『悩んだ結果が……』

THE IDOLM@STER 創作発表まとめWiki内検索 / 「『悩んだ結果が……』」で検索した結果

検索 :
  • 『悩んだ結果が……』
    もやもやするの。真くんとハニーがデートしたと聞いて思わず叫んじゃったけど、あの時ミキはどっちにしっとしていたんだろう。 考える。ハニーと一緒に遊園地。コーヒーカップに乗ったり、ソフトクリーム食べさせあったりするの。 考える。真くんと一緒に遊園地。ジェットコースターで抱きついたり、一緒にファンシーショップを見るの。 どっちがミキがやりたかったこと何だろう…… 悩んでも仕方ないから来週は真くん、その次はハニーと遊園地に行こう。 「もしもし真くん? 来週の週末暇なの?」
  • 7スレ
    ... 無題7-123 『悩んだ結果が……』 TOWもどきim@s異聞~第一章~ 春香編2 無題7-139 『祓魔の聖戦<Evildream crusaders>』 TOWもどきim@s異聞~第一章~ 春香編3 half and half あわてんぼうのサンタクロース 『マキアート・ハート』 SP貴音 無題7-205 ホーム・メイド 『ゲシュタルト崩壊英会話』 ジェイ・ケー 無題7-230 『white step』 TOWもどきim@s異聞~第一章~春香編4 『wafer girl』 Secrets On Parade 無題7-260 ゆとり指南 『チョコ渡されるときに言われたい一言』 無題7-275 四条貴音のラーメン探訪番外編 いちばん咲き、みつけた 無題7-290 無題7-295 Cryin
  • placebo
    「プロデューサーは……軽い冗談が自分の手の届かないところで大ごとになってしまったことって、 あります?」 「……なんだって?」  お互い別行動だった昨日、なにかがあったらしい。今朝から律子の様子がおかしかった。  今日は幸い打ち合わせ関係ばかりでカメラに写る仕事は入っておらず、この妙にやつれたご面相 を全国に発信することにはならなかったが……いつまでもこのままではいるわけにもいくまい。  渋る彼女をなだめたりすかしたりの挙句、今しがたのように律子が口火を切る気になったのは もう日暮れ間近になってからだった。一服の名目で入った喫茶店、アイスティーを一口飲んで 律子が言葉を継ぐ。 「うーん、たとえば、ほんの冗談で『あなたの家が火事よ』って嘘をついたら消防車を呼ばれたとか。 『なんでも当たる占い師です』って普通のおばさんを紹介したら全国から人が集まってしま...
  • 無題202
     パチ、パチ  ある日の午後、天気は晴れ、いや、快晴か。雲一つない空模様で、澄み切った青が 頭上を覆い尽くしている。陽射しが燦々と射すが、それは汗を流すほどではなく、た だ仄かな温かみをもたらすだけである。  パチ、パチ  俺はそんな昼下がりの陽だまりの中、たまたま社長室で、社長と将棋をしている。  パチ、パチ  「ま、待った!」  「…またですか?」  ちなみに、もう10戦目。お昼前から始めて、すでに社長の待ったの声も、飽きる ほど聞いている。  「なぜ、手加減してくれないんだね?」  「これ以上したら、俺が確実に負けますから」  最初は平打ちだったのだが、徐々に駒を少なくしていき、今では金銀と歩以外の駒 を落としている状態だ。だが、  「それでも、君は強いではないか」  「そんなことないですよ」  今の俺の手持ちに飛車...
  • 黒い鳥
    春香もランクを上げて、久しぶりにオーディションで戦う事になった。悪いけど、負ける気はしなかった。 春香のアピール、どうやらボーカルをアピールするらしい。私に勝てるつもりなのか。 確かに、今回のオーディションはボーカルの比重が重い。だからこそ、春香には負けない。 イントロでは気づけなかった。歌詞を聞いて、気付かされた。蒼い鳥、それも私とは違う歌い方の。 同じ曲を二回審査員に聞かせる? そんなことしたら、直ぐに帰ってしまう。 ならダンス? ビジュアル? 私は何をアピールすれば良い? 混乱したまま、私は負けた。仮に私が先に歌っていれば。 そう思った。私には歌しかないんだ。逃げちゃ駄目だったんだ。 「春香、次のオーディション、負けないから」 明るく、待ってるよという彼女に背を向けてレッスンへ向かう。 私の翼は歌で、羽ばたけないなら死んでしまうしかない鳥だから...
  • 無題(287)
    俺は焦っていた。  大学4年の秋、内定が貰えないまま、就職浪人になりそうだった時でも、ココまで焦っていなかっただろう。  その時のダメ元で受けた零細(って言うとマズイかもしれないが)芸能事務所が内定出してくれなければ、 恐らく視界の隅に映るハロワに並んでいるような就職浪人組になっていただろう。  そう、これから向かう765(なむこ、と読むらしい)プロダクションには人生の完全敗者になる寸前で拾ってもらった恩があるのだ。  だからこそ、入社当日に遅刻という大失態は避けなくてはならないのだが…… 「ああああああああああああ、この目覚ましがああああああああああ!!!」  朝礼開始が午前8時、で、今の時間は8時10分前。全力で走れば何とか間に合うだろうが、初出社がギリギリの新入社員、他の社員からの心象は最悪だろう。  下手すると出社と同時に社長から 『おお、君か、...
  • 18歳のプレゼント
    9月15日(土) 昼 「「「ハッピバースデートゥーユーー!!!」」」 876プロの主なメンバーが集い催されたパーティ。 事務所内・関係者のみで行われているため、 参加人数はそれほど多くはないが賑やかな宴となりそうだった。 「さあ、涼さんっ!!ふーーっと、やっちゃってください!!」 ケーキに立てられた18本のロウソクをパーティの主賓である秋月涼は一息で吹き消し、 宴は始まりを告げた。 おめでとうのラッシュが終わり、めいめいの歓談へと移ってきた頃、 愛と絵理の二人がプレゼントを渡しにやってきた。 皆が直接渡すと大変だろうからと基本的にプレゼントは別室に固めて置いてあるが、 この二人だけは特別というのが社長の采配であった。 「涼さん、プレゼント、どうぞ?」 「はいっ、涼さんっ!プレゼントですっ!」 二人からプレゼントボックスを受け取り、大事そうに抱える涼。 「...
