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I am… - (2009/01/27 (火) 11:25:30) のソース

*I am… ◆H7btjH/WDc

「ハァ……ハァ……」 

サーシャは、自分がどのくらい走っただろうと、思い起こしていた。 
右側にガードレール、そして左側に畑と畦道が存在する、とてもデコボコな道路に出ていた 
もちろん通る車は一切ないその道路の中央で、安堵した彼女は、膝を地につけ、そして、ただ呆然とした表情で涙を流した。 

「………ラトくん」 

彼女は、日ごろ仲のいいラトとテトが、すでに恋仲にあると思っていた。 
なのにどうしてこんなことになったのか分からない。 
どうして……… 
どうして…… 
どうして… 
ど  う  し  て  ? 

テトとラトのためを思って、彼女はラトのことを諦め、手を引いた。 
静かに彼らの恋を見守り、いつも通りの親しい友人として接して行きたかった。 
だが、サーシャの思い描く彼女たちの関係は、そんなものではなかった。 
ラトの最期の言葉を聞いて、サーシャは漸く自分が道化であることに気づけた。 

「私…馬鹿みたい」 

テトへの憎悪はあった。ラトを殺したことについてもあるが、自身の恋心を無駄にさせた、極めて女性的な私怨。 
テトを殺してはいけないと思っていた。 
だができるだろうか…?今の自分に。 
生かして罪を償わせたい。だができるだろうか? 
今の自分の頭の中には、テトを惨殺したいと言う醜い意志もある。 

それじゃだめだ……それじゃ… 
涙をぬぐったサーシャは、一つの結論を導き出す。 
このゲームを潰さなければ。 
彼女は立ちあがった。その拍子に道路の小脇に見えるものがあった。 
駆け寄って見ると、そこには人が倒れていた。 

クラスメイトの一人の和音さんだ 

「わ…和音さん?大丈夫!」 

和音さんの体に目立った外傷は無かったが、一向に目覚めようとはしない。 

「どうしよう……お願い…死なないで……」 
「………う…ううん」 
「あー…よかった!目が覚めたのね?」 

和音さんは、目を覚ますと弾と“彼”がいなくなっていることに気づく。 
そして、立ち上がるとサーシャに何も言わずにそそくさと去ろうとする。 

「??? ちょっと? 和音さん? どこ行くの?」 

戸惑いながら和音さんを引きとめようとするサーシャをちらりと見て、静かに彼女はこう言った。 

「死にたくなければここから遠ざかったほうがいい…」 
「…………近くにいるかもしれないから」 

そのまま和音さんは去っていこうとした。だがサーシャはそれを引きとめる。 
「待って! 何があったの!? 詳しく話して!」 

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約1時間前にさかのぼる 


民家から移動を始めた追原弾と和音さんは、車が通る気配のない道路に差し掛かっていた。 

「随分歩いたな…」 

弾が時折、和音さんのほうを向いても、彼女はこちらと目を合わせようともしない。 

「こんの……クソアマ…」 

そう思っていたが、口にはけして出さなかった。 
この憤りが真実ではないことくらい、弾は知っていた。 
この憤りは紛れもなく科学者の計算と機械部品が織りなす旋律の一節に過ぎない。 
どうでもいいことなのだ。1と0によってしか作られないこの憤りを、ただのプログラムと受け止めるこの姿勢もまたプログラムのうちの一つ。 

みんなを守りたい。この意志もそうだ。 

所詮はプログラム。科学者たちはそう片づける。 
自身がレプリカントであると知られれば、クラスのみんなも同様の見解を示すだろう 
それによって発生した孤立の苦しみも、もちろんプログラムで片づけることができる。 
悲しいけれども、そう言うものなのだ 

弾はそのことについて考えることをやめた。そして、思考を一新したところで己が瞳に最初に映ったのは、倒れている生徒の姿。 

「おいっ! 大丈夫かお前!」 

弾はすぐさまその生徒のほうへと駆け寄る。 
だが、“彼”を間近で見て、気づく。 
この細く長い剣を握ったまま倒れている男……片桐和夫(男子八番)を、自分は知っている。 

追原弾と片桐和夫は、一度も私的な会話を交わしたことはなかったし、それどころか目を合わせたこともなかったかもしれない。 
だが、弾の中にあるメインコンピューターにはこう刻まれていた。 

