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いぬかみっ! 未来編っ! - (2006/12/01 (金) 22:10:52) のソース

<br>
吉日市警察署。<br>
その名の通り、吉日市の治安維持組織の中枢である。<br>
比較的新しい7階建ての無骨な鉄筋コンクリートづくりで、<br>

屋上からは、近所の小学生が考え、応募した中から選ばれた、<br>

『変態を消して、明るい吉日市』という太平洋戦争チックな<br>

スローガンがプリントされた垂れ幕が下がっている。<br>
そこの5階留置所、第三独房に二つの人影があった。<br>
ひとつは少年だった、年の頃は15、6歳ぐらいだろうか。<br>
整った顔立ちと、短めの黒髪をもつこの少年は、独房の端で<br>

10年間、想い焦がれた女の子に、きっぱりとふられたときのような、<br>

絶望とあきらめの混じった表情をしていた。<br>
それもそのはずだ、彼が身につけているのは、<br>
両腕に銀のバングル、以上。<br>
彼の今の状態を表す日本語は多々あるがそのなかでも、<br>
全裸、または、すっぽんぽんが妥当だろう。<br>
留置所に入っている、全裸の少年、誰がどうみても、立派な変態である。<br>

体育座りをして膝に顔を埋めているため、きわどい部分はかろうじて見えない。<br>

もうひとつは、白のタキシードにシルクハットに、赤いネクタイという、<br>

少々、風変わりな格好をした壮年の紳士だった。<br>
感心したように、独房の隅でふさぎこんでいる、暗い顔の少年に話しかけていた。<br>

「いやはや、親子二代で大儀を果たすとは、敬服するしかありませんな」<br>

それに対して、全裸の少年は沈黙を続けていた。<br>
「この冬の寒空の中、そうそうできることでありません、本当に立派になられて」<br>

「からかうのもいい加減にしろ、ドクトル」<br>
少年がドスの効いた声色で釘を刺した。<br>
紳士が咳払いをひとつし<br>
「失敬、少々興奮しましてな」<br>
と、言った。<br>
「はあ、何でこんなめに」<br>
少年が嘆息し、<br>
「我々の崇高な嗜好は、一般人には理解されないことが多いのですよ」<br>

紳士が真面目に告げた。<br>
少年はまたひとつ大きなため息をついて、<br>
「常人の健全な思考は変態には理解できないようだな」<br>
と、吐き捨て、<br>
「ええ、そうですよ」<br>
紳士が優しく笑った。<br>
「むっ?」<br>
紳士が何かを察したように<br>
「誰か来たようです、また合いましょう、裸王児」<br>
と、告げ、暗闇にかき消えた。<br>
「だれが、裸王児だ!」<br>
少年が反論しようと立ち上がったところに、<br>
<br>
「おい、川平、面会だ」<br>
看守の警官がいった。<br>
少年があわてて股間を手で隠した。<br>
檻の前に立ったのは、<br>
白髪をオールバックに固めた長身の男、特命霊的捜査官の仮名史郎と、<br>

艶やかな黒髪を持つ、セミショートカットの少女だった、年頃は獄中の少年と同程度、<br>

ミニスカートの下から、ひょっこりと覗く、ふさふさのしっぽが、しょぼんとたれていた。<br>

少女が目を潤ませながら、少年を見やり言った。<br>
「ああ、清明さま、おいたわしや」<br>
清明と呼ばれた少年は、深い、ため息をつきながら言った。<br>

「みやこ、おまえが好いてくれるのはうれしいが、寝起きを襲うのは感心しない」<br>

みやこと呼ばれた少女は、嗚咽に言葉を濁らせながらいった。<br>

「はい、ごめんなさい、ごめんなさい、わたしのせいで清明さまに恥をかかせてしまって」<br>

みやこは泣きながらしゃくりあげている。<br>
「どうしてこのようなことになったのだね?」<br>
仮名史郎が尋ねた。<br>
「そっ、それは・・・・・・」<br>
みやこがモジモジしながら説明を始めた。<br>
その日の朝。<br>
紅葉を終えた落ち葉が、木枯らしに吹かれる、肌寒い晩秋の早朝。<br>

