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かけひきは、BRのはじまり」を以下のとおり復元します。
*かけひきは、BRのはじまり ◆H7btjH/WDc

学生食堂で暮員未幸(女子十四番)が二階堂永遠(女子二十二番)に食事に誘われたのは、今にも雨が降り出しそうな暗い天気のある日。 
気の滅入るような曇天の中、未幸はほとんどの生徒が絶対にオーダーしない実質未幸専用の高級定食Sランチ(一日二食限定1080円)をオーダーし、二階堂は、定食はおろか軽く摘める菓子すらも買うことは無く、行儀よく未幸と向き合って座る。 

「それを奢って欲しい」 

「…………?!」 

未幸は驚愕した。 
二階堂とはほとんど会話をしたことはない。 
だからこそいきなり前触れらしい前触れを一切含まずしてこの一言。 

「暮員財閥の一人娘のあなたならそれは不可能ではないはず」 

「いや……でも今日帰りにレンタルDVDショップに寄るつもりだからお昼に2160円の出費はキツイのよね~ ゴメン二階堂さん」 

「…………冗談。兄はよく金持ちの令嬢と対峙する際にはそう言って笑いを取れという。何が面白いのかはよく分からないけれど」 

「は……はぁ」 

未幸は、はっきり言って彼女と同じ空間いることに疲労を感じていた。 
周りには他のクラスの生徒もいたし、Sランチを物珍しそうに見つめる生徒も勿論いた。 
いつものようにシルヴィア(女子十七番)が遠目から憎悪の視線を送り続けることにも気付いていたが、それでも彼女が発する言葉の一つ一つが妙に重い。 

「本題に入る。あなたは私たちの言う“遊び”に加わる気はあるの?」 

二階堂は、二日ほど前から頻りにその話題を表に出す。 
何の遊びかは、未幸は一切知らない。 

「その遊びって何なの?」 

「テト(女子十九番)と私の共同プラン。まだ詳細は未決定だけれど今年中に実行するつもり」 

「は…はぁ」 

「そして人数あわせとしてあと一人優秀な人物が必要。候補はあなたともう二人」 

「テトはあなたが適任と言っていた。あなたには自分でも気付かない内に隠れた狂気があると、彼女は言っていた」 

未幸は、何かのサプライズを二人が行うのかと、一瞬だけ思ったが、この空気においてはそれはあり得ないと直感で理解した。 

そして二人は何を画策しているのかと考えると、恐怖すらも憶えた。 
そうして、彼女は立ち上がって一言こう言った。 

「…………色々とツッコミたいところはアリアリなんだけど……とりあえず断っていいかしら? 話が長引くのは二階堂さんにとっても悪いだろうし。」 

Sランチに、全く手をつけることなく、未幸はそそくさと去って行った。 

未幸が見えなくなると、二階堂はSランチのおかずの一つであるアツアツのハンバーグステーキを未幸が触れもしなかったプラスチックのフォークとナイフで、一切れ食べた。 


「何が美味しいのか分からない」 

ハンバーグステーキが保有する熱量とは対極を行く、冷たい口調で彼女は言った。 



未幸は、目を覚ますとフカフカのベッドの上で眠り姫のように眠っていた。 
他の生徒とは違う、やけにいい寝覚めと共に彼女は目を覚まし、辺りを見回す。 
ここはどうやら島にあると担任が言っていた宿泊施設らしい。 

ベッドの傍らにあったランプを点けると、ベッドが四つ立ち並んでいた。 
映画でよく観るようなモーテルの一室だ。 
担任は、本気でここに生徒を宿泊させる気だったのかと思うと、少しだけ怒りが湧いた。 


「それはそうと……まさかあの遊びがこの殺し合いのことだったとはね……二階堂さん」 

彼女のように一度でもチャンスを掴みかけた人間ならば、通常彼女の言う遊びに乗らなかったことを少なからず後悔するだろう。 


だのに彼女はそれをしなかった。むしろ今の状況に安堵すら憶えるほどだった。 
何故か?それは親友を死地に追いやらずに済んだ。とそう思っての安堵。 


他の生徒は、絶望にかられてゲームに乗ってしまうかもしれないだろう。 
勘のいい生徒や 
そして白崎篠一郎も例外ではないかもしれない。 

だとしてもだ。希望は早々に捨てるものではない。 


彼女は、ランプのやや頼りない明かりの下、デイパックを開け放つ。 

綺麗に折り畳まれた黒い衣服が、姿を現した。 

防弾チョッキか?と一瞬だけ期待したが、その期待は見事に裏切られた。 
姿を現したのはコスプレ用のメイド服。 
そして、折り畳まれたメイド服の間には、無地の、お世辞にも可愛いとは言えないブラが挟まっていた。 