  • 未知との遭遇
    「今日の仕事はこれまで! 気をつけて帰るんだぞ」 「ありがとうございました」  担当プロデューサーと別れて、その女性歌手は、レコーディングスタジオを後にした。瑠璃色の長い髪を持つ美しいお嬢さんで、スリムで上背があって、プロポーションもすばらしい。  彼女の名は、三浦あずさ。765プロダクションのトップアイドルである。  さて、彼女は二十分ばかり、暗い夜道を歩いていた。 (おかしいわ……この辺のはずなんだけど……)  今日の仕事場から765タレント寮までは、距離にしておよそ一キロメートル。普通なら、里程は消化されている。  だのに、帰るべき建物がない。街灯を除けば、周りの明かりはすべて落ちていて、その手がかりもつかめない。おまけに、道の片側から、流水音が聞こえてくる。 (わたしは方向音痴だから、あちこち迷いやすいのよね……そういえば、先日、ちょうどこの辺...
  • ある夜の居酒屋
      ガララッ。 「一人だけどいいかい?……おや、こんなところにヘンタイプロデューサー殿が」 「よお。春香の調子はどうだい?」 「上々だよ。それより一昨日だったか、お前が忙しすぎるのが悪いって理由で伊織に ケツを蹴られたぞ。いいキックをするようになったな、あいつ」 「そりゃ悪かったな。その間俺は小鳥さんと濃厚な情報交換ができたよ、憎いねMr.フラクラ」 「ん、なんて言ったんだ?フニクリフニクラ?」 「心当たりがないならいいんだ。座れよ、一杯やりに来たんだろう?」 「まあな、今日は終電前に帰れるんで、腹に少し入れとこうと」 「本日のおすすめはホッケだ」 「いいね。マスター、ホッケと生。小ジョッキで」 「俺にもおかわりを。中身ね」 「なに飲んでんだ。ホッピー?大概若いのにその場末っぷりはなんだ」 「TPOって奴さ。バーに行きゃマティーニを頼んでる」 「お前はジェ...
  • 流れ星
    「ね、プロデューサー。今日のステージはどうだった?」 「完璧だよ、伊織。サイン入りの風船もCDも在庫ゼロだし、ファンの伊織ちゃんコールも最高だった」 「コールってアンタ、あれ子供たちの絶叫だったじゃない。いおりちゃぁぁぁーん!!!って」 「遊園地のほかのアトラクションにも引けを取らなかったぞ」 「お化け屋敷と一緒にしないでよ。そもそも私は歌のお姉さんじゃないんだから」 「もっと若手じゃないファン層を拡大したいってことか」 「そうよ。お目が高いファンに、私をお高く評価してもらいたいの」 「むずかしい要求だな……」 「むずかしいってことないわよ。私にふさわしい舞台と観客を用意するのがアンタの仕事でしょ。  子供相手のステージって喉が渇くの。私にふさわしいジュースをダッシュで買ってきてくれない?」 「おそいわよプロデューサー! 人が大変なときに、ど...
  • 無題310
    「ら、らぶれたー!」  雪歩は思わず叫んでしまった。学校の中とはいえ、土曜日の放課後ともなれば、もう 昇降口にもあまり人影はなかったが、下校中の何人かが、何だろうと雪歩の方を見ていた。 視線に気づいた雪歩はハッとし、あわてて靴を履きかえると、平静を装って校舎を出て行った。  学校を少し出たところで街路樹が見えてくると、雪歩は早足になり、一番大きな樹の陰に ぴったり貼り付いた。あたりに知っている人がいないのを確認し、ゲタ箱に入っていた 一通の手紙をカバンから取り出すと、震える手で開けてみた。 「萩原雪歩様」で始まるその手紙は、まさしくラブレターに違いなかった。相手は知らない 同学年の男の子だった。「好き」という字が何度も書かれているのを見て、雪歩はどうにも 落ち着かなくなった。 「好きだなんて言われたの、は、初めて……あれ?……初めてだよね、私」 ...
  • 黒井裁き
    ここは、芸能事務所・765プロダクションの社屋でございます。  今、所属タレントの一人が早朝のラジオ出演を終え、事務室のソファで仮眠を取っております。黄色いロングヘアをだらりと下げまして、脳天に後れ毛を立てましたこの娘――名前を星井美希と申しまして、若手のホープでございます。  一方、そのそばの机で、熱心にそろばんをはじいている少女がまた一人。  横長の細縁眼鏡をかけまして、栗色の髪を二本の三つ編みに結いなし、脳天に二本の後れ毛を立てております。名前を秋月律子と申しまして、表向きは所属タレントでございますが、簿記・珠算共に二級という技能を活かし、計理の手伝いもしております。 「ちょっと、美希! そんな寝方してたら風邪引くわよ。いつの間にか、毛布を床へ落としちゃって……自分まで転げ落ちなかったのが幸いね。 ほらほら、毛布を掛けてあげるわよ……全く、鼻から提灯出したり...
  • 無題7-260
     風呂上がりの晩酌を済ませ、さあ寝ようか、と思った所で、テーブルの上に投げ出していた携帯電話がぶぶぶと震えた。メールの着信だった。  サブディスプレイを覗くとそこには現在担当しているアイドル――雪歩の名前が表示されていた。  男が苦手、という彼女の性格はメールにも如実に表れていて、自信のなさそうな語尾や三点リーダ等が頻繁に見られる。  それでもこうして時々送られてくるメールの内容は実に他愛のないもので、それが逆に、こちらとの距離を少しずつでも頑張って縮めようとする彼女の努力がはっきりと表れていてなんとも喜ばしい。  尤も、今回注目すべき点はそこではないのだが。 『小学生並み……』  メールを開いて最初、タイトルにはそう記載されている。  はてさて一体何が、と思いながらつらつらと文面に眼を通し、 「……ふむ」  誰に対して気取ってい...
