汚れなき殺意 ◆CUPf/QTby2
あたしのもっとも古い記憶は、人形を解体する自分の手。
ママに買ってもらった着せ替え人形をその日のうちにあたしは壊した。
ママは激怒した。「そんなことをしたら、お人形さんが痛がるでしょ」って言って。
「お人形さんはもっともっと痛いんだから」ってヒステリックに怒鳴りながら、
何度も何度もあたしを叩いた。
ママに買ってもらった着せ替え人形をその日のうちにあたしは壊した。
ママは激怒した。「そんなことをしたら、お人形さんが痛がるでしょ」って言って。
「お人形さんはもっともっと痛いんだから」ってヒステリックに怒鳴りながら、
何度も何度もあたしを叩いた。
悪いことをしただとか、そんな風には思わなかった。
むしろ、興味をそそられた。人形も痛みを感じる、という説に。
あたしは聴いてみたいと思った。人形の悲鳴を。苦痛を訴えるその声を。
人形もあたしと同じように痛みを感じるのか、それを知りたくて仕方がなかった。
むしろ、興味をそそられた。人形も痛みを感じる、という説に。
あたしは聴いてみたいと思った。人形の悲鳴を。苦痛を訴えるその声を。
人形もあたしと同じように痛みを感じるのか、それを知りたくて仕方がなかった。
そう、あたし……、
嵐崎・キャラハン・蘭子(らんざき・-・らんこ/女子二十番)と同じように。
嵐崎・キャラハン・蘭子(らんざき・-・らんこ/女子二十番)と同じように。
あたしの育った家は、常に暴力が満ちていた。
パパはママに暴力をふるい、ママはあたしに暴力をふるう。
問題が起きれば暴力で解決。それが日常、当たり前のことだった。
パパはママに暴力をふるい、ママはあたしに暴力をふるう。
問題が起きれば暴力で解決。それが日常、当たり前のことだった。
なのにどうして、人形を壊しただけのことで、ママはあんなに怒るんだろう。
違和感を覚え、あたしは苛立つ。人形の悲鳴を聞きたくて聴きたくて仕方がない。
けれどもウチには人形がない。あの日以降、ママは人形を買ってくれなくなった。
おねだりすれば、暴力の嵐。ぶたれ、殴られ、蹴られ、そして叩きつけられる。
違和感を覚え、あたしは苛立つ。人形の悲鳴を聞きたくて聴きたくて仕方がない。
けれどもウチには人形がない。あの日以降、ママは人形を買ってくれなくなった。
おねだりすれば、暴力の嵐。ぶたれ、殴られ、蹴られ、そして叩きつけられる。
だからあたしは他所の家でこっそり人形を解体した。
しかし人形は何も言わない。どういう経緯なのかはわからないけれど、
何故かいつもあたしの行為は親にバレ、そしてまた暴力を浴びる。
しかし人形は何も言わない。どういう経緯なのかはわからないけれど、
何故かいつもあたしの行為は親にバレ、そしてまた暴力を浴びる。
それでもあたしはやめられない。人形を見ると、壊したくなる。
あるとき、その日もいつものように、あたしは人形の手足をもいだ。
けれどもその日は少し違った。人形の持ち主に、現行犯で見つかった。
持ち主は、あたしよりもひとつ年下の女の子。
彼女は金切り声を上げ、両手をぐるぐる振り回しながら、あたしに殴りかかってきた。
泣きながらあたしの髪を引っ張り、頬をつねり、爪を立てて身体中を引っかく。
あたしは反撃した。問題が起きれば暴力で解決、それがあたしの日常だった。
あるとき、その日もいつものように、あたしは人形の手足をもいだ。
けれどもその日は少し違った。人形の持ち主に、現行犯で見つかった。
持ち主は、あたしよりもひとつ年下の女の子。
彼女は金切り声を上げ、両手をぐるぐる振り回しながら、あたしに殴りかかってきた。
泣きながらあたしの髪を引っ張り、頬をつねり、爪を立てて身体中を引っかく。
あたしは反撃した。問題が起きれば暴力で解決、それがあたしの日常だった。
パパのように、ママのように、あたしは彼女に暴力をふるった。
感情の赴くままに暴れることしか出来ない子供と、
幼いながらも他人の痛めつけ方を見知っているあたし。
あたしは彼女を圧倒した。まるで安物のおもちゃのように、
わんわんと泣き叫びながら、彼女は悲鳴を上げ続ける。
感情の赴くままに暴れることしか出来ない子供と、
幼いながらも他人の痛めつけ方を見知っているあたし。
あたしは彼女を圧倒した。まるで安物のおもちゃのように、
