ふくれづき

THE IDOLM@STER 創作発表まとめWiki内検索 / 「ふくれづき」で検索した結果

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  • ふくれづき
    「……え?そういう意味だったんですか?」 「昔の文豪が言ったのだそうよ。夏目漱石だったかしら」  夕刻の事務所できょとんとした顔で聞き返すやよいに、小鳥はそう答えた。 「うっうー、なんだかステキですね!わたしだったら絶対考えつかないと思います」 「まあ、私も知らなかったんだけどね。プロデューサーさんから聞いたのよ、実は」 「プロデューサーが?」 「学生時代は文学青年だったんですって」  そう言えばプロデューサーは、よく難しいたとえ話をする。意味を量りかねて首を ひねっていると続けて解説をしてくれるのだが、その内容が腑に落ちるとともに ひとつ賢くなれたような気持ちになって、やよいはそれを密かな楽しみにしていた。 「あーあ、私もそんなことサラッと言えるようになってみたいもんね、ふふふ」 「あ、あはは、わたしもです」  そんな話をしているところに、聞きなれた声が聞こえてき...
  • 6スレ
    ...るき亭の小川さん ふくれづき 無題356 無題371 黒い鳥
  • レシP ◆KSbwPZKdBcln作品
    ... 20110914 ふくれづき 高槻やよい 7 007 20110926 赫い契印 萩原雪歩 四条貴音 7 058 20111013 絵理の貯金宣言 水谷絵理 サイネリア 尾崎玲子 7 059 20111013 真の中の人がやばい 萩原雪歩 菊地真 7 059 20111013 翔太風邪ひいた ジュピター 7 142 20111208 『祓魔の聖戦<Evildream crusaders>』 萩原雪歩 四条貴音 水瀬伊織 7 184 20111221 あわてんぼうのサンタクロース 音無小鳥 7 216 20120113 ホーム・メイド 天海春香 如月千早 7 269 20120215 ゆとり指南 星井美希 高槻やよい 7 284 20120322 いちばん咲き、みつけた 水瀬伊織 8 027 20120606 金色のHEARTACHE 星井美希...

  • 初産であることを差し引いても、娘の難産には正直、自分の時以上に血の気が引いていく感覚に襲われた。 既に産気づいてから十時間も経過しようとしていた。震えの止まらない手を、既に他人になって久しい夫の大きな掌が包む。 そういえばあの子を産む時もこうして貰った気がする。思い出とはなんと都合が良いのだろうか。 思えば、あの子には何度謝っても謝りきれない大きな傷を、大きな溝をつけてしまった。 あの子の弟でもあるはずなのに、さも私達だけの息子が亡くなったという意識が、あの子をどれほど苛ませたか。 慣れないことをしてでも笑わせようと無理をしたあの小さな女の子をどれだけ追い詰めたか。 今更になって責め立ててくる罪悪感に涙を流すことしか出来ない。親としての私はなんと脆いのだろう。 せめて傍にいてやりたい。励ますことだけでも、と息巻く私達をあの子はきっぱりと跳ね除けた。 大...
  • 親友
     彼女には親友がいました。 「……っていうことがあって」 「あはははは!ほんと?あのビッグアイドルがねー。意外だわ」 「あっでも、他ではこんなこと」 「え?いい話なのにー。でももちろんだよ、雪歩が嫌なら言わないから」  友人の多い彼女でしたが、この話相手だけが唯一、『親友』と呼べる相手でした。他の『仲良しの友達』とは違う何かで、彼女とは繋がっている気がするのです。 「でも、なんか久しぶりだね、雪歩と一緒に帰るの」 「ごめんね、かずちゃん。近ごろ急に忙しくなっちゃって」 「ううん、いいことじゃん!雪歩、テレビ出ることも多くなったもんね」 「新曲、評判いいみたいで。なんか、ようやくプロデューサーや事務所に恩返しできるようになったっていう感じ」  親友は人気のアイドル歌手で、忙しい仕事の合間を縫って学校に来る毎日が続いていました。タレントを始めた頃は放課後のサークル活動程度と...
  • 虹色の鳥
    あるところに、トップアイドルを夢見る女の子がいました。 歌が好きで、ちょっぴりドジな、ごくごく普通の女の子。 女の子の歌を聴きとめたのは、プロデューサーの青年です。 自分の歌を褒められて、嬉しくなった女の子は、毎日毎日レッスンに励みました。 レッスンのコーチが、審査員の先生が、 その頑張りと歌を、だんだん認めるようになりました。 数えきれないほど大勢のファンが、女の子に夢中になっていったのです。 拍手と共に女の子が戻るたび、「すごいなあ」と青年は言いました。 その嬉しそうな一言で、疲れは吹き飛び、また次のステージに登れるのです。 女の子はステージに立ちつづけました。周りの期待以上に眩しく輝いていました。 その歌声を聴いて笑顔にならなかった人なんていません。 間違いなく、たくさんのファンを幸せにする、夢のトップアイドルになっ...
  • ばんそこ
     今日のイベントは大成功と言っていいだろう。駆け出しアイドル・天海春香としては 充分すぎるほどの客入りだったし、参加した子供たちは正真正銘大喜びだったからだ。  とある遊園地での握手会である。デビュー曲『Go My Way!!』と事務所の先輩のカバー曲 を猛練習した成果もあり、春香も歌やパフォーマンスに磨きがかかってきた。この調子 なら来月にエントリーを考えているオーディションでも充分戦えそうだ。 「春香、お疲れ様」 「おつかれさまでしたっ、プロデューサーさん!」  着替えた彼女がこちらに駆けてくる。 「大丈夫か?思った以上にギャラリーが集まったからな。手とか、痛くないか?」 「はい、大丈夫ですっ」  にこにこと笑いながら、右手を顔の前で振ってみせる。 「いっぱいお客さん来てくれたんだから、文句なんか言ったらバチが当たりますよ。50人 くらい...