  • 千早振る
    暦の上では春だけれども、まだ寒い日々が続いている今の季節。  そうは言っても心の中まで寒いというわけでもなく、いやむしろほのかに暖かい、かもしれない。いや、俺が面倒を見ている子たちの仕事が、ようやく軌道に乗り始めたのだから、贅沢を言っていては罰が当たる。  …というより、色々と紆余曲折もあったことだし、これぐらいは…と思うのは自分に甘いかな。努力がそのまま認められるなんてことがいつもあるほど世の中甘くないだろうし。  俺がそんなことを考えながらプロダクションの事務室で小鳥さんと一緒に仕事をしている今は、土曜日の昼下がり。今まさに売れ時でというよりも今こそ売れなくてどうするんだ、というような子たちをプロデュースしているのに事務所で内職かと落胆する必要はまったくない。 今日はまず朝のニュースで顔出しできたし、その後には午前中にあった雑誌取材もうまくいった。それだけで、今の...
  • 留守電
     携帯を開いて、もう目をつぶっても出来る操作。短縮→001→CALL。すこしの時間のあと、 呼び出しメロディが聞こえる。  あ、夢子ちゃん、新曲に変えたんだ。僕はそこから、ゆっくり秒数を数え始めた。1、2、3……。  今は、もう彼女とはいい関係を保っている。ときどき二人でごはん食べたり、この間は映画を 見に行った。なんていうのかな、うん、そう、『親友』、って言ってもいいと思う。そのくらいの仲良しだ。  先週だって一緒だった収録の時、いろいろアドバイスを貰った。バラエティのトーク番組だった んだけど、僕の話題のキッカケを読み違えて焦ってたら、すぐ後ろに座っていた夢子ちゃんが 割り込んできてうまく流れを作ってくれた。別にあんたのためじゃない、とかおどけ役までして くれて収録も盛り上がったし、いつも感謝してる。  そういえばそれ以来かな?最近二人の...
  • ペアカップ
    「あら、小鳥さんですか?」 「えっ……あれ、あずささん」 「お疲れ様です。お買い物ですか」  仕事帰りのOLでにぎわうデパートで、小鳥は背後から声をかけられた。聞き覚えのある 声に振り向くと、事務所でもお馴染みの癒し系の微笑みが待ち受けていた。  小鳥は手に持っていたマグカップを棚に戻し、あずさに笑顔を返す。 「ええ、ちょっとお友達が結婚しまして。それでお祝いを、って」 「そうなんですか、それはおめで……え、ええっと」 「あずささん、そこで口ごもられると却ってダメージおっきいです」 「……ごめんなさい」  準備していた通りに言い訳のやり取りをしているというのに、小鳥は内心で胸が痛む のを感じた。 「あはは、でも彼女、幸せそうだったわ。私も早くそんな人、見つけたいな」 「あ、それは私も同感です。大の親友が結婚したっていうお話、しましたっけ」...
  • 風船
    俺は、765プロダクション所属の音楽プロデューサー。  担当アイドルの高槻やよいを伴って、今、新曲の広告活動を重ねている。  本日の営業場所は、とある郊外型テーマパーク。天候は、薄曇りして暑からずというところ。  野外ステージの客席は、大量の家族連れでごった返していた。  無線マイクを手にとって、やよいが会場全体にアピールする。 「じゃあ、みんな、お姉ちゃんと一緒に歌っちゃおう!」  まず最新のシングル曲、次いでそのカップリング曲を歌う。そして、最後に歌うのは、  もちろん「おはよう! 朝ごはん」。彼女を代表する一曲である。  それが終わると、子供相手の風船配り。  無数のゴム風船にあらかじめサインを入れておき、俺たち裏方がこれを膨らます。  そして、紐をつけた状態で、やよいが次々に手渡していく。  その際、空いた右手で、子供にポンとハイタッチ。...
  • 化け猫
    「今日の仕事はこれまで! 気をつけて帰るんだぞ」 「ありがとうございました」 担当プロデューサーと別れて、その女性歌手は、レコーディングスタジオを後にした。瑠璃色の長い髪を持つ美しいお嬢さんで、スリムで上背があって、プロポーションもすばらしい。 彼女の名は、三浦あずさ。765プロダクションのトップアイドルである。  同事務所のタレント寮へ続く道を、あずさは静々歩いていた。と、その時。 「ちょいと、そこ行くお嬢さん」 (こ、こんな夜中にナンパ!? なわけないか……)  彼女に声をかけたのは、自分よりやや小柄な男。とても同年配とは思えない、どう見ても厄そこそこのやつである。 「そこのおじ様、何かしら?」 「この先の川沿いに、化け猫の出る場所がある」 「化け猫!? そんなものが出てきたら、どうにもならないわ……ねえ、嘘でしょう? 嘘なんでしょう?」 ...
  • 無題74
    「伊織、やよい、千早、ランクアップおめでとう!今日は俺の奢りだ、好きなだけ食え!」 「あんたの安月給でおごりなんて、何が出るかと思ったけど意外と良い雰囲気の店じゃない」 「ええ、水瀬さんの言う通り、落ち着いた雰囲気のお店で素敵だわ」 「こんな高そうなお店でご馳走になるなんてなんだか悪いです……」 「心配には及ばんよ、酒を頼まないんだったらそこまで高い店じゃ無いしな」 「やよい、大丈夫って言ってるんだから素直に甘えれば良いのよ、  プロデューサーだって見栄の為に生活費まで使い込む程バカじゃないでしょうしね」 「信頼して貰って何よりだ」 「ま、そろそろアンタとの付き合いも長いしね」 「ふふっ、水瀬さんもなんだかんだでプロデューサーの事を信頼してるのね……ところで、ここで何を頼むつもりですか?」 「ああ、ここは鍋が旨くてな、水炊きなんか最高だぞ?」 「...