わんわんと泣き叫びながら、彼女は悲鳴を上げ続ける。
楽しかった。面白かった。胸の奥からもやが消えた。
あたしの意思、あたしの動き、あたしの力、そのすべてに彼女が全身で反応する。
あたしの心は自由になった。暴力の支配する家、ママの横暴、
自分を取り巻くすべての事象に流されるままの無力な子供から解放された。
あたしの意思、あたしの動き、あたしの力、そのすべてに彼女が全身で反応する。
あたしの心は自由になった。暴力の支配する家、ママの横暴、
自分を取り巻くすべての事象に流されるままの無力な子供から解放された。
もう、人形の悲鳴は気にならない。
生身の人間を痛めつける。その楽しさにあたしは目覚めた。
生身の人間を痛めつける。その楽しさにあたしは目覚めた。
□ ■ □
……目を覚ますと、そこは知らない部屋だった。
明かりはない、それ以前に家具もない、生活感がまるでない。
窓から差し込む月明かりが、やけに眩しく感じられる。
まるで、パパとママがあたしを置いて夜逃げしちゃったあとみたい。
そんな錯覚に囚われる部屋に、あたしは独り横たわっていた。
明かりはない、それ以前に家具もない、生活感がまるでない。
窓から差し込む月明かりが、やけに眩しく感じられる。
まるで、パパとママがあたしを置いて夜逃げしちゃったあとみたい。
そんな錯覚に囚われる部屋に、あたしは独り横たわっていた。
二度寝なんて、出来そうになかった。
首を圧迫する違和感が、じっとしている場合じゃないぞとあたしを急かし、苛立たせる。
外には36人の獲物がいる。手加減なしで暴力をふるい、壊せる相手が36人。
早くしないと、誰かに取られる。それどころか、二度寝なんてしていたら――
首を圧迫する違和感が、じっとしている場合じゃないぞとあたしを急かし、苛立たせる。
外には36人の獲物がいる。手加減なしで暴力をふるい、壊せる相手が36人。
早くしないと、誰かに取られる。それどころか、二度寝なんてしていたら――
あたしは勢いよく身を起こし、窓から外を覗き見る。
地面が遠い。自分のいる部屋は二階なのだと判る。
周囲には住宅が点在しているけど、どの家屋も明かりが消えていて、
生活音ひとつ聞こえてこない。まるで、町自体が先に死んじゃったみたい。
地面が遠い。自分のいる部屋は二階なのだと判る。
周囲には住宅が点在しているけど、どの家屋も明かりが消えていて、
生活音ひとつ聞こえてこない。まるで、町自体が先に死んじゃったみたい。
――そろそろ出発しよっかなー。他の誰かに獲物を取られちゃう前に。
そう思い、視線を室内に戻そうとしたとき、近くの路地で影が動いた。
人がいる。歩いている。あの様子では、まだこちらには気付いていない。
あたしは影を観察する。背格好や歩き方から、同じクラスの
有栖川桜(ありすがわ・さくら/女子二番)なのだと判る。
人がいる。歩いている。あの様子では、まだこちらには気付いていない。
あたしは影を観察する。背格好や歩き方から、同じクラスの
有栖川桜(ありすがわ・さくら/女子二番)なのだと判る。
有栖川桜。素行の悪い生徒をあたしが取り締っていると、
不満そうな、あたしを非難するような目つきで睨んでくる子。
それだけじゃない。派手すぎる頭の鹿狩瀬荻矢(かがせ・おぎや/男子四番)に
罰を与えようとすると、決まって横から顔を出し、あたしのやり方に口を挟む。
なんて生意気な。お仕置きしてやりたくなるけど、『生意気禁止』なんて校則はない。
不満そうな、あたしを非難するような目つきで睨んでくる子。
それだけじゃない。派手すぎる頭の鹿狩瀬荻矢(かがせ・おぎや/男子四番)に
罰を与えようとすると、決まって横から顔を出し、あたしのやり方に口を挟む。
なんて生意気な。お仕置きしてやりたくなるけど、『生意気禁止』なんて校則はない。
だから、違反ポイントを探す。あたしはすぐに発見する。
彼女の手にはフライパン、理由もなく学校に持ってくるなんてアウトだ。
こうして荻矢だけでなく、桜も取り締まり対象に決定する。
でも、フライパンは高熱を帯びていて、触れたあたしが火傷する。
そうこうしているうちに授業開始のチャイムが鳴り、うやむやのうちに荻矢は解放。
彼女の手にはフライパン、理由もなく学校に持ってくるなんてアウトだ。
こうして荻矢だけでなく、桜も取り締まり対象に決定する。