  • とあるダメダメプロデューサーのおはなし
    あるところに、いつまでもトップアイドルになれない雪歩がいました。 雪歩は、事務所でいちばん臆病でへなちょこで弱虫なアイドル。 ろくにランクも上がれないので、プロデューサーは数週間単位で変わってばかりです。 雪歩を目にした審査員は、雪歩を静かにさとします。 『君は多分、アイドルじゃない道のほうが、歩きやすい女の子なのかもしれないな。  トップアイドルのステージなんて、普通の女の子なら縁が薄い場所だからね』 アイドルに向いていないと言われた雪歩は、やっぱりトップアイドルになれませんでした。 ある日雪歩は、ピンときた社長に声をかけられました。 不在のプロデューサーに代わって、アイドル候補生を担当してくれないかと言うのです。 気がつけば、小さな事務所は、前よりずいぶんボロボロになっていました。 資金も底を尽きかけてお...
  • 100万回アイドルだった女の子
    100万回もアイドルだったおんなのこがいました。 100万回も いんたいして 100万回も デビューしたのです。 りっぱな アイドルでした。 100万人の 人が そのおんなのこを かわいがり 100万人の人が そのおんなのこが いんたいしたとき なきました。 おんなのこは 1回も なきませんでした。 あるとき おんなのこは ぐみんの アイドルでした。 おんなのこは ぐみんなんか きらいでした。 ぐみんは どげざが じょうずで いつも ひざまづいていました。 そして おんなのこを りっぱな かっかに して にこにこに つれていきました。 ある日 おんなのこは とんできた あかばんに あたって しんでしまいました。 ぐみんは にこにこの まっさいちゅうに おんなのこを だいて なきました。 ぐみんは どげざを やめて さんじげんに 帰ってき...
  • 俺もお前の国に入国させてくれ
    「い、伊織ちゃん伊織ちゃん、わっ私告白されちゃいましたっ!」 「はぁ?約束に遅れてきたと思ったらいきなり何言ってるのよ、この事務員は」 「そ、それがね、かくかくしかじか」 「春香たちのプロデューサーが?発端は社長からのお見合い話?断ると言った彼に忠告を? ……あー、なるほどそっか、アイツなら口走りそうだわね」 「伊織ちゃん、私びっくりしちゃって逃げてきちゃったの!こ、これってまずいわよね、ちゃ、 ちゃんとご返事……」 「まず私に相談振ってくるのが大間違いでしょーに、はぁ。心配しないでも大丈夫よ小鳥、それ 多分あいつの冗……いや、待ってよ」 「どうしたの?」 「いい?小鳥。これは765プロ始まって以来の一大事よ。みんなのお姉さんであるあんたが プロデューサーと婚約なんて話が広まったら、アイドルたちのテンション悪化は避けられないわ」 「そ、そうか...
  • 美希曜日よりの使者
     久しぶりにオフとなった日曜日は、あっという間に過ぎてしまった。もともとこの業界に潜り込んでは いたものの、ひょんなことからプロデューサーなどという職業について数ヶ月、まだ手の指で数え られるほどの暦通りの休日である。  時はすでに夕刻、アパートの築年数に似合いのインターホンが死にそうな音を出した時、俺は 晩飯でも食いに出ようか、それとも自炊に挑戦しようかと思案しているところだった。 「ん、なんだ?……はい」 「書留なのっ……です」  ドアの向こうからはこんな声がする。 「……ええっと?なんですって?」 「書留ですのー」  この世に生まれて二十数年、俺の知る限りこういう言葉遣いの郵便局員は記憶にないし、そもそも いくら民営化したとは言えローティーンギャルが書留を配達するサービスがあるとは到底思えない。 俺は足音を忍ばせてドアに近づき、そっとノ...
  • メイプル・フレーバー
     事務所の給茶室、安いテーブルの上に置かれた細長い瓶。持ち主の 気持ちを無視できるのなら、このような場所には瓶も中身も似つかわしくない、 危険なものだとはっきり言える。  だが俺は、そんな第一印象と無縁の賞賛を口にした。 「へえ、これは綺麗だ。初めて見ましたよ」 「日本では販売代理店も少ないそうなんです。最近は通販もありますけど」 「これでウイスキーですか。瓶の形だけ見ていたら、メイプルシロップか蜂蜜 だと思い込みそうだ」 「私も時々そう思います」  そう、これは酒だ。  テーブルの向こう側でそう微笑む彼女、高垣楓はこの酒の持ち主であり、 俺の担当タレントの一人である。  同世代でありながら俺よりはるかに大人びて見える彼女に、俺は初対面の 時からずっと敬語で接していた。 「しかし、いいんですか。楓さんにとっても貴重ものなのでは?」 ...
  • Home Place
    「こんばんわー。やよいいるかー?」 「おー、響じゃないか」 「あ、セクハラプロデューサー久しぶりー。元気だった?」 「……人聞きが悪くてたまらないんだが」  ある日の夜のこと。珍しく起伏のない一日で小鳥さんも定時で帰宅し、留守番状態の俺が 一人でいる事務所に現れたのはライバル事務所のトップアイドルだった。 「やよいなら伊織と二人でレッスンだよ。もうすぐ帰ってくるけど、時間平気か?」 「うん、今日はもう帰るだけだから。待っててもいい?」 「構わないよ。ただしスパイ行為は禁止だからな」 「ふっふっふ、自分を招き入れたときからすでに諜報戦は始まってるんさ。今日こそセクハラ 行為の証拠を掴んでやるからね」 「我々はスムースかつシークレットにセクハラを遂行するのだ。すなわちスリーSだな。 この技術力、きみに見抜けるかな?」  後半のやりとりは彼女と...