  • ねずみの嫁入り
     あるところに、ねずみのアイドルがおりました。名前をあずささんと言います。  あずささんには願い事がありました。 「そうですか、あずささんは運命のひとを探しているのですね」 「ええ、この世のどこかにわたしの運命のひとがいる、わたしはそう思っているんです。ですから わたしはそのためにアイドルになりました。わたしがトップアイドルになれば、運命のひとにきっと 見つけてもらえると思うんです」 「すばらしい考えです。小さな力ですが、俺はあなたをトップアイドルにするために手を尽くしましょう」 「ありだとうございますプロデューサーさん。わたし、頑張りますね」  あずささんの担当になったプロデューサーはそんなあずささんをトップアイドルにすべく、 デュオユニットを組もうと考えました。 「あずささんあずささん、デュオユニットにすれば人気も倍になるに違いありません。世界一...
  • 無題8-143
    神谷奈緒は困っていた。 非常に困っていた。 今現在自身の置かれた状況から抜け出す術が思い浮かばず、散々悩んだ末に結局、隣の部屋に居るはずの友人に助けを求めるべく手元の携帯でメールを送ることにした。 「おりょ、奈緒からメールだ」 「加蓮にも来たの?」 「ってことは凛にも?」 はて、と二人は顔を見合わせる。 共通の友人である神谷奈緒が怪しげな足取りで隣の仮眠室に入っていったのがつい先ほど。 そんなに眠いのならさっさと家に帰ってから寝たらいいのにと言ってみたところ、返ってきた返答は、 「少し仮眠取らないと絶対電車の中で寝過ごすから」 であった。 この後は特に予定も無く、先に帰っても良かったのだが誰も居ない中一人で帰るのは寂しかろうと二人時間をつぶしている最中の事。 さて何事かと携帯を開いてみれば文面にはシンプルな「たすけて」の4文字のみ...
  • 風船のお家
     日の傾き始めたテーマパーク。オレンジ色に染まり始めた空の下、金髪をなびかせる美希の隣で俺は手元の メモ帳で訪れた客の数を確認していた。数は上々。テーマパークのステージの上で行われた美希のライブイベ ントには多くの人が訪れ、ライブ後のサイン会にも長い列ができていた。まだメジャーアイドルとまではいか ずとも、今日のイベントで美希の知名度も上がってくれたことだろう。 「疲れたか、美希?」 「うん、もうヘトヘト……早くおウチに帰ってゆっくり寝たいの……あふぅ」 「ははっ、頑張ってたもんな、今日は」  のんべんだらりとしていることの多い美希だが、今日は客の目が多かったこともあって、気を抜かずに頑張 っていてくれた。今日の客層に、自分よりも幼い子どもが多かったせいもあったのかもしれない。 「……ん?」 「あっ……」  俺の耳が子どもの泣き声を拾ったことに気...
  • 太陽の鳥
    「社長どこだー? オウムの散歩おわったぞー?」 「おお、ありがとう我那覇君。捜しものをしていて、君たちの帰りに気づけなかったよ」 「この子、大人しくてすごくいい子だなっ。オウ助よりお利口さんだったぞ!」 「なかなか外に出してあげられなくてね。今日はいい気晴らしになっただろう」 「自分、また散歩つれてくよ! あ、そうだ。ここにいる鳥って、この子だけ?  黒井社長が欲しがってた鳥って、この子のことかな」 「……はて? この子はそれほど珍しいオウムではないが……」 「自分、前に聞いたことあるんだ。『あの765プロには勿体ない!』って言ってた。  そんなに珍しい鳥がいるのかーって、自分、ずっと見てみたかったんだ!」 「そうだったか。ならば、それはおそらく、このオウムのことではないな。  我那覇君には済まないが、あの鳥はもう、どこにもいなくなってしまったのだよ...
  • 勇気
     ギラギラと照りつける太陽。空には大きな入道雲。まさしく夏の空だ。そんな夏の空の下、川沿いの土手で PVの撮影を終えた真と俺は、目と鼻の先を流れる川へ立ち寄った。市街地から少し離れた場所にあるこの川に は、石の転がる川原がある。 「プロデューサーっ」  両手でメガホンを作りながら、真が俺を呼んだ。真の立っているすぐ側には、石が小さな山を作っていた。 近寄って見てみると、集められた石はそのほとんどが──全てと言ってもいい──平たいものだった。 「水切りか」 「ええ、プロデューサーもやりませんか?」  今日の撮影は上手くいった。その結果が、真の笑顔を一層爽やかなものにさせていた。 「よし、いいだろう。となると、もうちょっと石を集めないとな」  遠めに見える鉄橋の上を、電車が猛スピードでかけていく。きっと、快速か特急か何かだろう。あの電車の 乗客にとっ...
  • 無題7-120
    「ん~?」 「どうしたの真? 深刻な顔をして」 「これ、ボクの初期ステータスなんだけどさ……」 「歌が駄目ね」 「うっ、確かにそれはあるけど仕方ないかな、って」 「なら、何を悩んでいるの?」 「Viが低くない? 不本意だけど『王子様』なのにさ」 「……」 「……」 「このゲーム、プレーヤー層がほぼ男性よ」
  • 幻想LOVERS
    「お見合い――ですか?」 「うむ。この前の仕事で、先方が君をえらく気に入ったようでね。それで、そんな話が出たのだよ」  出勤するなりいきなり社長からお呼び出し。  何事かと顔を引き締めて話を伺うと、予想外も予想外の縁談――というのだろうか、この場合も? 「俗的だが、業界に強力なコネクションが出来るしうちとしては悪い事はない。  君も、今までと違った人生観が見えるかもしれない。結婚するしないはともかく、一度そういうのも経験してはどうかね?」 「はぁ……前向きに考えておきます」  一般常識で測れば、四捨五入すれば三十とはいえの独り身の男が、  プロデューサーとしてアイドル候補生と長く一緒に居ると親心としては不安になる。  まったく信用されてない、という事もないだろうが、当然社長も心の隅でいつもその事は危惧してるのかも知れない。 「社長のお話、なんだったん...