サイズはBカップと表記されているが、明らかにそれ以下の大きさだ。 

「…………これってまさか……」 

未幸はその瞬間、二階堂に明確な殺意を覚え、枕でベッドを気の済むまでに叩いた。 

とは、言ったものの、結局未幸はそのブラを身に付けていた。 

胸が締め付けられてるから苦しい。だが、その甲斐あってか、今までほとんどできなかった谷間が姿を現したが、これを毎日付けるのはとてもじゃないが真っ平御免蒙る。 

一瞬だけ、谷間のできた胸をみて嬉しいとも思ったが、結局たどり着く答えはこうだ。 

「外そう……やっぱり」 

そう言って未幸はブラのホックに手を掛けて外した。 
先ほどまで身に付けていたブラの方が、やはり馴染む。 
そうして改めて思う。これは明らかに悪意ある支給品だ。 

未幸が貧乳だからと言うわけではない。これは二階堂やテトが、彼女を絶対に生かす気はという意思の表れだった。 

このゲームの主催者は間違いなく二階堂永遠、テト、分校にいなかった卜部悠(女子二番)の三人 
そして彼女たちが主催であると気付かれることは、明らかに彼女たちの不利に繋がる。 

この事実を知る者は、自分を含めた一握りのクラスメイトだけだろう。 

だからこそ、自分は生きなければいけない。生きている限り、何か希望を見出せるかもしれない。 
彼女は、役に立たない支給品の入ったデイパックを手にして、ドアを開け放ち、モーテルの一室を出た。 

非武装では、あまりにも無防備なのは未幸自身よく分かっていた。 
だが、部屋には円柱状の短い木の棒くらいしか置いてはいなかった。 
これは恐らくベッドの柱の一本だろうと思うが、はっきり言ってこれだけでは不安すぎる。 

近くに誰かがいたら、間違いなく狙い撃ちだ。 
遭遇するにしても、願わくば人のいい生徒と遭遇したい。だが人がいいからって恐慌状態に陥り、尚且つ強力な武器を支給されてれば同じくバッドエンド。 
上手く騙して、生き残るしかない。 
自分の手にした確信的な情報を餌に、手駒という名の魚を釣り上げる。 

「白崎くんなら……こんな時どうするだろ」 

未幸と白崎の仲は、周りから見れば親友と言う一線を越えているかもしれない。 
だが、少なくとも未幸はそんな自覚をしている憶えはない。 
私たちは友達。そうでありたい。そうでなければいけない。未幸はそう思っていた。 
そして、そうである限り、恋人や家族よりも絆を分かち合える存在であるべきだ。とも思っていた。 
だから、親友に会いたい。会って一緒にこのゲームを潰したい。 
そんな思いが交差する中で、未幸は、自分がさっきまで居た隣の部屋のドアノブを握り、開けようとした。 

部屋は真っ暗だった 
部屋の外から漏れる月明かりで、手前のベッドは半分ほど見えたが、部屋はそれ以降闇に覆われていて全容を現さない。 

人が居たとしても、分からない。 
だが、あちら側は音と漏れる光で、多少分かるだろう。 
未幸が圧倒的に不利であることに変わりはない。 

「……誰か居るの?」 

未幸は、思い切った。 

このときの彼女は、ひょっとしたら死ぬかもしれないという覚悟も勿論していた。 
言わばこれはギャンブルなのだ。 
彼女が好き好んで観る映画と同じだ。危険や覚悟を伴わない幸福や成功、勝利は、ありはしない。 
一寸先に危険が待っていて、それを『たった一寸』と受け取るか、『一寸も』と受け取るかによって人間の質が分かる。 
未幸は、迷わず前者を選択した。ドア越しにそう話しかけた瞬間、部屋の中に足を踏み入れ、一番手前のベッドのランプを点けて、ドアを素早く閉めた。 

ランプのお陰で、最深部。四番目のベッドのところを除く部屋の全容は、概ね掴めた。 
ベッドの下には、十分な隠れるスペースがあるし、ベッドとベッドの隙間の床にしゃがんでいる場合も、こちらからじゃ見えない。 

