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ようこさんは注射が怖い - (2006/10/15 (日) 21:35:20) の最新版との変更点
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<h4><b>ようこさんは注射が怖い</b></h4>
<dl>
<dd>
ここはアパートの狭い一室。啓太とようこは二人、夕食もすんでくつろいでいた。<br>
ようこは今日の出来事を喜々として語っている。<br>
啓太は聞いている風でもなさそうに、ぼんやりとテレビを見ている。<br>
「でね、商店街を入ったすぐのケーキ屋さん、なんだかピコピコうるさいお店になってたのよ」<br>
「そういやあそこ、ゲーセンになったんだっけか」<br>
態度はともかく、聞いてはいるようだ。<br>
<br>
「きゃん」<br>
テレビから犬の鳴き声がして、ようこの肩がぴくんと震える。<br>
ようこは犬が苦手だ。犬神なのに。<br>
<br>
啓太は黙ったままテレビのリモコンに手を伸ばし、チャンネルを変えようとする。<br>
「あっ、ケイタ。気にしないで」<br>
彼の行動に気づいたようこが、何でもないといったように首を振る。<br>
「実物じゃなければ平気だから」<br>
「そっか」<br>
伸ばした手を引っ込める啓太。テレビからは、止まない犬の鳴き声。<br>
「ねぇ、ケイタ。これ、何してるの?」<br>
そう言って、ようこはテレビの画面を指さす。<br>
画面には、ゲージに入った何匹もの小動物と、そのうちの一匹を抱きかかえる白衣の人間。<br>
「あぁ、これは動物病院だな」<br>
「どーぶつびょーいん?」<br>
「動物が病気になったり怪我をしたときに、治してもらえるんだ」<br>
「ふーん」<br>
「まあ、おまえにはあんまり関係ないだろうけど」<br>
ようこは曲がりなりにも犬神だ。他の生物を凌駕する自然治癒力を持っている。<br>
<br>
画面の中では、獣医が注射器を取り出している。<br>
「うわっ」<br>
ようこが嫌そうな顔をする。注射器の針が気になるようだ。<br>
手術台の上に載せられた子犬は、暴れないように四肢を固定されている。<br>
近づけられる注射器。<br>
その先端が、きゃんきゃんと泣きわめく子犬の腹部に刺さっていく。<br>
「ひっ!」<br>
慌てて啓太にすり寄るようこ。震える手で、啓太の肩にしがみつく。<br>
「なっ、なっ、何してるの、あの人?」<br>
「何って、ありゃ注射だ」<br>
「い、痛そうよ?刺さってるよ?」<br>
「まあ、針が刺さるんだから痛いわな。でも、あれで病気が治るんだ」<br>
実際には麻酔注射のようだが、啓太は詳しい説明は省いた。<br>
「わ、私には必要なさそうね」<br>
精一杯胸を張って言うようこだが、体はガクガク震えている。<br>
傍若無人で人知を超えた力を誇るこの犬神は、魑魅魍魎どもよりも、注射器の方が怖いらしい。<br>
啓太には、その事実がなんだか可笑しい。<br>
<br>
<a name="21"></a></dd>
<dd>
麻酔が効いてきたのか、子犬はぐったりとしてきた。<br>
キラリと光るメスをおもむろに取り出す獣医。<br>
「きゃーーっ!!」<br>
「お、おい、ようこ?」<br>
「ケイタ、ケイタっ!テレビ消してっ!」<br>
「わ、わかったからしがみつくなっ!」<br>
啓太を押し倒さんばかりのようこ。テレビを消してほしいのなら、邪魔をするな。<br>
啓太は両手両足をばたつかせながらも、なんとかテレビのリモコンを掴み、スイッチを消す。<br>
<br>
「ほら、落ち着け、ようこ。あれは手術って言って、ああやって、体の中の悪い部分を切り取るんだ」<br>
「ケイタ、ケイタ、だって……」<br>
ようこは涙目で啓太にすり寄る。啓太の説明が耳に入っているかは怪しい。<br>
