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ヤンデレの娘さん 告白の巻 - (2010/09/30 (木) 23:36:48) のソース

434 :ヤンデレの娘さん 告白の巻:2010/09/03(金) 03:16:42 ID:E//dvSBC
 拝啓
 御神千里様ゴールデンウィークを終え、学園自慢の大桜も花もひとつ残らず散ってしまいましたね。 
花の命もはかないものと言いますが、こうして散っていく様を見ますと少し寂しくも感じますね。 
毎日お昼休みになると大桜の下で一時の休息をされる御神くんも同じ思いだと存じております。 
毎日拝見させていただく御神くんの安らかな寝顔は、呆気なく散っていく大桜の花などよりも麗しく、私の卑しい心が癒されております。 
ただ、大桜の木を物憂げに見つめる貴方を見る度、視線を向けられる大桜に悔しさを覚えることもあります。 
ああ、大桜!大桜!大桜!大桜!大桜!樹木の分際で御神くんに見られ観られ魅られる栄誉を得ている大桜を、何度燃やしてしまおうかと思ったことでしょう。 
あるいは、私以外のものに向く御神くんの視線を、眼球をえぐり取ってでも独占してしまいたいと何度思ったことでしょう。 
ご挨拶はこれくらいにして、今回こうして突然のお手紙をお送りしたことをまずはお詫び申し上げます。 
ですが、貴方様にどうしても、この命に代えても叶えていただきたいお願いがあってお手紙を送らせていただいた次第なのです。 
聡明な御神くんならもうお気づきのことでしょう。そう、大桜。 



435 :ヤンデレの娘さん 告白の巻:2010/09/03(金) 03:20:55 ID:E//dvSBC
 四月には見事な花を咲かせていた大桜。その下で愛を誓い合った男女は必ず結ばれ、その愛は永遠となるという伝説のある大桜。 
憎々しくも忌々しくも私達にとって最後の希望である大桜。その大桜の木の下にいらしていただきたいのです。理由は言うまでもないものと思います。 
私はあなたを愛しているから。私は御神くんを愛しています。好きです。好きです。大好きです。超愛しています。いえ、超なんて言葉では足りません。 
大愛しています。その十倍愛しています。百愛しています。千愛しています。万愛しています。億愛しています。極愛しています。極大愛しています。 
とにかく愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。 
愛しています。愛し愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。 
愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。 
愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。 
愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。 
愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。 
愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。 
愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛してます。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。 
愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。 
愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。 
愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。 
愛しています。愛しています。愛しいます。ています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。愛しています。 



436 :ヤンデレの娘さん 告白の巻:2010/09/03(金) 03:23:38 ID:E//dvSBC
愛さずには居られません。あなたをずっとずっとずっと1年365日見続けて愛せない女がいるでしょうか。 
もしそんな女がいるのなら、それは女ではありません。人間ではありません。動物ではありません。 
生物ですらありません。むしろ生きる価値がありません。あ、でも、私と御神くんの仲を引き裂こうとするモノも生きる価値とかありません。 
そう思うだけでも罪です。存在するだけでも罪です。 
判決で言えば死刑です。いえ死刑でさえ生ぬるいですよね。愛を邪魔するモノは存在するだけで罪なのです。周囲に毒を振りまいているようなものです。 
存在自体が毒です。そんなモノが今この瞬間存在して酸素を消費していると考えるだけでも怖気がしてきませんか?してきますよね。私は毎日怖気を感じています。 
怖くて夜も眠れないです。あ、そう言う話じゃありませんでしたね。とにかく、大桜の木の下にいらしてください。私の愛を受け取るために。愛の為に。 
もし万に一つ、いえ億に一ついらっしゃらない場合は、当方どんな手段を用いてでも来ていただく覚悟があるのでご了承ください。 
それでは、また会える時を一秒千秋の思いでお待ち申し上げております。 

