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309 :赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/02/04(日) 23:49:20 ID:aE+nSUJS  真冬の山の中。俺は榛原よづりと湖面に浮かんだ船の上に居た。 「カズくん……。寒いよう……」 「うるせぇ、湖の中はもっと寒いんだ。これぐらいガマンしろ」  真冬の湖の上は寒い。冷たい風が吹くたびによづりは体をちぢ込ませ、暖をとるように俺に抱きしめる。そんなよづりを俺は片手で抱きかかえ、オールを使いなるべく湖の真ん中へ移動していた。  片方だけでボートをこぐとまっすぐ行くわけはないのだが、ちょうどぴゅるりと吹く風が俺たちの乗ったボートを流し、真ん中へ運んでいる。オールはそれの方向調整に使っているだけだ。  胸によづりのふにゅりとやわらかい感触が押し付けられていた。不健康そうな顔をしているのに、ここだけは健康的に膨らんでいて奇妙だ。  吹く風を背中で受けながら、俺は目的の場所にたどり着いた。 「湖の中心についたぞ」 「うん……かずくん」 「なんだ」 「わたし……かずくんと一緒なら死ぬの……怖くないよ」  よづりはかちかちとふるえつつも俺に笑顔を見せる。俺より年上のクセに、小動物のように寂しそうな笑顔。 「死後の世界に行っても……一緒だよ。かずくん」 「……そうだな」  俺の返事を聞いたよづりは安心したように白い息を吐くと、また湖面を眺めるように俯く。 榛原よづりは死のうとしていた。誰も居ないような山の中。湖に体を沈めて、現世とのつながりを絶とうとしていた。 「じゃあ、そろそろ行くか?」  俺はオールを漕ぐ手を止めて、よづりの体を両手で掴む。早くしないと湖の中心からズレてしまう。死ぬには万全を尽くさないとうまく死ねない。よづりの口癖だった。 「ちょっとまって……」  よづりは俯いていた顔をあげると、俺を抱きしめていた手を強く握り背伸びをするように顔を伸ばした。  瞬間。重なる唇。  よづりの唇は冷たかった。 「えへへ……」 奪っちゃった、と言いたげに笑うよづり。彼女にとっては最後の現世でのキス。 「もういいか? よづり。そろそろ……」 「うん、もう死ねるよ。かずくん」  二人で立ち上がった。ボートがバランス悪く揺れる。  あたりは真っ暗で俺の持っている懐中電灯の明かりのみがあたりを照らしていた。 「じゃあな。よづり」 「うん。またね。かずくん」  最後のお別れを言った後に、俺は懐中電灯を海の中に捨てた。  そして、俺とよづりは、手をつなぎ、二人で冷たい湖の中へ飛び込んだ。 310 :真夜中のよづり ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/02/04(日) 23:49:56 ID:aE+nSUJS 俺が榛原よづりに出会うきっかけというか原因を考えれば、去年の四月まで遡る。 もともと、俺はそんな真面目な生徒じゃなく毎日を学校でのほほんと過ごしてる奴で、委員長みたいにいつも勉強しているような器用な真似はしない。 せいぜいテスト前に慌てて勉強して、平均点の若干下あたりの点数をとるぐらいである。マンガやらアニメやらでの主人公と一言ぐらいしか交わさないサブにもならないモブキャラみたいなものと考えてもらえば想像しやすいと思う。 名前だって森本和人でワープロで打てばほら一発で変換完了。変換ミスなし。ありふれすぎた名前だ。 そんな俺なのだが、いやそんな俺だからこそ、副委員長に選出されたのかもしれない。  なんてことない俺だから、誰になっても特に問題ないような副委員長にみんな俺を選出したわけだ。俺にとってはめんどくさいことこの上ない。  ただ、救いだったのは、委員長となった駒木愛華がとてつもなく優秀だったことだ。責任感が強く面倒見のいい委員長はほとんど俺に仕事を回すことなく全て一人でクラスの厄介ごとをすべて解決していた。  俺の仕事はたまに授業の教材を取りにいったり、月一回の委員会に少し出席するだけ。  四月に選出されてこの一月まで、俺はたいした仕事もせずただ副委員長と言う肩書きのまま高校二年生の学生生活を過ごしていた。  結局副委員長のままたいした活躍もせずに終わるのかと思っていた。というかそれを望んでいた。  しかし、あと一ヶ月でようやく解任というこの時期に、俺は一生ものの仕事を副委員長として任されることになる。 「明日、あたしのかわりに榛原さんの迎えに行ってください」  委員長こと駒木愛華は放課後教室に俺を呼びだすといつもの口調で言った。  おさげに黒髪でまんまるメガネというまさに委員長という容姿の女で、真面目な成績優秀者だ。ほとんどの委員長の仕事をこいつが引き受けてるため、副委員長居の俺としてはどうしても頭が上がらない存在だ。 焦ると関西弁を喋るらしいが俺はコイツを焦らせたことがないので、その関西弁はいまだ聞いたことが無い。 んで、そんな委員長が俺に用があるって言うんで呼び出された。放課後、できるかぎり人の居ないところでって。 あのさ、そんなシチュエーションだとやっぱり思うよ。告白するのかって。 だって、二人っきりの教室だよ? んで、呼び出されているわけじゃん。期待しないわけない。俺はもし告白された場合を考えていた。 ……委員長ってめっちゃ真面目じゃん。それこそ一昔のマンガみたいに委員長ってあだ名で呼ばれてるくらいだから。じゃあ付き合いはめちゃくちゃプラトニックになるのか? うわぁ、新鮮だ。新鮮すぎて逆にいい。