落ち着かせようと、ようこの頭を優しくなでてやる。<br>
「手術中は麻酔が効いてるから、体を切られても痛くないんだ。<br>
それに、手術が終わったら、切った部分は縫うから、切られたままってわけじゃない。<br>
あの人は、子犬の病気を治そうとしているだけなんだって」<br>
「でも、でも」<br>
「第一、おまえ、あんな小さな刃物、怖いわけないだろ?」<br>
犬神であれば、刃物や銃器といった、人の凶器を恐れるとも思えない。<br>
「そ、それは確かに、自分の体が自由に動かせるなら怖くないけど、<br>
あんな風に体を縛られて、自分の体を切り刻まれるのかと思ったら……」<br>
ようこの顔色は血の気が引いて真っ青だ。心なし、体温も低い気がする。<br>
体温が伝わるように、ようこの体を抱きしめ、あやすように背中をさすってやる。<br>
「そうだな。怖かったな。ほら、今日はもう寝ような」<br>
「……うん」<br>
啓太はようこの手を引いてベッドに向かう。<br>
涙を拭きながら、素直についてくるようこ。まるで物心ついた頃の幼い娘のよう。<br>
この少女は、体と言動は一人前の女性だが、こういうところは完全に小さな子供だ。<br>
<br>
二人で布団に潜り込む。<br>
「手、つないでてね」<br>
まだ涙で潤んだ瞳で、啓太をじっと見つめるようこ。<br>
普段の彼女からは想像もできない。<br>
「わかったから、もう寝ろ」<br>
そう言って、ようこの頭を胸に抱え込むようにして、自分も目を閉じる啓太。<br>
「うん、おやすみ、啓太」<br>
「ああ、おやすみ」<br>
<br>
・・・<br>
<br>
ようこは夢を見ていた。<br>
白衣を着た見知らぬ男性が立っている。マスクのせいで顔はよく見えない。<br>
「ようこさん。あなたは病気です」<br>
「えっ!なっ、なんの!?」<br>
「手術が必要ですね」<br>
「何言ってるのっ!わ、私は犬神よっ!しゅ、しゅじゅつなんて必要ないんだからっ!」<br>
「聞き分けのない子ですね」<br>
がちょん。いつの間にやら、手術台に載せられているようこ。<br>
手足と胴体に、革のベルトが巻き付けられて、動けない。<br>
「なっ、いらないっ!いらないんだからっ!」<br>
「さあさあお注射ですよー」<br>
白衣の男性は、さも嬉しそうに注射器を何本も取り出す。<br>
「た、助けて、ケイタっ!」<br>
「ケイタさん?そんな人はここにはいませんねぇ」<br>
男性が、にやりとほくそ笑む。ゆがんだ口元に、恐怖を感じる。<br>
「ケイタっ?ケイタっ!どこにいるの?ねぇっ!」<br>
たくさんの注射器が近づいてくる。ようこの腕、首もと、お腹に刺さろうとしている。<br>
「いーやーーっ!」<br>
<br>
<a name="22"></a></dd>
<dd>叫び声と共に目が覚めた。まだまわりは暗い。<br>
啓太の方を見る。少しもぞもぞした後、小さなあくびと共に、啓太の目が開いた。<br>
寝言で叫んだので、起こしてしまったようだ。<br>
「なんだ?怖い夢でも見たのか?」<br>
「ケイタっ!ケイタっ!うわーん」<br>
瞳いっぱいに涙をためたようこが、啓太にしがみついてくる。<br>
よしよしと、頭をなでてやる啓太。<br>
「あのねっ、えぐっ。あのねっ、ケイタ。しゅじゅつが。えぐっ。<br>
ケイタがいなくて、ちゅうしゃが、私に、ブスって……」<br>
「そうかそうか。それは怖かったな」<br>
「どうしてケイタいないのよっ!」<br>
「そんなこと言われても、夢の中までは行けないだろ?」<br>
「私、怖かったんだからねっ!」<br>
「そっか。でも俺はちゃんとここにいるだろ?」<br>
「……うん。よかった」<br>
「安心した?」<br>
「……した」<br>
啓太の胸に顔を埋めて、啓太の匂いを嗅ぐように、すんすんと鼻をならすようこ。<br>
啓太はようこの体を包むように、そっと抱き寄せる。<br>
