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CHICKEN RUN - (2008/12/29 (月) 16:06:25) の編集履歴(バックアップ)


CHICKEN RUN ◆zmHe3wMKNg


D-3地点。少女は走っていた。
樹木が生い茂る森の中を。
茶色に染めたセミロングの髪をはためかせ、汗の滴を飛ばしながら。
両の手を振って、命懸けで。
その背に追いすがる危険な人影。

「おい!待てよ!待ってくれよ!」
「待つわけないでしょ!近づかないで!」
「なんでだよ!なんで逃げるんだよ!待ってくれよ!待てよ!――待てっつってんだろうが!!」

ウィンチェスターM1873を両手で持ち全力疾走する愛餓夫(男子 一番)は、
自分の遥か前方を駆け抜ける少女、北沢樹里(女子 八番)に向けて本日三度目の発砲を行った。

「――糞がぁ!なんで全っ然当たらねぇんだよ!」

陸上競技において、同じ部員の獣人達を押しのけて県大会代表に選ばれるほど高い運動能力を持つ樹里に
息を切らせながら撃つ素人の銃などまず命中しない。…だからといって、心に余裕などできる筈もないが。

(なんで?何でこんなことになってるの?助けて!助けてよ!)


◆ ◆ ◆


「……はぁ、どうしようかな……?」

目が覚めると樹のふもとで寝ていた海野裕也(男子 四番)は、起き上った後、あてもなく森の中を彷徨っていた。
最初は信じなかった。これはただの悪い夢、もしく卜部が仕組んだドッキリ企画か何かだと思い込んでいた。
だが、鞄の中に入っていた「それ」が、確かな重量をもって裕也に現実を伝えてくる。
一旦立ち止まり、彼に支給された「武器」を取り出し、まじまじと見つめる。

「……これ、本物だよね……?」

銃火器は男子なら誰もが憧れる力の象徴だ。
裕也とて例外ではなく、持っているだけで何か不思議な力が湧いてくるような気分になってくる。
しかし、シンボルはシンボルとして存在するからこそ価値があるのであり、
…これを使って見知ったクラスメイトを殺して廻るというおぞましいことに使うなど考えたくもなかった。



「……うっ……!」

一瞬、弾痕だらけになって血の池の中に横たわる恋人、倉沢ほのか(女子十三番)の姿を想像してしまい、目眩が起きる。

(そうだ、ぼけっとしてる場合じゃない!早くほのかを見つけなきゃ!ほのか、どうか無事で――)


「危ない!!!!どいて!!!!」


裕也が顔を上げるのと、北沢樹里がこっちに飛び込んでくるタイミングは、ほぼ同時だった。


◆ ◆ ◆


(畜生!何で逃げるんだよ!お前が逃げるからいけねぇんだろうが!)

ゲーム開始直後は恐慄していた愛餓夫だったが、鞄の中に入っていた格好いい銃を手にしたとき
とてつもない力を身につけたような気分になり、有頂天になっていた。
これを使って女の子を悪い奴から守る白馬の騎士になるのも悪くない。
彼女いない歴17年の俺にもようやく春が巡ってきたぜ!うひょう!
などと素晴らしく場違いかつ愚かな妄想をしていた彼は、早速見つけた天心欄満なスポーツ少女
北沢樹里を騎士に守られるお姫様第一号に認定し、軽いノリで声をかけ――

思いっきり拒絶されて逃げられることになった。

愛餓夫は知らなかったが、女子の一部にストーカー疑惑を掛けられてれていて、
普段から警戒されている彼が物騒な武器を手に持って話しかけたら怖がられるに決まっていたのだ。

彼女の態度に腹を立てて威嚇のつもりで発砲したら、ますます怖がられてどんどん逃げていく始末。

(ハァハァ…!あーしんど…糞!本当にムカつくぜこの女!人を無茶苦茶走らせやがって!
 はははは…こんなに激しく運動したのはこの前みんなで路地裏に集まった時以来だなぁー。
 あー…あの時は…楽しかったなぁ!)

「待てよ北沢ぁ!待たねぇとテメェもこの間のテトみたいに――!」


「危ない!!!!どいて!!!!」


突然、樹里の動きが止まった。
樹の蔭から突然姿を現した(ように見えた)海野裕也に衝突したのだ。
走りつかれてまともな思考能力の働いていない愛餓夫は何をトチ狂ったか、
本来の趣旨を忘れてチャンスと判断し――本日四度目の発砲を転がる二人に向けて実行した。



◆ ◆ ◆


――痛い。

…あれ?

ここはどこだろう?

あ、そうか。今日は修学旅行に来てるんだっけ。

で、修学旅行が終わったら県大があるのよね。

女子400メートル障害物。今年はベストコンディションで挑まなきゃ。

その日のために毎朝欠かさずジョギングしてきたんだから。

でも、県大が終わってもずっと続けるんだろうな。

そして、お父さんやお母さんみたいな立派なスポーツ選手になるんだ。

――痛ぁ…。

…あれ?

なんで私、倒れてるんだろう?こけちゃったのかな?

あーもう。まだまだ鈍くさいなぁ。

うん、早く起きなきゃ。

…あれ?

