とある魔術の禁書目録 Index SSまとめ

虚章

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 虚章 闇の魔王は裏舞台で笑う Skill_And_Magic



 学園都市には窓のないビルが複数ある。そのほとんどが農業実験用のビルだが、一つだけ他とは強度もその中身も異なるものが混じっている。
 学園都市統括理事長の城だ。その中には数十万ものコードが床を這い、壁際にずらりと並べられた機械や計算機の類に繋がっている。広く、広く、広い部屋の明かりはその機械や計算機の類のモノしか無いので夜空に散りばめられた無数の星に見える。
 そして、その中心には。真っ赤な液体で満たされている筒型の水槽があった。
 その中には一人の『人間』がさかさまに浮かんでいた。『人間』としか表現することができなく、おそらくは無理に表現しても「なんかしっくりこない」状態に陥ってしまうだろうその『人間』男にも女にも見え、大人にも子供にも見え、聖人にも囚人にも見える容姿をもっていた。
 その『人間』の名はアレイスター=クロウリー。
 この城の主にして、学園都市統括理事長でもある。

(くくくくく……くく…くくくく……)

 彼は笑っていた。その理由(わけ)はただ一つ。――“虚数学区・五行機関(プライマリー=ノーリッジ)”の急成長。

(遂に、遂に、ヒューズ=カザキリの本来の性能を発揮することができる一歩手前まできた。後は、成長が不安定だった幻想殺し(イマジンブレイカー)さえ完成すれば……)

 今から、約一ヶ月前にアレイスターは学園都市に一人の魔術師を招いていた。
 ロシア成教・殲滅白書(Annihilatus)所属、サーシャ=クロイツェフ。
 だがそれ自体が虚数学区・五行機関の急成長を促したわけではない。
 勿論、彼女の能力はかなりのものである。殲滅白書のそれぞれのメンバーの能力は大したこと無いのだが、彼女はイギリス製の対人拷問用七つ道具を装備することで必要悪の教会(ネセサリウス)と、ほぼ同様の戦闘力を手に入れているのだ。
 だけど、そもそもアレイスターが求めているものは魔術ではないので“それは”関係ない。
 では、何が虚数学区・五行機関の成長を促したというのか。
 アレイスターの「当初の計画」では幻想殺しを使ってAIM拡散力場の集合体に自我を持たせてヒューズ=カザキリを完成させる予定だった。
 しかし、アレイスターは何かイレギュラーが起こる度に計画を切り替えていき、“プラン”短縮を度々していったのだ。

(くくく……「一方通行(アクセラレータ)、最終信号(ラストオーダー)、ヒューズ=カザキリで三位一体とする方法」では、まだまだ“甘い”と思っていたが……)

 それでは「詰め」が甘くなる、と懸念されていたその方法。

 最終信号を使い、世界中にいる量産型能力者・妹達(シスターズ)を利用することで“世界中を舞台とし”、その中心にヒューズ=カザキリを据える。
 さらに、一方通行によって学園都市、そして世界中にあるAIM拡散力場を、“ベクトル操作能力”でヒューズ=カザキリに集めてヒューズ=カザキリを強化する。
 そして、ヒューズ=カザキリを天使とした、人工的な“界”を創る
 結果、世界中のあらゆるオカルトは消滅し、魔術師も死に絶え、魔術施設は倒壊することになる。

 そこまでやってまだ“甘い”のだ。

(……「音声増幅(ハンディスピーカー)、天使憑き(エンジェルハウリング)、ヒューズ=カザキリで三位一体とする方法」ならば威力を拡大する事が出来、さらに“プラン”を大幅に短縮する事が出来る……こんな良い方法を逃す手は無いだろう……それに、この方法で“プラン”を組み直せば、すぐに第二段階を終わらせ第三段階(さいしゅうだんかい)へとシフトする事が出来る……くくくくく……)

 だが。一つ「問題点」があるといえば、ある。

(……やはり幻想殺しの成長か。それさえ終わればすぐに第三段階へシフトできるだろうが……)

