは一掴みの砂や鉛筆などのその場にあるごく普通の器物の使用から間接的なトラップ、帯などを用いた捕縛行為、果てはマスター自身の攻撃も例外ではない。 即ちマスターとサーヴァントの用いるありとあらゆる攻撃手段が全て神秘に関係なく作用するダメージや束縛と化す。五体すべてが武器を通り越しあらゆる手段が『武器』である。 またこの宝具はランク以下の宝具を見通す宝具、スキル等をシャットアウトし秘匿する。 【サーヴァントとしての願い】 悪の企みあれば打倒する。二天一流・宮本武蔵と本部流・本部以蔵ここにありと証明する。 【方針】 善人や可愛い子は保護、共闘。手段を選ばず敵は殲滅と臨機応変に。 【マスター】 本部以蔵@刃牙シリーズ 【願い】 俺が聖杯戦争に苦しむ皆を――そして武蔵さんを、守護らねばならぬ。 【能力・技能】 本部流柔術をマスターしている。だが柔術は戦場格闘技とのことからありと剣術槍術から弓術、棒術、薙刀、縄術に馬術、果ては手裏剣や煙玉など忍術から毒物の使用まであらゆる武芸を使いこなす。実質古流武術全てを会得していると言って良い。 また、経験と技量によって高レベルの直感や予知じみた力量を持つ相手に対してすら不意打ちや幻惑、逃走を成功させる事を得意とする。 【人物背景】 実践柔術を極めた柔術家。だが、手ひどい敗北やタイミングの悪さで徐々に周囲から軽んじられるようになった。 しかし宮本武蔵(クローン)との戦いで武器を活用した超実践的なゲリラ戦術を習得していたことや超軍人を弟子に取っていたことが明らかとなる。 【方針】 まずは周辺を巡って敵対者や保護対象を見極める。 【weapon】 日本刀を所有。 普段着に見せかけた防刃防弾のアラミド繊維のジャケット。下には刃を通さぬ鎖帷子と手足に具足が仕込んである。 ジャケットの下には手製の煙玉に鎖分銅、手裏剣。折り畳み式の手槍。持っている缶ピースのタバコには安全な自分が吸うものを除いてフグ毒が仕込んである。 また道場にはあらゆる武器が置いてある。