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秘密の遊戯 - (2006/11/19 (日) 07:47:19) の編集履歴(バックアップ)


「ねえ、ケイタ」
「!」
 ようこの突然の呼びかけに、隣で小説を読んでいた啓太はびくっと肩を震わせた。
いつものように、駅や公園のくずかごからしゅくちで失敬してきた、雑誌の類を読みふけっていた彼女である。
その後の言葉は決まっている。
「ね、これ」
「駄目! 今金欠なんだよ!」
 ようこが続きを言うか言わないかの間に、啓太は掘っ立て小屋が軽く揺れるくらいの声で否定をした。
今度はようこの方が肩を震わせる。
「なによ~、まだ何もいったないじゃないの」
「お前が雑誌を読んで発する言葉はいつも決まってるだろ? これ食べたいとか、ここ連れてってとか、
 日々金欠に悩んでるうちには縁の無い事なの!」

 啓太が一通り主張を発すると、ようこがぷくっと頬を膨らませた。
図星だった。今、思わず伏せた雑誌のページは、新しく出来たお洒落な喫茶店のページを開いている。
しかし、一度発した以上は引き下がれない。ここで納得するような性格では無いのである。
 違うもん、と言って適当にページをめくり、そのページを啓太の目の前に突き出した。
「わ、わたしが見せたかったのは、これ!」

「…は?」
 啓太が見たページは、いわゆる「女の子が一人寂しい夜を過ごす時のHow to」のページであった。思考がかたまり、頭の中が白くなる。
「…これを、どうしろと?」
「あ、え? えーと…っ!」
 普段彼女は情報量の多い、読み物系のページは読まない。当然、こんなページを開いた事すら無かった。
当然、自分が開いたページの意味する事は分からず、一瞬あたふたした後、
それが何やら身体を使ってやる体操みたいなものだと解釈した。
「これ、やるから見てて!」
「ブーッ!」
 思わず啓太が噴出した。更に頭の中が混乱する。
何故? いきなり? そう思ったが、ようこの勢いは止まらない。
「え、えーと、まずこう、足を開いて」
「ちょ、ちょっと…」
「想い人を頭に描きつつ…って、必要ないかこれは」
 ようこは後先考えず、書いてある情報をそのまま実行していく。
本当に特に何も考えていないので、その作業はどこか機械的だった。

「らくなたいせいをとって、大きく深呼吸して、指を」
 ようこが次のページをめくろうとした時、啓太の手が反射的に動いた。
このままではやばい! とてつもなくやばい! 動物的勘がそう言っている。
見てみたい。でも、最後まで見てしまったら、自分はきっと…。
「よ、ようこ!」
「?」
「分かった! お前の好きな所に一つ連れてってやる。だからその先は今ここで実行するな。
 俺が居ない時に、ドクトルも居ないのを見計らってやるなら良いが、それだけはやめてくれ!」

 ようこは、ん~と首をかしげた。一瞬『好きな所』という言葉に反応したが、
啓太がここまで言うには何か裏があるに違いない。そっちの方が彼女にとってみれば気がかりだ。
そう思っている間に、啓太は焚き火の中にその先数ページをビリビリっと破って捨ててしまった。
 ようこがあーっと声を発し、啓太は必死に別のページを差し出す。
文句を言おうとしたが、そのページのチョコレートケーキが美味しそうだったので、
思わずその場は受け入れてしまった。


 その夜…。
「やっぱ、きになる…」
 寝付けない。昼間見たそのページの続きが余りに気になって。
マネキンが自分の胸とか、お腹とかを触っていた絵の意味も気がかりだ。
じぃっと横で寝息を立てている啓太を見つめていたようこが、ぱちんと指を鳴らした。
「ケイタでじっけんしてみよう」
 ようこはいそいそと啓太のとなりに座り、そっと上体を起こさせた。
まだ彼はすやすやと寝息を立てている。適当な毛布でその体勢をキープさせ、
手をとり、うろ覚えの記憶の通りに、啓太の腕をそわそわと動かす。
何だかめんどくさいし、この体操に何の意味があるんだろう。

 しかし、その腕の動きを見ていたようこに、あるイメージが思い浮かんだ。

…これは『くすぐりっこ』だ!

 その昔、幼き日の啓太が自分と遊んでくれた時に、一度だけしてくれた事があった。
それはすごくくすぐったくて気持ち良くて、犬神として啓太に仕えてからも要求した事があったのだが、
残念ながら未だ実現したことのないスキンシップであった。
 今なら、行ける!
そう確信した彼女の行動は早かった。
ようこは目をギラッと輝かせると、両指を啓太の至るところに忍び込ませた。

「ぅぶひゃぁっ!?」
 彼女の指が活動を始めると、啓太は目を覚ました。
その瞬間、全身を這い回る世にもくすぐったい感触。こんな悪戯をするのは…
「ふ、ひょうこ! ひゃ、へ、やめ、」
「わ、これおもしろ~い♪ 何で今まで気付かなかったんだろ」
 抵抗しようとしても、ふわふわと上に覆いかぶさってくる彼女には、暖簾に腕押し、
何の効果も為さない。こうなったら、こうなったら…
 くすぐり返すしかない。どういう訳か、そこに思考が辿りついた。
がばっと力を振り絞って、ニヤニヤしている彼女に手を伸ばすと、同様に、思いっきり指を使い始めた。
「きゃっ♪ ケイタぁっははははは」
 嬉しそうに、ようこはくすぐり返すスピードを増す。啓太も負けじと、くすぐり返す。
何時の間にか、二人の身体はくんずほぐれつ、上になったり下になったり。
 お互い負けず嫌いの二人は、こうなると片方がギブするまで、夢中になった。
ついでに、啓太は何時の間にか全裸になった。
ついでに、彼の大事な部分が、反射的に増長した。
最後に、啓太がようこの上で馬乗りの形になった。ようこの方も、既に下着は取れかけ、
非常に際どい状態になっている。
「へへ、負けちゃったぁ…」
 ようこは、気恥ずかしそうに露出しかけた胸を手で覆うと、月明かりのなかでにこりと微笑む。
既に頬は蒸気し、瞳には涙を溜め、満足そうに笑い、こてっと急に眠りに落ちた。
まだ半分夢心地で、訳も分からぬまま勝利してしまった啓太は、訳も分からずそのままようこの上に倒れ込んだ。
気持ち良い…。
思わず、再び眠りに入りながら、啓太の腰はそのままようこのお腹の上を…。

 翌朝。
「な、な、な…」
 啓太が起きると、そこには信じられない光景があった。
ようこが、ぽーっとしてこちらを見て座っている。
彼女のお腹の上に、なめくじが這った様な後が残っていて、そこからは特有の薫りがする。
そして、自分は全裸、彼女は半裸。
 髪の毛はどう考えても冒されたとしか見えないくらい乱れており、
小屋の中もすっかりぐちゃぐちゃだ。
そしてようこが、とどめとばかりに、一言発した。

「せきにんとって、ね?」
「どしぇぇぇぇぇぇぇっっ!!!!」
 啓太は、再び眠りについた。
昨日の週刊誌の燃えカスが、静かに舞っていた。

                        終

[06/11/15| ◆iEaEevCZCY ](2/749-752