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CROSS POINT - (2009/05/24 (日) 19:25:50) のソース

*CROSS POINT ◆EGv2prCtI. 


 和音さんからここまでのいきさつを聞き、サーシャはただ「そう」と言って俯いただけだった。 
 和音さんは、そんなサーシャを不思議そうに見ていた。 
 しばらくはそのまま二人は動かなかったのだけれど、サーシャが突然何かを決心したかのように立ち上がり、そのまま歩き始めた。 
 和音さんも何も言わずにサーシャに続いていく。 

 サーシャからもこちらの状況は全て説明していた。 
 久世明日美に襲撃されたことだ。 
 明日美はもはや狂っていると言ってもよかった。 
 死んだところで何が救われると言うのか。 
 冷静に考えれば分かることを明日美は気付いてすらいなかったのだ。 
 それでも相手はサーシャを殺すつもりでいた。 
 こちらに発煙筒が渡されていなかったら今まで生きていられたかも怪しいのだけれど。 

 まだ――私は死んでしまう訳にはいかない。 
 ラト君が私を愛していてくれたことと、それが分からなかった自分の愚かさを償うまでは。 

 そして、その償いはテトへの裁きを以て果たされる。 
 そうしなければ、多分、自分には本当に救われる権利なんて無い。 
 他のクラスメートにしてもそうだ。 
 明日美の時はサーシャは逃げ切れたが、それとは別に誰かが誰かを殺してしまっているかも知れない。 
 そんな可能性がある残酷な事態が現に起こっている。 
 何より――それを起こしたかもしれないテトを許せない。絶対に。 



「……サーシャさん」 
 和音さんがサーシャの腕をぽんぽんと叩く。 
 歩きながら考えていたサーシャはその声でふっと気が付き、そしてこちら側の少し遠く、何かが横になって倒れているのが見えた。 
 ――女子制服と、同じ色調の何かが。 

 明らかに、その倒れているものが着ているのはその制服だった。 
 つまりあそこに常にジャージを着ている貝町ト子(女子五番)以外の女子の誰かなのだ。 
 それを理解した時、サーシャの頭の中から急速に血が引いていくのが分かった。 
 こんな物騒な時にわざわざこんなところで寝るなんて普通の神経では考えられない。 

 結論は一つしかなかった。 
 そうであって欲しくないと思っても、もはや避けようがなかった。 
 サーシャと和音さんが走って近寄ると、それが誰なのかは嫌でも直ぐに理解出来た。 

 死体は二つあった。 
 一つ目は古賀葉子(女子十五番)だった。 
 胸の辺りに赤くぬめりを持った何かが広がっている。 
 とても悔しそうな表情をして死んでいた。 
 それでもこちらはまだきれいな状態だった。 

 二つ目は麻倉美意子(女子一番)。 
 こちらは何かで喉を縦に切り裂かれている。 
 その部分の損傷があまりにも酷い。 
 横暴に刻んだようにズタズタになっているのだ。 
 とにかく――とても直視できるような状態ではない。 

 あまりの惨状についサーシャは吐き気を催し、戻しかけたが、和音さんが素早くサーシャの喉元に手を回し、そのまま押さえ付けた。 
 そして和音さんが、「静かにしなさい」と呟くように言った。 
 サーシャもその意図が分かっていた。 
 分かっていたのだけれど、迫りくるそれを止めることがどうしても出来ない。 


 二人を殺したクラスメートがまだこの近くに居ることは確実だ。 
 音なんて出すだけで自殺行為になる。 
 必死に堪えて、なんとか抑えるとサーシャは息をついた。 
 そして動きを止めずに和音さんの肩を借りて死体を見ずに済むようにすぐに木陰に隠れた。 
 それから胃が落ち着くまでと思って、座り込んだ。 
 強烈な目眩も重なって、思ったより強烈なショックだったと感じる。 

 やはり気分がいいものでは無い――死体を実際に見るのは。 
 本の中で人が死んでいくのはよく見かける。 
 だが、それでも本当に骸を確かめた内に入る訳が無い。 
 道端で死んでいる野良犬や野良猫にすらサーシャは心を痛めたことがある。 
 ましてや見知った同級生のそれでは…… 

