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ヤンデレ家族と傍観者の兄第二十二話 - (2008/08/03 (日) 18:32:47) の1つ前との変更点

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429 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/03(日) 18:14:14 ID:wlyz6FFD ***  雨の日の翌日、見事に私は風邪をこじらした。  体温は三十九度。自分でもやりすぎたかと思うぐらいにひどい。  そんなわけだから、私はその日から学校を欠席することになった。  しかしお兄ちゃんは私とは違い風邪を引いていないので、もちろん学校に行く。  行ってくるよ、と言い残し部屋を去ろうとする。  そうはいかない。  ここから作戦を実行する。  立ち上がったお兄ちゃんの、制服のシャツの裾をつまみ、弱々しい声で言う。 「おにいちゃん、出かける前に……私の寝汗、拭いていって?」  自分でもびっくりした。演技するまでもなく、声が小さい。喋るのも辛いぐらいだった。  予想を大きく外し本物の病人になってしまった私を見て、お兄ちゃんは悲しげな顔を浮かべた。  やっぱり優しいお兄ちゃん。だから好き。だから、こんな単純な作戦にも引っかかってくれる。  濡れタオルを使って、顔、首、腕、足の順にお兄ちゃんは私の体を拭いていく。  だけどそれ以上拭こうとはしない。困ったように頭を掻く。  それはそうだ。私の体で他に拭くべきところはまだある。  すなわちパジャマの下。体中が汗に濡れているのだ。  お兄ちゃんだってそれをわかっている。だからこそ、手を出すことを躊躇っている。  私は高校一年生、十六歳。  まだ成長する余地はあるけど、今でもそれなりにところどころが育っている。  ブラはこの間一回り大きいサイズのものに買い換えた。  食事を制限し、さらに運動を欠かさなかったこともあり、お腹にたるみは一切なし。  もうちょっとお尻と足の肉付きが良ければ言うことはない。  でも、同級生の女子と見比べても優っていると思う。  全てはこの作戦のために、今日のこの日のために。    左手でお兄ちゃんの手を握る。  目を合わせたまま、右手を使って上のパジャマのボタンを外す。  ゆっくりとした手つきで、下着と肌を隙間から覗かせるように、一つ一つ外していく。  たちまちお兄ちゃんの顔は焦りを浮かべ、あらぬ方向を向いてしまう。  しかし、それも予想済み。 「見て、いいんだよ、おにいちゃん」  左手に力を込め、おにいちゃんの手を軽く引く。  恥ずかしいよね。なんたって、女の人の肌をこうやって見るのは初めてなんだから。  私の体を見るのだってお兄ちゃんは初めてのはずだ。  小さい頃はともかく、中学に入ってから私はずっと肌を見せないようにしてきた。  決して見慣れることのないように。妹の体は神聖なものだと思わせるために。 「ちゃんと見て、拭いてくれないと。私、今から寝られないかも……」  半分冗談、半分本気のお願いをする。  なんたってこれ以上風邪が悪化したら今後の行動に影響が出てしまう。  そのためにもここはぜひお兄ちゃんに頑張って貰わないと。  ボタンを外し終えたあと、肩に乗ったパジャマを落とす。下も膝まで下ろしておく。  そして、両腕を広げた状態でベッドに仰向けに倒れる。  お兄ちゃんは私の体と天井を何度か交互に見て、ようやく決心がついたように私に手を伸ばした。 430 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/03(日) 18:15:09 ID:wlyz6FFD  首、お腹、ふともも、背中の順に拭き終わると、お兄ちゃんは離れようとする。  ここで逃がす訳にはいかない。まだクリアしていない課題がある。  お兄ちゃんの腕を掴もうと手を伸ばす。空振った。  いや、まだ。まだ声は出る。 「ねえ、まだやってないところあるよ」  うつぶせの状態で、ブラのホックを外して、言葉を続ける。 「胸も、拭いていってくれない?」  そう、これは誘惑。 「恥ずかしがらなくても、すぐに終わっちゃうから、平気だよ」  お兄ちゃんの心の中にある枷を解き放つため。  