「……ねぇ、ケイタ」<br>
彼女の口調は、だいぶ落ち着いたようだ。<br>
「なんだ?」<br>
「こんなふうに、抱きしめてくれるの、好き」<br>
「いつもは抱きつこうとしたら、しゅくちで逃げるくせに」<br>
「それはケイタがエッチだから」<br>
「男はエッチな生き物なんだって」<br>
「でも今はあんまりエッチじゃないよね」<br>
「さっきまで注射器が怖くてビービー泣いてたお子様に、あまり欲情はできない」<br>
「なっ、なによっ。いつもは私によくじょーするくせに」<br>
「おまえは俺にエッチでいてほしいのか、いてほしくないのかどっちなんだ」<br>
「私によくじょーはするんだけど、エッチなことは歯を食いしばって我慢してほしい」<br>
「おまえはほんとに俺を困らせるのな」<br>
「ごめんね?怒った?」<br>
「まあ、どっちにしろ俺は我慢するしかないんだが」<br>
「おわびね」<br>
そう言って、ようこは顔を上げ、啓太の唇に、自分の唇を重ねる。<br>
「で、俺は我慢するのか」<br>
「キスは自由」<br>
「そっか」<br>
目を閉じて、顔を上げるようこ。今度は啓太の方からキスをする。<br>
唇が離れると、またようこの方から。啓太の方から。何度も何度も、ついばむように。<br>
<br>
啓太は相当に我慢しなければならないが、今日はそれもいいと思った。<br>
なにせ注射が怖い子供なのだ。キスくらいで、ちょうどいい。<br>
明日になれば、けろりとして、また俺を困らせるのだろうが、今は棚上げにしておいてやろう。<br>
こうやってキスをするのも、悪くない。うん、悪くない。<br>
<br>
二人、まどろんでいきながら、キスばかりを繰り返す。<br>
いつの間にか眠ってしまうまで。<br>
<br>
<a name="23"></a></dd>
</dl>
<blockquote>[06/04/25-無印-20~22]<br></blockquote>
<p>ここはアパートの狭い一室。啓太とようこは二人、夕食もすんでくつろいでいた。<br>
ようこは今日の出来事を喜々として語っている。<br>
啓太は聞いている風でもなさそうに、ぼんやりとテレビを見ている。<br>
「でね、商店街を入ったすぐのケーキ屋さん、なんだかピコピコうるさいお店になってたのよ」<br>
「そういやあそこ、ゲーセンになったんだっけか」<br>
態度はともかく、聞いてはいるようだ。<br>
<br>
「きゃん」<br>
テレビから犬の鳴き声がして、ようこの肩がぴくんと震える。<br>
ようこは犬が苦手だ。犬神なのに。<br>
<br>
啓太は黙ったままテレビのリモコンに手を伸ばし、チャンネルを変えようとする。<br>
「あっ、ケイタ。気にしないで」<br>
彼の行動に気づいたようこが、何でもないといったように首を振る。<br>
「実物じゃなければ平気だから」<br>
「そっか」<br>
伸ばした手を引っ込める啓太。テレビからは、止まない犬の鳴き声。<br>
「ねぇ、ケイタ。これ、何してるの?」<br>
そう言って、ようこはテレビの画面を指さす。<br>
画面には、ゲージに入った何匹もの小動物と、そのうちの一匹を抱きかかえる白衣の人間。<br>
「あぁ、これは動物病院だな」<br>
「どーぶつびょーいん?」<br>
「動物が病気になったり怪我をしたときに、治してもらえるんだ」<br>
「ふーん」<br>
「まあ、おまえにはあんまり関係ないだろうけど」<br>
ようこは曲がりなりにも犬神だ。他の生物を凌駕する自然治癒力を持っている。<br>
<br>
画面の中では、獣医が注射器を取り出している。<br>
「うわっ」<br>
ようこが嫌そうな顔をする。注射器の針が気になるようだ。<br>
手術台の上に載せられた子犬は、暴れないように四肢を固定されている。<br>
近づけられる注射器。<br>
その先端が、きゃんきゃんと泣きわめく子犬の腹部に刺さっていく。<br>