 ――いや。 

 先程までテトを殺そうとしていたくせに、自分は何を思っている? 
 一時的にもそうしようとしたのに、自分は何から目を背けている? 
 やっぱり、自分は弱いのか? 
 このままではテトに勝てる訳が無い。 


「若狭です。みんなー、元気にやってるかー? じゃあ六時になったから放送するぞ。まず死んだ友達の名前を呼ぶぞー」 
 サーシャと和音さんはぎょっとして顔を上げた。 
 若狭吉雄の電子的に歪んだ声が聞こえる。 
 そうだ――もうそんな時間になっていたのだ。 
 そして死んだ者の発表。 
 和音さんが静かに地図(地図の隣には、名簿が書いてあった)を取り出す中、サーシャはそれを黙って聞いた。 

「男子からです。多いなー。一番、愛餓夫君。五番、追原弾君。七番、加賀智通君。十番、如月兵馬君。十二番、グレッグ大澤君」 

 和音さんが次々と名簿の名前に線を引いていく中、またもサーシャは衝撃を受けた。 
 自分と同じ生徒会のグレッグ大澤の名前が呼ばれた。 
 自分よりも年上で、とても優しかった彼が。 
 ――死んでしまった。 
 まるでラトの時のような虚脱感が襲い掛かってくる。 
 弾のことについては、和音さんはある程度悟ってはいたようだけれど。 


「十四番、鹿和太平君。十五番、宍戸亮太郎君。十七番、尻田堀夫君。二十一番、トマック君、二十三番、ノーチラス君。二十四番、平田三四郎君」 

 ノーチラスまで―― 
 とにかく、気落ちしてる場合じゃない。 
 そう言い聞かせても、若狭の宣言ひとつひとつが重かった。 
 一人の名前を聞かされる度、その顔が浮かんで頭から離れない。 

「次は女子だー。一番、麻倉美意子さん。六番、神崎志緒里さん。十五番、古賀葉子さん。十七番、シルヴィアさん」 

 サーシャは頭をガンと殴られたような気がした。 
 強気がっては、時々悲しげな顔をしていたシルヴィア。 
 日頃気にかけていた彼女すら死んでしまった。 
 既に大量のクラスメートの名前が呼ばれていて頭がほとんど麻痺しそうになっていたのだけれど、そのショックは今までより遥かに大きかった。 

「二十一番、仲販遥さん。二十六番、松村友枝さん。 
 いいペースだぞー。では禁止エリアを発表します。きちんとメモしておけよー」 
 一時間後に『C-4』、三時間後に『E-3』、五時間後に『D-6』だー」 
 和音さんが地図にそれを書き込む。 
「みんな色んな人が死んで悲しいだろうけど、人生は別れの連続です。今の内に慣れて耐えられるようにしないといけませーん。じゃあ今日も一日頑張ろうなー」 
 そんな若狭の呑気な一言で、放送は締め括られた。 
 放送が終わった後は、また周囲に静寂が訪れた。 
 木の上、鳥のさえずりが聞こえたが、そんなことはどうでもよかった。 
 多くのクラスメートが死んでしまった――のは、多分事実だ。 
 現に美意子と葉子の名前も呼ばれている。 

「……サーシャさん」 
 不意に、和音さんが地図をサーシャに突き出した。 
「あなたも自分のものに書いておいた方がいい……」 
 そう言われて、自分もデイパックから地図と鉛筆を出した。 
 禁止エリアを写して、それからまず愛餓夫の名前の上に線を引こうとして――手を止めた。 
 それは――それはとにかく、ひど過ぎる。 
 結局、名前の横に点を付けていくだけに留めた。 
 そして、ラトの名前の横にも。 
 何故か、まるで自分がクラスメートを殺していってるような感覚がして罪悪感がした。 
 名前を書いたらその名前の人物が死ぬ、そんな漫画だか映画があったからだ。 