  • 勇気
     ギラギラと照りつける太陽。空には大きな入道雲。まさしく夏の空だ。そんな夏の空の下、川沿いの土手で PVの撮影を終えた真と俺は、目と鼻の先を流れる川へ立ち寄った。市街地から少し離れた場所にあるこの川に は、石の転がる川原がある。 「プロデューサーっ」  両手でメガホンを作りながら、真が俺を呼んだ。真の立っているすぐ側には、石が小さな山を作っていた。 近寄って見てみると、集められた石はそのほとんどが──全てと言ってもいい──平たいものだった。 「水切りか」 「ええ、プロデューサーもやりませんか?」  今日の撮影は上手くいった。その結果が、真の笑顔を一層爽やかなものにさせていた。 「よし、いいだろう。となると、もうちょっと石を集めないとな」  遠めに見える鉄橋の上を、電車が猛スピードでかけていく。きっと、快速か特急か何かだろう。あの電車の 乗客にとっ...
  • ハミングライフ
     夕方4時。  俺はいつものように、細く開けてある窓からベランダに出た。  檻はどうしたって?鳥や犬猫が開けられる程度のもの、俺ができない筈がなかろう?下の段に前足をかけて、歯で持ち上げて下に隙間を作る。隙間にもう一方の前足を差し入れて、広がったら今度は鼻面を突っ込む。そして首の力を頼りに格子を持ち上げれば完成だ。以前に檻が落ちたとき針金がゆがんで、ちょっとしたコツで入口が開けっ放しにできる。俺が檻を出入りできると彼女に知れたらコトなので、彼女が戻るまでには必ず檻の中に帰ることにしているのだ。……え?俺は誰だって?  俺の名はハム蔵。我那覇ハム蔵、あるじの響に飼われているハムスターだ。  今日は昼まではいい陽気だったが、さっき突然夕立が始まった。あるじの響は今朝たまっていた洗濯物を一気に干して出て行っており、これは少々残念なことになりそうだ。俺の力ではどうしようもないこ...
  • 4人のシンデレラ
    1.律子 「はーい、リハーサルご苦労様」  フロアディレクターの合図を待って、私は3人に駆け寄った。沸き立つ心を、早く みんなに伝えたくて。 「最高だったわ、3人とも!あずささん、伊織、亜美、みんなバッチリ噛み合ってた」 「お疲れさまです、プロデューサーさん」  ゆっくり呼吸を整えながら、あずささんがこちらに微笑む。私が感じたとおり、 当人も満足のいくリハーサルだったようだ。 「キメのショット、女の私でも息が止まりそうでしたよ。日が短かったのにさすがの 吸収力ですね」 「姉ちゃん姉ちゃん、亜美も褒めて褒めて」  舞台の反対端から駆け寄ってきた亜美も、興奮で頬を赤らめている。普段は大概の ことをジョークにしてしまう彼女も、今日が何か違うと感じたようだ。 「いいわよ?いつもならリハの時はひとつふたつ嘘ステップ入れるのに、今日は 覚えた通りにやってたわね、偉かったわよ」 「うえ?バレて...
  • あわてんぼうのサンタクロース
     12月も後半にさしかかったある夜のことです。  エントランスのドアが開いた時、私はちょうどロッカールームから戻って 来たところでした。事務室は非常口を除くと出入り口が一つしかなくて、制服を 着替えて退勤するときも自分の持ち場を通り抜けなければなりません。  誰かと思ってそちらを見ると、亜美ちゃん真美ちゃんのプロデューサーさんが 立っていました。 「あれ、小鳥さん。お疲れ様です、いまお帰りですか」 「あ、プロデューサーさんお帰りなさい。早かったんですね」  プロデューサーさんは今日、担当している二人を連れてデパートのミニライブに 行っていました。壁のホワイトボードには『双子姫をエスコートしてから戻ります』 と書いてあったのを憶えています。几帳面な性質らしく、他の同僚が体言止めで 殴り書きをするような場所にも柔らかな筆跡の、ですます調が目立っていま...
  • favorite
     冬本番、暖房の効いた車の中でさえ、窓は冷気を放っている。  助手席から眺める東京の街は、今日も忙しい。日も落ちてシャッターを下ろす準備をする店も中にはあるが、 まだまだ道も明るく、歩道を行く人の表情に疲労感はあまり見えない。一般的な企業の終業時刻は過ぎている。  信号待ちをしているあの人は、隣の人と楽しそうに談笑している。きっと、あの後アフター5でお酒でも飲 みに行くんだろう。見知らぬ人ながら、いい表情をしていると思った。  一方私はといえば……体が声にならない悲鳴をあげている。前腕や太もも、ふくらはぎの辺りがミシミシ言 っているようだ。それも、今日一日を振り返ってみれば、無理も無いことだろう。  元々予定では午前中にダンスレッスン、午後に歌詞レッスンを入れてあったのだが、トレーナーの都合で午 後のレッスンがキャンセル。ダンスのスタジオの方も予約が入ってお...
  • SP貴音
    「逢い引き、なのでしょうか」  対面に座る四条貴音が、ハーブティーを飲みながらそう呟いた。霧雨のような昼下がりの日 差しがカフェ――珍しくも彼女が選んできた店だ――の窓際の席に落ちる。それは貴音の触れ れば溶けて消えてしまいそうな銀髪に絡み、拡散して空間にそっと輝く。これは決して俺の錯 覚なのではなく、実際にこの場を支配しているのだ。店内にいる店員や客が、常に彼女の存在 を意識しているのがわかる。これが持って生まれてきたアイドル性、というものだろうか。  しかし、彼女はそんな事には気づきもせず――いや、気づいていて、それでも気にしていな い胆力の持ち主なのか――また悠然と小生意気に小洒落たカップをそのガラス細工のような口 元へと持っていく。 「やはり、逢い引きなのでしょうか」 「何がだよ」  音を立てながらエスプレッソをすする。高そうな豆っ...
  • What training?