右足の感覚が無いんだけど?

「…うぅ…北沢…さん?」

おやおや、私の下敷きになっているのは海野裕也ではありませんか。

胸が当たってたでしょこのエロ!…ま、別にいいか。減るもんじゃないし。



そんなことより早く起きなきゃ。

…あれ?

全然動かないんだけど?

「…愛…餓夫!何やってんだよ!?」
「ああ、わりぃ。手が滑っちまった。」

ねぇ、どうなってるの?

よし、ちょっと見てみよう。顔を後ろに向けて。

…あれ?

なにこれ?

―――嘘―――。

踵から先の足がない。

なんか足の先っちょの方の肉片がずたずたになって向こうに転がってるんですけど?

…あれ?

ねえ、どうしよう?帰ったら県大出れるのかな?スポーツプレイヤーは?

ねぇ、足、動かない。

どうして?

「しょ、しょうがねぇだろ、話がしたいだけなのに逃げるからじゃん。俺は悪くねぇよ?」

あ、そっか。こいつが。こいつのせいで。出れないんだ、県大。なれないんだ、プロ。

もう走れないんだ。

ふーん、そっかぁ。あはは。

「海野君。そ れ か し て。」

「―え?」

樹里は倒れた裕也が持っていた銃器、P-90サブマシンガンを手に取ると、
何気無く後方に銃口を向けて、引き金を引いた。


◆ ◆ ◆

「・・・あぁ・・・?」

愛餓夫も一瞬何が起こったか分からなかっただろう。
なにせぱららという小気味よい音が聞こえたと思ったら右腕の膝から先が吹き飛んで
無くなっていたのだから。目の前には倒れている、うまく反動を抑えきれなくて
あらぬ方向に銃口を向けている北沢が、マシンガンを乱射していて―

「・・・う・・・うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

愛餓夫はウィンチェスターを放り投げ、一目散に逃げて去った。

「逃げるな!逃げるな!逃げるなぁぁぁぁぁ!」
「北沢さん!落ち着いて!やめて!」
「離して!お願いだから離してよ!!」
「北沢さん!」
「何よ!あなたの!あなたのせいじゃない!
 あなたがいきなり飛び出してくるから!!」
「…あ…。」
「う…うぅ…。」

北沢樹里は、引き金から指を離し、

「うぅ…ひぐ…うぁぁぁぁぁ……。」

その場で泣き崩れた。


――――――――――――――――


「…ごめん…本当に。」
「…いいよ、もう。ほら、私、生きてるじゃん。それだけで十分、だよ。」
「本当に…ごめん。」

海野裕也は気分の落ち着いた樹里の応急処置を澄まし、
念の為落ちていたウィンチェスター銃と愛餓夫のディバックを回収した。
強がってるが、いままでの努力とこれからの人生の夢を断たれた者の気持ちなど
本人以外に判る筈もなく、故にかけられる言葉を裕也はもちあわせていなかった。

「ここにいたら危ないから、どこか休めるとこを探そう。動ける?」


裕也は樹里に肩を貸すと、彼女は無言でそれに従い、小さな声でつぶやいた。

「…うん…ありがとう。」

これから何をすればいいかわからない。
―ただ、どうすればいいか分からないが、
裕也はこのことの責任を取らないといけないと、心に強く誓った。


◆ ◆ ◆

「痛ぇぇぇぇ!!!痛ぇよ畜生!血が止まらねぇじゃねえか糞アマぁぁぁぁ!!!」

上着を巻いて右腕の出血を止めようともがく愛餓夫は貧血で朦朧とする意識の中、
激しい憎悪を実らせていた。その歪みきった思考はもはや救いがたく―

「北沢樹里ぃ!!!ぶっ殺してやる!!!」




【D-3 森/一日目・深夜】
【男子 四番:海野裕也(うんの-ゆうや)】
【1:僕(達) 2:君(達) 3:君(ら)、○○(呼び捨て)】
[状態]:疲労(中)
[装備]:ウィンチェスターM1873(0/4)
[道具]:支給品一式×3、P-90(150/200)、P-90の予備弾薬(200発×5本)
    12ゲージショットシェル(12/12)
[思考・状況]
基本思考:北沢樹里を助ける。
0:北沢樹里の治療ができる場所を探す。
1:誰かに襲われたら自分がなんとかする。
2:倉沢ほのかを捜す。



【女子 八番:北沢樹里(きたざわ-じゅり)】
【1:私(達) 2:あなた(達) 3:あの人(ら)、○○(呼び捨て)】
[状態]:右足損傷(極大)、疲労 (大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本思考: 呆然自失。
0:・・・・・・・・。
1:愛餓夫を許さない。


【男子一番:愛 餓夫(あい-うえお)】
【1:俺(達) 2:てめぇ(達) 3:てめぇら(ら)、○○(呼び捨て)】
[状態]:右腕損失、大量出血、貧血、疲労(大)
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本思考: 北沢樹里を殺す。
0: 傷の手当てができる所を探す。
1:北沢樹里の悪い噂を流す。
2:グループの仲間を探す。
[備考欄]
※彼と仲が良かったグループの仲間がクラスに数名居ます。