でも、フライパンは高熱を帯びていて、触れたあたしが火傷する。
そうこうしているうちに授業開始のチャイムが鳴り、うやむやのうちに荻矢は解放。
荻矢をかばう。それが桜の目的だ。あたしは苛立つ。けれども取り締まれない。
先生や他の風紀委員が居合わせたときには、フライパンからは熱が引いている。
あたしだけが火傷をする不思議なフライパン。間違いなく、桜の仕業だ。
でも、証拠がない。下手に被害を訴えれば、こちらが変な目で見られかねない。
先生や他の風紀委員が居合わせたときには、フライパンからは熱が引いている。
あたしだけが火傷をする不思議なフライパン。間違いなく、桜の仕業だ。
でも、証拠がない。下手に被害を訴えれば、こちらが変な目で見られかねない。
それ以前に、あたしは自分を被害者のポジションに置くのが嫌いだ。
何かされたら、自力で報復。二度とそんな真似が出来ないよう、徹底的に痛めつける。
それがあたしのジャスティスだ。起き上がってきたら? 歯向かってきたら?
むしろ、望むところ。だって、長く楽しめるから。くたばるまでの時間が長いってことは、
相手に叩き込める暴力の回数もバリエーションもいつもより多い、ってことでしょ?
何かされたら、自力で報復。二度とそんな真似が出来ないよう、徹底的に痛めつける。
それがあたしのジャスティスだ。起き上がってきたら? 歯向かってきたら?
むしろ、望むところ。だって、長く楽しめるから。くたばるまでの時間が長いってことは、
相手に叩き込める暴力の回数もバリエーションもいつもより多い、ってことでしょ?
だから、喧嘩を売られるのは、決して嫌いなんかじゃない。
問題は、桜には、あたしと正面から喧嘩をするつもりなんてないってこと。
そのクセに、妨害だけは一人前。リスクを背負わずあたしの邪魔をするなんていい度胸、
二度とそんな小ざかしい真似が出来ないように痛めつけてやりたいけど、彼女には隙がない。
まるで雪が降り積もるように、桜に対する淡い不満があたしの中に蓄積していく。
やがて、桜の顔を見るだけで、あたしは苛立つようになった。
問題は、桜には、あたしと正面から喧嘩をするつもりなんてないってこと。
そのクセに、妨害だけは一人前。リスクを背負わずあたしの邪魔をするなんていい度胸、
二度とそんな小ざかしい真似が出来ないように痛めつけてやりたいけど、彼女には隙がない。
まるで雪が降り積もるように、桜に対する淡い不満があたしの中に蓄積していく。
やがて、桜の顔を見るだけで、あたしは苛立つようになった。
でも、今は違う。あたしは嬉しい。嬉しくて楽しくて心が弾んで仕方がない。
この場では、校則なんて口実がなくても、思う存分暴力をふるえる。
あたしと正面からやり合うつもりのない相手を一方的に叩きのめしたとしても黙認される。
そんな場所で最初に見つけたのが有栖川桜、痛めつけたくて仕方のなかった相手。
しかもこの歩き方、間違いなく桜は無傷だ。万全の状態の桜を壊れるまで痛めつける。
この場では、校則なんて口実がなくても、思う存分暴力をふるえる。
あたしと正面からやり合うつもりのない相手を一方的に叩きのめしたとしても黙認される。
そんな場所で最初に見つけたのが有栖川桜、痛めつけたくて仕方のなかった相手。
しかもこの歩き方、間違いなく桜は無傷だ。万全の状態の桜を壊れるまで痛めつける。
あたしには、人を殺した経験はない。
どこをどう痛めつければ人は死ぬのか、実際のところ、よく知らない。
だから、桜でお試し殺人。もし他の相手だったら、もし自分の手際が悪かったら、
あたしは自身の未完成な暴力にうんざりしちゃうかも知れない。
でも、桜なら問題ナシ。たとえ手間取ってしまっても、
苦痛を長引かせてやっているのだとポジティブに考えられるだろう。
どこをどう痛めつければ人は死ぬのか、実際のところ、よく知らない。
だから、桜でお試し殺人。もし他の相手だったら、もし自分の手際が悪かったら、
あたしは自身の未完成な暴力にうんざりしちゃうかも知れない。
でも、桜なら問題ナシ。たとえ手間取ってしまっても、
苦痛を長引かせてやっているのだとポジティブに考えられるだろう。
路地を歩く桜の姿が隣家の屋根に遮られた。
とはいえここは流石に孤島、住宅街といってもさほど密集地しているわけではなく、