「XA-13を監視しろ。バグが認められれば破壊しろ」 

XA-13とは和夫の正式名称。つまり弾と和夫は同類なのだ 
2年以上監視を続けたが、一度もバグは認められなかった。 
だが、この状況下ではどうだ?奴にはロボット工学三原則が適応されているが、何が起こるか分からないこの状況下では……… 

「俺はクラスメートを守る…」 

この感情も、プログラムだ。 
だが弾の手は、動いていた。デイパックを軽く探り、見つけ出したある物を、和夫の額に向けた。 

「!?」 

だが、和夫は、その場にはいなかった。 


「……追原弾…正式名称XA-15………XA-13の監視役として桐原重工より派遣されたレプリカント…耐久性成人男性としては常人レベル以下…………」 

片桐和夫は、すでに和音さんの背後に立っていた。 
「!!?」 

和音さんも即座に反応する。だが、武器を持っていない今何もすることはできない。 

「……和泉初音(いずみ はつね)…通称和音さん………教師の弱音を握り、和音という通称で学生名簿に登録を強要…耐久性成人女性としては常人レベル…………彼女の殺害はロボット工学三原則で禁じられている」 

片桐和夫は、右手に剣を握りしめていたが、その剣を構えてはいなかった。 
和音さんに対しては、敵意がないことを表そうとしているようだった。 

だが和音さんは違う。怒りに燃えながら和夫に向けて、無言のまま突進を試みた。 

「……静止しなさい…」 

だが、和夫はこの状況においても冷静沈着に対応する。 
剣を振り、和音さんの首を刎ねようとしたのだ。 
もちろん彼女は対応できなかった。あまりにも早いその動きに、憤ることを忘れて、ただ死を覚悟した。 

だが、彼女が死ぬことはなかった。 
剣は首を切り裂く直前で停止し、衝撃波によって切り裂かれた彼女の髪の毛がパラパラと少しだけ空を舞っただけだった。 
彼女は、その後すぐに逃げようとしたが、和夫に背を向けた瞬間、首の後ろに和夫は軽く打撃を加えた。 

ここまでが和音さんが体感した出来事である。 

「待って! 何があったの!? 詳しく話して!」 
「詳しくは話せない。でも、あなたに二つだけ言っておく」 

「1:死にたくなければ私に同行すべき。2:そう言うことは…………思いつめるべきではない。彼が苦しむから」 

「では行く」 
「……ま…待ってよ~」 

和音さんの意味深な言葉に戸惑いつつも、サーシャは彼女を追った。 


【C-3 道路/一日目・黎明】 
【女子十六番:サーシャ】 
【1:私(達) 2:あなた(達) 3:○○(さん付け)(達)】 
[状態]:深い悲しみ 
[装備]:発煙筒×4 
[道具]:支給品一式 
[思考・状況] 
基本思考:ラトのためにもゲームを潰す 
0:仲間を募ってゲームを潰す 
1:明日美から逃げる 
2:和音さんを護る 
3:テトに会った時に、何故こんなゲームを開催したのか問い詰める 
[備考欄]  
※少なくともテトはこのゲームに絡んでると確信しました 
※少し気が晴れました 

【女子二十七番:和音さん】 
【1:私(達) 2:あなた(達) 3:○○さん(達)】 
[状態]:健康 
[装備]:双眼鏡 
[道具]:支給品一式 
[思考・状況] 
基本思考:二階堂永遠を出し抜く 
0:サーシャに守ってもらう 
1:味方を集める 
2:襲われたら容赦はしない 
3:片桐和夫と追原弾はどこへ行ったんだろう? 
4:自分の名前をバラした片桐和夫を許さない 
[備考欄] 
※朱広竜、片桐和夫がゲームに乗ったと認識しました 


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ここから先は、和音さんが気を失った後の出来事だ。 

「オイオイ…ロボット工学三原則はどうしたぁ? おもっくそ傷つけてんじゃねえかお前」 

「……それは違う…君はどうやらこの自分に敵意を持って攻撃を加えようとした………迎撃行動を行うためにも彼女が邪魔だから昏倒させたまで」 

和音さんを抱え込み、道路の隅に優しく寝かせたあとで、和夫は静かにそう言った。 

言った。という表現はこの場合適切ではないのではないか?というくらいに彼の言葉は冷たく、キーボードで打った文字が音声となったという表現のほうが正しいんじゃないかとさえ思えるほどに冷たい一言だった。 