あなたの緋月三日より 


437 :ヤンデレの娘さん 告白の巻:2010/09/03(金) 03:25:54 ID:E//dvSBC
 「字大杉」 
 あ、上手いこと言えなかった。 
 もとい、俺こと御神千里(みかみせんり)は下駄箱の前で、そう突っ込まずにはいられなかった。 
 下駄箱の中に入れられていた、「御神千里さまへ」と書かれた手紙。 
 内容は「恋がかなう伝説の大桜の下に来てください」 
 今時ベタを通り越して古風でさえある手法。 
 こうした類の物を受け取った際はドキドキしたり舞い上がったりするのが礼儀なのであろう。 
 それに対して、我ながら無粋な感想を言ってしまったものである。 
 大体、送り主がこの場にいるわけでもないので、口に出して言っても仕方ない。 
 「うーい、みかみんどーした。ってなんっじゃこりゃあああああ!」 
 後ろからクラスメートAがどっかのドラマみたいな声を出した。 
 「誰がクラスメートAだ…じゃなくてこのヤンデレた手紙だよ!」 
 クラスメートAこと親友(悪友?)の葉山正樹が強烈なツッコミを入れてくる。 
 「んーこれー?入ってた」 
 自分の下駄箱を指さし、俺は笑顔で答えた。いやまぁ、普段から糸目だからあんま変わらないけど。 
 「あー、ウチの学園って扉付きの下駄箱だかんなー。そういうのも出来るんだよなじゃなくて手紙の内容だよ!笑えねーよ!不幸の手紙かよ!『愛してます』とか上から下までみっちり書いてあるし!」 
 「字、綺麗だよねー」 
 「確かにキレーだがよ!内容がこえーよ!むしろ見た目からこえーよ!誰だよこんなの書いたの!」 
 矢継ぎ早に突っ込んでくる。 
 一言で通常の三倍くらいになって返ってくる男だ。 
 「名前はあるけど、コレ、何て読むと思う?」 
 最後の行(て言うか便箋の一番下)を指さす俺。 
 そこには『緋月三日』と書いてある。 
 「ええっと、どれどれ…ひ、づ、き…ひづきみかァ!!!」 
 あ、エクスクラメーションマークが増えた。 
 って言うかそれくらい驚いた。 
 「よく分かったねー。ソレ、『みっか』って読むのかと思った」 
 「…え、アレ、知らないの?って言うか気付いてないの?」 
 まるですごい意外なことのように、問いかける葉山。 


438 :ヤンデレの娘さん 告白の巻:2010/09/03(金) 03:26:32 ID:E//dvSBC
 「もしかして、俺知ってる?そのコ?」 
 あんま人間関係にはコダワリ無いからなぁ、俺。 
 「いや何ってありゃお前のストー…ヒイイイ!」 
 何かを言いかけて、まるで幽霊に会ったような叫び声を上げる葉山。 
 「どしたの?」 
 「ああ、い、いや、何か背後から怖気が…。いやまぁ、マジメな話、同じ名前のヤツ、ウチのクラスにいるぜ?」 
 そーなの? 
 「よく覚えてるよねー。4月に同じクラスになったばっかりなのに」 
 「いや、近くの列のヤツ位覚えとけよ」 
 「近くの人はお前しか覚えて無いからなー。」 
 「そりゃ、オレは隣の席だからな!」 
 そんなトークをしながら、ちょっと自分頭の中を検索する。 
 確か、後ろの方の席の… 
 「あー、あの?」 
 やっと思い出した。 
 「そうそう、あの地味ーで暗ー…ヒイイイイイイイイイイ!!」 
 葉山はまた怖気を感じたらしい。 
 風邪かな? 
 「地味ってか、髪長い子だよね。すごいキレーな」 
 「キレー?お前あんな感じの顔が好みなん?」 
 「髪の話ー。ぶっちゃけ、顔はまだ覚えきれてない」 
 僕は答えた。 
 教室の中に時々、何やら触りたくなるほどサラサラヘアーの女子がいるとは思っていたのだ。 
 「…ちょっと行ってみたいかも、大桜の下」 
 「ええー!」 
 僕の呟きに、大げさに驚く葉山。 
 「なぜそんな驚くかな」 
 「だって、緋月って地味だし友達もあんまいない感じだしヒイイイ!」 
 また叫びだす葉山。 
 そろそろ本気でコイツの体調が心配になってくる。 
 「葉山、はやまん、風邪っぽいならとりあえず保健室行っとく?あと、風邪に効く料理のレシピとかも書くわ」 
 「お前って意外と甲斐甲斐しいよな…」 
 大丈夫、と手をひらひらさせつつ、葉山は言葉を続ける。 
 「と、とりあえずその手紙はイタズラなんじゃね?多分」 
 「イタズラ?」 
 「木の下に来てくださいってハナシでここまでみっちり書く奴はいないぜ、フツー?」 
 葉山の言葉には納得しかねるモノがあるが、この手紙の内容には微妙に足りない部分がある。 
 それが無い以上、リアクションの取り様が無い。 
 ――ってコトはイタズラの手紙ってことになるのだろうか。 
 「まー、確かにイタズラっぽいけどねー」 
 「だろ?だろ?んじゃ、この話はコレでおしまいだよな!」 
 どこか強引にそう言いながら、話を打ち切る葉山。 
 そして、別の話題を葉山とダベりながら教室に向かう。 
 「でもなー」 
 葉山のバカ話を聞きながら、俺は呟く。 
 「イタズラでここまで丁寧にやる奴もいなくね?」 