桜がどちらに向かってもまたすぐにあたしの視界に現れることは明白だった。
とはいえここは流石に孤島、住宅街といってもさほど密集地しているわけではなく、
桜がどちらに向かってもまたすぐにあたしの視界に現れることは明白だった。
なのに、桜は出てこない。何よこれ、普通に歩いてるんじゃなかったの?
物陰で何をしているの? あたしは軽い苛立ちを覚え、すぐにはっと我に帰る。
立ち止まって何かをしてるなら、それってむしろチャンスじゃない?
物陰で何をしているの? あたしは軽い苛立ちを覚え、すぐにはっと我に帰る。
立ち止まって何かをしてるなら、それってむしろチャンスじゃない?
窓に背を向け、足早に廊下を横切る。
階段を降り、一階の床板を踏みしめたとき、遠くでドアがバタンと閉まった。
ああそうか、ここはノイズが少ないから、音がよく聞こえるんだ。
自分の口元がほころんでいくのが分かる。
階段を降り、一階の床板を踏みしめたとき、遠くでドアがバタンと閉まった。
ああそうか、ここはノイズが少ないから、音がよく聞こえるんだ。
自分の口元がほころんでいくのが分かる。
――桜、今行くから。待っててね?
□ ■ □
玄関扉の左手には庭があり、大きなガラス扉の向こうに暗いリビングが見える。
桜は椅子に座っていた。考え事をしているのだろうか。
手には何も持っていない。いつものフライパンもそこにはない。
桜は椅子に座っていた。考え事をしているのだろうか。
手には何も持っていない。いつものフライパンもそこにはない。
植え込の陰に身を屈め、軍用クロスボウに矢をセットする。
それがあたしの支給品。飛び道具だけで終わらせるなんて、
そんな退屈なことはしたくもないしする気もないけど、あたしはふと、
初めて手にする殺傷器具の威力を確かめてみたくなった。
それがあたしの支給品。飛び道具だけで終わらせるなんて、
そんな退屈なことはしたくもないしする気もないけど、あたしはふと、
初めて手にする殺傷器具の威力を確かめてみたくなった。
放たれた矢はガラスを貫き、数メートル先の壁に突き刺さる。その軌道は一直線。
桜は弾かれたように立ち上がり、慌てて玄関から出ようとする。
唇の端が釣り上がる。扉を開けて飛び出した桜を再度狙撃してやろう。
逃げられないよう足を狙い、それから――そんなことを考えながら、
ボウガンに矢をセットする。案外、手間のかかる作業。こういうのは好きじゃない。
もし、発射準備を終える前に、桜が玄関から飛び出してきたら。
ううん、そのときはそのとき。こんな面倒なモノは投げ捨てて直接殴りに行けばいいわ。
そうは思っているものの、淡く静かな焦燥が胸の奥底をざわめかせる。
桜は弾かれたように立ち上がり、慌てて玄関から出ようとする。
唇の端が釣り上がる。扉を開けて飛び出した桜を再度狙撃してやろう。
逃げられないよう足を狙い、それから――そんなことを考えながら、
ボウガンに矢をセットする。案外、手間のかかる作業。こういうのは好きじゃない。
もし、発射準備を終える前に、桜が玄関から飛び出してきたら。
ううん、そのときはそのとき。こんな面倒なモノは投げ捨てて直接殴りに行けばいいわ。
そうは思っているものの、淡く静かな焦燥が胸の奥底をざわめかせる。
不意に、足音が遠ざかる。しまった。あたしは立ち上がる。
桜はきっと気付いたのだ、矢の飛んできた方向から、あたしがどこに潜伏しているのかに。
しかし、不思議と気分はいい。彼女は逃げた。逃げる、ということはつまりそう、
あたしと正面からやり合うつもりはないってこと。それでいて、この足音。桜は今、焦っている。
襲撃者の正体を探り、逆に罠に嵌めるような、そんな冷静さは持ち合わせていない。
優位に立っているのはあたし。彼女は今、恐怖に駆られているのだから。
桜はきっと気付いたのだ、矢の飛んできた方向から、あたしがどこに潜伏しているのかに。
しかし、不思議と気分はいい。彼女は逃げた。逃げる、ということはつまりそう、
あたしと正面からやり合うつもりはないってこと。それでいて、この足音。桜は今、焦っている。
襲撃者の正体を探り、逆に罠に嵌めるような、そんな冷静さは持ち合わせていない。
優位に立っているのはあたし。彼女は今、恐怖に駆られているのだから。
だからといって、このまま逃がしてあげるつもりなんてないけどね?