     ティーンエイジのアイドルをたくさん抱えるうちのプロダクションは、事務所の外に レッスンスタジオを借りている。そこにはうちと契約した、レッスンを専門に受け持って くれる人たちがいて、アイドルたちの能力や基礎体力、つまり持久力だの瞬発力だの、 腹筋だの背筋だのを鍛えてくれるというわけだ。なにしろ、歌うにしても踊るにしても、 今のアイドルは相当の体力を要求されるのだから、歌唱力とか演技力とか、そういう ものの他にも、こういった力をつけておくのは、重要というか必要だ。  おれがプロデュースしているアイドルたちを鍛えてくれるのは、そのうちの一人で、 みんなは彼女をたんに「トレーナーさん」と呼んでいる。  今のプロダクションに入って少し経ったころ、おれは社長にこう言われたことがある。 「君が担当するアイドルたちと、恋愛関係になってやしないかね」  さも心配そう...
  • You Make Me Smile
    四条貴音。 長い手足を活かしたダンスであったり、 日本人離れした容姿であったり、 大抵の曲は歌いこなせる安定感のある歌声であったり、 端的に言ってしまえば極めて高い水準でバランスの取れたアイドルと言えるだろう。 そんな貴音に最近増えてきた仕事として、グルメ番組のリポーターがある。 最初の頃は本人の好物でもあるラーメン関係のオファーがたまに来る程度だったのだが、 ある時貴音の評価を大きく上げる出来事が起きた。 グルメ番組なんてのは料理が運ばれて来たらまず薀蓄やら御託を並べるのが通例となっているのだが、 その時の貴音は料理が出された瞬間間髪入れず食べ始めてしまった。 当然慌てた番組スタッフが打ち合わせと違うと止めに入ろうとした所を逆に、 「風味の損なわれぬ内に食す事こそ料理人に対する礼儀と知りなさい!」 と一喝。しかも生放...
  • 世界はキラキラ
     更衣室の私のロッカーには、  子猫の生首が入っていた。 「…………」  よく見てみたところ、本物ではなかった。ただ、一瞬本物だと見紛う程度にはリアルで、 血糊の飛び散り具合と飛び出た眼球が実に気持ち悪い。これがロッカーにあるということ 自体が悪趣味なのは変わりなかった。  私が手に持つ生首を見て、隣のアイドルが小さく悲鳴をあげた。 「……フン」  近くのゴミ箱に生首を投げ捨てて、私は衣装へと着替えた。  オーディションの前にこんなイタズラをされたら、普通のアイドルだったらテンション が下がって、歌う気分ではなくなってしまうかもしれない。  けれど私の精神は乱れない。もう、慣れてしまった。  こんなイタズラをされるのは、一度目じゃないから。 * * 『合格者――二番、東豪寺麗華さん。五番、桜井夢子さん。この二人です。あとは帰...
  • たるき亭の小川さん
     私の所属する芸能事務所の下に、小さな居酒屋さんがあります。ランチタイムも 営業しているお店で、その時間はアルバイトの女性が切り盛りしており、よくここで お昼をいただく私は彼女と顔見知りになりました。  私より少しお姉さんで、髪が長くて。目が悪いからとぶ厚い丸眼鏡をかけて いますが、時折見えるその奥の瞳は美しく輝いていて。体は小柄なのに私でさえ 見ほれるような、魅力的なボディラインをお仕着せの和服に隠して(そういうの、 けっこうわかるんです)。  しかも、私の事務所仲間と声がそっくりなその女性は……。 たるき亭の小川さん 「あ、ごちそうさまでした、小川さん」 「ありがとうございました、あずささん。お口に合いましたか~?」 「おいしかったです、とっても。お野菜の煮物、私の好きな味だわ」  お料理の評判がよいこのお店は...
  • 赫い契印<Signature blood>
    「萩原雪歩……可愛らしい娘」 「し……四条……さ、ん」  四条さんの顔が私に迫って来ます。私はまるで体が痺れたみたいになっていて、指の 一本も動かせなくて、声を出すのも途切れ途切れで。 「さあ、心を落ち着けて」 「あ……」  四条さんの唇が私の頬をかすめて、まっすぐ私ののどに向かって行って。そこから先は 視界の外のはずなのに、彼女の紅い唇が大きく開かれてそこから鋭いキバが覗くのが どうしてか私にはわかって。それでも私は催眠術にでもかかったみたいに四条さんを 自然に受け入れて、首の右側にチクリとした痛みと、それから言い知れない快感みたいな ものを感じて……。 「──はっ」  そして、目が覚めました。 「……え、と」  きょろきょろとあたりを見回してみます。なんの変哲もない、いつもの私の寝室でした。 「えーと、あ、そうか、昨日打ち上げ...
  • 女王と駒
    「番組降板ってどういう事ですか!?」 俺はテーブルを挟んで向かい合っている番組プロデューサーに問いかけた。 「確か一年契約という約束です。それにこちらに落ち度はないはず……」 番組プロデューサーであるS氏はこっちの切迫した心境を知ってか知らずか 煙草を口に咥えて目を閉じ、煙を吸っている。 「……視聴率が取れないんだよね、彼女が出ると」 彼が鼻から吐いた煙は拡散しながら、この空間に立ち込め、溶け込んでいった。 「特に若年層の女性視聴者からは反発の声も強くてね。見てごらん、これを」 彼は一枚の紙を俺に提示した。見てみると番組放送日と折れ線グラフが記入されている。 山と谷にはその時の番組収録における詳細が記載されていた。 「最近の視聴率をグラフ化したものだが、顕著に下がっている所があるだろう?  そのほとんどがね、麗奈ちゃんが映ったシーンなんだよね。 ...
  • ぺたぺた
    それでね、四条さんってね。 クーラーの効いた部屋で雪歩はさも楽しそうに抹茶アイス片手におしゃべりを続けている。 ボクも食べ終わったアイスの棒を口にくわえたまま、相槌を打ちつつ雪歩の話に耳を傾けていた。 雪歩の口から四条貴音の話が出てくるようになったのは、ボクの記憶が正しければ三ヶ月ほど前からだ。 もともと控えめな性格の割りにこういうおしゃべりは大好きな雪歩は、大抵はボクの方が聞き役に回る。 話題はそれこそ何でも良くて、ボクもボクで読んで面白かった少女漫画のこととかで時間を潰していた。他愛ないけど楽しい時間。そう思っていた。 「それで貴音さんったら私が」 いつの間にか名前で呼び合うようになったんだね。 思わず口にしそうになるのをグッと我慢する。 まるでこれじゃあボクが嫉妬してるみたいで。イライラしてみたいで。そこまで考えて、やっぱりイライラしてるんじゃんか...