私の体でお兄ちゃんを墜とす。  背中の肌をさらけだした状態。お兄ちゃんの前では私は無防備だという意思表示。 「何されても…………見られても恥ずかしくなんかないから」  困惑しているお兄ちゃんへ微笑みを向ける。  むしろ、見て欲しいというのが本音で、そう言いたいところだけど、それじゃこの作戦が台無し。  あくまで、病気にかかった妹が兄にわがままを言う感じでなくてはいけない。  露骨に誘惑するのはバツ。遠回しに攻めるべし。 「あ、パジャマとブラが邪魔だよね。待ってて、すぐ外すから……」  うつぶせのままで、パジャマを脱ぎ、ブラの肩紐を外そうとしたところで、お兄ちゃんは背中を向けた。  今から学校に行くと言い残し、部屋から出て行った。  あとに残されたのは私だけ。  ……ちぇ。  この場ではお兄ちゃんの心をかき乱す程度で終わらすつもりで、実際にそうなったけど、やはり物足りない。  ここまで脱いだんだから、していって欲しかった。  でもまあ、作戦は成功と言っていいものだったし。  あとは次の段階に備えて、寝ることにしようか。 431 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/03(日) 18:16:16 ID:wlyz6FFD ***  今から十年ぐらい前の話。  俺と弟と妹と、幼なじみの花火は兄妹同然の関係にあった。  俺が七歳から八歳ぐらいの間で、花火が俺より数ヶ月誕生日が後、弟がひとつ下で、妹がふたつ下。  順序でいえば上から俺、花火、弟、妹という感じ。  花火は俺を仕方なく兄扱いしていた。弟と花火は対等。花火と妹は姉妹みたいだった。  俺が小学二年生ぐらいのころだろうか。  弟が小学校に上がってきて、妹が一人幼稚園に通うようになり、一悶着あった。  妹が幼稚園に行くのを拒むようになったのだ。というか、小学校に行きたがった。  そのせいで俺が小学校に来た妹を幼稚園まで連れて行ったりするようになった。  たぶん弟が居なくて寂しかったのだろう。  その頃から妹にはブラコンの素質が芽生えていたわけだ。  最終的には、花火の最初は優しく、最後は怒鳴り声を交えた厳しい説得によって、妹が諦めるかたちに落ち着いた。  よくありがちな、甘えん坊の子供のエピソードである。  今頃になってようやく思い出せるようになった小さい頃のエピソードは全部で二つ。  まず、今の妹のエピソードが一つ。  残るもう一つが、怒りとか悲しみとか涙とか痣とかが耐えない、とにかく良い覚えのないもの。  おそらくはこの時から俺の周囲に暴力的な要因がとぐろを巻いているのではないか、なんて思ってしまう。  家に遊びにやってきた伯母が、両親の前では穏やかだったのに、俺ら兄妹を相手にしているときは暴力に手を染めるだなんて、 年相応に世間知らずで純粋だったはずの子供にとっては辛い体験だった。  大人って怖いと、当時の俺が思ったかは知らない。  ただ、伯母は怖い人間だと理解していたはずだ。  一度家にやってきて以来伯母が弟と妹を虐待し、どういうわけか比較的手出しされなかった俺は、 当たり前のように伯母を止め、弟と妹をかばうという行動をとるようになった。  そんな日々が続いて、小さな子供の心に何の変化もないなんて、ありえない。  妹は幼稚園に通えなくなり、夜は突然泣き出すようになった。  泣きやませるために、俺か弟が一緒の部屋の中で眠るようになった。  弟に訪れた変化は、俺に対して強く出られなくなった、言い換えればとにかく下手に出るようになった、ということ。  兄弟間の上下関係というものなんて俺は意識しないし、弟に対して無理矢理いうことを聞かせるようなことはしなかった。  それなのに、弟はあらゆる場面で俺の後に続くようになった。  そして、その頃から弟は謝るのを癖にしだした。  俺よりも朝早く起きた、夕食の量が同じだった、俺よりも早く自転車に乗れたなど、どうでもいいことでも謝るようになった。  きっと自分をかばい続けてくれる兄に負い目を感じていたのだろう。今の俺なら気付ける。  昔の俺には気付けなかった。そんなことに気付くよりも、伯母を憎むことが大事だった。 