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第1部2話」を以下のとおり復元します。
色々あったが、シュヴルーズの授業は終わった。
特に用もないので、部屋に戻ろうとするイチローとルイズ。 
そんな二人を呼び止める者があった。 

「あの……」 
「誰だ?」 

背後から声をかけられようとした瞬間、イチローは振り向きもせずに答えた。 
ルイズは何事かとその身を硬くする。 

「あわわ、私です。教師のコルベールですよ!?」 
「何だ。コルベール先生じゃないの。イチロー、脅かさないでよ」 

二人はコルベールへと向き直った。 
ルイズはぷんすかと怒っているが、イチローは厳しい目をしていた。 

「コルベール先生、だったか? 気配を絶って人の後ろから近付くのはいい趣味じゃないな」 
「あ、あなたは……!?」 

イチローは、じっとコルベールを見据えていた。 
ぴりぴりと肌を差すような、異様な雰囲気に廊下は包まれた。 
一触即発。この状況にはそんな表現が最も似合うだろう。 
だが、それも束の間。 
緊張感のある空気を破ったのは、イチローからだった。 

「別に僕は喧嘩する気はありませんよ」 

そう言うとイチローは、いつもの優しい目に戻った。 
コルベールは、呻くように答える。 

「確かに気配を絶っていたのは癖のようなものです。私は、昔……」 
「いや、全てを言わなくてもいいですよ。男には、辛い過去が誰にだってあるものです」 
「ありがとう。イチローさん……でしたかな?」 

コルベールも、優しい目をして答える。 

「はい、なんでしょうか?」 
「あなたの腕に刻まれたルーンを、少し拝見させてもらってもよろしいですかな?」 
「構いませんよ」 

イチローは快くコルベールの前に左腕を差し出した。 

「では、少し失礼を」 

コルベールは懐からメモのような物を取り出すと、ルーンの形を手馴れた様子で書き写した。 

「ありがとうございます。それでは、私はこれで失礼しますぞ」 
「この程度、お安いご用ですよ」 
「……ハッ!? あ、コルベール先生!?」 

そこで、先程の空気に当てられて固まっていたルイズが動き出した。 

「ミス・ヴァリエール」 
「は、はい!?」 

コルベールの言葉に、怒られるのかと思ったルイズが固まる。 

「いい使い魔を召喚しましたな。大事にするのですぞ」 
「コルベール先生……」 
「では、今度こそ失礼しますぞ」 

コルベールは、廊下の向こうへと去っていった。 

「コルベール先生か……」 
「イチロー、どうしたの?」 
「いや、彼なら頑張ればメジャーにも挑戦できるかもと思ってね」 
「よく分かんないけど、先生を変な事に勧誘するのは止めてね、お願いだから……」 
「この世界に、僕が野球を広めるのもいいかもしれないな」 
「お願い、本当にお願い。やめてイチロー」 

二人は一度部屋へと戻ると、またすぐに出かけることとなる。 
そろそろ昼食の時間のためだ。 
食堂へと向かった二人だが、食堂はいつにも増して人で溢れていた。 

「これは……ちょっと座れないわね……」 
「どうする、ルイズさん?」 
「あ、そうだ」 

ルイズが何か閃いたらしく、手を打った。 

「ここでお弁当を作ってもらって、中庭で食べましょう」 
「それはいい考えだな。今日は天気もいいからね」 
「じゃあ、私はお弁当を頼んで来るから、イチローは中庭で用意しておいてちょうだい」 
「了解だ」 

イチローはルイズと一旦別れると、中庭へと向かった。 

「それにしても、お腹が減ったな」 

イチローは自分の腹を押さえてみる。 
錬金の授業では、思わぬカロリーを消費してしまった。 
いざとなれば数年単位で絶食しても平気だが、食料を摂取できるうちはしておきたかった。 

「どうなさいました?」 

振り向くと、大きな銀色のトレイを持ったメイド姿の少女が心配そうな表情で立っていた。 

「いや、少しお腹がすいてしまってね」 
「そうですか……。あら? あなたは、もしかしてミス・ヴァリエールの使い魔になったっていう?」 

彼女は、イチローの左手の甲に刻まれたルーンに気付いたようだ。 

「おや、僕を知っているのかい?」 
「えぇ。何でも、平民の使い魔を呼んでしまったって、噂になっていますわ」 

女の子がにっこりと笑う。 
屈託のない笑顔だった。 

「確かに僕はルイズさんの使い魔だが、平民じゃないよ」 
「……え?」 
「僕の名はイチロー。平民じゃなくて、メジャーリーガーさ」 
「はぁ……? あの、私はこの学院でメイドをしております、シエスタと申します」 
「シエスタか。いい名前だね。そもそもメジャーというものは……」 

イチローの話を遮るように、イチローのお腹から音が鳴った。 

「これは失礼」 

イチローが照れくさそうに頬をかく。 

「お腹がすいてるんですね」 
「みっともないとこ見せてしまったね」 
「では、こちらにいらしてください」 

シエスタはクスりと笑うと、イチローを先導して歩き出した。 



「ここは……?」 

イチローが連れて行かれたのは、食堂裏にある厨房だった。 
大きな鍋や料理器具がいくつも並んでいる。 
そこでは、忙しげにコックやメイド達が料理を作っていた。 

「粗末な物ですが、これをどうぞ」 

シエスタはイチローに、湯気の溢れているお皿を差し出した。 
お皿の中には、美味しそうなシチューが並々と注がれていた。 

「悪いね。頂くよ」 
「賄い食で悪いですが……」 

イチローは、ルイズとの約束を忘れてシチューを堪能した。 

「いや、これは中々美味いな」 
「お代わりもありますから、ゆっくり食べてくださいね」 
「あぁ、ありがとう」 
「このシチューは、最近新しく雇った方が作ったんですよ」 
「へぇ……? いい腕をしてるんだな」 
「ふふ。後で本人にそう伝えておきますよ」 

イチローは夢中になってシチューを食べた。 
すぐに具はなくなり、最後は豪快に一気飲みするほどだった。 
そんなイチローの様子を、シエスタはにこにこしながら見守っていた。 
食べ終わり、満足そうに腹をさするイチロー。 

「ありがとう。とても美味しかったよ」 
「いえいえ。私は少しお手伝いをしただけですし……。あ、いけない」 

はっとした様子で、シエスタが口を押さえた。 

「忘れてました。申し訳ありませんが、私は今から仕事が……」 
「なら、その仕事を僕も手伝うよ」 
「いいんですか……?」 
「もちろんさ」 

イチローは、大きく頷いた。

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