◆ 病めるときも、健やかなるときも。 喜びのときも、悲しみのときも。 富めるときも、貧しいときも。 死が二人を分かつまで。 あの子は、死によって分かたれ。 そして、死を超えた呪いを授けられた。 神への誓いさえも凌駕したとき。 それこそが、永遠になってしまうのか。 ◆ 宙に、死が舞った。 飛び散る真紅。 路地の壁と地面が、染め上げられる。 まるで迸る火花のように。 咲き誇る花瓣のように。 鮮血は、撒き散らされる。 命の脈動が、暴力によって飛沫を上げる。 切断されて吹き飛ぶ頭部。 何が起こったのか。何をされたのか。 理解できない、と言わんばかりに。 その顔は、恐怖と動揺に満ちていた。 生首は惨めに叩き落ち、サッカーボールのように転がっていく。 泣き別れとなった肉体は、とうに物を言わなくなっている。 体格の良い、若い男だった。 先程まで向けられていた殺意は、もう無い。 その男の死と共に、惨めに霧散した。 亡骸を蹴り飛ばし、下手人である『アヴェンジャー』は刀を鞘に納める。 少年―――[[神戸あさひ]]は尻餅を付いたまま、その光景を唖然と眺めることしか出来なかった。 下手人は、目の前にいる。サーヴァント。聖杯戦争に召喚され、使役される英雄たち。あさひはマスターであり。男を殺した張本人であるアヴェンジャーこそが、彼の従者だった。 「俺ちゃん、参上」 真っ赤なスーツに身を包んだアヴェンジャーは、戯けるように肩を揺らす。 返り血を浴びた己の姿を見下ろし、「やれやれ」と自嘲するようなポーズを取る。 その異様な風体。そして何の躊躇もない行動。あさひは身動きも取れないまま、先程までの記憶を呼び起こす。 自身を襲い、命を奪おうとしてきた若い男。右手には紋様、即ち令呪が浮かんでいた。マスターであることは明白だった。サーヴァントはいないのか。そんなことを考える余裕は、その時のあさひには無かった。 必死に抵抗した。金属製のバットを振り回して、何とか追い払おうと―――否、打ち倒そうとした。分かっていた。これは聖杯戦争だと。 サーヴァントの姿は未だに見えずとも、戦いが既に始まっていることも理解していた。だから、殺すつもりで抗った。 それでも、敵わなかった。武術に長けた男は容易くあさひを制圧し、トドメを刺そうとした。 無様にも、走馬灯のように今までの記憶が浮かび。あさひは必死に足掻いても、その結末を受け入れるしかなくて。 そして。アヴェンジャーが姿を現し、簡単に事を終わらせた。 あさひにとって、自身のサーヴァントと初めて出会った瞬間だった。 「ビビるなって。サーヴァントも殺っといた」 軽口を叩くように、アヴェンジャーは気安く言ってみせる。 何も答えられない。あさひは、目の前の現実を呆然と見つめる他ない。 赤黒い装いの怪人。飛び散る血肉。横たわる死体。転がる生首。 交互に目を向けてしまった。暴力の匂いを、感じてしまった。 そして―――あさひは堪らず口を抑えた後、その場で胃の中のものを吐き出す。 げほ、がは、と何度も咽び。 涙を瞳に浮かべて、唖然とした様子で俯く。 そんな彼を、アヴェンジャーは呆れた様子で。そして憐れむように、見下ろす。 「聖杯戦争のこと、分かってんだろ?」 わかっている。奇跡を掴み取るための闘争。古今東西の英雄を従える戦い。たった一組の主従だけが、あらゆる願望を叶えられる。祈りを現実にする為には、戦うしかない。 あさひは、頭の中で反復し続ける。 「戦わないなら好きにしな。後悔しても知らねえけど」 一言、アヴェンジャーが吐き捨てた。 駄目ならそれでもいい。別に興味もない。そう言わんばかりの、ぶっきらぼうな態度だった。 彼は願いに興味が無いのだろうか。あさひの中で僅かな疑問が浮かんだ。 でも、そんなことは些細な問題だった。 それよりも。何よりも、もっも重要なことがあった。 戦わないのか、と。 そう問われたのだから。 「―――戦わないわけ、ないだろ」 吐き気を催すような不快感を必死に抑え込み。 よろよろと、壁にもたれかかるようにして立ち上がり。 憔悴した眼差しで、アヴェンジャーの方へと視線を向けた。 「あの悪魔に……ずっと苦しめられて」 あさひの脳裏に蘇る、自身の出自。 父親と呼ばれる、悪魔のような男。 「地獄だった!毎日!毎日だ!あいつは暴力を振るってくる!何年も、何年も何年も!まともな生活なんて送れなくて!ずっと、独りで!」 日常的に繰り返される暴力。 酒浸りになった悪魔が、鬱憤を晴らすように暴れ出す。 「大人達は誰も救ってくれない。見て見ぬ振りをするだけだ!醜くて、穢れてて!どいつもこいつも、大嫌いだ!!」 何度も何度も、嬲られて。 