  • 4人のシンデレラ
    1.律子 「はーい、リハーサルご苦労様」  フロアディレクターの合図を待って、私は3人に駆け寄った。沸き立つ心を、早く みんなに伝えたくて。 「最高だったわ、3人とも!あずささん、伊織、亜美、みんなバッチリ噛み合ってた」 「お疲れさまです、プロデューサーさん」  ゆっくり呼吸を整えながら、あずささんがこちらに微笑む。私が感じたとおり、 当人も満足のいくリハーサルだったようだ。 「キメのショット、女の私でも息が止まりそうでしたよ。日が短かったのにさすがの 吸収力ですね」 「姉ちゃん姉ちゃん、亜美も褒めて褒めて」  舞台の反対端から駆け寄ってきた亜美も、興奮で頬を赤らめている。普段は大概の ことをジョークにしてしまう彼女も、今日が何か違うと感じたようだ。 「いいわよ?いつもならリハの時はひとつふたつ嘘ステップ入れるのに、今日は 覚えた通りにやってたわね、偉かったわよ」 「うえ?バレて...
  • 真の中の人がやばい
    「雪歩、『中の人』ってなんのことか知ってる?」 「えええ!どどど、どうして私にそんなことをっ」  ある日の午後、事務室で仕事までの時間待ちをしていた真が、顔を出した雪歩に訊ねた。 「え?いや、いま『喋ったー』見てたらフォローしてる人がそんな話を。どうかしたの?」 「あ、そ、そうなんだ。あはは、急に不思議な言葉が出たから驚いちゃった。どんな話なの?」  真が雪歩に示した液晶画面には、ある少女漫画がアニメ化するという話題が続いていた。 「主人公の子、ボクすっごい憧れちゃってるんだよねー。で、この人が『中の人がヤバイ』って 書いて、他のフォロワーさんとケンカ始めて」 「あ、なるほど。……ふうん、これだと多分、アニメで声を当てる声優さんのことかなぁ」 「やっぱりそれでいいのか」  小さな文字列を大雑把に追うと、その声優は最近他の芸能人と交際していることが発覚...
  • 『マキアート・ハート』
    「はい、キャラメルマキアート」 「わ、ありがとなの!」  前はコーヒーか紅茶、それかオレンジジュースしか選べなかったのに、今日は お姉さんがこれ用意してくれた。聞いたら、エスプレッソマシン買ったんだって。 「美希ちゃん、好きだったでしょ?しばらく待っててね」 「うん、大好き!」 「でも……よかったの?ウチなんかで髪やっちゃって」  お姉さんがちょっと心配そうに聞いた。 「美希ちゃんもう有名人なんだから、ちゃんとしたメイクさん、いるんでしょ?」 「あははは、いないよそんなの。そーゆーのはもっともっーと、すごい人たちだよ」  おっきな声で笑ったら、安心してくれてみたい。だけど、シーってされちゃった。 有名なのには変わりないんだから、こんなトコで大声出さないの、って。  このお店は、ミキやお姉ちゃん、ママが前から使っているカットハウス。 レッス...
  • FIVE DOORS
    「みんな、おはよう。だいたい揃ってるわね」 「えっ?」 「り、律子!」  朝から今しがたまで飛び回っていて、部屋らしい部屋でひとところに落ち着く チャンスがなかった。  ある意味本日一枚目となる、招待客控え室のドアを開けると、アイドル仲間 たちが一斉にこちらを見た。みんなそれぞれにおめかしをして、ふだん事務所で 見るより何歳か大人びて見える。  私はここに現れない……そうみんな思っていたみたいで、全員の目が丸く なるのに少しだけ複雑な満足感を覚えた。 「……律子あなた、ここでなにをしているの?」 「なにって千早、そんなの決まってるでしょ?」  どんな顔をしていいかわからないという表情のまま質問された。 「私はプロデューサーなんですからね、『うちのプロデューサー殿の結婚式』の。 参列者の状況を確認しにきたのよ」 「プロデュースって…...
  • ユメノナカヘ 二話
    765プロ・会議室。  賑わうビジネス街の喧騒から切り離された、静かな場所。  私がここに主役級人物として足を踏み入れるのは、いつ以来だったっけ? 「彼」と別れてから、「会議室」と名のつく場所に来るのはほとんど事務員としての 立場ばかりだったような気がする。  まだ誰も来ていない、ほんとうに静かな場所。 「もう、相変わらずこういうトコはルーズなんですね……」  小声で呟いてみる。 重厚な会議デスクの天板をかるく人差し指で撫でる。  冷たい感触。かすかに指先に白いものがついている。  給湯室から濡らした台拭きを持ってくる私。  机を拭いている私。  お茶の数は、議事録の提出は、録音は必要か否か……  すっかり発想が事務員になってしまっていることを、否応なく思い知らされてしま う瞬間。  ふと、部屋の隅のほうに視線がさま...
  • 女王と駒
    「番組降板ってどういう事ですか!?」 俺はテーブルを挟んで向かい合っている番組プロデューサーに問いかけた。 「確か一年契約という約束です。それにこちらに落ち度はないはず……」 番組プロデューサーであるS氏はこっちの切迫した心境を知ってか知らずか 煙草を口に咥えて目を閉じ、煙を吸っている。 「……視聴率が取れないんだよね、彼女が出ると」 彼が鼻から吐いた煙は拡散しながら、この空間に立ち込め、溶け込んでいった。 「特に若年層の女性視聴者からは反発の声も強くてね。見てごらん、これを」 彼は一枚の紙を俺に提示した。見てみると番組放送日と折れ線グラフが記入されている。 山と谷にはその時の番組収録における詳細が記載されていた。 「最近の視聴率をグラフ化したものだが、顕著に下がっている所があるだろう?  そのほとんどがね、麗奈ちゃんが映ったシーンなんだよね。 ...