「安心して。私は攻撃しないから。だから、もし誰か居たら姿を現して」 

当然声は返ってこない。 
それに未幸はため息をつき、一番目のベッドと二番目のベッドの間のスペースに向かう。 

何にもない。次にベッドの下だ。一番目はダンボールがベッドの下に積まれていて隠れるスペースはなく、二番目も同様。 

次に二番目と三番目の間のスペース。何もない。ベッドの下も同様。 

四番目のベッドの近くのランプも点灯すると、シャワールームとトイレがあった。 
間のスペースには勿論何も無く、下もまた同様だ。残るは上記の二つ。 

トイレのドアを、未幸は勢いよく開け放つが、そこから出てきたのはややキツイ芳香剤の匂いと、別にキレイでも汚いわけでもない洋式の便座。 

最後となったのがシャワールームだ。 

未幸がシャワールームのガラス戸を開けると、中にはカーテンが全面にひかれた浴槽が一つあった。そこしか隠れるスペースはない。 

「本当に私は何もしないわ。信用して」 

そう言って未幸はカーテンを開け放った。 

そこにあったのは何だと思う? 
正解は何もなかった。 
未幸が取り越し苦労の徒労に襲われる瞬間であった。だがその徒労を味わえるということは、紛れも無く、彼女がまだ生きているということ。 

その事実を噛み締めながら、未幸はほんの少しだけ安堵した。 

だが、そう安心してもいられない。他の部屋も見回る必要があるがそんな度胸は彼女にはない。 

「すぐにここを出よう」 

未幸は、出口に向けて一直線に歩み始めた。 
だが、次の瞬間外から奇妙な音が響き渡った。 


ランプが点灯されている今なら分かる。ドアが被弾した。 
そして、銃弾が地面に落ちる音がするとともに、再びそれは放たれた。 

少なくとも3~4発。ドアに撃ち込まれた。うち2発はドアノブとその近くに命中した。それによって閉ざされたドアが一瞬だけ動いた。そこへ来てのあちら側から蹴りが迸り、遂にドアは壊れた。 

ドアを蹴飛ばしたのは、ライフルを首からぶら下げている男。 
こちらからも見える。男子九番・神崎健二。 
それは、あちらからも同じこと。健二もこちらを見ていた。 

健二は、未幸の存在を確認すると、銃口を未幸に向けることなく、すぐさまに下げた。 

「……暮員か。どうやら取り越し苦労だったようだな…………ところで、お前ゲームには乗ったりしてないよな?」 

「え…えぇ……だから撃たないでよね?」 

未幸がそう再確認する。 

「そこんとこは安心してくれていい。俺はただ姉ちゃんに会いたいだけだからな。お前も彼氏を探すつもりだろ?」 
「誰?」 
「いや、誰って白崎しかあり得ねーだろ…」 

「違うわ!」 

思わず大きな声が出た。それに健二は一瞬戸惑う。 


「彼は親友よ。それ以上でも以下でもない」 


未幸と健二は、すぐさまモーテルを出た。二人の生徒による取り越し苦労により起きた騒動は、同じブロック内に響いているかもしれない。 
だからできるだけ遠くに逃げる必要があった。 


「ねえ神崎君。こんな言葉を知ってる?」 
「何!?」 

そんな中、未幸は立ち止まり、健二を引き止めた上でこう言った。 

「“冤罪を消し去るには法を消し去るしか方法はない”って」 
「知らないよ。それがどうしたんだ」 

健二はややイラつきながら荒々しい口調で言う。 

「つまり私が言いたいのはこうよ。このゲームを潰せば、自動的にみんな助かる。その為には仲間を集めて主催者に反逆しなきゃいけない」 

「そうだけど……ゲームに乗ってる奴とかいるかもよ?銀鏖院とか朱とか」 

「でも、少なくとも私は、今一緒にいる神崎くんを信用するわ」 


笑顔でそう言った未幸に、健二は少しだけはにかんだ。 

「俺もだよ」 

と、言う美談が成立すればバトルロワイアルというゲームは面白くない。 
このゲームは殺し合いなのだ。情け無用の無明の地獄。 

暮員未幸は、最初から神崎健二を怪しんでいた。 

ライフル銃と言う強力な武装を持っているならあの場で未幸を殺せたはずだ。 
なのにしなかった。銃弾を5発も使ってやったことと言えばドアの破壊。 

見られていたかもしれない。自分がどうすれば二階堂たちをどうすれば引きずり出せるか。深く考えていたことや、近くに誰かがいないか探していたことも……もしかしたら最初から 
最初から………… 