吉日市の郊外にたたずむ、木造二階建ての一軒家に、清明とみやこは住んでいた。<br>

それは、一階が和風、二階が洋風の作りになっていて、もとは二世帯住宅を想定されて造られたのか、各階にそれぞれトイレとキッチンがある。<br>

なかなかの広さを持つ庭には、乗用車が二台は入る、大きなガレージが建っている。<br>

物静かな家の中、二階に向かう階段を、みやこは鼻歌を歌いながら、上機嫌で登っていた。<br>

手に持ったおぼんには、湯気たつコーヒーが二つと、クリームが入った小瓶が乗っている。<br>

階段をのぼってすぐのところから、フローリングの廊下が奥まで続いている。<br>

みやこはトテトテと歩き、二つ目のドアの前で立ち止まった。<br>

『清明の部屋』と、書かれたボードがドアに掛かっている。<br>

みやこは、ドアをノックして、間延びした声で聞いた。<br>
「清明さま~、おきていますか~」<br>
返事はない、中はいたって静かなものだ。<br>
「入りますよ~」<br>
みやこはドアを開け、主人の部屋に足を踏み入れた。<br>
おぼんをテーブルに置いて、カーテンを引き、窓を開け放つ。<br>

秋晴れの青空。<br>
朝の陽光と、静謐な空気が部屋に入り込んでくる。<br>
「さあ、朝ですよ、おきてください、休日だからって、いつまでも寝過ごしてちゃ駄目ですよ」<br>

みやこはそういって、傍らを見やった。<br>
折りたたみ式のベットのうえで、みやこの主人、川平清明は暖かそうな毛布に身をくるみ、<br>

規則正しい寝息を立てている。<br>
<br>
窓から吹き込んでくる木枯らしに、部屋の気温が少しずつ下がり始めているのに関わらず、<br>

清明は安らかに寝入っていた。<br>
「もう、おねぼうさんなんだから」<br>
そういいながら、みやこはベットの端に腰掛け、、自分のいとしいご主人様の寝顔を眺める。<br>

犬神ごころをくすぐる少し幼い顔立ち、細身ながらたくましい身体、すらりと伸びた手足、普段は頼りないが、誰かが苦しいとき、必ずそばにいてくれる存在、みやこにとって、すべてがお気に入りだ。<br>

思わず、頬にキスする。<br>
清明が、ううんと、一瞬、眉をしかめたが、また寝顔にもどる。<br>

悦に入り、もう一度、今度は唇に。<br>
そして、清明の寝癖の付いた黒髪を、手で梳き、愛撫する。<br>

みやこは、もう、ご満悦だった。<br>
やがて、みやこは、なんとなく、犬神学校で習った、<br>
犬神の本懐とやらを思い帰していた。<br>
其の一、犬神は破邪顕正を旨とし、主人に仕え、人々に害を与える魑魅魍魎と戦うこと。<br>

其の二、犬神は主人に忠誠を誓い、主人の身の回りの世話をすること。<br>

ここまでは、おおむね、あっている、しかし。<br>
其の三、犬神は主人に添い遂げ、子を成すこと。<br>
これは、大きな曲解であるが、とうの本人は、信じて疑わない。<br>

それも無理はない、清明の母親は、犬神であり、父は、現役の犬神使いである。<br>

さらに、犬神使いの家元、川平家の総元締めである、川平の宗家は二人の子を、成しており、いずれも母親は犬神である。<br>

そんなわけで、みやこは契約の儀を、婚約だと思っている。<br>

三つめの、本懐を果たすために、みやこは日々、努力していた。<br>

このあいだは、いいトコまで行ったのに、駄目だった・・・・・・<br>

清明の首筋に鼻を当て、クンクン、匂いをかいでいると、<br>

心臓がトクトクして、微妙なところが、熱くなってくる。<br>

今日は、いけるかも。<br>
みやこは、毛布を、そっと、めくり、<br>
したの方にある、モコモコを確認した。<br>
よし、いける。<br>
「清明さま、失礼しま~す♪」<br>
喜々として、清明の布団の中に、もぐりこんだ。<br>
ベットがギシギシと軋む音が、殷殷と続く。<br>
・・・・・・・・・・・・・描写割愛。<br>
体操の一種、<br>
絶対に。<br>
少し後、清明が、やっと覚醒して、<br>
ふたりで、いいトコまで、いったとき。<br>
鈴が鳴るような、高い音がしたと同時に、<br>
清明は、着衣だけを残して、忽然と姿を消していた。<br>
独り、のこされた、みやこは、<br>
なんだか、悲しいやら、悔しいやらで、<br>
胸が、いっぱいに、なっていた、だから、<br>
「ど~して、いつもこ~なるの~~~~~~!!!」<br>
力一杯、叫んだ。<br>
その悲痛な叫び声は、何度も、何度も、谺し、リフレインして、<br>