  • TOWもどきim@s異聞~第一章~ 春香編3
     それまで単なる辺境の小国家とばかり思っていた自分の生まれ故郷が、『ある側面』では特別であり幸運な国なのだということを、 風聞として知ったのはそれなりに幼い日のことだった。けど、実際それは彼にとってそんなに大した意味があるとは思えない。  屈折したプライドを持った一部の上流貴族の中には、世界樹の麓で生きているという事実だけで他国への妙な優越感を抱いている者も いるのだから、呆れるより他ない話だ。 「自分が生き仏にでもなったつもりかしら」―――と、同じ貴族達のそんな風潮を、嘆くようにそう呟いていたその少女の顔は、 会ったのが一度きりだったというのもあり細かい輪郭ももう思い出せないが、妙に疲れきっていたのを覚えている。 あと、眩しいを通り越して痛い位に自己主張してくるあの額とか。 閑話休題。 そんな『一応』特別な国ヴォルフィアナの北端に位置する、フロランタ...
  • 6月25日の事件簿
    その事件が起きたのは6月25日の事でした。関係者のE.M.さんは事件当時の事をこう語ります。 「あれは地獄?もしくは地獄の方が生やさしい?」 友人と共に現場に居たというY.S.さん、彼女も事件で大きな後遺症を抱えたといいます。 「あの事件から数日は中々寝られなかったですね。だって耳の中でずっと響いてるから」 事件が起こった会社の社長のM.I.さんも会社が壊れないか心配したそうです。 「事務所全体が震えていました。ガラスが割れるんじゃないかとか色々不安でしたね」 「まあ少なくとも、会社に居る人間は本当にダメージが大きかったと思います」 事件で最も大きな被害を受けたと言うR.Oさん、A.S.さんのお二人。 「絵理を守ろうと夢中だったわ、まあ絵理を守れたからそれでいいけど」 「って何嘘言ってるんデスかこのロン毛!センパイを守ったのは私デスヨ!...
  • オフライン
     爽やかに晴れ渡った初夏のある日。水谷絵理のこの日の営業は、室内での写真撮りだった。  PC用デュアルディスプレイの誌上広告。絵理のキャラクター性を余すところなく活用した、新製品のPR記事とその販促写真の撮影である。  ネットアイドルとしても動画投稿者としてもファンの多い彼女にとって得意分野の仕事で仕上がりもよく、スポンサーや雑誌編集部の高評価を得て撮影は予定より早く終了した。 「ありがとう、ございました」 「絵理、お疲れ様」  クライアントに挨拶を終えた頃、プロデューサーの尾崎玲子が彼女に歩み寄ってきた。 「いい仕事だったわ。モニターに映っていた方の表情なんか本当に電子世界の住人のよう」 「このシリーズ、私も使ってる。だから、感情移入?」 「それはラッキーだったわね。広報部のかたも満足してらしたわ、うまくすれば他の製品も引き受けさせてもらえるかも」 「ほんとですか」 ...
  • 赤頭巾ちゃん改めバカリボンちゃん改めヘタレ狼ちひゃーちゃん
    むかしむかしのここ最近、渋谷の繁華街あたりに可愛い女の子達が集う765プロというお家がありました。 そこでは毎日、女の子達が普通の人が着てたらちょっと引いちゃうような格好をしては歌ったり踊ったりしています。 その女の子達の中、赤いリボンの似合う以外はさして特徴の無い女の子、アマミハルカちゃんは特にそういうお仕事が大好きでした。 人はヤクザな商売だと唾吐きますが、それでもハルカちゃんは今日も歌ったり踊ったりしています。 さてさてそんなある日のこと、ハルカちゃんはお友達のキサラギチハヤちゃんと一緒にお仕事にすることになりました。 どうやらチハヤちゃん曰く、くだらない児童向け舞台劇のお仕事らしく、ハルカちゃんは本体のリボンが隠れる赤頭巾ちゃん。 チハヤちゃんはピッタリとした衣装が様になっている狼の役です。年 端も行かない少女を食べるお話なんて今のご時勢、大丈夫...
  • TOWもどきim@s異聞~序章~3話
    ―――某日。レッスン帰りに立ち寄った喫茶店にて、「音無」小鳥はクリームソーダに突き刺さったスプーンをかき回して、向かい合った席で顔を抑えながら小刻みに肩を震わせている担当プロデューサーの姿に少しばかり頬を膨らませた。 「・・・・・・そ、それでその・・・・・・どうしたんだね?」 「―――どうするもこうするも」 心なしか、ストローをくわえた唇に思いの外強い力がこもり、思わずズッ、と音を立ててしまう。 「その後は騎士の人達が手伝ってくれて、お城勤めの法術師や街の獣医の方々に連絡つけてくれましたから、子猫は何とか無事でした。今じゃさっき話したミントちゃんが引き取り手を捜してくれてるって話です」 「い、いやそうじゃなくて・・・・・・その助けてくれた男の子というのは・・・・・・」 「・・・・・・神妙な顔で謝られちゃいましたけど何か?」 事実を知り、茶化すこともなく、生真面目...