「ハッ!」 

未幸は顔を真っ赤にして、健二の背中を蹴った。 

「痛ェッ!何すんだよ暮員!」 

「……ごめんなさい」 

一応ボソボソ声で謝っておいた。 
裸を見られたことはまあさておきだ。健二は間違いなく、自分の持つ情報を全て引き出そうとしている。 

あちらからして見れば賭けかもしれないだろう。重要な情報かもしれないという恐怖があるのだから。 
だが、情報を持っていようが、成績が中の下と言う健二にとって成績上位の暮員未幸と言う存在は少なからず役に立つ。 

無い頭でよく考えたもんだ。未幸はそう思った。だが、それによって未幸も助かっているのだ。 

これを利用しない手は無い。未幸はそうも思った。 


未幸の仮説は、概ね合っていた。最初から健二は、未幸のいた部屋の、一番奥から、ずっと見ていたのだ。彼が目覚めたのは未幸が目覚める大分前。 
彼女が目を覚ます頃には、暗闇に目は慣れていた。 

最初彼は、未幸を殺すつもりだったが、彼女の放った「二階堂」という言葉で、その方針を変える。 

「二階堂……確か分校にいなかった3人のうちの一人だ。もしかしたらこの2人関わってんのか?」 

彼女から情報を引き出すことに時間を割くことは、決して無駄なことではない。 
そう確信した途端に、未幸が白く華奢な肢体を晒した時は、鼻血が出そうだった。 
ハッキリ言って巨乳は姉で見飽きていたので貧乳はすごく新鮮だった。 

一瞬だけ天国を味わって、すぐに未幸は部屋を出た。 
あとは少ししてからゆっくり部屋を出た。未幸がドアを開けっ放しにしておいてくれたお陰であまり音を立てることなく部屋を出ることが出来た。 

あとはモーテルの外から誰とも知れぬ生徒に怯えていた臆病者を演じればいい。 
そして、健二はそれを成功させた。 

彼は、ひとえに姉を助けるためにこのゲームに敢えて乗った。 

そのために未幸を利用するだけ利用する。 
そして他の生徒も皆殺しだ。 
情報を引き出せるまではじっくり待とう。 
彼もまた、騙す者だ。 




――――――――最も、彼は既に目的を失っているピエロなのだが 


【C-1 モーテルの近く/一日目・深夜】 
【女子十四番:暮員未幸】 
【1:私(たち) 2:アナタ(たち) 3:あの人(たち)、○○(名字さん、くん付け)】 
[状態]:健康 
[装備]:木の棒 
[道具]:支給品一式、メイド服、豊胸ブラ(と、言うより胸を大きく見せるブラ) 
[思考・状況] 
基本思考:利用されていると承知の上で、利用し返す 
0:白崎を探す 
1:戦闘などの貧乏くじは全て健二に引かせる(場合によっては見限る) 
2:殺し合いに乗るのは癪 
3:遭遇する生徒は、救済しないが殺す気もない 
4:白崎に遭遇したら二人でゲームを潰す 
5:健二は使えなくなったら切り捨てる 
6:映画館に行ってみたいが、映画館の存在に若干の疑問 
7:武器が欲しい…… 
[備考欄] 
※メイド服には防弾、防刃等の特殊効果は一切なく、あくまで普通のコスプレ用です 
※主催者が二階堂、テト、卜部であることを確信しました 
※そして彼女たちが主催者であることがバレると、何か彼女たちに不利益が働くとも推理しました 

【男子九番:神崎健二】 
【1:俺(たち) 2:お前(ら) 3:あの人、奴(ら)、○○(名字呼び捨て)】 
[状態]:健康 
[装備]:AR-15(15/20) 
[道具]:支給品一式、5,56mmNATO弾(20/20) 
[思考・状況] 
基本思考:未幸を騙し、利用する 
0:姉ちゃんを探す 
1:未幸から情報を引き出す 
2:彼女と会ったら未幸を見限り、殺す 
3:チャンスが来るまではじっと待つ 
4:遭遇する生徒を陥れ、殺す 
5:1の後は姉ちゃんを生かすために他の生徒を皆殺しにする 
6:姉ちゃんがもし反論したら気絶させて黙らせる 
7:全ての生徒を殺したら若狭を殺して姉ちゃんと島を脱出する 
8:未幸を守る気はないが、その素振りは見せて信頼を勝ち取る 
[備考欄] 
※姉が既に死んでいることを、もちろん彼は知りません 

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