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修羅 - (2009/04/01 (水) 08:40:59) のソース

*修羅 ◆hhzYiwxC1.


「クソ……眠………」 

内木聡右は、そうボヤキながら、慎重に移動していた。今のところ誰とも会っていないが、まだ油断はできない。 
…だが、当面の敵はこの眠気だろう。辺りも少し明るくなってきた。もうじき夜は明けるだろう。 
このまま何事もなければ事も簡単に押し進むわけだが、正直無理だろと聡右は思っている。 
戦う覚悟はできている。だけども“殺す覚悟”だけは――したくなかった。 
そんな覚悟は、この世を生きる上で必要ないし、そもそもそれを覚悟と認識すること自体おかしな話だ。そんなもんは覚悟でも何でもない。男なら愛する者を殺す覚悟よりも、愛する者に殺される覚悟を………… 
親父さんから幼少期に言われた言葉を、聡右は思い出していた。 

「だからって喜佳に殺されるのは、まっぴらご免蒙るけどな。ハハッ」 

自分で言った言葉に、自らツッコミを入れている自分が、頻りに虚しく思えてきた。 

「……やっぱあれだな。10年間同じ屋根の下で…まだ腐れ縁じゃ、仕舞いにゃアイツに刺されちまうってもんか…………」 

「あーくそ…まただよ。何だ俺は……ポエマーに転職しちまったのか? そんなに一人が寂しいのか?」 

「一人じゃないですよ」 

ゆっくりと振り向いた先には、デリンジャーを構える吉良邑子の姿があった。 


「おいおい…いつの間にいやがったんだよ。吉良」 

彼女の存在に、正直聡右はかなり驚いたようだった。彼女は、クラスの中でも日頃からとっつきにくかったし、出会いたくはなかった。 

「今さっきです」 
「で? 俺を殺すか?」 
「ハイ!」 

明らかに場違いな笑顔と共に銃口を向けながら吉良は無邪気な子供のように頷いた。 
聡右と吉良は、おおよそ5m弱距離を置いている。今のところ吉良はこちらと距離を詰める様子は 
発砲する様子も見られない。聡右は、コルト・パイソンを、右手に持ち、体の影に隠しながら一歩ずつ後退り、距離を詰める。少しでも距離を詰めれば、当たる確率も少しは低くなるだろう。ゆっくり…一歩ずつ…そう言い聞かせつつ、聡右は後ずさる。 

「あなたは個人的に嫌いではないのでちょっとお話に付き合ってください。内木君」 
「…………は?」 
「だからお話です。でも嫌いではないと言う言葉を勘違いしないでくださいねッ?! 私が愛しているのは現時点では御主人様…英人様しか愛していませんからね!?」 


吉良の焦りを含んだ言葉に、聡右は耳を疑った。 

「英人……? 玉堤英人のことか?」 
「そうです! 私は最初に顔を会わせた英人様の奴隷になったんです! そして彼から与えられた“使命”を全うするつもりです」 
「ツッコミたいところが山ほどあるんだがいいか…」 
「私はどうせなら思う存分私を嬲ってくれる人か、誠実な人がよかったんです! 英人様じゃなければ内木君やケトル君の奴隷にもなってみたかったわ!」 

吉良は、聡右の言葉をすべて無視して無理矢理話を進め続ける。「お話をしたい」と言うのは嘘だったのかと、さらにツッコミたくなる。 

「オイオイ吉良ー。吉良さーん」 
「? 何ですか?」 

「一つ言いかい? 玉堤から与えられた“使命”ってなぁ何なんだい?」 

「ハッハッハー!! よくぞ聞いてくれました内木君!」 

聡右には、やたらとテンションの高い吉良邑子が、何でこの状況でこんなに楽しそうな全く分からなかった。このハイテンションは、悩みのない奴とか、ムードメーカーの持つテンションとは、明らかに違うもので、決して他人を楽しませるためのものではない。 


「“間由佳”以外を……皆殺しにしろって命令です!!」 
吉良は、笑顔のままでデリンジャーの引き金を引いた。 


これは――純粋無垢な悪意に満ちた笑顔だ。 


「どうして躱すんですか~。脳天に弾丸を喰らえば楽に逝けるのに」 
「悪いがお断りだね。俺ァ喜佳が心配で死にそうだってのにこれ以上死にそうにさせられちゃあ困る!」 
「鬼崎さんですか…」 