あたしは玄関のドアを開けた。そこに桜の靴はない。
暗い廊下の曲がり角、その向こうで足音が止まり、代わりにがちゃがちゃと音が鳴る。
金属と何かが軽くこすれ合うような。これは多分、ドアの取っ手をひねる音。
あたしは廊下の角を曲がり、その奥に見える脱衣所に桜の後ろ姿を認める。
脱衣所の脇には小さなドア。そこから外に出るつもりなのだろう。
暗い廊下の曲がり角、その向こうで足音が止まり、代わりにがちゃがちゃと音が鳴る。
金属と何かが軽くこすれ合うような。これは多分、ドアの取っ手をひねる音。
あたしは廊下の角を曲がり、その奥に見える脱衣所に桜の後ろ姿を認める。
脱衣所の脇には小さなドア。そこから外に出るつもりなのだろう。
逃がすもんか。あたしは桜の足を狙う。
小さなドアが音を立てて軋み、外気が廊下に流れ込む。
クロスボウのトリガーを引く。宙を一直線に切り裂く矢、しかし狙いが少し外れた。
鉄製の矢は脱衣所の入り口の角をかすめ、桜の腕に突き刺さる。
桜がくぐもった悲鳴を漏らす。けれども次に聞こえたのは、裏口のドアが閉まる音。
小さなドアが音を立てて軋み、外気が廊下に流れ込む。
クロスボウのトリガーを引く。宙を一直線に切り裂く矢、しかし狙いが少し外れた。
鉄製の矢は脱衣所の入り口の角をかすめ、桜の腕に突き刺さる。
桜がくぐもった悲鳴を漏らす。けれども次に聞こえたのは、裏口のドアが閉まる音。
「ぶぅー。つまんない!」
思わず不満が声に出る。
あたしは頬を膨らませ、軍用クロスボウをデイパックに投げ入れた。
ろくでもない点数だったテストの答案用紙をゴミ箱に放り込むように。
あたしは頬を膨らませ、軍用クロスボウをデイパックに投げ入れた。
ろくでもない点数だったテストの答案用紙をゴミ箱に放り込むように。
逃げられたことが気に入らないわけじゃない。
彼女は怪我を負っている。必ずどこかに身を隠し、応急処置をするだろう。
軍用武器で、鉄製の矢で射抜かれたのだ、骨や動脈にダメージを受けたかもしれない。
そう遠くには行けないし、手当てにはそれなりの時間がかかるだろう。
あたしの視界から消えたくらいのことで、あたしから逃げられるわけじゃない。
彼女は怪我を負っている。必ずどこかに身を隠し、応急処置をするだろう。
軍用武器で、鉄製の矢で射抜かれたのだ、骨や動脈にダメージを受けたかもしれない。
そう遠くには行けないし、手当てにはそれなりの時間がかかるだろう。
あたしの視界から消えたくらいのことで、あたしから逃げられるわけじゃない。
あたしの不満、その正体は、武器に対するものだった。
安全圏からの狙撃によって、相手に深手を負わせること。
それがあまりにもつまらないことを知って、あたしは不満の声を漏らした。
安全圏からの狙撃によって、相手に深手を負わせること。
それがあまりにもつまらないことを知って、あたしは不満の声を漏らした。
だって、相手を傷つけた手応えを、この手で感じられないから。
悲鳴を、呻きを、苦悶の声を、手の届く距離で聞けないから。
悲鳴を、呻きを、苦悶の声を、手の届く距離で聞けないから。
たとえばこの、軍用クロスボウ専用の矢。
道具なんかで飛ばすよりも、この手に握って相手に突き刺す方がいい。
その方が、確実に、目的の場所を傷つけられる。
そりゃあ、機械弓のようなスピードは乗せられないし破壊力はないけれど、