「ひっ!」<br>
慌てて啓太にすり寄るようこ。震える手で、啓太の肩にしがみつく。<br>
「なっ、なっ、何してるの、あの人?」<br>
「何って、ありゃ注射だ」<br>
「い、痛そうよ?刺さってるよ?」<br>
「まあ、針が刺さるんだから痛いわな。でも、あれで病気が治るんだ」<br>
実際には麻酔注射のようだが、啓太は詳しい説明は省いた。<br>
「わ、私には必要なさそうね」<br>
精一杯胸を張って言うようこだが、体はガクガク震えている。<br>
傍若無人で人知を超えた力を誇るこの犬神は、魑魅魍魎どもよりも、注射器の方が怖いらしい。<br>
啓太には、その事実がなんだか可笑しい。 <br>
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<a name="21"></a>麻酔が効いてきたのか、子犬はぐったりとしてきた。<br>
キラリと光るメスをおもむろに取り出す獣医。<br>
「きゃーーっ!!」<br>
「お、おい、ようこ?」<br>
「ケイタ、ケイタっ!テレビ消してっ!」<br>
「わ、わかったからしがみつくなっ!」<br>
啓太を押し倒さんばかりのようこ。テレビを消してほしいのなら、邪魔をするな。<br>
啓太は両手両足をばたつかせながらも、なんとかテレビのリモコンを掴み、スイッチを消す。<br>
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「ほら、落ち着け、ようこ。あれは手術って言って、ああやって、体の中の悪い部分を切り取るんだ」<br>
「ケイタ、ケイタ、だって……」<br>
ようこは涙目で啓太にすり寄る。啓太の説明が耳に入っているかは怪しい。<br>
落ち着かせようと、ようこの頭を優しくなでてやる。<br>
「手術中は麻酔が効いてるから、体を切られても痛くないんだ。<br>
それに、手術が終わったら、切った部分は縫うから、切られたままってわけじゃない。<br>
あの人は、子犬の病気を治そうとしているだけなんだって」<br>
「でも、でも」<br>
「第一、おまえ、あんな小さな刃物、怖いわけないだろ?」<br>
犬神であれば、刃物や銃器といった、人の凶器を恐れるとも思えない。<br>
「そ、それは確かに、自分の体が自由に動かせるなら怖くないけど、<br>
あんな風に体を縛られて、自分の体を切り刻まれるのかと思ったら……」<br>
ようこの顔色は血の気が引いて真っ青だ。心なし、体温も低い気がする。<br>
体温が伝わるように、ようこの体を抱きしめ、あやすように背中をさすってやる。<br>
「そうだな。怖かったな。ほら、今日はもう寝ような」<br>
「……うん」<br>
啓太はようこの手を引いてベッドに向かう。<br>
涙を拭きながら、素直についてくるようこ。まるで物心ついた頃の幼い娘のよう。<br>
この少女は、体と言動は一人前の女性だが、こういうところは完全に小さな子供だ。<br>
<br>
二人で布団に潜り込む。<br>
「手、つないでてね」<br>
まだ涙で潤んだ瞳で、啓太をじっと見つめるようこ。<br>
普段の彼女からは想像もできない。<br>
「わかったから、もう寝ろ」<br>
そう言って、ようこの頭を胸に抱え込むようにして、自分も目を閉じる啓太。<br>
「うん、おやすみ、啓太」<br>
「ああ、おやすみ」<br>
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・・・<br>
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ようこは夢を見ていた。<br>
白衣を着た見知らぬ男性が立っている。マスクのせいで顔はよく見えない。<br>
「ようこさん。あなたは病気です」<br>
「えっ!なっ、なんの!?」<br>
「手術が必要ですね」<br>
「何言ってるのっ!わ、私は犬神よっ!しゅ、しゅじゅつなんて必要ないんだからっ!」<br>