吉良はもう一発、何やら考えながらもう一発聡右に向けて発砲した。そして、それも聡右に躱されると、デイパックから2発弾丸を摘まみだして、素早く装弾する。 
その隙に、聡右は近くの木の陰に身を隠したが、吉良は装弾を思ったよりも速く終わらせ、聡右が隠れている木にむけて的確に発砲し、木の皮を弾き飛ばした。 

「私あの人個人的に嫌いなんですよ……おっぱいがおっきいからじゃないですよ? 僻んでなんかいませんよ?」 

話す言葉自体は、非常に他愛もなく、それだけならば、普通の女子高生を連想することも可能だが、それだけじゃないからまず無理だ。 

「だったら今から喜佳の乳を萎ませてくるから逃がしてくれや!」 
「あれは触った時の感触が本物だったから無理でしょうね」 
「触ったことあんのかい!! 俺なんて十年一緒に住んでるのに触った事ねえぞ!」 

「……はっ!」 

聡右は、喜佳と同居していることをクラスメイトにはひた隠しにしていた。そして、今まで何とかバレずに乗り越えてきたが、もうこうなっては後には引き返せない。 

「仲いいと思ったら同居してたんですか…そして毎日熱い夜の営みを……きゃっ!恥ずかし!」 
「あー! ウゼー!! お前さっきの話聞いてなかっただろ!!」 

吉良は、聡右に少しずつ距離を詰めながら、気色が悪いくらいの笑顔で発砲を続けていた。 
2発撃ち終え、弾が無くなれば移動しながら手際よく装弾する。無駄のない仕草だ。距離もすぐに縮まる。 

「別にいいんですよ! どうせ内木君もすぐにくたばるんですから! ああ…これで三人目…………私とっても嬉しいです…御主人様の役に立ててるってちゃんと実感できます……ああ…英人さまぁ………」 

確実に距離は縮まっていた。このままでは、確実に撃ち殺される…聡右は、“ある覚悟”をした。 
そうして、再度1発の弾丸が放たれる。もう既にかなり近くに吉良は来ており、聡右はコルト・パイソンを構え、あろう事か銃弾を取り出し、デイパックの中に落とした。 


「……何してるんですか?」 


聡右は、吉良のその声を聞くと同時に、あろうことか木の陰から姿を現した。 

「やっと死んでくれる気になりましたか♪」 
「いいや…まあ死ぬかも知んねえけど……最“後”に頼みがあんだ」 

「決闘を申し込みてえ」 



「決闘…ですか?」 

吉良は、聡右の言葉に少しだけ驚いたと言う風だった。 
聡右はコルト・パイソンのリボルバーを展開させ、一発残っていた弾丸を取り出した。 

「お前のそのデリンジャー。そん中に入ってるのも一発。こっちにも一発だ……どっちが速いか。勝負しねえか?」 
「いいですね! そう言うのって燃えますよね! やりましょうよ内木君!!」 

吉良は相変わらず気味の悪いハイテンションを身に付けていた。 

「背を向けあって……3歩前進したところで振り向き様に撃つ。簡単だろ?」 
「ハイ! でも敗けませんよ~英人様のためにもお命頂戴です!」 

聡右は、吉良の本質が読めていた。弾をしまい、リボルバーを閉じると、吉良と背を向けて密着し合う。 
「「1歩…………」」 



互いにアクションは見せない。そうして、二人はほぼ同時タイミングで右足を前に踏み出した。 


「「に…」」 

そう言いかけた途端に、吉良はルールを破り弾丸を発砲した。 


――――― 


吉良は、頭の吹き飛び、倒れた内木聡右を見つめていた。 


はずだった。だが違ったのだ。内木聡右は、死んでいない。それどころか、弾丸は発射する少しだけ前にしゃがんで躱されていた。 
まるで最初から、自分がルールを破ることを分かっていたかのように。 