432 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/03(日) 18:17:56 ID:wlyz6FFD  それぐらい憎んでいた相手が同じ病院内に入っている。  昨日まで忘れていたのに、こうして昔のことをはっきり思い出せるようになってしまった。  どうするもこうするも、俺が伯母の冴子に対してやることは一つしかない。  このまま黙って病院から出る。今後一切関わらない。  絶対に許せない相手だからこそ、こちらから身を引かなくてはならない。  だって、あんな女でも子供がいるのだ。  入院していて、玲子ちゃんの父親がうちの父親と同一人物で、一体どうやって生活しているのか怪しいものだが。  あの親子とこのままお別れするのが最善だ。  そもそも俺が入院さえしなければ一生出会うこともなかったのだ。  退院してしまえばきっかけなど生まれない。  だから、退院予定日の今日、一刻も早く出るために手早く準備を固める。  そう決心して朝食をあまり噛まずに食べているところに、部屋をノックする音が飛び込んできたから驚いた。  誤ってご飯を一気に飲み下してしまい、喉を詰まらせるところだった。  しかし、驚愕の事態はまだ続く。  病室に入ってきたのは看護師さんではなく、俺の妹であった。 「……食べるか、病院食」 「お兄さんの食べかけなんか要らない。それにもう食べてきたから」  そうか、と返す言葉も出ないぐらいに空気が悪い。  間が持たないというか、ギスギスしているというか。  レタスを噛む音がこんなにうるさいとは今まで気付けなかった。  妹の視線は病室のところどころに向けられている。  やることがなくてそうしているというより、単にあまり縁のない場所だから、興味があって観察しているよう。  もしかして、空気の悪さを感じているのは俺だけ?  妹は割と自然体だし、それに普段は見せない私服姿だし――――って、あれ? 「今日木曜だろ? なんで学校に行ってないんだ」 「ん、それは……ちょっと、気になることがあって。今週は病欠することにしたの」 「なんだよ、気になることって」 「……後で話すから、早くご飯食べちゃって。今日はお兄さんに聞きたいことがあるからここに来たの。  本当は昨日話すつもりだったんだけど……」 「ああ、それについてなんだが」 「それも後で聞く。早くご飯食べて、出て行く準備しよ」 「……ああ」  それから朝食を食べ終え、食器を片づけたあと、持ち込んだ私物をまとめにかかった。  一週間程度の入院だから、せいぜい下着と着替えの服と小物ぐらいしかない。  スポーツバッグに全部入れ終え、着替えを終えたら準備完了。  その後は医師にリハビリの仕方や生活するうえでの注意を受けただけで病院から出ることが出来た。  久々に受ける二月中旬の空気はまだまだ冷たい。  暖かいのはギプスに包まれた右腕だけだ。  俺の左前を歩く妹についていく。  自宅へ向かうにはバスを使わなければいけないのに、どういうわけか妹は病院近くのバス停をスルーして、さらに歩を進める。 「おい、どこ行くんだ。バスに乗らないのか? 誰かが迎えに来てるとか?」 「違う。……話があるって言ったでしょ。どこか落ち着いた場所を探してるとこ」  妹が選んだ場所はファミレスだった。  入ってみると、平日の九時前ということもあって客は少なく、ガラガラに空いていた。  禁煙席に座り、ドリンクバーを二つと、俺だけが唐揚げとフライドポテトを店員に注文した。  十七歳の男にとっては病院食など腹の足しにならない。  それに早く退院したという実感を覚えたかったのだ。 「何にする? コーラか、コーヒーか?」 「いいよ。私がするから、お兄さんは座ってて。自分が片手しか使えないの知ってるくせに」  なんということだろう、妹が俺に気を遣っている。  戻ってきて、俺の前にドリンクバーでは定番の炭酸飲料ではなくウーロン茶を置くところなんて、 体のためを考えているとしか俺には思えん。 433 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/03(日) 18:19:19 ID:wlyz6FFD 「それじゃ、早速だけど、いい?」 「お、おう。なんでもこい」  正直なところを言うとかなり緊張しているのだが、気張って返事する。  なにせ妹から話を持ちかけてくるなんて初めてのことなのだ。  