  • くのいち雪歩・忍び穴後編
     一方こちらは高木一朗斎の長屋。高木老人が読み物をしながら茶を飲んでいると床下から 声が聞こえる。 「頭領、頭領」  高木は眉を動かしただけで視線を遣ろうともしない。声の主を心得ているのだ。 「雪歩か」 「申し訳ありません。伊織ちゃんを攫われてしまいました」  雪歩、と呼ばれた相手は、声を潜め、状況を説明する。 「武術大会にみんなで行く約束をしていたのですが、伊織ちゃんが先に屋敷を出てしまって。 少し高をくくってしまいました。まさか功徳新報がそこまで手が早いとは」 「催しがある時は人の波も心の波も乱れがちだ。少々気の短い輩がいたのだろう」 「いきなり殺すということはないと思います。手遅れにならないうちに探して、助けてきます」 「うむ、そうだね。伊織お嬢さんは可愛らしい娘さんだ、まだ日が高いとは言え見境の つかない奴がいないとも限らない」 ...
  • 春香が家にやってきた:番外編
    ♪ちゃ~ら~ ちゃらら~ら~ら~ら~ ちゃ~らら~ ちゃらら~ら~ ♪私は天海春香です!イェイ!トレードマークは頭のリボン! プツッ ”はい。天海春香です。ただいま電話に出ることができません。すみませんけど、発信音の後にメッセージを ブツッ 部屋の片隅、白いゲーム機の大柄な箱の上に置かれた携帯は、応答を得る事なく空しく切れた。 着信履歴を示すランプが、小さく灯る。 コンコン・・・ 部屋のドアがノックされた。 返事はない。 やがて、とまどい気味にドアが少しずつ開く。 「プロデューサーさん・・・?」 ドアの隙間から、少女が顔をのぞかせた。 キョロキョロと部屋の中を伺う、その動きに連れて、頭のリボンが揺れる。 彼女の大きな瞳が、部屋の真ん中で向こう向きに横になっている男の姿を捉えた。 『あ、もうお休...
  • コーヒーをいれたから
    少し鼻を通過していっただけでそれと分かる独特の苦味を含んだ香りと、ゴリゴリと豆が砕けていく心地良 い音を愉しみながら、昼下がりのオフィスで俺はコーヒーミルのハンドルをぐるぐると回していた。給湯室の ポットの前に陣取った傍らには、コーヒーサーバーに自分用のマグカップをセット済みだ。  スーツを着て働くようになって以来、食後にコーヒーを飲むことが習慣になっていた。つい先日、一人でオ フを取ってのんびりしようと思っていたがどうにも落ち着かずデパートへ出かけた際に福引をしたのだが、こ のコーヒーミルが当たったのだ。  どうせ自宅に置いておいた所で使う時間も無いだろうと職場へ持って来て見たが、これが中々楽しい。つい ついコーヒー豆なんぞを自分で買ってみたりと、給湯室の中にこっそり豆の種類が増えていたりもする。  少し豆の量が足りなかったかな、と思って足そうとした所で、...
  • 昇華する讃美歌
    「そういえば……」  私は右手に持ったエナメルバッグを置いて、事務所に置いてきてしまったブレスレットを思い出した。 「取りに、行くのかな」私は私に聞いた。否定。  疲れているから。  夕陽が地平線に滑り込み、地球のほかのところに太陽がその生命を落としかけているこの時に、私は家に向かって歩いていた。  着ているのは学校指定のブレザー、ダッフルコート。  野暮ったいと不評らしい。私には興味がないが。  家に帰ってからの事を考えながら、今日のことを思い出す。  髪留めを取ってレッスンをしていたら、彼が部屋に入ってきた。  彼は私に向かってタオルを投げた。 「どうも……」 「うん」  彼は壁際にあったパイプイスに座る。  何も言わない。 「どうしました?」私は首を拭く。シャツの中は後にしよう。 「いや、なに。ただ単に精神が動揺してい...
  • 100ある961の話なら
    「あふぅ。今日もお掃除、お留守番、タイクツなの……」  窓を拭く夢を見ながら、夢の中で美希は呟いた。  ゲイノウ国のプリンス『プロデューサー』の『アイドル』を探すオーディション。  その名も『アイドル・アルティメイト』。今日はその決勝戦がお城で行われている。  “プロデューサーに選ばれたアイドルは、幸せな人生を送る事が出来る”  ゲイノウ国にはそういう伝承があり、年頃の女の子はみな、プロデューサーのアイドルになる事を夢見た。 「ミキも行ってみたかったな……王子サマ、どんな人なんだろ」  美希はアイドル候補生であり、アイドル・アルティメイトには美希の先輩達が何人か参加していた。  だが美希だけは見学も許されず、いつものように事務所で一人、お留守番と雑用を命じられていた。 「ミキだって、ステキな王子サマにプロデュースしてほ...
  • 俺的千早
    「こういうイベント、懐かしいですね。如何でしたかプロデューサー。私、あのデパートでの  仕事の時より、上手く笑えていましたか?」 「はは、そうだな」  肩越しに、見上げるように視線を投げよこす千早の表情をみて、俺は言葉を選ぶ。帰り支度 を終えて、ドラムバッグに詰めこまれたステージの余韻が、千早の肩とストラップの間から漏 れ出していた。その自信ありげな空気を嗅いで、俺は、ちょっとからかってみたくなった。 「うん、まるでダメだった」 「ええっ。ど、どうダメだったのでしょう?」  俺の言葉面とはまったく逆の笑顔をみて、千早は目を白黒させている。意表を突かれた、と いう顔に俺は安心した。良かった。テンションは完全に復調したな。次のオーディションは万 全の状態で臨めそうだ。 「上手いか下手かの評価で、だよ。今日の千早は、心から笑っていたからな。笑顔を作る技...