 方向をがらりと変更したアレイスターだったが、どちらの計画でも幻想殺しが最大必須条件であり、ぶっちゃけアレイスターの目下一番の心配なことは幻想殺しの成長が不安定なことにあった。


(…と、そろそろか……)

 そう彼が思った瞬間、どういう理屈か彼の目の前に大きな四角いディスプレイが現れる。通信用のディスプレイである。
 通信先はロシア。
 そのディスプレイの中には灰色の髪を後ろに流し儀礼用の法衣を着た精悍な顔立ちの男がいた。
 ロシア成教、アレクセイ=クロイツェフ高司祭。
 とある学園都市の中学校に在学する少女の義父である。

『で、どうなのだ?万年逆立ち男』

 彼らは挨拶をしなかった。それは、敵だから……と、いう訳ではなく単に互いにその必要性を感じないからであった。

「うむ、全く問題ないだろう。あれから一ヶ月、特に何も起ってはいない」

『問題ない?だが、それは……』

 疑うような声を発するアレクセイ。
 彼は心配だった。いくら、禁書目録の例(ぜんれい)があったとしても、そこは義娘(むすめ)・サーシャ=クロイツェフを溺愛し、ワシリーサには「親馬鹿アレクセイ」と二つ名をつけられ、今やロシア成教の内部や観光客に留まらずイギリス清教やローマ正教の内部でも流行ってしまって、顔で笑っていて心で頭を抱えている義父、アレクセイ。その不安が尽きることはない。

「映像を渡しているだろう?それを見れば危険なことなど一度たりともなかったことが分かるはずだが……」

 だが、そこではない。アレクセイが本当に不安に思っているのは……

『ああ、確かに見せてもらったよ、怪奇・ひきこもり男。だが、私はその映像を見て、一つ貴様に質問したいことが増えたのだが…………』

 と、アレクセイの姿がディスプレイの下側に消え、何やらごそごそごそごそと漁り始めた。
 そして、しばらくした後、アレクセイは、一つの写真を手に、ディスプレイの中心に戻ってくる。

『……この少年はいったい何者だ?』

 静かなその声には普通の人が聞いたらものすごいスピードをだして逃げ帰り出すぐらいの怒気と凄味とむき出しの敵意が含まれていた。
 だが、『人間』アレイスターは、“普通の人”ではない。なので、今までと全く変わらない人を馬鹿にしたような――しかし、堂々とした声で返答した。

「詳しくは語らぬよ、アレクセイ。そもそも君と私はそういう間柄ではないし、どうせ私が“嘘をつこうが”もしくは“本当のことを言おうが”君は信じない、否、信じることができないことだろう…………まあ、強いていうなればその少年は、学園都市の無能力者(レベル0)の内の一人だが」

 言外に語られるのは「自分で調べろ」ということだろうか。
 アレクセイは少し黙る。そして、その重い口を開く。

『ふーむ……まあ、いいだろう、盗撮趣味野郎。だがしかし、覚悟しておくが良い。私は近いうちに学園都市へ義娘の様子をみるため行こうと思っている。そして、もしその時義娘の身に何か起きていれば、私は貴様をただでは済ま』

「君に、一体何が出来るというんだ?」

 『魔王』は遮る。アレクセイの言葉を。アレクセイの言葉はまるで届いていなかった。
 筒型の水槽とディスプレイの間に険悪なムードが漂う。……しばらくして、沈黙を破ったのはアレイスターだった。

「ではな。私は忙しい。可哀そうな義父(おとこ)の相手などしている暇はない」

 と言い、アレクセイの返事も待たずに、ディスプレイを消してしまった。
 と、同時に三つのディスプレイが現れる。アレイスターは、

(これでいい。これでアレクセイは学園都市に来ることになるだろう……計画は順調だ……)

 と、考えながらディスプレイを見る。

 一つ目には、とある少女が映っていて、

 二つ目には、物凄い量の計算式が踊っていて、そして、

 三つ目には、四角いガラスケースと、その中にあるねじくれた銀の杖が映っていた。


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