そして、誰も救ってくれなくて。 だからこそ、僅かな希望にだけ縋り続けた。 「それでもいつか、母さんやしおを迎えに行くって約束した!三人で暮らすことができれば、また一緒に笑い合えるって!そう信じてた!」 全ての思いを、吐き出した。 これまでの苦痛。 これまでの絶望。 これまでの未来。 神戸あさひが辿ってきた人生。 「なのに――――駄目だった。 必死に探して、やっと見つけて……でも、しおは変わっていた。 しおの心に、別の悪魔が巣食っていた」 そして、絶望。 虚ろな眼差しで、あさひはアヴェンジャーを見上げる。 妹―――[[神戸しお]]は、変わっていた。 見ず知らずの少女に拐われて、全てを蝕まれていた。 あさひが何年も抱き続けてきた希望は、崩れ落ちた。 「なんで、こんなことになったんだ? どうして、こんな結末を迎えたんだ? 俺達は、始まりからずっと呪われてたのか?」 想いを絞り出し、声が震える。 自らに降りかかる運命を恨むように、顔を俯かせる。 「呪われてて、穢れてて、だから俺達は……」 今にも泣き出しそうな顔で、唇を噛みしめる。 そんなあさひを、アヴェンジャーは目を細めて見下ろす。 「で、どうする?」 僅かな沈黙の後。 「妹を……しおを、取り戻したい。どんな手を使ってでも……」 あさひは、目元に溜まった雫を拭う。 そして、ゆっくりと顔を上げた。 「せめてあの子に降り掛かった呪いだけは、消したい」 焦燥に満ちた、決意の顔。 淀んでいて、濁っていて。 それでもなお、何かを祈ることを決めた表情。 あさひは、胸を掻きむしる感情を抑えながら、答えた。 「大丈夫かよ、坊や」 「……大丈夫。大丈夫だよ」 絞り出すように、あさひは呟く。 「俺は戦わなくちゃいけないから……だから、大丈夫……」 呪詛のように、ぼそぼそと。 まるで自身に言い聞かせるように、何度も。妹の為に、母親の為に、今度こそ勝つ。 自らに宿命を課すように、あさひは何度も何度も呟き続ける。 大丈夫。大丈夫だ。 そう、きっと大丈夫。 戦える。だから、大丈夫。 大丈夫だから。大丈夫だ―――。 「喪うのはイヤだもんな」 呪文のようなあさひの言葉に割り込むように、アヴェンジャーがぼやいた。 あさひは、少しだけ驚いたように見つめる。 「言ってたんだよ、ヴァネッサがさ」 宙を見つめて尻を掻きながら、アヴェンジャーは言葉を続ける。 こんなことを語るのは、らしくないと自嘲する。 それでも、少しばかし身の上について語りたくなってしまった。 「俺は正しい場所で生きるべきだ、って。 ヴァネッサ……あ、俺の嫁さんね。 そいつのおかげで、俺は救われてたんだよ」 人生なんてものは、大抵は不幸の連続。試練ばかりが続く。 幸福な瞬間は、CMみたいなもの。結局は合間にだけ訪れる。 それでも。希望というものは、生きる糧のだろう。 理由は、簡単。 「無責任なクソ野郎で、ちゃんとした父親になれるかも分からない俺だったけど。あいつがいたから……何とかマトモだったね」 生前のアヴェンジャーは、彼女と出会って。 ようやく上等な人生を送れたからだ。 ヴァネッサは、太陽だった。 情熱的で、眩しくて、最高の女だった。 「でも……どうやら、ヴァネッサに謝らなきゃならねえ。前はガキの復讐を止めたりもした。だけどお前みたいなのは、ほっておけねえってワケ」 だからこそ、アヴェンジャーは謝罪する。 生前に愛し合った彼女に対して。 父親に虐待され、僅かな希望さえも踏みにじられた少年。 アヴェンジャーはふいに思い出した。酒浸りの父に育児放棄をされていた幼少期。そして、施設で虐待を受けていたミュータントの少年……彼らしからぬ感傷が脳裏をよぎる。 正しい世界にいてほしい。ヴァネッサが、愛する者がひたむきに願い続けた祈り。 だけど、今日はそうも言ってられない。 こんな子供が、家族を取り戻したいと言っている。 どんな手を使ってでも、自分を呪ってでも、戦いたいと。あさひは、そう告げてきた。 だから彼は、それに応える。 「今日の俺ちゃんは、ガキの為に戦う男だぜ」 彼は決して認めようとしない。 柄じゃない。性に合わない。 いつだって受け止めようとしなかった。 それでも、[[デッドプール]]はヒーローだった。 下品で、俗物で、非常識で、暴力的で。 しかし彼が戦いに赴くのは、いつだって他の誰かの為だった。 【クラス】アヴェンジャー 【真名】デッドプール@DEADPOOL(実写版) 【属性】中立・中庸 【パラメーター】 筋力:C+ 耐久:D 敏捷:C+ 魔力:D 幸運:D 宝具:D++ 【クラススキル】 復讐者(異):D 「俺をこんな姿にしたフランシスに復讐したくて追い回したから、アヴェンジャーってワケ」 怨敵を何処までも追跡した復讐者としての在り方がスキルとなったもの。 