  • メイプル・フレーバー
     事務所の給茶室、安いテーブルの上に置かれた細長い瓶。持ち主の 気持ちを無視できるのなら、このような場所には瓶も中身も似つかわしくない、 危険なものだとはっきり言える。  だが俺は、そんな第一印象と無縁の賞賛を口にした。 「へえ、これは綺麗だ。初めて見ましたよ」 「日本では販売代理店も少ないそうなんです。最近は通販もありますけど」 「これでウイスキーですか。瓶の形だけ見ていたら、メイプルシロップか蜂蜜 だと思い込みそうだ」 「私も時々そう思います」  そう、これは酒だ。  テーブルの向こう側でそう微笑む彼女、高垣楓はこの酒の持ち主であり、 俺の担当タレントの一人である。  同世代でありながら俺よりはるかに大人びて見える彼女に、俺は初対面の 時からずっと敬語で接していた。 「しかし、いいんですか。楓さんにとっても貴重ものなのでは?」 ...
  • 東豪寺麗華の世界:対峙
    「麗華様……今回ばかりは、我らの助けも通りますまい」  静かに右腕を上げ、制する。 「その通りだ。だから、親父の金は、レッドショルダーの連中に使ってやってくれ。 こいつはうちらだけで十分だ」 「ですが……」 「魔王エンジェルは決して負けない」 「……ご武運を」  執事は去っていった。自分の負けないという言葉に、一片の迷いも見せず従った。 後は、ただ、目の前のアイドル、いや、女王を倒すだけだ。 「あなた正気かしら?唯一の勝機を捨てて、自分の妹分を助けさせるなんて。 愚かね。自分だけが泥を被って他人を助けようだなんて、傲慢にもほどがあるわ。 アイドルは人々をかしずかせる唯一無二の存在。他人を倒すことでしか得られない地位。 それがわからないなら、自分に酔っている偽善者よ。まあ、それでもなお、 偽物の偶像を演じているところ...
  • たるき亭の小川さん
     私の所属する芸能事務所の下に、小さな居酒屋さんがあります。ランチタイムも 営業しているお店で、その時間はアルバイトの女性が切り盛りしており、よくここで お昼をいただく私は彼女と顔見知りになりました。  私より少しお姉さんで、髪が長くて。目が悪いからとぶ厚い丸眼鏡をかけて いますが、時折見えるその奥の瞳は美しく輝いていて。体は小柄なのに私でさえ 見ほれるような、魅力的なボディラインをお仕着せの和服に隠して(そういうの、 けっこうわかるんです)。  しかも、私の事務所仲間と声がそっくりなその女性は……。 たるき亭の小川さん 「あ、ごちそうさまでした、小川さん」 「ありがとうございました、あずささん。お口に合いましたか~?」 「おいしかったです、とっても。お野菜の煮物、私の好きな味だわ」  お料理の評判がよいこのお店は...
  • favorite
     冬本番、暖房の効いた車の中でさえ、窓は冷気を放っている。  助手席から眺める東京の街は、今日も忙しい。日も落ちてシャッターを下ろす準備をする店も中にはあるが、 まだまだ道も明るく、歩道を行く人の表情に疲労感はあまり見えない。一般的な企業の終業時刻は過ぎている。  信号待ちをしているあの人は、隣の人と楽しそうに談笑している。きっと、あの後アフター5でお酒でも飲 みに行くんだろう。見知らぬ人ながら、いい表情をしていると思った。  一方私はといえば……体が声にならない悲鳴をあげている。前腕や太もも、ふくらはぎの辺りがミシミシ言 っているようだ。それも、今日一日を振り返ってみれば、無理も無いことだろう。  元々予定では午前中にダンスレッスン、午後に歌詞レッスンを入れてあったのだが、トレーナーの都合で午 後のレッスンがキャンセル。ダンスのスタジオの方も予約が入ってお...
  • 無題8-12
    とある雑居ビルの2階にある芸能事務所の1室。 普段は少女達の声で賑わうこの空間だが、今はまだ朝も早くアイドル達の姿は見当たらない。 そんな中、皆よりも先に出社して準備を行う女性の姿があった。 彼女の名は千川ちひろ。この事務所のお手伝いである。 1通りの準備を終えてお茶で休息を入れながら、アイドル、あるいはプロデューサー達の到着を待つ。 そうして聞こえてきた足音に耳を傾ける。 柔らかく、ゆっくりとした静かな足音。 その音とスケジュールを照らし合わせて来ようとしている人物の見等をつける。 (多分美穂ちゃんね) その予想通り、入り口のドアを開けて所属アイドルの一人である小日向美穂が顔を出した。 「おはようございますちひろさん」 「おはよう。美穂ちゃん」 そう挨拶を交わしたところで美穂の姿にどこか違和感を覚える。 服装に変わった...
  • たてせん
     三浦あずさが事務所に着くと、応接セットのソファに先客がいるのを見つけた。タレント仲間の高槻やよいである。  いつもならドアを開けて挨拶をすればまっさきに元気な声を聞かせてくれる可愛らしい同僚であるが、今日はなにやら他のことに気を取られているようだ。深く腰かけて前屈みになり、束ねたプリントアウトに見入っている。  きわめつけは眉間のシワである。やよいの両の眉の間に、見事な縦線が刻まれているのだ。  あずさはつとめて明るく、話しかけながら向かいのソファに腰を下ろした。 「おはようございます、やよいちゃん。外はいいお天気ね」 「はわっ、あずささん!おはようございますっ」  声を聞いてようやく気付いてくれたようだ。バネ仕掛けのおもちゃのように飛び上がると席を立ち、深々と頭を下げてくれた。 「ごめんなさいね、驚かせちゃった?ずいぶん夢中だったのね」 「あ……すみませんあずささん。来...