辺り一面を、覆い尽くていった。<br>
天井裏から、成り行きを見守っていたドクトルが、大音量に耳をしかめ。<br>

明け方に、みやこが庭に撒いた、米粒をついばんでいた、<br>

すずめたちが、驚き、一斉に飛び立つ。<br>
 上空の、雲の上で寝ていた、仙人が、何事かと、跳ね起き、辺りを見回して。<br>

 近くの、川を流れていた、河童が、くけけと鳴いた。<br>
 しばらくして、叫び終えた、みやこは、清明を捜して、町中を、駆けずり回った。<br>

<br>
<br>
 先ほど、駅前の商店街で、全裸の少年を補導した、勤続三十年になるベテラン警官は、ノートパソコンに今日の記録を打ち込んでいた。<br>

 机には様々な報告書や資料が散乱し、吸い殻があふれ出さんばかりにねじ込まれた灰皿と、妻と娘が写った家族の写真が置かれていた。<br>

 ふと、タイプをしていた手を休め、画面から目を離し、目頭を押さえ、乾いた目玉に涙で潤いを与える。<br>

 画面に目を戻しキーボードを打つ、そうして今日、補導した少年の報告書を打ち始める。 名前は川平清明。<br>

 「うん?、川平?」<br>
  警官は何か気になった様子で、ワープロソフトを最小化して、下の方に保留する。<br>

 インターネットに接続して、警視庁が管理する警察官専用の個人情報データバンクにアクセスする、個人認証するための、パスワード入力ウインドウが現れた。<br>

 警官はウインドウにIDと、六文字ほど米印を入力して、サイトに入った。<br>

 検索エンジンに川平清明と入力する。アクセス中と画面に表示され、さほど時を待たず、それと思われる人物のリストがあがる。<br>

同名の人物が三人ほどいたが、名前の横に簡易的な情報があったため、補導した少年と同じ生年月日の人を選び、リンク先をクリックした。<br>

 少年の個人情報が一瞬で表示される。<br>
それは、住所、氏名、年齢、電話番号、血液型、過去の犯罪歴、血縁関係、などが顔写真付きで書かれていて、そういう情報を使って商売している人には、喉から手が出るほど欲しい代物だった。<br>

 警官が少年の両親の欄を見る。そこに書かれていたのは、<br>

 父・川平啓太、母・川平ようこ。<br>
 それを見て警官は驚嘆した。<br>
 「あの川平かっ!」<br>
 川平啓太。警官は彼を十数年前、何度となく逮捕した。<br>

 罪状は全裸でのストリーキング。<br>
 ここ十年、見ないと思ったら、あいつも身を固めて所帯をもったか~、時が経つのは速いなぁ、うんうん。と、警官が少し、しみじみした。だが、<br>

「息子に継がせたのか・・・」<br>
頭を抱えた。定年退職も目前だというのにもう一波乱ありそうだ。<br>

<br>
「まったく、川平ってのは、変態の家元なのか」<br>
警官が吐き捨てた。<br>
<br>
同時刻。<br>
「ハックションっ!」<br>
川平家の本家の一室で、川平宗家は、大きなくしゃみをひとつした。<br>

ちなみに川平家は変態の家元ではない、由緒正しき犬神使いの家元である。<br>

洗濯物にアイロンをかけていた、割烹着姿の少女、なでしこが、<br>

宗家に駆け寄り、<br>
「あらあら、お風邪ですか?」<br>
といい、取り出したハンカチで鼻を拭う。<br>
「大丈夫だよ、なでしこ」<br>
 宗家が微笑んで言った。<br>
「なにか、温かい物でも、お持ちしましょうか?」<br>
「ああ、ありがとう、頼むよ」<br>
「では」<br>
なでしこが淑やかな物腰で台所に向かう。<br>
宗家はそれを見送り、手元の書類に目を戻した、そして。<br>

「これは、一騒動ありそうだね・・・」<br>
意味深につぶやいた。<br>
<br>
留置所の独房。<br>
「シクシク・・・なんでだよ~、仮名さ~ん、出してくれよ~」<br>

川平清明はすすり泣いていた、その理由は、<br>
みやこの話を聞いた仮名史郎は顔を赤くして、<br>
しばらくそこで反省してなさい!、と言って出て行ってしまったからだ。<br>

みやこも、お召し物を取って参ります、と告げて、家に戻ったきりまだ帰ってこない。<br>

今は晩秋、とても寒い、全裸では身が持たない。<br>
清明が悲痛な声で助けを呼ぶ。<br>
「ううっ、誰か~、看守さ~ん」<br>
返事は帰ってこない、その代わりに、天井から嘲笑うような声がした。<br>