そうして聡右は振り向き、コルト・パイソンの銃身で吉良の頭部を殴打した。 

「?! ……そん……な」 
「悪いな…だが手加減……ちょっとはしたつもりだぜ」 


吉良は、一撃で倒れた。先ほども言ったように、聡右は吉良の本質を見抜いていた。こいつは無邪気だがその分邪悪でもある。絶対にルールを破ると、聡右は踏んでいた。だからこそ初撃を躱すことだけに全力を注げた。 

そうして、呆気に取られる吉良に、一撃を喰らわせる。 
コルト・パイソンに弾丸は込められていなかった。あの時弾丸をしまったのは弾倉ではなく、制服の袖。ここまでされても、不思議と吉良を殺したいとは思わなかった。吉良でなくとも同じだ。改心できるならばしてほしい。 
こんな馬鹿げたゲームに乗るなんておかしい。若狭の思うつぼだからだ。 
「悪いな。できれば普通の方法で生き延びてくれよ」 
聡右は、それだけ言うと、そそくさとその場から走り去った。 



「うぅ……頭が…」 
吉良は、聡右が去ったあとすぐに、千鳥足のまま立ち上がった。 

「ああ…銃は……ちゃんとありますね…」 

吉良は、すぐに傍らにあったデリンジャーに目を向けた。そして、すぐにデイパックから銃弾を取り出し、装弾する。 

「…………やってしまったわ…私って駄目な娘…」 

「ああホントにダメダメだな」 

突然、後ろから心地のいい声が響いた。 

「…誰です?」 
「お前は主人の声も思い出せないのか? 奴隷失格だな。奴隷の奴隷にでもなってろよカス」 

「ひ…英人様!?」 
吉良のすぐ後ろには、玉堤英人の姿が、英人は、心底吉良を見下すような視線で吉良を見つめる。 

「こんな奴隷…要らないな……あっさり倒される奴隷なんて」 
「待ってください!! 次は頑張ります……だから…………捨てないで…」 

吉良は、涙ながらに英人に懇願した。 
本当はそこに英人はいないのに。本当は自分が殴られた時のショックで幻覚を見ているだけなのに。 



【G-6 山道/一日目・黎明】 
【男子二十二番:内木聡右】 
【1:俺(たち) 2:アンタ(たち) 3:あの人、奴(ら)、○○(名前呼び捨て)】 
[状態]:健康 
[装備]:コルト・パイソン(6/6) 
[道具]:支給品一式、予備弾(18/18) 
[思考・状況] 
基本思考:喜佳と合流したい。仲間を集めてゲームを潰す 
0:ゲームに乗る気はない。 
1:戦いを極力避ける 
2:助けを求める生徒は見捨てない(だからと言って油断もしない) 
3:襲ってくる者は退ける(殺しはしない) 
4:内心では吉良が改心してくれて、生き残ることを望んでいる 
[備考欄] 
※喜佳がもしもゲームに乗っていたら、どうするかまだ決めていません(死ぬことはないだろうとは思っていますが、それでも心配です) 
※喜佳が銃を扱える事実は聡右以外は知りません 
※玉堤英人が吉良邑子を利用し、人を殺させていると思い込んでいます 

【9:吉良邑子(きら ゆうこ)】 
【1:私(たち) 2:貴方(たち) 3:あの人(たち)、ご主人様、お嬢様、○○(名字くん、さん付け)】 
[状態]:頭を殴打、倦怠感、自分の無能さに対する憎悪 
[装備]:レミントン・デリンジャー(2/2) 
[道具]:支給品一式×3、予備用44マグナム弾(24/40)、木刀 
[思考・状況] 
基本思考:ご主人様(英人)の命令に従い、間由佳以外を皆殺しにする 
0:間由佳がもしゲームに乗っていても出来うる限りは説得する 
1:もし彼女を殺してしまった場合はご主人様を殺して自分も死ぬ 
2:自分が見つける前に彼女が死んでいた場合も、1と同様の行為を行う 
3:聡右を逃がしてしまったことが相当ショック 
4:私はいらない娘なのかしら…… 
[備考欄] 
※他生徒に出会い、交戦に縺れ込んだ際に、彼女は「ご主人様(英人)の命で動いている。」と言いかねません(彼女に悪意はない) 
※如月兵馬の「雫切り」の太刀筋をなんとなく覚えています 
※H-5の民家の一つは、未だに電気が点いています 
※H-7の海岸に如月兵馬の遺体が横たわっています 




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