  • 霞のかかった夢の中で
    「…なるほど、そんな事があったんだね」 「うん、とっても良い子だったから仲良くなれるといいな♪」 「それじゃあ、そろそろ時間だからここまでだね」 「来週もいっぱいお話しようね先生♪」 「うん、来週まで元気にしててね」 「はーい!」 今日は週に一度の先生とお話の日、私のアイドル活動であった出来事とか、 嬉しかった事や悲しかった事を全部先生に話す日なんだ。 二ヶ月位前に私がオーディションに連敗して倒れちゃった事があって、 アイドル活動でストレスが溜まったのが原因だから誰かに話してスッキリするようにって社長が紹介してくれたんだよ。 私の話を聞いてくれる先生はとっても美人で、私の話を何でも聞いて的確に答えを返してくれる凄い人、 いつか、私も先生みたいにキレイな女の人になれるかなぁ……? あ、自己紹介がまだだったね、私の名前は秋月涼、今は普通の女の子だ...
  • 宵闇偶像草紙
     さて本日は陽気もよく、風爽やかにて乾きまこと好日である。 「ふあ……」  縁側で老猫よろしく寝そべり、見るものが見れば目玉を飛び出させるに吝かでなかろう 稀覯本を枕に呑気な欠伸をご披露するは失礼、僕こと秋月涼太郎と言う。  齢二十歳過ぎ、現在の職業は医者……現在の、と言うには理由があるのだがそこは ひとつ気にされぬよう願いたい。医者ではあるが診療所を構えているわけでも大病院に 勤めているわけでもない。この街の物好きを飯の種にしている回診医、といえば まだしも聞こえが良いが、要するに自分の医院も持てずにこうして従姉の家に 上がり込み、その商売の手伝いをしながらちびちびと小銭を溜め込んでいるという、 そんな結構なご身分である。 「涼太郎、涼、涼の字」  斯くの如き立場であるから従姉殿にはすこぶる頭が上がらない。こちとら手前の 食い扶持ひとつ稼げない居候、かたや萬小間物商として江戸の昔から名の...
  • 貴音の休日(fly "with" me to the moon)
     四条貴音が、彼のプロデュースで再デビューしてから、早くも二ヶ月近くが経った。 もともと961プロ在籍時、すでにトップランカーだっただけあって、人気の伸びも順調だ。 ファンにしてみれば、若干のブランクなど、問題ではないのだろう。もちろん、人気の復調と ともに、仕事の依頼も数多く寄せられるようになっていた。  だが、プロデューサーは、貴音が961プロにいた時のように、無理に仕事を詰め込むという スケジュールだけは絶対に避けていた。なるべく週一日は休日を設けるようにし、仕事も多くて 日に二つ。明らかにオーバーワークだった彼女の体調復帰も兼ねて、しばらくはゆったりさせて あげたい、と思っているのだろう。  ある日の夕方、帰り支度をしたままの貴音は、デスクワーク中の彼のところへやってきた。 「プロデューサー殿、少しお話が」 「ん?なんだ?」彼は書類の束から顔...
  • 『curtain raiser』
     暗い舞台に真上から、まばゆい光が降り注いだ。  ざわ、とどよめく客席に、あれ誰だ、とか、えっまさか、みたいなひそひそ声が聞こえてくる。まずは静かに、お辞儀とともに一言。 「本日は星井美希のコンサートにお越しくださり、ありがとうございます」  私の声には特徴がある。知ってる人なら間違えないくらい。案の定、気づいた人がいた。 「伊織ちゃん!」 「いーおりーん!」  舞台上の正体を知った会場の空気が一変する。そこからゆっくり、十まで数えた。  そろそろいいかなとあたりをつけて、マイクを構えて息を吸う。ゆっくりとした動きで指を開いた右手を、真上に向ける。 「さぁてっ!」  しん。私の一喝で、観客が息を潜めた。 「美希のために来てくださったファンのみんなに……」  五本指を右端の観客に移動。そこから呼吸に合わせて、反対端のファンまで順繰りにたぐりよせてゆ...
  • You Make Me Smile
    四条貴音。 長い手足を活かしたダンスであったり、 日本人離れした容姿であったり、 大抵の曲は歌いこなせる安定感のある歌声であったり、 端的に言ってしまえば極めて高い水準でバランスの取れたアイドルと言えるだろう。 そんな貴音に最近増えてきた仕事として、グルメ番組のリポーターがある。 最初の頃は本人の好物でもあるラーメン関係のオファーがたまに来る程度だったのだが、 ある時貴音の評価を大きく上げる出来事が起きた。 グルメ番組なんてのは料理が運ばれて来たらまず薀蓄やら御託を並べるのが通例となっているのだが、 その時の貴音は料理が出された瞬間間髪入れず食べ始めてしまった。 当然慌てた番組スタッフが打ち合わせと違うと止めに入ろうとした所を逆に、 「風味の損なわれぬ内に食す事こそ料理人に対する礼儀と知りなさい!」 と一喝。しかも生放...
  • Escape
     今日も自宅に帰ると、すぐさまパソコンを起動。Skypeを開いて、センパイにコンタクトを取る。 センパイと会ってからというものの、それが日課になっている。彼女と話すと心が和らぐ。 リアルでは電波扱いされているアタシを受け入れてくれる唯一の存在。画面越しとはいえ、 顔の見える、実在する存在、ネットアイドルとして尊敬できるだけでなく、愛おしい人だ。  だが最近はどういうわけか、寝落ちしているのか繋がらない。一日ならそれもあるかと納得するが、 二日、三日と続けば、だんだん心配になってくる。 「ん?ポップアップ?」  Skypeの通話画面が画面上に浮かび上がっていた。 「ELLIEから着信中」  センパイから掛けてくるなんて珍しい。一体何事だろう? 「センパイ、おっひさー。電子の妖精サイネリアちゃんが貴方のお悩みをズバッと解決しちゃいマス!」 「サイネリ...
  • @wiki全体から「『悩んだ結果が……』」で調べる

更新順にページ一覧表示 | 作成順にページ一覧表示 | ページ名順にページ一覧表示 | wiki内検索