  • 凱旋パレード
    「この遊園地も懐かしいですね、プロデューサーさん」 「そうですね。あずささんがここで歌ったのは、もう1年近く前でしたっけ?」 「うふふ。あの頃は右も左もわからなくて、ご迷惑をお掛けしました」 「すこし歩きましょうか。まだステージまでは時間があるようだし」 「そうですね。今日は私たち、ここには観客として来たんですもの。  私が立ったステージに、風船を渡した女の子が立つなんて、不思議な気分です」 「今ごろはガチガチかもしれませんよ。以前のあずささんがそうだったみたいに」 「恥ずかしいわ。歌詞も飛んで、ダンスも忘れて、ファンの皆に助けてもらって」 「どうにかこうにか終わったと思ったら、今度は風船がたりなくなったんですよね」 「そうそう。ちいさな男の子が、泣きながら私のところに来たんです。  困っていたところに、年のはなれたお姉ちゃんがとんできてくれて――」...
  • 『マキアート・ハート』
    「はい、キャラメルマキアート」 「わ、ありがとなの!」  前はコーヒーか紅茶、それかオレンジジュースしか選べなかったのに、今日は お姉さんがこれ用意してくれた。聞いたら、エスプレッソマシン買ったんだって。 「美希ちゃん、好きだったでしょ?しばらく待っててね」 「うん、大好き!」 「でも……よかったの?ウチなんかで髪やっちゃって」  お姉さんがちょっと心配そうに聞いた。 「美希ちゃんもう有名人なんだから、ちゃんとしたメイクさん、いるんでしょ?」 「あははは、いないよそんなの。そーゆーのはもっともっーと、すごい人たちだよ」  おっきな声で笑ったら、安心してくれてみたい。だけど、シーってされちゃった。 有名なのには変わりないんだから、こんなトコで大声出さないの、って。  このお店は、ミキやお姉ちゃん、ママが前から使っているカットハウス。 レッス...
  • 雨のち晴れ
    毎晩11時の天気予報はその勤めを的確に果たし、70%と示された降水確率がその猛威を振るっている。 窓越しに伝わる耳障りな音が憂鬱な気分を更に募らせ、遠方で鳴る雷の音に驚かされる。 溜め息が吐いて出た。 今日、何度目の溜め息だろうか。数えようとして諦める。 雨は、そんなに嫌いではなかった。嫌いになる要素がなかったからだ。 雨が降っていれば、家の中でお茶を啜りながら詩集を綴っていれば満足だった。学校ならば、少し制服が濡れてしまうくらい。 なのに、今の私はどうしたのだろう。 リビングに設置された丸型のテーブルが頬を受け止め、視界が90度傾く。反射的に目を細めると、雨音が鮮明に聞こえてくる。 この不安定なリズムは、好きじゃない。頭の端の方でそんなことを考えて、意識して目を見開く。時計が見えた。午前10時25分。 どうして? 雨は、そんなに嫌...
  • TOWもどきim@s異聞~第一章~ 春香編1
     見上げていると呼吸が詰まりそうな鈍く重苦しい空模様から、針のように細く鋭い雨が容赦なく地上に降り注いでくる。 あまりの勢いに、窓にガムテープ張りされた社名もペラリと剥がれそうだった。  ソファへと座った天海春香は、ともすれば猫背になりそうな背筋をピンと伸ばしながら、一台の携帯を親の仇の如く睨みつけ――― ―――ぱか。パタン。ぱか。ぱたん。 液晶に映った人名に目を通し、その度にため息混じりに再び閉じる。 ため息の数だけ幸せが逃げるぞー、などと、オーディションの失敗をちょっとおどけながら励ましてくれた プロデューサーの言葉が鮮やかに蘇る。 あの時は容赦なく『おじさん臭いですよー』なんて茶化していられたが、実際ため息を繰り返すその都度に、風船から抜ける空気みたいに エネルギーがどこかへ逃げていくような心地がした。 ・・・・・・ため息を止める方法な...
  • 無題8-145
    ピピピピッ。 聞き慣れた電子音と共に取り出した体温計の表示は37.5度。 幾らか症状は治まってきたとはいえまだまだ立派に風邪の真っ最中だった。 (最近は調子よかったから油断してたなぁ……) 実際に数字として見てしまうと体調も幾分悪化したような気がしてしまい、見慣れた天井を見上げてため息をつく。 昨日からずっと横になっていたので眠気もすっかり無くなっていたが、かといって何が出来るわけでもなく結局おとなしくしているしかないと観念して再度の眠りについた。 何度目かの緩い覚醒。 ふと、視線を感じて首だけを動かしその方へ向ける。 プロデューサーが椅子に座ってこちらを見ていた。 「……変態」 「酷い言いぐさだ」 「女の子の寝顔をずっと見てるなんて変態以外の何者でもないじゃない」 来てくれた事は嬉しいと思うけれどこれぐらいの憎まれ口は許して欲し...
  • love liquid
    「でね、カメラさんが『そんなわけないやーん』って言って、みんな大爆笑。ヒドイって思わない?」  今日の晩御飯はカレーライスだった。お父さんが早く帰ってくるというので私も手伝って、食卓 でそれを聞いたお父さんは自分のお皿に私が作ったサラダを山ほど入れてくれた。 「ええ?お母さんまで?私そんなにおかしい?ホントに?」  今は収録中にあったハプニングの話をしてた。お母さんはテーブルとキッチンをいったりきたり しながらうまいタイミングで相槌を入れてくれ、お父さんはビールを飲みながら楽しそうに私の 話を聞いてくれてる。 「ありがとー、やっぱお父さんならわかってくれるよね!」  まあ、もとはといえば私のドジが始まりの笑い話だったんだけど、いつものようにお母さんが からかって、お父さんは私の味方してくれて。  お父さんもお母さんもいきなりアイドルなんか目指す私を応...
  • 私の声が聞こえますか
    私の声が聞こえますか。 聞こえていますか。 貴方の前に居るのは、本当に私ですか。 貴方は確かにそこに居るのに、私はここに居ないのかもしれません。 私の目は貴方を捉えているのに、貴方の目は私を捉えていないのかもしれません。 そもそも貴方を捉えている目は、本当に私の目でしょうか。 私は、一体何者なのでしょうか。 本当の私は、一体どこに居るのでしょうか。 私こそ、本当の私なのでしょうか。 或いは、やはりそこに居るのが、本当の私なのでしょうか。 青の髪を梳き、泣いている貴方に尋ねてみます。 私の声が聞こえますか。 聞こえていますか。 反応は無く、ただ悲しそうな彼の泣き声。呻くようなそれを、私はただ、見守ることしか出来なくて。 その声は、本当に貴方の声なのでしょうか。 貴方はいつでも、あんなにも明るく振舞...