439 :ヤンデレの娘さん 告白の巻:2010/09/03(金) 03:26:52 ID:E//dvSBC
 御神千里は気がつかなかったが、そのやり取りの一部始終を物陰から見ていた者がいた。 
 そして、その人物は今も千里の後ろ姿を見つめている。 
 「…イタズラ、なんてウソですよね。御神くん」 
 その人物はささやくように言った。 
 「…私、本当にどんな手段を使ってでもあなたを手に入れますよ…?」 
 そして、ぐっと両手を胸の前で握りしめる。 
 「…私、頑張ります」 


440 :ヤンデレの娘さん 告白の巻:2010/09/03(金) 03:27:57 ID:E//dvSBC
 緋月三日。 
 今年から俺と同じクラスになった少女。 
 内気そうな印象の少女。 
 友達は多くは無く、しかし居ないわけではなく。 
 成績は悪くはないらしい。 
 ただし、体育の方はどうも壊滅的のようだ。 
 体育の授業中に女子の方を見ると、何やらすっころんでいたり、いかにもどんくさいのが居たが、どうもそれが緋月らしい。 
 体型も触れれば折れてしまいそうな細身で、ぶっちゃけ運動には向いていない。 
 華奢と言えば聞こえは良いが、その分胸囲とかは察してくださいとしか言いようがない。 
 そして何より髪が綺麗。 
 今時珍しく腰まで伸ばした長い髪は柔らかそうな髪質のサラサラしたストレート。 
 色白細身な体系もあって、いかにも和風美人(?)といった感じである。 
 まぁ、不細工と言うほどの顔立ちではないが、誰もが振りむく美人というのとも違う。 
 そんな癖のある顔立ちでも無く、肌がきれいなのも相まって、良く見れば結構可愛いじゃん、といったカンジ。 
 メイクさんやってるウチの親なら磨けば光る素材、と評するだろう。 
 以上が、葉山から聞いた情報と自分の乏しい記憶を統合しての、緋月三日のプロフィールだった。 
 「…って、何でそんなにアイツのこと気にするかな、みかみん」 
 「髪綺麗な女は気になんの」 
 「髪フェチ!?」 
 「それに、あの手紙のこともあるし」 
 「……」 
 今は昼食の時間。 
 隣の席の葉山とゆるゆる喋りながら弁当(自作)を食べていた。 
 「…忘れろよ、あんなんただのイタズラだって」 
 本気で不愉快そうな顔をしてそう言う葉山。 
 「でもさー」 
 俺はそう言って胸の内ポケットから今朝の手紙@緋月(仮)を取りだす。 
 「こんなキレーな字書く女子、イタズラでも会ってみたくね?」 
 「…ゴメン、お前のツボは分からん」 
 葉山が言う。 
 「ってか、最後まで、字キレーなんだよね」 
 文面を見ながら、俺は言った。 
 糸目をちょっとだけ見開き、改めて読み流す。 
 便箋の上から下まで文字で埋め尽くした上に、いずれの文字も丁寧なのだ。 
 これは、単に字が綺麗だからというのではない。 
 一文字一文字にしっかり気を使っているからだろう。 
 並の労力ではないし、時間もかなりかかっただろう。 
 それを考えると、この手紙は芸術的でさえある。 
 …まあ、一カ所だけ書き損じがあるが。 
 それを差し引いても、ただのイタズラにしては手がこみすぎている。 
 頑張りすぎているのだ。 
 ただのイタズラや嫌がらせならもっと手を抜いている。 
 手を抜いて良いところだ。 
 「字キレーで、頑張りやさん、か」 
 そう呟き、何の気なしに教室の後ろの方に目を向ける。 
 緋月の席は教室の奥の方、窓側の後ろの方にある。 
 ふと、緋月と目があった気がして思わず互いにそらしてしまう。 
 そうこうしているウチに弁当は食べ終わり、昼休み開始のチャイムが鳴る。 
 「ご飯の後ってやっぱ眠くなるよなー」 
 ふわ、とあくびをしながら俺は言った。 
 「まぁなー。…ってまさか」 
 葉山がシブい顔になる。 
 「昼寝ー。いつもみたく大桜の下で」 
 「行くのかよ!」 
 ガタンと立ち上がる葉山。 