それでも鋭利な鉄の棒を眼球に突き刺せばどうなるか。
眼球を貫き潰したあと、てこの原理を利用して、脳味噌をかき混ぜるのもいい。
当たるかどうかも分からない道具なんかを使うより、こっちの方がずっと楽しそうだ。
道具なんかで飛ばすよりも、この手に握って相手に突き刺す方がいい。
その方が、確実に、目的の場所を傷つけられる。
そりゃあ、機械弓のようなスピードは乗せられないし破壊力はないけれど、
それでも鋭利な鉄の棒を眼球に突き刺せばどうなるか。
眼球を貫き潰したあと、てこの原理を利用して、脳味噌をかき混ぜるのもいい。
当たるかどうかも分からない道具なんかを使うより、こっちの方がずっと楽しそうだ。
あたしは裏口のドアを開け、桜のくぐった出口を抜ける。
外には小さな裏庭があり、物干し竿がかかったままになっている。
ああそうか、このドアは、脱衣所の洗濯機で洗ったものをここに持ってくるためのものなんだ。
脱水直後の洗濯物を二階のベランダまで運ぶママの顔、不満げな表情を思い出す。
あたしは物干し竿を手に取った。夜気に熱を奪われた金属の冷たさが心地よい。
外には小さな裏庭があり、物干し竿がかかったままになっている。
ああそうか、このドアは、脱衣所の洗濯機で洗ったものをここに持ってくるためのものなんだ。
脱水直後の洗濯物を二階のベランダまで運ぶママの顔、不満げな表情を思い出す。
あたしは物干し竿を手に取った。夜気に熱を奪われた金属の冷たさが心地よい。
――これも、凶器として使えるわ。
あたしは心の中でそっと、不満顔のママに微笑んだ。
【B-4 住宅街/一日目・深夜】
【女子二十番:嵐崎・キャラハン・蘭子】
【1:あたし(たち) 2:名前呼び捨て、アンタ(たち) 3:名前呼び捨て、アイツ(みんな)】
[状態]:健康
[装備]:屋外用物干し竿
[道具]:軍用クロスボウ、クロスボウ専用の矢(10/12)、支給品一式
[思考・状況]
基本思考:バトルロワイアルを楽しむ。
0:一人でも多くのクラスメイトを殺す。
1:有栖川桜を優先的に狙う。
[備考欄]
嵐崎に支給されたクロスボウ専用の矢は鉄製です。
表面に色が塗られていますが、鉄の性質を損ねるものではありません。
尚、作中の「36人」については、OPで死亡した最強堂と安佐蔵、
修学旅行不参加の板倉、そして嵐崎本人をクラス人数から引いた数です。
黒嵜の不在には気付いていません。
【1:あたし(たち) 2:名前呼び捨て、アンタ(たち) 3:名前呼び捨て、アイツ(みんな)】
[状態]:健康
[装備]:屋外用物干し竿
[道具]:軍用クロスボウ、クロスボウ専用の矢(10/12)、支給品一式
[思考・状況]
基本思考:バトルロワイアルを楽しむ。
0:一人でも多くのクラスメイトを殺す。
1:有栖川桜を優先的に狙う。
[備考欄]
嵐崎に支給されたクロスボウ専用の矢は鉄製です。
表面に色が塗られていますが、鉄の性質を損ねるものではありません。
尚、作中の「36人」については、OPで死亡した最強堂と安佐蔵、
修学旅行不参加の板倉、そして嵐崎本人をクラス人数から引いた数です。
黒嵜の不在には気付いていません。
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