  • 僕の、大切な君へ。
    僕の、大切な君へ。 君とはじめて会った日のことは、僕は一生忘れない。 うら寂しい事務所の一室で、はじめて僕と顔をあわせたときのこと。 今も、僕は君から観れば、まだまだヒヨッコ同然なのだろう。 そのヒヨッコから観れば、あのとき君の話す言葉はまるで別の国の人の言葉のようで。 素人同然の僕。既に経験も積み、業務には一見識あった君。 そのときの僕にできるのは君の隣にいられるよう、走り続けることだけだった。 いや、それは今も変わらない。君を超えた、君を上回ったなんて今でも思ってない。 君の隣に居られる立場を守り続ける、せいぜいそれくらいで。 だから、時たま、君が僕に向けてくれる言葉ですらないメッセージ 「私のとなりに、あなたが居てもいい」 そのメッセージが伝わってくることが、僕を何より喜ばせてくれる。 朝の挨拶、仕事の後...
  • 無題202
     パチ、パチ  ある日の午後、天気は晴れ、いや、快晴か。雲一つない空模様で、澄み切った青が 頭上を覆い尽くしている。陽射しが燦々と射すが、それは汗を流すほどではなく、た だ仄かな温かみをもたらすだけである。  パチ、パチ  俺はそんな昼下がりの陽だまりの中、たまたま社長室で、社長と将棋をしている。  パチ、パチ  「ま、待った!」  「…またですか?」  ちなみに、もう10戦目。お昼前から始めて、すでに社長の待ったの声も、飽きる ほど聞いている。  「なぜ、手加減してくれないんだね?」  「これ以上したら、俺が確実に負けますから」  最初は平打ちだったのだが、徐々に駒を少なくしていき、今では金銀と歩以外の駒 を落としている状態だ。だが、  「それでも、君は強いではないか」  「そんなことないですよ」  今の俺の手持ちに飛車...
  • 芸能界鬼退治譚
    「た、助けてくれー!!」 彼はピンチだった。 ピンチと言っても生易しいものではない。川の濁流に呑まれ、流されていた。文字通り生死の境である。 かろうじて、流されていたピンク色の物体に掴まり、その浮力の助けを得て顔を水面上に出してはいるが、 力尽きるのも時間の問題と思われた。 「君、大丈夫か!?これに掴まりたまえ!」 声がした。男は必死で、声のする方から伸びて来た竿に手を伸ばした。 ギリギリ、手がその竿に届いた。 「助かった・・・あ、ありがとうございます!」 「うむ、良かった。ほう・・・何といい面構えだ。」 「は?」 「ピーンと来た!君の様な人材を求めていたんだ!」 命の恩人の頼みとあれば、断れる人間などそうはいない。 彼は、助けてくれた男の芸能事務所で、プロデューサーとして働くこととなった。 「社長、元気がありません...
  • 無題356
    765プロに関わる人間は皆大抵知っているが 765プロは非常に貧乏である そのため所属しているプロデューサー達は 一日の内その殆どを本業とは別の仕事をして過ごしている事が多い その日、とある用事で別のプロダクションを訪れていた二人のPを待ち受けていたのは ある意味拷問とも呼べる仕打ちであった  と言っても、別に弱小であることを理由に苛められたとかいうわけではない まず立派な建物 入口の自動ドア 笑顔で迎えてくれる受付嬢 広いエントランス 当然エレベーターも完備 事務室だけでビルの一階を丸々使い 最新のパソコンが一人一台用意されたデスク ピカピカの機材 おまけに福利厚生も充実 ○○P「違う…うちとは何もかもが違いすぎる…」 △△P「急いでここを出た方がいいな…これ以上ここにいたら765プロでやっていけなくな...
  • あなたと、ずっと、一緒に
    少し寒いな、なんて思いながら息を吐いた。吐いた息は白くて、目の前が少しだけ霧がかる。 渡されたアルミ缶、温かいミルクティ。最初は熱いくらいだったけれど、もう私を温めてくれている。 ペコ、と軽い音。きっと無意識。手に力が入っていた。振り返って、見上げる。 数字。見慣れた数列。小さな事務所。私を育ててくれた場所。 もっと、もっと出来る。もっと頑張れる。もっとやれる。もっと居れる。もっと話せる。もっと歌える。もっと、もっと、もっと。 でもそれは全部私の我がままで、きっと規則は変えられなくて、きっとあの人も望まなくて。 だから私は背を向けて、温かかったミルクティも少しずつ冷めてきていて、でも私の体は温かくて。 だから私は、駅を目指した。 滑り込んできた電車は、乗り慣れた銀色。赤のライン。乗り込んで、空いていた席へと腰掛ける。 いつも繰り返してきたルーチンが...
  • 霞のかかった夢の中で
    「…なるほど、そんな事があったんだね」 「うん、とっても良い子だったから仲良くなれるといいな♪」 「それじゃあ、そろそろ時間だからここまでだね」 「来週もいっぱいお話しようね先生♪」 「うん、来週まで元気にしててね」 「はーい!」 今日は週に一度の先生とお話の日、私のアイドル活動であった出来事とか、 嬉しかった事や悲しかった事を全部先生に話す日なんだ。 二ヶ月位前に私がオーディションに連敗して倒れちゃった事があって、 アイドル活動でストレスが溜まったのが原因だから誰かに話してスッキリするようにって社長が紹介してくれたんだよ。 私の話を聞いてくれる先生はとっても美人で、私の話を何でも聞いて的確に答えを返してくれる凄い人、 いつか、私も先生みたいにキレイな女の人になれるかなぁ……? あ、自己紹介がまだだったね、私の名前は秋月涼、今は普通の女の子だ...