441 :ヤンデレの娘さん 告白の巻:2010/09/03(金) 03:28:18 ID:E//dvSBC
 「落ちつきなよー。あの手紙はイタズラなんだろ?」 
 「そりゃそーだけどよ…」 
 食い下がる葉山。 
 「もし本気だったとしても、ぶっちゃけ送り主はいないと思うしなー。だから、手紙とは関係ナシ」 
 んじゃなーと言って、俺はいつものように向かう。 
 その下で愛を誓い合った男女は必ず結ばれ、その愛は永遠となるという伝説の大桜へ。 
 尤も、そんなのに関心の無い俺にとっては絶好の昼寝スペース以外の何物でも無いのだが。 
 「みかみん、お前マジ緋月のヤバさ知らなさすぎ。って言うか、何で気付かないんだよ」 
 葉山が後ろで何か呟いているようだが、よく聞こえない。 
 「アイツ、去年の間お前をずっとつけまわしてたストーカーなんだぜ…?」 


442 :ヤンデレの娘さん 告白の巻:2010/09/03(金) 03:28:49 ID:E//dvSBC
 私立夜照学園(ヨルテルガクエン)名物大桜。 
 元々は随分昔に偉い人が寄贈だか何だかしたものだそうで、学園設立当時くらいからあるらしい。 
 そんな由緒正しい代物だけに、学生の噂話の常連でもある。 
 ある時は学園七不思議のネタにされ、ある時は様々なジンクスの元となった。 
 現在伝わっていないモノもあるんじゃないかな? 
 そんな噂の中でもっとも有名なのは、「大桜の木の下で告白し、愛を誓った男女の愛は永遠の物となる」というもの。 
 一体いつのゲームの設定かと思わなくもないが、ともあれ夜照学園の生徒にとってこの大桜の木の下で告白するのは鉄板となっている。 
 で、いつの時代も恋する乙女の注目を集めるそんな大桜は、校庭とかの辺りとは少し離れた位置にある。 
 だから、それこそ愛の告白をしたい人間くらいしか、ココに訪れることはない。 
 だから、静かに昼寝をするには絶好の場所だったりする。(罰あたり) 
 そして、今日もいつものように木の下に訪れる。 
 「やっぱり、来てくれたんですね…」 
 その声は、後ろから聞こえた。 
 聞き覚えのある声だと思った時には、俺の首筋に電流が走っていた。 



443 :ヤンデレの娘さん 告白の巻:2010/09/03(金) 03:29:41 ID:E//dvSBC
 「コレをこうして…、ここをこうやって…」 
 次に気がついた時、俺は大桜の下で仰向けになっていた。 
 ウン、いつも通り。 
 違うのは、聞き覚えのある声=緋月のささやくような声が聞こえること、頭の下に柔らかいものがあたっていること(膝枕?)、手足が動かないこと、ぶっちゃけ手足が縛られていること。 
 …明らかに、いつも通りでない所の方が多い。 
 間違い探しが楽と言うレベルではない。 
 「最後に、ハンカチで口をふさいで…」 
 そー、っと真っ白なハンカチが見覚えのある顔と一緒に近付いてくる。 
 「いやいや顔が近いから」 
 びくぅ、とハンカチと顔を離す緋月。 
 「ってか、緋月?緋月三日?」 
 「はい!」 
 「取りあえず、確認したいことがあるんだけど、聞いて良い?」 
 俺の言葉にブンブンと首を縦に振る緋月。 
 いー感じに緊張しているっぽい。 
 視界的には緋月が上なのだが、無駄に身長の高い俺と話すのは怖いのかもしれない。 
 「質問その1。口をふさいでどうするよ」 
 取りあえず、分かる所からツッコミを入れよう。俺は葉山じゃないんだし。 
 「…イニシアチブを取る、ためです」 
 相変わらずささやくような声で言う緋月。 
 それにしても良い声だな。よく声優になれって言われません? 
 「イニシアチブ?」 
 いや何の。 
 「意中の異性を手に入れるためには、肉体的、心理的に優位に立つことが必要不可欠。その為に、まずは相手の動きを封じることが大切、とこのマニュアルに書いてあります」 
 見れば、緋月の手にはいかにもお手製な小冊子が握られている。 