萌える。 じゃあ付き合って初キスは彼女の部屋か? やろうとしてメガネに当たってちょっと二人ではにかんでみて、メガネをはずしてもう一度やろうとしたらメガネをとった顔がもっと可愛くて……。  とかなんとか。いま思うととらぬ狸の皮算用。わかりやすく言うと馬鹿。  行ってみればこのとおりである。 「はぁ?」  で、告白かと思って返事を考えてた俺は情けない声を出して聞き返す。 「榛原さん。知らない?」  はいばら? 誰だそれは。 「もぉ、副委員長なんだからクラスメイトぐらい全員覚えておきなさいよ」  委員長は頬を膨らませるように説教じみて言う。俺はそれを聞きながら榛原という人物について思い出そうとしていた。 しかし、クラスメイトで榛原という人物が居た覚えは無い。 「不登校のコよ。去年から登校してなかったからちょうど一年留年になったわけなんだけど……。一応名前はうちのクラスになってるわよ」 そういうと、委員長は持っていた学級日誌を渡した。学級日誌の生徒欄の中には、たしかに「榛原よづり」という名前があった。 「本当だ。居るな」 よづり。男か女かわかりづらい名前だな。女っぽいけど……。 「で、その榛原さんが明日から登校するんだって。で、今年度初めての登校だから一応付き添いとして一緒に行って欲しいの」 「ふぅん、微妙な時期に登校するんだな。なんでだろ」 「さぁ、理由は知らないけど」 「でもさ、登校するんならわざわざ付き添いに行かなくてもいいんじゃないか? 勝手に来ればいいだろ」  俺にとっては学校と言うものは面倒くさくても行かなきゃならない場所と脳内で設定している。だいいち家でずっと過ごすってのも結構暇でつらいものがあるからな。  しかし、委員長はそんな俺とは違う考え方の持ち主だ。真面目で面倒見がいいのが如実に現れる性格と言動をする女である。 311 :真夜中のよづり ◆oEsZ2QR/bg [sage] :2007/02/04(日) 23:50:54 ID:aE+nSUJS 「あなたは不登校生徒の気持ちがわかってないのね」  お前はわかるのか? それだとお前も不登校だったってことになるが。 「違うわよ。でもね、いい? 森本君。誰だって初対面の人たちがいるところに新たに入っていくのは苦手なの。初めての人ばかりの空間って不安にならない?」 「俺は初めての人たちがいっぱい居る電車の中に入っていくのは不安に思わないぞ」  あえて的外れな回答を返してみる。 「電車の中の人たちは一期一介だけど、学校はみんなで集団生活する場所でしょ? あなただって入学式は緊張したんじゃないの?」 簡単に返す委員長。まぁそりゃそうだ。 「まぁ、確かに入学式は、な」 「うん。でも入学式はまだみんながお互いのこと知らないから、まだいいの。ただ、今は違うわ。みんなほとんどのグループになっちゃってるから、このコにとってはもっと入りづらいのよ」 言わんとしていることはわかる。 今のクラスになってもうすぐ十ヶ月。クラス内でもおしゃれギャルグループ、ロリ姉グループ、文系グループ、他クラスグループと何組か友達グループができている。  結構個性的な面々が集まってるクラスだから(筆頭は藤咲ねねこだな)、なじめず孤立してしまうこともあるだろう。 「で、このコがようやく登校してきたのに、友達も居なくて一人じゃかわいそうじゃない」 変な同情だ。一人の奴は一人が好きだから一人で居るという考え方はこいつには無いらしい。 「だから、あなたが付き添ってあげるの」  で、なんで俺がそんな役回りになる!? 「俺がぁ?」 「そう。あなたがこのコ……榛原さんに付き添ってあげて、クラスの仲間にいれてあげるの」 「やだよっ。俺、そんなことしたことねぇし! それにこういうのは委員長の仕事だろ?」 俺だってそんなに友達が多いほうじゃない。だいいち、そんな器用なこと俺にはできそうもなかった。  しかし、委員長はふんと鼻を鳴らすとジト目で俺を見る。 「この一年間厄介ごとは全部あたしに押し付けておいて、最後までなにも仕事せずに終わるつもり?」 「うっ……」  責めるような口調。いや、じっさい軽く責めている。 たしかに、文化祭のときも全校会議のときも合唱大会のときも俺がやったことと言えば、資料のホッチキス留めとか楽譜のコピー(これはやってよかったっけ?)とか装飾の貼り付けとか、ガキの使いみたいな仕事ばかりしかしてなかった。 合唱曲を決定したのも委員長だし、全校会議の資料のワープロ打ちも委員長、先生への報告も大体が委員長がやっていた。俺はそれのフォローにもならなそうな助けだけ。  それを言われると、俺も副委員長と言う肩書きを持ちながらまともな活動はできていないという罪悪感が湧いてくる。  タバコ吸っていた生徒を無視したこともあるし、もし委員長なら相手が男塾にでてきそうな不良でも注意するんだろうな……。  俺は肩をすくめた。どうやらやるしかなさそうだ。 「わかったよ。行けばいいんだろ? 行けば」 「わかればいいのよ」  委員長は納得した俺を  とりあえず仕事は、朝早めに起きていつもの支度を手早く済ませた後、その榛原とかいう奴の家に行って一緒に登校する。教室に入ってしまえば、あとはなんとか委員長がフォローしてくれるだろう。 それに、三学期も残り二ヶ月ちょっとしかない。そこまで責任がのしかかってくる仕事じゃないしな。 俺も副委員長としての爪あとを残しておかなきゃな。  このときはまだ俺は楽に考えてた。  榛原よづりに会うまでは。

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