  • relations.・悲話
    敗者の気持。 考えた事が無い訳でもない。 知らなかった訳でもない。 そんなのは、オーディションで落選した時、あの気持を嫌と言うほど経験して来たから。 けど、今の気持はそのどれとも違う。 まるでスタートの違う、別な次元の物。 だが、明らかに敗けた事だけは判っているのだ。 けれど、それを教えてくれているのは、積み上げた経験や知識等ではない。 ──── もっと体の奥に潜む何か。 それが告げてくれている。 いや ──。 きっと認めたくないだけなのだろう。 そんな感情に振り回される事を軽蔑してきた、もう一人の偽りの自分が。 素直な女性なら、簡単に理解出来る事なのに。 本能が告げているのに。 ─── 『あの娘に敗けた』んだ、って。 ■ この人の唇が描いた、あの娘の名の形。 遡る血流。 早鐘の如き鼓動。 …ナン…デ………? ...
  • やよいの食事手帳
    ※このノートに今日いつ、何を食べたかを大体でよいので全て記録する事  どんな状況で食べたかも書いて貰えると助かる プロデューサーより 2009年11月6日 金よう日 午前7時半くらい 家族みんなで朝ごはん!メニューはアジの干物と豆腐のおみそ汁に昨日の残りの肉じゃがが少し 今日は調子が良かったからご飯を2回もおかわりしちゃいました! 午前9時くらい 朝礼が終わった後に小鳥さんにキャラメルを貰いました! 大きめのキャラメルで甘くて美味しかったです! 小鳥さんが「孫に飴をあげてるお婆ちゃんみたいね……」と乾いた笑いをしてたのが気になりますー 午前10時くらい 響さんからちんこすう?を貰いました(ちんすこうでした!恥ずかしいですー!) 全部食べて良いって言われたから小さい袋を一袋全部食べちゃいました、おいしかったです! 響さんは毎日色...
  • 『紳士』
    「芯の強い娘を最後まで折ってこそ紳士だろう」 ああ、またプロデューサーが変な事を言ってます。誰か、止めて、 「それは、違う」 真ちゃん。しっかり止めてね。凄く嫌な予感がするから。 「プロデューサー、真の紳士たるもの……」 そうそう、紅茶を嗜むとかレディファーストとか…… 真ちゃんとお茶会とか、憧れるなぁ、 「気の弱い娘に攻められて、否、攻めさせてこそだ!」 って、え、ええ? ……白い歯が嫌に眩しいよ、真ちゃん。真ちゃんも遠い人だったの!? ねぇ、真ちゃん。格好良くて、王子様みたいなあなたはどこに行ったの? 私の中の真ちゃんは答えてくれない。いつもと変わらない笑顔を向けてくれるだけ。 「「雪歩!」」 二人に、呼ばれ現実に戻される。小鳥さんがちょっと羨ましい。戻らないで済むから。 「は、はい」 弱々しく口を開く。願わくば、 「「雪歩は...
  • 留守電
     携帯を開いて、もう目をつぶっても出来る操作。短縮→001→CALL。すこしの時間のあと、 呼び出しメロディが聞こえる。  あ、夢子ちゃん、新曲に変えたんだ。僕はそこから、ゆっくり秒数を数え始めた。1、2、3……。  今は、もう彼女とはいい関係を保っている。ときどき二人でごはん食べたり、この間は映画を 見に行った。なんていうのかな、うん、そう、『親友』、って言ってもいいと思う。そのくらいの仲良しだ。  先週だって一緒だった収録の時、いろいろアドバイスを貰った。バラエティのトーク番組だった んだけど、僕の話題のキッカケを読み違えて焦ってたら、すぐ後ろに座っていた夢子ちゃんが 割り込んできてうまく流れを作ってくれた。別にあんたのためじゃない、とかおどけ役までして くれて収録も盛り上がったし、いつも感謝してる。  そういえばそれ以来かな?最近二人の...
  • いちばん咲き、みつけた
    「ふう、これが噂に聞く『テッペン超え』なのね。こんな時間まで外にいる なんてウソみたい」 「もう二度と勘弁してくれよな。中学生をこんな時間まで連れ回したとあっちゃ 世間様に顔向けができん」  仕事帰りの車の中。  生まれて初めての体験に酔いしれている私をほったらかしで、プロデューサーは お小言モードでハンドルを握っている。 「共犯者が正論ぶったこと言ってるんじゃないわよ」 「へえへえ主犯サマ。念のため言っておくがな伊織」  赤信号で停まった隙をついて、プロデューサーはこっちに顔を向けた。 「機材トラブルと共演者全員の口裏合わせのもとで成り立ってるんだぞ?これが バレたらお前だけじゃなく、765プロ全体の社会生命に関わるんだからな」 「私としてはあんたが不安の余りボロを出しそうで怖いくらいなんだけど」  ことと次第はこうだ。レギュラー番組の...
  • 『Allerseelen』
    「あら、教会ね」 「ほんとだ、たまに通る道だが、気づかなかったな。これは……へえ、カトリックの教会か、 あまり見ないよな」 「ふうん……ちょうどいいわ、寄っていきましょう」 「えっ?」  収録帰りの道すがら、小さな教会を見つけた。伊織は手馴れた風に門をくぐり、前庭の マリア像に一礼して聖堂へ入ってゆく。今の時間は人がいないようだが、俺も 見よう見まねで後ろをついていった。 「伊織、クリスチャンだったっけ?」 「違うわよ、知り合いには多いけどね」  立派な木の扉を開け、また一礼。無人だが灯がともり、一種独特な雰囲気に呑まれた。 伊織は中央の祭壇に向かってすたすたと歩を進め、真ん中あたりの席に着く。隣に 腰掛けて見ていると、やがて低く指を組んで目を閉じた。  要するにこの教会に、お祈りをするために立ち寄ったようだ。わけが解らないが止め立て ...
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