444 :ヤンデレの娘さん 告白の巻:2010/09/03(金) 03:30:15 ID:E//dvSBC
 「何のマニュアルだよ、それ…」 
 俺はうめいた。 
 何か、表紙が黒いし、明らかに諸悪の根源っぽい臭いがする。 
 まぁ、そこは今あまり重要でも無く。 
 「ま、いいや。質問その2。もしかして、今朝の手紙は君が書いたの?」 
 「はい!頑張りました!」 
 全力で答える緋月。 
 頑張ってたよな、確かに。頑張りどころを間違えている気がしたが。 
 「マジメな話、やっぱ本気で俺にここに来てほしかったって訳?イタズラとかじゃなく?」 
 俺の言葉に、緋月の瞳からハイライト(生気)が消える。 
 「…御神くん、まさかあのクラスメートAの言葉を真に受けて無いですよね…?私の愛の限りをこめた手紙をイタズラだなんて本気で思っているはず無いですよね…?」 
 「うん、自然な動作で首に手をかけるのは止めようなー」 
 何かすごいことしようとしてるので、ツッコミをいれておこう。 
 桜の下で本当に死体になりたくは無い。 
 しかし、緋月はその白く細い指で俺の首を包みこんだ。 
 包みこんだだけだが。 
 「…痛くないんですか?」 
 「別にー?」 
 首のあたりに多少圧迫感があるかないか、というところだ。 
 俺のリアクションに、一生懸命首をしめようと試みている(らしい)緋月。 
 ただ、彼女は「首の締め方」的な物をどうにも心得ていないらしく、一向に痛くならない。 
 何しろ首の横から力入れてんだもんなー。 
 真上から体重をかけられたらさすがにちょっとは痛いだろうけど、単純に筋力(しかも非力)で何とかしようとしてるから、全く効果が無い。 
 うんうん言いながら頑張る緋月の姿は結構ほほえましいものがある。 
 …目的は俺の首を絞めることだが。 
 「話を戻すけどー」 
 何やら頑張ってる緋月の顔をアップで見ながら俺は言った。 
 「俺がココに来る時間って、今で良かったわけ?」 
 「時間?」 
 僕の言葉に動きを止め、きょとん、とした顔をする緋月。 
 内気そうに見えて、中々表情豊かだ。 
 癒されるものがあるねー、こんな状況でなかったら。 
 「大桜の下に来てほしい、とは書いてあったけど、『いつ』来てほしいとは書いてなかったじゃん?だから、どうしたものかなって思ってたわけ」 



445 :ヤンデレの娘さん 告白の巻:2010/09/03(金) 03:30:55 ID:E//dvSBC
 『昼休み』に来てください、なのか、『放課後』来てください、なのか、明日かもしれないし、一週間後かもしれない、そう取れる内容だったと言える。 
 俺の言葉に緋月は目を白黒させる。 
 「う…そ…」 
 おお、パニくっとるパニくっとる。 
 「うそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそうそう」 
 字面だけ見れば死ぬほどヤンデレらしいが、実際は涙目で困惑してるだけである。 
 あんまり表情が変わるような印象の無い娘なので、涙目はかなり新鮮―――というよりぶっちゃけ可愛い。 
 「ほんとだぞー」 
 ひょい、と例の手紙を手渡す俺。 
 それを受け取り、上から下まで読み返す緋月。 
 「そんな…。がんばったのに…頑張って、勇気を出して書いたのに…」 
 事実に愕然とし、顔を手で覆いさめざめと涙を流す緋月。 
 「泣くな泣くな。お前が頑張ったのはこの手紙を読んだ俺も良く知ってる。」 
 ぽんぽん、と柔らかく緋月の背中をたたく俺。 
 「…分かって、くださるんですか?」 
 「ああ、もちろん。それに、結局俺はお前がいる時間にココに来たんだから、結果オーライじゃないの」 
 昼寝のためだった、とは言えんがな。 
 「…私の頑張りは、無駄じゃ無かったんですね…?」 
 「さぁそれはどうだろうなんてことは無かったぜ。バッチリ報われてるぜ」 
 俺の言葉の途中で緋月がまた泣き顔になったので慌ててフォロー。 
 決してまた首に手をかけられたからではない。 
 「んじゃ、そろそろ質問その3。お前の望みを言え」 
 「どんな望みも叶えてくれる!?」 
 泣き腫らした目のまま打てば響くようなリアクションを返す緋月。 
 内気に見えて、中々リアクションの才能があるっぽい。 
 「や、そこまでは言ってないし。 まぁ、何の代償も要求しないけど」 
 ネタが分かる人っぽいのでそこはフォロー。 
 俺の言葉に居住まいを正し、深呼吸をする緋月。 
 「あなたに、私への愛を誓っていただきたいのです」 
 泣き腫らした眼で俺の眼をまっすぐ見つめ、そう宣言する彼女は、思いのほか魅力的だった。 
 不覚にも見惚れてしまうほどに。 
 しかし… 
 「うん、何か色々すっ飛ばしてるよな」 