 その間に、和音さんは美意子と葉子の荷物を物色していた。 
 よくあんなひどい光景に耐えられるなとは思ったが、単純に和音さんも内心嫌だと思っているに違いない。 
 それともただサーシャが弱いだけなのか。 

 和音さんが手に何かを持って戻ってきた。 
 輪のようなもの、ダーツの束、そして――鉈。 
 そして、和音さんがサーシャに鉈を手渡す。 
「……これが、麻倉さんの鞄に入っていた」 
 その鉈を手に持ち、それが鉈ではなく刃が広いナイフだと気付いた。 
 美意子のデイパックに、これが? 
「どうして……持っていなかったの?」 
 この状況ではまず突然の襲撃に備えておくのが一番かも知れない。 
 いや、持つとはいかなくてもすぐに手に届く場所にしまっておく筈だ。 
 何故、美意子は――? 

「……多分」 
 和音さんが、口を開いた。 
「麻倉さんは少なからず悪に対して抵抗があった。だから、どんな理由があっても自分も悪にならないように持たなかった……」 

 ああ。 
 そうか。 
 サーシャはようやく思い出して納得した。美意子は、探偵だった。 
 彼女の噂はよく耳に届いたのに。 
 和音さんに言われてようやく思い出した。 

 私はやっぱりクラスメートのことをあまり覚えていない。 
 なのに、そう言う人達の死を悲しんでいる。 

 これは、――余計なことなのか? 
 何も知らない自分が泣くことで相手を汚しているのでは? 

 考えても答えが出る訳も無い。 
 今は――今はとにかく、動かなければ。 
「和音さん、これからどうするの?」 
「……片桐和夫からは離れたい」 

 つまり、確実に逃げるには南に行く必要がある。 
 和音さん達が襲われたのは北の辺りだったので、そこを考慮しなければならない。 
 だが他の問題もある。 
 禁止エリアになってしまう場所――が近くにあるのだ。 
 一時間後に『C-4』がそうなってしまう。 
 サーシャ達が今どの辺りに居るのか分からなかったが、C-4は森。 
 気付かない内にもうC-4の中に入ってしまっているかも知れないのだ。 
「……サーシャさん」 
 和音さんが、急に指を指した。 
「あちらに何か建物がある……」 

 サーシャはそちらを見渡した。 
 確かに、よく奥を見ようとすれば何か建物が見える。 
 地図を見るとこの近くには分校か診療所があった。 
 そこに行けばしばらく禁止エリアに関しては安全かも知れない。 

「そうね、あそこに行きましょう」 
 考えているだけでは駄目だ。 
 このままでは首輪が爆発してしまう可能性もある。 

 そうして、二人は動き始めた。 
 ――その先に何が待っているのか、予測する余裕も無かったのだけれど。 


【C-5 森/一日目・朝方】 
【女子十六番:サーシャ】 
【1:私(達) 2:あなた(達) 3:○○(さん付け)(達)】 
[状態]:深い悲しみ 
[装備]:ブッシュナイフ、発煙筒×4 
[道具]:支給品一式 
[思考・状況] 
基本思考:ラトのためにもゲームを潰す 
0:仲間を募ってゲームを潰す 
1:明日美から逃げる 
2:和音さんを護る 
3:テトに会った時に、何故こんなゲームを開催したのか問い詰める 
[備考欄] 
※少なくともテトはこのゲームに絡んでると確信しました 
※少し気が晴れました 

【女子二十七番:和音さん】 
【1:私(達) 2:あなた(達) 3:○○さん(達)】 
[状態]:健康 
[装備]:ダーツセット、双眼鏡 
[道具]:支給品一式、首輪の残骸 
[思考・状況] 
基本思考:二階堂永遠を出し抜く 
0:サーシャに守ってもらう 
1:味方を集める 
2:襲われたら容赦はしない 
3:自分の名前をバラした片桐和夫を許さない 
[備考欄] 
※朱広竜、片桐和夫がゲームに乗ったと認識しました 

※二人は『D-4』の分校か『B-6』の診療所に向かいました 



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