「くすくす、お兄ちゃん、惨めだね~」<br>
そして、天井付近の影から、人が現れ、牢獄の床に降り立った。<br>

「ひさしぶりだね、お兄ちゃん」<br>
「くっ、葛葉っ!」<br>
清明の実妹、葛葉である。<br>
腰まで伸びた漆黒の髪。妖艶な美貌に不敵な笑みを浮かべている。<br>

清明は最近、表情や立ち姿が、母親に似てきたなと思う。<br>

ふさふさのしっぽをふりふり。清明のていたらくを観察する。<br>

「また、しゅくちに失敗したんだ~、いや、暴発?」<br>
 くすくす。<br>
 「連帯封印のせいだよ、おまえはなんともないのか?」<br>

「全然、絶好調♪」<br>
 「ったく・・・」<br>
葛葉には、犬神の長、はけによる封印が施されている。<br>
それは、葛葉の有り余る強大な霊力を、抑えるためのものであり、その封印は特殊で、<br>

清明と連帯的に結ばれている。清明は常に葛葉の封印の制御に、力を使っているため、霊力が不安定になり、ふとした拍子に、術が暴発してしまうことがある。<br>

「あ、そういえば、みやこちゃんとは、よろしくやってるの?」<br>

ちらりと横目で清明を見やり。<br>
「まあ、その様子なら心配なさそうだけど」<br>
と、大仰にうなずく。<br>
朝、清明とみやこがしていたことを、葛葉は見透かしているようだ。<br>

「ここ一ヶ月、いままで、どこに行ってたんだ?」<br>
清明が聞く。<br>
葛葉には前々から放浪癖があり、家には殆ど居着かない、両親は特に気にかけないから、一番心配しているのは、清明である。<br>

「おじいさまと一緒に、西の方に、ぶら~っとね」<br>
西の方。なんとも曖昧だなと、清明は思った、おじいちゃんも一緒となると、<br>

何をしてきたのか、怖くて聞けない。きっとすごい『ぶら~っと』だったんだろうな。<br>

 独房の壁をスウっとすり抜けて、みやこが帰ってきた。<br>

 彼女は大きめの紙袋を胸に抱えていた。<br>
「清明さま、お持ちしました」<br>
と言って袋を清明にさしだす。<br>
「おお、でかした」<br>
清明は袋を受け取り、中に入っていた着衣一式を、素早く着込む。<br>

最後に、みやこお手製のちゃんちゃんこを羽織り、これも、みやこが気を利かせたのか、使い捨てカイロまであった、清明はその封を切り、揉む、暖かくなってきて、やっと生きた心地を取り戻した。<br>

「ところで、これからどうするの?、おとなしくここで反省してる?」<br>

葛葉が問い。<br>
「さあ、どうしようかな?」<br>
清明が、隣に寄り添った、みやこの頭をくしゃくしゃ撫でながら、曖昧な返事をした。<br>

みやこはうれしそうにゴロゴロと、のどを鳴らしている。<br>

「脱獄しちゃう?」<br>
ちょっと楽しそうに、葛葉が聞いた。<br>
「う~ん」<br>
 清明が少し考えた。<br>
脱走したって、仮名さんが、何とかしてくれるよな、それに、<br>

「俺、今日、朝飯食べてないからな、腹減った」<br>
そう言って、清明が白い歯を見せてニヤリと笑う。<br>
「そうこなくっちゃ」<br>
くすくす笑って、葛葉が人差し指を唇に当てた<br>
 しゅくち。<br>
りんっ、と鈴の鳴るような、清んだ高い音がして、<br>
 三人はその場から掻き消えた。<br>
<br>
 河童橋。<br>
 吉日市の北西に位置する全長二十メートルほどの石造りの橋である。籾川と呼ばれる比較的、澄んだ清流の上を市内と郊外を繋ぐ形で築かれていた。<br>

 その橋の下に一件、小屋が建っていた。<br>
 木材で骨組みを組み、ベニヤ板で壁を張り、浸水防止に青いビニールシートで覆って、飛ばされないように、黄色と黒の色をした、ひもで括った粗末な物だ。<br>

「あ~あ、いい天気」<br>
 小屋の中から、シートをかき分けて出てきたのは、ホームレスのおっさんではなく、<br>

可憐な少女だった。<br>
 癖のあるウエーブのかかった、黄土色の髪をツインテールに結んでいる。<br>

かなり小柄な体躯ながら、でるところはでている。かなりの美少女だ。<br>

 河川敷の掘っ立て小屋に住んでるような、容姿ではない。<br>

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<dt>[清明 |06/11/16](2/<a href=
"http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1157607636/756-761"><u>756-761</u></a>,<a href="http://sakura03.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1157607636/767-771"><u>767-771</u></a>)<br>
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