446 :ヤンデレの娘さん 告白の巻:2010/09/03(金) 03:31:44 ID:E//dvSBC
 俺の言葉は、半分は照れ隠しだが、残りは明らかな本音である。 
 …つーか、俺らの人間関係始まってもいない気がする。 
 そこで愛を誓えってのは第一話に最終回やれってくらい無茶ぶりだろ。 
 とはいえ、また涙目になる(&首に手をかける)緋月がいたたまれないので一応フォローしよう。 
 「そもそも、何で俺なのかって理由を聞きたい。ウチの学園には俺よかイケメンの奴とかたくさんいるし」 
 これがギャルゲーなら主人公だから、で納得するんだけど、別にそんな設定は無いからなー。 
 いや、桜の下でいきなり縛られるゲームがあったら嫌すぎるけど。 
 「…御神くん以外の男子なんてゴミみたいな人です。むしろ、御神くん以外の人がゴミのようです」 
 「それ、某ラ○ュタネタだよな。分かりづらいだけで。そうでなかったら、そんな酷い表現使っちゃいけませんと親御さんの代わりにお説教をしてるところだぞ」 
 だとしても、某宮崎監督が泣きそうな使い方だ。 
 「みんながゴミなら俺はクズとか?」 
 伝説の大桜の下で昼寝しようって言う、空気の読めない罰あたりだもんな。 
 「違います!御神くんは優しい人です!!私がそれを一番よく知っています!!!」 
 今度は悪鬼のごとき表情で怒りだす緋月。 
 俺の為に怒ってくれんのは嬉しいが、その顔芸は止めような。 
 他人に見せられん顔になってるもの。 
 「…覚えていますか?去年の今日、まだこの学校に不慣れで迷子になっていた私を、御神くんが教室まで案内してくれたことを」 
 「いや、全然」 
 「お、ぼ、え、て、い、ま、す、か?」 
 一生懸命首絞めをしながら聞きなおす緋月。 
 本人的には精いっぱい威圧的に言っているのだろうが、涙目なので迫力に欠ける。 
 白い指がひんやりして心地良い…じゃなくて、乏しい記憶力をフル回転する。 
 以下回想 
 ―――どしたの、君?小動物見たく辺りを挙動不審に警戒して――― 
 ―――…あ、あの…きょ、教室が分からなくて…――― 
 ―――あーこの学園、無駄広いからなー。中等部からいる俺でも把握しきれないし。君、何年何組?――― 
 ――――…い、一年十三組です…高等部の…――― 
 ―――何だ、隣のクラスじゃん。一緒に行く?――― 
 ―――…い、良いんですか…?――― 
 回想終了 
 「ああ、あのおかっぱ!」 
 「そ、そうです!おかっぱでした!」 
 全力でうなずく緋月。 