「……少し…歩こうかXA-15………彼女を傷つけたくはないだろう…………」 

「……XA-15…君はこの自分に私怨のようなものを抱いてるんじゃあないのか?………私は何もしていないのになぜ攻撃を仕掛けた?…………」 

「いいや違うさ。あの時俺は、正直言ってお前に反撃してほしかった。だがそれ以上のことをお前はしてくれた」 
「人を襲った……それもクラスメイトを、自身の保護という理由で」 

「……話を聞いていましたか?…自分は間接的に彼女を守るために………」 

「だが、どっちみち俺は見たぜ? それが証拠になってそこに正当性が生まれる」 
「……君は…潔い人物だと思っていたが………予想していたよりも大分姑息だな…………」 
「言ってろ。欠陥品」 

弾は、ほくそ笑みながら言った。 
そうして数十分歩くと、膝の辺りまでの高さの草が生い茂る草原地帯へと差し掛かった。 
そこには、遮蔽物が一切存在してはいなかった。 

「……では…始めようか………精一杯自己防衛をさせてもらうよ…………」 

和夫は、再び剣を構えた 

「何だ? 俺と殺り合おうってのか? お前に俺が殺せるか? XA-13!」 
「……“殺す”…と言う表現には誤りがある………君の場合“破壊する”だ」 
「違うね。俺は…………人間だ!」 


弾は、手元に持っていた銃S&W M500を発砲した。 
弾丸は正確に和夫に向けて飛んでゆくが、和夫は少しだけ何もせずに佇んでいたかと思うと、即座に反応し、一太刀でそれを斬り伏せた。 

真っ二つになった弾丸が、地面に落ちるよりも速く、第二の攻撃は始まっていた。 

リーチの長い剣の一振りを、弾はジャンプをして躱し、和夫の右肩に蹴りを喰らわせる。 
だが、足のつま先に伝わった感触から判断して、ダメージはない。 

「……君は…機械だ………機械なら機械らしく…優良品種に淘汰されろ」 

咄嗟に胴体部分を和夫の斬撃から庇えたが、もう少しで右腕を斬り落とされるところだった。 回転を伴って吹き飛ぶ弾は、視点のブレる中で再び、発砲を行う。 

「クソ………ぐっ?!」 

放たれた1発の弾丸を、和夫は難なく躱した。 
そして、一発の拳を顎に喰らわせて、弾を宙高く舞い上がらせた。 

「……言ってろ…欠陥品………」 

弾は、大きな音を立てて堕ちた。


「死にたくねえ………死にたくねえなあ……もう一度……アイツと…キューブと話が………」 

思わず零れた、恐怖にも似た感情も、またプログラムだ。 
このプログラムは脳が発する危険信号と類似している物。所詮は0と1の技術の結晶である嘘の必死さ。 

「……“死にたくない”…と言う表現には誤りがある………死を恐れる行為は愚かだ…ほかのレプリカントは…………スクラップ処分を躊躇いなく受け入れる」 

片桐和夫は、倒れた弾の傍らにしゃがみ、彼を見下す。 

「……あの世に恐怖しているか?…仮にそのようなものが存在したとしても………物である君はそちらには行けない」 

ボサボサの髪の毛を引っ張りながら、剣を弾の首に近づけた。 

「……エクスキューショナーソードは…中世ヨーロッパで処刑人が使用した剣………切れ味は日本刀などには劣るが…君のような欠陥品を斬り伏せるのにはこれで十分…………」 

「確かに……」 

「……?…」 

「確かに……俺はロボットさ…だからって……夢見ちゃいけねえわけじゃ…」 

「ねえんだよ!!!」 


弾の拳には、たった一つの弾丸が挟まれており、それが一直線に和夫の右目へと伸びた。 


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弾丸は銃が放つ速度よりもはるかに遅かったが、それでも至近距離の、一瞬のパワーに賭けた一撃は、片桐和夫という化け物に多大なるダメージを与えた。 