彼の場合は効果が大きく異なり、恨みや敵意を抱いた相手の魔力を探知しやすくなる。 同ランクの単独行動スキルも兼ね備えるが、その突飛な振る舞いによって他者からの敵意も集めやすくなる。 【保有スキル】 第四の壁:? “向こう側の世界”を認識している。 自分達が物語の登場人物であることを分かっているし、読者に語りかけることだって出来る。 とはいえ地の文を読むなどSSそのものに干渉する行為は一切不可能。あくまで「認識している」だけである。 傭兵の心眼:B+ デッドプールはかつて特殊部隊に所属し、超人となってからも卓越した戦闘技術で数々の敵と対峙してきた。 自身の状況と敵の戦力を冷静に把握し、優れた戦闘論理に基づいて立ち回ることができる。 また斬撃・射撃時の命中判定およびクリティカル判定にプラス補正が掛かる。 尤も、彼は時折冷静さを度外視してでもジョークに走ってしまう傾向がある。 戦闘続行:A 往生際が悪い。特に誰かの為に戦う時には。 命の危機に瀕しても戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。 【宝具】 『人生は試練の連続さ。幸せってのは合間にしかない(セクシー・マザーファッカー)』 ランク:D++ 種別:対人宝具 レンジ:- 最大補足:- 超人を生み出す人体実験計画『ウェポンX』により後天的なミュータントと化した肉体そのもの。 ヒーリングファクターと呼ばれる脅威的な自己治癒能力を持ち、例え手足をもがれようが頭部をブチ抜かれようが大爆発に巻き込まれようが『再生』する。 生前ならば重傷の完全治癒には長時間を費やしていたが、サーヴァントと化したことにより能力が変異。 不死の英傑としての属性が拡大解釈され、四肢の欠損や首の切断さえもごく短時間で回復して復活するほどの異常再生能力を獲得している。 ただし真の意味での不死身ではなく、後述の宝具が無効となれば心臓(霊核)の破壊によって消滅する。 『俺が死ぬ方に賭けたって?残念だったな(デッド・プール)』 ランク:E 種別:対死宝具 レンジ:- 最大補足:- 恋人の幻影に導かれ、未来からの刺客に救われ、死の結末から蘇った逸話の具現。 霊核を破壊され消滅した際に一度だけ発動し、サーヴァントとしての肉体がその場で再構築され“蘇生”する。 魔力消費を一切必要としない自動発動の宝具だが、二度目の発動は令呪を用いても不可能。発動した時点で宝具としての機能を失う。 【weapon】 二本の刀、ニ丁拳銃、ナイフ 【人物背景】 かつては特殊部隊に所属していた荒くれの傭兵。 恋人ヴァネッサとの出会いによって幸福を掴もうとしていた矢先に末期癌が発覚し、生きるために極秘の人体実験計画に参加する。 彼は超人的な治癒能力を獲得したが、その代償として全身が爛れたような醜い姿になってしまう。 自身を醜悪な姿へと変え、更には超人兵士の“商品”として売り飛ばそうとした組織への復讐のため。そして元の姿に戻り、再び恋人と愛し合うため。それがウェイド・ウィルソン―――デッドプールの戦いの始まりだった。 【サーヴァントとしての願い】 今日の俺ちゃんは優しい男だ。 だから、ガキの為に戦ってやるよ。 【マスター】 神戸あさひ@ハッピーシュガーライフ 【マスターとしての願い】 神戸しおを、取り戻す。 【Weapon】 金属製のバット 【能力・技能】 特に際立った技能を持っている訳ではない。 しかし妹を救う為ならば過激な行動に走ることも厭わない。作中では金属製バットで武装し、自身に探りを入れた他者への脅迫を行うなどしている。 過去へのトラウマから内心では暴力への強い嫌悪感を持つが、それでも家族の為ならば手段を選ばない。 【人物背景】 行方不明になった妹『神戸しお』を探す少年。暴行の加害者と被害者の間に生まれた。 父親からの虐待。母や妹との離別。過酷な境遇に身を置き続け、手を差し伸べてくれる人間は何処にも居なかった。 それでも妹達との生活を夢見て耐え続けてきた。そして父親の死と共に家を飛び出し、母親の元へと向かった。 しかし妹は既にいなかった。苦悩に耐えきれなかった母の手で置き去りにされ、そのまま行方不明になっていた。 あさひは妹が誘拐されたことを知り、あらゆる手段を尽くして犯人――[[松坂さとう]]へと辿り着く。 参戦時間軸は原作最終話後。 界聖杯でのロールは持たず、浮浪者同然の生活を送っている。 【方針】 どんな手を使ってでも勝つ。