「聞き分けのない子ですね」<br>
がちょん。いつの間にやら、手術台に載せられているようこ。<br>
手足と胴体に、革のベルトが巻き付けられて、動けない。<br>
「なっ、いらないっ!いらないんだからっ!」<br>
「さあさあお注射ですよー」<br>
白衣の男性は、さも嬉しそうに注射器を何本も取り出す。<br>
「た、助けて、ケイタっ!」<br>
「ケイタさん?そんな人はここにはいませんねぇ」<br>
男性が、にやりとほくそ笑む。ゆがんだ口元に、恐怖を感じる。<br>
「ケイタっ?ケイタっ!どこにいるの?ねぇっ!」<br>
たくさんの注射器が近づいてくる。ようこの腕、首もと、お腹に刺さろうとしている。<br>
「いーやーーっ!」 <br>
<br>
叫び声と共に目が覚めた。まだまわりは暗い。<br>
啓太の方を見る。少しもぞもぞした後、小さなあくびと共に、啓太の目が開いた。<br>
寝言で叫んだので、起こしてしまったようだ。<br>
「なんだ?怖い夢でも見たのか?」<br>
「ケイタっ!ケイタっ!うわーん」<br>
瞳いっぱいに涙をためたようこが、啓太にしがみついてくる。<br>
よしよしと、頭をなでてやる啓太。<br>
「あのねっ、えぐっ。あのねっ、ケイタ。しゅじゅつが。えぐっ。<br>
ケイタがいなくて、ちゅうしゃが、私に、ブスって……」<br>
「そうかそうか。それは怖かったな」<br>
「どうしてケイタいないのよっ!」<br>
「そんなこと言われても、夢の中までは行けないだろ?」<br>
「私、怖かったんだからねっ!」<br>
「そっか。でも俺はちゃんとここにいるだろ?」<br>
「……うん。よかった」<br>
「安心した?」<br>
「……した」<br>
啓太の胸に顔を埋めて、啓太の匂いを嗅ぐように、すんすんと鼻をならすようこ。<br>
啓太はようこの体を包むように、そっと抱き寄せる。<br>
「……ねぇ、ケイタ」<br>
彼女の口調は、だいぶ落ち着いたようだ。<br>
「なんだ?」<br>
「こんなふうに、抱きしめてくれるの、好き」<br>
「いつもは抱きつこうとしたら、しゅくちで逃げるくせに」<br>
「それはケイタがエッチだから」<br>
「男はエッチな生き物なんだって」<br>
「でも今はあんまりエッチじゃないよね」<br>
「さっきまで注射器が怖くてビービー泣いてたお子様に、あまり欲情はできない」<br>
「なっ、なによっ。いつもは私によくじょーするくせに」<br>
「おまえは俺にエッチでいてほしいのか、いてほしくないのかどっちなんだ」<br>
「私によくじょーはするんだけど、エッチなことは歯を食いしばって我慢してほしい」<br>
「おまえはほんとに俺を困らせるのな」<br>
「ごめんね?怒った?」<br>
「まあ、どっちにしろ俺は我慢するしかないんだが」<br>
「おわびね」<br>
そう言って、ようこは顔を上げ、啓太の唇に、自分の唇を重ねる。<br>
「で、俺は我慢するのか」<br>
「キスは自由」<br>
「そっか」<br>
目を閉じて、顔を上げるようこ。今度は啓太の方からキスをする。<br>
唇が離れると、またようこの方から。啓太の方から。何度も何度も、ついばむように。<br>
<br>
啓太は相当に我慢しなければならないが、今日はそれもいいと思った。<br>
なにせ注射が怖い子供なのだ。キスくらいで、ちょうどいい。<br>
明日になれば、けろりとして、また俺を困らせるのだろうが、今は棚上げにしておいてやろう。<br>
こうやってキスをするのも、悪くない。うん、悪くない。<br>
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二人、まどろんでいきながら、キスばかりを繰り返す。<br>
いつの間にか眠ってしまうまで。 </p>
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4|06/04/25