衝撃により爆ぜた拳の部分を見て、痛がるそぶりをしながら弾は和夫から離れた。 
警戒の念は、未だ解かない。 
だが、あちらも動かない……動かない… 


一瞬だけ動いた。 


弾はそれに驚いたが、それは倒れる音だった。 

「はぁ…」 

彼は安堵した。だが次の瞬間彼は左腕の異変に気付く。 
操作を失っている。と、言うか、それ自体がなかった。そして、そこには剣を構える和夫の姿が。 

「……破壊する…」 

片桐和夫は、一心不乱に弾へと向かってきた。 

「くそったれ! 少しは俺を安心させてくれや!!」 

弾は銃を発砲しながら逃げる。 

「……無駄…」 

精一杯逃げているのだが、片桐和夫の走行速度は異常なほど速い。 
そして銃弾も、無残に斬り落とされるだけ。 
そうして、最悪のイベントが弾に訪れた。 弾切れだった。 

「マジかよ……くそったれ…」 

弾は、“死”を覚悟した。 


だが、幸運は皮肉にもこの場で訪れる。 
和夫は、倒れた。 
真の安堵が訪れる瞬間だった。 

「……もう立ち上がるなよ……こっちとしてももう無理なんだよ」 

追原弾は、剣と支給品を奪い、止めに2発の弾丸を額に向けて発砲した。 

「これでいいだろ……欠陥品…」 

弾は、任務完了を確認すると、千鳥足のまま去って行った 



片桐和夫は額に弾丸を喰らっていない。これは弾が慈悲を施したわけではない。 
右目周辺を負傷したのは、和夫の判断ミスであるが、自分が破壊されないことを彼は分かっていた。 

弾の顎に放った拳。あれが決め手だった。少しだけ効果が現れるのは遅かったが、ちゃんとそれは発現した。 
メインコンピューターを搭載しているレプリカントの頭部は、非常にデリケートである。 
あの一撃は、明らかに追原弾のメインコンピューターに傷をもたらし、片桐和夫を破壊したと誤認した。つまり追原弾は故障したのだ。 
耐久性に優れる和夫が50分以上たった今も再起動することができないくらいだから、和夫よりも粗雑に造られている弾にとっては、それが顕著であることも和夫は知っていた。 
恐らく彼は朝になるころには完全に壊れるだろう。 


つまり、追原弾の命は、もうすぐ消える。


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片桐和夫が立つのは、何もない空間の上。そこに佇み、よくわからない言葉を詠唱し続ける。 

「……異常は…今のところ見られない」 
「果たしてそうかしら」 
「……んん?…」 

二階堂永遠の姿が、そこにあった。 

「……ここは自分のメインコンピューター内だ…なぜ君がいる」 
「それは大した問題ではないわ。それよりも……」 

「あなたは今の自分に満足している?」 

【B-2 草原/一日目・黎明】 
【男子五番:追原弾】 
【(表面上の口調)1:俺(達) 2:お前(ら) 3:○○(呼び捨て)(達)】 
[状態]:左腕欠損、右手部分の皮膚パーツ損傷、メインコンピューターに小さな傷(今後の行動に大いに支障アリ) 
[装備]:S&W M500(3/5)、エクスキューショナーソード(刀身に刃毀れアリ) 
[道具]:支給品一式×2、500S&Wマグナム弾(34/40) 
[思考・状況] 
基本思考:クラスメートを助けたい 
0:和音さんが心配 
1:他のクラスメートも心配 
2:キューブと連絡を取りたい 
※すでに別エリアにいる確率が非常に高くなっています 

【男子八番:片桐和夫】 
【(表面上の口調)1:自分(達) 2:貴方(方) 3:○○(フルネーム)(達)】 
[状態]:右目周辺の皮膚パーツ損傷、メインコンピューター内の異常検索中(シャットダウン中) 
[装備]:なし 
[道具]:なし 
[思考・状況] 
基本思考:何をすればいいのか分からない 
0:自身の中の異常を検索する 
1:終わり次第敵と見なしたXA-15(弾)を追跡し破壊する 
2:なぜ二階堂永遠が…? 

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|[[壱里塚と久世の異常な愛情>壱里塚と久世の異常な愛情 または彼らは如何にして心配するのを止めてサーシャを愛するようになったか]]|サーシャ||
|[[TOWER]]|追原弾||
|[[TOWER]]|和音さん||
|&color(cyan){GAME START}|片桐和夫||



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