ひきこもり雪女、久々に山を下りる

────玄武関所の向こう




雪原で、二人の雪女が話していた。
「・・・え?」
月光茶屋におつかい行く予定だった子が急に倒れちゃって、できればあたしが代役したいんだけど、別の仕事あるから、凪、行ってくれないかな?」
「えっと、つまり山下りて街まで行けってことだよね?人いっぱいいるし暑いし、やだよ…帰る前に暑さとストレスで死ぬよ。ひきこもりには難易度が高すぎる。」
「納品今日だから今すぐいかなきゃだめなの!凪しかいないの!これ渡してすぐ帰ってくるだけだから!」
「今日じゃ仕方ないねー、でもそこまで私の体力と妖力がもつかどうか」
「ついでに冷たいもの食べてくれば回復すると思うから行ってきて は や く」
「…はい」

凪と呼ばれた雪女は、荷物をもって街まで行くこととなった。

「…急ぐんじゃなかったの?」
「そうだけど、あたしら氷の妖怪は暑さに弱いからね。こうやって薬塗って妖術で固めて熱を遮断しないと、帰るまでに倒れちゃうよ。『雪女、熱中症で倒れる!!』なんて記事にされたらたまったもんじゃないよ!晒しもんだよ!こわい!!」
「そんなの記事にして楽しいのかねー、人間の考えてることはよくわからんわ。わかりたくもない。どうせ妖怪はみんな目が合った人をすぐに食べる生き物だとか思ってるんだろうけど。」
「人食べない子もいるのにね。・・・できたよ、いってらっしゃい」
「…いってきます。」


かくして、引きこもり雪女には難易度の高すぎるお使いが始まった。



「君この辺じゃ見かけない顔だけどかわいいねー、一人なの?よかったら俺とお茶しない?」

山を下りて関所をこえて街につくなり、見るからに軽そうな男に声をかけられた。
以前も仲間に誘われて数回街に来たことがあるのだが、このような男にしつこく声をかけられ多大なストレスがたまり、山に帰った後もしばらく寝込むほどのトラウマを植え付けられてしまった。

「変なことしないからさー、お茶飲むだけで良いからさー」
「・・・」
「おにーさん、お姉さん嫌がってますよー。しつこい男は嫌われちゃうですぅー」


もう叩いてやろうかと思っていたところ、フリルがたくさんついた着物の少女が男を注意した。


「うわあ!ミコトちゃんに見つかったんじゃ仕方ない、退散だ!!」
「ナンパもほどほどにしてくださいね~」


凪よりも小柄で人形のような少女が、自分よりも大きな男を追い払った。
美琴ちゃん(と呼ばれていたはず)、見た目によらず実は力が強いのだろうか。
そんなことを考えていると、再び話しかけられた。


「お姉さん、街に来たのは初めてですか?この辺はこういう人多いから気を付けた方がいいですよ?」
「う、うん、ありがと。・・・あ、あの」
「なんですか?」
「月光茶屋って、どこにありますか?そこに荷物を届けに…」
「あ、頼んでた氷グミですねー、あなたが持ってきてくれたんですか、ありがとうございますー。じゃあ持っていきますのでー」
「え、そんな、運びますよっ」
「だめですよー、具合悪そうな人に持たせられないですぅ。あ、しばらくうちで休んでいってください」
「そ、そこまでしてもらわなくても」
「お金も渡さなきゃいけませんし、変な人が来ても助けられませんよ?ね?」
「あ、はい…」


笑顔の圧力に負け、凪は月光茶屋まで一緒に行くことになった。




ひきこもり雪女、久々に山を下りる

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最終更新:2014年08月14日 09:09