「最上静香……そう名乗ったのか、遊びやがって」 「遊ぶ?」 「二重の言葉遊びだ……いや、三重かな」 「言葉遊び……偽名を使っているっていうことですか?」 「芸能人だ、芸名ってことにしてやろう。最上……モガミは『喪神』だ」 「喪神?ああ、付喪神とかって言いますよね」 「ツクモの別字を知ってるか?同じ読みで、違う当て字を使うことだ」 「有名なのは九十九ですよね、って!そのツクモは」 「そう。付喪神とは『九十九神』だよ。修羅の道を歩いて神を破り、その拳の最強を証明しようとした、 あの男の名だ」 「まさか……いや、まさか、あんな女の子が」 「三重の言葉遊びと言ったろう。奴の系譜をたどった者が行き当たる女性の一人に、その名がある。 そうでなきゃ、俺だって偶然で済ませてた」 「静香……まさか……静御前……ですか?」 「静御前は舞の名手だったそうだよ。今で言うトップアイドルだ。あの子はあくまで、格闘技ではなく アイドルで最強を証明しようとしているってわけだ」 「いやイミあるんすかそれ!」 「バカヤロウ。格闘技ライターがアイドルのことなぞわかるか」 「ええ?『あの人』に格闘技でかなうわけないじゃないですか。私はそもそも、跡継ぎでもなんでも ないんですから。 でも『あの人』も知らない、というか、興味がないんですよ。この体さばきや、突きも蹴りも…… 相手の肉体を砕くためだけに練られた技ではないって。 空気を振動させる技もあるでしょう?ええ、相手の心を揺るがすことだって容易いんですよ。 『あの人』は、どんな闘いでも最強を証明すると言っています。いつ、この舞台に気づくか知れません。 私は、芸能界を戦場にしたくないんです。私が頂点に君臨していれば、このステージは『あの人』に とっては価値がなくなる……それが私の狙いです。 えへへ、バレちゃいましたから、教えました。 わかったらどいてください。はじめに言ったでしょう? 私には時間がないんです」 ……ニィッ。 「邪魔だけは、しないでくださいね」