447 :ヤンデレの娘さん 告白の巻:2010/09/03(金) 03:32:09 ID:E//dvSBC
 首を動かす度に長い髪が乱れて、何かエロい。(変態) 
 あったあったそんなこと。 
 あの後、後ろにその女の子を伴って教室に戻ったんだっけか。 
 ただ、その女の子は黒髪おかっぱの髪型だったので、今の緋月(ストレートロング)と結びつけるには少し時間がかかった。 
 ホント、女の子って髪型変わるだけで印象変わるや。 
 「一年で随分髪伸びたよなー」 
 「…あの日から、気がついたらあなたの姿を目で追うようになっていました。」 
 「無視かい」 
 恍惚とした表情で語りだす緋月。 
 「…気がついたら、あなたの姿を見つめるのが日課になっていました」 
 「そりゃ初耳」 
 「…気がついたら、四六時中あなたの姿を追うようになっていました」 
 「…四六時中?」 
 「…気がついたら、あなたのいる所にはどこでもついていくようになっていました」 
 「気がつけよ!」 
 いや、緋月もそうだが俺も気がつけ。 
 何でこんなキレーな髪の女子が近くに居るのに気がつかんのだ。(論点が違う気もするが) 
 「…そうしているうちに、いろんなことを知りました。あなたについて」 
 「ほうほう」 
 「…他人に無関心に見えて誰に対しても優しい所とか。時々見せる笑顔が素敵な所とか。意外と家庭的だったりとか。早起きさんなところとか。自慰行為は一日何回やっているかとか」 
 「最後に下ネタ!?って言うか男の前で自慰行為とか言うなよ!嫁入り前のコが!」 
 って言うかプライバシーの侵害にもほどがある。 
 「…大丈夫です、これからは私が満足させます」 
 「あんの!?ソッチの経験!?」 
 「………が、頑張ります」 
 「あー、無いのね。別に無くて良いけど」 
 内心、なんかホッとしてる自分がいる。 
 「ってか、それも段階飛ばしすぎだろ。手つなぎイベントとか、初キスとか、その前に色々あるっしょ。ラブコメ的に」 
 「…どんな要求にも応えます。御神くんが私の要求に応じてくれるように」 
 「…びみょーな表現使うなぁ」 
 苦笑を浮かべる俺。 
 何か、本気でどんな要求にもこたえそうだわ。 
 死ねと言われたら死にかねない。 
 …逆に、俺も死ねと言われたら死ななきゃならないらしいけど。 
 「まぁ、何となく事情はわかった」 
 コイツの人となりもね。 
 ぶっちゃけ、かなりとんでもないことをしてる娘ではあるが、それ以上に頑張り屋なのだろう。 
 頑張りどころをかなり間違えている感もあるが―――まぁ、そこはおいおい治していく感じで。 
 ゆるゆる生きてる俺にとって、何かのために頑張れる人間ってのは、かなり眩しく見えるモノで。 
 それが自分の為だってのは中々に感動的な物がある。 
 ま、髪もキレーだしね。 
 ロングなのもポイント高い。 
 …おや、付き合わない理由が無いな。 
 その上であえて言おう。 
 「だが断る」 



448 :ヤンデレの娘さん 告白の巻:2010/09/03(金) 03:33:30 ID:E//dvSBC
 ばしゃん! 
 そう答えた瞬間、緋月の手にはたくさんの凶器が握られていた。 
 ハサミ、カッターナイフ、十得ナイフ、ダガーナイフ、伸縮式警棒、ワイヤー、アイスピック、妙なスプレー、スプーン、包丁、お玉(注:調理用具はもっと丁寧に扱いなさい)その他諸々 
 …あ、スタンガンもある。アレで俺を気絶させたのな。 
 「愛を誓ってくれなければ、私を殺してあなたも死にます」 
 「逆逆」 
 いや、あんまり変わんないけどね。 
 「つまりね、別に愛を誓おうが恋を誓おうが良いんだけど、こっちにも条件があるってコト、みたいな?」 
 凶器の山に臆することなく、俺は言った。 
 使い手が無害なことが分かってるからね。いや、だから逆に危ない気もするけど。 
 「…え?」 
 俺の発言に、緋月の手から凶器の数々ががしゃがしゃと落ちる。 
 「愛を誓うならまず君から誓え」 
 「命令形!?」 
 緋月は驚くが、一応手足を縛られているこの状況である。 
 いい加減俺が優位に立ってもバチは当たんないと思う。 
 「…うう、最初から羞恥プレイを命じられるとは思いませんでした…」 
 「何が羞恥プレイだ。見た目的には俺の方が恥ずかしいわ」 
 縛られてるしね。 
 「あうう…」 
 顔を真っ赤にしながらうつむく緋月。 
 「…愛しています」 
 「聞こえなーい」 
 「愛してます!頭のてっぺんから足の先まで魂の奥底まで愛しています!他の女には渡しません!他の女になびいたらショックで死にます!あなたを殺してから!だから私だけの御神くんになってください!」 
 「良いよー」 
 俺はさくっと返した。 
 「「軽!」」 
 ツッコミは緋月からだけでなく、意外なところからもやってきた。 