頼るなら俺ではなく弟。相談する相手ももちろん弟。俺に話があってもあえて持ちかけない。  そんな妹がここまで積極的になるからには、相当重大な問題が発生したとしか思えない。  先日、花火が弟と妹の部屋をひっくり返したような、あれぐらいの事態である可能性あり。  妹が真正面から俺を見つめてくる。  まばたきすることなく見つめ合うこと数秒、妹が口を開いた。 「……やっぱり、こっちを先に聞く。昨日のことなんだけど」 「あー、あれか……」  気になるよな、兄が入っている病室を訪ねて、ベッドの上で兄が顔見知りの女に被さっているのが見えたら。 「お兄さんはどこかヘンだけど、それでも世間の常識ぐらいは知っているものだと思っていたのに」 「常識を知らないわけでも、状況に流されて強引に忘れさせられたわけでもないぞ。……いつのまにかああなっていただけだ」 「ふうん。まあ、いいけど。じゃああの時に言ってた、自分に正直になったって、どういう意味?」  なんと答えようか迷った。  正直に言おうか、ごまかそうか。  言うべきほどではないからあまり言いたくない。されど、別に口にしたって構わないんじゃないかとも思う。  結果的に、妹の顔を見ていてごまかすのが悪いように思えたので、煙に巻くのはやめた。 「葉月さんに告白の返事をしたんだよ」 「押し倒していたってことは、付き合おうって言ったの?」 「順番は逆。ああいう体勢になって、それから返事をしたんだ。付き合えないって、返事したよ」 「え?」  妹が忙しくまばたきを繰り返す。 「な、なんで? 言いたくないけど、同性から見てもあの女は綺麗だよ? お兄さんにはもったいないぐらいに」 「好きになれなかったから断った。……ってだけだよ」  そこでこの話は終わりとばかりに、ウーロン茶を口にする。  妹はまだ聞きたそうにしていたが、それ以上は追求してこなかった。 「ごめんね、お兄さん」 「なんで謝る。聞いて悪いことでもないぞ、今の。俺の場合はだけど」 「お兄さんが辛そうにしているから謝ったの」 「別に辛くなんか…………ないぞ」  そもそも、告白されてすぐに返事せず、先延ばしにしてきた俺が悪いのだ。  先延ばしにしたことを後悔しているが、辛くはない。 「変なこと聞いちゃったね。もう聞かないから」 「ああ」 「……じゃあ、次。こっちが本当に聞きたいことなの」  ここで、妹が視線をテーブルに落とした。  予想した通り、重い話題らしい。 「真剣に答えてね。絶対に嘘吐かないで」 「約束するよ」 434 :名無しさん@ピンキー [sage] :2008/08/03(日) 18:25:29 ID:5AKPzwE+ ん? 支援かな? 435 :ヤンデレ家族と傍観者の兄 ◆KaE2HRhLms [sage] :2008/08/03(日) 18:27:43 ID:wlyz6FFD  妹がおもむろに頭を持ち上げ、俺を見た。  その目に浮かぶのは、普段妹に向けられているようで実は違うもの。 「どうして、黙ってたの?」 「……何をだよ」 「昔のこと。私が勘違いしてるのに気付いていたんじゃないの?」 「昔って、お前……いつのことを言ってる」 「私が今よりずっとずっと小さいころ。  私がいっぱい泣いてて、お兄ちゃんも辛そうにしてたころ」 「……まさか」 「やっぱり覚えてるんだ。  忘れてるはずないもんね。お兄さんは私をかばって、いつも怪我をしていたから。  この間、葵紋の花火ちゃんが来て、やっと思い出した。  そして、すぐに疑問に思った。  どうして…………お兄さんは、私がお兄ちゃんとお兄さんを間違って――入れ替えて覚えていることを言わなかったの?  もう、どうしたらいいのか、わからないよ。  私の気持ちがどこにあるのか、…………自分でもわからなくなった」  妹の目に浮かぶのは――――俺への非難だった。  泣き出しそうなほど目を潤ませて、俺を視線で責めていたのだ。  違うんだよ、妹。  俺は、小さいお前が俺のことをどう思っていたのか気付いていなかったんだ。  あの日、花火を傷つけた俺をお前がどう思ったかなんて、気付かなかった。  余裕が無かった。  妹のことをすっぱり忘れるほどに、あの日の俺は頭に血が上っていたんだ。

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