449 :ヤンデレの娘さん 告白の巻:2010/09/03(金) 03:34:21 ID:E//dvSBC
 葉山だ。 
 何か木陰からでてきた。 
 「おお、はやまんじゃん。どしたの?」 
 「心配になって来てみたら。お前ナニイテンダ!」 
 葉山の言葉が興奮で喝舌がすさまじいことになってる。 
 「お前この女にずーっとつけ回されてたんだぜ!ストーカーだぜ!何っでそんなのと付き合うんだよ!考え直せ考え直せ考え直せ。付き合ってロクなことになるわけがない」 
 必死で俺の説得にかかる葉山。 
 そうは言うが、コイツずっと見てたのか、今のやり取り。それこそストーカーみたく。 
 「いやまぁ、頑張る所を間違えてるよなとは思うけど、見られてただけで実害があったわけじゃないし」 
 むしろ、近くに置いといた方が面倒が無い気もする。 
 「見られすぎだろ!」 
 「見るのだって楽じゃないっしょ」 
 「のっけから恋人とか超展開すぎだろ!」 
 「とりあえず、世間のお見合い結婚カップルに謝ろーな」 
 「怒られてる!?」 
 「それに、ぶっちゃけ遠くから見られるよか近くに置いておいた方が面倒が無…もとい面白いし」 
 「「それ言い直す必要無いよな(ですよね)!?」」 
 葉山と緋月の声を背景に、俺は立ち上がる。 
 そろそろ予鈴だ。 
 「んじゃ、そろそろ戻るか」 
 言って、緋月に手を伸ばす。 
 「はい!・・・って」 
 しっかり手を取り、フリーズする緋月。 
 「私、御神くんの手足を縛ってましたよね!?」 
 「…そんな設定あったっけ?」 
 「ありました!」 
 「…うん、ゴメン。結構ゆるゆるだったってか、すごいあっさりほどけてたわ」 
 「いつから!?」 
 「結構最初から」 
 「そんな!?」 
 がびーん、とか言いそうなくらいショックを受ける緋月。 
 「まー、努力は報われたんだからそんなショックを受けなさんな、マイラヴァー」 
 「は、はい!」 
 歩き出す俺にとことことついてくる緋月。 
 カルガモの子供みたいで中々可愛らしい。 
 そして、三人でダベりつつ教室に戻る。 
 「ホントに良いのか、みかみん。クーリングオフとか効かないぞ、コレ」 
 「良いんじゃない?何かイロイロツボったし」 
 「…良いのか、それで」 
 「…葉山くん、どうしてそんなこと言うんですか?…もしかして、あなたも御神くんを…」 
 「「無い無い」」 
 「…息がぴったりです」 
 「付き合い長いからねーって愛情的な意味じゃないからなー。あ、そうだ緋月。お昼とかいつもどうしてる?」 
 「…こ、購買でパン買ってます」 
 「それじゃ足りないっしょ。育ち盛りなんだし。明日から俺弁当作ってくるわ、恋人っぽく」 
 「い、良いんですか!」 
 「何か逆だぞそれ!本当に甲斐甲斐しい男だな、みかみん!」 
 「うるさいよ」 
 と、まあ、こうして俺の楽しくも不穏当な青春は過ぎてゆく。 



450 :ヤンデレの娘さん 告白の巻:2010/09/03(金) 03:35:03 ID:E//dvSBC

 おまけ 
 「そう言えばひづきん、その凶器やら黒い表紙のマニュアルやら、どっから調達してきたん?」 
 「…あ、コレは母が珍しく用意してくれたんです(いきなりあだ名付けてくれた…)」 
 「親御さんが?」 
 「…何でも、母はこういった物を使って父を手に入れたのだそうです」 
 「…」 
 「…この『恋人絶対拉致入門』以外にも、『泥棒猫の■し方』とか『素敵な監禁生活AtoZ』とかも用意して下さったんですよ。御神くんも読みますか?」 
 「…いや、いいわ」 
 お母さん、俺の彼女の母親はヤンデレのようです。 
 つまり、俺の彼女はヤンデレの娘さん。